『劇場版ガールズ&パンツァー』での大学選抜チーム戦前夜のみほと角谷の会話を捏造してみました。
というよりもアニメ版からの疑問で「なんか会長、戦車道経験があるのかなぁ」と思ってたのでこの際作ってみることにしました。

オリジナル設定多数ですがよろしければどうぞ!

それと他サイトにも投稿しました。

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ガルパンIF:決戦前夜

「厳しい戦いになるな」

 

「いつものことです」

 

 

翌日に大学選抜チームとの殲滅戦を控え、角谷がみほにそう呟きながら北海道の夜空を見上げた。

澄んだ空気のおかげか、綺麗に星が輝いて辺りを照らしていた。

 

 

「…あの、会長。気になってたことがあるんですけど」

 

「ん?」

 

 

気になってることとは何だろうかと角谷が目線を空からみほへと向けた。一方のみほはどこか言葉を選ぶように手に持っていた明日のフィールドマップを折りたたんでいた。

 

 

「会長って以前に戦車道をやってたんですか?」

 

「……どうして、そう思うのかな?」

 

 

 

質問に質問で返す、いや、角谷の性格だとそれが彼女らしいと言えた。しかしその中でどこか悲しそうな顔をしてるのにみほは気づいた。自分もあったデリケートな問題、それに似てる気がしたから言葉を選んでいたのだがそれは間違えて触れてしまったようだった。

 

 

「あ、あの…全国大会前にやったグロリアーナとの練習試合での無線記録を聞いたら38tの履帯が外れやすいのを知ってたり、プラウダ戦で接敵しないと撃破できないのを知ってたみたいですし…それに……」

 

「私の砲手としての腕、だよね?」

 

 

そう、華や左衛門佐も今となっては腕利きの砲手と言えるが最初は偏差射撃の測定や照準の修正をするのに(と言っても三突は固定砲台だが)一苦労していた。

しかし角谷は試合中に河嶋と交代して急遽砲手となったとき、T-34を撃破した上に複数の車両の履帯を破壊して追撃を妨害していたのだ。

 

 

「まぁ、河嶋も小山も疑問に思ってたみたいだしねぇー…うん、いいか。西住ちゃんなら」

 

「やっぱり会長、戦車道の経験者だったんですか」

 

 

おおよその見当はついていた。しかし確証はなかったし、彼女が経験者だったらいくら西住流の自分がいるとはいえ廃坑の危機に何もしないというのも不思議な話だった。

 

 

「私の実家…っていうのかな?まあ、生まれた時の本名は『池田杏』だった」

 

「池田……もしかして…」

 

 

その名字には心当たりがあった。角谷もみほがそれに気づくのを予想してたようだった。

 

 

 

「そう、『池田流』…その家元の生まれだった」

 

 

池田流とは西住流、島田流と並び『戦車道の御三家』と言われていた流派だった。

 

『撃てば必中 守りは固く 進む姿は乱れ無し 鉄の掟 鋼の心』の西住流

 

『臨機応変 変幻自在 そしてただ 花のように優雅に』の島田流

 

『背水の攻め 朽ちぬ魂 撃ち滅ぼすは一つの障害』の池田流

 

 

それがほんの15年ほど前に日本の戦車道を支えていた流派だった。

しかし、今の戦車道にあるのは『西住流』と『島田流』の二枚看板だった。

 

 

「西住ちゃんも、聞いたことがあるとあるんじゃないかな?『池田の終』」

 

「…はい」

 

 

『池田の終』とは10年前にあった事件だった。いや、それは一言で表すことのできる出来事だった。

 

 

【池田流の取り壊し】

 

 

 

そう、御三家と呼ばれた一つの流派が潰れたのだ。もともと池田流は一蓮托生で整った動きををする西住流、打てる手をその場で生み出して戦う島田流とは違い、まるで喧嘩の如く単独で相手を攻撃する事だけを考えた流派だった。

 

【戦車道】という団体戦でありながら個人技に重点を置き戦う闘い方は確かに他にはなかった。しかし、近代戦車道では海外でも仲間との連携を軸に戦う環境に池田流は着いてこれなくなったのだ。

 

 

そこで流派は変わる必要があったのだ。個人技から団体技へと、古い戦いから新しい考えと。単独で行ってたことを集団で。

 

しかし、池田流は変わらなかった。

 

 

 

「最後の師範…それが私の死んだ母親だった」

 

「あっ…あのっ、そのっ…私…」

 

「気にしなくていいよ。あいつは…私の母親でも何でもなかったんだから」

 

 

 

そういうと角谷は持参していた袋から干し芋を取り出そうとした。しかし、手が震えていたのかそれがその場に転がってしまった。

 

 

「…お母様は私に次期池田流師範としての訓練を朝早くから夜遅くまでやらせていたんだ。学校がある日は起きてから登校する前、下校して寝るまでの間。お父さんもお母様を止めようとしてくれたけど、無駄だった」

 

「……………」

 

 

 

池田流の話はたまに聞いたことがあった。その過酷な環境は戦車道連盟からも口を出されるほどだったそうだ。

 

 

「私は何度も逃げ出そうとしたし、現に逃げ出した。けどそのたびにお母様に叩かれたよ。池田流に逃げ道はない、逃げることは許されないってね」

 

 

同じだった。あの大会でフラッグ車よりも河に転落した仲間を助けたみほに対してしほが叱るのと。

 

 

「もう諦めて、お母様の人形のように池田流のやり方をやって来た。これからは自分が池田流を継いで、そんなことをいつかできる自分の子供にさせるんだろうなって…そう思わされていた、10年前までは」

 

「10年前…池田の終…」

 

 

「そう。徐々に流派の発言力もなくなって、さらには多くの門下生が離縁。残されたのはかつて池田流が栄えていたっていう【過去】と衰退した【現実】だけだった。そして…お母様はその事実に絶望して自殺した」

 

「ッ!!」

 

 

一瞬、何を言ったのか理解できなかった。だが、それを聞いて、みほは大きく後悔した。自分はなんてことを角谷に聞いてしまったのだろう、実の母親が自殺したということを後輩に打ち明けるようにさせるなんて―――

 

 

「気にしなくていい、っても西住ちゃんは気にしちゃうんだよね。まあ、私はもうそれに関しては吹っ切れた。…吹っ切ったといってもいいかもしれない。母親らしい愛情を受けたことなんて一度もない。私には【池田流】の在り方を与え、逃げ道を奪われた。それなのにあの人は逃げた…池田流から、自分から」

 

「で、でも…自分の母親なんですよね!?」

 

「ああ、そう。そうなんだ。けど、ね。私はお母様が自殺したことに涙を流したことがない。西住ちゃんは好きの反対ってなんだと思う?」

 

 

そう聞かれてみほは考えた。好きの反対――好意の反対。

愛憎という言葉ある。人を好きになることと憎むことという反対の意味。

 

 

「…嫌い、とか、憎い、とかですか?」

 

「ううん。それも裏を返せば好意ともいえるんだ。好き嫌い、愛憎、それはちょっとした感情の延長線上にあるだけ。同じ方向にある感情。ほら、敵同士で憎みあってもそのうち信頼関係が出来上がったりとか漫画じゃよくある話でしょ?それと同じ」

 

「じゃあ、好意の反対って…――!」

 

 

答えを求めたみほは角谷の初めて見る表情を目にして言葉を失った。その表情を一言で表すと――

 

 

 

『「無関心」』

 

 

 

 

あの笑顔が絶えず、周りを明るくする彼女の感情をそぎ落としたような『顔』。

 

 

 

「好意も、嫌悪も、愛情も、憎い気持ちすら持たないこと。私がお母様に対して持ってたのがそれだった。私に池田流を押し付けたくせに、逃げ道を奪ったくせに、逃げたあの人に対してすべての感情がなくなった」

 

「……………」

 

「ごめんね、西住ちゃん。こんな暗い話をしちゃって、まあ周りはとっくに暗いけどね」

 

 

そう言って、おちゃらけた様にいつものように笑う彼女――もしかして、角谷がいつも笑顔なのは自分の――『池田杏』としての自分を隠すためなのではないのかと。

 

 

「まあ、そのあと私はお父さんに引き取られた。母方の祖父母はいないし…そのあと、再婚して元の籍に戻った私は『角谷杏』になったってわけなんだ」

 

「そう、だったんですか」

 

 

これが彼女が――『角谷杏』が戦車道について詳しかった理由なのだった。

だが、大きな疑問が残されていた。

 

 

「でも――」

 

「言いたいことはわかるよ。なんで腐っても御三家だった池田流の生まれである私が初心者として振る舞っていたのかと」

 

 

そういうと袋を綺麗に折りたたんで角谷は遠くに見える四号戦車を見据えた。

 

 

 

「小学生の時…お母さまが自殺して、私が『角谷杏』になってからしばらくして戦車道の体験会があった。別に強制参加でもなかったんだけど友達に誘われて参加したんだ」

 

 

戦車道の体験会は時折西住流でも地域の小中学生を対象に行うことがあった。

彼女としても久しぶりの戦車との触れ合いに楽しみにしてたのかもしれない。

 

 

「いざその時になったとき、わかったんだ。私は戦車に触れることができないって」

 

「それは…トラウマですか?」

 

 

戦車に乗ろうとしたとき、体が無意識に拒絶をしてしまったのだ。そして中に無理に入ると体調を崩し、嘔吐したようだ。

 

 

「お母様の自殺のこともあったかもしれない、池田流の恐怖が私の中で深くなったのかもしれない。けど、そう考えると戦車に触れることができなかったんだ。ああ、今は大丈夫、多少眩暈がすることもあるけど」

 

「それをお二人は…」

 

 

角谷を敬愛し、信頼している河嶋と小山。先ほど疑問に思ってるだろうしと言ってたから、もしかしてと思った。

 

 

「ううん、知らない。私の身の上の話もトラウマも。唯一知ってるのは…安斎ぐらいかな」

 

「安斎?」

 

 

はて、そんな苗字の人は大洗にいただろうか。人の名前と誕生日を覚えるのが得意なみほだったがその脳内名簿の中にそんな苗字の人はいなかったはずだ。

 

 

「あ、大洗の生徒じゃない。アンツィオのドゥーチェ・アンチョビのことだよ」

 

「ああ、アンチョビさん…あれ、なんで会長と?」

 

 

あまり接点のなさそうな組み合わせだった。

 

 

「さっき言ってた私を誘った友達…それが安斎なんだ。小・中で一緒の学校だった。ついでに河島は中学から一緒だったから二人とも顔見知りなんだ」

 

 

そういえば二回戦の前になぜか河嶋はアンチョビの本名を知っていた。あまり接点がなかったようだが中学の同級生なのなら納得だった。

 

 

「…もしかしてあの時アンチョビさんが来たのって…」

 

「ん、本人は私に気を使ってたんだろうね。西住ちゃんにあいさつに来たってのは多分それはついで、本当は私のことを気にしてきたんだろうね」

 

 

わざわざ試合前の大事なブリーフィングの時間を割いてまでやって来たのはそれが理由なのだろう。彼女は面倒見がいい性格だ、そのことで角谷が気を病むようなことにならないように嘘をついたのだろう。

 

 

「でもなんで…廃校がかかってたって言っても戦車道を…」

 

「私も西住ちゃんと同じ、普通の学生になりたかった。そのために大洗で普通に過ごしてた。河嶋と小山と一緒に…けど、あの時、あの役人から廃校を言い渡されて、もし戦車道がって聞いたとき…池田流の力でもしかしたらって思った」

 

 

すでに無くなってしまった流派だが、角谷はそのすべてを受け継いでいた。経験者である自分が指導をすればあるいはと――

 

 

「私は大洗学園の生活が大好きだった。それを守るためならトラウマになってる戦車に乗ってやるって決意した…そんな時、西住ちゃんのことを聞いた」

 

 

かの西住流、そして自分と同じような境遇の少女。もし、自分が駄目になっても後を任せれる人材が現れたのだ。

 

 

「私のトラウマがどの程度なのかわからない。今は大丈夫でもなんかの拍子にパニックになるかもしれなかった」

 

「会長…」

 

「ごめんね、西住ちゃんを保険みたいにしちゃって」

 

 

だがそれはあくまで保険。角谷は自分で戦うことを決意していた。

今でもそうだ、廃校が決定されても一人で立ちまわってこうやって大学選抜チームとの戦いを漕ぎつけたのだ。

 

 

「…正直に言うと、その判断は間違ってなかった」

 

「えっ?」

 

「今だと大丈夫だけど、最初の訓練の時、何もできなかった…ううん、サンダースとの闘いまで…試合のことなんて覚えてないんだ」

 

 

他の仲間は角谷は38tの通信手の席でのんびりしてると思っていた。それは同車してる河嶋や小山も同様だった。しかし、実際には違う。

 

 

「停車してる時なら問題はないんだけど、動き出した振動で体が震えてた。目が何度も眩んだし、西住ちゃんの指示とかもあんまり聞いてなかった。干し芋を噛み込んで落ち着くので精いっぱいだった」

 

 

運転の初心者である小山と腕があまりよくない河嶋は自分の仕事で精いっぱいだった。そのため、角谷の異変に気付かなかったのだろう。

 

 

「徐々に慣れて、アンツィオで安斎と再会したときに心にゆとりができたんだろうね。西住ちゃんの指示はちゃんと聞こえるようになった。けど、それでも戦車に乗るのが怖かった…」

 

「だったら…なんでプラウダで砲手を…」

 

 

そこまでのトラウマだったら、自分を落ち着かせるので限界だったらあの時なぜ河嶋と変わったのか。

 

 

「あの時、追い詰められたときにもうあきらめようと思ったんだ。西住ちゃんに無茶をさせて、みんなを危険な目に合わせて、そこまでしてるのに自分はただ震えるだけでいいのかって。だからプラウダの申し出を飲んで棄権することを提案しようとした。

けど西住ちゃんは諦めてなかった。たとえ不利な状況でも立ち向かうことをね」

 

 

そしたら、と言って角谷は空を見上げた。あの時、プラウダの吹雪では見ることができなかった綺麗な夜空だった。

 

 

「私は、また逃げようとした。みんなを巻き込んだ責任から、西住ちゃんに押し付けた責任から、そして…他人事のようにただ震えてる自分から」

 

「会長…」

 

「もう逃げたくなかった。池田流からも、戦車道からも、自分からも」

 

 

そして請け負った囮、その戦い方は池田流での単独戦闘技術を用いたものだった。

多少のブランクもあったのだろう、だがそれでも役目をしっかりと遂げることができた。

 

きっかけさえあればトラウマを克服することができたのだ。黒森峰の時も最初から砲手として仕事をすることができた。

 

 

「…あれ、でもこの前のエキシビジョンの時は何で…?」

 

 

そう、黒森峰の時も砲手を務めたはずなのに先日のグロリアーナとプラウダのエキシビジョンの時は再び通信種として交代していた。

 

 

「あぁ…あれね、河嶋がどうしても砲手として出たいって言ったから…砲手経験者の中で唯一ノースコアだったのが嫌なんだろうね…」

 

 

89式のアヒルさんチームでもカルロベローチェを撃破したという結果があり、角谷が38tでプラウダ戦で戦果を挙げた。それなのに河嶋はグロリアーナで零距離射撃を外したのだ。

 

 

「まあ、エキシビジョンだし、やりたいようにやらせようと思って代わったんだ」

 

「じゃあなんで通信手になって何もしてなかったんですか…」

 

「いやねぇ…単独戦闘が池田流の戦い方だからさ…咽頭(スロート)マイクはわかるけど、積んである通信機の使い方全く分からないんだよねぇ」

 

 

あっけからんという角谷にみほはずっこけた。今更トラウマを打ち明けて通信機の使い方を学ぶのも億劫になったらしく、あの時は本当に何もしてなかったらしい。

 

 

「けど今度は違うよ。大学選抜チーム戦は必ず砲手として出る。8対30だろうが、相手の練度が上だろうが、戦車の性能が劣ってようが関係ない…だから、ちゃんと聞くからさ。指示をしてね、西住ちゃん」

 

 

「――…はい!」

 

 

みほが見た彼女の目に宿っているのは、かつての池田流の亡霊に怯える『池田杏』ではなく、大洗学園の生徒会長として戦車に乗ることを決意した『角谷杏』だった。

 

 




ということで会長がなんか戦車道の経験があるという設定で作ってみました。
まず考えたのはどうして戦車道をしてないのかというのと、みほ以外初心者ということだったがなぜ経験者だったのかというのを明かさなかったのかを考えた結果、取り潰された流派ということにしてみました。
ただその原因を西住流や島田流に持たせたらいざこざがありそうだったので時代に取り残されたことにしました。

ついでに彼女の流派として『池田流』の由来は『西住みほ』の名前の由来となった『西住小次郎』のWikipe○iaの関連項目からです。

それとトラウマになるほどの出来事を積み込んでみたら実母が自殺という若干ダークな内容になった…

ついでに会長とドゥーチェがOVAや劇場版でのやり取りでどこかで面識があるような気がしたから小中学校をおなじにしてみましたが、そういえば河嶋もアンチョビの本名を知ってたのを思い出して彼女も中学を一緒にしてみた。

あとはエキシビジョンでなぜか砲手を後退してた理由ですが、やたらと初撃破を目指していたからそうしてみました。まあ、廃校撤回できたと思ってハメを外したということで


まだまだガルパンで妄想できそうだな…みほが戦車に搭乗できないほどのトラウマを負ったり、安全性があるはずの戦車道で大けがをしてとか…ガルパンはいいですね


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