ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第23話:終幕×後始末

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 グレイフィアは戸惑いを隠せずにいる。

 

 ユートが強い事は当然ながら知っていたが、よもやこうもアッサリとライザーを降してしまうとは思わなかったのだ。

 

 個人的にはリアスの気持ちを慮ってはいるものの、多少フェニックス家の面子を立てねばならない。

 

 貴族というのは兎角面倒臭いものだ。

 

 とはいえ、グレイフィアに出来る事はライザーが氷の柩を自ら破壊し、戦線に復帰するのを待つくらい。

 

 その為、リアスの勝利を宣言するのを遅らせる程度の事しか出来ずにいた。

 

 だがそれも、ユートにより思惑を破壊される。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「? おかしいわね、未だ勝利を宣言しないの?」

 

 自分がライザーを斃した訳でもなかったが、ユートは自身のチームメイト。

 

 ならば、ユートがライザーを斃した時点で勝利宣言が為されねばならない。

 

「時間的に終わるのが早過ぎたのと、人間がライザーを斃したのとが相俟って、勝利宣言し難いんだろ」

 

「っな!?」

 

「貴族だからねぇ、面子が大事なんだろうな? 人間風情が……ってね」

 

 ユートは心の中で『無駄な足掻きだけど……』と付け足すと、空を仰ぎながら新たな行動に出た。

 

「グレイフィア! 若しもライザーが自力で脱出する事を一縷の望みとしているなら、それは無駄な足掻きでしかない。この氷を破壊したければ、僕より強い力を以てせねばならないし、内部から壊すなら絶対零度の凍気が必要だ!」

 

 叫んだ内容は、グレイフィアにとって絶望的なものであった。

 

 そもそも、フェニックスに絶対零度など逆立ちしても不可能なのだから。

 

「それでも未だ躊躇するのなら、僕の勝利を絶対的なものにする為、ライザーに追撃を仕掛ける!」

 

 ユートは右側を天高く掲げると、小宇宙を強く燃焼させていく。

 

 グレイフィアには感じられないが、それでも某かの力の波動は判る為、ユートが何かをしようとしているのを理解出来た。

 

 同時に拙いと感じる。

 

 そんなグレイフィアの考えを、まるで肯定するかの様に上空の空間が軋んで、歪み始めた。

 

 天の鳴動は確かなる震動となり、謂わば小振りながらも時空震を引き起こす。

 

「ユート様は一体何を?」

 

 嫌な予感がする。

 

 この侭、放って置けば取り返しが付かない何かを仕出かすと感じた。

 

 グレイフィアのシックスセンスがそう囁くのだ。

 

「さあ、次元の狭間である虚数空間の彼方へと消え、未来永劫を氷の柩の中にて彷徨い続けるが良い!」

 

「ま、真逆!」

 

 嫌な予感は増大する。

 

 今のセリフから、何をするのか理解をした……否、してしまったのだ。

 

「アナザーディメン……」

 

〔ライザー・フェニックス様は戦闘不能。リアス・グレモリー様の勝利です!〕

 

 故にこそ、ユートの言葉に被せる様にリアスの勝利を宣言した。

 

 最早、面子がどうとか言っていられない。

 

 そう判断したのである。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 リアスの勝利が確定し、グレモリー眷族は互いに喜び合う。

 

 医療施設で治療中だったりするが、喜びが痛みに勝っていた。

 

 バトルフィールドから出たユートは、リアスに話し掛ける。

 

「リアス部長」

 

「何かしら?」

 

「先に医療室に言っててくれるかな。僕は先に行く所があるから」

 

「そう、判ったわ」

 

 リアスは頷くとユートとは別れて医療室に向かう。

 

 それを見送り、ユートもVIPルームへと歩いた。

 

 VIPルームは二ヶ所が存在しており、一つは両家が観戦していて、もう一つの部屋には魔王達が居る。

 

 ユートが向かう先は魔王達の部屋だ。

 

 コンコン……

 

「入りたまえ」

 

 ユートがVIPルームの扉をノックすると、部屋の中からサーゼクス・ルシファーの声が掛かった。

 

 扉を開けて入室したら、魔王の四人と対面する。

 

 サーゼクス・ルシファー

 

 アジュカ・ベルゼブブ

 

 セラフォルー・レヴィアタン

 

 ファルビウム・アスモデウス

 

 全員が顔見知りだ。

 

「久しぶりだね。二ヶ月振りくらいかな?」

 

「そうだね。とはいっても先日、通信で話したばかりだけどね」

 

 サーゼクスは、ユートの言葉に頷きつつもそこら辺の訂正をする。

 

 実際に会って話すのは確かにニヶ月振りだが、サーゼクスに限ればレイナーレとの闘いの際、連絡を取って話をしていた。

 

「ユウーくーん☆」

 

 相も変わらず、趣味全開の魔王少女な格好をしているセラフォルーが、ユートの愛称を叫びながら煌めいて突進して来る。

 

「もう……会いたかったんだよ☆ ユウ君!」

 

 腰にしがみついたセラフォルーが、匂いを自らに擦り付けるかの如く動く。

 

「久しぶり、セラ」

 

 そんなセラフォルーの頭を撫でつつ、ユートも彼女に挨拶がてら声を掛けた。

 

「確かに見せて貰ったよ、ユート。フェニックスの不死身に対する君の答えの一つというものを」

 

 妖しげな美貌を持つ魔王──アジュカ・ベルゼブブが朗らかに言う。

 

「流石に眠気も覚めた」

 

 面倒臭がりなファルビウムだが、この闘いには注目をしていた。

 

「今回の件だが、あんまり悪く思わないでくれ」

 

「解ってるよ。人間風情にやられたとあっては、悪魔の沽券に拘わるっていう話だろ?」

 

「済まないね」

 

 グレイフィアに悪意があった訳ではないし、ユートも気にしてはいない。

 

 寧ろ、フェニックス家は御愁傷様だと思う。下手をすれば、ライザーが異次元の彼方へと飛ばされていたのだから。

 

 しかも現在進行形で氷付けとなっているし。

 

「あの手段、セラフォルーなら可能そうだな」

 

「そうだねぇ、サーゼクスちゃん。確かに魔法少女☆レヴィアたんなら可能かもね?」

 

 エヘンと胸を張りながらセラフォルーは答える。

 

「そう言えば、アジュカ。例のアレは完成した?」

 

「いや、まだだ。あれで、結構難しくてね」

 

「そっか、残念だな」

 

 ユートは視線を泳がせつつ呟いた。

 

「さてと、そろそろ戻る」

 

「ええ? もう戻っちゃうのー?」

 

「仕方ないさ。リアス部長達を放って置く訳にもいかないしね」

 

「ぷー☆」

 

 膨れっ面なセラフォルーを見て、ユートは苦笑いをしながら部屋を出る。

 

「セラ! 例の話、前向きに考えておくよ」

 

「え、ホント!?」

 

 膨れっ面だったセラフォルーが顔を上げると、煌めく様な笑顔を浮かべた。

 

 ユートが魔王達の部屋を辞すると、金髪をロールヘアにしたピンクのフリフリなドレスの少女が現れる。

 

「君は……レイヴェル・フェニックスか。何の用?」

 

「貴方にお願いがあって来ましたわ」

 

「お願い?」

 

「ライザーお兄様の氷を何とかして欲しいのですわ。それと、イルとネルに掛けた術も解いて頂けませんでしょうか?」

 

「何で? 人間風情(・・・・)を頼るのは悪魔としては、ちょーっと情けないと思うんだけどな」

 

「お父様でさえ、あの氷は溶かせず破壊も出来ませんでしたもの。貴方を頼る他にありませんわ」

 

 レイヴェルの表情に嘲りなどは無く、純粋にライザーを心配する妹の顔だ。

 

「それに、イルとネル……あの子達もです。今は眠らせてますが、目を覚ますと殺し合いますの」

 

「ライザーの氷は如何なる事があっても溶けないし、僕より大きな小宇宙を使わなければ壊せないよ。イルとネルはチェーンソーを持ってた双子かな?」

 

「ええ、そうですわ」

 

「彼女らに仕掛けたのは、幻朧魔皇拳。一度発動したら目の前で誰かが死なない限り、解ける事はない」

 

「っ! そんな……」

 

 レイヴェルは青褪める。

 

「ま、術者の僕なら解ける訳だが」

 

「三人を救う対価にレイヴェルを貰うね」

 

「そ、それは……」

 

 絶望的な言葉に狼狽えるレイヴェルだが……

 

「いや、今の僕じゃないんだけど。つか、何を言ってるんだユーキ?」

 

 ジト目で傍らにいつの間にか現れたユーキに対し、ユートがツッコんだ。

 

「エヘヘ」

 

 其所にはユーキが笑いながら立っている。

 

 レイヴェルに連れられ、フェニックスの陣営へやって来たユートとユーキ。

 

 其処には、フェニックスの炎を全開にして氷の柩を溶かさんとする男が居た。

 

 ライザーとレイヴェル……この兄妹と他にも男二人の父親であるフェニックス卿である。

 

 七二柱の貴族家の一つでもあるフェニックス家は、一万年を生きる長命種であるが故に新生児に恵まれ難い悪魔の中に在って、三男一女の子供に恵まれた希有な家だ。

 

 ライザーは末弟であり、上に兄が二人居る。

 

「お父様!」

 

「む、レイヴェルか。ん? 君は確かグレモリーの」

 

「緒方優斗」

 

「緒方祐希」

 

 ユートとユーキは自らの名を名乗る。

 

「そうか、レイヴェルが連れて来たのだね。ならば、恥を忍んで頼みたいのだ。我が息子ライザーを解放して貰えまいか?」

 

「サーゼクスから聞いた話だと、基本的にレーティングゲームでの死亡は事故として認められるそうだね」

 

「……その通りだ。そして全ての事象は自らに帰結するのだ。故に、この結果もライザー自身の責任という訳だよ。君に責任を取らせる法など在りはしない」

 

 実際レーティングゲームで怪我をしたからと言って相手に賠償など払わせたりしないし、回復なども基本的には自陣で行うものだ。

 

 ユートが無償でライザーを解放する理由は無い。

 

 どうしてもユートに何かをさせたいなら、寧ろ対価を支払うのはフェニックス家の側となる。

 

「という訳でぇ、兄貴に代わってボクがライザー解放の対価を決めたから、そこら辺は宜しくね」

 

 太々しいとはこの事だ。

 

 ユートは呆れてしまい、頭を抱えた。

 

「ふむ、対価はなにを? 金かな? それとも我らが秘薬のフェニックスの涙を所望するのかな?」

 

「貴方の娘さんを」

 

「は?」

 

 ユーキの言葉を聞いて、フェニックス卿は思わず間抜けな声を出す。

 

 流石に娘を欲しがるというのは、フェニックス卿にも予想が付かなかった。

 

 開いた口が塞がらない。

 

「兄貴ならお金は幾らでも稼げるし、不完全ながらもフェニックスの涙っぽい物は造れてるからね、そんな物は要らないさ」

 

「っ! そうか、そういえば【雷の巫女】がそんな感じのモノを使っていたな」

 

「オリジナルのフェニックスの涙に比べて、明らかな劣化品に過ぎないけどね。回復効果は使った者の魔力と体力を全体の三分の一、ダメージも完全治る様なもんでもないし」

 

「充分に驚異的だ。お陰でライザーの女王、ユーベルーナは【雷の巫女】に勝利出来なかったのだからな。然し、どうやって……?」

 

「前にライザーが人間界に来た時に、兵士(ポーン)のミラをどついたんだが」

 

「あっ!」

 

 あの時の事を思いだし、レイヴェルが声を上げる。

 

「思い出した様だね」

 

 ユートは迫り来るミラに対して、【刀龍門(とうりゅうもん)】を顎に放ち、一気に打ち抜いた。

 

 ミラの顎はそれによって容易く砕けてしまう。

 

「悪魔といえど、人の形をしているなら基本的な急所は変わらない筈。フェニックスの様な瞬間再生でもなければね。そして顎は紛う事なき人体の急所なんだ」

 

「その通りだ。つまりは、ライザーのバカ者は敵対する君に手の内を晒け出したという訳か」

 

「ま、放って置けば危険だったのは間違いないよ」

 

 フェニックス卿の憤慨はユートの言葉で鎮まる。

 

「さて、それじゃあ始めるとしますかね」

 

 ユートは何処か気だるそうに言うと、凍り付いているライザーに近付いた。

 

「この氷は僕の小宇宙で創ったモノだ。普通の氷とは違って溶けはしない……」

 

 手を添えると、ユートは何かを解く。

 

 カシャーンッ!

 

 軽快で甲高い音が鳴り響いたかと思うと、ライザーが氷の柩から解放された。

 

 再生を阻害していた身体を貫く氷の槍が消え、残された精神力を使って修復しようとするが消耗が激しいのだろう、遅々として快復が進まない。

 

「ありゃ、間に合わなかったかな?」

 

「エエッ!?」

 

 レイヴェルは絶叫する。

 

「仕方がないな。これで死なれでもしたら後味悪いにも程があるし……」

 

 ユートは火炎を掌に造り膨大な火力を圧縮すると、それはやがて猛禽を思わせる姿を執った。

 

 それは火の鳥……

 

「これが余のメラゾーマだ……なんてね。カイザー・フェニックス!」

 

 火の鳥がライザーに向けて飛翔する。

 

 着弾と同時に火炎の竜巻に吹き上げられながらも、その炎熱エネルギーを取り込んで再生していく。

 

 既に上半身しか残っていなかったライザーの肉体、それは完全に復元された。

 

「な、何と素晴らしい炎。人間の身でよくもこれだけの炎を……」

 

 フェニックス卿が驚愕も露わに、ユートの放った炎を見つめている。

 

 レイヴェルもまた、父と同じく呆然とカイザーフェニックスに見惚れていた。

 

「兄貴、今のメラガイヤーをカイザーフェニックスに使ったよね?」

 

「まあね。折角、使える様に練習したのに使う機会も無かったから」

 

「うん、ナイス・ネタ技」

 

「喧しい!」

 

 グッとサムズアップしてくるユーキを軽くどつき、ライザーへと近付く。

 

「目は覚めた?」

 

「俺は……そうか、敗けたという事か」

 

「そ、おまけに僕が柩から出して、死に掛けていたから炎で救った訳だよ」

 

 やれやれと溜息を吐く。

 

「そうか。完全な敗北という事なんだな」

 

「…………」

 

「うん? なんだ?」

 

「いや、随分と殊勝だから頭でも打ったのかと」

 

「失敬な、己の敗北も認められん様な狭量な心算はないぞ!」

 

 初対面からアレだったから誤解され易いが、ライザーは決して愚鈍でも暗愚でもない。

 

 ただ、プライドが克ち過ぎて傲慢になっていただけでしかなかったのだ。

 

「それより、約束を果たさなければならないな」

 

「約束……? ああ!」

 

「って、お前が言い出した事だろうに」

 

 約束とはつまり賭けの事である。

 

 ライザーが勝ったならばリアスが嫁ぐ。

 

 グレモリー側が勝ったらライザーは三人の兵士と、僧侶の一人である美南風を差し出す。

 

 ライザーには都合、八人の兵士がフルメンバーで居る事もあり、三人が抜けても当面は大丈夫だろうが、僧侶を一人はキツい。

 

「メンバーの選定は、僕に一任されている。だから、この場で貰う兵士の名前を言っておこう。多分、その娘や美南風だったっけ? 彼女らにレイヴェルの世話を任せると思うし……」

 

「は? レイヴェルの世話ってな何だよ?」

 

 これにはレイヴェルが口を出した。

 

「ライザーお兄様、差し出がましいと思いましたが、私が彼にお兄様を助けて頂く様、嘆願したのですわ」

 

「そういう事か。つまりは俺を助ける対価……」

 

 ライザーは苦々しい表情になるが、納得もしたのだろうか何も言わない。

 

「ウチの義妹が提案したんだけどね」

 

「いや、良いさ。確かに、お前が俺を助ける義務なんて無ーしな。対価を求めんのも当然だぜ。俺達、悪魔は基本的に何かをしてやったら、対価を貰うからな」

 

 要するに、その逆もまた然りという事である。

 

「等価交換か」

 

 何処ぞの怪しい獣神官も言っていた。

 

『無は有を生み、有は無に帰す……』

 

 あるモノを獲たのなら、同価値のモノを差し出す。

 

 ライザーの命の嘆願に、レイヴェルは自らの人生を懸けたという訳だ。

 

「ただ何だ……これでも、俺の我が侭に付き合ってくれた大事な妹でな。出来たら大事にしてくれねーか」

 

「まあ、酷い扱いをする気は無いよ」

 

「それが聞けりゃ充分だ」

 

 こいつは本当にライザーかと思うくらい殊勝だ。

 

「で、欲しいのは誰だ?」

 

「そういう聞かれ方だと、何だかねぇ。まあ良いか。ミラとチェーンソー姉妹の三人を貰うよ」

 

「あん? 言っちゃあ何だがよ、あいつら俺の眷族の中じゃワースト三だぜ?」

 

「だろうね。簡単に犠牲にしてたし。問題は無いさ。寧ろ、ワースト三を女王並に鍛えるのも面白いし」

 

「女王並に……ね。それならそれで構わないさ」

 

 こうして、レイヴェルを筆頭にイル&ネルとミラと美南風の合計五人がグレモリー側というか、ユートの許へと行く事になる。

 

 当然、イル&ネルの魔皇拳は解除しておいた。

 

「さて……交渉も終わった事だし、訊きたい事があるんだが良いか?」

 

「随分とまあ、殊勝な態度になったもんだね」

 

「くっ、自分に勝った奴にあんな態度を取る程、バカな心算はねぇよ」

 

 ユートの指摘にライザーは苦々しい表情で答える。

 

 あれだけの大きな態度が完全に鳴りを潜めていた。

 

 敗けを……しかも人間を相手に喫したライザーは、自身の不死身を絶対視が出来なくなり、フェニックスと言えど慢心すれば敗北は必至と理解したのだ。

 

「で、訊きたい事って? 機密レベルでなければ教えても構わないよ」

 

「そうか。先ず……お前が闘いの中で装備した鎧は何なんだよ? あれがお前の神器(セイクリッド・ギア)なのか?」

 

 レーティングゲームの最中に行き成り装備をした、そんな印象が強い。

 

 神器(セイクリッド・ギア)だと考えても、それは無理からぬ事であろう。

 

「あれは聖衣という」

 

「クロス?」

 

「そう、聖闘士という戦闘集団が纏う鎧だね。決して神器(セイクリッド・ギア)ではないよ」

 

「セイントというのは? 名前の感じからして破邪の意を感じるんだが」

 

この質問と同時に、フェニックス陣営が緊張する。

 

「本来の意味なら、確かにその通りだね」

 

「本来の意味とは?」

 

「ギリシア神話体系の女神の一柱、アテナに仕えている存在……それが聖闘士。神の闘士と云うヤツだ」

 

「神の闘士だと?」

 

 フェニックス陣営の貴族の誰かが言った。

 

 悪魔にとっては神やその下僕は敵対者、これは至極当然の反応ではある。

 

「本来の意味と言ったか。なら、お前の持つ意味は違うと云う事か?」

 

「ふうん、アホウ鳥って訳でもないんだな」

 

「お、お前な〜」

 

「クックッ、冗談だよ」

 

 周りが警戒する中、ライザーは正しく言い当てた。

 

「先ず、僕はこの世界の者じゃない事を言っておく」

 

「な……に……?」

 

「要するに、異世界から来たって事だね」

 

 ユートが割ととんでもない事を暴露するが、ライザーやフェニックス卿、それにレイヴェル以外の者は懐疑的な態度だ。

 

「有り得ん!」

 

「巫山戯ている!」

 

「我々を莫迦にしているとしか思えぬ!」

 

 それ故にかユートを罵倒する貴族達。

 

 溜息を吐きながらライザーに向き直ると、しみじみと言った。

 

「ライザー、アンタは確かにアホウ鳥じゃないけど、周りのフェニックス陣営はアホウ鳥の集まりか?」

 

「言ってくれるな……」

 

 事、此処に至っての言葉に嘘だ何んだと罵倒する、フェニックス陣営に限らないのだろうが、頭の固い様な莫迦は多いみたいだ。

 

「父上、話が進みません」

 

「そうだな。貴方達には出ていって頂きたい」

 

 ライザーの意を受けて、フェニックス卿が周りに居る貴族にやんわり命じる。

 

「なっ! 御館様?」

 

「それは……!」

 

「嘘だと断じるなら最早、聴くには値しまい?」

 

「うっ!」

 

 正しく正論である。

 

 大前提として、話が真実であると思わないなら聴き手としては失格だ。

 

「し、然しですな。御館様やライザー様に何かあっては……」

 

「ハッ! 肉の壁にもならない程度の連中が居たからって、何の役に立つかよ。それとも、ライザーに仕掛けた攻撃を受けたとして、お前らは生き残れる自信があるのかな?」

 

 ユートが嘲りながら言ってやると、周りの連中は挙って黙りこくって、唯一の抵抗として睨んできた。

 

 だけど負け犬の眼光など滑稽でしかなく、ユートは流し目で見遣ると鼻で嗤ってやる。

 

 フェニックス陣営はそんな行為にも、何かが出来る訳でもなく悔しげに出ていくしかなかった。

 

「それじゃあ、話を続けようか」

 

「ああ、頼む」

 

 ユートは続ける。

 

「異世界とは言ったけど、全くの別世界って訳じゃあ無いんだ」

 

「?」

 

「この世界、人間が主に住むこの星を地球と呼ぶ」

 

「そうだな」

 

「僕の居た世界もまた地球なんだよ」

 

「な、何だと!?」

 

 ユートが住んでいた地はハルケギニアでもなければミッドなんとかでもなく、セフィなんとかや泡のなんとかでもない。

 

 正真正銘にれっきとした地球である。

 

「この地球と大体の地理や歴史は変わらない。違いがあるとすれば、二〇年以上前に幻想世界で大戦争が起きたって事と、それに付随して現代でも争いが起きたって事かな? 悪魔も居るには居るけど冥界じゃなく魔界、それも幻想世界みたいに別の惑星の別位相世界に存在してるって感じか」

 

 ライザー達も流石にこれには驚愕するしかない。

 

「例えばだけど、この世界の一九九〇年頃に止まない大雨と大洪水が起きたり、惑星が直列に並んで、太陽が隠れたりなんて事態は起こったかな?」

 

「いや、私が知る限りではそんな大きな事象は起きていない」

 

「僕の居た地球ではそれが起きている」

 

「むう……」

 

 フェニックス卿が唸る。

 

 嘘だと思いたくないが、果たして何処まで信じても良いものか、それを計りかねるといった処か。

 

「因みに、四大魔王は全員がこの話を知っているよ」

 

「っ! 魔王様に、サーゼクス様達に話したのか?」

 

「一度、冥界に行った時に大方は話した。僕が聖闘士だって話もしているよ」

 

「成程、君のレーティングゲーム出場は魔王様からの肝煎りだったが、既に信頼は得ているのか……」

 

「まあね。続けようか……聖闘士とは、アテナが地上の愛と平和を護る為に組織した、ギリシアは聖域を拠点とする戦闘集団なんだ。地上を狙う邪悪が在らば、それを討つのが仕事だね」

 

「それは我々、悪魔の事を言っているのか? それと堕天使か……」

 

「邪悪の定義とは種族には非ず、地上に住まう無辜の民を苦しめる存在全般だ。それが邪悪と認められたならば、悪魔、堕天使、天使の別は無い。仮令、それが人間や……」

 

 一拍を置いて口を開く。

 

「神であろうとも……ね」

 

 【討つべき邪悪】は悪魔の様な存在だけではない、人間もそうだし、神ですらターゲットと成り得る。

 

「だから、彼方側の世界で聖闘士は闘争神アレスや、海皇ポセイドン、冥王ハーデスなんかとも闘った」

 

 ユートは右腕に填めている腕輪を見せると、手で叩きながら追記した。

 

「この星座の聖衣を身に纏ってね」

 

 故にこそ、聖闘士の中でもペガサスの聖闘士、星矢は【神殺し】として悪名を馳せていた。

 

 そしてそれは、ユートも同じ事である。

 

 事実として、二人は神を傷付けたり殺したりしているのだ。

 

 ユートはポセイドンを、星矢はハーデスを傷付けているし、タナトスとヒュプノスに至っては、本当に殺していた。

 

 過去へと戻ってから再びハーデスに傷を付けたり、ティターン十二神と闘ったりもしている。

 

「まあ、実際に此方側に居るアテナに訊けば判るよ。聖闘士なんて知らないと言うだろうね」

 

 本質的には兎も角、彼方側の城戸沙織と此方側に居るアテナは別人。

 

 世界が変われば理もまた変わるという訳だ。

 

「で、聖衣の説明だけど。聖衣は彼方側で、自身の為にアテナが傷付く少年達を哀れみ、神の技法を与えて造らせた星座の形や概念を宿らせたプロテクターを授けた。それが聖衣なんだ」

 

「星座の形や概念?」

 

「例えば、ライザーと闘った時に僕が纏った聖衣は、杯座(クラテリス)の白銀聖衣で、形は杯を模し、概念としてはオブジェ形態の時に水を満たして飲めば、傷付いた肉体を癒すとか……他にも張った水に映った影が未来の自分だとか、そう云われている」

 

「成程な、概念とは聖衣の特殊な能力か。然し、白銀聖衣とな何だ?」

 

「聖衣は、階級で色分けがされている。最下級が青銅聖衣で、中級を白銀聖衣、最高位が黄金聖衣。つまり僕は杯座(クラテリス)の白銀聖闘士という訳だね」

 

 尤も、ユートは麒麟星座(カメロパルダリス)の青銅聖衣も持っているし、使う権利だけなら双子座(ジェミニ)の黄金聖衣も在る。

 しかも、デスクイーン島で見付けた麒麟星座(カメロパルダリス)の暗黒聖衣すら手に入れていた。

 

 使った事は無いが……

 

「もう一つ訊きたい、俺を倒せる技は他にも在るか? あの氷以外で」

 

「在るよ。石化もその一つだし、ライザーの生命を断っても良いなら、全てを断ち斬る虚無の刃とか、他にも最後に仕掛けた【異界次元(アナザーディメンション)】で、永劫に異空間というか虚数空間に飛ばすとかね? 積尸気冥界波で魂を剥離して、積尸気魂葬波で魂をアボンしても良い」

 

 後先を考えなくて良いのであれば、幾らでも倒す術は在ると云う事だ。

 

「そうか、判った」

 

 妙にさっぱりした表情でライザーは椅子に座る。

 

「本当に思い上がっていたんだな、俺って奴は」

 

「ふむ、どうやら我が息子は一皮剥けたみたいだな。貴公には感謝するよ、これでライザーは更なる高みに至れもするだろう」

 

 フェニックス卿が満足気に頷く。

 

「それじゃあ、僕はもう戻るよ」

 

「あ、待って下さらない? 置いて行かれては困りますわ!」

 

 レイヴェルもフェニックス卿やライザーにペコリと頭を下げて、ユートと共に部屋を出ていった。

 

 その後、リアス達と合流して今日は解散となる。

 

 レイヴェルはユートの家にイル&ネルとミラと美南風の四人を伴い住む事になったという。

 

 

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