サイト掲載時には書いてないなかった、ミッシング・リンクに当たります。
今は順次掲載中……
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ユートは那古人と住む家に関して考える。
「マスター、取り敢えずは土地を買ってアウローラ……いえ、シャブラニグドゥを邸代わりにする事を提案致します」
「まあ、それしかないな」
とはいえ、現状では戸籍すら持たない不審者に過ぎないユートが何処かの土地を買うのは実質、不可能。
「まあ、食事はアウローラに有る訳だし、宇宙に上げているから判らない筈だ。今は彼処を拠点にするしか無いかな?」
転入試験を受けるにも、やはり戸籍は必要になる。
どうにかして取得をしなければなるまい。
ほとほと困っていると、何だか不安そうにしている黒髪の少女? 女性? が歩いていた。
胸はそれなりに有るが、不安そうな表情が年齢を覚らせてくれない。
見た目には未成年の少女にも、或いは二〇歳くらいの女性にも感じられた。
だが一つだけ確かな事、それは彼女から魔氣が感じられるという事だ。
「迷子か?」
「判りません。ですが彼女からは魔族並の魔氣を感じますので、少なくとも魔の眷属には違いないかと」
多少の警戒はしているが過度には不要そうだ。
「うん? 魔氣が増えた。取り敢えずは隠れよう」
「イエス、マスター」
ユートと那古人は気配を周囲に溶け込ませており、魔氣を持った黒髪の娘にしても、新しい魔氣の持ち主にしても気付いてない。
気配というのは下手に消してしまうと、却って気配の空白が出来てしまう為、〝消す〟のではなく周囲に〝同化する〟感覚でいった方が良い。
単に消しただけであれ、余程の達人でもなくば気付いたりはしないのだが……
あれだ、よく『気配は消していた筈だがな』とか、漫画などであるが、それは気配の空白を読んでいるという訳だ。
その空白が違和感として感じさせるから。
故に、これなら声を出したりしない限りは……否、人によっては可成り騒がなければ気付かれない。
某・麻雀漫画のステルスっ娘が正にそれで、消えるとか言っているがそれも、究極的には周囲へと自身を溶け込ませているのだ。
勿論、姿を本当に消している訳ではない以上、機械仕掛けのカメラには写る。
閑話休題……
ユートと那古人が様子を窺っていると、黒髪娘へと近付く魔氣の持ち主達。
「多いな。一〇や二〇じゃ利かないぞ……」
「マスター、結界です!」
「ただ事じゃないなこれ。真逆、あの大人数で襲撃をする気か?」
有り得なくない事態に、ユートは表情を歪めた。
黒髪娘の内在する力は、可成りのものだと感じてはいるが、連中の勝利条件が何なのか次第ではそれを満たしてしまう。
それは襲撃者達(仮)が、この場で全滅をしたとしても敗北と変わらない。
「放っておくのも後味が悪いかな」
「マスター、ユニゾンしますか?」
「必要は無さそうだけど、しておくか」
連中の勝利条件が気になったし、ただぶちのめすだけで済むならそれで良い。
「「ユニゾン・イン!」」
那古人はユニゾンデバイスではないが、精霊である特性からこの様に融合する事も可能だ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方の黒髪娘は煩わしい襲撃者に辟易していた。
「んもう、ソーナちゃんに会いに来ただけなのにぃ、何で襲ってくるかな☆」
ラブリーでマジカル☆ なレヴィアたんのファンシーな杖を掲げ、極太ビームを放ちながらボヤく。
その一発だけで襲撃者達の数人が蒸発する。
「己れ、セラフォルーめ。偽りの魔王が!」
憎しみを籠めた瞳で睨み付けるのは襲撃者の一人、その科白にセラフォルーと呼ばれた黒髪娘は沈む。
同じ種族同士で争いたくはないのに、旧魔王派などと呼ばれる者達が時々だがこうして襲ってくる。
今の処は旧魔王の血族は大人しいが、いつ彼らも動くとも知れない。
それを考えると鬱になるセラフォルーだった。
そんな悲しみに暮れている彼女を襲う魔力──
「死ねぇぇぇええっ!」
「お前がな」
「なっ!?」
突如として目の前に現れた存在に驚愕する。
つい先程まで誰も居なかった筈が、行き成り転移の予兆すらなく現れたのだ。
襲撃者にせよセラフォルーにせよ、予想外が過ぎて驚くより他はあるまい。
《ハルケギニア、エルフの精霊魔法から抜粋。反射(カウンター)を選択》
放たれた魔力は反射(カウンター)で跳ね返って、襲撃者──悪魔──の男にぶつかる。
「ガバハァ!」
自身の魔力に吹き飛ばされた襲撃者は、壁にぶつかって意識こそ保っていたが動けない。
他の襲撃も茫然となる。
「何が『死ねぇぇぇええっ!』だよ。彼女より脆弱な自分すら殺せない程度で、どうやって殺す気だ?」
襲撃者は紅くなるやら、青褪めるやら、顔色をどんどん変えていく。
それは、自分がどれだけ的外れで見当違いな事を言っていたか認識したのと、自分の最大限の力をアッサリ跳ね返された恐怖。
解ってしまった。
彼はこれでも上級に数えられる悪魔であり、実力的には決して低くない。
それがセラフォルー相手処か、どう見ても悪魔は疎か天使や堕天使にも見えない人間にしてやられた。
勝てない……
悠然と立っている人間が発するナニか、それが彼を圧迫していたのだ。
ユートが放った小宇宙は小宇宙を持たない者には感じられない、それでもナニかしら圧迫感を感じ取り、襲撃者は後退る。
「退け、退けぇぇぇっ!」
時代劇も斯くやの見事な引きっ振りで、襲撃者達はその場から居なくなった。
結界も解除されて昼間の喧騒が戻ってくる。
ふとユートが見遣ると、セラフォルーと呼ばれていた娘が瞳をキラキラと輝かせて、ユートの手を取ってブンブンと上下に振ると、感極まった声で叫ぶ。
「凄い、凄いよ君☆ これはイケる!」
「ハァ?」
訳が解らず首を傾げる。
「行き成り襲われたヒロインのレヴィアたん、あわや大ピンチ!」
※注意:ピンチでも何でもなかった。
「其処へ謎のヒーロー登場だよ☆」
※注意:身元不明な意味では謎だが、覆面をしていた訳でもないから謎というのは違う。
「これで【魔法少女マジカル☆レヴィアたん】の腹案は決まったよ♪」
テンション・フォルテッシモ(極めて強く)を地で往くセラフォルーに対して、ユートはボソリと呟く。
「訳が解らないよ……」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【冥界】
「本当に」
此処は冥界。
所謂、死後の世界と呼ばれている地であり、この更に地底深くには死者の魂を管理する冥府が存在して、ギリシア神話体系に於ける冥府の王ハーデスが居るのだと云う。
冥界の上は聖書の神話に登場をする悪魔と堕天使の領土であり、セラフォルーの本名はセラフォルー・レヴィアタン。
終末の怪物と呼ばれし、伝説の悪魔らしい。
とはいえ、何処ぞの邪神星人みたいなものらしく、レヴィアタンという名前も個体名ではなくて、今では職業の名前に等しいとか。
数百年前にハルマゲドンが終わり、然れど三竦みはどちらも滅ばなかった。
それは三竦みを歯牙にも掛けない存在……二天龍が大喧嘩をして戦争をしている所へ乱入し、ひっちゃかめっちゃかに掻き乱してくれた所為らしい。
何しろ、連中の大喧嘩に文句を言ったら……
『神如きが、魔王如きが、我らの戦いの邪魔をするなぁぁぁぁっ!』
などと言って、寧ろ更に暴れてくれたらしい。
三大勢力総を相手取り、たったの二体で対抗したらしく、つまりは二天龍とは相当な力を持った個体なのだろう。
神と魔王と堕天使総督を中心に、一時的な結束をして二天龍討伐を敢行。
屍山血河を築き上げて、漸く二天龍を引き裂いて後に神はその魂を神器(セイクリッド・ギア)に封じ込めたという。
「だって、酷いんだよ☆ 此方は真面目に戦争してるのにぃ、暴れて滅茶苦茶にするんだもん☆」
「いや、それは規模が違うだけで二天龍も三大勢力もやってる事は一緒だろ」
「う〜ん? どうしてですかぁ?」
「聞いた話だけだけどね、二天龍は正反対の力を持つが故に、互いに反目し合い滅ぼし合ったんだ。翻ってみれば、三大勢力の天使と悪魔の争いも聖と魔という正反対の力を持つ者同士、滅ぼし合っただけじゃないのか? 喧嘩と戦争、個人と組織……違いはそれだけじゃないか」
「う〜ん……」
「平和に暮らしていたのに二天龍が暴れたなら、幾らでも文句を言うなり滅ぼすなりすれば良いさ。だけど同じ事をしていて、自分達が邪魔されたからキレたってのはどうかな? 二天龍も三大勢力も、互いが互いを邪魔だと主張して暴れたんだし、文句を言う筋合いは無いと思うけど?」
どうせ戦争で、場合によっては自滅していた訳で、寧ろ三大勢力戦争が有耶無耶になったとはいえ、終わったのだから喜べとは言わないまでも、二天龍だけに責任を背負わせるなと思っていた。
別に二天龍を擁護する気は無いのだが……
ハッキリと言えば五十歩百歩に過ぎないのだから。
「それで、何処に向かっているんだ?」
「冥界の首都リリスだよ☆ 今ね、サーゼクスちゃん達がそっちに居るんだ☆」
「サーゼクスとは?」
「サーゼクス・ルシファーって云ってね、四大魔王の一人なんだよ☆」
「レヴィアタンにルシファーか。四大魔王って事は、あと二人は?」
「アジュカちゃんとファルビー☆ ベルゼブブとアスモデウスだね♪」
流石はファンシー魔王、同僚の魔王にちゃん付けやら愛称呼びだ。
ベルゼブブにアスモデウスと言えば、悪魔の中でも確かに魔王と呼ばれるのに相応しい。
本来はバアル・ゼブルだったが、時と共に魔に貶められた異教の神。
ルシファーと共に熾天使だったが、同じく堕天して悪魔の王の一角に据えられたらしい。
彼の忌まわしきアンチ・クロスの一人、ティベリウスが持つ【妖蛆の秘密】で招喚される鬼械神の名が、ベルゼビュート。
ベルゼブブをフランス語で読んだ名前だ。
つまり、あの忌まわしい鬼械神はベルゼブブの偽神という訳である。
「にしても、四大魔王ってのは悪魔のトップだろ? セラフォルーは首都に詰めなくて良かったのか?」
他の三人が首都リリスに詰める中、セラフォルーがどうして地上に居たのか、それが解らなかった。
「う〜ん、お仕事の前に、ソーナちゃんと会いたかったんだ〜」
「ソーナちゃん?」
「本名はソーナ・シトリーって云ってね、私の妹」
「あれ? シトリーがファミリーネームって……あ、そうか。レヴィアタンというのが役職名だってなら、セラフォルー・シトリーが前の名前なのか」
「あったり〜☆」
余程、嬉しかったのか、セラフォルーは満面の笑みを浮かべて万歳をする。
容姿と相俟って可愛らしく見えた。
流石はファンシー魔王と再び言いたい。
「然し妹か。ひょっとして駒王学園に通ってる?」
「そうですよー」
「そうか。じゃあ、駒王学園に伝手は無い? 彼処に通いたいけど、ちょっと困ってるんだ」
「うん、お安いご用だね」
どうやら期せずして伝手を見付けられたらしい。
こういう〝幸運〟も謂わば補正という名のギフト、そう考えて良いだろう。
「(三大勢力、悪魔に天使に堕天使か。そして悪魔の住まう冥界に、その首都。どうやらこの世界ではこれが中心になりそうだね)」
恐らくは切っても切れない関係なのだろう。
「(リアス・グレモリー、姫島朱乃、木場祐斗、塔城小猫、ギャスパー・ヴラディ、アーシア・アルジェント……そして兵藤一誠か。これまでにファミリーネームすら聞かないけど、確かにグレモリーはソロモンの七十二柱の悪魔の一角だ。関わりは深いな)」
「どうしたの?」
「うん、何でもないよ」
小首を傾げて訊ねてきたセラフォルーに、笑顔を向けて言うユート。
列車は丁度、首都リリスへと入っていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ユートとセラフォルーを乗せた列車が首都リリスに入り、二人──正確には、那古人も居るが──は魔王が政治的な話し合いをする議事堂へ向かう。
厳かな雰囲気の建造物の前に立つと、受付というか警備というのか、悪魔らしき男が何人か立っていた。
「ヤッホー☆ サーゼクスちゃん達は居ますか〜?」
「え゛? レ、レ、レヴィアタン様!」
確かに今日、来る事は聞いていた悪魔達だったが、よもや連れが居るとは思わなかい。
「レヴィアタン様、そいつは何です? 人間にも見えますが……」
「うん? 人間だよ♪」
「こ、困りますレヴィアタン様。人間など連れて来られては」
「そうですぞ。おい人間、此処は貴様の様な矮小な者が足を踏み入れ……」
最後まで言えなかった。
「ぼぐら!?」
受付悪魔は吹き飛ばされていたから。
「き、貴様ぁぁぁっ!」
「『人間風情がよくも』……と言う」
「人間風情がよくも──っは!?」
慌てて口を押さえるが、一度口を衝いて出た以上は最早後の祭り。
セラフォルーの前で恥を掻かされ、逆ギレした受付悪魔は……
「己れ、人間がぁぁぁ!」
攻撃を仕掛ける。
だが、ユートによる飛び蹴りを喰らって入口の鉄扉に激突し、気を失った。
「ふん、雑魚い」
まあ、門番なんてしてる処を見ると下っ端なのだろうが、吹けば飛ぶ程度の力で魔王なんて存在を護れる訳もない。
「もう、ユート君に酷い事を言ったりしたら、私が煌めいちゃうよ?」
プンスカと怒るのだが、寧ろ酷い事をされたりしたのは此方である。
「さ、行こ☆」
憐れな門番達は放置で、セラフォルーはユートの手を握ると、サーゼクス達が居るであろう最上階の方へと上がっていく。
階段ではなく、エレベーターの様な物だから楽に上がれた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
一方の最上階。
此処では【サーゼクス・ルシファー】を始めとし、魔王が冥界に於ける政務を行っている。
軍事面ではファルビウム・アスモデウス。
外交面ではセラフォルー・レヴィアタン。
技術開発はアジュカ・ベルゼブブ。
それを統轄しているのがサーゼクス・ルシファー。
「ふむ、セラフォルーが連れている子、中々に面白いじゃあないか」
「中級悪魔とはいえ一撃ですか……」
黒幕っぽく肘を付いて、両手に顎を乗せた紅い髪の毛の青年がニヤリと笑みを浮かべ、銀髪のメイド服な女性はその力に驚く。
「これは俄然、面白くなってきたみたいだ」
妖艶な顔立ちの青年も、愉し気に言う。
「眠い……」
何処か面倒臭そうな表情の青年は、眠たい目を擦りながらもモニターの向こうを見据えている。
〔視ているね?〕
「「「「──!?」」」」
セラフォルーの連れてきた人間──ユート──が、モニター目線で呟く。
「驚いたな」
「ハッタリ……などではなさそうですね」
「ああ、グレイフィア……彼は間違いなくカメラの事に気付いていたよ」
直感か、それとも別の何かなのかは窺い知れぬが、間違いなく認識していたとサーゼクスは感じていた。
「お客様とセラフォルー様のお茶を準備致します」
「ああ、そうしてくれ」
それから僅か数分もしない内に、セラフォルーと連れの人間が入って来る。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
扉の前に着くと、ギギギと重々しい音を響かせつつ扉が開いた。
「やあ、セラフォルー」
「ヤッホー☆ サーゼクスちゃん!」
魔王同士なのに、余りにも軽いノリな挨拶だ。
セラフォルーが笑顔を浮かべ挨拶を交わしたのは、背中にまで掛かる長い紅髪の青年だった。
サーゼクスという事は、彼こそが冥界を統べている四大魔王の統轄を行う者、ルシファーの名前を受け継いだ存在。
「それで、セラフォルーの後ろに居るのは誰だい?」
「私のヒーロー☆」
この要領を得ない説明に首を傾げると、ユートの方を向いて……
「私はサーゼクス・ルシファー。冥界を統べる魔王の一角だよ」
自己紹介をする。
「私はアジュカ・ベルゼブブだ。冥界四大魔王の一角であり、技術開発顧問をしている」
「……ううん、面倒だけど仕方ないね。僕の名前は、ファルビウム・アスモデウスだよ。軍事方面を担当してるんだ」
それに倣って、アジュカと名乗る少し妖艶な雰囲気の青年と、面倒臭そうにしている青年が自己紹介をしてきた。
「私はサーゼクス様の御実家に仕え、専属のメイドをしておりますグレイフィアと申します。以後、お見知り置きを」
銀髪のクールビューティなメイド服を着た女性が、頭を下げて一礼をしながら名乗った。
「これは、冥界を統べるという四大魔王殿に先に挨拶をさせて申し訳がないね。僕の名前は緒方優斗。見ての通りの人間だね」
「ふむ、それでセラフォルーの言っていたヒーローというのは何かね? いまいち要領を得ないのだが」
あんな説明で一を聞いて十を知れとは酷な話だし、ユートは事細かくこの場の四人──サーゼクス、グレイフィア、アジュカ、ファルビウム──に話す。
その説明に納得がいき、サーゼクスはウンウンと頷きながら、にこやかな笑みで頭を下げた。
「どうやらセラフォルーが世話になった様だね。御礼を申し上げるよ。うん、正にセラフォルーからしたら理想的なヒーロー像だ」
今度はサーゼクスが説明を開始する。
元々、セラフォルーには強いヒロイン願望が有り、悪い奴──この場合は悪魔的に天使や堕天使の事──をバッタバッタと斃す魔法少女マジカル☆レヴィアたんなどと、コスプレまでして名乗っていた。
だが然し、何かが物足りないと常日頃から洩らしていたのだが成程、その足りないモノが何なのか理解が出来た気がする。
「きっとセラフォルーにとって、ヒロインのピンチに何処からともなく駆け付けるヒーローが必要だったんだろうね」
例えば、セーラーレオタードを着たヒロインにとっては、タキシードにマント姿で顔を仮面舞踏会を斯くやの仮面で隠した青年が現れた様に、ピンチな自分を颯爽登場して救い出す存在が欲しかったのだろう。
だけど理想は所詮理想に過ぎず、そもそもセラフォルーがピンチになる場面が想像し難い。
これでも終末の怪物の名を受け継ぐ魔王の一角で、冥界の悪魔の中に在ってはトップ5に名を連ねる。
ピンチになどならないであろうし、なったらなったでそこら辺の悪魔で対処など叶う訳も無かった。
だから百は居た襲撃者を相手に、人間の身で果敢に立ち向かう姿にセラフォルーがヒーロー像を見ても、おかしくはなかったのだ。
「うう、やっぱり魔法少女マジカル☆レヴィアたんを本格的にスタートさせたいよ〜☆」
どうしてしないのか怪訝に思っていると……
「セラフォルーの理想というのを理解出来る者が少なくてね、周りが彼女を止めてしまうのさ。幾ら魔王といえ、一人で特撮やアニメを創れはしないんだ」
と、教えてくれた。
苦笑いをするサーゼクスの表情に、セラフォルーと同じモノを感じる。
「若しかして、魔王だから出来ない事がサーゼクス殿にも有るのかな?」
サーゼクスはそれを聞き『解るかね?』と、一層の苦笑いを浮かべて言う。
「魔王になる前は音楽家に憧れたものさ」
成程、魔王という役職の片手間に出来る事では無さそうだと考える。
聞く限り、魔王というのは大臣の事だと思って差し障り無さそうだ。
サーゼクスが総理大臣、アジュカが文部科学大臣、セラフォルーが外務大臣、ファルビウムが防衛大臣といった処であろう。
そして各省庁の遣り取りを円滑にするべく、補佐をしているのがグレイフィアという訳だ。
日本の総理大臣が趣味で作曲をする事はあっても、作曲家を名乗れる程の仕事は不可能。
つまりはそういう事だ。
それにしても……
「門番の態度から、セラフォルーが特別ざっくばらんなのかと思っていたけど、サーゼクス殿達も余り変わらないな」
ユートはそう思った。
「はっはっは、敬称なんて要らないさ。もっとそう、ざっくばらんにやっていこうじゃないか?」
「サーゼクス様……」
威厳もへったくれも無い主の科白に、クールビューティは頭を抱えていた。
話はとても和やかに進んでいたし、ユートは政治にもそれなりの知識が有り、その辺も普通に相談に乗ったりして仕事も進む。
そのお陰と言うのも流石に烏滸がましいだろうが、割と早目に魔王の仕事の方は一段落というか、殆んど終了してしまった。
食事を共に摂り、様々な話をする。
ユートが実は平行異世界からの異邦人であり、先日も小柄でアッシュブロンドの少女が蛇の怪物に襲われていて助けた事を話すと、グレイフィアもサーゼクスも驚愕していた。
「恐らくその娘は私の妹、リアスの眷属だろうね」
「眷属?」
「先の三大勢力大戦では、悪魔も天使も堕天使も勢力を大幅に減衰されてねぇ。それを補う為にアジュカが造った【悪魔の駒(イーヴィルピース)】で他の悪魔なり、他種族を転生させるなりして眷属にする事が出来る様になったんだ」
「眷属ね、僕でいう使徒みたいなものかな?」
「大軍勢は持てなくなったけど、少数精鋭で勢力拡大が可能となった。【悪魔の駒】はチェスに見立てて、全部で十五個が存在する。グレイフィアは私の謂わば【女王(クイーン)】だよ」
自慢そうにグレイフィアを抱き寄せるサーゼクス、若干だが頬を紅潮させている処を見ると……
「眷属であり恋人?」
などと訊ねてみる。
「はっはっは、少し違う。グレイフィアは妻なんだ。息子も居るんだよ」
「政務が終わったといえ、プライベートではありませんので、今は魔王様の補佐をするメイドです」
サーゼクスの言葉を否定はせず、然れども素気無くやんわりと答えた。
「要するに御仕事モードとプライベートモードでは、立場を変えてる訳か」
グレイフィアは頷く。
「フッフッフ、サーゼクスちゃんとフィアちゃんは、家が敵対関係だったんだけどね、大恋愛の末に結婚をしちゃったんだよ☆」
「セ、セラフォルー様!」
とんでもない話を暴露されてしまい、グレイフィアはクールビューティの仮面を外して、真っ赤になってセラフォルーを責める。
「【悪魔の駒】か。えっと……アジュカだっけか? 見せて貰っても良い?」
「構わないよ。サンプルに持っているから」
【悪魔の駒】の【兵士(ポーン)】を渡され、それを興味深く見つめた。
「へー、面白い術式が籠められているね。成程、これが悪魔への属性変換を促しているんだな。使徒化にも近いけど、それともまた異なる……か」
「解るのかな?」
「ああ、面白いよ。マジッ
クアイテムとして開発してみるかな?」
ユートの言葉に興味を覚えたのか、今度はアジュカの方が……
「君のマジックアイテムとやらには興味あるな」
瞳を子供の様に輝かせ、是非とも見たいという態度で見つめてくる。
「じゃあ、これ」
「これは?」
「空を飛べない人間が飛ぶ為のマジックアイテムで、【ストライカーユニット】という」
「ほう? 悪魔や天使なら翼で飛べるが、確かに人間には翼が無いからな」
正確にはアニメから起こしたレプリカだ。
ユートがオリジナルで造った訳ではなく、元の世界でやっていたアニメに登場する魔法の箒。
とはいえそれは形と名前だけで、術式やら何やらは自分で全てを造っている。
参考に出来る実物が無かったからだ。
性格的にサーゼクスと、ヒロイン的にセラフォルーと、技術開発的にアジュカと話が合うのだが、聞けばファルビウムともユートは合う。
ファルビウムは眷属を持つ話になって、一生懸命に眷属を作っていった。
そして有能で満足のいく眷属を集め終え、自分自身がどうしてもやらなければならない仕事──例えば、今の魔王会議──以外は、眷属に丸投げしてるとか。
夏休みの宿題を初日に済ませ、後はダラダラとして過ごすタイプという事だ。
「うん、解る。僕も平穏な日常を享受するべく、最初で一生懸命に鍛えておいたもんだよ」
ハルケギニアで早い内に強くなり、戦力を集めたのもその為だった。
後で楽をしたいが為。
その言葉通り、ユートは這い寄る混沌との戦争後、幾つか別の世界に飛ばされこそしたが、それ以外では仲好くなった女の子達と、爛れた性活をしながら自分しか出来ない仕事を熟し、死ぬまで面白おかしく愉しい人生を送ったものだ。
性格的なものがあったとはいえ、四大魔王やグレイフィアと仲良くなり、歓談していたユートだったが、サーゼクスがふと口にした言葉でより一層、愉しくなったと思った。
「どうだい、元の世界では君も強かったのだろう? 一手、お手合わせを願えないだろうか?」
悪魔最強と目され、魔王ルシファーを名乗る身としての興味である。
本人は別に戦闘狂(バトルマニア)でも、戦闘中毒(バトルジャンキー)どもなかったが、自分と対等なのが唯一アジュカ・ベルゼブブのみというのも淋しく感じており、少しユートの力が如何程か見たくなったに過ぎない。
ただそれだけだったが、それがある意味大成功だというのは、サーゼクス自身にも判っていなかった。
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