城下町のダンデライオン ~平凡次男の非凡な日常~   作:翼月

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 原作第3巻を買ってきました。やっぱり面白いですね。
 一応原作通り選挙期間は3年としてますがどうなることやら……。


第1話

 朝食を済ませると、俺たち兄弟はそれぞれの学校へと向かう。

 末っ子の栞は幼稚園。光と輝は小学校。岬と遥の双子は中学校。残りの俺、茜、兄貴、姉貴、葵姉さんは高校で、今日は一緒に登校をしている。

 

「もう桜も終わりねぇ」

「うん、今週末が花見最後のチャンスかも」

「花見かぁ」

「そういや、今年はまだ行ってなかったよな」

 

 道端の桜を横目に思い出す。

 なんだかんだ毎年行っているはずなのに、今年は未だに行く気配を見せてはいない。まぁ、みんなの都合が丁度良く合わないから仕方がないのだけど。

 そんな話をしていると、向こうから人が歩いてきて、茜が小さく悲鳴を上げると葵姉さんの後ろに隠れた。

 

「おはようございます」

『おはようございます』

 

 通行人が俺たちに向かって挨拶をしてくると、こちらもそれに返す。

 街を歩いている時に通行人からこうやって挨拶されることは、俺たちが王族だからだろうか、珍しくはない。

 そう、珍しくはないのだ。

 

「……おはようございます」

 

 通行人が通り過ぎていくのを確認してから、茜がものすごく小さな声を出す。

 茜のこの反応も珍しいことではない。だからこそ、小さく溜息をつく。

 

「……だから、みんなでお弁当でも持っ」

「みなさま、おはようございます」

 

 そんな俺の気持ちも知らず、茜は葵姉さんの背中に張り付きながら話を進めようとしたが、またも通行人に声をかけられて小さくなっていた。

 茜を除く俺たちはその挨拶に返す。挨拶をしてきた主婦が連れていた園児が「バイバイ」と手を振ってくると、完全に通り過ぎた後、その背中に「バイバイ……」と茜がこれまた小さく手を振り返していた。

 葵姉さんと姉貴が同時に大きな溜息をつく。

 

「相変わらずだね、あんたの人見知り。どうにかならないの?」

「うぅ……」

「奏、そのくらいで、ね?」

 

 人と遭遇してしまったからなのか、それとも姉貴の言葉でなのか、茜は涙目で小さく唸っていた。

 

「そうだよ姉貴。茜の人見知りは筋金入りなんだ。そんな簡単にどうにかなったらそれこそ天変地異が起きるぞ」

「……さりげなく一番酷いよ、あきくん」

 

 双子の姉、茜は極度の人見知りなのだ。先ほどのように国民と道ですれ違うだけでも上がってしまう程の。それは王族としてどうなんだと思わなくはない。

 そもそも王族の俺たちがどうして一般の住宅街に住んでいるかと言うと、当然ながら国王――親父の方針だからである。出来る限り普通の暮らしをさせてあげたいという、心温まる理由かららしい。

 実際、それで俺はほとんど困ることはないのだから別にいいんだけどな。

 

「ひぃっ!?」

 

 そんなこんなで歩いていると、突然茜が悲鳴を上げて脇道に逃げ込んでいた。

 先ほどの茜の視線を追ってみると、そこには電柱。そして取り付けられた監視カメラがあった。

 この監視カメラは、俺たち王族が普通の生活を送れるようにと設置されたものだ。

 

「週末に監視カメラの位置変わったんだよね……せっかく全部覚えたのに……」

「全部ってお前、いくつあると思ってんだよ……」

「2000台以上だよ! しかも町内だけで! うぅ……映りたくないのにぃ……」

「仕方ないだろ、これが俺たちを守るためなんだから」

 

 涙ながらに訴える茜だが、それをバッサリ切ったのは兄貴だ。

 たしかにこの街だけでも2000台以上ってのはやり過ぎな気もしなくはないが、俺たちのことを想ってのことだから納得するほかない。というか、さすがにもう慣れた。

 そして、この監視カメラには実はそれ以外の理由も存在する。完全に後付けなんだろうだけど。

 

「カメラの位置なんてよく覚えたわね。私ならそれを国民のアピールに使うのに」

「アピールって……?」

「だってほら、私たちみんな次期国王選挙の候補者なんだから」

「も~! なんで選挙で決めるのよ!」

 

 俺たちはみんな、国王の子どもである。つまり、その中から次の国王が決まることになる。

 こういうのって普通は長男か長女とかだと思うんだけど、何を思ったのか、親父は俺たち兄弟の中から国民の投票によって決めるという方針に出た。

 当然ながら拒否権なんてものはない。茜ほどではないけど、そこまで国王に興味のない俺も口には出さないものの憂鬱な気分になる。

 投票は約3年後。本当に憂鬱だ。そもそも、俺がみんなと同じように候補者であっていいのかとさえ思ってしまう。

 

「あ、そういえば姉貴、時間やばいんじゃないか?」

 

 そんな憂鬱な思考を切り替えるために姉貴に声をかける。

 確か今日は、生徒会の集まりがあるとか言っていたはずだ。

 

「え? うわ、もうこんな時間……悪いけど先行くわ」

「んじゃ俺も」

 

 携帯で時間を確認すると、姉貴は一気に慌てはじめた。俺たちに一言かけるとすぐに走って行ってしまった。

 その後に兄貴も続いて去って行く。

 

「私たちも行こう、茜?」

「うぅ……だって、カメラが……」

 

 葵姉さんのそんな言葉でも茜は動こうとしない。

 まさか朝からこんなに溜息をつくことになろうとは思わなかった。

 

「葵姉さんは先に行って。こいつは俺が責任を持って連れてくから」

「え、でも……」

「いいから。茜が原因で葵姉さんに遅刻させるわけにはいかないよ」

「わ、私が原因って……」

「事実だろ」

「ぁぅ……」

 

 自覚はあるらしく、反論もせずに唸り始めた。

 とりあえず、まだ悩んでいる葵姉さんの背中を押して先に行くように促すと、「放課後はちゃんと迎えに行くから」と言い残して学校へと向かってくれた。チラチラと振り返りながらだったけど。

 でだ。

 

「ごめんね、あきくん」

「そう思ってるなら、その人見知り直してくれ」

「……………………善処はする」

 

 溜めに溜めたんだから、そこは嘘でも直すと言ってほしかった。

 それはさておき、葵姉さんを先に行かせることには成功したものの、もたもたしていたら俺たちもこのままじゃ遅刻してしまう。

 

「そんじゃ行くぞ」

「ま、待ってよカメラがぁ~」

「じゃ、俺がカメラ引きつけるよ。動きは鈍いし、それで行けるだろ」

「お願いします」

 

 お前の人見知りは土下座するほどなのか……。

 まぁ、言った手前やらないわけにはいかず、俺が先にカメラの前を歩く。それはもう普通に。

 作戦通りカメラの動きは俺を追っている。後はその隙に茜が走って通るだけだったのだが、カメラの動きが唐突に早まり、茜の姿を捉えていた。カメラに気づいた茜は悲鳴を上げて走り去っていく。

 設置場所が変わっただけじゃなくて、性能も良くなっていたらしい。これは誤算だった。って、そんなことを言ってる場合じゃないか。早く茜を追わないと。

 走って行った茜を追うと、茜は公園の端っこの方に座り込んでいた。

 

「せっかくカメラのないルート見つけたばっかりだったのに……」

 

 だからカメラの台数増やされたり配置が頻繁に変わるんじゃないだろうか? という予測は茜に言わない方がいいだろうか。

 

「このままじゃ本当に遅刻するぞ」

 

 俺の言葉に、唸っていた茜が「こうなったら」と立ち上がる。

 まさか、あれを使うつもりだろうか。

 

「いいのか? ズルしてるみたいだからなるべく使いたくないんじゃ」

「だって、あきくんまで遅刻させるわけにはいかないもん」

 

 そう思うなら人見知りまでとは言わないけど、せめてカメラくらいには慣れてほしい。

 ここでそれを言ったらまた凹みそうだから、喉まで上がってきた言葉を必死に呑みこむ。俺もできる限りなら遅刻はしたくないのだ。

 そんなことを思っていると、茜の身体がほんのりピンク色の光を纏い始めていた。手を差し出され、それを握る。すると俺の身体にもその光が纏い始める。と同時に、茜が地面を蹴ると、大きく空へと飛んだ。

 それ以降は落下することなく、俺たちの身体は宙に浮いたまま学校の方へと飛んでいく。

 

 王家の一族はそれぞれ特殊な能力を持っていて、それが王族の証ともなっている。

 茜の能力は、茜と茜が触れたものにかかる重力を操るというものだ。確か名前は『重力制御(グラビティコア)』とか言ったっけか。

 このような能力を、親父を含め兄弟みんなが持っている。

 が、俺はそんな特殊能力を持っていなかった。王族ならば必ず持っていると言われるものをだ。唯一家族では他に母さんが能力を持っていないけど、それは母さんはもとは一般市民から嫁いできたからであって、それは不思議でもなんでもないことだ。

 だけど俺は違う。櫻田家――王族の血を引いて生まれてきたはずなのに、俺だけが能力を持っていない。

 国王選挙に消極的なのも、実際にあまり興味がないと言うのもあるけど、能力を持っていない俺が国王になっていいのだろうかと思ってしまうからだ。何で俺だけが能力を持っていないのか、もしかして俺は本当は王族の血を引いていないのではないか? 気にはしないつもりだけど、直に兄弟の能力を見てしまうと嫌でもそんなことを考えてしまう。

 

「あきくん、どうしたの?」

「え、いや……何でもない」

 

 考え込んでいたら茜が心配そうにこちらを向いていた。

 そう、能力について考えると、みんなに心配そうな表情をさせてしまう。それも俺には苦しいことだった。

 こういう時は話を逸らすのが一番だ。

 

「それよりも茜、もう少しゆっくり飛んだ方が良いんじゃないか?」

「何で? 早くしないと遅刻しちゃうよ?」

「そうなんだけどさ……見えてるから、パンツ……」

「え゛っ!?」

 

 一瞬、茜の能力が途切れて俺たちは元の重力を受けてしまう。それがどういうことを意味するのか。

 答えは簡単。落下である。すぐに茜が気を取り直して能力を使って、俺たちはまた宙に浮かび上がった。

 まぁ、能力がないことに悩む時はあれど、能力があればいいってもんじゃないなと、兄弟の能力の失敗を見るたびに強く思ってしまう。

 この後パンツを見たか見なかったかで茜に問われ命の危険に晒されつつも、なんとか無事に遅刻せずに学校に着くことはできたのだった。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

 俺と茜は学校でも同じクラスである。

 同じ学年に双子――しかも王族が2人も居るんだ。わざわざ分けるよりも、一緒のクラスにした方が管理もしやすいのだろう。小学校の頃から別々のクラスになったことは、確かなかった気がする。兄貴と姉貴も同じクラスだしな。

 

「間に合ったぁ……」

 

 教室に着くなり、茜が机に突っ伏した。

 ちなみに、俺の席は茜の真後ろである。席替えもせずに五十音順でならわかるけど、席替えのくじ引きでさえも必ず茜の後ろの席を引き当ててしまうというのは、もはやこれは仕組まれているのではないだろうか?

 

「お疲れ、茜様、晶様」

「毎日大変だね、茜様、晶様」

「茜はともかく、俺まで様付で呼ぶのはやめてくれないか」

「私だって嫌だよっ!?」

 

 突っ伏した茜に話しかけてきたのは、同じクラスの鮎ヶ瀬花蓮と白銀杏。どちらも茜の親友だ。

 俺たちの言葉に、2人は苦笑を浮かべる。

 

「まぁ、学校と家だけが周りの目から逃げられる場所だもんね」

「俺は別に気にしてないんだけどな」

「主に茜に対して言ってるの」

「ここにはカメラもないからね」

「うん! ホント最高!」

 

 どうしてこいつは学校でこんなにイキイキとした表情ができるのだろうか……町内では確実に見ることのできないような満面の笑みを浮かべている。

 まぁ、それも一時的なことである。なぜなら――、

 

「はぁぁ……終わっちゃった……」

 

 早いもので放課後、茜は再び机に力なく突っ伏していた。鮎ヶ瀬もさすがに呆れ顔である。

 もういっそのこと学校に住み着いてしまえばいいんじゃないか? さすがに家族の誰も許しはしないだろうけど。特に兄貴と姉貴、それに親父は。

 

「あんた以上に学園生活を満喫してる子、居ないと思うわ……」

「だって、ここではみんな私を特別扱いしないでしょ」

「そりゃまあ、友達だし」

 

 鮎ヶ瀬の言葉に、白銀も頷く。

 そんな茜は「花蓮~」と鮎ヶ瀬に抱き着こうとして軽くあしらわれていた。

 

「茜、そろそろ葵姉さん来ると思うぞ」

 

 俺がそう茜に声をかけるのとほとんど同時に、葵姉さんの声が教室に響き渡った。瞬間、入口に居た葵姉さんがクラスメイトたちに取り囲まれていた。

 ホント、あの人の人気はすごいな。茜がチヤホヤされていないのは、単に人気がないだけなのかもしれないと、思いはしても口には出さない。

 

「あきくん、今失礼なこと考えてなかった?」

「エスパーかお前は」

「双子だからね――って、否定してよ!?」

 

 騒ぐ茜を無視して鮎ヶ瀬と白銀に一言かけてから、葵姉さんの所へと向かった。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

「お姉ちゃんすごいよねぇ、どこでも人気者で」

 

 帰宅途中、溜息をつきながら茜がそんなことを口にしていた。

 当の本人は首を傾げて「そうかな?」と言っている。

 実際、葵姉さんの人気はとてつもない。国王選挙のためのアピールなんて何もしていないにも関わらず、老若男女問わず慕われている。才色兼備と言うのはこういう人のことを言うんだろうなと、俺は思う。

 まぁ、実際は若干抜けてるところがあったりするのだが、それはおそらく家族や仲の良い友人しか知らない一面だろう。もっとも、国民に知れ渡っても「むしろそのギャップが良い!」とかでさらに人気が上昇しそうな気もするが。

 

「わからないけど、部活の勧誘とかは多いかも」

「部活? 例えば?」

「うーんと、演劇部とか」

 

 なるほどと頷く。

 確かに演劇は葵姉さんの良さを見せるにはこれ以上ないのかもしれない。演技力は知らないけど。

 

「演劇部! それなら私もやってみたいかも! お姫様の役とか!」

「いや、一応お前本物のお姫様だからな」

「というよりも」

 

 葵姉さんが口を開こうとしたのと同時に、通行人に挨拶をされた。

 俺と葵姉さんはいつも通り普通に返すのだが、茜はいつの間にか俺を壁にして姿を隠していた。

 通行人が去ったところで、葵姉さんが続きを口にする。

 

「人見知りで、無人カメラすら直視できない茜が人前に立てるの?」

「無理です!」

「そんな力強く言わんでも」

 

 まぁ、茜でなくても人前で演技するって言うのは難しいとは思うけど。少なくとも俺も無理だ。

 別に人見知りというわけでもないし、カメラだってもう慣れて気にはしないけど、人前で演技はそれとはわけが違うからな。

 というか、できるならば俺だってあまり目立ちたくはない。

 そんな話をしていると悲鳴のような声が聞こえてきて、後ろから走ってきた人が茜とぶつかった。

 

「ごごごごごめんなさい! 後ろに目が付いていなくて!」

 

 ぶつかってしまった茜は葵姉さんに涙目で抱き着きながらそんなことを言っていた。後頭部に目が付いている人間は、たぶんこの世の中には居ないと思う。

 そんなことはどうでもよくて、ぶつかってきた人は何やらひどく慌てていたみたいで、舌打ちをするとすぐに走って行ってしまった。

 ぶつかっておいて謝りもなしかよ。

 

「ひったくり! 誰か捕まえてー!」

 

 直後、同じ方向から女性が叫びながら走ってくると、涙目だった茜の表情が真剣なものになる。

 

「あきくん、鞄お願いね!」

「お、おう」

 

 鞄を俺に投げて渡すと、茜はクラウチングスタートの体勢をとり、身体にあの赤い光を纏わせる。能力を使ってあのひったくり犯を捕まえようとしているのだろう。

 

「茜、気を付けてね?」

「大丈夫、エレガントに行くよ。正義は……勝ぁーーーつっ!」

 

 突風を巻き上げて茜が走って行く。重力を操れる茜は、自身にかかる重力を弱めることで自分の速度を上げることができる。

 まぁ、エレガントとは程遠いわけだが。あんな激しく動いたらまた見えてしまいそうだ。

 

「姉さん、さすがに心配だから俺も追うよ」

「うん、お願いね」

 

 茜の鞄を抱えながら、俺も小走りで後を追う。さすがにあのスピードの茜には追いつけないな……どこ行った?

 

「待ちなさいって、言ってるでしょー!」

「あっちか」

 

 声の聞こえた方に向かうと、ちょうど茜の膝がひったくり犯の顔面に突き刺さるところだった。これで無事事件も解決――、

 

「って何やってんだ!?」

「パンツ見られたぁ~!」

「お前が見せたのは走馬灯だよっ!?」

 

 そんなことを言っている場合じゃない。とりあえず、ひったくり犯の様子を窺って見ると……よかった、気絶してるだけっぽい。もしかしたら、茜が無意識に手加減をしたからなのかもしれないけど、それを確認する術はない。

 まぁ、ひったくりした挙句に王女のパンツ見れたんだから、膝蹴りくらいチャラみたいなもんだろう。考え方を変えれば、女子高生の膝に触れたんだ、嬉しかろう。

 ……俺は絶対にそうは思いたくないが。

 

「まったく、張り切るのはいいけど気をつけろよな」

「ご、ごめんなさい……」

「今に始まったことじゃないからいいんだけどさ。それより、人集まってきたみたいだけどどうすんだ?」

「え?」

 

 いつの間にか、周りには人だかりができてしまっていた。王族がひったくり犯を撃退(?)したのだから、注目されるのも必然だろう。

 やがて警察が到着すると、ひったくり犯は警官によって連行されていった。途中、「パンツなんかじゃ割にあわねーぞ!」と叫んでいたらしいが、どうやら茜のパンツでは満足できなかったようだ。

 

「茜様! 犯人逮捕の経緯を詳しくお願いします!」

「茜様、何か犯人に対しておっしゃりたいことは?」

 

 で、その茜は今、テレビ局やら新聞記者やら、とにかく大勢の報道陣と警官に囲まれていた。

 事件解決に貢献した人物の話を聞きたいんだろうけど、ブレザーを頭に被っている茜はむしろ容疑者のようにしか見えなかった。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

『ご覧いただいたのは、茜様がひったくり犯を捕まえるたニュースでした』

『こんな貴重なVTRが見られるのも、サクラダファミリーニュースならではですね』

 

 その日の夜、ソファに座ってテレビを見ていると、茜がひったくり犯を捕まえたというニュースがVTR付きで放送されていた。

 この国ではなんと、毎週決まった日に俺たち王家の日常を特集するテレビ番組が組まれている。内容はまぁ様々。映像は街に設置されている監視カメラが撮っているから、今のように茜の勇姿も洩れなく記録されている。

 

『特に茜様の映像は大変貴重ですしね』

 

 もはや見世物のようである。

 

「はぁ……やっぱり恥ずかしいよ、テレビで放送されるなんて……」

 

 夕飯の支度を手伝っていた茜が溜息をつく。

 そう思うなら目立つ行動を少しは控えればいいのに。

 

「茜、頑張ったんだからいいじゃない」

「そうそう、国民にみんなのことを知ってもらうのも大切な仕事よ」

「うぅ……」

 

 母さんも葵姉さんも励ますけど、茜の涙は止まらなかった。

 

「3年後には選挙もあるしな」

「いいなぁ、茜ちゃんテレビに映って!」

「全然よくないよっ!」

「光、そろそろ支持率出るぞー」

「あっ! 見る見る~!」

 

 光が名の通り光りの早さでソファに座る。

 支持率というのは言葉どおりの意味。俺たち次期国王候補が、今誰が注目を浴び国民に支持されているのかというものだ。

 ニュースの結果では、やはり上位は葵姉さん、それに次いで姉貴(奏)と出ている。年長組が有利かと言われるとそんなことはなく、長男である兄貴は最下位だ。茜は中間くらいだったと思うけど、今回のひったくり犯逮捕で支持率は上昇するだろう。

 俺たちの中から次期国王が決まる。それは散々言われていることなのだが――、

 

『末っ子の栞様が国王になったら楽しそうですよね!』

 

 国のトップを決めるというのに、なんか軽すぎやしないだろうか……いやまぁ、栞にも国王の権利はあるからそれはいいんだけど。

 

「むぅ~、全っ然支持率上がってないし」

「そんな急激に上がることはないだろ」

「茜ちゃんは上がってるみたいだけど」

 

 テレビでは、ちょうど茜がひったくり犯に膝蹴りをしている場面が映し出されており、これから支持率は上がっていくだろうと評価していた。同時に、後ろから茜の断末魔も聞こえてくる。

 

「ま、まぁ、選挙まであと3年もあるんだ。焦って背伸びせずに、自分が今できることをやって確実に支持率を伸ばしていった方が良いと思うぞ。光は光の思うように頑張ればいい」

「晶くん……」

 

 奇を衒おうとして外してしまったら元も子もないし。

 良いことを言って、ちょっとカッコつけすぎてしまったか。

 

「ただいまー」

「あっ、パパだ! おかえりなさい!」

 

 そう思っていたら親父が帰ってきて、光がそちらに行ってしまった。

 スルーかよ!? ちょっとカッコつけちゃったかなとか思ってしまった気持ちを返してほしい。

 というか親父、今日はいつもよりもかなり早いな。夕飯前に帰ってくるなんて早々ないってのに。

 

「お前たち、週末は何か予定あるか?」

 

 帰ってくるなり、おもむろに親父がそう切り出した。

 

「別に何もないけど」

「もしかしてどこか連れてってくれるの? お花見?」

 

 首を傾げる茜と、対照的に期待の眼差しで問いかける光。

 なぜだろうか、何か嫌な予感がする。俺の直感がそう告げている。

 

「ごめん、俺は予定ある」

「晶、予定ってなんだ?」

「ほら、この前新しくラーメン屋できただろ。食べに行きたい」

「よし、みんな暇だな」

 

 なぜだ、立派な予定だというのにスルーされたぞ。街の食べ物屋を回るというのが、俺の唯一の趣味だというのに……。

 心の中で涙している俺を気にもせず、コホンと咳払いした親父が続ける。

 

「急な話だが、お前たちのテレビ出演が決まってな」

「……え?」

 

 理解が追いついていないのか茜が首を傾げ、理解した後、茜の悲鳴が響き渡った。

 嫌な予感が的中してしまった。茜ほどではないけど、俺も溜息をつかずにはいられなかった。




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 能力がないとは言っていますが、それでシリアス目な展開にしたりはたぶんないと思います。たぶん。
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