今現在手がけている作品が一つ終わりそうなので、思いきってまた一つ始める事にしました。
相変わらずの作風ですが、ご愛読して頂けると嬉しいです。
ではでは〜!
(虚しいな・・・この感覚に陥るのはもう何度目だろうか?)
都内にある西洋洗濯舗『菊池』のアルバイト、乾 巧(いぬい たくみ)には日々の暮らしの中で、虚無感に襲われる事がよくある。原因は彼の生い立ちや境遇、そして彼が見つけた答えにあった。
「たっくん?ちょっと話があるんだけどいいかな?」
『菊池』の経営者である菊池 啓太郎が、カウンターで頬杖をついて呆然としている巧に話しかける。急に話しかけられた所為か、巧は内心驚きながらも憮然として答えた。
「ッ!何だ、啓太郎。俺がなんかミスったか?」
いまいち仕事に身が入らないことは自覚していたのか、啓太郎が自分の仕事のミスを追求しに来たと考える巧。しかし、話の内容は全く違うものだった。
「ミス?違う違う!さっき父さん達から連絡があってさ、近いうちにこっちに戻ってくるんだ!それでさ俺に『菊池』の経営規模が大きくして欲しいんだって。たっくんも一緒行こうよ!」
啓太郎から話されたのは、『菊池』の真の経営者である啓太郎の両親が日本に帰ってくるという事らしい。それに伴って、啓太郎に他の地域で仕事をして欲しいという。
「いいのかよ?第一、場所は決まってんのか?用具だって揃ってないと仕事にならねぇぞ?」
巧は矢継ぎ早に質問する。巧自身、ここの居心地を気に入っている事もあり、そして様々な想いがあるこの地を離れる事に、何となく抵抗がある。
「場所は静岡県沼津市の内浦って所だって。母さんの知り合いが経営用に部屋を貸してくれるみたい。それにさ・・・」
啓太郎は一旦言葉を止め、巧の方へ視線を移す。
「たっくんの為でもあるんだ。気づいてないかもしれないけど、あの時からボーッとする回数が増えてる。木場さんも草加さんも居なくなったあの時からさ。折角全部が終わったのに、たっくんの顔前より暗く見えるよ」
啓太郎の言葉を受け、一瞬考え込む巧。しかし、すぐに答えを出した。
「啓太郎、ごめんな。お前に心配掛けて。自分でも分かってたんだ。このままじゃ、どんどん腐っちまうって事は。でもこれで、ようやく踏ん切りがついた」
言い終えた巧は座っていた椅子から立ち上がり、啓太郎に告げる。
「行こうぜ。あいつらの夢を信じた自分に嘘は吐きたくないからな!」
巧の言葉を聞き、啓太郎はすぐさま旅支度を始めた。よほど嬉しかったのか、支度の途中で何度も全身をあらゆる場所にぶつけていたが。
数日後、早朝から巧は荷物を入れたバックをバイクの荷台に括り付けていた。もちろん、このバイクは巧の愛車『SBー555Ⅴオートバジン』ではなく、かつての友の愛車である『SBー913V サイドバッシャー』だ。オルフェノクの王との決戦の際、オートバジンは巧にファイズブラスターを届けるのと同時に王に破壊されてしまったからだ。その後、スマートブレイン社は社長不在により経営破綻して倒産。誰も直せるものは居なくなったというわけだ。
「じゃあ、父さん母さん・・・行ってくるね!」
啓太郎が両親に別れの挨拶を交わし、荷物を持ったままサイドカーに乗り込む。巧は啓太郎の両親に軽く会釈をして、目的地である内浦に向けて発進した。
(普通な私の日常に、突然訪れた・・・奇跡!それはスクールアイドル!誰もが憧れる存在なのに、それなのにぃ・・・)
私立浦の星女学院の2年生、高海千歌。彼女の身に何が起こったのか、それは彼女自身に答えてもらおう。
(部員は私だけだし、生徒会長さんから「私が生徒会長である限り、スクールアイドルは認めないからです!!」なんて言われちゃうし、もう散々だよ・・・ん?あれは・・・)
千歌が今日起こった災難を振り返っていると、視線の先にある桟橋から女生徒が海に身を投げようとしているのが目に入った。その様子は如何にも自殺しようとしているかのように見えた千歌は、急いで女生徒を止めに入る。
「待って!死ぬから!死んじゃうから!」
千歌が慌てて止めに入った所為か、女生徒は突然現れた千歌に対して驚きを隠せずにいた。そして、そこにもう1人。
「君たち危ないじゃないか!早く海から離れて!」
千歌の他に知らない男が現れ、さらに止めに入った。2人に完全に拘束され体の自由を失った結果・・・。
『あっ・・・』
ドボーンという音を立て、女生徒は止めに入った千歌(+a)諸共海に落ちた。
千歌と女生徒が海に落ちる少し前、巧と啓太郎は半日以上掛けてようやく内浦に到着していた。とはいえまだ目的地まで少しあるので、ガソリンスタンドを探しつつ目的地へ向けバイクを走らせていると、突然啓太郎がバイクを止めろと言い出した。巧は仕方なく路肩にバイクを停車させ、啓太郎に訳を聞く事にした。
「おい、なんだよ?今更忘れ物とか言う気か?」
巧の質問に、啓太郎は海辺を指差しながら身を乗り出して言う。
「あそこの2人が海に落ちそうになってる。助けないと!俺行ってくる!」
巧の静止を振り切り、2人を助けようとする啓太郎。しかし、次の瞬間には3人とも海に落ちてしまった。
「おいおい、止めに入った奴まで落ちてどうすんだよ!」
巧は皮肉を言いながらも、放っておけない性分が働き、バイクから降りてその場へ駆けつけ手を差し伸べる。
「おい、あんたら大丈夫かよ!」
突然現れた巧に驚く女生徒2人。しかし、すぐに状況を把握して助けに来たことを理解し、その手を取り、再び体を陸へ戻した。
2人の安否を確認して、巧はもう1人の被害者を救助する。
「啓太郎!お前、泳げないのに助けに行ったのか・・・ったく!」
再び啓太郎に手を差し伸べると、啓太郎も必死にその手を掴みなんとか陸へまで戻って来れた。
「はぁはぁ・・・ありがと、たっくん。俺もう駄目かと思ったよ・・・」
巧は内心毒づきながらも、啓太郎のお人好しな性格を十分に知っているため「気にするなよ」とだけ言って、視線を女生徒2人へ向ける。
「あんた達、怪我とかはしてないか?濡れたままだと体に悪い。ちゃんと乾かしてから帰るんだな。じゃあな」
巧はそれだけ言うと、再びバイクへと歩き出す。当然、啓太郎がその行く手を阻む。
「ちょっとたっくん!この子達はどうするのさ!」
啓太郎の主張はもっともだが、巧は現実的な問題を見据えた上で答える。
「お前、まさか送ってやれなんて言う気か?お人好しなのは構わないけど、ガソリン足んなくなるだろうが!おい、あんたら!自力で帰れるか?」
巧にそう聞かれ、驚きながらも「はい、帰れます」と答える女生徒2人。
「だそうだ、俺はもう行くぞ!」
啓太郎が止まるよう催促するが、巧は聞き入れず、再びバイクにまたがろうとした時、突然女生徒の悲鳴が響き渡った。
「っ!なんだ?」
再び女生徒のもとへ駆けつけると、彼女達の目の前には見覚えのある灰色の怪物が、今にも襲いかかろうとしていた。
「あっ・・・あぁ・・・」
足がすくんで動けない女生徒2人に、オルフェノク特有の触手が迫る。しかし、それは巧が許さなかった。
「ダアァアア!」
それよりも先に巧のタックルがオルフェノクを弾き飛ばしていた。2人からオルフェノクを引き離すと、啓太郎がバイクの荷台に積んであったバックの中から、アタッシュケースを巧に投げ渡す。
「たっくん!これを!」
投げ渡されたケースを見事にキャッチした巧は、すかさずケースを開き、中に収納されている『ファイズギア』を装着する。
「2人とも!早くこっちに!」
啓太郎が近くの物陰に2人を誘導し、隠れる。これから何が起こるのか、何も分からない女生徒の内、高海千歌が啓太郎に質問する。
「あの、これって何ですか!?あの人は!?」
千歌の質問に対して、啓太郎は静かに頷き、巧に視線を戻す。信じろと目で訴えたのだ。
「お前、オルフェノクだよな。やっぱり、人間を襲うのか?」
巧はオルフェノクにそれだけを聞く。木場と同じように、人間を守るオルフェノクだと信じたかったからだ。
しかし、オルフェノクからは考えていた答えとは違う答えが帰ってきた。
「何言ってんだ?オルフェノクが人間を襲うのは、当たり前だろ?」
答えを聞いた巧は「そうか・・・」とつぶやき、ファイズフォンに変身コードを入力する。
5・5・5 Enter Standing by
ファイズフォンから変身待機音が鳴り響く。オルフェノクや千歌達が注目する中、巧はファイズフォンを天高く掲げ、叫んだ。
「変身ッ!!」
バックルに装填されたファイズフォンから、馴染みのある音声が聞こえる。
Complete
発せられた音声とともにバックルから赤い閃光が迸り、その光が消える頃には仮面の戦士が存在していた。
「その姿・・・お前は!?」
驚くオルフェノクに対して、変身した巧が静かに言い放つ。
「俺はファイズ・・・夢の守り人だ」
ファイズが再び誕生した瞬間だった。
Open your eyes for the next Φ’s
「海の音を聴きたいの」
「私ね、“普通”なんだ」
「お前は夢を持ってるか?」
「気にしなくていいよ!たっくんはたっくんじゃないか!」
「そんな時、出逢ったの・・・あの人達に!」
「あいつらの夢を壊そうとするのなら、俺が倒す!」
第2話 少女の夢