ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第1章:旧校舎のディアボロス
第3話:転入×紹介


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「私立駒王学園(くおうがくえん)……か」

 

 少女に言われた場所を捜してみると、確かに学校が存在していた。

 

 【私立駒王学園】

 

 ユートが調べた限りで、数年前まで女子高だったらしいが、現在は共学で女子の割合が多いとか。

 

 ユートが転向するべきは駒王学園の二年生だ。

 

 見た目の姿は16歳で、冥界で会ったグレモリー家の好意から、後見人を務めて貰って戸籍など社会的な立場を固める。

 

 編入試験もバッチリで、駒王学園二年生となった。

 

 二年生に編入する理由は三年生では在学が短かく、一年生は那古人が担当してくれるが故に、その間に在る二年生の方が都合が良かったのだ。

 

「マスター……いえ、お兄様。お弁当が出来ました。学園に向かいましょう」

 

「ああ、行こうか那古人」

 

 ユートは【ユート・S・オガタ】でなく、緒方優斗として学園に通う。

 

 那古人も魔導書の【ナコト写本ラテン語意訳】ではなくて、緒方那古人として通う事になる。

 

 〝前回は〟結局、学生にもなれなかった那古人は、何気にユートとの学生生活を楽しみにしていた。

 

 よくある登校風景を見ながら、ユートと那古人は学園までの道を往く。

 

「愉しいですね、お兄様」

 

「そうだな。ハルケギニアでの学生生活を思い出す」

 

 前回は、学園に生徒として通った訳ではなかった。

 

 一応、マサチューセッツ工科大学に通ったが、あれは大学卒業の資格と教員免許を獲る為の建前で、それ以上の意味は無い。

 

 こういう雰囲気での登校は実に久方ぶりである。

 

 暫く歩くと、駒王学園の校門が見えてきた。

 

「じゃあ、取り敢えず職員室に向かうかな?」

 

「はい。処でお兄様」

 

「何だ?」

 

「いい加減、周囲の視線が鬱陶しいので消しても宜しいでしょうか?」

 

「良い訳がないだろ!」

 

 物騒な事を言う那古人に頭を抱えるユート。

 

 どうも道を行く男子が、那古人をジロジロと見つめている様だ。

 

「那古人が可愛いから見ているだけだ。実害が無い限りは放っておけばいい」

 

「判りました」

 

 那古人は何処と無く嬉しそうな声色で応えた。

 

 可愛いと言われたのが嬉しかったらしい。

 

 ユートは案内板で職員室の場所を把握して、那古人を連れると校舎へと入っていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 時は遡りユートと那古人が転入する前日の放課後。

 

 【オカルト研究部】と書かれた看板のある建物の中では、数人の男女が集まって座っていた。

 

 少し癖のある、長い真紅の髪の毛が鮮烈な女性。

 

 長い黒髪をポニーテールに結っている女性。

 

 いずれも一度は顔を埋めてみたいて、男子学生が思いそうな〝きょぬー〟だ。

 

 小柄な体躯で小学生にも見えるショートヘアの少女──何故か黒いマントを羽織っている──は、当然ながらツルンペタン。

 

 金髪碧眼で、左の目元に泣き黒子がある爽やかな、貴公子然とした少年。

 

「よく集まってくれたわ。私の可愛い下僕達」

 

 紅毛の女性が、端から聞けば電波にしか聞こえない事を宣う。

 

 何処の女王様かとツッコミたいが、実は【女王】は隣で微笑む黒髪ポニテの方だという罠。

 

 真紅の髪の少女は【王】なのだ。

 

 兵士を騎士を戦車を僧侶を女王を、それらを統括している【王(キング)】。

 

 自身達をチェスの駒に見立てたシステム。

 

 彼女らはそんなシステムの内に在った。

 

「朱乃、報告をお願い」

 

「一週間前に件の少年が、我らが駒王学園に編入試験を受けに来た事は、報告をした通り……」

 

 黒髪をポニテールに結っている姫島朱乃が、報告書に目を落としながら報告を始める。

 

 ユートがアッシュブロンドの少女を救って一ヶ月、サーゼクス経由で試験やら書類やらの処理をして貰っており、漸く登校の目処が付いた処だ。

 

「更にもう一人、妹として女の子が試験を受けた訳ですが、二人共が好成績にて合格しました。一週間の準備期間を置いて、明日から登校の筈ですわ」

 

「だ、そうよ。良かったわね小猫?」

 

 真紅の髪の女性、リアス・グレモリーは言う。

 

 それに対し、小柄な少女──塔城小猫はプイッとそっぽを向いた。

 

「……別に私はただ、過日のお礼を言いたいだけですから……」

 

「あらあら」

 

 小猫の言葉に、右手を頬に添えながら微笑む朱乃。

 

「問題なのは、小猫でさえ持て余した怪物を、彼らが斃したという事実ね」

 

 リアスはその未知の実力に興味があるのか、碧い瞳を輝かせている。

 

「それに、何の目的で駒王学園に転入してきたのか」

 

 金髪爽やか少年──木場祐斗は、何が目的なのかが見えてこない事を不気味に感じていた。

 

「……目的、無いと思います。少なくとも私達に関係はしてないかと」

 

「あら小猫、どうしてそう思うのかしら?」

 

「彼は……駒王学園の名前自体を知らなかったから」

 

 リアスの質問に答えてみるが、本人もいまいち説得力に欠けると考えている。

 

「寧ろ、此方を調べ尽くしていて小猫に接触する為、化物を喚んで恩を売ったとも考えられるわよ?」

 

 故に、アッサリと反論されてしまう。

 

「リアスの言う通り、警戒はした方がいいかしら」

 

 ユートの全く与り知らぬ所で、何故だかどんどんと警戒心が鰻登りに引き上げられていく。

 

「祐斗、明日の放課後に彼をこのオカルト研究部の部室に連れて来て貰えるかしら?」

 

「了解しました。リアス部長」

 

「小猫は妹さんを」

 

「……はい」

 

 リアスは満足気に頷き、全員に宣言する。

 

「それじゃあ、今日は解散しましょうか」

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 転校の挨拶。

 

 それは転校生の宿命。

 

 決して逃れ得ぬ絶対因果ではあるが、ユートは特に問題無かった。

 

 慣れているから。

 

「私立○○○○学園から転校してきた、緒方那古人と言います。宜しく」

 

 最低限の挨拶のみをし、さっさと席に着いた。

 

 余りにも簡潔な挨拶で、担任もクラスメイトも呆然としている。

 

「宜しく」

 

「……はい」

 

 偶々か、或いは何等かの力でも働いたのか、那古人の隣は小猫であった。

 

 余り多く話さない小猫、ユート以外に余り心を開かない那古人。

 

 ある意味で似た者同士。

 

 丁度いいと考え、小猫は意を決して那古人に話し掛けてみる。

 

「……放課後、私に付いて来て下さい」

 

「お断りします」

 

 にべもなく、ソッコーで断られてしまった。

 

 何がいけなかったのか? 首を傾げる小猫。

 

 攻め口を変えてみる。

 

「……実は貴女のお兄さんも……っ!?」

 

 睨まれた挙げ句、駒王学園の魔力持ちが警戒する程の魔力を発せられた。

 

 ガタリッ!

 

 小猫はその莫大な魔力──否、悪魔ではないのだから魔法力なのだが、それを感じて思わず立ち上がる。

 

「どうした、塔城?」

 

 魔力を感じられない教師は訝しい表情だ。

 

「……いえ、何でもありません」

 

「まあ、丁度いいか。前に出て問題を解いてみろ」

 

「え゙?」

 

 結局、問題を解く羽目になってしまった。

 

 休憩時間に再度アタックを掛ける。

 

「魔力を出さずに聞いて下さい」

 

 横目で睨まれはしたが、何とか言葉を絞り出す。

 

「貴女のお兄さんも呼んでいるので、貴女も来て頂けませんか?」

 

「少し待ちなさい」

 

 那古人は念話でユートに訊いてみる。

 

〔マスター、少しお話が〕

 

〔どうした?〕

 

〔隣の席の、前にYIGから救った娘が放課後に来て欲しいと言ってきました〕

 

〔だとしたら、此方にも来るかな? 招待は受けといてくれるか〕

 

〔イエス、マスター〕

 

 念話を切ると小猫に向き直って応える。

 

「判りました。それでは、放課後に」

 

「……は、はい!」

 

 顔に出してないものの、ホッととても小振りな胸を撫で下ろす。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは割りと受け容れられていた。

 

 特に女子は『キターッ!』とか、騒いでいたり……

 

 約三名に睨まれたりし、丸刈りの松田、キザっぽい眼鏡の元浜、そして何処か熱血主人公っぽい髪型をした兵藤一誠。

 

 男女比率3:7の居心地が悪い中、堂々とおっぱい談義をする強者達である。

 

 何とかして良好な関係を作らないと、面倒になるかも知れないなと考えつつも授業を受けていた。

 

 休憩時間に、那古人からの念話を受ける。

 

 そして、放課後……

 

「やあ、君が緒方優斗君だね?」

 

 金髪の少年が教室にやって来た。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートは金髪の少年に連れられ、校舎の裏手の木々に囲まれた旧校舎と呼ばれる建物へと向かう。

 

 外観は木造で然し壊れた部分は特に無く、古いだけといった風情だ。

 

「えーっと、校舎裏ってのは定番だけどさ」

 

「何がだい?」

 

「早速、転校生を〆ようって事なのかな?」

 

 金髪の少年はポカーンと口を開け、身振り手振りで首を横に振る。

 

「ち、違うよっ! 僕らは何処の不良だい?」

 

「(〝僕ら〟は……ね)」

 

 その言い回しから複数人なのは理解出来た。

 

「ふむ、校舎内に三人と……那古人か」

 

「なっ! 判るのかい?」

 

「気配くらい読めるよ」

 

 事も無げに言うが、気配なんてそれなりの力が無ければ感じられない。

 

 確信する。

 

 やはり彼こそが仲間を救った者であるのだと、少年はユートを校舎に入るように促すして二階建ての校舎の階段を昇ると、奥の方へと歩いた。

 

 多少なり経年劣化による老朽化は在るが、窓ガラスにはどれも罅一つ無いし、窓のサッシにも埃が浮いていないし、廊下にも塵一つ落ちていない。

 

 これは誰かが綺麗に掃除をしていると云う事だ。

 

 そしてある程度、歩を進めていくと唯一プレートの掛かった教室が在る。

 

 其処から気配がしていると云う事は、この教室こそ目的地で間違いあるまい。

 

 プレートには恐らく教室の名前だろう文字。

 

 【オカルト研究部】

 

「……」

 

「どうかした?」

 

「いや、何でもないよ」

 

 ちょっとシュールな感じだとは言えない。

 

 彼や中の者から魔の気配がするという事は、彼らは魔に属する存在の筈。

 

 謂わば、オカルトを体現した様なものだ。

 

「(オカルト研究部って、自分達の研究でもしてるのかな?)」

 

 【魔を滅する者】としてみれば討つべき存在なのかも知れないが、ユートは別に正義を盲信している正義バカな訳ではないのだし、〝魔〟に属しているからといって、そんな理由で討つ心算は無い。

 

 それが【討つべき邪悪】ではない限りは……

 

「部長、彼を……緒方君を連れて来ました」

 

「ご苦労様、それじゃあ入って貰って」

 

 入室の許可を得て、引き戸を開けると其処は成程、正にオカルト研究部と呼ぶに相応しい内装だ。

 

 よく判らない紋様がびっしりと床や壁や天井には描かれており、中央の床には巨大な魔方陣がある。

 

 幾つかソファーが置かれていて、黒い髪をポニーテールに結ったお姉さんと、所謂アッシュブロンドに近い白髪をショートに刈り、黒マント羽織る少女、そして那古人が座っている。

 

 また、デスクがデンと置かれていて、其処には長くて鮮烈な紅い髪の毛の女性が席に着いていた。

 

 黒マントを羽織っている小柄な少女には、ユートも見覚えがある。

 

 一週間程前、Yigに襲われてたのを助けた娘だ。

 

「初めまして。私の名前はリアス・グレモリー。このオカルト研究部の部長よ」

 

 紅毛の女性が、にこやかに自己紹介をする。

 

「ふむ、初めましてだね。緒方優斗。転校生だ」

 

 【純白の天魔王】からの情報に有った名前、それにサーゼクスを思わせる紅色のスカーレットブロンド。

 

「(彼女がサーゼクスの妹にして、この世界を物語として視た場合の主要ヒロインの一人、リアス・グレモリーか)」

 

「あらあら、ご丁寧に……私(わたくし)はこの部活動で副部長をしております、姫島朱乃と申します。どうぞ以後、お見知りおきを」

 

 絶艶と言うべきなのか、少々タレ目で笑顔がとても似合う彼女は、駒王学園の制服だと女の子な部分が強調されて見栄えが良い。

 

 リアス・グレモリーも同じくだが、明らかに日本人から離れた美貌の持ち主と日本人然とした大和撫子では意味合いも違う。

 

「……私は塔城小猫です。こないだは助けて頂いて、ありがとうございました」

 

 一度立ち上がってペコリと頭を下げてきた。

 

 無表情な様であり、何処か感情の見受けられる金色の瞳がユートを見つめる。

 

「あの、このマントは」

 

「それは上げると言ったんだし、要らなきゃ捨てるなり何なりとしてくれる?」

 

「いえ……」

 

 大切な物を見るが如く、ソッとマントを撫でた。

 

 どうやら気に入ったみたいではあるが、常に身に付けているのだろうか?

 

 ユートもマントは身に付けているが、此方の場合はハルケギニアで暮らしていた頃からの習慣で、無いといまいち据わりが悪い。

 

 ハルケギニアの貴族階級とメイジは、普通は基本的にマントを着用する。

 

 小猫に譲ったマントも今のマントも、高い防御性能を持たせたマジックアイテムでもあった。

 

 能力の一つに伸縮自在というのがあって、あの晩は小猫の肢体をスッポリと足首まで覆い隠していたが、今は尻の辺りまでだ。

 

 防刃防弾性にも優れて、羽織っていれば暑さや寒さや湿気等も防ぐ環境適応力もあった。

 

 また、魔力攻撃を半減する効果も付加されている。

 

 余りにも高性能な為に、王族──ウェールズ皇太子やイザベラなど──やからの注文が多かった。

 

 あーぱー姫やゲルマニアの皇帝閣下ですらも欲した程の代物だ。

 

 マント一枚に10000エキューなどという、凄く破格の値段だが……

 

 とはいえ、現代日本で身に付けると激しく浮く。

 

 ユートも街では好奇の眼に晒されていた。

 

「で、僕が木場祐斗。宜しくね緒方優斗君……って、何だか変な気分だね。読みが同じだと」

 

 女子を魅了して止まないだろう、人懐っこい笑みを浮かべながら言う。

 

「じゃあ木場ゆうじにでも改名したら?」

 

「何故に!?」

 

「何故かねぇ? 最後には死にそうな名前だけど」

 

 所謂、ネタだが教えても解るまい。

 

「どうぞ、粗茶ですが」

 

「うん、ありがとう」

 

 お茶汲みが仕事ではあるまいが、お茶を淹れてくれたので飲んだ。

 

「結構な御手前で」

 

「あらあら。お上手ですわね?」

 

 ニコニコと右手を頬に添えると、小首を傾げる。

 

 とても絵になる仕草だ。

 

「それじゃ、朱乃と祐斗……えっと……」

 

 やはり読み的に同じだと呼び難いらしく、リアスは大粒の汗を流し頬を掻く。

 

「ユウで良いよ。ある大切な女性(ひと)と再会した時に貰った愛称だから」

 

 そう言うユートの表情はとても幸福そうであったという。

 

「そう、じゃあユウ。三人とも席に着いて頂戴」

 

 取り敢えずは、立ち話も何だという事であろうし、ユートも大人しくソファーに座る。

 

「先ずは貴方と妹さんに、ありがとうと言っておくわね? お陰で大切な部員を喪わずに済んだわ」

 

「別に、見てしまったからには、見捨てるのも後味悪いからね」

 

「それでも……よ」

 

 リアスは小猫の救出を心から喜び、誠心誠意で感謝をしていた。

 

 ユートにはそれが解り、だから素直に受け取る。

 

「で? 真逆と思うけど、礼を言いたいが為だけに呼んだんじゃないよね?」

 

「ええ、此処からが本題。……貴方は、貴方達は何者なのかしら?」

 

 力と頑強さでは定評のある小猫、彼女のパワーで打ち砕けぬ鱗を持ち、頑強な躰に平然とダメージを与える腕力。

 

 そんな化物を相手にし、簡単に斃してしまった。

 

 正体が気になるし、どうしてこの地に……駒王学園にやって来たのか……

 

「ハァー」

 

「何故、溜息を吐くの?」

 

「前にも何処ぞの金髪ロリが同じ事を言われたけど、だから同じく応えようか」

 

 その瞳には、口調には呆れが混じる。

 

「僕は……この地この場に居る僕という存在。それ以外の何者でもない。仮令、人であれ、魔であれ、神であろうとも……だ」

 

 その科白にリアス達は、何故か動揺して瞳を彷徨よわせていた。

 

「仮に、僕が自分を悪魔だと言えば信じるか?」

 

「えーっと……」

 

 何だか忙しなく瞳が行ったり来たりしている。

 

 アイ・コンタクトで器用に会話していた。

 

〔これはカマを掛けられてるのかしら?〕

 

〔あらあら〕

 

〔……〕

 

〔アイ・コンタクトで沈黙は意味無いわよ、小猫〕

 

〔多分、ただの喩え話だと思いますが……〕

 

 兎も角、リアスが代表して会話を続ける事に……

 

「ハッキリとした証拠でも提示しなけりゃ、信じたりはしないだろ?」

 

「そ、そうね」

 

「なら、何者かを問うのは無意味だと思うよ」

 

 ユートはユートでしかないのだから。

 

 どんな力を持とうと彼のモノの使徒であろうとも。

 

「だからリアス──先輩? が、何者であれ特に気にはしないよ?」

 

 ビックゥーッ!

 

「(あるぇ? 何だかいつの間にか私達が尋問されてるぅぅぅ!?)」

 

 侮れないなと、リアスはそう思った。

 

「いったいどういう意味かしら?」

 

 少し冷や汗を流しつつもリアスは口を開く。

 

「四人共、昏き闇の波動を発している。人間では有り得ない波動だ」

 

 ユートはそうハッキリと言った。

 

 リアスは溜息を吐く。

 

 此処まで言うからには、本当に感じているのだろうと観念したのだ。

 

「まったく、そんなものを感じ取るだなんて、本当に何者かしらね」

 

 少し困った表情でユートの顔を見るが、嫌悪感は感じない。

 

 恐らくは純粋に驚いているのであろう。

 

「グレモリー。ソロモンの七十二柱の悪魔に名を列ねているけど、その辺は関係があるのかな?」

 

 グレモリーとはソロモン七十二柱の魔神の一柱で、地獄於いて二十六軍団を従える序列五十六番の強壮な公爵であり、過去、現在、未来の宝物に関して語ると云われている。

 

「人間の世界では、確かにそう云われてるわね。私は……いえ、私達は悪魔と呼ばれる種族よ」

 

 そう言ってリアスは背中から黒い羽根を広げる。

 

「ふーん。然し、そうなると君ら悪魔の名前ってのは個体名じゃなく、家名っていう訳か……」

 

「ええ、そうよ」

 

 正鵠を射た答えを聞き、リアスは満足気に頷いた。

 

 リアス達……悪魔は本来だと七十二の貴族によって成っている。

 

 否、正確には成っていた──というべきか。

 

 遥かな昔、天界の神々と冥界の悪魔と天界を逐われたとされる堕天使により、三界の戦いがあった。

 

 それによって、悪魔も数が随分と減ってしまう。

 

 中には絶えた家名も在るかも知れない。

 

 ユートはそもそも、未だにこの世界の成り立ちを知らないし、【ハイスクールD×D】は読んでいない。

 

 故に、【純白の天魔王】から主要人物の名前だけは教えて貰っているのだが、先の事に関しては全く以て見えていなかった。

 

 これはもう少し先に知る事になる訳だが、七十二柱は既に半壊している。

 

 フェニックス家の三男坊によれば、先の戦争の影響で【七十二柱】と称されていた悪魔は本当に半数も残ってはいないらしい。

 

 つまりユートの言っていたソロモン七十二柱の悪魔とは、この世界では冥界に於ける貴族の家名という事である。

 

 【グレモリー】という、悪魔個体が存在するのではなくて、【グレモリー家】という家が……貴族が存在しているのだ。

 

「(さてメインキャラな上にサーゼクスの妹と行き成り邂逅か、幸先が良さそうな滑り出しだね)」

 

 この数奇な出逢いに感謝をすると共に、仲良くしておいた方が何かと便利だと打算も含めて苦笑いする。

 

 チラリと、小猫の隣に座ってクッキーを頬張っている那古人の方を視たなら、念話が返ってきた。

 

〔マスターがお気に召す侭にやりたい様になさるのが宜しいかと。お姉様でもそう仰有りますよ〕

 

 その表情は薄く微笑みを浮かべており、ユートの全てを受け容れている。

 

 ユートの持つ魔導書である【ナコト写本・ラテン語意訳】には、管制人格と呼べる存在が二人居た。

 

一人は那古人、本人だ。

 

 那古人こそがラテン語意訳に生じた魔導書の精霊、然し元々ユートが獲た時にこの魔導書は、精霊が宿る処か魔力も碌に通ってはいなかった。

 

 ユートが手にする事で、直接魔力を獲て序でにパスを通したのである。

 

 後は周囲のマナを少しずつ吸収し、前回での活動の際に目醒めた。

 

 前々回、ハルケギニアでの活動の時には終ぞ目醒めなかった為、代わりの存在を括る事で使用していた。

 

 それが那古人の言っているお姉様である。

 

 ユートが括ったのは嘗てハルケギニアでの魔法学院時代に、二年生に進級する為の儀式(イニシエーション)たる【春の使い魔召喚】で召喚した使い魔。

 

 人型をしているが人間ではなく、一種の精神生命体であった事から、魔導書へと括り易かった。

 

 今も括られており、単純な戦闘能力は那古人など及びも付かない。

 

 多少、おつむが弱いという弱点も有ったりしたが、ユートと共に在る事によって少しは改善されている。

 

 普段は凛々しい騎士タイプの女性であり、実力も高い彼女を那古人は結構慕っている。

 

 また二人一組でバランスも良い。

 

 前衛型の彼女と、後衛型の那古人は那古人がサポートをして、彼女が前に出て戦えるからだ。

 

 因みにユートは万能型(オールマイティー)。

 

 まあそれは兎も角とし、那古人も悪意は感じていない様らしい。

 

 那古人は原典(はは)に似ていてご主人様に忠実で、ご主人様を全肯定する。

 

 反面、原典(はは)よりも社交性が高い。

 

 即ち、エセルドレーダより使い易いのだ。

 

 悪意を感じない者には、那古人も決して無為に拒絶したりしない。

 

 友人も普通に作る。

 

 前回でも、那古人は京都出身の大和撫子風味な少女と友誼を結んでいた。

 

「(那古人の眼は確かだからな。なら大丈夫か)」

 

 ユートは彼女らと動く事を視野に入れる。

 

「ねえ、貴方が何者なのかはもう訊かないわ。けど、貴方の力には興味あるのだけど……?」

 

「力?」

 

「ええ。私達、上級悪魔は【悪魔の駒】を使って下僕を創れるわ。それはチェスの駒の形で、その駒の特性を獲られるの」

 

 そう言って、チェスの駒を取り出して見せる。

 

 駒の形は兵士(ポーン)。

 

「ハドラー親衛騎団?」

 

「? 何かしらそれ?」

 

「いや、何でも無いよ」

 

「そう……」

 

 ユートはチェスの駒で下僕を創ると言われ、頭に浮かべたのが神鍛鋼(オリハルコン)の駒から禁呪により生み出された【ハドラー親衛騎団】だ。

 

「神鍛鋼(オリハルコン)製じゃあなさそうだね」

 

「当たり前じゃないの……そんな稀少金属で造れる訳がないわ」

 

 呆れた様に言われた。

 

 確かに、七十二柱が一組ずつ持っていたと仮定し、それが一組で十五駒。

 

 兵士(ポーン)が八駒。

 

 騎士(ナイト)が二駒。

 

 僧正(ビショップ)二駒。

 

 城兵(ルーク)が二駒。

 

 女王(クイーン)が一駒。

 

 王(キング)は主人自身だから数えない。

 

 72×15=1080

 

 小さなチェスの駒とはいっても、1080個も造ったら可成りの量だ。

 

 勿論、そんな数程度では済まないのだが……

 

 因みに云うと【悪魔の駒】の場合、城兵は戦車と書き僧正は僧侶と書く。

 

「で、現在の私の下僕は、小猫が戦車(ルーク)、祐斗が騎士(ナイト)、朱乃が女王(クイーン)なんだけど、その特性は戦車(ルーク)が馬鹿げたパワーと屈強なる防御力。騎士(ナイト)の特性がスピード」

 

「だとすると、女王(クイーン)は全ての特性を持っているって処かな?」

 

「正解よ」

 

 まあ、既に答えを知っていて言っている訳だから、とんだカンニングだ。

 

 そもそも女王(クイーン)とはその移動能力が前後、左右に、斜めと全方向に進める事が可能となっている謂わば万能型。

 

 チェスに於ける最強の駒と呼ばれる所以である。

 

 グレイフィアがサーゼクスの【女王(クイーン)】というのは、ユートとしても納得していた。

 

「だけど、そんなパワーと防御力を持った子猫をして歯が立たなかった怪物を、貴方は意図も容易く斃したと聞くわ。しかも、目にも留まらぬ速さで動いていたとも言っていた」

 

 小猫は確りと報告をしていたらしい。

 

「それだけの能力を持った人間が転入してきたのよ、下僕に欲しいと思ったとしてもおかしくないわ?」

 

「成程。要するに悪魔の駒で悪魔(げぼく)にならないか……と?」

 

「そうよ。まだ駒は残っているし、実は目を付けた子が1人居るのだけど、貴方達もどうかしら?」

 

 ユートは少し苦笑して、首を横に振った。

 

「断るよ」

 

「何故? 悪魔になるのが嫌かしら? 悪魔に転生したら寿命は延びるし、能力は上がるし、力を獲て魔王様に認められたら爵位だって貰えるわ。そうなったら貴方も悪魔の駒を貰って、自分だけの下僕を獲られるのよ」

 

 だがリアスの言う特典はユートの興味を惹かない、ユートの寿命は、使い魔を召喚して契約した際、刻まれたルーンの影響で彼女と同じだけの永いスパンを持っており、能力は駒の力を頼るまでもなく、下僕とか言われても似た様な仲間が既に大勢居るからだ。

 

 爵位だってハルケギニアでは最終的に大公である。

 

 つまりは、悪魔の駒で獲られるモノはもう持っていると……若しくは持っていたいう事だ。

 

 ユートはそう説明した。

 

 流石に、リアスも予想外だったらしく呆気に取られてしまったらしい。

 

 それにサーゼクス達からのオファーも断ってるし、その妹の眷属になるなどと意味不明だ。

 

「そんな訳で、協力者として【オカルト研究部】には在籍して、困った時には力を貸すのも吝かではないけれど、悪魔の駒で下僕として降る心算は無いかな」

 

「そ、そう。残念だわ……でも力を貸して貰えるなら良いかしら?」

 

 リアスは少し考えると、そう言った。

 

 こうしてユートと那古人は【オカルト研究部】部員として登録される。

 

 それから少し後、リアスが目を付けた少年のファースト・Deathから始まる少年の恋? の歴史……

 

 その運命に導かれ、物語は進むのであった。

 

 

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