ハイスクールD×D【魔を滅する転生魔】   作:月乃杜

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第5話:ユート×堕天使

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 兵藤一誠は自分の私生活がガラリと変わって、多少の戸惑いを覚えていた。

 

 今までも其れなりに夜更かしはしていたが、大概は夜中の一時には寝床の中であった筈である。

 

 それが今では三時、四時まで起きて明け方に床に就く日々が続いていた。

 

 別に一誠は、ネトゲにはハマってはいないし、深夜放送を何時間と見入ってる訳でもない。

 

 ただ、夜中なると沸き上がる衝動でハイテンションとなってしまい、眠る事が出来ないだけ。

 

 どういう訳なのか、完全な夜型人間になっていた。

 

 前に見た彼女に殺される夢の所為かとも考えるが、因果関係が判らない。

 

 そして、目覚めが億劫で朝日がキツかった。

 

 どうにも自分でも判らないがあの日、夕麻ちゃんとのデート以来、別のナニかに変わってしまったかの様な錯覚に陥っている。

 

 更には元浜達に紹介……というか自慢した筈の彼女である夕麻ちゃん。

 

 デートの後に、彼女に殺される夢を視た翌日には、初めから存在しないかの如く誰も知らないと言う。

 

 おバカな悪友である元浜と松田ならばいざ知らず、最近になって転校してきた友人の緒方優斗までが彼女を知らないと断じたのだ。

 

 一誠は『そんなバカな』と言いたい。

 

 彼女は確かに存在した……その筈なのだ。

 

 それが〝幻想〟だとか、〝脳内彼女〟とか、口さがない事を言われていた。

 

 陰鬱とした表情で席に座っていると、元浜と松田が秘蔵のコレクションを見ようと誘ってくれる。

 

 因みに、一応は友人関係の優斗は誘われない。

 

 そんな事をしようものならクラスの女子に総スカンを喰らう上、優斗の妹だという緒方那古人ちゃんから穢らわしいモノでも視る様な目で睨まれる。

 

 最近では一年生の中でも小柄なロリっ子の塔城小猫ちゃんと並び称されてる、黒曜姫と呼ばれる人間離れをした美貌の持ち主である緒方那古人ちゃん。

 

 女子相手は兎も角、男には兄の優斗以外には決して心を開かないと有名だ。

 

 あの子にそんな目で睨まれると、何故か精神を抉られる様な感覚に苛まれる。

 

 だから優斗を誘わないのではなく、誘えないのだ。

 

 その際、彼女は聴き逃せない事を言っていた。

 

『お兄様はそんな映像など観て、一人耽る必要などありません。相手など幾らでも見繕えますし、憚りながら私がお相手する事も出来ますので……』

 

 余りにもイケナイ妄想を駆り立てる発言に、一誠達の様な男子は疎か女子までも真っ赤になり、キャーキャーと騒いでいたものだ。

 

 まあ……実際に凄い勢いで二人の絡みを妄想してしまった一誠としては、女子の姦しましさに文句など言えなかった。

 

 そして本来はエロDVDに夢中になる筈が、いつの間にか優斗と那古人ちゃんの絡み合いを妄想している三馬鹿……

 

[お義兄ちゃん、マコトのちっちゃくてゴメンね?]

 

[バカだな、お前の全てが僕には愛しいんだよ]

 

[お義兄ちゃん、良いよ。きて……]

 

[マコト!]

 

 DVDの内容が義兄妹モノなのは、いったいどっちの趣味だろうか?

 

 女優の役名も相俟って、更なる妄想を掻き立てる。

 

 脳内変換をして【お義兄ちゃん】を【お兄様】に、【マコト】を【那古人】にすると、頭の中で背徳感の溢れている映像が浮かぶ。

 

 此処で睦み合うのが自分ではなく、優斗であるのには理由があった。

 

 何故か解らないのだが、彼女をどうこうして良いのは優斗だけという、おかしな暗黙の了解というヤツが出来ているのだ。

 

 故に、妄想に耽る時ですらお相手は優斗。

 

 男を妄想に登場させて耽ねばならないとは、いったいどんな罰ゲームやら。

 

 同じ妄想でもしたのか、松田が我慢し切れずトイレへと駆け込み、それで今日の宴はお開きとなった。

 

 トボトボと帰路に着いていた一誠。

 

 元浜も同じく家に帰っていたが、途中の岐路で別れている。

 

 夜たからか、相変わらずに力が溢れ出す。

 

 ずっと遠くの親子の会話がハッキリ聴こえる上に、暗がりなのに夜目が余りにも利きすぎている。

 

 そんな中で気付く視線。

 

 路の先から自分に向け、得体の知れない感覚が漂ってきた。

 

 スーツ姿の男が居る。

 

 その視線は敵意というべきだろうか、もう殺意に近い目で一誠を睨んでいた。

 

「ふん、数奇なものだな。こんな都市部でもない様な地方市街で、貴様のような存在に会うのだからな」

 

「……は?」

 

 意味の解らない事を言いツカツカと近付いてくる。

 

 ヤバい変質者か? 頭が逝っちゃってるのか?

 

 一誠は困った。

 

 刃物でも出されたら勝ち目など無く、護身用の格闘技なども習っていない。

 

 襲われても成す術が……

 

「(今は夜だし、上がった身体能力で逃げるか?)」

 

 思わず反対方向に脚が動いていた。

 

「逃げ腰かね? 貴様の主は誰だ? こんな都市部から離れた場所を縄張りにしている輩だ、階級の低い者か或いは、物好きのどちらかだろうがな、お前の主は誰なんだ?」

 

 嗚呼、本当に訳の解らない事ばかりだ。

 

 一誠は振り向き様、一気に来た道を全速力で戻る。

 

 とても速い、普段の一誠など及びもつかない。

 

 十五分くらい走ったら、開けた場所──公園──にいつの間にか出ていた。

 

 宵闇を優しく照す街灯、それが見せるのは噴水だ。

 

 偶然か必然なのか、此処は夕麻とのデートで最後に訪れた場所である。

 

 逃げ切れたかと、辺りを見回すと悪寒を感じた。

 

 ゆっくりと振り返ってみると黒い翼を背に持つ男。

 

「な、何なんだよこれ?」

 

「お前の属している主の名を言え。こんな所でお前達に邪魔されると迷惑でな。此方としてもそれなり……真逆、お前は【はぐれ】なのか? 成程、主が居ないならその困惑振りも説明がつくな」

 

 一誠は拙いと思った。

 

 あの夢では夕麻が黒い翼を生やして殺しに掛かってきた訳だが、現実では男。

 

 どうせ正夢になるなら、女の子が来ても良いだろうと場違いな事を考えた。

 

 というより本当に拙い。

 

 あれが正夢というなら、この先の展開も夢と同じではないか?

 

 ゾクリ……

 

 背筋に氷水でも流されたかの如く、そんな冷たいモノが奔った。

 

「主を持たぬ【はぐれ】であれば、殺しても問題などあるまい。ふむ……」

 

 変質者は右腕を一誠へと向け、強い耳鳴りと共に光の槍を顕現させる。

 

 狙いは一誠でしか有り得ないだろう。

 

 この噴水の公園に、一誠と変質者以外は居ないみたいだから。

 

 ズブリッ!

 

 考え事をしていたら光の槍は、アッサリと一誠の身体を貫く。

 

「ゴボッ!」

 

 痛い。

 

 否、痛いなんてものでは表しきれない痛みだ。

 

 貫かれた腹が、内側から徐々に真っ赤に焼け爛れた鉄ごてでも押し付けられたかの如く、身体の内部を焼かれている。

 

 それが少しずつ広がっているのだ。

 

「が、あああ……っ!? 嗚呼ぁぁぁぁぁぁあっ!」

 

「痛かろう? 光はお前らにとっては猛毒だからな。その身に受ければ、大きなダメージとなる。ふん? 光力を弱めた槍で死ぬかと思ったが、存外に頑丈な様だな。まあ良いさ。さあ、今度は少し光力を上げて、トドメを刺してやろう」

 

 再び光の槍を顕現して、一誠に向けて降り下ろす。

 

 死ぬっっ! 一誠がそう思った瞬間……

 

「ぬあっ!?」

 

 爆発音が響いたと共に、変質者の悲鳴が上がった。

 

「チッ! 間に合わなかったか」

 

「お、お前は……」

 

 一誠の眼前にいつの間にか黒髪の少年が居る。

 

 まるで一誠を護る為に立ち塞がるかの如く……だ。

 

「ゆ……う、と……?」

 

 そこまでで一誠は意識を手放した。

 

「貴様、人間か? 何故、人間がソイツを庇う?」

 

 憎々し気な瞳でユートを睨み付けてくると、紳士然としたスーツ姿の男が声を荒げる。

 

「これでもこいつは友人なんでね。その友人が今にも変質者に殺されようとしてりゃ、助けもするさ」

 

「誰が変質者か! 下賤な人間風情が、悪魔を庇うなら貴様から殺すまでだ! どの道、目撃者である以上は消さねばなるまいしな」

 

「殺れるものならどうぞ、ご自由に?」

 

「巫山戯おって、ならば死ぬが良い!」

 

 光の槍を顕現し、スーツ男はそれを投げ付けた。

 

 槍は少年の身体に吸い込まれて、突き抜けて背後へと飛んでいく。

 

「な、何だと!?」

 

 スーツ男は有り得ない現象を見て、その顔を驚愕に染めて表情を歪めた。

 

「殺すんじゃなかったか? まだ、生きているぞ」

 

「おのれぇ! ならばもう一度だっ!」

 

 再び堕天使の手に顕現し投擲される光の槍、だけど結果は変わらない。

 

 ユートの身体を易々と突き抜けて飛んでいく。

 

「ば、莫迦な……」

 

 とても信じられないといった風情で、スーツ姿の堕天使は戦慄を覚えた。

 

 分が悪いと覚ったのか、或いは気味が悪くて退こうとしたのか、堕天使は空へて舞い上がりこの場を離れようとする。

 

 だが……

 

「ぐあっ!?」

 

 堕天使は、何か壁みたいなモノにぶち当たって俄に悲鳴を上げた。

 

「なっ!? 結界だと?」

 

 いつの間にか展開されていた結界は、堕天使を決して逃がしはしない。

 

「三下は不利になると尻尾を巻くって、昔からのお約束だからね。逃げられない様に結界を張ったんだ」

 

 わざと相手の相手のプライドを刺激する物言いで、ユートは意地悪く嘲笑って見せる。

 

「キィッサマァァァッ!」

 

 やはりというか、堕天使は顔を真っ赤にして憤慨したらしく、またも光の槍を投げてきた。

 

 が、それでも結果は変わらない、槍はユートをすり抜ける。

 

「くうっ! 何故、何故だ……っ! 何故、すり抜けるのだ!」

 

 槍はすり抜ける、結界は張られると、明らかに戦闘の主導権を握られていた。

 

 それが堕天使を余計に苛立たせる。

 

「貴様は何者だ!?」

 

「下賤で下等な人間だが? お前が言ったんだろ?」

 

「巫山戯るな! 結界を張って、私の光の槍がすり抜ける輩が人間だと?」

 

「なら、お前が人間以下ってだけだろ。結界なんて、知り合いの人間が幾らでも張れるし、あの程度の回避は簡単に出来るさ。寧ろ、ガッカリだね。失望する。人外だから楽しみにしていたのに、青銅聖闘士にも劣るとはさ」

 

 ユートはあからさまに落胆したと表情で訴えた。

 

「おのれぇぇぇっ!」

 

 最早、紳士然とした態度は何処へやら。

 

 怒り心頭らしく声を荒げていた。

 

「僕は単に素早く動いているに過ぎないんだがな」

 

 光の槍が投擲されたら当たる前に素早く横に躱し、また元の位置に戻っているだけであり、何か特別な事をした訳でもない。

 

 強いて言うなら、堕天使の目にも留まらぬ速さで移動したという事か。

 

「満足したか? それなら今度はこっちの番だ」

 

 ゆっくりと前へ歩を進めるユートを見て、堕天使は逆に後退る。

 

「う……くっ!」

 

 今、スーツ姿の堕天使は後悔していた。

 

 見付けた悪魔を【はぐれ】と断じて殺そうとしたまでは良かったが、トドメを刺そうとしたらその仲間だか友人だかの人間が間に入ってきて、逆に自分が追い詰められている。

 

 光の槍はすり抜け決め手に欠ける彼に最早、目の前の人間を殺す術はない。

 

「運が無かったな。悪魔の気配でも感じて一丁、狩り立てようかと思ったのだろうが、どちらにせよグレモリーとシトリーの縄張りの中で、グレモリーの眷族を襲ったんだ。いずれお前らの目論見を邪魔されるだろうな」

 

「な、に? グレモリーとシトリーだと!?」

 

 態々、教えたのはよりいっそうの絶望を与える為。

 

 【はぐれ】だと思い込んで攻撃したら、実際は違ったというのだから。

 

 邪魔をされたくなかったというのに、自らが邪魔される要因となったとなれば死んでも死にきれまい。

 

「お前らの企み、少なくともグレモリーが邪魔をする理由には充分だな。彼女は下僕を大事にしてるし」

 

「うう……」

 

 実際どうかはこの際問題ではなく、その可能性が在るという事を印象付けてやればいいのだ。

 

 後悔、絶望、恐怖といった負のエネルギーを回収するには、この堕天使は丁度良かった。

 

 更にこの堕天使を殺してエネルギー化できれば尚、良しである。

 

「さあ、その後悔を抱いて消えろ!」

 

「う……あ、よせ!」

 

 キラリ!

 

「ガハァァァァッ!」

 

 一瞬、何かが煌めいたかと思えば堕天使の肉体は、ズタズタにされていた。

 

「あ、嗚呼……っ!」

 

 見えない。

 

 何をされたのか見当すら付かない攻撃、完全に自分が相手に出来ないレベルだと今更ながら認識する。

 

 堕天使は吹き飛び、噴水の中に叩き込まれていた。

 

「封時結界だから、外とは時間の流れが違うとはいっても一誠が心配だからな、お前には早々にトドメをくれてやろう」

 

「た、助けてくれ……」

 

「逆の立場ならお前は助けるのか?」

 

「っっ!」

 

「その反応が答えだよ」

 

 殊更、声を荒げる事も無く淡々と言う。

 

 堕天使は青褪めた。

 

 恥も外聞もかなぐり捨て助命を嘆願した、だが然しその答えは無慈悲なもの。

 

 確かに自分は先程、悪魔の少年を慈悲も無く殺害しようとした。

 

 自分がやりもしない事を他人に求めるなど、それは恥知らず以前の問題だ。

 

 堕天使は自身の命運が既に尽きていた事に気付き、絶望感が溢れている。

 

 ユートが右腕に力を籠め小宇宙を高める事で、五つの煌めきが腕の周囲に顕現した。

 

 それは星々の煌めきを観る様で、とても美しい光景を醸し出している。

 

 だが、技を喰らう堕天使にとっては死の光だ。

 

 光は天使や堕天使にとって祝福の筈が、今の彼には自らを死に誘う破滅の光にしか見えない。

 

「さあ、たっぷりと後悔と絶望に喘ぎ、金色の御許へと還るが良いっ!」

 

「ひっ、ヒィッ!」

 

「駈けよ、五燐光っ!」

 

 陰陽五行属性を表す光、それが堕天使にへとかって一斉に放たれると、一瞬すら越えた刹那の刻の内に、四肢と本体を貫いた。

 

「ぎぃぃぃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 空高く放り出され、堕天使は爆発に巻き込まれ消滅してしまう。

 

 後に残るは、漆黒の翼から散った羽の残滓のみ。

 

「確か、こういう時は……汚ぇ花火だ! だっけ?」

 

 堕天使消滅に際しユートは堕天使が持っていた生命のエネルギーを回収して、無色の方向性を持たない静のエネルギーに変換すると魔核(マナ・コア)とした。

 

 更には堕天使の負の感情もエネルギー化して回収。

 

「クスクス、悪くない稼ぎだったな」

 

 二種類のエネルギーを見つめながらユートは嗤う。

 

 結界を解除して、一誠を拾おうと思ったが……

 

「居ない? あのダメージで何処に行ける訳でもないだろうに……那古人!」

 

〔はい〕

 

「何があったか、見た?」

 

〔リアス・グレモリーが顕れて、兵藤一誠を回収して行きました〕

 

「そうか、なら当面の心配は要らないか」

 

 リアスが回収したなら、悪いようにはすまい。

 

 そう考えてユートは帰路に着いた。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

《……オキナイト、コロシマス。……オキナイト、バラバラヨ》

 

 物騒な目覚まし時計の電子音声に、揺ったりと眠たい目を擦りながら起きて、一誠はスイッチを止めると背伸びと共に欠伸をする。

 

「また、変な夢を視たな」

 

 しかも今度は夕麻ちゃんではなく、黒い翼を生やしたオッサンである。

 

 せめて相手が美女ならば救いもあるが、オッサンが相手では全然愉しくない。

 

「? ……って、何で俺裸なんだよ!?」

 

 よくよく自分の格好を見てみれば、一誠は一糸纏わぬ姿に毛布を巻いただけの状態だ。

 

 否、それだけではない。

 

 もう一枚の毛布が何故か膨らんでいる。

 

「何だ、これ?」

 

 ご開帳してみれば、鮮烈な紅の髪の毛、白くスベスベな肌が眩しい。

 

「は? リアス・グレモリー先輩?」

 

 意味不明だ。

 

 どうして自分が駒王学園のアイドル、リアス・グレモリー先輩と同斤なんてしているのか?

 

「え、え? 若しかして、そういう事なのか? 俺、どーてーを卒業しちゃったの? そ、そんな……」

 

 混乱する一誠。

 

 とはいえ、一番の懸念事項は同斤の有無ではない。

 

「俺、覚えてねぇぇっ! こんな……こんなもんなのかよ、どーてー卒業って。くそ、一部でも良いから……思い出せ、思い出すんだ兵藤一誠っっ!」

 

 どんな素敵イベントだったのか、その一部でも良いから思い出そうとする。

 

 無論、思い出せる筈もない訳だが……

 

 何故ならそんなイベントなんて、全く起きていないのだから。

 

「イッセー! 起きてきなさい、もう学校でしょ!」

 

 階下から母親の声が聞こえてきた。

 

 しかも直接、起こす気なのか階段を上がる足音……

 

 ヤバい、この状態は非常にヤバい。

 

 一誠は裸、リアス先輩も裸で同じベッドの上。

 

 これでナニも有りませんでした……と言って、果たして信じて貰えるか?

 

 仮に自分なら信じるか?

 

答えは、決して否である。

 

「う、ん? 朝ぁ?」

 

 そうこうとしていると、とても可愛らしい吐息と共に翡翠の様な瞳が開かれ、リアスが起き上がった。

 

 ガチャリ……

 

 扉が開かれる。

 

 母親が部屋に乗り込めば我が子が、未だ微睡む美女と裸で同衾していた。

 

 この後、一騒動が有ったのは語るまでもあるまい。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 朝の登校時間、非常に厳しい視線に曝されながら、一誠は学校へと向かう。

 

 男女共に一誠を睨み付けているのだ。

 

 それは無理もあるまい、駒王学園に於ける【二大お姉様】と呼ばれ、超絶的な人気を誇る学園のアイドル──リアス・グレモリーと並んで登校しているのだ。

 

 訝しい視線や羨望の視線や嫉妬の視線など、それが一誠に集中しても仕方がないとも云える。

 

 一誠とて同じ光景を目にしたら、確実に嫉妬マスクを被って丑の刻参りをしていた処だ。

 

 一誠自身、リアスの鞄を持って従者の如く歩いている為に余計、視線が厳しいものとなった。

 

「貴方のクラスに緒方優斗という子が居るわよね?」

 

「へ? は、はい……」

 

「なら彼に案内して貰いなさい。放課後にまた会いましょう」

 

「……ハァ」

 

 玄関での別れ際、そんな事を言われて首を傾げる。

 

 教室に入ると判ってはいたが好奇の視線に曝され、少し居たたまれない。

 

 唯一、好奇のというよりは何処かホッとした表情を見せるのが、リアスの言っていたユートである。

 

 ゴツン!

 

「痛っ!?」

 

「どういう事だ!」

 

 行き成り後頭部を殴り付けられ、思わず振り返ったら松田が居り、隣には元浜も居た。

 

 そして松田が、滂沱の様に涙を流しながら叫ぶ。

 

 二人が言いたい事は理解しているが、こっちも何故にあんな事になったのか解らないのに恨み事を言われても困る。

 

「昨日まで俺達はモテない同盟の同志だった筈!」

 

「イッセー、俺と別れてから何があった?」

 

 怒鳴る松田とクールに訊いてくる元浜。

 

 一誠は嗤いながら言う。

 

「お前ら、生乳を見た事はあるか?」

 

 その言葉を受け、戦慄する松田と元浜。

 

 その後は、普通に授業を受けて放課後を待った。

 

 授業中に時折、ユートの方を見るが特にリアクションは無い。

 

 やはり放課後になるまでは動かない様だ。

 

 そして放課後……

 

「一誠、話は聴いている。行こうか」

 

 一誠は首肯するとユートの後を着いていった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 時間は遡って、一限目の準備をしていたユート。

 

〔マスター、少し宜しいでしょうか?〕

 

〔どうした?〕

 

〔先程、塔城小猫から打診がありました。兵藤一誠を【オカルト研究部】の部室まで、連れて来て欲しいとの事です〕

 

〔判ったと伝えといて〕

 

〔イエス、マスター〕

 

 念話を切ると再び準備を行っていると、件の一誠が教室に入ってきた。

 

 一誠の名前を聞いて判ってはいたが、致命的なダメージを負っていた彼が無事なのか、少し心配をしていただけに胸を撫で下ろす。

 

 そして、然したる問題も起こらず放課後となった。

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 ユートに連れられ、一誠は【オカルト研究部】へとやって来る。

 

「オカルト研究部? 優斗も部員なのか?」

 

 元浜や松田の様な悪友とは違い、一誠はユートの事を名前で呼んでいた。

 

「部員と言えば部員だね。臨時的な人員だけど」

 

「ふーん」

 

 正直あのリアス・グレモリー先輩がオカルトに傾倒しているのが、何と無くだが首を傾げてしまう。

 

 ソファーには三人、座っている者が居た。

 

 一人は木場祐斗、金髪でイケメン王子なんて呼ばれるモテ男。

 

 もう一人が、小柄でロリ顔な一見すると小学生にも見えるマスコット的存在、塔城小猫。

 

 三人目はユートの妹である緒方那古人。

 

 小猫と那古人は、ユートが持たせたクッキーを一緒に頬張っている。

 

 二人共、実に美味しそうに食べていた。

 

「こんにちは、お土産は気に入ってくれた?」

 

「……はい」

 

 小猫は無表情ながら何処か嬉しそうに返事をする。

 

「聞いてるだろうけどね、彼は兵藤一誠」

 

「あ、どうも」

 

 ユートに紹介され、軽く頭を下げる小猫に一誠も頭を下げた。

 

 そして再び、クッキーを頬張り始める。

 

 因みにこのクッキーは、今朝方にユートが那古人へ持たせた物。

 

 小猫は羊羮をおやつにする予定だったが、折角なので急遽此方を食べている。

 

 本人も知らぬ内に、地味な原作崩壊(オリジン・ブレイク)をしていた。

 

 部屋の奥より流れる水音──それはシャワー音。

 

 どうやらこの部室、何故かシャワーが付いている。

 

 シャワーカーテンには、物凄いプロポーションの女性の陰影が浮かんでいた。

 

「部長、これを」

 

「ありがとう、朱乃」

 

 姫島朱乃が、リアス部長にバスタオルを渡し、それで肢体を拭いている様だ。

 

 妄想を掻き立てられて、一誠の表情がニヤける。

 

「……いやらしい顔」

 

「へ?」

 

 小猫はチラリと一誠を見つめるとボソッと呟く。

 

 一誠がふと小猫の方を見遣れば、彼女はクッキーを頬張っているだけだった。

 

 シャワーの音がやんで、カーテンが開くとそこには駒王学園の制服を着込んだリアスが立っている。

 

「ごめんなさいね。昨夜、イッセーのお家にお泊まりして、シャワーを浴びてなかったから今、汗を流していたのよ」

 

 先程の声の主、朱乃の姿を見て一誠は絶句した。

 

 最早、絶滅危惧種とも云われる黒髪ポニーテール。

 

 いつも笑顔を絶やさず、和風という感じが漂っている大和撫子。

 

 目が合って朱乃がニコリと笑顔を浮かべて言う。

 

「あらあら、初めまして。姫島朱乃と申しますわ」

 

「こ、これはどうも。兵藤一誠です。こ、此方こそ、初めまして!」

 

 緊張しながら、多少上擦った声で挨拶を返す。

 

「これで全員揃ったわね。兵藤一誠君。いえ、敢えてこう呼ぶわ……イッセー」

 

「は、はい!」

 

「私達、オカルト研究部は貴方を歓迎するわ」

 

「え、ああ。はい」

 

「悪魔としてね」

 

「は、はい?」

 

 突然、脱力するような事を言われてガックリと力が抜けてしまい、間抜けた声で返してしまった。

 

 朱乃からお茶を淹れて貰うと、リアスから一誠へと説明が行われる。

 

 自分達が悪魔と呼ばれている種族である事。

 

 昨夜、一誠を襲った黒い翼の男が堕天使である事。

 

 その報告をユートから聴いていた事。

 

 悪魔と堕天使は昔から冥界──地獄の覇権を狙い、敵対している事。

 

 神の下僕たる天使。

 

 冥界の一族たる悪魔。

 

 神に叛き堕ちた堕天使。

 

 この三種族が、三竦みを形成して睨み合っているという事。

 

 一誠はこの話を部活動の一環だと考えており、流石に着いていけなくなる。

 

「いやいや、先輩。幾ら何でもそれはちょっと普通の男子高校生である俺には、難易度の高いお話ですよ。え? オカルト研究部ってこういう事?」

 

「オカルト研究部は仮の姿よ。私の趣味。本当は私達は悪魔の集まりなの」

 

「んなバカな……」

 

 悪魔だの何だのと最早、お腹一杯であった。

 

「……天野夕麻」

 

「っ!?」

 

 名前を聴いて一誠は思い切り目を見開く。

 

「あの日、貴方は天野夕麻とデートしていたわね?」

 

「冗談なら、此処で終えて下さい。優斗から聞いたんですか? 正直、その話はこういう雰囲気でしたくはないんで……」

 

 怒気を滲ませながらも、一誠は静かに言う。

 

「一誠、僕は何も話していない。それと、何か勘違いしてないか?」

 

「何がだよっ!」

 

「僕は天野夕麻を知らないなんて、そんな事を言った覚えは無いぞ」

 

「なっ! だって、あの時は確かに……」

 

「あの時は一誠が行き成り『夕麻ちゃんは居たよな』とか、訳の解らない事を言うから聞き返しただけで、知らないとは一言も言ってないよ」

 

「……う」

 

 あの日の会話を思いだし一誠は閉口する。

 

「天野夕麻。アレは昨夜、貴方を襲った堕天使と同じ存在よ」

 

 天野夕麻には漆黒の翼が生えていたし、昨日の男にも同じ翼が確かに在った。

 

「そういえば昨日、イッセーを襲った堕天使は結局の処どうなったのかしら?」

 

「始末したけど、何か?」

 

「そ、そう……」

 

 リアスは堕天使との関係を考え複雑な表情になる。

 

「僕は悪魔じゃないから、堕天使を始末しても三竦みに罅は入らないよ」

 

 だけど、そんなリアスの苦悩など知らぬとばかりにユートは悠然と言い放つのであった。

 

 

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