ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第4話:一誠×夕麻

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 転校早々に、駒王学園の裏と昼を支配するリアス・グレモリーに会って、協力関係を結んだユート。

 

「マスター、何故リアス・グレモリーにあの話をしなかったのですか?」

 

「今はまだ良い。魔王の知り合いとか行き成り言われても混乱するだろうしね。それに魔王の七光り付きだとフィルターを掛けられてしまうし、素の彼女らを知りたいから」

 

 だから全てを知りつつ、何も知らない振りをした。

 

「成程……」

 

 そんな会話があの後でなされていた訳だ。

 

 どうせすぐにバラすが、今はリアス・グレモリーとその眷属を観察したい。

 

暫く学園に通っていると、同じクラスの〝三馬鹿〟と呼ばれる連中と、ある程度は仲良くなっていた。

 

 だが、どうしても付いていけない部分がある。

 

 それはオープンエロを高らかに宣言し、女子剣道部の部室の壁の穴から着替えを覗き観たり、大声でエロいDVDの話をしたりという処だ。

 

 何しろ、兵藤一誠の友人からして同好の士。

 

 松田──丸刈りで見た目には爽やかスポーツ少年。

 

 中学時代から様々な記録を塗り替えてきた程の万能なスポーツ少年らしいが、今の所属は写真部。

 

 【エロ坊主】だの【セクハラパパラッチ】だのと、不名誉極まりない渾名で呼ばれている。

 

 だが事実だ!

 

 元浜──眼鏡を掛けて、キザったらしい男なのだが眼鏡を通し、女子の体型を数値化出来るという意味が解らない特殊能力を持つ。

 

 渾名は【エロメガネ】と【スリーサイズスカウター】というもの。

 

 一誠の悪友である。

 

 まあ、別にユートは一誠が誰と友人関係を結んでいても構わないが、理解だけは出来ない。

 

 声を大にして『おっぱい揉みてえ!』などと叫ぶ神経は、どうあっても理解の範疇を越えていた。

 

 それもその筈、ユートならその気でいれば【揉む】処か、それ以上の事も出来るのだから。

 

 持つ者が、持たざる者を理解出来ないのは古来よりの倣いでもあるが故に。

 

 とはいえど、一誠との仲だけは壊さないようにしたいと思う。

 

 何故なら、ユートが聴いた【ハイスクールD×D】の主要人物の一人だから。

 

 ユートが彼の【純白の天魔王】から聴いた主要人物とは即ち──

 

 兵藤一誠

 

 リアス・グレモリー

 

 姫島朱乃

 

 木場祐斗

 

 塔城小猫

 

 アーシア・アルジェント

 

 ギャスパー・ヴラディ

 

 取り敢えず、これだけ覚えていれば後は勝手に進んでいくと言われている。

 

 現状、未だに出逢っていないのはアーシア・アルジェントとギャスパー・ヴラディの二人だ。

 

 名前を聴いてない者は、その内に出逢うだろう。

 

 とはいえよもや主要人物と会う前に、その家族と行き成り会う事になるとは、ユートも予測してなかった訳だが……

 

 そんなとある日の事……ユートがいつも通りに登校していると、機嫌の良さそうな一誠に挨拶された。

 

「よう、おっはよー!」

 

「ああ、おはよう」

 

 ふと見れば、駒王学園とは違う制服を着た、艶のある長く黒い髪の毛をストレートに流したのスレンダーな体型の少女と仲良く二人で歩いている。

 

「一誠、その子は?」

 

「んふふ〜! よくぞ訊いてくれた! この子は俺の彼女の天野夕麻ちゃんだ」

 

 ユートは一瞬、固まったかと思うと一誠の肩に手を置いて……

 

「一誠……病院と警察……どっちに逝く?」

 

 切ない瞳になって言ったものだった。

 

「って、何でだよ!?」

 

「其処らの女の子を連れて妄想に耽ってるなら病院、人浚いなり洗脳なりしたなら警察だな」

 

「ちげーよ! 正真正銘、彼女なんだってば!」

 

 ユートはその訴えをスルーして、天野夕麻と呼ばれた少女に話し掛ける。

 

「どんな弱味を握られたか知らないが、勇気を出して訴えた方が良いぞ?」

 

「あ、あの……私、本当にイッセー君のか、か、彼女なんですっっ!」

 

 真っ赤に頬を染めつつ、恥ずかしそうに俯きながらそれでもハッキリと言う。

 

「夕麻ちゃん!」

 

 感窮まった一誠は涙を流しながら、感動を噛み締めていた。

 

 成程、健気な彼女だ……

 

「(僅かに漏れる光力さえ感じなけりゃねぇ)」

 

 天野夕麻からは、本当に僅かではあるのだが、光に属する氣を感じる。

 

 これが元浜や松田の彼女だと紹介されたのならば、見逃したかも知れないくらい微弱であるが、兵藤一誠が主要人物の一人だから、少し注意深く見たが故にこそ光力を感じたのだろう。

 

 リアス・グレモリー達、眷族から感じる魔力とは、明らかにベクトルが正反対の光力を。

 

 とはいえ、今はそれを咎める訳にもゆくまい。

 

 天野夕麻の立ち位置は、現状で一誠の彼女。

 

 此処で変にいちゃもんを付けても、一誠と自分との間に亀裂を入れるだけ。

 

 何の益にもならない。

 

「まあ、君の意志で一誠の彼女になったなら、決して裏切らないでやってくれ」

 

「……はい」

 

 何故か一拍置き、笑顔を歪めた様に感じたのだが、それは気のせいではないのだろう。

 

 残念な話だが……

 

「じゃあ、一誠。僕はもう行くから」

 

「お、おう!」

 

 ユートは那古人の手を確り握ると、早足に学園へと向かった。

 

 そんなユートを見送り、一誠は元浜と松田に夕麻を見せびらかしてやる。

 

 2人共、血の涙を流さん勢いで哭いていたという。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 校門を踏み越え、学年の違うユートと那古人はその場で別れると、お互い自分の教室へと入る。

 

 然し、直ぐ念話が出来る様にラインは繋ぎっぱなしにしていた。

 

 挨拶を交わしながら席に着くと直ぐ様、那古人と次の行動に関して話し合う。

 

〔あれが三大勢力、天使か堕天使のいずれかいう訳でしょうか?〕

 

「(そうだな。翼を見てみない事には判断も付き難いけどね)」

 

〔マスターはどちらと思っておられますか?〕

 

「(堕天使だろうな)」

 

 飽く迄も魔王達との話から推測しただけであるが、三界の大戦以来、天使達は能動的な活動はしていないらしい。

 

 少なくとも、現状では動きを見せてはいない様で、精々が人間の悪魔祓い達が動いている程度だ。

 

 逆に、堕天使は忌々しいと感じている悪魔を排除するべく、色々と動いていると聴いている。

 

 今の処、散発的な争いこそしているが、本格的な戦いにはなっていないとか。

 

 リアスも先日、そんな事を言っていた訳だし、彼女の知り得る限りだが……

 

〔監視を付けますか?〕

 

「(そうだね。何かあってからじゃ遅いし、頼む)」

 

〔イエス、マスター〕

 

 その声色は、とても弾んでいたという。

 

 ユートから見て、その日の兵藤一誠はいやに上機嫌だった。

 

 年齢=彼女が居ない歴な一誠だけに、きっと喜びも一入(ひとしお)だったのだろう。

 

 天野夕麻から光氣を感じなければ、素直に祝福してやれたのだが……

 

 原作を識る……それが大きなアドバンテージであったのを、今更ながらに知る羽目になるとは、この時はまだ気付いていないユートであった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 日曜日……

 

 それはサービス業の仕事をする者でなければ、基本的に休みの日である。

 

 この日、兵藤一誠は生まれて初めてのデートを楽しんでいた。

 

 相手は勿論、天野夕麻。

 

 待ち合わせの三時間前には現着し、時間の数分前に現れた夕麻に言う。

 

 あの憧れの台詞を。

 

「イッセー君、待った?」

 

「いや、俺も今来たところだから」

 

 歯は歯垢の一つも残らぬくらいに磨いたし、パンツもおニューを卸した。

 

 待っている間に訳の判らないチラシを渡されるというハプニングはあったが、概ね計画通り。

 

 自分の為に、他所行きの服で着飾った女の子が目の前に居る、只それだけでも『俺は勝ち組』なのだと、みんなに言って回りたいくらい浮かれていた。

 

 夕麻が何故だか手の方に意識をやり、モジモジとしているのを見て、直ぐにも一誠は覚る。

 

 それはもう……新型の如くピンとキたのだ。

 

 然り気無〜く、飽く迄もソッと夕麻の手に自分の手を触れさせる。

 

 ハッと気が付いて、夕麻も頬を紅く染めつつも一誠の手に触れた。

 

 間違いないと感じて今度は積極的に握ると、夕麻も意を決して握り返す。

 

 所謂、恋人繋ぎと呼ばれる繋ぎ方で手を握り合い、一誠は夕麻に爽やかに微笑んで見せる。

 

 そんな一誠を見て夕麻も嬉しそうに笑顔を浮かべ、愉しいデートを開始した。

 

 店で洋服や部屋に飾る為の小物を見たり、高校生であるが故にファミレスであったけれど、昼食を摂ったりして健全なデートだ。

 

 ファミレスでは、夕麻が美味しそうにパフェを頬張っていたが、襟元から見える白い肌についつい目が行ってしまうのは、男の子の性であろう。

 

 体型そのものは細身だが夕麻の胸は大きい。

 

 こんな時には、元浜の【スリーサイズスカウター】が欲しいと切に思った。

 

 太陽が西に傾き、黄昏時となった公園。

 

 周囲が茜色に染まる世界の中で、デートも終わりを迎える。

 

 ユートであれば、雰囲気を作って黄昏をバックに、その気にさせ積極的にキスをしてこの侭離れるのが惜しいと思わせて、ホテルに向かう事も可能であるが、一誠にそんな素敵スキルが在ろう筈もなく、惜しみつつもこの場で別れるのだろうと考えていた。

 

 せめて、別れ際のキスくらいとも……

 

 人気の無い公園で、いつの間にか握っていた手が離れていた。

 

「今日は楽しかったね」

 

 噴水の前で微笑む。

 

 黄昏に染まる噴水なんてものすごく良い演出だ。

 

「ねえ、イッセー君」

 

「な、何かな夕麻ちゃん」

 

「私達のね、記念するべき初デートって事で一つお願いを聞いてくれない?」

 

 キタぁぁぁぁぁーーっ!

 

 これは間違いない。

 

 一誠の心臓は、バクバクと高鳴っていた。

 

「な、何かな? その……お、お願いって」

 

 声が上擦るなんてミスをしてしまい、心の内で叫んでいたが夕麻はニッコリと笑みを浮かべて言った。

 

「死んでくれないかな」

 

「……え? それって……あれ、ゴメン。もう一度言ってくれない? なんか、俺の耳変だわ」

 

 きっと聞き間違いだと、一誠はそう思った。

 

 大体にして、デートの別れ際に殺意を向けられている意味が解らない。

 

 アレだろうか?

 

 所謂ヤンデレという奴?

 

『貴方を殺して、貴方の全てが私のモノになるの♪』

 

 とか、笑顔で言われる?

 

 だからと言って、行き成りそんな事になるか?

 

「(ひょっとして、夕麻ちゃんは俺がハーレム願望を持ってるのを知っていて、それでか!?)」

 

 否、単なる聞き間違い。

 

 だからホラ、夕麻ちゃんも訂正を……

 

 そう思った矢先に、夕麻が再び口を開く。

 

「死んでくれないかな」

 

 窮めてシンプルで間違い様の無い科白、それは先程と一字一句、全く違わない内容であった。

 

「(え? 俺って、ハーレムに手ぇ出す前に【nice boat】をかまされるのか?)」

 

 バサリ……

 

 未だに先程、デートをしていた時と変わらない笑顔の侭、夕麻は立っている。

 

 然し、先程とは明らかに違う点が一つ。

 

 背に羽ばたく漆黒の翼、それと同時に、服が破れて大きくて揉んだら心地好さそうな胸を強調するかの如く黒い……服と呼ぶには露出が過多な服装に変わる。

 

 混乱する一誠は、背中の翼も相俟って『天使みたいに綺麗だな〜』と、場違いな事を考えていた。

 

 いったい、何の演出だろうと思うのも無理からぬ事だろう。

 

 全く現実感が無い。

 

 今日は愉しいデートで、帰り際には甘く切ないキスで別れを告げ、明日からの活力にする筈なのに。

 

 夕麻から『死んでくれないかな?』などと言われ、エロいボンテージ姿になって突如、背中に翼が生えるなんて現象、一般人である兵藤一誠に信じられる筈もなかった。

 

 夕麻は可愛らしい瞳を、鋭く獲物を視る狩人の様に変えると一誠に言い放つ。

 

「楽しかったわ、貴方と過ごした僅かな時間。初々しい子供のお飯事に付き合えた感じだった」

 

 その声色は冷たく、大人っぽい妖艶なもの。

 

 夕麻が右腕を天に翳すと光が収束されていき、耳障りな音を鳴らす。

 

 まるで槍──光の槍だ。

 

 光の槍を投げるポーズを執ると、一気に振り下ろして投げ付けられ、手を離れた光の槍が一誠に目掛けて飛んでくる。

 

 ズブリッ!

 

 嫌な音を立て、一誠の腹に光るナニかが生えた。

 

「あ……れ……?」

 

 一誠がお腹を見ると、紛れもない夕麻が持っていた光の槍である。

 

 光が飛散し、槍は直ぐに消えてしまったが、傷口まで無くなる訳ではない。

 

 寧ろ、傷口を塞いでいた槍が消えた事により、真っ赤な血液が噴き出した。

 

 朱い。

 

 赤い。

 

 紅い。

 

 鮮烈な紅を彩る鮮血。

 

「(こういうのを『鮮血の結末』って言うのか?)」

 

 手にベッタリと付着している血液の色を見ながら、一誠は暢気な事を考える。

 

 寒い。

 

 血が出ていって、身体の中の熱が急激に失せているかの様だ。

 

 脚から力が抜け、地面に崩れ落ちる。

 

 誰かが近付いてきた。

 

 この公園には一誠と夕麻の二人きり、目も霞んで見え難いがどうやら夕麻が歩いて来たらしい。

 

「ゴメンね。貴方が私達にとって、危険因子だったから早めに始末させて貰ったわ。恨むならその身に神器(セイクリッド・ギア)を宿させた神を恨んで頂戴」

 

 そう言って、夕麻は一誠から離れていく。

 

「(セイ……何だって?)」

 

 出血多量によるものか、頭がボーッとしていて全く働かない。

 

 お腹に穴が空いているのに痛みも感じないし、これで意識を喪ったら漏れ無くあの世へとご招待される。

 

 何だこれ?

 

 兵藤一誠、高校二年生。

 

 彼女に刺されて死亡。

 

 いったい何の冗談?

 

 お昼のワイドショーでも話題にならないだろうし、多分小さく新聞に書かれるくらいだろうか?

 

『K学園のI君、公園でお腹から血を流して死亡……痴情の縺れか?』

 

 締まらない話だ。

 

『nice boat』をされるんだったら、せめてハーレムを築きたかった。

 

 そう言えば、夕麻ちゃんのおっぱいは大きかった。

 

「(殺されるくらいなら、その前にいっそアレを揉ませて欲しかったなぁ……)」

 

 取り留めもない思考が、先程から一誠の脳裏に浮かんでは消え、何と無くこれが『走馬灯』なんだな〜と思った。

 

「は、はは……走馬灯の内容がおっぱい揉みてぇか。俺って本当、底無しの」

 

 ヌルリとした感触を覚え手を見ると紅い血が……

 

「紅……か。そういえば、あの人の髪の毛もこんな風に紅かったな……」

 

 剣道部の更衣室を悪友と覗いて、それがバレた際に逃げ込んだ旧校舎の周辺。

 

 その時、旧校舎の中に居たのが綺麗な紅の髪の毛を持つ北欧系美女な先輩……リアス・グレモリーだ。

 

「どうせ死ぬなら、あんな美人の腕の中で死にたかったなぁ」

 

 彼女が居るクセに彼女ではない女性を思って死ぬ。

 

 自分のエロ妄想も大概だと思いながら、意識が段々と喪われていく。

 

「貴方ね? 魔方陣で私を呼んだのは」

 

 薄れゆく意識の中、誰かの声が聴こえる。

 

 紅い……ナニか。

 

「死にそうね。傷は……? へぇ、面白い事になっているじゃないの。見立て通りかしら?」

 

 その人物は、然も可笑しそうにクスクスと含み笑いをしていた。

 

「どうせ死ぬなら、貴方の生命は私が拾って上げる。貴方のその生命、私の為に生きなさい!」

 

 それを聴いて一誠の意識は闇に沈んで逝った。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 夕刻、黄昏時、逢魔ヶ刻かど、様々に呼ばれる太陽が西に傾く刹那の時間……ユートは珍しく強い焦りを覚えている。

 

 この世界の在り方をよく識らないとはいえ、これは油断が過ぎていたと言っても過言ではない。

 

 日曜日でもあるのだし、世界の有り様を過日に会った魔王や、リアス・グレモリーという悪魔サイドからの言葉のみで判断をせず、図書館を利用して歴史の裏側などを垣間見て、三竦みの戦いを考察していた。

 

 ハルケギニアでも意見は双方で相違があったのだ。

 

 人間側はエルフを悪魔の如く呼び、エルフは人間の事を蛮人と蔑んでいた。

 

 これは戦いの歴史が互いを認め合わなかったが故、敵である相手を悪魔だ蛮人だと断じてきたのだ。

 

 悪魔は聖書の神と天使、他にも堕天使と戦っていて堕天使は神を裏切り悪魔の世界を支配せんとし、神の側は裏切者の堕天使と悪魔を排除せんとしている。

 

 ユートは悪魔だからといっても、それだけで【討つべき邪悪】だと断じない。

 

 人間、悪魔、天使、堕天使などと言ってはみても、所詮は種族の違いでしかないのだから。

 

 ユートの仕事は、【魔を滅する者】として【討つべき邪悪】を排除する事。

 

 故に、前回では海界皇のポセイドンや、冥界の王のハーデスを星矢達と共に討った。

 

 世界が違えったら在り様も変化する可能性があり、ユートはこの世界について学んでいるのである。

 

 それは知識の源泉となる魔導書の、【ナコト写本・ラテン語意訳】の精霊たる那古人も同様だ。

 

 一応、一誠には式紙を憑けてあるが、他人のデートを盗み見る趣味は無い。

 

 何か異変が起きれば判る様にして、那古人と図書館でお勉強をしていた。

 

 異変を感知したのは、正に空が茜色に染まる時刻。

 

 結界が一誠の周囲に展開されたのだ。

 

 人払いの結界だろう。

 

 光力を感じた天野夕麻であれば、結界くらい張れるであろうがでは何の為に?

 

 人払いの結界は、周りに人が居ては出来ない事をする為に張る。

 

 では、それはナニか?

 

 単純に別れ際でのキスが恥ずかしくて……なんて、そんな微笑ましい理由ならまだ良いが、何らかの悪意を持っての行動だったら?

 

 ユートが油断した理由は原作を識らない事にある。

 

 そう……一誠が堕天使だか天使だかに狙われる理由が判らなかった。

 

 それにリアスという冥界では公爵の地位にある家柄の悪魔が、普通に学園生活を送っているから、堕天使や天使が同じ様にしていてもおかしくないと考えていたのだ。

 

 リアスは天使や堕天使を警戒していたが、敵対者である悪魔であるが故だと考えていた。

 

 式神を飛ばしていたのは念の為でしかない。

 

 今回はハルケギニアでの経験が、逆に足を引っ張った形になる。

 

 亡きモード大公とシャジャルの恋愛と、二人の愛の結晶たるティファニア。

 

 戦争をしている同士も、個人であれば恋愛をする事も可能だと、だから夕麻が天使だか堕天使だかに知らないが、普通に人間である一誠に惚れて告白した可能性を考えた。

 

 寧ろ、主要人物とはいえど一般人の一誠を、騙してまで害する理由の方こそ思い付かなかったくらいだ。

 

 ユートは、結界が展開していた場所に急ぎ、辿り着いたが……

 

「……取り越し苦労だったのか?」

 

 式神を貼り付けていたが獲られる情報は決して多くなく、一誠の精神に乱れが生じたから焦っていた。

 

 暗くなりつつある公園には何の異変も無い。

 

 結界も最早無く、争った跡も認められない静寂そのものの公園であり、ユートはポツリと呟いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 翌朝、多少の心のざわつきこそ有ったが、朝食を摂るとユートは那古人と学園に登校する。

 

 何も無かったなら気安い友人に彼女が出来た事を、普通に祝福すれば良い。

 

 元浜達は血の涙を流しながらも一誠に詰め寄るのだろうが、そちら関係に不足を感じていないユートは、余裕を以て祝福が出来る。

 

 要はアレだ……

 

 明日のご飯にさえも事欠く人間が、募金なんて出来ないという心理と同じ。

 

 自分の明日さえ侭ならないのに、他人にお金を上げるなんてとんでもない。

 

 その気にさえなれば幾らでも相手の居るユートと、彼女なんて出来た試しすらない元浜と松田。

 

 一誠に対する反応の差、それがベクトル的に正反対なのは正に火を見るより明らかだ。

 

 果たして、一誠は学園へと登校してきた。

 

 傷は一つ付いていない、五体満足な状態で……

 

 その事実に然しもユートもホッと一息吐いた。

 

「おはよう」

 

「あ、おはよう」

 

「緒方君、おはよう」

 

 ユートが朝の挨拶をしながら教室に入ると、女の子達が笑顔で挨拶を返してくれるのは、謂わば日常茶飯事の話。

 

 ユートは、何処ぞの【超絶美形主人公】や【イケメン王子】の様な美形といったタイプの顔ではない。

 

 それでも整っているし、穏やかな雰囲気や真面目な対応等も相俟って、非常に女子受けが佳かった。

 

 故に三馬鹿とそれなりに仲の良いユートだったが、敬遠される事も無くクラス全体と程好い関係を構築していたのである。

 

 まあ、それは兎も角……

 

 何やら物憂げな表情で座る一誠を見付けたユート。

 

「(あの様子から察するに……失敗でもしたか?)」

 

 しかも昨日の今日で此れだと言う事は、致命的な失敗でもしてフラれた可能性も否めないし、それならば気配の乱れも納得出来る。

 

 仮令、フラれた訳ではなくとも取り返しの付かないミスをしたなら、あの表情にも納得がいくのだ。

 

 例えば、嫌がる天野夕麻に無理矢理迫った。

 

 幾ら一誠でもそれは流石に無いだろう。

 

 リビドーに任せてそんな事をすれば、折角の彼女に嫌われる処では済まない。

 

 普段からオープンエロではあるが、その程度の分別はある筈だ。

 

「(若しやすれば、それこそトントン拍子に話が進んでホテルへGOか?)」

 

 その場合のミス……

 

 剰りにも逸り過ぎた一誠の分身の敏感なる部分が、天野夕麻の肌に擦れて射精(だ)してしまったか?

 

 或いは巧く挿入(い)れたは良いが、その瞬間に射精(だ)したのかも知れない。

 

 それとも、いざという時に限って緊張の余り役に勃たなかったとか……

 

 いずれにせよ、そうであったなら同じ男としては、恐るべきミスだと思う。

 

 その際、相手が目を逸らしながら『プッ』とか噴き出したならば、それはもう最悪を越えて死にたくなる程のトラウマものだろう。

 

「(それとも、一誠のナニが小さくて失笑された……とかね?)」

 

 ユートの初めての相手は覇道瑠璃だった。

 

 そしてユートはその最初の一歩でやらかしている。

 

 気を遣われたのが逆に、心に痛かった。

 

 体感時間にして二百年は前の良き? 思い出だ。

 

 尤も、真相は訊いてみねば判らない為、取り敢えずは昨日何か無かったか訊いてみる事にした。

 

「一誠、おはよう」

 

「あ……」

 

 何と言おうか?

 

 教会の人間ではないが、今の一誠を見ると迷える子羊の様な目だと思う。

 

 一誠はユートの姿を認めるや否や、行き成り両肩に掴み掛かって身体を揺すりながら口を開く。

 

「な、なあ! 優斗は覚えてるよな? 夕麻ちゃんはちゃんと居たよな!?」

 

「ハァ? 行き成り何を言ってるんだよ?」

 

 突然の質問に目を白黒させて問い返すと、目を見開いて一誠は絶望にも似た色を瞳に浮かべ、ワナワナと震えだす。

 

「そ、んな……優斗まで、優斗までそうなのかよ?」

 

 一歩、二歩と下がると、教室を走り出てしまった。

 

「え、おい!」

 

 残されたユートは、何が何やら解らない。

 

「ああ、優斗にも訊きに来たのかアイツ……」

 

 元浜が、処置なしといった風情で大げさなリアクションをする。

 

 聞けばどうやら一誠には脳内彼女が居て、その名前が天野夕麻というらしい。

 

 夕麻ちゃんを紹介した筈だと言って憚らないのだ。

 

 普段から巫山戯合う関係の元浜と松田であるが故、冗談を言っているのだと思っていたらしいが、だからユートにも確認した。

 

 処が、ユートまで知らないと言う。

 

 それで精神的に追い詰められたらしい。

 

 因みに原作では暫く一誠は齟齬で悩む事になるが、ユートはその事を知る由もなかった。

 

 とはいえ、ユートも驚いている。

 

 別に天野夕麻を知らないと言った心算はなかった、だが一誠はどうもそこら辺の処を早とちりした様だ。

 

 結局は、授業開始までに戻って来た一誠は、多少の溜息こそ見られたものの、概ね平静であった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

「明らかに記憶の処置が行われていますね」

 

 昼食を那古人と摂りながら今朝の一誠との出来事を話すと、那古人はアッサリと言う。

 

 まあ、確かにそう考えるのが妥当な処だ。

 

 実際にユートも天野夕麻を紹介されているし、一誠の脳内にだけ存在する痛々しい幻想や妄想の類い等では決してない。

 

「処置をされたのは、兵藤一誠本人ではなく周囲……天野夕麻を知る人間達」

 

「そうなるな。例外は僕と那古人……か?」

 

「いえ、天使や堕天使なら悪魔の敵対勢力でもありますし、直接的な接触の無かったリアス・グレモリー達も例外かと……」

 

「ふむ、成程ね」

 

 話を聞いていれば、知っているし覚えているかも知れない。

 

「まあ、接点が無いから知らないだろうけど、訊いてみるかな」

 

 あの受け答えは誤ったかもと反省する。

 

「マスター、この街を調べてみますか?」

 

「頼めるか?」

 

「イエス、マスター」

 

 那古人は術式を紡ぐと、式を街へと放つ。

 

 それから昼食も終わり、午後の授業も終了する。

 

 ユートと那古人はその足で旧校舎──【オカルト研究部】の部室へと向かう。

 

 丁度全員が揃っていた事もあって、一誠の話を部長と部員達にしてみる。

 

「成程、同じクラスの子が……ねぇ」

 

 デスクに肘を突き、頬杖で身体を支えているリアス・グレモリーは、ユートの話に頷いた。

 

 とてもよく知っている。

 

 何故なら、ユートが公園に辿り着く前に兵藤一誠の許へ顕れて、彼を回収して家に送り届けたのはリアスなのだから。

 

「それに、一誠から魔氣を微かに感じた……あれじゃあまるで、小猫や木場達みたいだ」

 

「ハァ、どうやら放っておいても真実を知ってしまいそうね」

 

 リアスは思わず嘆息し、ユートと那古人に話した。

 

 天野夕麻が堕天使勢力であり、一誠に何らかの目的を持って近付いて、用が済んだから始末をしようとしていた事を。

 

 その際に、血塗れで今にも死にそうだった一誠が、保険の代わりに渡してあった召喚用のチラシを起動してリアスを喚んだ。

 

 そしてそんな一誠に朱乃達を眷族悪魔足らしめている【悪魔の駒】を与えて、悪魔に転生させたのだ。

 

 一誠が生きているのは、転生悪魔になったからなのだ……と。

 

「そういう事か。周囲から自分の痕跡を消したけど、殺した筈の一誠にまで記憶処置はしなかった」

 

「そうよ。でも、貴方まで記憶処置を免れているなんてねぇ?」

 

「本人はした心算かもね。でも、出来なかった」

 

 どの様に、天野夕麻を知る人間から記憶を消したかは窺い知れないが、何らかの方法で消したのだろう。

 

 だがユートと那古人にはそれが効かなかったのか、或いは……

 

「どっちにしろ、【悪魔の駒】を使って眷族にしたからには、一誠を【オカルト研究部】に入部させる心算な訳だ」

 

「ええ。この私、リアス・グレモリーの下僕となり、働いて貰うわよ」

 

 ニヤリと笑うリアスだがそんな所作すら絵になるのだから、美人とはお得なものだとユートは、朱乃が淹れてくれたお茶を啜りながら思うのであった。

 

 

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