ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第18話:模擬戦×敗北

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 硬直しタップリと一分、再起動したリアスが叫ぶ。

 

「こ、断るって……何故? 修業しなきゃライザーを相手に勝てないわ!」

 

 『訳が解らないよ』と言わんばかりに捲し立てる。

 

「修業なら、それ以前からずっと誘っていただろう。それには乗らなかった癖に何を今更……」

 

「あ、あの時はこんな事が起きるなんて思わなかったのよ!」

 

「いつ上級の敵と相対するか判らないから、今の内に訓練をしておこうと言った筈だけど?」

 

 これに対してリアスは鼻で笑ったものだった。

 

『そんな事、そうそう在る訳がない』

 

 そう言っていたのだ。

 

 実際に最近で起きた出来事はバイサーとの戦闘と、レイナーレとの戦闘。

 

 レイナーレの方は兎も角として、バイサーに関しては確かに楽勝ムード。

 

 その後現れた旧支配者、アトラック=ナチャ・アバターの方が強かったくらいである。

 

 リアスは旧支配者を余り知らないらしく、Yigに関しても小猫からの又聞き程度で、アトラック=ナチャとも戦闘はしていない。

 

 それ故に彼の邪神の分体達をちょっと手強い怪物、その程度にしか認識をしてはいなかった。

 

 自分達なら充分殺れる、そう考えているのだろう。

 

 それは間違いではない。

 

 恐らく〝全員が死力を尽くせば〟一柱だけなら何とか斃せる。

 

 だけど、それは本体から見て削り滓程度でしかない分体だからだ。

 

 ユートはリアスの認識を後で知り、失敗(しく)ったと思った。

 

 ある程度は知ってたが、悪魔という種族がそこまで増上慢だとは思わない。

 

 実際に闘わせて、痛い目を見せた方が結果として良かったのかも知れないと、そう考えてしまうくらいの痛恨のミス。

 

 結局、一誠のやる気の無さに失望して見限った。

 

 だからこそ今更なのだ。

 

 一応、木場は稽古レベル程度に剣を振っていたし、あの後で一誠もリアスからトレーニングは受けていた様だが、そんな温い運動を修業とか称されても失笑しか出なかった。

 

 ユートから視れば、訓練というよりお遊戯にしか思えないものでしかない。

 

 グレモリーの眷族では、真面目にユートの訓練を受けていたのは僅かに二人だけしか居ない。

 

 Yigとの闘いで力不足の実感をしていた小猫と、恐怖も手伝って強さを求めていた夕麻だった。

 

 故にこそ、ユートは小猫の為に人工神器(アーティフィカル・セイクリッド・ギア)を造っている。

 

 まだ未完成だが、それも直に完成するだろう。

 

「兎も角、僕が山篭りするメリットは無いよ」

 

「メリットが無い?」

 

「僕の力はね、僅か十日間か其処らお遊戯レベルでの稽古をしたからって、そうポンポンと実力が上がるものじゃないんだよ」

 

「お遊戯って!」

 

「違うんだ? 一誠に対してやった訓練が正に初心者向けのお遊戯だったけど、それで『酷い』だの『もう嫌だ』だの、随分と軟弱な事を言ってたよね?」

 

「あれがお遊戯?」

 

 リアスは口元をヒクつかせてしまう。

 

 あれはリアスから見て、訓練というよりも虐めの類いにしか思えなかった。

 

 大した戦闘の経験も無い一誠を相手に、一方的に殴り飛ばすは蹴り付けるは、生傷なんてものじゃない、後で治療されていたから学校生活に響かなかったが、粉砕骨折紛いのダメージは当たり前だった。

 

 これは実際に危機に陥らせる事で、一誠の【赤龍帝の籠手】の能力を引き出そうとしていた、使う事により慣れるというのも目的、どんな強力な神器(セイクリッド・ギア)を持っていようと、使い熟せないではいみを為さない。

 

 訓練中は常に展開させ、使わせてきたのはその為。

 

 お陰で【赤龍帝の籠手】は本来の性能を発揮する事が可能となった、尤も数回の増幅で息切れをしてしまうのだが……

 

 それに多少の増幅をしてもユートには全く敵わず、不貞腐れた挙げ句に逃げ出してしまった後、原作でもやっていた体力トレーニングしかやっていないから、実力も上がってはいない。

 

「判らない様なら仕方がないね、公園に行こうか」

 

 意味も判らずユーキも含めて、グレモリー眷族達が公園へと移動する。

 

「ねえ、兄貴。何でボクまで連れて来られたのさ?」

 

 詰まらなそうな表情をしながらユーキは訊ねた。

 

「介添人」

 

「うわ、面倒い……」

 

 ユーキにとってはユートの事が一番、別にグレモリー眷属なぞどうでも良い。

 

 公園に着くと直ぐに結界を展開した。

 

 空が幾何学模様に塗り替えられた空間に、グレモリー眷族とユートが立つ。

 

「それで? 公園に来たのはどうしてかしら?」

 

「これから僕との模擬戦をして貰う」

 

「? どうして?」

 

 リアスは首を傾げた。

 

「手も足も出なければ自分達の弱さが判るだろう? ああ、グレモリー眷族全員VS僕一人だから」

 

 それを聴き流石にカチンとキたか、全員が険しい顔になる。

 

「神器も魔力も何でもアリのルールで、僕の勝利条件は全員に動けなくなるくらいのダメージを与える事。グレモリー眷族の勝利条件は僕に、クリーンヒットを一発でも当てる事だよ」

 

「そこまで莫迦にされるとムカつくよ、緒方君?」

 

 木場が手に剣を持って構えを執る。

 

「あらあら、可愛さ余って憎さ百倍ですわ」

 

 戦闘モードなのか、朱乃が巫女服姿に変化した。

 

「俺だって成長してんだ」

 

 一誠も【赤龍帝の籠手】を顕現させる。

 

「あれ? 私はどうしたらいいの?」

 

「夕麻、これを!」

 

「へ?」

 

「その中に、堕天使と悪魔の力を凝縮した結晶が組み込まれている」

 

「成程……」

 

 D−スキャナっぽい機械を渡され、夕麻は取り敢えず使い慣れた堕天使モードになってみる事にした。

 

「エンジェリック・エヴォリューション!」

 

 光の帯が夕麻を包み込み黒い翼が背中に顕れて嘗ての堕天使、レイナーレの姿へと進化する。

 

「戻れた?」

 

「進化したら、駒の特性も発揮出来る筈だよ」

 

 確かに魔力というか光力が溢れてくる様だ。

 

「じゃあ、始めようか」

 

 

「先手必勝、征くよっ!」

 

 ユートが宣言したと同時に高速で動くと、木場は手にした魔剣を揮う。

 

 一誠はトップスピードからマックスな木場の速度、その音速の動きに目が付いていけなかった。

 

 斬っ!

 

 鎧袖一触かと思われた、だけど然し木場は手応えが無い事に気が付く。

 

「な、何だ?」

 

 ユートの姿は掻き消え、木場は完全に見失う。

 

「遅い。ギリギリ音速程度じゃあね、僕を捉えるには余りにも遅過ぎる」

 

「このっ!」

 

 振り向き様に魔剣を揮うもののやはり空振りをし、ユートを捉える事は無い。

 

 木場の速度はグレモリー眷属には目にも留まらぬと評するもので、上級悪魔とはいえど戦闘型ではない、リアス・グレモリーは援護すら叶わなかった。

 

 それは他のメンバーとて同様で、翻弄される木場を見ているしかない。

 

 木場は悪魔としての身体能力を全開に、【騎士】の力も使って殺す心算で攻撃をしているにも拘わらず、ユートに一当てする事さえ出来ずにいる。

 

 ガシィッ! ユートの左手中指と人差し指に挟まれてしまい、刃を押すも引くも不可能となった。

 

「そ、そんな……」

 

「軽い。そんな威力では、受け止めて下さいと言っているみたいなものだ」

 

 殊更に声を上げるのでもなく、淡々と作業的な声色で木場に告げ……

 

「全体的に鍛え直した上、禁手化(バランスブレイク)してから出直して来い」

 

「げうっ!」

 

 忠告をして魔剣を挟んだ指先でへし折ると、木場の鳩尾へと蹴りを入れた。

 

 良い具合に極ったのか、バウンドしながら地面へと転がり、噴水にぶつかったらそれっきり動かない。

 

「優斗ぉぉぉぉぉおおっ! 木場の仇っっ!」

 

《Boost!》

 

 左腕の赤い籠手の甲に填まる翠の宝玉が点滅して、電子音声っぽい声が響く。

 

「一の力を倍の二にした処で意味は無い!」

 

 殴り掛かって来た一誠の右拳をユートは左掌で受けてしまうと、やれやれと首を横に振りながら言う。

 

 そしてその侭、一誠の勢いを利用して背負い投げの形で……

 

「白鳳院流・合気柔術──【力車】!」

 

「ガハッ!」

 

 背中から地面へと叩き付けてやった。

 

「況してや、模擬戦で弱音しか吐かない奴がちょっと腕立て伏せや腹筋をして、強くなれるものか。木場と同様、先ずは禁手(バランス・ブレイカー)に至れ。話はそれからだ」

 

 神器(セイクリッド・ギア)を持っていても、一誠も木場も使い熟しているとは云えず、だからといって禁手(バランス・ブレイカー)にも至っていないでは話にもならない。

 

「天雷よ!」

 

 朱乃による雷攻撃。

 

 ユートは炎、水、風、地の四属性と闇ならは無効化するが、雷、光、氷などはそれが出来ない。

 

 そういう意味合いなら、朱乃の攻撃は正しいのであろうが、残念ながら威力が絶対的に足りなかった。

 

 純水を使った水盾(ウォーターシールド)を展開、雷を完全に防いでしまう。

 

「そ、そんな!」

 

「光を混ぜれば通ったのかもね?」

 

「はっ!」

 

 朱乃が気付いた時には既に遅く、その声は背後から聴こえていた。

 

 ドンッ! 鈍い音を響かせた攻撃は、朱乃の背中に掌を置いただけの攻撃……

 

「かはっ!」

 

 だというのに、全酸素を絞り出すくらいの勢いで、朱乃は息を吐き出す。

 

「浸透勁」

 

 浸透勁というのは普通は存在しないが、氣を扱えるのならその限りではない。

 これは一種の仙術。

 

 内部に氣を打ち込んで、体内エネルギーの循環というのを阻害し、ダメージすらも与える技だ。

 

 氣脈、魔力回路、霊脈、勁絡など言い方は様々で、これをやられると暫くの間は体内エネルギーを扱う事が困難となる。

 

 因みに、小猫なら本来は使える筈の力だが……

 

 それ故だろう、小猫が目を見開いて驚いていた。

 

「ボーッとしていて良いのかな?」

 

「……しまっ!」

 

 いつの間にか接近を赦した小猫の足を後ろで払い、仰向けに倒れたのを首を掴んで更に押し倒し、掌底を鳩尾へと入れる。

 

「くっ!」

 

 小猫は耐えようと腹に力を籠めたが……

 

「フッ!」

 

「ひゃにゃ!?」

 

 吐息を耳元で吹き掛けられて力を抜いてしまう。

 

「ゴフッ!」

 

 綺麗に鳩尾に極って小猫は蹲った。

 

「さて、後はレイナーレとリアス部長な訳だが?」

 

 レイナーレはへたり込んで嫌々と涙ぐみ、首を横に振って戦闘を拒否る。

 

 先の蹂躙劇を否が応でも思い出し、ユートに逆らうのを魂から否定していた。

 

「私が最後みたいね……」

 

 レイナーレはユートとは戦えないと考え、リアスは仕方無く前へと出る。

 

 ユートはリアスから見て横向きで瞑目をしながら、掛かって来いと謂わんばかりにクイックイッと左手を動かす。

 

 明らかな挑発にキレて、紅色の魔力を両手に集めたリアスはそれを飛ばした。

 

「消し飛びなさい!」

 

 バアル家に伝わる【消滅の魔力】を受け継ぐリアスとサーゼクス、その魔力がユート目掛けて飛ぶが……

 

「収束が緩く術式が甘い、パワー寄りの癖に強度まで低い。話にもならないな」

 

 クイッとユートが左手の人差し指と中指を立てて細かく動かすと、リアスが放った紅色の消滅の魔力が、ユートの意の侭に動く。

 

「えっ!? これは!」

 

 それはリアスも知っている力だった。

 

「覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)」

 

 魔王アジュカ・ベルゼブブが得意とする【覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)】、その余りにも複雑過ぎる計算から成った方程式は、アジュカ・ベルゼブブにしか使い熟せないとさえ云える秘奥。

 

 ユートは技の名の如く、完全に消滅の魔力を征服して術式を乗っ取り、紅色の魔力を動かしていた。

 

「この世で起こるあらゆる現象、異能ってのは大概が法則性なんかは決まっていてね。数式や方程式に当て嵌めて答えを導きだす事が出来る。そして僕の眼はね一種の魔眼というやつで、【叡智の瞳】というんだ。能力は視る事に特化しているから、リアス部長の術式も良く視える。更に嘗ての僕の二つ名は【解除】で、これは相手の術式にインターセプトし、解いて効力を無効化するんだけど、操作をも可能としている」

 

 そう言いながらユートはリアスの顎の先に、紅色の魔力を突き付けてやる。

 

「うっ!」

 

 この侭、ぶつけられたら自らの消滅の力で死ぬ。

 

「どうする? まだやるのかな?」

 

「ま、参った……わ」

 

 流石に勝てないと理解をしたのか両腕を挙げた。

 

 ユートにやられ、倒れ伏すグレモリー眷族の面々。

 

 全員に復活(リザレクション)を使い順次、ダメージの大きかった者から回復させていく。

 

「うっ……」

 

「痛いですわ」

 

「うう」

 

「私、役立たず……」

 

「……っ!」

 

「いってぇぇ!」

 

 朱乃、木場、小猫、一誠の四人はそこそこ痛そうにしていた。

 

 降参をしたリアスはまだしも、他のメンバーは起き上がってきたのは良いが、ダメージが抜け切ってはいない様子だ。

 

 夕麻も降参に近い形で、だけど精神的なショックが殊の他大きかった。

 

「どうだった? 修業させないと勝てないとか考えていた相手に、アッサリ敗けた気分は……」

 

「ぐっ! どうして貴方がアジュカ様の【覇軍の方程式】を使えるのよ?」

 

「視た事があるからね」

 

「視た事が?」

 

「僕は四大魔王と知り合いだって教えたろ?」

 

「ま、まあね」

 

 グレイフィアを知っているし、サーゼクスとも知り合いだというユートだが、セラフォルーが原因で冥界に行ったのは聞いている。

 

 だがよもや、四大魔王の全てと知り合っていたなどとは露にも思わない。

 

 ライザーとの会合後に、グレイフィアを通じて聞いたリアスは衝撃を受けた。

 

「覇軍の方程式(カンカラー・フォーミュラ)はその時に視せて貰ったんだよ。勿論、技の性質上からして視たら使い熟せる訳じゃあないけど、僕には言った様に元々が扱える素養は備わっていたからね」

 

「そう、みたいね」

 

 下級堕天使──ドーナシーク、カラワーナ、ミッテルト、レイナーレ──達を全滅させる程度に力はあると判ったが、それがまさか上級悪魔の自分でさえ手玉に取れるとは思わなかったリアスは、苦々しい表情となりながら頷く。

 

「僕が山籠りしたってね、一〇〇〇〇くらいの戦闘力を一〇〇〇一に出来れば、上等なんだよ。そして恐らくは出来ないんだろうね。人間の肉体的には成長限界に近いし、後は何か劇的な変化を見せないと……」

 

 尤も、ユートは乙女座の伝統的な修業法に近い修業を自らに課している。

 

 サーゼクスに敗北して、次にやるなら勝ちたいと思っているのだから。

 

 五感の全てを封じつつ、小宇宙でそれらを補うという修業で、乙女座の聖闘士は伝統的に目を閉じたり、口を利かなかったりと五感のいずれかを閉ざす事により小宇宙を高める訳だが、ユートは度を越した修業をしている事になる。

 

「確かにそれだけの強さが有るのなら、修業をしても余り意味は無いわね」

 

 リアスも莫迦では無い、ユート自身を強くしようというのが無意味だと理解をしていた。

 

「寧ろ修業が必要なのは、一誠だけでなくグレモリー眷属の全員だ」

 

「私達も!?」

 

「さっき、人間に敗けたのを鑑みれば解るだろ?」

 

「むう……」

 

 とはいえど、ユートでは相手が悪過ぎるだろう。

 

 魔王であるサーゼクスと互角に闘い、真の姿である【滅びの化身】を引き出したユートは、単純に魔王級の力を有している事になるのだから。

 

 リアス達は知らないが、その事実は覆らない。

 

「それに欠点なんかも幾つか指摘したろう? それを克服しない心算なのか?」

 

 それを聞いた木場は苦笑いをして、朱乃は顔を逸らしてしまう。

 

 小猫は指摘されてはいなかったが、ユートの仙術に近い技に思う処があったのかジッと見つめていた。

 

「それなら、私達を貴方が鍛えてくれれば良いのではないかしら?」

 

「その辺は前々から言っていたけど、聞かなかったのはリアス部長達だろうに。だからこそ見限ったんだ」

 

 グサリと突き刺さる。

 

 グッドアイディアと謂わんばかりのドヤ顔で提案をしたら、思い切りカウンターを入れられてしまった。

 

「そもそも、僕はオカルト研究部に所属こそしているけど、リアス部長の眷属でも何でもない。動く理由は自発的以外に無いよ」

 

 ユートは言っている。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も!

 

 しつこいくらい、口を酸っぱくして修業をする様に進言してきて、その一切を無視されてきた。

 

 無理矢理に一誠と夕麻の二人だけでもやらせたが、夕麻はまだしも一誠は逃げてしまい、遂にはユートも匙を投げて見放したのだ。

 

 だというのに、手の平を今更ながら返されても不快なだけでしかない。

 

「それに先約もある」

 

「せ、先約?」

 

「そう、僕が稽古を付けている弟子みたいなものだ」

 

「そんな、私は将来が懸かっているのよ?」

 

「結婚すりゃ良いだろ? 一応はツッコミを入れはしたけど、僕にはどうでも良い事だしね。リアス部長とライザー・フェニックスの問題だ。眷属なら兎も角、僕に何の関係が? だいたいにして、将来が懸かってるがどうした? 若しかしたら生命が懸かった闘いだって起きたかも知れない、まだ命懸けじゃないだけでもラッキーだろうに!」

 

「ぐっ!」

 

「まあ、僕がフェニックスを全滅させれば良いんだ。それで全てが済む。まあ、リアス部長の評価は駄々下がりだろうけどね」

 

 悔しげな顔で唸る。

 

 先約というのは当然の事ながら、ギャスパー・ヴラディの事だった。

 

 まあギャスパーの場合、餌に釣られたという不純な理由も有ったりもするが、それでも真面目に訓練を続けている。

 

 なればこそ優先されても当然だった。

 

「それに、切羽詰まってから焦って鍛えても身に付くモノなんて高が知れてる」

 

「どういう意味かしら?」

 

「たったの十日かそこらで身に付くのは、『取って付けた自信と付け焼き刃』くらいなモノだって事だよ」

 

「っ!?」

 

 そのユートの指摘は容赦なく正しい……否、正し過ぎる正論だった。

 

 修業というのは継続して初めて意味があり、強敵と闘う予定が入ったから修業をしよう──というものでは決してない。

 

 DBの様に時間があるのならまだしも、十日間では何も身に付かない可能性の方が圧倒的に高かった。

 

 せめて一年……最悪でも半年の時間が有ればマシに成長も出来る。

 

 ユートの家となっている次元航行艦シャブラニグドゥには、時間を弄って修業を可能とする施設も在る訳だが、少なくとも見限った今となっては使わせてやる心算など無い。

 

 リアスはそれを使わせて貰える程度にすらも、信頼関係を結べなかったのだ。

 

 見限られて当然の態度を取り続け、今になってから翻すなど信に於ける存在と見做されない。

 

 アーシアやギャスパーや夕麻くらい、素直な態度で修業に打ち込んでいたら、ユートもその施設を教えて使わせただろう。

 

 とはいってもアーシアは兎も角にして、ギャスパーと夕麻はグレモリー眷属だから、二人だけ使わせるというのもアレな訳で、今回は見送る事になる。

 

〔ユーキ〕

 

〔何? 兄貴〕

 

 ユートは密かにユーキへ念話を送った。

 

〔今回のこれは規定事項で良いのか?〕

 

〔うん。【戦闘校舎のフェニックス】だっけ? 確かに流れは兄貴の介入以外、同じだね。十日間の修業期間もそうだよ〕

 

〔まさか、それで勝てたってのか?〕

 

〔それはどんなバグさ? まあ、眷属には【女王】と【僧侶】一人を残して全滅させたけど、ライザーには敗けて終わりだよ。赤龍帝がボロボロにされて部長がリザインしたからね〕

 

〔勝てる見込みは?〕

 

〔全く無いよ〕

 

 辛辣だが間違いない。

 

 グレモリー眷属も一誠と〝本来の眷属〟のアーシアを残して全滅し、残っていたアーシアも倒れた。

 

 そして一誠もズタボロにされてしまい、意識を喪う寸前にまで追い込まれて、リアスがリザインする。

 

 リアス一人では勝てる筈もなく、レーティングゲームはライザーが勝利した。

 

〔? だとしたらヒロイン脱落か?〕

 

〔いや、婚約発表か何かで御披露目式をやってる所、赤龍帝が乗り込んでねぇ。サーゼクス・ルシファーの許可の許、一対一で戦闘。ドライグに左腕を対価に、擬似的な禁手に至った上で聖水やら十字架を使って、精神力を削って勝った〕

 

〔つまり、今の侭だと?〕

 

〔兄貴が闘うなら勝てる。だけど、グレモリー眷属だけでは一〇〇パーセント勝てないのは、原作が証明をしているよ〕

 

 それすらも辛勝だったけどね──ユーキは苦笑いをしてそう締め括る。

 

「(僕が唯、斃しても意味は無いんだよな。風評に響くだろうし……)」

 

 飽く迄もグレモリー眷属が主で闘わねばならない。

 

 ギリギリまで頑張って、踏ん張って、それで最後の切札(ジョーカー)としてなら良いだろうが、ユートを主体にしては建前はどうあっても、『強者に助っ人をして貰って勝った』という風評は、貴族社会で手痛いマイナス要因だろう。

 

 最終的にユートが勝つにしても、グレモリー眷属がフェニックスを追い込んだ上でなければ、意味を為さないと考えている。

 

 況してや、サーゼクスはユートの〝強さ〟を知っているのだから。

 

 ユートに敗れ、プライドをズタズタにされた上で、結局は協力を得る事に失敗してしまったリアスは溜息を吐く。

 

 正直、こんなに早く自分達より強い相手と闘う事になるなど思わなかったし、真面目にユートの話に耳を傾ければ良かったと、今更ながらに後悔もしていた。

 

 こうなっては仕方がないから、グレモリー眷族だけで行く事を検討する。

 

「ま、それも良いか」

 

「へ?」

 

「リアス部長……前に僕が一誠に稽古を付けてた時、ブッ飛ばされた一誠を見て『やり過ぎ』と非難をしたよね?」

 

「え? ええ……」

 

 あれは稽古というより、寧ろ私刑(リンチ)にしか見えなかった訳だが……

 

「まあ、下僕を心配したりするのは構わない。平然と犠牲にしたりするよりは、好感も持てる。けど、あれはどうにも違うと感じたんだよ」

 

「違う……?」

 

「僕の知る闘いの師匠は、僕がやった事くらい当たり前にやる。それに、どれだけ倒されようとも目を背けたりしないし、狼狽えたりもしないだろう」

 

 ユートが言っているのは聖闘士の候補生を鍛え上げる師匠の事であり、水瓶座のカミュは弟子への愛情が深いが、いざ闘いとなれば容赦ないし、修業中も氷河が倒れても手は出さずに、激励をするのみ。

 

 白銀聖闘士ケフェウス座のダイダロスも最後の修業に臨む瞬を、黙って見守っていた。

 

 鷲座の魔鈴も崖っぷちに突き立てた棒に脚を掛け、千回の腹筋を終えるまでは一切の情けを掛けないし、模擬戦では容赦なくブッ飛ばしている。

 

 天秤座の老師とて、温かく見守りはしても普通なら倒れかねない修業を確りとやらせていた。

 

 ギルティなんぞは平気で一輝をボコっていた上に、『憎め憎め』と憎悪を煽りまくっていたくらいだ。

 

 まあ、ギルティはどうか知らないが、聖闘士の師匠があれだけの事を平然とやっていたのは理由がある。

 

 聖闘士となれば理不尽な暴力を使って世界を暗黒に染める輩と闘う事になり、修業で倒れているようではそんな連中との闘いも覚束無いのだから当然だ。

 

 修業で死ぬなら寧ろその方が優しいくらいである。

 

 ユートは聖域で、生き残りの黄金聖闘士から修業を受けており、各々で違いこそあるが聖闘士の修業方法は把握していた。

 

 えらく厳しめな一誠への修業は其処からきていた。

 

 これから起こるであろう一誠を中心とした厄介事、それは一誠が弱い侭では話にならない。

 

 敵は一誠を殺しに来る、それならば、死なない様に加減をした模擬戦程度で、簡単にはヘタって貰っていては困るのだ。

 

「だいたい、若しも実戦で一誠が殺され掛けていて、仲間が誰も一誠を救えない状況だっとしたら、リアス部長はどうするんだよ? 真逆、敵に降伏して一誠を殺さない様に懇願でもする心算なのか?」

 

「そ、そんな事……」

 

 レーティングゲームでなら通用もするであろうが、本物の命の取り合いで命乞いは意味を為すまい。

 

「僕は最初の少しだけと、ラストでライザーに敗ける瞬間の切札(ジョーカー)としてのみ、それだけ闘う事にする。だから約束して貰おうか、必ずライザー眷属を全滅させる……と」

 

「ライザー眷属を全滅?」

 

 リアスが聞き返す。

 

「そう、ハッキリ言ったら僕が伸したミラだっけ? あれは最弱のライザー眷属だと思うけど、一誠はあのミラにすら今は勝てない」

 

「う゛……」

 

「あの時、ミラが命令されたのが一誠への攻撃なら、不様を晒していたのは寧ろ一誠だったろう。僕だったからあの結果だけどね」

 

 項垂れる一誠、それは即ちグレモリー眷属で最弱と言われたに等しい。

 

「開幕戦(オープニング)で一戦、ライザーとで二戦。それ以外はグレモリー眷属で斃すと約束するのなら、五日間のみ修業を付ける」

 

「い、五日間……か。でもそれで強くなれるの?」

 

「言ったろ? そんな期間だと得られるのは修業した満足感による『根拠の無い自信』と、僅かながら鍛えられた『付け焼き刃』くらいだって。もう一つ約束をして貰う」

 

「何かしら?」

 

「ライザー戦後には修業を真面目に受けると」

 

「わ、解ったわ」

 

 こうして五日間のみだが修業を付ける事になる。

 

ユートは頷くと、五日後に合流するとして特殊な転移用の魔方陣を用意した。

 

「ユーキ、僕が合流するまではユーキが修業を見てやってくれないか?」

 

「え? ヤダよ」

 

「は? 何で?」

 

「だって、赤龍帝に御風呂とか覗かれたくないし」

 

 ユーキの不満そうな科白に一誠がずっこけた。

 

「あらあら」

 

「アハハ、擁護出来ない」

 

「……変態先輩」

 

 木場と朱乃は苦笑いし、小猫は汚物でも見る様な冷たい視線を投げ掛ける。

 

「えーっと……」

 

「ハァー」

 

 夕麻はオロオロしたし、リアスは頭を抱えていた。

 

「覗いたら目潰しでも何でもして良いから」

 

「むう……」

 

「ちょっ!」

 

 物騒な事を言うユートに一誠は慌てる。

 

「判ったよ。赤龍帝!」

 

「は、はい!?」

 

「故意にせよ、ラッキースケベにせよ、覗いたら拷問だから!」

 

 アボーーン!

 

 顎が外れんばかりに口を開いて脱力してしまう。

 

 取り敢えず、グレモリー眷族はユーキを加えて目的の別荘へと向かう。

 

 ユートは五日経つ間に、やるべき事を済ませるべく動き始めた。

 

 先ずはギャスパーに修業の話をする必要があろう、五日間は此処を離れるからその間、確りと自習をしておくように……と。

 

 尤も、前半となる五日間で濃密な訓練をする心算ではあるのだが……

 

 もう一つ、小猫用に造っている人工神器を完成させる為に、どうしても必要な事があった。

 

 それを今の内にやっておきたい、当然ユート自身の修業などそっちのけで駈けずり回る事となる。

 

 まあ、必要は無いのだから問題も無かった。

 

 ユートはライザーを脅威とは感じていない。

 

 それは対峙した瞬間に、理解が出来た。

 

 強者から感じる圧力(プレッシャー)を感じなかった時点で、ライザーは脅威足り得ない。

 

 ユートはだからこそ最初の一人か二人、倒した後は見に入る心算でいる。

 

 それでライザーを倒せるならばそれも佳し。

 

 無理ならば、自ら【デウス・エクス・マキナ】となってライザーを倒すまで。

 

 まあ、今は……

 

「一誠を鍛えないとね」

 

 約束通り修業をしてやろうとプランを練っていた。

 

 

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