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それは、グレモリー眷族の主たるリアス・グレモリーの一言だった。
「イッセー、貴方のチラシ配りも終わり。よく頑張ったわね。改めて貴方にも、悪魔としての仕事を本格的に始動して貰うわ」
つまりは取りも直さず、一誠が新しいステップへと進んだ事を意味する。
「おおっ! 俺も契約取りですか!」
「ええ、その通り。勿論、初めてだからレベルの低い契約内容からだけど。それとユートも一緒に言って貰うけど、良いのよね?」
リアスはユートの方を見ると、少し頬を引き攣らせながら訊ねた。
「ん、構わないよ」
ユートは小猫を膝の上に乗せ、手にしたチョコを食べさせている。
端から見ると、イチャつくバカップルにしか見えない情景だ。
「ユート? 貴方はいったい何をしてるのかしら?」
「んー、餌付け?」
何故か疑問符を打ちながら小首を傾げた。
小猫は小猫で、与えられるチョコを一心不乱に食べている。
恥ずかしいのか、白い肌の頬はほんのり桜色に染まっていた。
切っ掛けはよく部室で、お菓子を食べている小猫を見掛ける……というより、常に何かしらを食べているのを見て、悪戯心が沸き上がったユートが、小猫に対して『おやつだよー』と、チップスを小猫の頭上に差し出したのを、手で取らず直接口を持っていって食べた事だったのだが……
本当に猫に餌を与えた時の様で余りに面白い反応だったのと、小柄な少女の姿が相俟って可愛らしかったのが嵌まったのか、こうして暇があればお菓子を与えているのである。
小猫もどうすればユートが悦んでお菓子をくれるのかを学んだらしく、今では膝に乗っかりこうして口を開いていた。
正しくそれは餌付け調きょ……ゲフン、兎にも角にもそれは今に至る。
話が始まり、ユートの手が止まった事もあり、小猫はチョコを強請っていた。
具体的には……
「もっと、もっと先輩のが……欲しいです」
切な気な表情と声色で瞳を潤ませながら、ペロペロとチョコの甘味が付いているユートの指を口に含んで咥わえると、舌で丹念に舐めていた。
「あらあら、小猫ちゃんは甘えん坊さんですね♪」
朱乃はニコニコと頬に手を添えて言うのだが、ナニを想像しているのか頬が朱に染まっていたりする。
木場は苦笑いしており、一誠はと云えば……
「ぬおおうっ!?」
叫びつつ興奮している。
「脳内保存、脳内保存!」
目に焼き付けるかの如くその様子を見ながら呟いている姿は、危険人物(ヘンタイ)の域に達していた。
リアスも顔を赤らめて、嘆息するしかない。
那古人は、『お兄様、私にも下さい』と隣に座り、チョコを強請(ねだ)る。
部室内がカオスになりつつあったが、ユートの目が先を促しているのに気が付きリアスは話を進めた。
「小猫への予約契約が二件入ってしまったの。両方に行くのは難しいから片方を貴方達に任せるわ。見事に契約を取ってきなさい」
「は、はい! 部長」
「了解」
「……先輩方、宜しくお願いします」
小猫も流石に指から口を放して、ユートの膝に座った侭ではあるがペコリと頭を下げてきた。
だが、いざ行こうとしてみて問題が発生。
本来ユートは地図を見て走る予定だったが、一誠は魔方陣で先に依頼人の許へ跳ぶ筈であったのに、跳ぶ事が出来ない。
どうも一誠の魔力が子供以下だったらしく、魔方陣でのジャンプが不可能だった様だ。
斯くして、一誠は自転車を漕いで依頼人の家に向かう事となった。
小猫の一言『……無様』が一誠の心を抉ったが……
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こんばんは、悪魔グレモリー様の使いの者ですが、すみません! 召喚された方はこのお家ですよね?」
一誠がノックしながら声を張り上げる。
因みに、悪魔は契約した人間にしか認知されない。
故に、こうして声を張り上げてもご近所迷惑にはならない寸法だ。
ユートは人間でだから、普通にご近所迷惑になる。
それ故に一誠が先導する運びとなっていた。
煩そうに扉を開けた依頼人は、ユートと一誠を見てにべもない態度で追い返そうとするが、必死に説得する一誠の涙を見て家に上げてくれる。
一誠は依頼人の森沢さんが淹れてくれたお茶を飲みながら事情を話す。
余りにも憐れな理由であった事も手伝い、森沢さんは一誠に同情してくれた。
ユートは単なる人間で、お手伝いに過ぎない。
だから、グレモリー眷族でなければ使えないという魔方陣での転移は初めから出来ない事も、一緒に伝えておく。
本当は小猫を召喚したかったらしい森沢さん。
「小猫ちゃんじゃないんだね……」
そこら辺、ガッカリしていたがどうしょうもない。
「すみません。あの子って人気らしいんで。つーか、可愛い系の担当らしくて」
「ぼ、僕は可愛い系のお願いを契約のチラシに頼んだんだけど……」
「俺も可愛い新人悪魔って事で、一つ納得してくれませんかね?」
「ハハハ! 無茶言うねぇ君は。此処に祝福儀礼された銀作りの剣でもあったらプッスリ刺しちゃうところだよ!」
一誠の本気ともつかないジョークを聴いて笑いながら言うが、森沢さんの目は笑っていないので、本気で恐かった。
「じゃあ、どうぞ」
「ちょっ! お前?」
森沢さんに【祝福された銀の剣】を、ホントに渡そうとするユートに対し一誠はドン引きする。
「冗談だよ」
話が進まないからユートが水を向けてみた。
「で、小猫を召喚して何を願う心算だったのかな?」
「ああ、これを着て貰いたかったんだよ」
取り出したるは制服一式であり、明らかに小柄な者に合わせて作られた女物の制服の様だ。
だけどユートには、それが制服であるという事しか判らない。
「これは短門キユの制服なんだよ」
「短門……あっ! それって暑宮アキノの」
森沢さんの説明で一誠が思い出して声を上げる。
「知ってるのか?」
「昨今、アニメで有名になった暑宮アキノシリーズ。知らねえの?」
「いや、知らない」
「何だよ、お前ってアニメとか観ねえのか?」
「ん? 観るけど……」
誰もが忘れているかも知れないが、ユートはそもそもアニメやラノベや漫画を観るのが好きだ。
別の世界に渡った場合、暇を見ては話題作なんかを購入している。
お陰でユートの亜空間ポケットの中のサブカルチャーの類いは、増える一方だったりするが、この世界は来てからまだ日も浅い上、初っぱなからYigなんて邪神の眷族が現れ、学園への転入手続きやセラフォルー・レヴィアタンとの邂逅など、割と忙しかった事もあって書店に行けない。
唯一、ユートが知っているのはセラフォルー・レヴィアタンが無理矢理に教えてくれた、魔法少女モノくらいである。
「忙しさにかまけて観てはいないんだよ」
「そっか、だったらさ今度一緒に観ねえ?」
「是非、お願いするけど……今は森沢さんの話を聞かないと」
「あ!」
取り敢えず、森沢さんとの会話を続ける。
「悪魔君、君は短門は好きかい?」
「いえ、どちらかって言うと俺は夜水可子派です」
「理由は?」
「おっぱいです」
「──っ!」
余りにも真っ直ぐでブレない一誠。
アニメなら『おっぱい、おっぱい!』と、SDキャラが踊っていそうだ。
「(若しやすると、これは『ただの人間には興味ありません。この中に宇宙人、未来人、異世界人、超能力者がいたら、あたしのところに来なさい。以上』みたいな挨拶をするメインヒロインのアニメか?)」
どうでも良い事を考えていると、何だか森沢さんと判り合う一誠。
因みに、ユートはその全てに当て嵌まる。
「だからこそ、これを着て欲しかったんだよ」
森沢さん曰く短門キユは小柄で無口な女の子な為、小猫に似合うらしい。
「判った、僕が着よう」
「巫山戯るな! 男が着て誰得だよ!?」
森沢さんは、ユートの申し出を聴いて廬山の大瀑布も斯くやという程の滂沱の涙を流し、怒鳴った。
「フッ、甘いな。ちょっと借りるよ」
そう言い短門キユの制服一式をひったくって、バスルームへと向かう。
バスルームの中でユートは呟いた。
「余り気は進まないけど、初仕事は成功したいしね」
意を決すると、自身の着ている服を脱ぎ始める。
数分後、バスルームから出て来たユートを見た森沢さんと一誠は目を剥いた。
否、姿が明らかにユートではない。
顔の作りを見る限りは、それがユートなのは間違いないのだが、どう見てもその姿は女の子。
身長まで変化していて、小猫くらいしかない。
元々、中性的な顔をしてはいたが【男の娘】と呼ぶ程ではなかった筈が、現在着ている短門キユの制服も相俟ってどう見ても女の子であった。
ユートは一度、目を瞑ると長門由希の表情と喋り方を思い出しつつ口を開く。
「……どう?」
森沢さんの精神にクリティカルヒット。
序でに一誠にもクリティカルヒット。
「え、と……何だか身長まで変わってるんだけどさ、真逆……本当に女の子に成った訳じゃないよね?」
「……見たいの?」
やや頬を染めつつユートは訊ねてみる。
再び森沢さんの精神に、クリティカルヒット!
鼻血でも出しそうな勢いで仰け反った。
そんな森沢さんに対し、所謂処の女の子座りをしながら、制服のスカートを軽くたくし上げて魅せる。
見た目には完全に小柄な少女であり、白い肌で細めな太股がチラリと見えるか見えないかという、絶妙な位置にスカートを捲って、しかも渡した覚えのない筈のショーツを履いていた。
オマケにその絶対領域が目に入った際に心ならずも見てしまった結果、股間に男独特の盛上がりが無い。
仮に極端に小さいのだとしても軽く盛上がる筈が、全く無いという事は……
「ボクは悪魔じゃないけど特殊な力が有ってね、その一つが性転換」
ハルケギニアの最終決戦以降に手に入れた能力。
殆んど使い道の無い能力ではあったが、今回はこれが見事に役に立ってくれた訳である。
森沢さんと一誠が、暫く固まっていたのは言うまでもあるまい。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日の部活動ではリアスが顰めっ面で出迎える。
一誠は部長を怒らせてしまったかと、内心ビクビクと怯えていた。
「ねえ、ユウ……」
「何かな?」
「貴方、昨日の依頼で契約を取ってきたけど、何がどうなっているのかしら?」
そう言うと、一枚の紙を指先に摘まんで見せる。
「……契約後、例のチラシにアンケートを書いて貰う事になっているの。依頼者の方に『悪魔との契約はいかがでしたか?』ってね。チラシに書かれたアンケートはこの紙に表示される訳だけど……」
『ユウちゃん、夢をありがとう……活きていく力を貰った気分でした。イッセー君とはまた、盛り上がりたいです』
「貴方、本当に何をヤったの? それにユウちゃんって何なのかしら?」
「……」
ユートは思わず目を逸らしてしまった。
はっちゃけてしまって、少し後ろめたい。
「お兄様、ひょっとしたらアレを?」
「ああ……まあねぇ」
那古人の指摘は正しく、人差し指でコリコリと頬を掻きながら、苦笑いをするしかなかった。
「那古人、ユウが何をしたか判るのね?」
「恐らく性転換かと……」
「「「「性転換?」」」」
リアスばかりか他の部員声がハモる。
「お兄様は特殊能力として性別、身長、顔、声、体型などを自由にセレクトして姿形を変更出来ますから。その気になれば、兵藤一誠の携帯電話を使い、小猫の声で『イヤ、やめて下さい先輩……嗚呼、私の大切な所から血が!』とか言いながら元浜某に電話すれば、破滅させる事も……クス」
無表情、無機質な声で、平然と宣う那古人。
最後の笑いだけは、実に愉しそうでリアス達は若干引いた。
「なあ、優斗?」
「何かな? 一誠」
「や、やらないよな?」
「フッフッフ」
「ちょっ!?」
そんな事をされた日には確かに破滅するだろうし、どう言い繕ってもブタ箱逝きは間違いない。
「そんな能力が本当に?」
「リアス・グレモリー。
流石にそんな洒落にならない悪戯はしないでしょう。能力については本当です」
性転換、声帯変換、身体変化、偽装仮面……
併せて【千貌】と呼ぶ。
「……変態先輩はボクの肢体を舐め尽くす様に視てました」
「! 私の……声?」
自分の声でユートが喋ったのを聴き、驚愕に目を見開く小猫。
「声帯変換。能力一つ一つを使ってこんな事も出来る訳だよ。で、昨日は小猫への依頼で森沢さんは、短門キユっていうアニメキャラの制服を着て欲しかったらしくて、代わりに僕が能力で女の子になって、着たという訳」
「はあ、そんな事がねぇ。それで夢をありがとうか」
リアスは、規格外な能力を披露して契約を取ってきたユートに感心する。
「まあ、もう一つの意味があるけどね?」
「もう一つ?」
「一誠はその後で、アニメ談義をして盛り上がったんだけど、ドラゴン波がどうのって話になったんでね、僕が闘氣で実際に放ってみたんだよ」
「ドラゴン波? それって確か一誠が、神器(セイクリッド・ギア)を発動する時に言っていた……」
ユートは小宇宙を分離する事で、闘氣のみで気功波を放ってやったのである。
飽く迄も、ネタとして極小のものではあるが……
「だけどそれだと、契約をするのに働いたのはユウだけで、イッセーはアニメの話をしてただけよね?」
「うっ!」
痛い所を突かれ、忘れていたかった事実に呻く。
「残念ながら、イッセーだけで行ってたら破談していたわね」
「うう、すみません部長」
「一応、昨日の仕事は二人の契約って事になっているけどね、ユウが居なくても契約を取れなくてはダメ」
「はい……」
リアスからダメ出しを喰らい一誠は意気消沈する。
「まあ、良いわ。これからに期待しましょう」
「は、はい!」
まあ、最初から上手くやれるとは思っていないし、リアスは、少しずつ教えていく心算なのだ。
この報告を以て、ユートと一誠の初仕事は終わる。
そして二度目の仕事。
学園から三十分ばかり離れたマンションに、チャリを飛ばす一誠。
ユートは一誠に併せて走っていた。
その気になれば追い抜いてしまえるが、本来は悪魔である一誠が行う仕事。
勝手に一人だけで行っても意味を成さない。
三十分掛けてマンションに着いて、一誠が呼鈴を鳴らすとインターフォンから反応が返ってくる。
〔開いてますから、どうぞにょ〕
「にょ?」
一誠は首を傾げた、何せ野太い声で語尾が『にょ』である。
訝しみながら扉を開け、玄関で靴を脱いで恐る恐る中へと進む。
ガチャリと部屋の扉を開けた瞬間、一誠はアングリと大口をになり絶句した。
「いらっしゃいにょ」
鍛え抜かれた筋骨隆々な鋼の肉体の男が、ゴスロリを着込んでおりある種の、悍ましいナニかにしか見えない依頼人? が居る。
ボタンが今にも弾け飛びそうで、服の端々が破れそうになりビチビチと悲鳴を上げていた。
しかも頭部には猫耳。
「漢女(おとめ)か……」
何処ぞの【恋するお姫様による無双的な噺】に出て来そうなビジュアルだ。
話を訊くと、魔法の力を授けて欲しいという。
ミルたんと名乗る漢女は魔法少女になりたいらしいのだが、異世界に行っても彼女? に魔法の力をくれる者は居なかったらしい。
一誠はミルたんに迫られユートの方を、何か期待の眼差しで見る。
とはいえ、ユートも流石に困ってしまう。
一応、方法が無い訳でもないのだが、果たして上手くいくかどうか?
ユートは亜空間ポケットから宝石らしき物を取り出して、ミルたんに渡す。
「にょ? これは……」
「【精霊魔石】といって、それを胎内に容れる事で、精霊力への感応能力を獲得出来る。石そのものが魔力石でもあるからね、魔法力も同時に獲られる」
「本当かにょ? これを使えばミルたんも念願の魔法少女に?」
「えっと、多分……?」
実は余り自信が無い。
本来であれば胎内へ──つまりは子宮に経口摂取で埋め込む。
その方法はまあ、推して知るべし。
ミルたんは男? であり子宮など持たないし、何よりミルたんと御菊様でヤりたいか? と訊かれれば、首を横に振る。
「それで、これはどうやって使うんだにょ?」
「うっ!」
昔、ハルケギニア時代にケティの専属メイドの二人を相手に実験し、実用化出来た訳ではあるが、使い方が使い方な為に殆んど使い道など無かった代物。
況してや、男になんて終ぞ試した事すらない。
義妹のユーキの元カノである翔子に使いはしたが、それ以降は使わなかったという事もある。
「(仕方がないかな?)」
ユートは、細長い鉄の棒を取り出して一誠に渡す。
「これは?」
「鉄の棒」
「いや、見りゃ判るけど、これでどうしろと?」
「それで……め」
「は?」
声が小さくて聴こえなかった為、聞き返す一誠。
ユートは胡乱な瞳でもう一度言う。
「その鉄の棒で、ミルたんの直腸に【精霊魔石】を押し込め……と言ったんだ」
「……………………………………ハァァァァァ?」
暫く硬直し、次の瞬間には盛大に引いた。
それはもう思いっ切り。
「な、な、な、何で俺が、そんな事を!?」
「共同の仕事、僕は道具を提供した。さて? 一誠は何をするのかな?」
「き、汚ねぇ!」
とは言うものの、仕事の一言とミルたんの期待の眼差しに負け、一誠は……
その後の事は一誠にとって一生の黒歴史となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日、妙に煤けた一誠の姿が見られたのだが、何やらブツブツと呟いている。
「俺、どーてーの侭、カマ掘っちゃった……アハハ、アハハハハハハハハ!」
否、寧ろ壊れていた。
ミルたんは魔法を獲たのか否か?
一誠が尊い犠牲となり、ミルたんは無事に魔法を使えたと後日、連絡が来た。
だけどそれが故に、本来の出逢いを一誠が喪ってしまうとは、この時の一誠は疎かユートにさえ判らなかったが、それは無かった筈の新しい出逢いと絆を生んだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「はわう!」
「大丈夫か?」
「あうぅ。何で転んでしまうんでしょうか?」
「ほら」
ユートは手を差し出し、顔面から突っ伏すシスターを起こしてやる。
「ああ、すみません。ありがとうございますぅぅ」
風でシスターが被っていたヴェールが飛んでいき、ヴェールの中で束ねていたであろう、長くサラサラした美しい色合いの金髪が溢れて露わとなる。
黄昏時の茜色の光を反射しているストレートのブロンドが、キラキラと光輝いていた。
金髪碧眼美少女シスターは純真無垢な瞳をユートに向け、感謝の意を示す。
これが【純白の天魔王】から示された、最後の主要人物とのファーストコンタクトとなった。
ユートは風に舞うヴェールをジャンプ一番、掴み取ると金髪碧眼のシスターへと手渡してやる。
「ほら、ヴェール」
「わあ、ありがとうございます!」
シスターは両手を胸元で組みながら邪気の無い瞳をキラキラ輝かせ、ヴェールを受け取って頭を下げた。
ユートは礼儀が正しく、好感の持てる娘だなと思いつつシスターを見やる。
首から提げたロザリオ。
服装は如何にも『私、修道女です』と言わんばかりの修道服だ。
下手に彷徨(うろつ)くとコスプレだと思われ、変な連中に絡まれかねない。
「そのバッグ……ひょっとして旅行者か何か?」
「あ、いえ。実はですね、今日付けでこの町の教会に赴任する事になりまして。貴方もこの町の方ですか? 宜しくお願いします」
「そうなんだ。宜しくね。あ、僕は緒方優斗。君の名前は?」
「はい、アーシア・アルジェントと云います」
「え?」
「どうかしましたか?」
「ん、何でも無いよ」
シスターの名前を聴いて驚いた。
【純白の天魔王】が告げた主要人物で、その最後の一人がアーシア・アルジェントだったからだ。
「この町に来てから困っていたんです。その、私って日本語を上手く喋れないので……道に迷っていたんですけど、道行く皆さん言葉が通じなくて」
「まあ、そうだろうね」
因みにユートはアーシアの母国語である、イタリア語で話している。
何度か転生し、日本だけでなく海外にも出たりしていたし、前回の再転生先など英国だった事もあって、語学には堪能であった。
英語、仏語、伊語、独語に中国語、ギリシア語に、ラテン語、ロシア語などを諳じる事も出来る。
特に、魔導書を読む為には最低限、英語とギリシア語とラテン語は必須だ。
その関係上、北欧の言語も話せる。
そんな訳でアーシアは、外国で心細かったが母国語を話すユートに安心感を得ていた。
「僕もこの町には来たばかりだけど、地理を確りする為に散歩を欠かしてない。だから教会の場所なら知ってるし、案内しようか?」
「ほ、本当ですか? あ、ありがとうございますぅ。これもきっと主のお導きですね!」
感激に咽び泣くアーシアだが、きっとよっぽど困っていたのであろう。
「然し……」
見れば見る程、シスター全開な姿は周囲から奇異な眼で視られている。
「よし、アーシア!」
「は、はい?」
「時間はある?」
「少しなら」
もうすぐ空が暗くなる、とはいえ多少の時間ならばあるらしい。
どの道、迷子だったのだし今更なのかも知れない。
「んじゃ、少しデートでもしてみようか?」
「は? え? デ、デートですかぁ?」
意味は通じたらしくて、頬を朱に染めながらアタフタし始める。
ユートはアーシアの手を引いて、雑踏の中に溶け込み目的地へと向かった。
「服屋さんですか?」
看板を見ながら、店の前で呟くアーシア。
「服屋さん……はどうかと思うけど、取り敢えず入ろうか?」
「あっ!」
再びアーシアのを引き、店内へと入っていった。
「いらっしゃいませ♪」
営業スマイルの女性店員が元気な声で、アーシアとユートを迎えてくれる。
ユートが店員にオーダーを出すと、店員はアーシアを連れて試着室へ向かう。
手持ちぶさたとなるが、やる事も別に無いユートはアーシアが出て来るのを、大人しく待った。
数分後、試着室から出て来たアーシアを迎える。
「あ、あの……これは……何と言いましょうか」
恥ずかしそうに、服の裾を引っ張りまる見えなお腹を隠そうとしていた。
ユートがオーダーしたのは可成りラフなモノ。
服は袖が無く、お腹の辺りが隠れないシャツ。
ズボンも、アーシアの白い大腿部が大胆に見えてしまうパンツタイプのジーンズだった。
普段、清楚で禁欲的な格好のアーシアには、刺激の強すぎるモノである。
「はうぅ、やっぱりこれは恥ずかしいですよぉ……」
日常的にほぼ全身が隠されてる修道着姿である為、こうまで真逆に肌を曝した事は無いのだろう。
「お客様、よくお似合いですよ?」
女性店員も御愛想か本心かスマイルで判らないが、ニコニコしながら言う。
「後は、そうだね。これを掛けてみようか」
ピンクフレームの眼鏡、飽く迄も、アクセサリーの一環で度は入っていない。
「修道着は教会に行く時にでも着替えればいいから、その侭、着て出ようか」
「え? でも……」
何が言いたいのかは理解している、買うお金が無いのだろう。
「大丈夫だよ。お姉さん、買うからお願いね」
「はい、ありがとうございます。お値段は……」
あれよあれよという間にレジで支払いまで済ませられてしまい、ユートにまた手を引かれて店を出て来てしまう。
修道着はバッグの中だ。
「あの、良かったんでしょうか? 服の代金を出して頂いても……」
「気にしなくて良いんだ。僕はアーシアがそれを着ている姿を見たかったから、服を買って上げた。んで、アーシアは僕の目を楽しませてくれた。等価交換ってヤツだよ」
「は、はぁ……」
自分の格好を改めて見ると赤くなりながら訊ねた。
「に、似合ってますか?」
「ん、バッチリ!」
ユートはアーシアの問いに対しウィンクしながら、サムズアップで応えたものだった。
その後は、アーシアも慣れたのか普通にデートを楽しんだ。
デート初体験のアーシアを相手に穿った場所は必要無い、それこそ一誠がしていた初心者御用達のコースで充分なのだ。
軽く食事をした後には、ゲーセンを冷やかした。
今まで本当に、禁欲的な生活をしてきたのか何もかもが珍しいという顔になりゲームを観ている。
一緒に遊べるモノを選びアーシアも、まだ拙いながら遊んでいた。
愉しい時間とは過ぎるのも早いもの、そろそろ完全に暗くなる。
ユートは、この町で唯一の裏びれた教会にアーシアを連れてやって来た。
地形の把握の為、散歩をしていた時に一度だけ訪れた古ぼけた教会は、灯りが点いている様に見えない。
「あ、此処です。良かったぁ!」
地図を確かめながらも、安堵の溜息を吐く。
「それじゃあ、僕も帰るとするよ」
「本当にありがとうございます。その、男の方とあんな風に遊んだのは初めてだったんです。とても楽しかったです、ユートさん」
「僕も目の保養が出来たし楽しかったよ」
「はうっ!」
アーシアはまた真っ赤になってしまう。
因みに現在は会った時に着ていた服に戻っており、買った服を今度はバッグに入れてある。
「処で、その……服を戴いてしまって良かったんでしょうか?」
「構わないよ。ってかね、持って帰ってどうしろと? 真逆、着ろとでも?」
「……似合うかも」
「うん、嬉しくないよ」
両頬に手を添えて、ポッと顔を朱に染め、妄想に耽るアーシア。
女物を似合うとか、全く以て嬉しくない話だ。
「じゃあ、またね」
「はい、またお会いしましょうね」
アーシアはユートの背中が見えなくなるまでの間、ずっと手を振っていた。
帰りの道すがら、ユートは数枚のカードを見つめながら思考する。
「(これで、なのはさんが言っていた主要人物の全員と会った訳か……)」
然しながら、彼女は全員が仲間だと言っていた筈。
教会の人間なら寧ろ悪魔は敵対関係。
「色々と複雑なんだな」
取り敢えずは、そう結論付ける。
「修道女……シスターか」
ユートをが手にすしているカードには、修道女が画かれていた。
クラスカード。
元ネタはプリズマ☆イリヤという、型月の有名作品のスピンオフ。
本来有る七枚に加えて、ユートがオリジナルで造ったのが数枚存在している。
「そろそろ、必要になってくるかな? これも……」
ユートは、クラスカードを仕舞うと我が家へと帰っていった。
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