『視聴者の皆様、こんにちは!』
『なんと、今週のサクラダファミリーニュースは、王家御兄弟全員に来ていただいております!』
週末、茜の抵抗虚しく、俺たち兄弟は親父が言ったようにテレビに出演していた。
本来ならば今頃はラーメンを啜っているというのに……何が悲しくてテレビに映ってまで茜の壁になっているのだろうか。
俺たちが居るのは高くそびえたつビルの目の前だ。取り付けられたモニターに、司会の姿が映っている。
『御存じの通り、王族の方々には特殊能力が備わっています』
『本日はあるゲームに挑戦し、その力を披露して頂こうと思っています』
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
モニターに映っている司会の言葉に、俺は思わず絶叫していた。すぐに口を抑えたけど、視線がこちらに集まっていたので、国民に対し笑みを浮かべる。今の俺、上手く笑えているかな……。
いやいやいやいや、何考えてんだよ親父? 俺能力何て持ってないよ? 何も披露すべきものないよ?
「あきくん、大丈夫?」
「ダイジョバナイ」
茜にまで心配されてしまう始末。こればっかりは仕方がないが、本当にどうすればいいんだ。
他の兄弟を見てみると、案外みんなやる気に見えなくもない。いや、気のせいだった。やる気に見えてるのは光と輝と姉貴くらいだった。
まぁ待て、落ち着け。まだ慌てる時じゃない。もしかしたら、能力を使わなくても済むようなゲームかもしれない。
『そのゲームとは、危機一髪! ダンディ君を救え!』
司会の言葉と共に、モニターの映像が変わる。これは……このビルの屋上か。そこに乱雑にダンディ君というゆるキャラ(?)のぬいぐるみが置かれていた。なるほど、屋上のダンディ君ぬいぐるみを、地上にある籠の中に入れて、その数を競うと……。
能力のない俺、圧倒的に不利じゃないですかねお父様!? さっそく逃げ出したい気持ちでいっぱいなんだけど。
『国王からも、激励の言葉をいただいております』
パッと映像が変わると、そこに映し出されているのは我らが親父。そして、この国の国王だった。
『皆、惜しみなく力を発揮し、国民の皆さんに自分たちを良く知ってもらうように頑張ってほしい。一番成績の悪かったものには、城のトイレ掃除をしてもらう』
「えぇー!」
「お城のトイレ掃除ぃ!?」
親父いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!
光と岬が何か言ってるみたいだけど、これは本格的にどうにかしなければならなくなった。城のトイレ掃除なんてやってられるか!
『制限時間は60分。それではスタートです!』
頭を抱えて何か打開策を考えていると、無慈悲にもゲームの開始が宣言されてしまった。
「僕はこのビル、登ります!」
まず先に動き出したのは、四男の輝。ビルに近寄ると橙色の光を身体に纏う。
『四男、輝様の能力は「
輝の能力は読んで字の如く、自身の力を超強化するというものだ。これは並の強化ではなく、簡単に大人の力をも超える程である。
能力を発揮した輝は、見る見るうちにビルを登って行く――が、幼くてまだ能力の制御ができていないせいなのか、途中でビルの一部を壊してしまい落下してしまった。途中でなんとか立て直したけど、見てるこっちがハラハラする。
「私だって!」
「あんまり無理しないでね」
「わかってるわかってるって」
次に動いたのは光。近くの木に駆け寄って行った。
まったく安心できない返答だなおい。
「じゃ、始めちゃおっかな!」
木に登ってそう言った光の身体に黄色い光が纏わり、次に木に触れると、その木は急成長を始めどんどん大きくなっていった。
『五女、光様の能力は「
『考えましたね。樹木の生長を操り、屋上へ一番乗りです』
あっという間に木はビルと同じ高さまで成長し――それでもなお止まらずに成長を続けてビルを追い越してしまった。
頭上から「伸びすぎたぁ~!」と言う光の叫び声が微かに聞こえた。
「あれじゃビルに飛び移るのも無理そうだな……」
光の能力は24時間続く。その間、能力を使った対象にもう一度能力を使うことはできない。兄貴か茜が助けに行かない限り、光は実質脱落したも同然だろう。
もっとも、上手くいったとしても一方通行、しかも一度きりしか使えない方法だったんだが。あいつ、戻ること考えてなさそうだし。
そんな光を見上げつつ、姉貴が溜息をついていた。どうやら姉貴も動くらしい。
「よく考えたら、自分が登るなんて効率悪いですねぇ」
姉貴の身体に緑色の光が纏わると、次の瞬間、中には数機のドローンが現れた。って、セコすぎるだろ!?
『次女、奏様の能力は「
万能のような能力に聞こえるが、実際のところはそうではない。いや、万能であることには変わりはないのだが、生成したものに等しい金額が能力者――つまり姉貴の口座から自動的に引き落とされるのだ。口座の残高よりも大きいものを生成した場合にどうなるのかは知らないけど、逆に言えば、残高以内でなら何でも生成することができる。
やっぱりとんでもない能力だよな、あれ……。
上に行ったドローンはすぐにダンディ君ぬいぐるみを地上の籠へと入れていた。続いて輝も戻っていたらしく、籠の中にぬいぐるみを入れていく。
「私も頑張らなくっちゃ」
そう言って次に能力を発動したのは岬だ。ピンク色の光を纏うと、岬が8人に分裂する。
『四女、岬様の能力は「
「頼んだわよ、みんな!」
7人の分身はそれぞれが岬でありつつも、個別に得意分野が違う。そしてこのゲームにおいて、自分が増えるという戦力の増加が行われている。
1人が自身を含め8人に増えるんだ。単純に、日常生活でも便利な能力だよな。なかなか騒がしいけど。
そして岬たち8人がビルに入って行くのを見てそこで気づく。
例え能力を使ったとしても、岬は瞬時に屋上へたどり着くことはない。ちゃんと中のエレベーターや階段を使って登るのだ。そしてそれは、能力を持たない俺も同じ。
確かに能力を使って8人になれば、1回の往復で運べるぬいぐるみの数は岬の方が多いだろう。だが、俺は別に1位を狙っているわけじゃない。最下位から逃れられればいいだけ。
つまり、地道にぬいぐるみを運搬すればいいわけだ。
他にも能力を使っても同じ条件下にある兄弟は居る。少し頑張れば最下位は逃れられるはずだ。
「えっ、そうなの? ごめんなさい、ちょっとわからない……」
そうしている中、いつの間にか栞も動き始めていたようで、消火栓に向かって話しかけていた。
普通なら正気を疑うところではあるが、それが栞の能力なのだ。
1人困惑している栞に、葵姉さんが近寄る。
「栞、何を話しているの?」
「あのね、せっかく消火栓さんが近道を教えてくれたんだけど、よくわからなくて……」
「何て言ってたの?」
「B2、荷物用エレベーター、27階で乗り換え……」
「あぁ、あのルートね」
いったい何のことを言っているのかわからなかったが、葵姉さんにはわかったようだ。
「お姉ちゃん、わかるの?」
「前に一度、見学に来たことがあるから」
よく覚えてられるなとも思うが、それが葵姉さんの能力だ。
『六女、栞様の能力は「
栞と葵姉さんもビルの中へと入って行く。あの2人なら最下位は逃れるだろう。さすがに栞にトイレ掃除とかさせるわけにはいかないからな。
「さて、俺も動くか」
「え?」
「ずっと映りっぱなしってのもな」
「忘れてたーっ!?」
ついに兄貴も動き出す。青白い光を身体に纏ったかと思うと、その直後には兄貴の姿はどこにも見当たらなかった。
『長男、修様の能力は「
これも読んで字の如くだ。このゲームというか、日常生活でもこの能力があって困る時は少ないだろう。ぶっちゃけ羨ましい。
それはさておき、そろそろ俺も動かないと本当に最下位になってしまう。トイレ掃除とか絶対にやりたくないぞ、俺は。
『おぉっと! ここで遥様にも動きが!』
そんなことを考えていると、どうやら遥も動き出すようだ。まぁそうだよな。遥もほとんど俺と同じ条件下のようなもんだし。
『三男、遥様の能力は「
確率――例えば、明日の天気で晴れの確率が何%とか、そういうものをより正確に予知することができる。この場合で言えば、『最下位になる確率』でも予知したのだろう。
予知した結果が良かったのか、口元を緩めると遥はこちらに近づいてきた。
「茜姉さん」
俺たち――と言うよりも、遥は俺の背中に張り付いている茜に話しかけていた。
なあ、俺は?
「どどっどうしたの遥!?」
「とりあえず落ち着いて。このまま茜姉さんが何もしないと、ビリになる確率は87%。同じく僕も74%。でも、2人で協力すればその確率は25%まで下げられるって、僕の予知では出てる」
「なぁ、遥、俺は?」
「晶兄さんがビリになる確率は45%だったよ」
あれ、意外と低い。能力が何もないからてっきり90%くらいは出てるもんだと思ってたのに。
「別に……ビリだっていいよ。これ以上目立ちたくないし。トイレ掃除くらいならまぁ」
「茜、城のトイレがいくつあるか知ってるのか?」
「へ?」
曲がりなりにもこの国の城である。当然ながらかなり広い。正確に数えたことはないからわからないけど、少なくとも2桁では済まないだろう。
「それに、お城に行けばいろんな人に会うことになるけど、それでも――」
「やるわ、私! 絶対9位になってみせる!」
ついに茜がやる気になったけど志のなんとも低いことで。俺もあんまり変わらないから人のことは言えないんだが。
「じゃ、頑張ろうか」
「うん! あ、あきくんも行く?」
遥が茜の肩に手を置くと、茜が俺にそう聞いてきた。これから茜の能力で一気に屋上まで行くつもりなのだろう。
「いや、俺は遠慮しておく」
「いいの? あきくんがビリになっちゃうよ~?」
「いいよ、俺は負けん」
それに、頻繁にこいつの能力の餌食になっている身としては、できることなら能力回避したいし。なにより、茜のこの能力に付いて行くと、必ずとは言わないけど、高確率で面倒なことになるからな。経験と俺の直感がそう言っている。
『次男、晶様も動き出しました! どうやら、単独でビルを攻略していくようです』
そんなわけで、俺も遅ればせながらビルの中に入る。俺に能力がないのは国民周知の事実なわけだから、特に説明らしい説明もなかった。すぐに後ろから茜の能力の説明が聞こえてきたから、きっと茜が能力を発動して屋上まで向かったのだろう。
冗談抜きで、早くしないと俺の最下位が決定してしまう。
走ってエレベーターに乗って道に迷ったりなんだりしていたらえらく時間がかかってしまったが、ようやく屋上に到達した。まぁ、本当は途中で見つけた岬の分身の後を追っただけなんだが。
「大変そうだな」
「兄貴は良いよな、一瞬で往復できるんだから」
「あぁ、楽だぞ。なんなら下まで送って行ってやろうか?」
「遠慮しとくよ」
嫌味かと言いたくなる気持ちを抑える。
とりあえず両手に抱えられるだけ持って、また同じ道を戻る。時間は一応まだあるけど、早いことに越したことはないだろう。
外に出て籠にぬいぐるみを入れる。これで一応最下位は逃れられたと思う。
と、突然観客が沸き始めた。何だろうと観客の方を見て、その視線の先にあるモニターに視線を移し、思わず頭を抱えた。
モニターに大きく映し出されていたのはパンツだった。しかも茜の。映されたのはほとんど一瞬で、すぐに映像が変わった。直後、スタッフが来てゲームの終了を告げられた。
良かった……ぬいぐるみ入れられて。
「制限時間前ではありますが、ここでゲームを終了させていただきます」
その後スタジオにみんなで向かうと番組が再開される。
ゲームが終了(茜のパンツが放送されてしまった)時の得点がそのまま最終得点となっていた。
1位は兄貴。2位は姉貴。3位は意外にも輝。4位は岬。5位は葵姉さんと栞。7位は俺。8位はちゃっかり遥。最下位は魂の飛んでいる茜と光だ。
「頑張ったのにー!」
「光、木の上に居ただけじゃん」
光はあのままずっと木の上で涙していたらしい。まぁ、兄貴が助けに行くまでずっとあの状態だったからな。高所恐怖症にならなかっただけ良かっただろう。
「それではここで、国王選挙、現時点での順位を発表したいと思います!」
司会のその言葉で、みんなに緊張が走った。
モニターに10位から4位までの順位が表示される。
下から、兄貴、俺、輝、遥、岬、光、栞の順だ。まだ選挙が始まったばかりだからか票数に開きはないが、俺の順位はほぼほぼ予想通りだ。
「えぇ……私5位……」
「うぅ……栞に負けるとは……」
光と輝はこの順位に不満のようだけど、さっきも言った通りまだ始まったばかりだ。今後どうなるかはわからない。
チラリと横に座っている茜に視線を向けてみると、まだ順位が出ていない茜は顔を青くしていた。
「第3位は奏様です!」
「えぇ!?」
3位が発表されると、茜が声を出していた。自分の名前が出てこなかったからだろうけど、それで姉貴に睨まれてしまっていた。
「ご、ごめんなさい……」
「何で謝るの」
……声が冷たすぎやしませんか奏姉さん。
何はともあれ、これで1位争いは葵姉さんと茜の2人となったわけだ。どっちにしても茜にとっては最悪か。
「全然よくないじゃん!」
そんなことを考えていたら、いつの間にか順位が発表されていた。
1位は葵姉さんで、2位は茜。
頭を抱える茜の悲鳴が全国のお茶の間に響いてしまった。
* * * * *
「明日からトイレ掃除……おまけにぱっぱぱぱ……それに2位……うぅぅ……」
サクラダファミリーニュース特別版も終わり、家族みんなで家で夕飯中、茜は泣きながら椅子に体育座りしていた。
まぁ、ここ最近だけでもいろいろあったからな。主にパンツ関連で。こんな短期間で何度もお茶の間にパンツをお送りする王族なんてそうそう居ないだろう。話題性としてはバッチリだろう。
「食べないの、茜。あなたの大好きなハンバーグよ?」
母さんの言葉にも茜の表情は優れなかった。
ショックはわからんでもないけど、重傷だなぁ……。
「王家に生まれたせいで、お前たちは必要以上に注目を浴びてしまう。そのことで、傷つくこともあるだろう」
確かに、いくら親父の方針で一般的な生活を送っているとはいえ、何をどうしようが俺たちが王族と言うのは変わらないし、これから一生、変わることはないだろう。
普通の一般家庭と同じように過ごしていて普通なら起こらないような問題も、当然出てくる。
「だが」と親父が続ける。
「王族として最低限の義務や責任が生じる。お前たちは国の象徴――そして、希望だ。誰が私の跡を継ぐかはわからないが、皆その資格を果たすための覚悟だけは持っていてほしい」
どうあっても王族は王族。否が応でも、それが俺たちには求められる。わかっちゃいることなんだがな……というか、
「パパったら、また被って来ちゃったの?」
良いことを語る親父の頭の上には、またもや王冠が輝いていた。
「いや、城には連絡済みですから……」
「そういう問題じゃなくないか?」
さっきまで格好つけていた親父が苦笑いを浮かべる。
なんというか……締まらねぇなぁ……。
* * * * *
その日の夜。ベッドに寝転がった俺は、夕飯の時の親父の言葉を思い出していた。
「王族、か……」
思うのは、俺だけが能力を使えないということ。これまでに何度も検査を受けてきたけど、結果が変わったことは一度だってない。
王族の血を引いていないかもしれないのに、王族としての義務や責任を問われるなんておかしくはないだろうか。まぁ、引いていようがいまいが、今の『俺』は変わることはないとは思うけど。
それでも、やっぱりそんな奴が次期国王候補と言うのは違っている気がする。少なくとも、こんな考えを持っている奴がなっていいものじゃない。
「なんだ、まだ起きてたのか?」
深く溜息をつくと、兄貴の声が聞こえてきた。俺と兄貴は同じ部屋で過ごしていて、部屋を真ん中で二分して、カーテンで仕切っている。
「兄貴こそ、起きてたのか」
「お前の溜息が大きくて寝られないんだ」
「え、そんなに出てた?」
「あぁ、うるさいくらいにはな」
自分のことながらまったく気づいてなかった。兄貴にはちょっと悪いことしたな。
「何考えてるかは知らんが、お前は紛れもなく『櫻田家次男の櫻田晶』だ。俺たちの家族だ。俺たちが王族と言うのが変わらないのと同じで、それも変わることはない」
知らんがって、全部お見通しかよ。普段無気力でやる気ない風に見せてるくせして、意外とみんなの事を見ているんだよな、兄貴は。
「わかったらさっさと寝ろ」
「わかりましたよ、お兄様」
「おう、敬え敬え」
嫌味っぽく言ったのに簡単に躱されてしまった。それきり兄貴は静かになった。
結局、俺はそう言われたいだけなのかもしれないな。みんなの家族だと。そう、言ってもらいたいんだ。唯一みんなと違うから。自分が安心したいがために。
今はこれでいいのだろう。
『櫻田家次男の櫻田晶』で。それが紛れもない、俺なのだから。
アクセス、お気に入り、ありがとうございます! 一気に増えてたので嬉しい限りです!
ヒロイン登場はもうしばらくお待ちください。