ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第19話:修業×逢瀬

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「ヒィ、ヒィ……ヒィヒィヒィヒィ!」

 

 巨大な荷物を背中に背負って『ヒィヒィ』と啼いているのは、ジャージを着た兵藤一誠である。

 

 現在の一誠は、オカルト研究部の仲間達と山籠りの為の道中を進んでいた。

 

 仲間達も荷物は持っている訳だが、一誠の荷物は取り分け大きい。

 

 というか、ユーキが用意した荷物なのだが……

 

「重い」

 

 その一言に尽きる。

 

 でかいのだから、重くても不思議は無い。

 

 だが、この異常な重さは心が折れそうだ。

 

 悪魔だから良かったが、人間の頃なら荷を持たされた時点でペシャる。

 

「なあ、祐希ちゃん?」

 

「なに、赤龍帝?」

 

「この荷物ってさ、いったい何が入ってんの?」

 

 荷物を用意した張本人に訊いてみると、ユーキは酷くフラットな表情になり、淡々と答えた。

 

「人間……あ、悪魔だったっけ。どっちでも良いか。知らない方が幸せって事もあるんだよ?」

 

「ちょっ! マジに何が入ってんだよぉぉぉっ!?」

 

 懲りずに訊いてくる一誠に対し、やれやれと溜息を吐きながら教えてやる。

 

「赤龍帝が万が一にも覗きをやらかしたら、罰を与える為の拷問器具だよ」

 

「………………」

 

 聞いた瞬間、一誠は凍り付いたかの如く固まった。

 

 タップリと数秒が経ち、一誠の絶叫が山の中で谺したという。

 

「な、な、な……なんじゃそりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 ユーキが最大限に警戒するのも無理はない、何しろ原作では修業地へと着いた早々に、覗きたいという顔をしていたのだから。

 

「石抱きの刑から鋼鉄の処女まで、様々な器具を用意しておいたからさ、ボクに変質的な行為を働いたら、覚悟を決めてね?」

 

「お、俺っていったいどんな風に見られてんだよ」

 

 ボキリと心を折られて、一誠を痛め付ける事だけが目的の荷を、更なる精神的な重量が加わった気がしながらもヨロヨロと運んだ。

 

 そんな一誠を見送りながらユーキは呟く。

 

「どんな風に? 決まってるよ、乳龍帝おっぱいドラゴンじゃないか」

 

 それこそ兵藤一誠の未来の姿である。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「漸く見付けた」

 

「ホッホッ、この死に掛けの婆に何の用かの?」

 

 縁側でお茶を啜る老婆。

 

 着物を着込み、白髪を揺らしている。

 

 老婆からは何の脅威も感じはしないが、それでも残り滓の様な“妖氣”を感じる事が出来た。

 

「貴女にお願いしたい事があります」

 

「願いとな?」

 

「ええ、貴女の後輩の為に今一度立って頂きたい」

 

 そんな茶飲み婆な女性、ユートは老婆に自身の用事を伝える。

 

 その話を老婆は受けた、それは愉しそうに。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 山道をヒーコラヒーコラ登り、グレモリー家所有の木造の別荘に着く。

 

 話に依れば普段は魔力で風景に隠れており、人前には現れないという。

 

 まあ、ユートも艦船を同じ様な処理で隠している、別に珍しい技術でもない。

 

 それでも一誠は驚いていた訳だが……

 

 荷物を置いて早速、修業を開始する事になる。

 

 ユーキはリアスから修業の内容を訊いてみた。

 

「部長さん、この内容だと赤龍帝以外のみんなの修業が疎かになるけど?」

 

「でも、一誠が一番弱い訳だし……」

 

「どうせ僅か一〇日だし、兄貴の言った通り根拠も無い様な自信と、付け焼き刃くらいしか身に付かない。だったら、基礎をとことんまで突き詰めるしか無いと思うよ」

 

「どういう事かしら?」

 

 ユーキは亜空間ポケットから幾つかの器具を出し、テーブルの上に置く。

 

「これは?」

 

「重力偏向場発生装置と、魔力養成ギプス」

 

「は?」

 

「重力偏向場発生装置は、小猫ちゃんと木場祐斗……それに赤龍帝に使って貰う事になる。魔力養成ギプスは部長さんと朱乃さん」

 

「つまりは、前衛には重力偏向場発生装置とやらで、私や朱乃みたいな中・後衛で魔力を主に扱うタイプが魔力養成ギプスって事?」

 

「正解」

 

「あ、あのー」

 

 ソッと小さく手を挙げ、自己主張する者が一人。

 

「何かな、レイナーレ」

 

「いや、夕麻と呼んで欲しいんだけど……って、そうじゃなくて私は?」

 

 先程、名前が挙がらなかった夕麻はどうしたら良いのか判らない。

 

「レイナーレ……夕麻先輩は兄貴から受けてた拷も……修業を続けて。五日後に兄貴が来たら指示もあると思うから」

 

「今、さらりと拷問とか言い掛けなかった?」

 

 ユーキはアッサリと目を逸らした。

 

「それと、地力から上げる為に駒の特性が出せない様に封印するから」

 

「駒の特性を?」

 

 何だか後ろでシクシクと泣いているが気にしない。

 

「特に小猫ちゃんは、駒の特性でパワーが普通じゃないからね。重力偏向場発生装置の意味が無いよ」

 

「そんな事、本当に出来るのかしら? それに効果は有るの?」

 

「出来ないなら言わない。効果は実証済みだよ」

 

「そ、そう…………

 

 ハルケギニア時代の事、ユートは才人にルイズとの契約をさせずに、地力のみで修業させた事で原作より遥かに強くなっている。

 

 ルーンの効果──武器を手にすれば身体能力が上昇するという特性が無い為、修業の効果は抜群だった。

 

 一の能力で一〇〇上げるよりも、五〇の力で一〇〇上げた方が強いのは自明の理で、ガンダールヴの効果で一〇一となった能力を、五〇上げて一五一になってもガンダールヴで楽していた分、能力の上昇は遅い。

 

 RPG風に言うならば、行き成りレベル五〇の能力を得た分、獲られる経験値が一〇分の一にまで減っていたといった処だ。

 

 その癖、武器を手放したらレベルは相変わらず一という……

 

 故に必要なのは駒の特性に頼らずに、現在の能力にまで力を引き上げる事。

 

 そうすれば、駒の恩恵を受けた時に更なる力を得られるという訳である。

 

「ま、どっちにせよ一〇日じゃ大した向上も見込めないと思うけど、やらないよりはマシ……かな」

 

「判ったわ、ユーキの言う通りにしましょう」

 

リアスは嘆息しながら了承した。

 

 実際、原作でも鍛え始めたばかりの一誠やアーシアは兎も角、木場達の実力が上がってたとは思えない。

 

 少しでも実力を上げたいのなら、少し荒療治が必要と云う訳だ。

 

 初日は十Gの状態を維持した筋力トレーニング。

 

 元々が自然豊かな野山、こんな状態でなら山を駆けずり回るだけでも、それは普通に鍛練となっている。

 

 駒の恩恵を封印されて、一〇倍の加重を受けていても木場はそれなりに動けていた為、時間こそ掛かったが猪を狩って来た。

 

 小猫も其処は同様だ。

 

 だが一誠は一〇倍の加重にも着いていけない。

 

 人間の侭ならば、確実にペシャる加重だから当然なのかも知れないが、悪魔になったからかペシャる事だけはなかった。

 

 まあ、クソ重たい拷問器具を運べたのだし、一〇倍は何とかなるのだろう。

 

 朱乃とリアスは魔力運用の基礎からやり直した。

 

 特に朱乃は、ユーキから受けた指摘に心当たりがあった為、余計に基礎を疎かには出来ない。

 

『魔力的なスタミナを鍛えたり、所謂処のMPの消費を抑える修業をすれば大技も揮い易くなるんだよ』

 

 魔力運用の基礎をやり直す事で、少しでも魔力消費量を抑えれば、膨大な魔力を消費する魔力を使って、息切れするなんて無様を晒さない様にする。

 

 それが目標だ。

 

 リアスは朱乃と同じ様に基礎でも、威力の増大へと注視して訓練をしていた。

 

 一撃の錬度を上げれば、同じ威力でも少ない魔力量で放てる筈。

 

 翻って、魔力量を増やせば威力も底上げ出来る。

 

 夕麻はユートから受けていた拷も……訓練を此処でも繰り返していた。

 

 また悪魔の力に慣れる為にもD×Dスキャナで【デアボリック・エヴォリューション】を繰り返したり、闇の力を収束させる訓練をしてみたり、悪魔から堕天使、堕天使から悪魔とスライドエヴォリューションしてみたりしている。

 

 こうして、一日目の修業は基礎を重点的に鍛え直す事に終始した。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「そうなんですか、部長さん達がそんな事に……」

 

 ギャスパーはしんみりとした表情で、ユートの話を聴いていた。

 

 ユートはとある人物に会って協力を取り付けた後、ギャスパーとも会う。

 

 五日後にグレモリー家所有の別荘に行き、修業を手伝う事になった為、その間は此処に来れない旨を伝えに来たのである。

 

「ゴメンな、ギャスパー」

 

「い、いえ。気にしないで下さい! 僕もお手伝いが出来れば良かったんですけど……」

 

「無理は禁物だよ。まあ、今日から五日間は密度を上げて訓練をしようか」

 

「は、はい!」

 

 頬を染めつつ、嬉しそうに返事をしたものだった。

 

 ギャスパーは既に、【停止する世界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)】の制御に関しては、完全に行使が出来る。

 

 やはり慣れない状態と、使い慣れた状態では制御力が段違いだ。

 

 毎日毎日、ギャスパーは使い続けてきた。

 

 神器(セイクリッド・ギア)の恐ろしさが理解出来ているならば、それをキチンと制御出来ない侭に放置していた場合の危険性を鑑みたなら、修業をして神器(セイクリッド・ギア)を使い続けて使い熟せる様になるべきだ……というユートの説得を受け、ずっと頑張ってきたのだ。

 

 最初は簡単な停止の使用で暴発させず、任意に停止出来る様になったら次は、動いている物を停止させる訓練に入る。

 

 ボールを山なりに投げ、下に落ちる前に停止。

 

 最初の頃は辺りの空間も停止してしまっていた。

 

 これは周囲に電動の風車を用意して、動き続けるか停止するかで判断をする。

 

 ボール一個だけを停止出来る様になれば、今度は数を増やしていく。

 

 更に慣れたなら、ボールの動きをアトランダムに変化させて停止させるといった訓練に入った。

 

 やる気が全開のギャスパーは一誠と違い、神器(セイクリッド・ギア)の扱いがどんどん上達する。

 

 何しろユートは知らない事だが、ギャスパーは寝る間も惜しんで頑張っていたのである。

 

 全てはご褒美の為に……

 

 今では任意の空間や物質だけを、完全に停止させるまでに至っていた。

 

 この分なら、禁手(バランス・ブレイカー)となっても大丈夫だろう。

 

 ユートはギャスパーの訓練を行う傍らで、小猫の為の人工神器を造っていた。

 

 とはいえ、既に九割は方完成を見ている。

 

 後は例のアレさえ取り込んだなら、この人工神器は完成するだろう。

 

 因みに、アーシアとミッテルトの訓練は、那古人に任せっきりとなっていた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「やあ、久しぶりだね」

 

 白髪の少年が、待ち合わせ場所の喫茶店でコーヒーを飲みながら右腕を挙げて挨拶してくる。

 

「うん、久しぶりだね」

 

 ユートは頷く。

 

 実際に結構な期間、彼とは会っていない。

 

「まあ、座りなよ。君の分のコーヒーも注文してあるから」

 

 普段と何も変わらない、能面の如く表情ではあるが付き合いもいい加減で永いユートには解る。

 

 彼は何処かウキウキとしているのだと。

 

「あの、お久しぶりです」

 

「ああ、うん。君とも久しぶりだよね」

 

「は、はい」

 

 少女を伴っている事は別に珍しくもない。

 

 ただ、数人の少女が居る中でもユートと会う時に限って〝彼女〟を伴う確率が非常に高かった。

 

「また君が秘書役?」

 

「あの、若しかして嫌……だったでしょうか?」

 

 少女はシュンとした表情になり俯いてしまう。

 

「嫌なんかじゃないよ? 寧ろ、僕の秘書になって欲しいくらいだ」

 

「え! ほ、本当ですか? それなら今からで……」

 

「落ち着きなよ」

 

「ぷらっ!?」

 

 無表情ながらも、呆れた雰囲気と棒読みな科白で、少女の脳天にチョップを入れる少年。

 

「今、君に離れて貰っても困るんだ。ユート君の誘いに乗るのはもう少し後にしてくれないかな?」

 

「も、申し訳ありません」

 

 少女はペコペコと頭を下げて謝った。

 

「さてと、今日の用件を済ませてしまおうか。落ち着いてコーヒーも飲めない」

 

「相変わらずのコーヒー党っぷりだね」

 

「前にも言ったろ? 僕はコーヒーを一日に七杯は飲むんだよ。コーヒーは脳を活性化してくれるからね。君の兄は見事に否定してくれたけど」

 

「ああ、泥水とか言っていたからね」

 

 ユートも普通にコーヒーは飲む。

 

 流石に、一日に七杯なんて飲めないが、朝の目覚めに一杯は必ず飲んでいる。

 

 銘柄までは気にしていなかったが、彼と友人になった時に色々と教えて貰ったのが切っ掛けで、それなりに気を遣う様になった。

 

「それで、僕……というよりは〝彼〟への依頼だったよね?」

 

「うん……君のモノと同じ素体を、此方の注文通りの容姿で造って欲しい」

 

「素体もタダじゃないんだけど、それは判ってる?」

 

「勿論だよ。現金で支払っても良いけど、等価交換で物々取り引きにする?」

 

「……そうだね。ウチの娘達の強化をしたいんだが、以前に君が使っていたあのクラスカードを数枚、貰えると嬉しいね」

 

「クラスカードか、了解」

 

 話が纏まり、白髪の少年は席を立つ。

 

「それじゃ、僕は彼に連絡をしてくるから。ユート君はウチの秘書とデートでも楽しんでくれ給え」

 

 その一言を聞いた少女がボンッ! と余りに判り易い反応をしてくれた。

 

 まるで瞬間湯沸し器の如くである。

 

「えーっとさ、デート……する?」

 

 ユートが少女へ遠慮がちに訊くと……

 

「は、は、は、は、はい! わ、私で宜しければよ、よ、よ、よ、喜んで!」

 

 少女はいっそ可哀想になるくらいに吃りながらも、デートに悦びを感じている様で、色好い返事をした。

 

 二人は暫くの時間だが、愉しい一時を過ごす。

 

 手を握り合って、少女の少し垂れた目がユートの顔を見つめている。

 

 表情は本当に嬉しそうにしていて、暑い訳でもないのに緊張からかしっとりと手が汗ばんでいた。

 

 デートの終了後、少女は躊躇いがちに言う。

 

「あ、あの……お願いしますユートさん」

 

 目を閉じ、両手は胸元で組んでソッと顔を上げる。

 

 そこまでされて理解が及ばない程、ユートも朴念仁ではない心算だ。

 

「ルーナ……」

 

「来て、下さい」

 

 軽く、ほんの軽く少女の唇と自分の唇を触れさせ、湿らせる程度には長々と触れ合わせる。

 

 腰を抱き、右頬を撫でるかの如く優しく触れた。

 

 初心な少女はそれで満足したのだろう、真っ赤になった侭で笑顔を向けて帰っていく。

 

 思えば、彼女とのデートはこれが初めてな訳だが、彼なりに気を遣ったのかも知れない。

 

「やれやれ」

 

 ユートは苦笑しつつも、元居た世界へと戻った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 強化合宿一日目の夜。

 

「うおおおお! 美味ぇぇぇぇ! マジで美味い!」

 

 修業を終えると、全員で夕食を摂っていた。

 

 一誠は夕飯の余りの美味しさに感涙している。

 

 テーブルには豪華絢爛な食事が山と盛られて、木場が山登りの最中に採ってきた山菜など御浸しにされ、更に猪の牡丹肉も調理されていた。

 

 リアスや木場が訓練がてら斃して来たものらしく、川魚の塩焼きも素晴らしい味わいだ。

 

「あらあら、お代わりもあるから沢山食べて下さい」

 

 今夜、この豪勢な夕飯を作ったのは朱乃である。

 

 ユーキ以外は疲れもあるのだろうが、一心不乱に食べていた。

 

『食べなければ、生き残れない!』 なんてキャッチフレーズが飛びそうなくらい厳しかったのだ。

 

 朱乃は、夕飯を作る関係で早めに上がったのだが、やはり肉体的にも精神的にもしんどそうだ。

 

 正直、ミーティングをしたい処ではあるが、今日はもう風呂に入って眠りたい気分になっている。

 

「食事も終えたし、お風呂に入りましょうか。此処は温泉だから、疲れもきっと飛ぶわよ」

 

 風呂と聴いた途端、一誠が色めき立つ。

 

「僕は覗かないよ、イッセー君」

 

「バッカ! お、お前!」

 

 木場からの先制パンチに一誠は動揺するが、直ぐに表情を青褪めさせた。

 

 ゴトン!

 

 鋼鉄処女(アイアンメイデン)が鈍くて重たい音を響かせ、リビングの床の上に置かれたのだ。

 

 ゴトン!

 

 江戸時代、実際に使用された石抱きの刑用の石が、置かれた。

 

 ギザギザに加工された石の上に、正座で座らされてから膝の上に重たい石を乗せていくという。

 

 コトン……

 

 テーブルに爪を剥ぐ機器が置かれる。

 

 指をセットして、レバーを下げるだけで爪を剥ぐ事が可能な、ひぐらし御用達の器具だ。

 

 他にも色々出すユーキ。

 

「覗いたら、フルコースを味わって貰うから」

 

 笑顔で言うと、温泉へと向かった。

 

 何のフルコースなのか、言うまでもあるまい。

 

「イッセー君、僕と裸の付き合いをしよう。背中……流すよ?」

 

「うっせぇぇぇぇぇっ! 本当にマジで殺すぞ、木場ぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 恐怖が転じて怒りに変換されて、一誠の慟哭が別荘内に虚しく響き渡った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 それから、瞬く間に五日が経ってユートが別荘へと合流する。

 

「死屍累々……」

 

 合流後のユートの第一声は半ば呆れた口調が混じっており、ピクピク痙攣している一誠達を見つめた。

 

「ユーキ、説明」

 

「えーっと、取り敢えずはボクが昔させられた修業の基礎から、濃い密度でやらせてみたらこうなった」

 

「あれは揺ったりペースでやる修業であって、決して五日でやる修業じゃないんだけどな」

 

 額を押さえながら言う。

 

 ハルケギニア時代では、ユーキへと課した修業とは既に多くの訓練を熟して、ある程度レベルで鍛えていたユーキを、一年くらいで聖闘士にするメニューだったのだ。

 

 よもやそれを、五日の間にやらせていたとは……

 

「一誠は荒療治をしないと神器(セイクリッド・ギア)が目醒めないから、無茶な戦闘訓練もさせた訳だが、他の連中にこれは……」

 

 知らなかったとはいえ、一誠の成長の切っ掛けを奪ってしまい、それの補填として少し無茶な事はした。

 

「今、何Gくらい?」

 

「一四G」

 

「最初は一〇G?」

 

「当たり」

 

 つまり一日毎で一Gずつ上げていったという事。

 

「まあ、単純な身体能力は一誠でさえ下手な青銅聖闘士より上だし、一〇Gなら問題は無いと思うけどね、流石に素人を相手に一日で一Gの加重はキツいんじゃないかな?」

 

 ユーキの時は、一日毎に一Gの加重を加えていき、三十日で三〇Gにした後はずっとこの重力だった。

 

「う、うう……空孫悟なら一ヶ月で一〇〇Gを克服出来るんだけど、俺は無理なんだよ祐希ちゃん」

 

 呻く様に言う一誠。

 

「今日は休ませるか」

 

「……そうだね」

 

 一誠達をベッドに運び、今晩の食事作りを始める。

 

「マルトーさん仕込みだから味は保証するけど、窮めてる訳じゃないからな」

 

「充分じゃない?」

 

 ユーキも手伝いながら、それなり程度の味ではあるが夕飯は完成した。

 

「にしても、この数日間で朱乃さんが作った料理に比べると……ショボいね」

 

「肉じゃがと豆腐の味噌汁に何か問題でも?」

 

「いや、無いよ。兄貴の料理も久しぶりだしさ」

 

 ユートが作れるのは飽く迄も一般的な家庭料理で、しかも決して料理が得意な訳でもなかったから、流石に有名なレストラン張りの豪華料理は無理だ。

 

 所詮は前々世、普通程度の青年でしかなかったし、前世は貴族様だから一人で何でも熟してはいない。

 

 メイドに着替えをさせ、朝の屹立までも処理させていたダメ人間の塊。

 

「そろそろ疲れもマシになっただろうし、リアス部長達を起こして来てくれ」

 

「ん、了解」

 

 仕上げをする間にユーキがリアス達を連れて来る。

 

 ヘトヘトになってるが、明日への活力を得る為にも食事は摂らねばならない。

 

 フラフラと席に着くと、挨拶もそぞろにリアス達は食事を始めた。

 

「あら? 案外、味があっさりとしてるわね」

 

 リアスの言った通りで、味の方は舌が受け付け易い様に、少し薄味であっさり風味に仕上げてある。

 

「明日からの予定だけど、基本的には今日までの訓練と同じ。但し、Gは初日に戻して一〇G。一誠は特別メニューを熟して貰うよ」

 

「え゙……? それって、またあの時みたいな?」

 

「アレをやりたければさせるけど、今回は別。その後でやってみる?」

 

 一誠は思い切り首を横に振った。

 

「処で、リビングの景観に合わない拷問器具は何?」

 

 使われた様子はないが、明らかにリビングの景観をぶち壊している。

 

「覗き防止に牽制」

 

「そうか……」

 

 ユーキの簡潔な説明に何をしたいのか、直ぐに理解出来てしまう。

 

「兎に角、解散」

 

 五日目は単に夕飯を作るだけで終了した。

 

 翌日、リアス達は今までの通りの訓練を……

 

「さて、一誠にして貰うのはサイコダイブだ」

 

「サイコダイブ? 確か、心の中に潜るあれか?」

 

「正解。一誠は自分の深層意識まで潜って、謂わば夢の中で神器(セイクリッド・ギア)に宿る魂に会ってきて貰う」

 

「神器(セイクリッド・ギア)の魂?」

 

「僕も神器(セイクリッド・ギア)には詳しくないんだけど、リアス部長が言うには色んなタイプがあるらしい」

 

 ユートはホワイトボードに書き込んでいく。

 

・装備型

 

・身体一体型

 

・生体型

 

・封印型

 

「軽く聞いただけでもこれだけある」

 

「は、はぁ……それじゃあ俺のは装備型か?」

 

「いや、封印型だよ」

 

「へ?」

 

「見た目には籠手だから、確かに装備型というのも間違いとはいえない、だけど敢えて封印型にカテゴライズしたのは、【赤龍帝の籠手】に限らず【龍の手】なんかは龍の魂を封じたものらしいんだ」

 

 【龍の手】は装備型と言っても過言でないくらい、意思など希薄なもの。

 

 然し、【赤龍帝の籠手】は全くの別格だという。

 

「リアス部長曰く、一誠の【赤龍帝の籠手】には昔の戦争で空気も読まずに喧嘩をしながら割り込んできたという、二天龍と呼ばれる龍の魂が封じられているらしいんだ」

 

「喧嘩ぁ?」

 

「そ、だから戦争をしてた三勢力も二天龍を斃す為、一致団結したとか。犠牲を払って斃した後は、現在の様に神器(セイクリッド・ギア)として存在してる」

 

 一誠はマジマジと己れの左腕を見つめる、其処に宿った【赤龍帝の籠手】に想いを馳せて。

 

「一誠に宿るのは二天龍が一角で、赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)のドライグだそうだ」

 

「あれ? 二天龍って事はもう一つ在るんだよな?」

 

「詳しくは知らないけど、白龍皇(バニシング・ドラゴン)のアルビオンって事らしいよ」

 

 いずれは一誠の前に現れるとも言っていたが、いつになるかは判らない。

 

 ただ、もしもその白龍皇とやらが力を使い熟せているなら、全く使えていない一誠に勝ち目は無かった。

 

「白龍皇は兎も角、一誠はドライグの意識に触れて、少しでも自身の神器(セイクリッド・ギア)の理解を深めて欲しいんだ」

 

「判ったけどよ、どうやってサイコダイブなんてやるんだ? やり方なんて俺は知らねえぞ」

 

「鳳凰幻魔拳を応用して、自分の意識に潜って貰う」

 

「鳳凰幻魔拳?」

 

「そう、本来の使い方だと相手に幻覚を脳内で見せ、精神を破壊する技だけど……それを応用する。じゃあ【赤龍帝の籠手】を出してみてくれるか?」

 

「わ、判った」

 

 一誠は言われるが侭に、左腕に意識を集中し【赤龍帝の籠手】を顕現させる。

 

 鳳凰幻魔拳は、イメージを敵の脳に叩き付けたり、記憶野を刺激して走馬灯の如く記憶を引き出したり出来る技だが、もう少し穿った考え方で使ったら意識を深層へと潜らせる事も可能なのではないかと、ユートはそう考えた。

 

 【赤龍帝の籠手】と魂で結ばれた一誠ならば、その応用的な技でドライグとのアクセスが出来る筈だ。

 

「じゃあ、始めるよ」

 

「お、応っ!」

 

「鳳凰幻魔拳!」

 

 ピシッ! ユートが右の人差し指で一誠の頭脳に刺激を与え、幻魔拳を脳内へと浸透させる。

 

 果たして、一誠の意識は確かにサイコダイブに成功するのであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「あ、あれ? これが俺の深層意識ってヤツか?」

 

 キョロキョロと周囲を見回すが、特に何も無い空間が広がるだけだ。

 

「何にも無いなぁって……俺、裸ぁぁぁぁぁっ!?」

 

 一誠は何も身に着けていない自分の姿に驚愕する。

 

「服を着た姿を意識しろ。イメージを固めたら服が顕れる筈だよ」

 

「優斗? 何でお前まで来てるんだよ」

 

「それが方法なら、意識を籠手にダイブさせたんだ。理由なら、僕の方もちょっとドライグに用事があったからね」

 

「そうなのか?」

 

 理由というのが気にはなったが、ドライグの所に着けば判るだろうと思って、突っ込みは入れなかった。

 

 それに初めての深層意識へのダイブだし、水先案内人が居た方が心強い。

 

「それじゃ、行こうか」

 

「判った」

 

 ユートは一誠を引き連れると、強い圧力の在る方向へ向かって泳ぐ。

 

 一誠の中に、一誠以外で何か在るとすればそれこそがドライグの筈だ。

 

『ほう? 宿主の方から会いに来るとはな』

 

「な、何だ?」

 

「落ち着け、恐らくドライグだろう」

 

 更に進むと、其処は総てが赤い……そんな赤い空間に赤い龍が佇んでいる。

 

「でけえ! こいつが俺の神器(セイクリッド・ギア)に宿る赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)のドライグ」

 

『初めましてだな、小僧。俺は聞いていただろうが、赤龍帝のドライグだ。取り敢えず歓迎してやる』

 

 ドライグは尊大な口調で自己紹介をすると、一誠を睥睨して見下ろしてきた。

 

 

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