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聞いた話は以前されたのと同じで、一誠や小猫も既に知っている。
唯一、知らなかった匙。
彼は今、ボロボロと五老峰の大滝の如く涙を流し、漢泣きで号泣していた。
「木場ぁ! 辛かっただろう! キツかっただろう! 畜生、この世に神も仏もないもんだぜ! 俺はな、今非常にお前に同情している! ああ、酷い話さ! その施設の指導者やエクスカリバーに恨みを持つ理由も判る、判るぞぉぉっ!」
ウンウンと頷きつつ木場の肩をバンバンと叩く。
「匙、感情が昂っている処を悪いけど同情はやめた方が良いぞ。嬉しくないし」
「な、何でだよ?」
「うーん。例えばさ、匙が『俺、会長が好きなんだ』とか僕達に言ったとして」
「んな!?」
ピンポイントに自分の想いを暴露され、真っ赤になって絶句する匙。
「そうか、自分も会長の事が好きだぜ……とか言われたらどう思う?」
「そんなの
「本題は此処からだけど、匙がソーナ会長に告白したとして……『気持ちは嬉しいけど、私には心に決めた人が居ます。ごめんなさい……』なんて言われたら、ライバルが訳知り顔で……『そうか、フラれたんだ。判る、判るぞ!』なんて、言ってきたらどうだ?」
「……スゲー、ぶん殴りてぇぇぇっ!」
想像したらムカついたのか即答した。
「それが同情されるって事なんだよ。本当の感情なんて当事者か、若しくは同じ思いした者にしか理解は出来ないものだ。さっきの話だと、ライバルも同じ理由で会長にフラれていたならどう思った?」
「確かに、一緒に泣いちまうかも知れねぇな」
其処まで言って匙ははたと気付く。
「すまねぇ、木場! お前の事も碌に知らねえで勝手言っちまった!」
基本、匙は男なのだ。
「あ、ああ。僕は気にしていないから、大丈夫だよ」
苦笑いしながら言う。
然し、視線をユートに向け少しだけ謝意を示した。
こういう場合、同情される方が寧ろキツいものだ。
「優斗の奴、口先だけで匙を黙らせた?」
そう言う一誠も巧く誘導されている。
「……ユウ先輩、やっぱり詐欺師に向いてます」
何気に毒舌な小猫。
「まったく、口では敵いそうにないわねぇ」
夕麻は嘆息した。
「あのよく回る口で口説くんだよねぇ」
ユーキはいつものアレを思い出しケラケラと笑う。
「よっし、良い機会だ! ちょっと俺の話も聞いてくれ! 共同戦線を張るなら俺の事も知ってくれよ! 俺の目標……それはソーナ会長とデキちゃった結婚をする事だ!」
堂々と宣言をする匙に、一誠はそこへ感窮まってか告白をする。
「匙! 聞け! 俺の目標は部長の乳を揉み、そして吸う事だ!」
一瞬の間を空け、匙の目からは大量の涙が流れた。
その後はおっぱいを揉むだの吸うだの、少なくとも公の場でする様な話では無い事を熱く語り合うおバカが二人……
夕麻の方は兎も角とし、ユーキと小猫は絶対零度の視線で睨む。
「
「……やっぱり最低です」
「ハ、ハハハ……」
そんな空気の中で、木場の困った様な苦笑いがファミレス内に響いていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
あれから数日が経つが、未だに聖剣を見付ける事が出来ずにいる。
因みにリハビリ中であるイリナは、まだユートの家で大人しくしていた。
彼女の持つ路銀を預かりゼノヴィアに渡す序でに、ちょっとした悪巧みを考えて頼み事をしておく。
流石にゼノヴィアは引き攣っていたが、一応は了承してくれた。
思索に耽っていたユートがふと我に返ると、いつもよりも教室の中が騒がしい事に気が付く。
そんな中、元浜と松田が話し掛けてくる。
「おい、緒方!」
「なに?」
「お前、アーシアちゃんと一年の小猫ちゃんを侍らせてるってマジか!?」
「侍らせてるかどうかは知らないけど、仲は良いんじゃないかな?」
すると二人は血涙でも流しそうな勢いで号泣して、真っ赤に血走った眼で睨んできた。
「どっちか回せよ!」
「そうだ、松田の言う通りだぜ! 何でてめえや一誠だけが美味しい思いをしてんだよ?」
「当人が嫌がるから駄目」
アッサリと言うと、アボーンと口を空けて呆然となってしまう。
因みに、一誠だとリアスや夕麻との関係で迫られていたらしい。
「アーシア、おいで」
「はーい♪」
素直なアーシアはパタパタと駆けて来ると、定位置と謂わんばかりにユートの膝の上に陣取る。
パブロフの犬の様に今の言葉に反応した態度だ。
家でも『おいで』と声を掛ければ、アーシアは膝の上に乗る。
これは小猫や那古人なども同様であり、今ではイル&ネルも呼ばれると膝の上に乗って甘えていた。
ユートのアーシアに対するセクシャルな行為──ハラスメントに非ず──に、男子は前屈みになりつつもユートを睨み、女子はキャーキャーと黄色い声を上げて喜んでいる。
「「こんちくしょぉぉ! リア充めぇぇぇっ!」」
松田と元浜の遠吠えが谺したという。
話し合っていたカラオケとボーリングでの会合は、木場の参加が難しいという事だけは伝えておく。
然しだ、女一誠こと桐生がユートをジッとみて行き成り頬を染め、目を逸らしたのは何だったのかユートには終ぞ解らなかった。
放課後は神父らしき格好での囮捜査をしている。
勿論、アーシアや夕麻達はシスターだ。
「今日も進展無しか」
匙が愚痴る。
「いや、そうでもないな」
「え?」
元より氣を探るのには慣れているユートとユーキ、氣の扱いを識る小猫、騎士として鋭敏な感覚を持った木場は気付いていた。
そしてアンドロメダ聖衣のアームとチェーンのみをセットしていたアーシアも同じく、辺りを包む異様な気配に気が付いている。
「上です!」
チェーンの指し示す方向を指差すアーシア。
「キヒ、キャヒヒヒヒッ! 神父の一団に御加護在れってねぇ!」
剣を手にした白髪の少年がイカれた嗤いを上げて、剣を振り下ろしながら上空から降ってきた。
「あいつ、フリード・セルゼン!」
「誰だ?」
ズルッ!
勢い込んで叫んだユーキだったが、ユートの間抜けな質問にずっこける。
「兄貴、アイツと戦ったんじゃなかったの!?」
「? 知らんな」
それを聞いたフリードらしき少年は、血走った瞳を怒らせて怒鳴る。
「て、て、てめえはぁぁ! こ、こ、この俺様の大事な玉を潰しといて、知らぬ存ぜぬだとぉぉぉっ!」
「ま、どうでも良いかな。それがエクスカリバーならお前が犯人の一人、そういう事でオッケーだな?」
叫ぶフリードを無視してユートは問い掛けた。
「キィィシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャァァッ!」
それを聞いて、フリードは壊れた様に笑うとフラットな表情になり、ユートを睨んで呟く。
「殺してやるぞ、殺してやるぞ、殺してやるぞ、殺してやるぞ、ゼッテー殺してやるぅぅぅぅっ!」
ユーキは首を傾げる。
フリード・セルゼンとはイカれた野郎だが、何と云うか此処まででの大莫迦では無かった筈。
フリードは殺気をバラ撒きながら、背中に背負っていた櫃を降ろす。
「なにい? 奴から感じるこれは……っ!?」
「そんな、何故?」
ユートとユーキは突然、目の前のフリードから溢れ出るそれに驚愕した。
「お、おい! どうしたんだよ優斗?」
一誠が訊ねるとユートは振り返って言う。
「奴から溢れているモノ、あれは光力とか魔力とか氣とかじゃない。小宇宙だ」
『『『コスモ?』』』
アーシアは知ってるが、一誠、木場、夕麻、小猫、匙の五人は小宇宙を知らない為、首を捻り鸚鵡返しに訊いてきた。
「って事は、あの櫃は……
取り払われた布、中からはユーキの想像の通りで黒い聖衣櫃。
「黒い聖衣櫃、それにあのレリーフ……真逆!?」
聖衣櫃が開かれ、中に脚の無い人を模した黒曜石の様のオブジェが顕れる。
「やっぱりかよ……一体、何処で手に入れた?」
ユートは忌々しそうに吐き捨てた。
カシャーン! 甲高い音と共にオブジェが分離し、鎧のパーツとなりフリードの肉体を覆っていく。
「暗黒聖衣――暗黒ペルセウスを……っ!」
フリードを睨みながら、ユートが口を開く。
「お前、確かフリーザとか言ったな?」
「フリードだって兄貴……何処の自称宇宙最強の一族なのさ。本当にどうでも良い敵の事は覚える気、皆無だよね?」
ユートは別に物覚えは悪くないが、割とどうでも良い敵の事はメモリのリソースが無駄だとして、全く覚えようとしない。
「ま、それはそれとして。お前は小宇宙をどうやって体得した? それにそれ、
「キィヒッヒッヒッヒ! こいつぁ、長い銀髪にアホ毛のお嬢ちゃんに貰ったのさぁ! 序でにこの素敵な力もプレゼント・フォー・ミーって訳!」
フリードは律儀に答えてくれる。
眼鏡を掛けたスーツ姿の黒髪赤目のお姉さんと言われた方が寧ろ解り易いが、ユートにはその銀髪にちゃんと心当たりがあった。
ートの想像通りであるのなら、恐らく小宇宙に目覚めさせたり暗黒聖衣を此方に持ち込み、フリードへ渡したのは這い寄る混沌だ。
「みんな、気を付けろよ。奴の暗黒ペルセウスの聖衣には、特殊な能力が付与されている」
『『『特殊な能力?』』』
ユーキ以外が鸚鵡返しに訊ねてきた。
「そう、僕には何ら脅威にならないけど、君らは危険に晒される」
「その能力って?」
「ペルセウスの逸話通り、奴の背中に装備されてる盾……メドゥーサの盾による石化だ」
一誠の問いである能力について答える。
「あ〜らら、流石にバレてますね〜♪ よござんす、魅せて差し上げやしょう」
フリードが背中の盾を外して左腕に装着した。
本来の……白銀聖衣としてのメドゥーサの盾とは違って、
暗黒ペルセウス座の聖衣を纏い、メドゥーサの盾を装着し、更にエクスカリバーと思しき剣を持つ様は、成程……
相手がフリードでは英雄と云うより寧ろ、反英雄といった感じではあるが……
「んじゃ、先ずは……」
「来るぞ!」
「てめえだ! 透かし野郎がぁぁぁぁぁっ!」
フリードが動く。
「消えた? いや、僕の目を以てしても見えない速度だとでもいうのか?」
スピード型な【騎士】の木場にすら見えない。
それもその筈、聖闘士は己れの内なる小宇宙を燃焼させる事で、人知を越えたとんでもない力を発揮する事が出来る。
その動きは軽く音速に達しており、下級の青銅聖闘士でさえマッハ1の速度。
更にその拳は空を裂き、蹴りは大地を割る攻撃力。
聖闘士はその迅さだけでなく、破壊の根本たる原子を砕く事を念頭に置く。
因みに原子は物質の最小単位ではない。
もし最小なら原子を砕く事など不可能だ。
だけど問題はそんな部分でなく、フリードが此方側に存在し得ない筈の小宇宙を体得し、暗黒聖衣を持っている事にある。
バシッ!
ユートはフリードの揮った聖剣の刃を、両の掌で挟み込む様に止めた。
真剣白刃取り……若しくは無刀取りと呼ばれる技術であり、挟むタイミングが早くても遅くても斬られてしまうが故に、実際にやるのは可成り難しい高等技術である。
「
「うおっ!?」
飛んできた鎖を盾で受けつつ、力任せに剣を引ったくると後ろへ跳んだ。
「おやおや? アーシアちゃんじゃあござんせんか。うけけけ、君も悪魔側に付いちゃった口?」
「そうです。この身は人間ですが、悪魔のリアスさんに付きました……」
星雲鎖を引き戻して答えるアーシア。
「はっ、悪魔に誑かされた魔女って奴か? だったら俺がてめえをぶつ切りにしてやんよ!」
フリードが、自らが持ったエクスカリバーで斬り掛かってくる。
「
エクスカリバーの刃と鎖がぶつかり合い、ギャリギャリと金属同士の擦れる音が辺りに響き渡った。
聖衣のフルセットこそしてはいないが、アーム部と付随をする星雲鎖は部分セットしてあるアーシアは、フリードからの攻撃を防いだのである。
「な、何ですか〜? この邪魔な鎖ちゃんはよ〜!」
「本物のエクスカリバーならいざ知らず、そんな欠片の力を別の素材の剣に埋め込んだだけの紛い物に負けません!」
「てめえ、アーシアちゃんはエクスカリバーを罵倒しちゃいますか? 魔女が! 舐めくさんなよ!」
フリードが怒りに任せて力を籠める。
《Boost!》
「そういうお前は、はぐれ悪魔祓いだろ!? 魔女とどう違うってんだ!」
【赤龍帝の籠手】にて、力を六回溜めた一誠が背後からフリードを殴る。
「ごはっ!?」
フリードは吹き飛んで無様に転がっていく。
「大丈夫か、アーシア?」
「はい、ありがとうございます一誠さん」
赤龍帝のパワーで殴られたとはいえ、小宇宙を使えるなら大したダメージではないとユートは身構える。
「いってーなー、ああ?」
案の定、フリードは痛がってこそいるけど、普通の人間が普通の人間を殴った程度にしかダメージが通ってはいない。
「死ねよやぁぁぁっ!」
「させっか!」
匙の腕の黒い蜥蜴の頭から舌が伸び、フリードの脚に絡まって捕らえる。
「ぬあ、これは?」
黒い蜥蜴の舌が淡い光を放ち、それがフリードから匙へと流れていく。
「くっそ! 俺っちの力を吸収すんのかよ!」
「どうよ、俺の
「チィ、龍系統の
「拙い、足を止めるな!」
「もうおっせーんだよ!」
ユートの忠告は遅くて、フリードはニヤリと嗤うと左腕の盾を翳した。
メドゥーサの瞳が開き、その輝きが匙を包む。
「そんな……」
「……匙先輩が?」
「石になっちまった!?」
木場、小猫、一誠は突然の事に目を奪われ、決定的な隙を見せてしまった。
「おらぁぁぁっ! 今度はチビ餓鬼だぁぁぁぁっ!」
「……あっ!?」
迅過ぎ避ける暇が無く、気付いた時には白刃が目の前に迫っていた。
ガキィィィンッ!
「呆けるな! 今は動いて盾の狙いを定めさせない事を考えろ!」
ユートがフリードの斬撃を妙法村正で防ぐ。
ペンタゴン以上の固定化や硬化の魔法が掛かっているとはいえ、薄く細い刀身の刃で受けたくはなかったのだが、これは仕方ない。
《Charge Up!》
「でりゃぁぁぁっ!」
「んだと!?」
直ぐに我に返った木場が魔剣を使って斬り付ける。
斬っ!
「ぐえっ!?」
残念ながらペルセウス座の暗黒聖衣に護られてて、ダメージは少ししか与えてはいなかった。
それでも此方は体勢を整える時間を得る。
「ナイス、アシスト!」
ユートは木場のフォローを称賛した。
「僕はエクスカリバーを赦さない……【
木場が創り出すのは風の魔剣──【
創った魔剣をバルムンク・レプリカが入ってない、もう一つの鞘に納刀した。
《Charge Up!》
木場に併せ、【
その内一本はバルムンク・レプリカの為の鞘。
もう一本は、木場の魔剣をパワーアップさせる為の鞘だった。
【
通常は【オーディンローブ・レプリカ】のチェストをベルト部位のみに限定、其処に【バルムンク・レプリカ】の鞘と剣本体を佩かせている。
だが、これは木場用。
なら【
その効果は納刀した剣の性能を倍加する事。
《Charge Up!》という電子音声が鳴り響き、魔剣や【バルムンク・レプリカ】の切れ味や破壊力、秘められた魔法などが倍に増す仕組みである。
木場の現在の魔剣で行えるチャージは三回で、四回目のチャージをした場合、抜刀の瞬間に魔剣が崩壊してしまう。
《Charge Up!》
《Charge Up!》
抜刀と納刀を繰り返し、木場の魔剣の威力が2の3乗される。
この辺は一誠のブーステッド・ギアと変わらない。
「はっ、しゃらくせぇ! 俺っちの【
「なっ! 消え……」
斬っ!
「ぐうっ!」
「木場ぁぁぁぁっ!」
木場が斬られ一誠が絶叫を上げた。
然し本来は聖剣に斬られた事により、腕が上がらなくなるくらい手酷いダメージを受ける処だったけど、木場が受けたのは斬られたダメージのみ。
「ああん? 悪魔が聖剣に斬られたのによ、なーんで消えねーの?」
「ざ、残念だったね。僕は緒方君の人工神器ある【
【
火に弱い者がこれを着けた場合は火を無効化出来、光に弱い者は光を無効化してしまう素敵仕様。
正確には弱点を反転させ逆に強く出来るのだ。
だから粗方は無効化出来る訳だが、強すぎる攻撃は無効化し切れない可能性もあった。
それでも悪魔が光力や聖なる力を恐れなくて済む、これは大きなアドバンテージであり強味となる。
「よし、木場は上手く扱えているな!」
とはいえフリードの能力は決して低くはない。
「あのはぐれ悪魔祓い……白銀聖闘士と同じくらいの小宇宙は確実に持っているみたいだし、マッハ5にも及ぶ速度を【
下手をすればマッハ20にも届くやも知れぬ速度。
「ハッハ! ならそっちの【
「げえっ!? 俺かよ!」
フリードは一誠の
「させない!」
明後日の方向から飛んできた光の槍を、フリードは危なげ無く弾く。
「ううん? こりゃまた、レイナーレ姐さんじゃアーリませんか? 何ですか、悪魔に尻尾を振って股でも開いて命乞いしたんスか? あ〜らら、みっともないったらあ〜りゃしないや。ギャハハハハッ!」
「くっ!」
夕麻はフリードの指摘に悔しそうな表情となる。
実情は兎も角、悪魔陣営に居るのは間違いない。
《Explosion!》
「てめえ! 夕麻ちゃんがどんな気持ちだったのか、解りもしねえクセに!」
「解りたくもねーっての、悪魔の気持ちなんざよ!」
腕を振り回すがフリードには全く当たらない。
「いつまでやっておる」
そんな戦闘の最中、老人がツカツカと歩いて来る。
「んだよ〜、バルパーの爺さん。今、良いとこなんだけどさぁ?」
白けた風にフリードが口走ったのは木場にとって、正に仇とも云える名前……
『『『バルパー・ガリレイっ!?』』』
突然、この場に現れたのがバルパー・ガリレイだと知った木場は、憎々しい目で睨み付ける。
「フリード、君はいつまでも何をしているのだね?」
「んー、悪魔狩り?」
「此方も差し迫っておる。遊んでおらずにさっさと戻るぞ」
「へいへい。んじゃ、俺様は帰るぜ。くけけけ!」
戦域から離脱しようとするフリードを追うべく動こうとする木場だが、ユートに肩を掴まれてしまい追えなかった。
バルパー・ガリレイとフリードが居なくなり、静寂を取り戻した空間でユートに対して木場が叫ぶ。
「何故、止めたんだ!」
「落ち着け。木場の目的はなんだ? 苛立ちや怒りをアイツにぶつける事か? それとも仲間の仇を討つ事なのか?」
「そんなの、決まっているだろう!」
「そう、前者なら僕が止める理由もなかったけどね、後者なら本末転倒になりかねないんだけど、そこら辺は理解してる?」
苛立ちや怒りをぶつけたいだけなら、木場が奴らを追って暴れれば良いだけ。
然し、木場の本当の目的は無念の内に散った仲間達の仇を討つ……
一人で追った処で成果などある筈もないのだから、そんな行為は無駄にしかならない。
「余り目先の憎しみに囚われ過ぎると、本懐を遂げられないぞ? 況してや向こうには石化攻撃もあるし、下手を打てば石化されてしまって、元に戻れた頃には仇が斃されていたなんて事になるかもよ?」
「うっ!」
凄く嫌だが、有り得そうな未来予想図が木場の脳裏にありありと浮かんだ。
しかも、砕かれて元に戻る事すら不可能な場合も少なからずある。
「な、何ですかこれは!」
「うん? ソーナ会長……とリアス部長」
木場の説得をしてたら、いつの間にやら王コンビがこの場に現れていた。
「魔力の乱れを感じたから急いで来たんだけど、この様子だと既に終わっているみたいね」
「ああ、まあね。フリーダムは撤退したけど」
「フリーダム? 自由って何かしら?」
「兄貴、フリードだから」
意味不明な事を言われ、目をパチクリと瞬くリアスの疑問を受け、ユーキが突っ込みを入れた。
「緒方君、どうして匙が石になっているんですか?」
大事な眷族であり、弟の様な少年の石像を前にいつになく取り乱すソーナ。
「ちょっと不測の事態があってね。その辺りは学園に一旦戻って説明をしよう」
「匙はどうしたら?」
「治療するから大丈夫」
「え?」
アッサリ治療なんて言葉が出て、ソーナは疎か周りの皆も呆けてしまう。
「みんなには言ったけど、僕には石化なんて何ら脅威にはならない。何故なら、僕の故国が悪魔に襲撃された時──あ、リアス部長達とは無関係だから。その時に伯爵級悪魔が村人に永久石化の呪いを掛けたんだ」
存外と重苦しいユートの過去を聞いて、全員が暗い雰囲気に包まれる。
「当時の僕では、中途半端に石化を受けた従姉を救う事しか出来なかった」
あの当時、ユートの身内は双子の兄と従姉だけしか居なかった。
後は幼馴染みの少女や、日頃から酒場で愚痴りながらも、甲斐甲斐しく面倒を見てくれる爺さん。
村に住んでいなかったが一応は祖父も居た。
その数少ない身内の中、いつも魔力が殆んど無かった〝出涸らし〟の自分を、兄と同様に気に掛けてくれた一人である従姉。
まあ、先の身内で兄以外は皆そうだったのだが……
村人は殊更ユートを差別したり嫌っていた訳でもなかったが、どうしても兄を優先しがちではあった。
従姉は悪魔によって両脚を石化されて、倒れた拍子に足首から砕けてしまう。
石化そのものは悪魔を潰していた行方不明であった父親が処置をしていたが、この侭では義足を使うかクローン培養した新しい脚を接合するしかない状況。
ユートは記憶を取り戻した瞬間、封じられていた魔力を取り戻しており、魔法の【錬成】で砕けた両脚を繋いだ。
石化している以上、それは“石”という物質であり生命体ではない。
故にか【錬成】は思った以上に巧くいき、砕けた脚は元通りとなる。
その後、解呪して石化も治して事無きを得た。
だが、流石に永久石化の呪いはどうしようもなく、とある場所へと安置される運びとなる。
それがユートの説明。
「んで、何年か掛けて永久石化を治す術を構築して、今に至る訳だよ」
「という事は……」
「この石化は本来、元凶のメデューサの盾を破壊しなけりゃ戻らないけどね」
ユートは懐内を探って、長い畳針みたいな金色の針を取り出した。
「マジックアイテム【金の針】……」
これは一見、針の形をしているが実際には様々な術式を織り込んだ儀式の塊。
そこに籠めた意味とは、【石化解除】でそれに特化されている。
クルクルとシャーペンローリングの要領で回して、石化された匙のド頭に突き刺した。
プス〜ッ! と、間抜けた音と共に刺さった【金の針】が、まるで匙の中に溶け込む様に沈む。
その途端、匙が元の血色を取り戻した。
「あ、あれ? 俺ってどうなったんだ?」
「匙っ!」
「か、会長!?」
涙ぐんだソーナに抱き付かれ、何がなんだか解らない匙だったが、取り敢えずは役得だと思う事にする。
ユーキとしてはゼノヴィアの所在が気になるけど、今は部室に戻っての報告を優先した。
仮にゼノヴィアがフリード達を追ったにせよ、原作の通りに推移する可能性が高いからだ。
イリナが居ないというのがイレギュラーだったが、ゼノヴィア・クァルタ程の実力なら逃げ切れる筈。
そう信じて……
尚、本来の世界線だったらお仕置きを受けていた匙だったが、石化されていた心配が勝ってお尻ペンペンは無かったらしい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「それで、ユウ。さっき、貴方が言ってた不測の事態というのは何なの?」
【オカルト研究部】の部室に戻り、あの戦闘で何があったのか訊ねるリアス。
ユートは席を立ち、ホワイトボードの前に行き説明を開始した。
「以前にアーシアと一緒に居た、はぐれ悪魔祓いであるフリーズとかいう奴が現れたんだが……」
「兄貴、フリードだよ」
「ん? ああ。で、ソイツが盗まれた聖剣の一振りを持っていたよ。そこまでは想定内なんだけど」
はぐれ悪魔祓いの誰かが盗まれた聖剣を手にしているだろうと、ユートがそんな風に考えていたのは確かだった。
「奴はいつの間にか小宇宙を身に付け、暗黒聖衣まで手に入れていた」
「ブラッククロス?」
「そう言えば、聖闘士に関してもまだ概要程度にしか話してなかったっけ。序でに話しておくよ」
ユートは聖闘士というものを説明する。
「遥かな神代の時代より、伝説は謳う。地上に邪悪が蔓延る時必ずや現れるという希望の闘士──聖闘士。彼らは星座の聖衣を纏い、己の肉体に秘められたエネルギー小宇宙を爆発させて戦う。アテナを守護し地上の愛と平和を守る戦士」
異世界、平行世界の地球の話だと断った上でユートは語る。
地上を侵攻する存在と常に命懸けで闘い、無辜の民を害するモノ達を退けてきた闘士達の物語を。
ギガスとの記す事すら憚られるギガントマキア。
ティターンとのティタノマキア。
軍神アレスと、彼の擁する
邪神エリスと彼女が擁する
偽りの太陽神のフォェボス・アベルと、彼の擁するコロナの聖闘士との闘い。
北欧神オーディンに仕える地上代行者、ドルバル教主やヒルダが擁する
海皇ポセイドンと、彼の擁する
冥王ハーデスと、彼の擁する
聖魔天使ルシファー達との闘い。
アニメ、劇場、原作版、小説など何でも御座れのごちゃ混ぜな説明ではあったのだが、別段間違っている訳でもなしユーキは口を挟まず黙っていた。
「前にも話したけど、聖衣は星座をモチーフに象り、その概念なんかを能力に与えている。地獄の番犬座なんて今の88星座には存在しない星座の聖衣も在る。で、ペルセウス座は本来だと白銀聖衣。特殊能力は、メドゥーサの盾による石化という訳だね。フレイルの暗黒聖衣も同様で、石化が可能らしい」
「フレイル?」
「兄貴、もうフしか合ってないよ。いい加減に覚えようよ……」
「む、判った」
ユートにとってフリードは終わった相手らしい。
覚える気が皆無だけど、ユーキも呆れている事でもあるし、少し覚える心算になった様だ。
「フリード、フリード、フリード、フリード……」
ブツブツと呟く様は少しばかり怖い。
「質問、良いかしら?」
「うん? どうぞ」
「メドゥーサの盾と言ったわよね? 聞いた限りだと目を合わせなければ良さそうな印象だけど、目を閉じるのは有効?」
「リアス部長、その手は既に彼方の世界で
「そ、そうなの?」
目を閉じる、目隠しに、盾に映った姿を見るなどで失敗をしていた。
「結局、紫龍は目を潰してメドゥーサの盾の魔力に抗ったんだよ」
アルゴルをして正気かと言わしめた方法である。
「僕も良いかい?」
「構わないよ、木場」
「あのフリードの強さは、いったい何なんだろう?」
木場でさえ見切れずに、追い付けない速度はメドゥーサの盾も相俟って、これは余りにも脅威だ。
あれは這い寄る混沌の仕業であろうが、証明の術など無いから伏せておく。
「何処かで小宇宙を体得、白銀聖闘士上位の力を得た上に、【
正直、ユートにはコカビエルがどのくらいの強さかなどは計りかねるが、仮にも最上級の幹部堕天使だ。
一筋縄ではいかないと感じており、フリードの相手を片手間では出来ないだろうと思っている。
「少なくともセラ並……には考えておかないとな」
ユートは密かに覚悟を決めていた。
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尚、自サイトの方は明日の更新となります。