ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第3章:月光校庭のエクスカリバー
第24話:千貌×変幻


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「はぁ、庶民の家にしては広いのですわね」

 

「レイヴェル、君は喧嘩を売る為に来たのか?」

 

「と、とんでもありませんわ!」

 

 青筋を立てるユートに問われて、レイヴェルは慌てて否定する。

 

 幾らなんでも兄を容易く斃した相手に、無謀な喧嘩を売る程レイヴェルも酔狂な心算は無い。

 

 況してや、相手はフェニックスの不死の特性など、モノともしないのだから。

 

「で、ずっとビクビクしている三人!」

 

「は、は、は、はぃぃ!」

 

「「ごめんなさい、ごめんなさい!」」

 

 指摘された三人──ミラはビクつき、双子に至っては泣きながら謝ってきた。

 

 ユートは嘆息しつつ三人に目線を併せて言う。

 

「別に取って食ったりはしないし、莫迦をやらかさなければ酷い目にも遭わせたりはしない。戦闘中に敵対していた時と同じ感覚だといずれ潰れるぞ?」

 

 とはいえこれは無理からぬ事、ミラはライザーの命令で攻撃を仕掛けた際に、返り討ちに遭って顎を砕かれてしまったし、括約筋が弛んで失禁なんて女の子にあるまじき失態まで犯してしまった。

 

 その上レーティングゲームで、赤龍帝だと云う兵士の少年の技で服を消し飛ばされ、素っ裸になったのを視られた挙げ句、大事な部分を隠して無防備な自分に対して、情け容赦なく雷撃を喰らわせてくれたのだ。

 

 怯えるなという方が無茶なのであろう。

 

「性的には取って喰われちゃうかもね?」

 

「ヒィッ!」

 

 ユーキが笑顔で爆弾発言をしてくれて、ミラは肢体を庇う様な体勢で後退る。

 

「混ぜっ返すな、ユーキ」

 

 その瞳に恐怖を湛えているミラを見て頭を掻くと、要らない事を言ってくれたユーキの方を恨みがましく睨んだ。

 

 イル&ネルも、ミラ程にはあからさまではなかったものの、不安にその真っ平らで平原な胸を押し潰されそうになっていた。

 

 唯でさえ、平原というか荒野な胸が抉れてしまいそうな程に……

 

 何しろミラ程でないが、イル&ネルもユートの被害者なのだから。

 

 ユートの放った幻朧魔皇拳とやらで、自他共に認める仲良し姉妹の自分達が殺し合いを演じたのである。

 

 あの時は相方の何が憎らしくて、チェーンソーを向けたのか理解出来ない。

 

 二人には術中に嵌まっていた時の記憶が朧気だが、然し間違いなく在った。

 

 どんな思考からイルの方はネルを、ネルの方はイルを殺そうなんて考えたのか解らなかったが、何かしらの衝動に突き動かされて、双子はチェーンソーを揮ったのである。

 

 その挙げ句が相討ち。

 

 ユートが術を解除するまでの間、お互いを殺したくてウズウズしていた。

 

 自身の思いに反した思考をさせる恐るべき技。

 

 双子もまたユートに恐怖を感じていたのだ。

 

「ま、自業自得ですわね。貴方の所業は剰りにも酷すぎましたもの」

 

 ウンウンと頷きながら言うレイヴェル。

 

「なら一誠……赤龍帝の所に行くか? ユーキの話だとリアス部長と朱乃先輩と小猫の所は無意味らしい。つまり、僕の家か一誠の家かの二択しかない」

 

 その言葉にミラは、絶望の余り膝を付く。

 

「無意味とは、どういう事ですか?」

 

「さあ? それは知らん」

 

 原作に関わる情報らしく聞いてはいなかった。

 

美南風(みはえ)はどうするんだ?」

 

「私は此処で構いません」

 

「そうか、部屋は用意をしておくから」

 

「はい」

 

 十二単を纏う黒髪の女性──ライザーの僧侶の一人である美南風は、瞳を閉じて丁寧に御辞儀をする。

 

「それで、ユート様」

 

「様はやめて欲しいな」

 

 ユートは心底、嫌そうな顔で言う。

 

「申し訳ありませんですが口癖に近いのですわ」

 

 お嬢口調を当たり前に使うレイヴェル故に、嫌がらせではなく真実だろう。

 

 同じ様な口調の朱乃は君付けなのだが……

 

「ユートさん、皆さんも、お茶が入りましたよ」

 

 金髪碧眼のシスターちゃんが笑顔で紅茶を出す。

 

 悪魔を持て成す修道女。

 

 ヴァチカン辺りで信者達が聴けば、何の冗談かと思えてしまう光景である。

 

「えーと、確か貴女は……【聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)】の持ち主の?」

 

「はい、アーシア・アルジェントと云います。宜しくお願いしますね、レイヴェルさん」

 

「は、はい……」

 

 元……とはいえシスターが悪魔と宜しくしても良いのだろうか?

 

 レイヴェルは苦笑いを浮かべながら思った。

 

「ああ! アーシアってばまたウチの仕事を取って」

 

 堕天使な萌衣奴(メイド)さんが登場。

 

「すみません、つい」

 

「貴女は堕天使?」

 

 光の気配と昏い気配が混在するのは、堕天使の特徴だと云える。

 

「ウチはミッテルトだよ。アンタらがウチの同士?」

 

「同士……?」

 

「ユートに酷い目に遭わされた同士」

 

 それを聞いた瞬間、ミラと双子がミッテルトの手をガッシリと掴んだ。

 

「「「同士よ!」」」

 

 その光景にレイヴェルは頭を抱えてしまった。

 

 本当に何の冗談だろう?

 

 シスターと堕天使と悪魔が手を取り合っている。

 

 ふと、気になってユートの方を見やれば、当の本人だというのに呑気に紅茶など飲んでいた。

 

「レイヴェル、冷めたら美味しくないよ」

 

「ハァー、戴きますわ」

 

 最早、何もかもどうでも良くなってしまい、諦念の境地で紅茶を口にする。

 

「あら、中々に良い茶葉を使っておりますのね」

 

「まあね、これでも別世界で貴族をやってたし」

 

「貴族……因みに、爵位は如何程で?」

 

「子爵家に生まれて、自分の手で勲爵士(シュヴァリエ)を叙勲されたよ。後、色々とやったのが認められたから、父上の爵位を継ぐ際に伯爵位に上がる予定だったな。尤も、最終的には大公に叙されたけど」

 

「大公……」

 

 普通なら精々、侯爵までだったろう。

 

 然しユートの勲功と友人関係と血脈と婚姻相手などが相俟って、大公に封ぜられてしまったのだ。

 

 これは三王家とロマリア教皇とゲルマニア皇帝達、全てが推した所為である。

 

「ああ、そうそう」

 

「? どうしましたか?」

 

「この家に入る時の決まり事を教えておく」

 

「決まり事……ですか?」

 

 レイヴェルは可愛らしく小首を傾げた。

 

「そう。この家に入る時は決して出入口の扉以外は使わない事!」

 

「真剣な顔で何を言い出すかと思えば、随分と普通の決まり事ですのね」

 

 レイヴェルは思わず拍子抜けしてしまう。

 

「そうでもない、何処ぞのアホウ共は非常識極まりない入り方を平然とする」

 

「ハァ、そのアホウ共とはいったい?」

 

「君ら悪魔の事だけど」

 

「へ?」

 

 目をパチクリと瞬く標準はとても可愛く見える。

 

「一誠から聞いたけどね、あの騒ぎの前日に一誠の部屋に直接、転移してきたらしいんだ。それに、ライザーも魔方陣で直接跳んで来たよね?」

 

「嗚呼、成程。そういう事でしたか」

 

 確かに悪魔達には普通なのかも知れないが、人間の世界では非常識以外の何物でもない。

 

「兎も角、死にたくなければ悪い事は言わないから、ちゃんと玄関から出入りをしろ!」

 

「破ればどうなります?」

 

「特殊なシステムが働く。防犯システムでね、窓とかから入ろうとしたらアトランダムに転移させられてしまうな。成層圏に、海底、マグマの中に宇宙空間」

 

 ただの人間の空き巣相手なら、死ねと言わんばかりの凶悪さ加減だ。

 

「実際に二人ばかり引っ掛かったらしい」

 

「引っ掛かりましたの?」

 

「ま、死体は残ってないから構わないけどね」

 

 クスクスと、腹黒い嗤いを見せるユート。

 

 それぞれが、宇宙空間と海底に跳ばされてしまい、宇宙空間では凍り付き漂流して、海底は水圧で潰されて魚の餌となった。

 

「それと、間違っても転移で入らない様に!」

 

「ど、どうなりますの?」

 

 実行力のあるトラップだと知り、レイヴェルは流石に腰が引けている。

 

「……石の中に居る」

 

「ヒィィィィッ!?」

 

 正にそれは、身の毛が弥立つ話であったと云う。

 

「それと部屋は幾らでも在るし、三つの連なった部屋を与えるから、レイヴェルの部屋を中心にして美南風とミラを同室に、双子と挟む形で良い?」

 

「あ、はい。宜しくお願いしますわ」

 

 敵にすれば恐怖を感じさせるが、味方となれば随分と気遣われる。

 

 ユートは、敵味方で扱いの落差が激しい。

 

「後の事は判らなければ、随時訊いてくれれば良い。でだ、この家のヒエラルキーなんだけど、僕を頂点にユーキと那古人が同位で、アーシアと続いてレイヴェルが五位位、その下にミラと美南風と双子、一番下っ端がミッテだから」

 

「酷っ!?」

 

 ミッテルトは涙を流し、レイヴェルは苦笑する。

 

 レイヴェルは、これも気遣いなのだろうと受け容れるのであった。

 

 尚、レイヴェルは駒王学園の一年生、美南風は三年生になり、ミラとイルネルの三人は中学生として学校に通う事となる。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 暫くの間は平和そのものだったが、『そんな幻想はぶち殺す』……と謂わんばかりに事件の足音が響く。

 

 それは日本から遠く離れた土地、イタリアはローマの中に存在する宗教自治区であるカトリック教会のお膝元のヴァチカンの内部で起きた。

 

「た、大変です法王猊下。我が教会の宝物庫より聖剣が奪われました!」

 

 彼の聖剣エクスカリバーの盗難……

 

 それと時を同じくして、プロテスタントの正教会に保管されるエクスカリバーが奪われたという。

 

 そしてこの教会の不祥事とも云える大失態のツケを払ったのは、聖堂教会騎士団などではなく二人の聖剣使いと、教会の宿敵とも謂える駒王の悪魔達、更には駒王の悪魔達に近いながら第三勢力に等しい、ユート達となるのであった。

 

 因みに、何人か神父が死んで犠牲になっている。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「どうですか?」

 

「大分、良くなった」

 

「本当ですか? 僕、嬉しいですぅ!」

 

 キャイキャイと内股気味で両腕を胸元に添え、笑顔で跳びはねる金髪っ子。

 

 何処からどう見ても完璧なる美少女のそれ……だが男だ!

 

 彼の名前はギャスパー・ヴラディ。

 

 吸血鬼と人間の間に生まれたヴァンパイア・ハーフであり、神の子(にんげん)の血筋故に神器(セイクリッド・ギア)を内に宿している所有者でもある。

 

 ギャスパーはユートと会ってからというもの、内なる神器(セイクリッド・ギア)の制御の訓練をずっとしてきた。

 

 地道な努力が実を結び、ギャスパーは【停止世界の邪眼(フォウビトゥーン・バロール・ビュー)】の制御が上手くなっている。

 

「これなら切っ掛けさえあれば、外に出ても大丈夫かも知れないな」

 

「はい、僕もその時が楽しみですぅ!」

 

 そんな言葉が出るなら、本当に大丈夫なのだろうとユートは慈しむ目で見ながら思っていた。

 

 少なくとも、引き篭りの侭で終わりはしまい。

 

「それじゃあ、これは約束の術式だ。カードを体内にインストールすれば根付く筈だから、試すと良いよ」

 

「は、は、はい!」

 

 術式を与える為のスペルカード。

 

 クラスカードとは違い、一度インストールしてしまうとブランクカードとなって吐き出される。

 

 カードを受け取り直ぐ、ギャスパーは上着を脱いでカードを挿入する。

 

 ズニュニュニュニュ……

 

 何とも言えない光景だ。

 

 ギャスパーの胸部の中心から素肌を貫通する様に、少しずつ体内へ潜り込む。

 

「あっ……ぼ、僕の中に……ユート先輩のモノ(カード)挿入(はい)ってきますぅぅぅっっ!」

 

 聞き様によっては洒落にならない嬌声を上げつつ、カードのインストールが行われていく。

 

 完全に埋没しギャスパーの脳内へ術式の焼き付けが開始されて大体、五分ばかりが経った。

 

 その間に、ギャスパーの嬌声がずっと上がっていたがユートは敢えて無視。

 

 聴こえない、何も聴こえないとばかりに耳を塞ぎ、目を閉じていた。

 

 (なまじ)っか見た目には超美少女な上、声も高いソプラノに近いだけに……

 

「(あ、危なかったぁ……男の娘とはいえ同性相手に勃つ処だったよ)」

 

 術式を使って性別を変えた後ならまだしも、今の段階のギャスパーを相手に勃ったら、何だか色々と負けた気分になってしまう。

 

 その為、必死に耐えた。

 

 というより男の娘なんてカテゴリーだと言っても、あれ程の色気を出すか?

 

 そう言いたくなる。

 

 インストールの際には、全身が高熱に晒されるが故に上気して頬を紅潮させるのは仕方ないし、時々襲ってくる冷気に安堵を覚えるが故の吐息も許容しよう。

 

 それ単体でならばと注釈こそ付くが……

 

 端から視るとギャスパーのそれが、自慰行為に喘いでいる女の子にしか見えなかったのだ。

 

 そんな風に考えてしまうとひょっとしたら、ユートはギャスパーに最強の鬼札(ワイルドカード)を渡してしまったのかも知れない。

 

「ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 全身汗だくで膝を付き、顔から噴き出した汗が頬を伝って、顎から床に滴り落ちた。

 

「こ、これで術を使えるんですか?」

 

「あ、ああ。その筈だよ」

 

 潤んだ瞳で見られユートも流石に動揺してしまう。

 

 術式がどうとかいう以前にギャスパーは、生まれてくる性別を間違えているとしか思えなかった。

 

 インストール終了によりギャスパーは【性別変化】の術式を獲得した。

 

 ギャスパーのインストール中の様子を見れば理解が及ぶと思うが、実は可成りの心身への負担が掛かる。

 

 当然であろう。

 

 プログラム化された術式を肉体へと循環させ直接、脳に術式を焼き付ける行為の事を【インストール】と呼んでいるのだ。

 

 痛みこそは感じないが、身体中を駆け巡るプログラムによって違和感は半端ないし、それが脳に届いて焼き付けを開始すると全身の毛穴からドッと汗を流してしまう程の熱に襲われる。

 

 砂漠でインストールなんかしたのなら、間違いなく木乃伊に成れるだろう。

 

 夜中とはいえ今は温かい時期である、どれくらいの負担かは推して知るべし。

 

 その為、このスペルカードをおいそれと使う訳にはいかなかった。

 

「術式に魔力を流して起動させれば、姿が女性体へと変化する筈だよ」

 

「は、はい!」

 

 言われた通りギャスパーは術式を身体に張り巡らせて魔力を流すと、脳内の起動スイッチ──飽く迄も比喩表現──を押した。

 

「キャッ!?」

 

 全身を光の帯が巡って、それが消えた時……

 

「び、吃驚しました」

 

 正常に術式が稼働する事により、ギャスパーの肉体は男の娘から女の子に変化していた。

 

 キョロキョロとし、自身の肉体を見回すギャスパーに対して、ユートは姿見を亜空間ポケットから出してやり目の前に置く。

 

「うーん、見た目は変わらないですぅ」

 

 ギャスパーの言う通り、傍目から見て彼女(・・)の姿は変化が無い。

 

「あの、ひょっとして失敗しちゃいましたか?」

 

「いや、僅かなりとも胸に膨らみが在るし、失敗って訳じゃないよ」

 

「え?」

 

 溜息と共に言うユート、ギャスパーは試しに胸を触ってみた。

 

 フヨフヨと、確かに見た目からは判り難かったが、ほんのりと膨らみが在る。

 

「ど、どうしてどすか? おっぱいが殆んど在りませんよ〜っ!?」

 

「って、仮にも女性体になったんだから、男の前で胸をはだけるな!」

 

 スパカーン!

 

 何処からともなく取り出したハリセンで、ギャスパーにツッコミを入れた。

 

「良いか、ギャスパーに渡した術式は正確には女の子に変化する術式じゃない。その効果は、女の子に生まれた場合の姿をエミュレートするというモノだ」

 

「それってつまり、ボクが若しも女の子に生まれていたら、こうだったという事ですか?」

 

「そういう事だね。何しろその術式は、僕が女の子だったらのIF(・・)を顕在化させる術式だから」

 

 即ちギャスパーの場合は男の分身が付いているか、いないかだけで殆んど変化は無いと云う事だ。

 

 それがユートの能力を顕した【千貌(フェイスレス)】の一つ。

 

「まあ、小猫ちゃんよりは在るから良いですぅ」

 

「それ、小猫の前では絶対に言うなよ?」

 

 幾ら何でも男に胸の大きさで負けたなんて話になったら、暴れそうで怖い。

 

「それじゃあ、僕は今日はこれで帰るよ。術式は魔力を一回流して二十四時間は保つからね。続けて女性体を維持するならもう一度、魔力を流せば良い」

 

「判りました、ありがとうございますぅ!」

 

 帰りの挨拶を交わして、ユートは教室を出る。

 

 どうやら今宵のギャスパーは、自らを着せ替え人形の如く着飾る心算らしい。

 

 実に愉しそうだった。

 

 家に帰ったユートは直ぐにユーキの部屋を訪れる。

 

「あ、お帰り兄貴。今日、ギャスパーに術式を渡したんだよね。どうだった?」

 

「うん、実にヤバかった」

 

「へ?」

 

 ユートはユーキを押し倒す様に倒れ込む。

 

「ひゃわっ! ちょっと、兄貴ぃ……重いし暑苦しいんですけど?」

 

「ごめん。けど、ちょっと我慢の限界……かもね……ギャスパー、色気があり過ぎるだろう全く……」

 

「ホント。しょうがないな……兄貴はさ♪」

 

 嬉しそうに、擽ったそうに微笑むと、ユートの首筋に両腕を回した。

 

 約二十分後、部屋に備え付けのシャワーを浴びて、ユートとユーキは今後の話をする。

 

「兄貴には原作を識らない侭で動いて貰うとしてね、それでも概要は必要になると思うんだ」

 

「概要?」

 

「うん。球技大会の後に、教会からシスターっぽいのが派遣されてくる。それが新たな事件の始まりだよ」

 

 普段は余りしない真剣な顔付きとなり、ユーキは次の事件の到来を告げた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 ユート側とグレモリー側での模擬戦闘訓練を行い、アーシアが木場祐斗と闘いを繰り広げている。

 

 オペラピンクの鎧を纏った長い金髪の少女が、幾本にも見える鎖を放った。

 

「征って、星雲鎖(ネビュラチェーン)ッ!」

 

 三角の穂先を持つ鎖は、遠慮も呵責も無く泣き黒子が麗しい金髪のイケメンに襲い掛かる。

 

「そうは、させないよ!」

 

 特に属性を帯びない鎖を絡め取るのに、穿った剣など必要無いと謂わんばかりに使い慣れた魔剣【光喰剣(ホーリー・イレイザー)】で受けに回った。

 

 それは彼が普段から使う光を喰らう闇の剣。

 

「甘いです、蛇乱牙咬(スネーク・バイト)!」

 

「な、なんだって!?」

 

 受けられてしまう直前、星雲鎖が蛇の如く剣に絡み付きその侭、上昇して肩を撃ち抜いた。

 

 見学していたユートは、その動きに唸る。

 

「むう、アーシアが真逆のオリジナル技とは……」

 

 星雲鎖は非常に応用性に優れていた。

 

 それは理解出来る。

 

 事実として、本物の使い手は海底神殿での闘いで、海将軍(ジェネラル)の一人であるスキュラのイオが繰り出す聖獣拳に様々な変化技で対応していた。

 

 その応用技の中に、蛇を呑み込むモノはあったが、蛇となって相手に咬み付く技は存在していない。

 

 それ即ち、あれが彼女──アーシア・アルジェントの作り上げたオリジナルの技だという事。

 

「頑張ったんだな」

 

 ユートが見てない時も、アーシアは頑張って訓練をしていたらしい。

 

「くっ、やるね!」

 

 痛む肩を押さえ木場祐斗は光喰剣(ホーリー・イレイザー)を構える。

 

 余り戦闘には向いていないアーシアが、それでも攻撃性の高い技を繰り出して来た事は、木場にも驚嘆に値する出来事だった。

 

「いえ、顎を狙ったのですが外されました……」

 

「うん、意外に凶悪な事をしてくれるよね」

 

 苦笑いしながら言う。

 

 本当は肩ではなく、確実なKOを狙える人体の急所の一つを狙っていたのだ。

 

「だけど、これまでだ!」

 

 冷気が辺りを冷やす。

 

 それに伴い、星雲鎖すらも凍り付く程の凍気を剣が纏っている。

 

「確か、炎凍剣(フレイム・デリート)だったか?」

 

「あれは、カーラマインの熱波攻撃を無効化した魔剣でしたわね」

 

 ユートの隣に立つピンクのドレスを着た金髪ドリル──レイヴェル・フェニックスが言う。

 

「成程、強力な凍気で鎖の分子運動を阻害、動きをも止めたって訳か」

 

「流石はリアス様の騎士、カーラマインを一人で翻弄して、打ち倒しただけはありますわ」

 

 アンドロメダの瞬が闘った時も、凍結や石化などが有効だった。

 

 木場はそれを知らない、だが凍結という手段を何処かで知り今回に活用したのだろう。

 

「フッ、緒方君がライザー様を凍結封印したのを見て思ったのさ、凍結って割と使えるなーってさ!」

 

 というか、ユートの戦法から学んだらしい。

 

「貰った!」

 

 アーシアは少し前まで、戦闘のせの字も知らぬ素人だったのだ、木場の亜音速による機動に目も肉体も付いて往けなかった。

 

 アッサリ背後を取られ、認識範囲外からの攻撃を赦してしまう。

 

「終わりましたわね」

 

「どうかな?」

 

 レイヴェルの予想を裏切る光景が展開され、ユートは然もありなんと頷く。

 

「なにぃ!? これは」

 

 気付かれていない筈が、アーシアの左腕に装備された円形の先穂を持つ鎖によって、渾身の一撃が防がれてしまっていた。

 

「ば、莫迦なっ? 目でも気配でも、そのどちらも追えてはいなかった!」

 

「ユートさん曰く、アンドロメダの鎖が持つ防御本能は八八の聖衣全ての中でも一番なんだそうです」

 

「そ、それは……」

 

「はい。実に情けない話ですが、木場さんの言った通り私は反応すら出来ませんでした。ですが、この子が未熟な私を助けてくれる」

 

「そういう……事か。僕の敗けだね」

 

 右腕の角鎖(スクエアチェーン)の動きは停止させられたが、右腕そのものは未だに動く。

 

 木場の動きを円鎖(サークルチェーン)で止めてしまえば、それでチェックメイトである。

 

 アーシアの右手には光の槍が握られ、それが木場の額を狙っていた。

 

 撃っていれば間違いなく木場は死んでいる。

 

「それまで! この試合、勝者はアーシア!」

 

 ユートの勝利宣言を聞きアーシアは槍を消す。

 

 木場も【魔剣創造(ソード・バース)】で造った剣を破棄した。

 

「木場に勝っちまった……アーシアってスゲー!」

 

 試合を見ていた黒髪のツンツン頭、今代の【赤龍帝】と称される兵藤一誠が呆けた顔で呟く。

 

「まあ、実戦ではまた違うのでしょうけど、あの子なら眷族に欲しかったわね」

 

【紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)】と称されて、木場や一誠の(キング)でもあるリアス・グレモリーはアーシアを眩しそうに見ていた。

 

 先日、仮にも上級悪魔を斃した能力といい、悪魔さえ癒す【聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)】といい、余りにも素晴らしい力である。

 

「あらあら……どの道、駒が在りませんわよ部長」

 

 今時、貴重な黒髪ポニーテールな大和撫子である、姫島朱乃がほんわかとした雰囲気で諫めた。

 

「判ってるわよ。あの子のタイプは魔力重視の僧侶。残ってる騎士と戦車では、アーシアの能力を活かせないものね……」

 

 【悪魔の駒(イーヴィル・ピース)】、それは悪魔の世界を変えた代物。

 

 新たなる魔王の一角であるアジュカ・ベルゼブブが造り上げ、人間や妖怪を悪魔へと変換──転生と呼ぶ──するシステムだ。

 

 それは、人間界でも普通に遊ばれているチェスの駒を模しており、駒は役割を示している。

 

 【(キング)】の駒というのは存在してないから、各上級悪魔が持つ駒の数は全部で十五個。

 

 兵士(ポーン)が八個。

 

 僧侶(ビショップ)二個。

 

 騎士(ナイト)が二個。

 

 戦車(ルーク)が二個。

 

 女王(クイーン)が一個。

 

 合計十五個という訳だ。

 

 そしてリアスが使用した駒は朱乃に女王、木場には騎士、夕麻に僧侶、一誠に兵士を八個、ギャスパーに僧侶となっている。

 

 つまりは、リアスに残された駒は騎士と戦車が一個ずつのみという事だ。

 

「……アーシア、先輩……やん、強かっ……ん! たです……」

 

「ねえ、ユウ?」

 

「何かな、リアス部長」

 

「それはツッコミ待ちなのかしら?」

 

 ユートの身体にスッポリと収まる程に小柄な少女、塔城小猫がユートの腕の中で先程から、頬を紅潮させて嬌声を上げていた。

 

 敢えて全員が目を逸らしていたのだが、嬌声が大きくなってきて流石にリアスが声を掛けたのだ。

 

「お仕置き中だよ」

 

「お仕置きって、セクハラにしか見えないわよ?」

 

「小猫をよく見なよ」

 

「え?」

 

 リアスが見ると小猫は特に抵抗したりせず、ユートの愛撫に任せている。

 

 表情には嫌がる素振りの一つも無く、行為を明らかに受け容れていた。

 

「……わ、わたし……ん、は……油断……うん! して、リタイア……あん! しちゃったから、くーん……お仕置きなん……ひあ! です……あひっ!」

 

 息も絶え絶え、声は途切れ途切れで説明する小猫。

 

 因みに一誠はさっきからずっと前屈みである。

 

 実は可成りもどかしい、そんな状態の小猫は寧ろこの侭、絶頂に至らせて欲しかったがそれこそがお仕置きの真骨頂である為、決して最後まで至らせては貰えない。

 

 実際ユートが触れているのは小猫の脇の下、下顎、お腹やヘソに太股と、絶妙な撫で具合で性感帯となっているが、一番感じるであろう部位には一切、触れてはいなかった。

 

「あらあら、小猫ちゃんが羨ましいですわ。ユウ君、後で【爆弾王妃(ボム・クイーン)】を落とした御褒美が欲しいですわ。勿論、ご褒美ですから最後まで……ね?」

 

 朱乃が背後からユートへと撓垂(しなだ)れ掛かる。

 

「なんでしたら……本当に最後までシてくれても良いんですのよ?」

 

「ちょっ、姫島朱乃様! その様な破廉恥窮まりない事を!」

 

「あら、レイヴェルちゃんも羨ましいのでしたら甘えてみれば宜しいですわ」

 

「わ、わたくしとユート様はそんな関係では……!」

 

 騒がしくなり、ユートが手を叩き注目を集める。

 

「ほらほら、そろそろ先日のレーティングゲームでのデブリーフィングを始めるよ!」

 

 そんな言葉と共に、旧校舎は【オカルト研究部】の部室へと戻るのであった。

 

 

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