ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第27話:聖剣×対決

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「そういえば、気になっていたのだが。君は教会を追放された【魔女】アーシア・アルジェントか?」

 

 ふとゼノヴィアがそんな事を言ってきた。

 

「貴女が一時期内部で噂になっていた【魔女】になった元【聖女】さん? 悪魔や堕天使をも癒す能力を持っていたらしいわね?

追放され、何処かに流れたと聞いていたけど、悪魔の許に身を寄せていたとは思わなかったわ」

 

 それにイリナが追従する形で訊ねる。

 

「そうですが、何か?」

 

「開き直る心算か?」

 

「何を莫迦な、否定した処で意味が無いだけですよ」

 

 アーシアは特に感じ入る事も無く淡々と告げた。

 

「ふん、【聖女】と呼ばれていた者が、随分と堕ちたものだな。君はまだ我らの神を信じているのか?」

 

「ゼノヴィア、悪魔の許に平然と居る彼女が主を信仰している筈がないでしょ」

 

 イリナは肩を竦め、呆れた様に言う。

 

「いや、その子から信仰の匂い──香りがする。抽象的な言い方かも知れんが、私はそういうのに敏感だ」

 

「そうなの? アーシアさんは【魔女】になってしまった今でも、主を信じているのかしら?」

 

「未だ捨て切れない程度には信じてますね」

 

 尤もそれは亡き神の遺したシステムに対してだ。

 

 アーシアは既に神の不在を教えられている、そして〝神の遺したシステム〟が熾天使(セラフ)達によって運営されている事も。

 

 それを聴いた当初は信じられなくて、泣き叫んで、伝えたユートを責めた。

 

 所謂、ポカポカ叩きだったが故にユートは痛くも痒くも無かったが、精神的に参ってしまったアーシアの涙を受け止めるのはやはり心が痛い。

 

 泣き疲れたアーシアは、その侭眠ってしまう。

 

 寝て、起きて、冷静になったアーシアは眠らずに抱き留めてくれたユートに感謝をし、同時に八つ当たりした事を謝罪した。

 

 その日から強くなるべくユートから闘い方を学び、ある程度は強くなった頃にアンドロメダの聖衣を与えられたのだ。

 

 その為、今更ゼノヴィアに何を言われても堪える訳もない。

 

 アーシアの言葉を聞き、何を勘違いしたのか布に包まれた聖剣を突き出す。

 

「そうか。それなら、今すぐ私達に斬られると良い。今なら神の名の下に断罪しよう。罪深くとも、我らの神ならば救いの手を差し伸べて下さる筈だ」

 

 アーシアはキョトンとした表情でゼノヴィアを見、困った様にユートを見る。

 

 知らないという事はある意味で幸せな事だが、場合によっては無知とは滑稽なものであった。

 

 居もしない神がいったい誰を救えようか?

 

「それは殺人予告と取っても良いのか?」

 

「な、何だと?」

 

「これから行う〝私闘〟は双方の同意で冥界、教会に報せないけど、アーシアを斬るなら普通に殺人だし、警察に連絡するよ?」

 

「くっ!」

 

 本来の世界線の通りに、悪魔となっているのならば聖剣に斬られれば消滅するから証拠とて残るまいが、この世界線では人間の侭である為、聖剣だろうが何だろうが剣で斬ったりすれば死体が残る。

 

 ゼノヴィアは普通に殺人犯として御用だろう。

 

「だいたいさ、アーシアを断罪って何様の心算だよ。自分が神にでもなった気でいる訳? 高々天界の尖兵……否、狗風情が」

 

「な、なにぃ!?」

 

「そんなに悪魔を癒したのが罪深いか? その結果、教会を追放されて悪魔の近くにいるのが罪か?」

 

「当然だ! 悪魔なんかに囲われて人間として、聖女として恥を知れ!」

 

 最早、自分でも何を言っているか判らないくらい、ゼノヴィアもテンパっているのか怒鳴り出す。

 

「うわ、種族差別? みっともないな。だいたいが、『汝隣人を愛せよ』じゃなかったったっけか? 天界の隣人って冥界人……悪魔や堕天使だろうに?」

 

「がぁぁぁっ! ああ言えばこう言う!」

 

「ちょっと、ゼノヴィア! 少し落ち着きなさいよ」

 

 苛つくゼノヴィアを宥めつつイリナは溜息を吐く。

 

 同時にアーシアの話が出た時、下手な煽りをすべきではなかったと後悔した。

 

「ねえ、君?」

 

「何かな、紫藤イリナ」

 

 イリナに声を掛けられ、ユートが応える。

 

「アーシアさんが悪魔側に居る理由は判ったけれど、君はどうして?」

 

 ゼノヴィアもユートを睨んできた。

 

「別に、大した理由なんて無いよ。最初に接触したのが魔王だったってだけだ。逆に言えば、最初に接触したのがミカエルなら天界、アザゼルなら堕天使側に居たんじゃないか?」

 

「そ、それだけ?」

 

「そうだよ」

 

 ユートにとって三大勢力なぞどうでも良いし、前世や前々世も含む宗教的な拘りも無かった。

 

 ただ、前世でブリミル教は嫌いだと、ハッキリ言えるくらいである。

 

 一応、今はアテナを守護する聖闘士だが……

 

 一同が人払いを行った旧校舎近くの球技大会練習場に着くと早速、ゼノヴィアとイリナの二人が自分が使う聖剣の準備を行う。

 

 ユートも亜空間ポケットから刀──妙法村正を取り出して腰に佩いた。

 

「同じ刀型な訳だし、最初にイリナと戦り合うか」

 

「良いよ、聖剣と戦えるのは聖剣だけだって教えて上げる!」

 

 【擬態の聖剣】を握り、刀の形に変えるイリナ。

 

「緒方君、ちょっと待って貰えるかな?」

 

 それを制したのは木場の声だった。

 

「僕も戦いたいんだ」

 

「誰だ、君は?」

 

 不躾なゼノヴィアの言葉に木場は険悪な雰囲気を醸し出し、正に仇を視る様な目で睨んでいる。

 

「君達の先輩だよ。尤も、失敗作だったらしいけど」

 

 木場の周囲からは無数の魔剣が顕れた。

 

「「っ!?」」

 

 【聖剣計画】の失敗作……それが意味する処は二人も知っている。

 

 ゼノヴィアは処分を免れた者が居るかも知れない、そんな話は伝え聞いた事があったが、よもや悪魔として生き延びているとは予想の範囲外。

 

 取り敢えずは、木場VSゼノヴィアと、ユートVSイリナという形に対戦相手は落ち着いた。

 

 飽く迄もこれは私闘。

 

 お互い、殺し合いに発展しなければ上には報せない事に同意している。

 

 木場が敗けたにしても、これで即聖剣で滅ぼされる事は無い筈。

 

 対峙する木場の表情を見てゼノヴィアは訝しむ。

 

「笑っているのか?」

 

 観戦している一誠だが、木場の冷たい表情に身震いしていた。

 

「(木場の野郎、いつもの爽やかフェイスは何処に行ったんだ? そんなに聖剣が憎いのかよ)」

 

「クックック、緒方君の言っていた通りだよ。斃したくて、壊したくて仕方がなかったモノが今は目の前に在る。本当に嬉しいよ……伝説のドラゴンが居れば厄介事(トラブル)の方からやって来るって、そう言われていたけどね。こんなにも早く巡り会えるだなんて……ふふふ」

 

 木場は自らの創った魔剣を一本引き抜き、ゼノヴィアに対して構えた。

 

「……【魔剣創造(ソード・バース)】か。神器(セイクリッド・ギア)所有者は頭の中で思い描いた魔剣を創り出す事が可能。魔剣系神器の中でも特異なモノ。【聖剣計画】の被験者で、処分を免れた者が居るかも知れないと聞いていたが、それは君か?」

 

 ゼノヴィアの問いに応える事もなく、木場は聖剣に対する殺気を出す。

 

 【聖剣計画】の被験者と聞いた途端、殺気は寧ろ強くなったと云える。

 

「まったく、魔剣創造(ソード・バース)聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)、異端の神器の多い土地だな……」

 

 吐き捨てるかの如く言うゼノヴィアだが、ユートはイリナと対峙しながら鼻で嗤ってやった。

 

「フッ、異端……ねぇ」

 

「今度は何が言いたい?」

 

 何度も口を挟まれ続け、警戒心を露わに訊ねる。

 

「忘れていないか?」

 

「な、何をだ!」

 

「そもそも、神器(セイクリッド・ギア)とは聖書の神が造り出したモノだ」

 

「それが何だ!?」

 

「まだ解らないか? お前が異端だと呼ぶ神器とは、正にお前らが盲信している聖書の神が造った、ならば神こそが異端だと言っているに等しい! 神は間違って異端の神器を造りました……ってな」

 

「「なっ!?」」

 

 この暴言にはゼノヴィアは疎か、能天気なイリナでさえ驚愕に目を見開く。

 

「異端を造るのもまた異端と考えれば、お前らの神が異端というのも真理だろ」

 

「ふ、巫山戯るな!」

 

「巫山戯てなどいないさ、悪魔を治療したから異端と呼ぶなら、そもそも悪魔を治療出来る神器(セイクリッド・ギア)を造った神は異端じゃないのか? 或いは神が間違ったのかな? 全知全能な神が?」

 

「違う、違う、違う!」

 

「聖書の神が神器(セイクリッド・ギア)を造ったのは紛れもない事実だろ? ならば、神器の効力を高が信者風情が何を否定する。それはつまり、神器を造った神を否定するに等しい」

 

「い、言うなっ!」

 

 【破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)】を振り被り、ユートを斬ろうと迫るが……

 

 ガキィィィッ!

 

「なにぃ!?」

 

「君の相手は僕だ、間違えて貰っては困るな……」

 

 木場が魔剣で防いだ。

 

 そんな木場とゼノヴィアは置いといて、一方ユートとイリナはと云えば……

 

「え、と……緒方優斗君だったっけ? 君が悪魔に付いているのは魔王と最初に会ったからって話だけど、だったら私が勝負に勝ったら悪魔から離れるって約束して欲しいな」

 

「断る」

 

「な、何でよ?」

 

 にべも無い返事にイリナは不満そうだ。

 

「以前にも似た様な事があったけど、自分の要求だけを通すのはちょっと有り得ないだろう。そんなのは、相手が勝った場合の自分のデメリットも提示しないとフェアじゃない。それとも君の所の神は、アンフェアを教えにするのかな?」

 

「む、だったら君が勝ったらどうしろと?」

 

「そうだな、同じ条件にするなら紫藤イリナが教会を辞めるべきだろう」

 

「え゙?」

 

 意外な条件に固まった。

 

 確かにイリナの出して来た条件と同じにするなら、彼女が敗けた場合は教会を辞めるのが妥当ではある。

 

「まあ、何なら君の肢体をたっぷりと堪能させて貰うのでも良いけど?」

 

 ユートはクスクスと嗤いながら第二の提案をした。

 

「ちょっ!」

 

 その瞬間、イリナは自分の身体を抱き締める様に庇いつつ、頬を朱に染める。

 

「あらあら、溜まっているならいつでもわたくしがシて差し上げますのに、ユウ君ったら……」

 

「ブハッ!」

 

 朱乃は困った顔で言い、一誠はナニを想像したのか鼻血を噴き出す。

 

「……ユウ先輩、相変わらずのケダモノです」

 

 小猫までもが難しい表情で言う。

 

「ユートさん……」

 

「クックック、これぞ兄貴クオリティだね」

 

 アーシアはオロオロし、ユーキは如何にも愉しそうに笑っていた。

 

 ユートは紫藤イリナと対峙し、木場はゼノヴィアと対峙しているこの状況で、ゼノヴィアが木場へと話し掛ける。

 

「酷い目をしている。そんなに聖剣が憎いのか?」

 

「当然だろう」

 

 激昂はせず寧ろ穏やかとさえ云える声色で答えた。

 

「計画が失敗だと言って、被験者の子供達を皆殺しにするなんて、赦されるべき事じゃない」

 

「その事件は私達の間でも最大級に嫌悪されたもの。処分を決定した当時の責任者は信仰に問題ありとされて異端の烙印を押された。今では堕天使側の住人さ」

 

「だから何だ」

 

「何だと?」

 

 ゼノヴィアの言葉に反応したのは木場でなく、又もやユートの方だった。

 

 訝しむゼノヴィアに対しユートは、軽く目を閉じながらも更に言い募る。

 

「破門とし、異端呼ばわりしているからどうした? 確か、【皆殺しの大司教】バルパー・ガリレイって名前だったかな?」

 

「何故その名を……」

 

「今回の聖剣盗難にソイツが関わっているからだが? バルパー・ガリレイ捕縛か或いは始末、それも依頼の一つだからな」

 

 堕天使の幹部コカビエルの捕縛、若しくは始末をするといった依頼と同時に、総督アザゼルから受けた。

 

「お前ら教会の連中はさ、バルパー・ガリレイを異端認定したからもう関係ありません……なんて言う心算なのか?」

 

「事実、バルパー・ガリレイは教会と関係無い!」

 

「違うな、間違っているぞゼノヴィア。仮令、異端認定されようが、破門になろうが、奴が教会という組織に所属した上で、神の名の下に【聖剣計画】を行ったのは覆せない事実だ」

 

「「なっ!?」」

 

 ゼノヴィアもイリナも、二の句が継げないとばかりに絶句してしまう。

 

「【聖剣計画】の際には、既に破門されて堕天使側に居たなら未だしも、計画が発動中は間違いなく教会の所属だったんだ。破門したから関係ありませんだと? 巫山戯ているとしか言い様が無い言い分だね」

 

「破門された以上、奴の行いの責任を我々が取らされる謂れは無いだろう!」

 

「なら喩え話をしようか。木場祐斗は知っての通り、教会や聖剣、悪魔祓いといったモノに怨み辛みが有る訳だが、グレモリー眷族である彼が憎しみに暴走し、ヴァチカンに襲撃を掛けたとしよう。事の重さに慌てて木場祐斗を【はぐれ】としたリアス部長。さて? この場合、君らの言い分だと【はぐれ】に認定されたからリアス部長に責任は無いと云う事になるよね?」

 

 当然ながらそんな事には決してなり得ない。

 

 この場合は木場祐斗という下僕への管理能力の有無など、リアス・グレモリーは冥界や教会から責任を問われる事になるだろう。

 

 

 まあ、政治屋ならそれで済ませる気もするが……

 

『全ては秘書が私の預かり知らぬ所でやりました』

 

 ……とか言って、秘書を生贄に責任回避とかを。

 

 それは兎も角ゼノヴィアは苦々しい表情となる。

 

 若しそうなったら、木場を始末して終わる筈もない事は理解出来ていた。

 

 確実に、教会側はリアス・グレモリーに対して責任を追求するであろう。

 

 だがそれを認めるという事は即ち、バルパー・ガリレイの行いの全ては教会に帰結すると言うに等しい。

 

 これは木場に対する牽制でもあると、それを聞いていた木場も理解していた。

 

「それにエクスカリバーの使い手が居ると云う事は、少しは人道的になったのかも知れないが、計画は続行されていたって事になる。まあそれは戦力確保の観点から仕方ないにしてもね、バルパー・ガリレイの研究を使って、聖剣ユーザーを造り上げたのなら、現在のエクスカリバーは正に罪と血に塗れた穢れし聖剣だ」

 

 ユートの主張に静まり返る面々、それは一番煩そうなゼノヴィアでさえ血の気が引く青褪めた顔になっていた。

 

 何故なら、ユートの主張は容赦なく正しいからだ。

 

 果たして何百人の子供達が犠牲となり、血を流してきたのだろうか?

 

 そしてその度に、バルパー・ガリレイは【失敗作】を始末してきたのか?

 

「若しかしてさ、教会的には……バルパー・ガリレイが自分達の知らない所で、勝手にやりました。それで済ました訳? 何処の政治屋の言い訳だよ。同じ法衣を身に付けて、同じ神の名を謳っていた大司教の罪。それを購う処か、関係無いと宣うか? 組織であるからには同じ組織に所属した者と同じに視られるのは、寧ろ当たり前なんだ。木場が【はぐれ】になっても、リアス部長の責任が追求される様にな!」

 

 例えば警察官の不祥事が相次いで起きたとしたら、同じ制服を着る別の警察官まで不祥事を起こす連中と同様に視られる。

 

 つまりはそういう事だ。

 

「た、確かに関係無いとは言い過ぎた」

 

「だけど、あの計画のお陰で聖剣使いの研究は飛躍的に伸びたのもまた事実よ。だからこそ私やゼノヴィアみたいに、聖剣と呼応出来る使い手が誕生したの」

 

 悔しげに言うゼノヴィアに継いで、イリナが計画の成功をアピールする。

 

 だが、ユートは首を横に振ると更なる断罪を行う。

 

「その言葉……裏を返せば『木場達が生贄になってくれたから、自分は犠牲にならなくて済んだ。お陰で、聖剣も楽に使えてラッキーだな』……って言ってる様なものだよね」

 

「そんな心算じゃ……」

 

 どう言い繕おうが何百人もの子供を生贄とした事実に変わりは無く、そのお陰でイリナは単に成果を獲られただけなのもまた言い繕い様がない事実。

 

「逆に考えてみようか?」

 

「逆に?」

 

 イリナは首を傾げた。

 

「紫藤イリナ、君が【聖剣計画】の初期被験者だったとしよう。薄暗い牢獄の如き研究所で毎日毎日、痛くて辛い人体実験の日々だ。食事もきっと犬猫の餌と見紛う代物で、研究員は遥かにグレードの高い食事を食べていた。それでもいつか聖剣を使える様に成るのだと自らを、仲間達を鼓舞して生きてきた。神に祈りを捧げ、毎日を耐え忍んだ。そんなある日、主任研究員は告げる……『お前達は失敗作だ』と。そして処分が決定された。そんな中で、仲間と共に逃亡を決意したが次々と皆が捕まり、処分されていく。仲間のお陰でたった独りだけ生き延び、教会も聖剣も神すら憎み、生きた。そして出逢うんだ……【聖剣計画】の成功体という奴に。それでさっきの君と同じ言葉を言われ、君はどう思うだろうね?」

 

 イリナは脳裏にリアルなそれを想像してしまう。

 

 成程、確かに能天気な感じのイリナだって、そんな境遇では憎悪を抱く可能性は高いかも知れない。

 

「さて、お喋りも此処までにして始めようか」

 

 ユートの〆の言葉に全員がはたと気が付く。

 

「くっ!」

 

擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)】を構えると、イリナは何かを振り払う様に突進した。

 

「緒方逸真流が剣士、緒方優斗……推して参る!」

 

 妙法村正を腰に佩いて、ユートはイリナへと立ち向かっていく。

 

 イリナは意外と逸い。

 

 流石に騎士(ナイト)の駒の木場程ではないが、生身でこれなら逸い方だろう。

 

 とはいえ……

 

「え?」

 

 スピードに任せ、高速で突きを放つがすり抜けてしまって当たらない。

 

 シャリン! という甲高い音が響くが、特に何か起きた風でもなく元の位置へと互いに戻り、仕切り直しという事になった様だ。

 

 少なくともイリナ本人と周囲で観ていたリアス達、ユート以外の者達はそう考えていた。

 

 然し、ユートはクルリと踵を返して歩き出す。

 

「ちょっと、まだ終わっていないわよ。逃げる気?」

 

 文句を言うイリナへ僅かに視線をやると、ユートは呟く様に言った。

 

「緒方逸真流・抜刀術……【弐真刀】」

 

「は? 何を言ってるの。私の不戦勝になるわよ?」

 

「その腕で戦えるならね」

 

「……腕?」

 

 ふと両腕を見るイリナ。

 

「へ?」

 

 其処に在るべき物が無く呆けた声を上げた。

 

「い、嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ! 私の、私の腕がぁぁぁぁっ!?」

 

 イリナの手首から上は無くなっており、思い出したかの如く血が噴き出す。

 

 そしてユートの手の中には【擬態の聖剣】が……

 

 イリナは確かに生身としては逸かったのだが、聖剣の加護も含めてあの程度ではどうという事もない。

 

 緒方逸真流では動き一連に意味を持たせるのだが、抜刀術は抜刀と納刀の動きも攻撃手段としていた。

 

 イリナの突きを僅かな身動ぎで躱して、抜刀+納刀の上で両腕を斬り落とした序でに、右手の【擬態の聖剣】を奪ったのである。

 

 その余りの鋭い切り口、イリナも斬られた事に気付きもしなかった訳だ。

 

「聖剣使いを倒すには聖剣でないと……って訳には、いかなかった様だね」

 

 ユートが勝利後……

 

「ね、ねえ……ユウ。その子って放っておくと死んじゃわないかしら?」

 

 焦りからか、大粒の汗を流しながら言うリアス。

 

 両手を無くした衝撃からか或いは、大量の出血の為かは判らないが、紫藤イリナは糸が切れたかの如く意識を手放していた。

 

 未だに手首から上の無い腕からは、鮮血が噴き出して地面を真っ赤に染める。

 

「ふむ、流石に死なせるのは拙いかな」

 

 呟くと、ユートはイリナに近付いて気絶した彼女を抱き起こし、右手の人差し指を立てて胸元辺りに突き刺した。

 

「貴様、イリナに何をしたんだ!?」

 

 木場の攻撃を捌きつつ、ゼノヴィアが激昂する。

 

「血止めの急所、真央点を突いた。これで出血だけは止まるだろう」

 

 嘗て、暗黒聖闘士の一人たる暗黒ドラゴンが、僅かな出血でさえ生命に拘わる紫龍が仲間の為にも出血を覚悟で昇龍覇を放った際、紫龍を救う為にやったみたいに、十二宮の闘いで大量出血していた氷河、ミロがそれを止めるべく真央点を突いた様に、ユートは血塗れのイリナの真央点を突いて出血を止めたのだ。

 

 リストカット処か、両手首を喪ったイリナは本来なら間違いなく失血死していただろうが、これで生命を失う心配だけは無くなる。

 

「何処を見ている! 君の相手は僕だと言ったよ!」

 

「チィッ!」

 

 意識をイリナに向けてばかりもいられずに、木場の攻撃を【破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)】で防ぐ。

 

 ゼノヴィアからすれば少し実力を見せ、自分達の強さをアピールして任務遂行の邪魔をさせまいとする狙いがあった。

 

 上手く運べば、自分達優位で聖剣奪取に協力をさせられるかも知れないなど、皮算用的な思いもあったのだが……

 

 だけど、そんな小賢しい狙いはユートにより完全に打ち砕かれてしまう。

 

 それ処か、イリナは闘いに必要な腕を喪った。

 

 しかも、実力的には下であると思われていた木場、それが何故か自分と完全に拮抗している。

 

 そのゼノヴィアの焦燥感は計り知れない。

 

「くっ、おのれ!」

 

「どうしたんだい、先程から精彩を欠くけど?」

 

「黙れぇぇぇっ!」

 

 完全にユートの策が嵌まっていた。

 

 聖剣エクスカリバーを、正論で貶めゼノヴィア達の動揺を誘い、木場には忠告やら何やらで冷静さを取り戻させる。

 

 更にイリナを叩き潰し、焦燥感を煽ったのだ。

 

 そしてこれはトドメ。

 

「木場、ゼノヴィアに勝てたらこの【擬態の聖剣】を破壊させてやる!」

 

「なにぃ?」

 

 ゼノヴィアは驚愕して、目を剥き叫び声を上げた。

 

「使い手は暫く闘えない、聖剣は核さえ無事なら再生が利く。なら、この場に於いてこいつを破壊したとしても、戦局は変わらない」

 

「ぐっ!」

 

 確かに理屈はそうだが、むざむざと聖剣を破壊させる訳にもいかない。

 

 然し、そう思えば思う程に追い詰められていくし、心なし木場の力が上がった様にも感じられた。

 

「喰らえ、炎熱剣(フレア・ブランド)! 氷空剣(フリーズ・ミスト)!」

 

 木場が【魔剣創造(ソード・バース)】で創り出した二振りの魔剣が、ゼノヴィアに襲い掛かる。

 

 しかも決して【破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)】と、直接的には打ち合わない。

 

 今の自分の創る魔剣は、聖剣エクスカリバーを相手にして毀されると考えて、鍔迫り合いに持っていかない方向で揮っている。

 

「くそ、ちょこまかと!」

 

 ゼノヴィアも魔剣の強度は兎も角、まともに肉体へ受けたら危険だと判断し、木場の攻撃は避けていた。

 

 上手くゼノヴィアを倒せたなら、憎きエクスカリバーを破壊出来る。

 

 不思議と焦燥感は無い。

 

 何故か頭の中はクリア、ゼノヴィアの動きがよく見えていた。

 

「(レーティングゲーム前の訓練で、緒方君の剣技を見る機会があった。確か、あれはこう……)」

 

 ガキィィィン!

 

「な、なにぃ!?」

 

 木場は右手の炎熱剣(フレア・ブランド)により、ゼノヴィアの【破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)】を上に弾きその騎士としてのスピードを以て、ゼノヴィアの背後へと回り込む。

 

 その一連の動作にユートは驚いた。

 

「真逆?」

 

「氷炎十字斬!」

 

 ズガンッ!

 

「ガハッ!」

 

 無防備な背中に、炎と氷の魔剣を合わせた十字二連撃を打ち込まれ、斬られた痛みに加えて温度差により生じた水蒸気爆発の衝撃も喰らってしまい、つんのめる様に地面にキスをする。

 

 但し、十字状に斬った為に少し頭が痛い。

 

 正直、ユートは此処まで策が嵌まるとは思いもしなかった事だ。

 

 ほんの少しゼノヴィアに天秤が傾いていなたらば、間違いなく彼女の方が勝利を収めていた筈。

 

 それに最後に魅せたあの動きは……

 

「緒方逸真流・応用技……【木霊返し】に【継ぎの舞い】から【独楽舞わし】」

 

 緒方逸真流には、基本技と応用技と秘奥技の三種類が存在している。

 

 応用技とは、だいたいが基本技同士の連撃……所謂コンボ技だ。

 

 先程、木場が使って見せた技も基本技【木霊落とし】と【独楽舞わし】を繋ぎとなる【継ぎの舞い】で連撃としたもので、ライザー戦前の五日間の訓練中に使った事がある。

 

 簡単な初歩の初歩たる技とはいえ、応用技まで使用したのには驚くしかない。

 

「見様見真似であれだけ闘えるのか。まったく白亜もそうだったし、思考停止な事は言いたくもないけど、正に……だな」

 

 少し悔しげに言う。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、か、勝てたよ」

 

 肩で息をしている辺り、木場も結構ギリギリだったのが判る。

 

「よくやったね。それじゃ好きにすると良い。但し、消滅させたら流石にヤバいんで、壊すだけね」

 

 ユートが木場に【擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)】を渡すと、コクリと首肯して受け取った。

 

「それと、木場の魔剣では壊せない可能性があるし、これを使うと良い」

 

 薄いブルーの剣を出す。

 

「これは?」

 

「どちらかと云えば聖剣に属するけど、確か此方側では魔剣じゃなかったかな」

 

「どういう?」

 

「世界が変われば理も変わるものでね、僕が前に居た世界でのエクスカリバーは折れてなかったし、この剣は神が使った聖剣……神剣と云っても差し支えない。だけど調べた結果、此方側では同じ名前の剣が魔剣とされていた。エクスカリバーは同じ聖剣だけどね」

 

 ユートの言葉に、渡された青い刀身の剣を見やる。

 

「それで? この聖剣だか神剣だかの銘は?」

 

「バルムンク・レプリカ」

 

「バルムンク? 北欧に名を残す有名な魔剣の銘じゃないか! けどレプリカっていうのは?」

 

「うーん、アスガルドでの闘いで出現した北欧最強の神闘衣(ゴッドローブ)……オーディーンローブに付属していたのがバルムンクな訳だけど、北欧の護りとなるそれを持ち帰る訳にもいかなかったから、オーディーンの地上代行者のヒルダの許可を得て、レプリカを造ったんだよ」

 

 ユートとヒルダは、ある意味で近しい存在だった。

 

 何故ならばユートの守護星座は麒麟星座で、ヒルダの守護星はポラリス。

 

 この二つとは極めて近い位置に存在しているのだ。

 

 尚、オーディーンローブを纏ったのは星矢でなく、その場で闘っていたユートだった。

 

 理由は簡単、アスガルドに向かったのがユートと、とある二人の黄金聖闘士だったから。

 

 つまり、原作と違い星矢達は参戦していない。

 

 こちらも理由は簡単で、既にアスガルドが動いた時点で大雨や洪水が起きて、明らかにポセイドンが動いていたからだ。

 

 この二面作戦によって、星矢達は動かせなかった上に前聖戦の封印が解け掛けていて、本来は死んでいた黄金聖闘士シュラとカミュ以外は聖域に詰めていなければなならなかった。

 

 故に予備戦力だった二人を伴って、ユートがアスガルドに向かったのである。

 

 アスガルドへはユートとシュラ、カミュ、魔鈴。

 

 ポセイドン側への警戒には星矢達、一軍青銅聖闘士である四人。

 

 一輝は相変わらずその場には居なかった。

 

 聖域の護りに残りの黄金聖闘士達と、二軍青銅聖闘士と雑兵の皆さん。

 

 こんなチーム分けだ。

 

 アスガルドの闘いの直後を狙い、人魚姫のテティスが沙織の誘拐をした為に、ユートもポセイドン神殿で闘っているが、星矢達は無傷だったからか原作アニメよりは楽だった様だ。

 

 

 閑話休題

 

 

「兎に角、レプリカとはいえ本物と同じ素材で造っているし、ポラリスのヒルダを通してオーディーンの祝福も受けている。充分に使える筈だよ」

 

「判った。有り難く使わせて貰うよ」

 

「後、これを」

 

「? これは……」

 

「オーディーンサファイア・レプリカ。本物もそれを獲なければ使えなかった」

 

 本物と変わりがないという事は、レプリカも同じ様に必要な物が有るという事である。

 

「それに、それも小猫に渡した【山猫の爪(リンクス・ブリンク)】と同じで、人工神器(アーティフイカルセイクリッド・ギア)なんだよ。銘は【北欧神の守護石(オーディーンサファイア・レプリカ)】」

 

 当然、禁手(バランス・ブレイカー)も存在する。

 

 木場は【北欧神の守護石(オーディーンサファイア・レプリカ)】と呼ばれたベルトを腰に装着、鞘からバルムンクを引き抜いた。

 

 鞘はベルトに付いた鞘当てに佩いて、ブンブンと振り心地を確かめる。

 

北欧神の守護石(オーディーンサファイア・レプリカ)】の効果なのか、聖剣としての力を発揮しながらも木場に何の悪影響も及ばさない。

 

「素晴らしい剣だ。聖剣なのが残念だけど、僕が憎いのはエクスカリバーだし、問題は無いかな」

 

 それに、此方側の世界のバルムンクは魔剣だという事実もある。

 

 木場は【擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)】を宙に放り投げ、右手に持ったバルムンクを横薙ぎに揮った。

 

 漸く目を覚ましたゼノヴィアが目を見開く。

 

「ぐ、よせ……やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおっ!」

 

 ゼノヴィアの絶叫も空しくバキン! という鈍い音と共に、【擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)】は中心から叩き折られてしまうのであった。

 

 

.




 何というSEKKYOU回……


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