城下町のダンデライオン ~平凡次男の非凡な日常~   作:翼月

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 城下町のダンデライオンの舞台がありましたね。
 …………行きた…………かったなぁ。


第3話

 ゴールデンウィーク――それは5月にある大型連休であり、年ごとに差はあれど、最低でも3連休が約束されている素晴らしい期間である。

 それに合わせて見合った課題も出されたりするのだが、それは問題なく配られたその日に全部終わらせたので、ゴールデンウィークを満喫することができた。

 まぁ、満喫したと言っても、家でゴロゴロしたり、外に出て新たな美味しいものを探す旅に出たりするくらいだったんだけど。

 ちなみに、先月のゲームでの罰ゲームを受けることとなった茜と光は、ゴールデンウィークをほぼ返上で城のトイレ掃除をやらされていた。可哀想だと思わなくはないが、これも親父が決めたことだ。仕方ないだろう。

 で、今日はそんな大型連休の最終日。俺たち家族は毎年行われる音楽会に参加するため、城に来ていた。もちろん私服ではなく正装でだ。

 毎年強制だからこそ思ってしまうわけだが、音楽会の参加は面倒だな。

 

「音楽会が面倒だって、顔に出てるわよ?」

「実際、面倒なんだから仕方ないだろ」

 

 俺の表情を読んだらしく、姉貴が嫌味ったらしくそう言ってきた。

 音楽を聴くことは別にいいんだけど、わざわざホールで聴くのはなと思ってしまう。

 

「輝と栞を見てご覧なさい? あんなに楽しみにしてるじゃない」

 

 言われて見てみると、輝は楽しみにしているのかなんなのか、ずっとソワソワしていた。栞はいつも通りな気もするけど、心なしか口元が緩んでいる気がする。瞳も輝きを増している。可愛い。

 

「いや、栞はともかく輝は寝るよ? 断言してもいい」

「あら強気ね? 何なら賭ける?」

「可愛い弟を賭けの対象にすんなよ」

「賭け事? 僕も混ぜてよ」

 

 姉貴と話していると、何故か遥も混ざってきた。だから、可愛い四男を巻き込んでやるなよ。というか、お前が入ってきたら賭けにならないだろ。

 姉貴も同じことを思っていたようだけど、そんな俺たちを見て、遥は小さく笑う。

 

「安心してよ、さすがに僕が入ったら勝負にならない。だから、僕が能力を使って出た結果を言って、それを材料にして賭けてもらうのさ」

「なるほどね」

 

 それでも遥の能力で出た結果はかなりの確率で当たる。勝負にならない気もするけど、とりあえずその条件で乗ることにした。

 さっそく遥が能力を使うと、顔を引きつらせた。

 

「どうしたの? 早く言いなさいな」

「あー、いや……これは勝負にならないと思うよ……うん」

 

 遥のその言葉に、俺と姉貴はすべてを察した。

 

「こら、弟で遊ばないの」

『はーい』

 

 そんな話をしていたら葵姉さんに怒られてしまい、結局賭けは流れてしまった。

 そんなこんなで音楽会。王族である俺たちはステージが良く見える特等席である。

 流れてくる音楽はすべてが超一流である。が、そんなに耳が肥えていない俺には、すごいなという簡単かつ面白みにも欠けるような感想しか出てこない。

 欠伸が出そうになるが必死に堪える。ここもカメラに映されているから、迂闊な行動はとれないのだ。兄貴辺りは上手くやり過ごしてそうだけど。

 奏者には悪いけど、早く終わってほしい……そう思いながらも、俺は奏でられる綺麗な音色に耳を傾けるのだった。

 

 ちなみに、輝は俺の予想と遥の予知通り寝てしまっていたらしい。

 

 

*  *  *  *  *

 

 

 ゴールデンウィークと言う夢のような期間が終わってしまうと、当たり前だがいつも通りの日々が始まる。

 しかし、今日はいつもよりもさらに早く起床して登校の準備を整えていた。

 リビングに向かうと、姉貴とバッタリ鉢合わせた。もう既に朝食を食べ始めていた。

 

「おはよ……奏姉さん……」

「うん、おはよう。早く顔洗ってきなさい」

「うぃ」

 

 言われて洗面所に向かい顔を洗い終えると、ようやく頭がスッキリして意識が覚醒する。

 なぜ早く起きたのかというと、姉貴が副会長を務める生徒会の仕事を手伝うためだ。

 まぁ、別に姉貴が副会長だから手伝うというわけではない。なんというか、昔から雑用みたいなのが好きだったし、なによりそれで人の役に立てるのだから良いだろう。

 これを人に言うと変わり者とか言われるのはちょっと解せないが。

 再びリビングへ行くと、朝食を食べ終えた姉貴がちょうどリビングから出るところだった。

 

「晶、茜は?」

「たぶんまだ寝てるんじゃないか? 起こして来ようか」

「はぁ……まったくあの子は……いいわ、晶は先に食べてなさい。私が後で起こすから」

「はいよ」

 

 茜は生徒会の役員ではなく俺と違って手伝いでもないが、今回はクラス委員である茜もその集まりに参加することになっている。

 あの人見知りで有名な茜がクラス委員と言うのは驚かれるのだが、一応それなりの理由はある。

 まぁ、それは置いておいて俺は朝食をパパッと食べることにした。

 朝食を食べ終えて食器を片していると、リビングに慌てた茜が入ってきた。

 

「おはよう、茜」

「おおはおうあきくん!」

 

 大方姉貴に寝坊を怒られたのだろう、めちゃくちゃ慌てていた。

 そんな茜を尻目に、俺は自分の準備を済ませて玄関に向かうと、既に姉貴が家を出ようとしていた。そこに、手にトーストを持った茜がすべり込んでくる。

 

「カナちゃん、あきくん、待ってー!」

「玄関で大声出さないで」

「何でこんなに早く出るのー、まだ時間あるよ?」

 

 今日はいつもよりもかなり余裕を持っている。いくら生徒会の集まりがあるからと言っても、こんなに早く出る必要はないのだ。

 ……『普通』なら、の話だが。

 

「あんたと登校したくないらかよ、一緒に行くと時間かかるし」

「ガーン!?」

 

 姉貴の言葉に、茜はひどくショックを受けていた。まぁ、事実だからフォローのしようもない。

 「だってカメラがぁー」と言っている茜を無視して、姉貴はドアを開けて外へと出てしまった。

 

「わわっ! 待ってよー!」

「待っててやるから、少なくともそのトーストだけは食ってけよ……」

 

 普段食べ歩きをしている俺が言うのもなんだけど、王族が歩きながらトーストとか、体裁的に問題あるだろ、絶対。玄関で無理やりトーストを押し込んでるのも、国民の皆様にはお見せできない姿だけど。

 

「よし食べた! 行こっ、あきくん!」

「はいはい」

 

 ドアを開けて外に出ると、家の前で通行人と話をしていたらしく、姉貴が人前で見せる笑顔を浮かべていた。が、そんな笑顔も、茜を見た途端に一瞬だけジト目と溜息が向けられた。

 それから3人で学校へ向かう。いつも通り、茜は俺を壁にしてだ。

 

「いい加減慣れなさいよ」

「無理! 私が王様になったらなくすもん!」

「「なる気あったんだ」」

「2人ともひどくない!?」

 

 いやいやいや、いつも外は誰かを壁にしないと歩けない、無人カメラにも真正面に立てない。そんな極度の人見知りの茜が王様になる気があったとは、俺も姉貴もそりゃ声を揃えて驚くよ。

 そんな俺たちに反論するかのように、茜がドヤ顔を向けてくる。

 

「なったらカメラ、廃止できるでしょ。なんて言ったって王様なんだから」

「それはなくせるだろうけどさ……肝心なこと忘れてないか?」

 

 ドヤ顔の茜が首を傾げた。

 こいつ……なんでこういうところは気づかないんだろうか。

 

「王様になったらもっと注目浴びるでしょ。カメラに映りたくないから廃止するために王様になったら、それって本末転倒じゃない?」

「盲点だったぁぁぁーっ!?」

 

 いやホント、なぜ気づかない。王様、国の象徴だぞ。

 

「まぁ、王になるのは私だけど」

「じ、じゃあカナちゃん、王様になったら監視カメラ廃止してくれる?」

 

 どこまでも気楽そうな茜の言葉に、姉貴は深い溜息をついた。

 

「姉貴、体裁を気にしてたら茜は撒けないぞ」

「なっ……べべ、別にそんなこと考えてないわよ!」

 

 辺りのカメラチェックしてたくせに何を言うのか。人の目(カメラ)がなかったら絶対に全力で走っていたくせに。

 

「えっ、ひどいよカナちゃん!」

「おだまり!」

 

 そんな話をしていると向かいから人が歩いてきて、毎度のことながら挨拶をされた。

 茜に対して怒鳴っていた姉貴は、一瞬にして笑顔を作りだし挨拶を返していた。早業すぎる。ちなみに俺も普通に返していたが、茜は一瞬で俺の背中に隠れていた。

 

「あんた、よくそんな人見知りでクラス委員なんかやれるわね」

「学校のみんなは知り合いだもん」

「知り合いってだけでこうも変わるか……」

 

 まぁ、見ず知らずの人と、多少ではあるけど知っている人だったら、当然後者の方が話しやすいとは思うけど。茜の場合はその溝が深いんだろうな。

 

「なら、国民みんなと知り合いになれば、あんたも楽になるんじゃない?」

「あっはは、カナちゃん何言ってんのー、国民が何人居ると思ってるのよ」

「こいつ……」

「お、落ち着け姉貴……」

 

 皮肉を言ったつもりなのだろうが、姉貴のそんな言葉は茜に届きすらせず、逆に顔を引きつらせていた。

 茜は人の――というか姉貴の――神経を逆撫でするのが上手いなぁ……俺はそこには触れたくないよ、怖いから。

 

「そもそも、どうしてクラス委員やってんのよ」

 

 深呼吸をして、ひとまず怒りを落ち着けた姉貴は、今度はそんなことを問いかけていた。

 

「どうしてって、クラスにはまとめ役が必要でしょ? でもみんなやりたがらないし、それにクラス委員をやってれば全員に目が行き届くし、みんなが困っていて、それで私を頼ってくれるなら、私はそれに応えたいよ」

 

 そう、人見知りの茜がクラス委員をやる理由はこれなのだ。なんだかんだ、茜もしっかり王族としての自覚はあるのだ。本人は無自覚なんだろうが。

 

「で、姉貴はそこでなぜ俺を見る」

「いやぁ、双子でも似ないものねってしみじみ」

「それ姉貴と兄貴にも言えることだからな」

 

 人の前に立ってまとめていくとか、俺には向いてない。ちまちまと雑用をやっていた方が面倒もなく楽でいいのだ。

 「あきくんと私、結構似てると思うんだけどなー?」と首を傾げているが、そう言うことを言っているんじゃないと思う。

 と、ここで茜が「そうだ」と手を叩いた。

 

「カナちゃんの能力でリムジンとか生成してよ! それで学校行こう!」

「は?」

「あのね茜、あんたは今、姉にリムジン買ってってゆすってんの。わかる?」

「あはは……冗談だって」

 

 姉貴の能力『物質生成(ヘブンズゲート)』であれば、確かにリムジンを作るのは難ではないだろう。が、生成すればそれに等しい金額が姉貴の口座から引き落とされる。

 姉貴の口座がいったいいくらあるかは知らないけど、リムジン生成はさすがに無理だろう。いくらするんだ、あれ?

 

「言ってみただけだよ……あ、それじゃあドラゴンとか、魔法の絨毯とかは?」

「魔法の絨毯はともかく、ドラゴンって作れんのか?」

「『物質生成』なんだから作れるんじゃないの?」

「あんたたち、人の能力なんだと思ってんのよ。魔法の絨毯だって作れるわけないでしょ」

 

 さすがに冗談である。ドラゴンとか魔法の絨毯とか、そんなファンタジーなものが作れるとは思ってない。

 ……仮に作れた場合、いったいいくらかかるのかはちょっと興味あるが。

 溜息をつく姉貴は、携帯を取り出すと何かの操作を始めた。

 

「何やってんの?」

「株価チェック」

「そんな四六時中気にしてまでお金貯めなくてもいいのに」

「うるさいわね、あるに越したことはないでしょ」

 

 能力の使い勝手的にも、確かにあって困ることはないだろう。むしろない方が困る。この前だって、簡単に1機数百万もするドローンを数機生成してたわけだしな。

 

「姉貴、貯金いくらくらいあるんだ?」

「わかんないけど、国家予算くらい?」

「ワンマンアーミー!?」

「……なによそれ」

 

 茜はともかく、国家予算くらいってそれ……どんだけあるんだよ……リムジンで痛いと思ってたけど全然軽そうだな……。

 そんな話をしながら歩いていると、次第に人通りが多くなってくる。当然人の目も多く注目もされるわけで、そうなってくると、茜は必死に見られないような行動をとろうとする。それが逆に目立つことになっていると気づかずに。

 俺を壁にしていたかと思えば、茜はいつの間にか姉貴にぴったりと抱き着いていた。おかげで通行人の方々には、仲がいいだの言われて、茜はさらに顔を赤くしていた。いや、姉貴もちょっと赤くなってるな。変わらずにこやかな外面は崩してないけど。

 

「カナちゃん、人前だといっつも良い顔してるよね。選挙に熱心なのはわかるけど、そこまで世間体気にしなくてもいいと思うよ?」

「なんて大きなブーメランを投げるんだお前は」

「何の話?」

 

 むしろお前はもう少し人の目を気にしろよ……。

 今ので我慢の限界が来たのか、姉貴の笑顔に凄みが増した。なんというか、目が笑っていないというのはこういうことを言うんだろうな……。

 

「茜、この手だけでも放してくれないかしら? 歩きにくいんだけど」

「……走って逃げる気でしょ」

「逃げないわよ」

「……本当?」

「ホントよ、人前でいきなり全力疾走だなんて、余計恥ずかしいわ」

 

 いや、姉貴は絶対に逃げるね。断言してもいい。俺の直感は当たるんだ。

 しかし、茜はそんな姉貴の言葉を信じたのか、抱きしめていた手を離した――瞬間、姉貴は全力疾走。呆気にとられた茜だったが、すぐさまその後を追いかけて行った。

 そして俺は、

 

「朝から元気だなぁ」

 

 そのまま歩いていた。いや、走って追いかけるのはさすがに面倒じゃないか。

 久々にゆっくり静かな登校を楽しもう。

 

 などと一瞬でも思った時期が俺にもありました。

 学校に向かっていると、目の前を1匹の猫が通り過ぎていき、道路に飛び出していた。向かいからはトラックが迫ってきている。そしてその直後、その猫を追っていたのか能力を使った茜が道路に飛び出していた。

 

「――茜っ!?」

 

 反射的に身体が動く。茜は猫を抱えたまま動けずにいた、俺は茜と、その抱えられた猫を庇うようにして抱きしめる。道路から逃げる余裕なんて俺にはなかった。最悪これで茜と猫にかかる衝撃は少しは軽くなるだろう。そう思って目を強く閉じて衝撃を待つ。が、いくら経っても衝撃は来ない。死ぬ直前はスローモーションに感じるとか聞くけど、そんなに遅くなるものなのだろうか?

 そんなことを考えていたら、背後で大きな衝突音が聞こた。俺にぶつかったわけではない。目を開けると、目の前には手を突き出し、息を荒くした姉貴がいた。身体を纏う緑色の光が薄れていっているから、姉貴が能力を使って何かを生成して俺たちを助けてくれたのだろう。

 ホッとして抱きしめていた茜たちから離れて尻餅をつくと、背中に何かが当たった。見ると、そこにあったのは大きな壁のようなものだった。

 ……何、これ?

 惚けている茜の腕から猫が去り、姉貴が茜を抱きしめる。

 

「無茶しないで……身体は普通の女の子なんだから」

「カナ、ちゃん……」

「晶も怪我はない?」

「え? あぁ、うん。俺は平気」

 

 そう答えると、姉貴は「そう、良かった」と小さく呟く。茜と同じように抱擁はしてくれないらしい。期待していたわけではないから別にいいんだけど。

 

「おい! あぶねぇだろ!」

 

 そうしていると、運転手が怒鳴りながらこちらへ来た。危うく人を轢きかけたのだから、運転手も気が気じゃないだろう。

 

「申し訳ございません、いきなり飛び出してしまいご迷惑をおかけしました」

「さ、櫻田家の次女と三女、それに次男!? い、いやぁ、車も無事だったので……」

 

 相手が王族だと知ると、途端に遜り始めた。

 いや、正確には姉貴の威圧感に圧されているんだろうけど。

 

「あなたも制限速度を超えていたように窺えました。この子たちにもしものことがあったらタダじゃおかないので、以後お気を付け下さい」

「ハ、ハイ……スミマセンデシタ……」

 

 有無を言わさない雰囲気というか、またしても目が笑っていない。

 運転手は何度も頭を下げると、トラックに乗って去って行った。

 

「えっと、それでこれどうすんの?」

 

 残されたのは俺たちと、姉貴が生成した謎の物質だ。本当になにこれ。

 

「どこかの空き地にでも置いてくるしかないわね」

「じゃあ私行ってくる。パッと行ってパッと帰ってくるね!」

「お、おう」

 

 言うな否や、能力を発動させると茜は謎の物質を持って行ってしまった。

 

「1人じゃ心配だな、俺もついて……」

「晶」

「何――」

 

 呼ばれて姉貴の方を向くと、急に抱きしめられた。いきなりのことで頭が真っ白になる。

 

「な、なにをいきなり!?」

「無茶しないで……あんたは……あんたには、能力、ないんだから……一歩間違えたら死んじゃうかもしれなかったのよ?」

「あ……奏、姉さん……」

 

 能力がない。姉貴に――家族にそれを言われると、ちょっと苦しい。

 けど、

 

「家族を助けたいって思うのは普通のことだろ」

「それであんたが危険な目に遭ったら元も子もないじゃない」

「ま、まぁ、その時はその時。今回は無事だったし」

「本当に、あんたって子は……」

 

 呆れたように姉貴が溜息をつく。

 別に自己犠牲がしたいってわけじゃない。ただ、大切な人が危険な目に遭っていたのを見て、黙って見ていることなんてできなかった。

 無意識、何も考えていなかったしな。姉貴が一歩遅ければと考えると、今さらながらに怖くなってきた。

 

「ごめん奏姉さん。あー、それと、さ……めっちゃ見られてるから、そろそろ離れた方が……」

「っ!?」

 

 野次馬ができていたわけではないけど、もともと人通りがそこそこ多い道だ。そんな道の真ん中で抱き合っていれば当然目立つ。

 さすがに俺も恥ずかしい。いや、心配されて嬉しいは嬉しいんだけど。

 慌てて離れた姉貴は、俺に背を向けて「とにかく!」と、少し怒った様子で言う。

 

「無茶はしないように! いいわね!」

「はいはい、わかったよ」

「はいは1回!」

「了解しました」

 

 姉貴が俺から離れてすぐに、茜が帰ってきた。

 

「たたたただみま……って、どうしたの?」

「いや、何も。お前こそ大丈夫だったか?」

「だっだだだいじょばだったよ」

 

 大丈夫じゃなかったらしい。

 

「はぁ……やっぱりあんたたちと一緒に登校すると時間かかったじゃない。早く行くわよ。晶、ニヤニヤしない」

 

 顔がまだほんのり赤い姉貴を見ていたらそんなことを言われてしまった。別ににやけていたわけじゃないんだけどな。

 何はともあれ、俺たちは再び学校へと向かって歩き出した。

 

「そう言えばカナちゃん。さっきのあれ、何だったの?」

「強力な衝撃吸収材でできた塊よ。発明されるのは、ざっと20年後ってところかしら」

 

 そんな未来のものを咄嗟に生成できるとは。というか、よくそんなもん思いついたな。

 

「でもあれ大きすぎじゃない? いつものカナちゃんならもっと要領よく生成できるのに」

「う、うるさいわね、学校着いたわよ」

 

 咄嗟だったからこそ、あの大きさになったんだろうな。姉貴の能力は欲しいという意思から生成され、途中でキャンセルはできないらしいし。

 まぁ、あの大きさくらいには想われているってことなんだろうな。

 

「何よ?」

「いやなんでも」

 

 またも睨まれてしまった。

 

「そうだ、お金使わせちゃったし払うよ。あれいくらしたの?」

「別にいいわよ。どうせあんた貯金とかないだろうし」

「私はまぁそこそこだけど、晶ならあるよ」

「俺任せかよ」

 

 俺もそんなに貯金とかないぞ。そんなにっていうかまったくないぞ。

 

「どちらにしても、気にしなくていいわよ」

「ううん、たとえ足りなくてもバイトして貯めるから!」

「いや、お前がバイトとか無理――」

「あんたもするの!」

 

 なぜ俺まで。いや、助けられたから俺も払うってのはわかるんだけどさ……。

 頑なな茜に、姉貴が溜息をつく。

 

「あれ、4000万」

「よ、よんせ…………? え……?」

 

 20年後の超物質高すぎねえか?

 予想以上の金額に、茜は真っ白に固まってしまった。俺も顔を引きつらせる。

 王族でも金銭感覚は一般人のそれと同じなのである。

 

「い、一生かけて払うからっ……晶が……」

「俺かよ」

「だからいいってば」

 

 さすがに高校生が4000万も払えるわけがなく、姉貴が気にするなの一点張りだったために、支払う話は流れた。

 とはいえさすがに何もしないというのも申し訳がなかったので、俺と茜、それぞれ1回ずつ俺たちに可能な範囲で何でも言うことを聞く、ということでことなきを得た。

 その時の姉貴のなんとも嬉しそうな(邪悪な)笑みを、俺は今後忘れることはないだろう。




 アクセス、お気に入りありがとうございます!!!

 もうそろそろヒロインを出してみたいですね……。
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