いいですね〜。今後はより一層、魅力をお伝え出来るよう励みたいと思います。
衝撃の告白から一夜明けた翌日。千歌の幼なじみである渡辺 曜は、普段となんら変わりない様子で千歌の自宅兼旅館に上がりこむ。いつも通りに玄関の戸を開け、千歌の家族に挨拶し、いよいよ千歌の部屋へ行くはずだった。
そう、“だった”なのだ。
「よっ、おはよ・・・熱ッ‼︎」
早朝から居間に置いてあるテーブルで、1人胡座をかいたままホットコーヒーと格闘している見知らぬ男を見るまでは。どうやらコーヒーを飲もうとしているが熱さに我慢出来ないようで、少し飲んでは息を吹きかけて冷まし、飲んでは冷ましを繰り返している。
そんな様子を見ている事に気付いたのか、巧は声をかける。
「フー、フー・・・んぁ?なんか用でもあんのか?」
持っているコーヒーを冷ましながら、目線だけを曜に合わせる巧。本人にとっては普通なのだろうが、相手にしてみればその様子は至福の時を邪魔された、或いは見てはいけないものを見てしまった為に、恐ろしい事になり得る。といった目線に感じなくもなかった。(かなりオーバーな気もするけど)
「な、何でもありませェェん!!」
曜はその目線に恐怖を抱き、一目散に千歌の部屋に逃げ込む。
そして、すぐさま千歌を叩き起こした。
「千歌ちゃん!起きてよ、ほら!変な人が!この家に変な人がいるの!!」
曜は普段の様子からは考えられないほどの興奮状態で、未だ寝ぼけ眼の千歌を体ごと激しく揺すり、目を覚まさせる。
「よ、曜ちゃん!お、落ち着いて!そんなに揺らすと・・・せ、説明出来ないから・・・」
千歌の言葉が届いたのか、揺さぶるのを止める曜。しかし、興奮状態の方はまだまだ続いていた。
「落ち着いてなんかいられないよ!だってあんな、あんな怖い人見たことないよ!あの人誰!?」
恐怖の所為か、未だ興奮冷めやらぬ状態の曜に千歌が説明しようとした時、開いたままの襖の陰から巧が顔を覗かせ、声をかける。
「飯、出来たみたいだぞ・・・ん、あんたは?」
千歌が「あ、今行くね!」と返事をしたが、曜は恐怖のあまり首だけをぎこちなく回し、巧の姿を確認する。そして言い放った。
「千歌ちゃん、この人不審者ァ!!」
「誰がだッ!!」
「いや〜、すみません!私てっきりヤバい人だと思ってましたよ〜」
数分後、千歌にちゃんとした説明を受けた曜は、改めて巧に誤解があったことを謝罪していた。巧は言葉にこそ言い表していないが、不服に思っていることは態度で示していた。
「・・・フンッ!」ツーン
その様子はすっかり2年前の旅の初めの頃に戻ってしまっていた。
せっかく大人になったのに。
「そんなに怒んないでくださいよ。私だってビックリしたんですから!」
すっかり巧への恐怖など無くなった曜は、先程とは打って変わって興味津々といった様子で巧に話しかける。
一方巧はというと、高海家が朝食をとっているテーブルから少し離れたところで、十分に冷めたコーヒーを飲んでいた。初めこそ曜の話を聞いていたが、次第に増えていく口数に巧は苦手意識を感じ始めていた。そして、ついに我慢の限界に達してしまった。
「・・・ご馳走さん。啓太郎、悪いけど少し出てくる」
一気にコーヒーを飲み干した巧はそれだけを言うと、すぐさまヘルメットを持って外に止めてあるサイドバッシャーへと急ぐ。
「・・・ったく、騒々しいにも程があるぜ。何なんだ、あの女は・・・あ?」
始動してエンジンの回転数を上げていると、旅館の玄関から何故か啓太郎のヘルメットを持った渡辺 曜が出てきた。そして、そのままどんどん巧の方へ近づいてくる。
「・・・どうした。高海と学校に行くんじゃないのか?」
巧は目を合わせず、ヘルメットとグローブを装着しながら曜に問いかける。そんな巧の気持ちも知らずに、曜は借りたヘルメットを被り、その旨を伝える。
「ヘルメットは啓太郎さんに借りてきました!私も連れてってください!」
そう言って、巧に笑いかける曜。巧はすぐにでも追い返そうと考えたが、高海家と関わりの深い曜を蔑ろにするのは、高海家に居座る以上良くないとも考え、渋々ながら了承した。
「・・・バスが来るまでだからな」
巧の言葉を聞いて喜ぶ曜は、すかさずサイドカーに乗り込む。その様子はアトラクションを楽しむ子どものようにも見て取れる。
巧は内心複雑な気持ちになる中、振り切るようにサイドバッシャーに跨り、発進した。
「おぉ〜!これは快適ですなぁ!」
しばらくバイクを走らせていると、曜が周りの景色を眺めながら伸びをしている。巧は堪らなくなり、つい質問してしまう。
「なぁ、そんなに感動する事か?毎日通ってるんだろ?」
初めて巧から話しかけられた事で少し動揺した曜だが、すぐにその答えを教えた。
「確かにそうですね。でも、例え同じ景色でも見方によっては新しい景色に見えるじゃないですか。多分、それと同じだと思うんですよね。そういえば、知ってますか?千歌ちゃんがスクールアイドルを始めること。生徒会長が反対していて、千歌ちゃんに「生徒会長、何でか嫌いだもんね、スクールアイドル。本当にやるの?」って言ったんです。そしたら、千歌ちゃん言ったんですよ。「前途多難すぎるよ〜。でも、楽しいから諦めないよ!生徒会長も変わるよ、きっと。そんな気がする。」って。まともな活動もしてないのに、楽しいからって言う千歌ちゃん、何か素敵だと思いません?」
曜の質問に答えようとする巧だが、それを許さない者が立ちはだかった。
「・・・クッ!!」
巧たちの前に飛び出した男を避けるため、急ブレーキをかけると同時にハンドルを反対側にきる。何とか男を避けるのに成功したものの、バランスを崩しその身を投げ出された巧と曜。
「あんたがファイズ、そして・・・そっちが噂のスクールアイドルって訳ね。悪いけど・・・死んでくれない?」
男は倒れている巧と“制服”の曜を見ると、その姿を灰色の怪物“スティングフィッシュオルフェノク”に変身させた。その姿を見た巧は、過去に一度見たオルフェノクである事を思い出す。忘れもしない、巧が初めてファイズになった原因を作った因縁の相手だからだ。
「あいつは、一度倒したはずだ・・・クッ!」
オルフェノクは巧ではなく、先に曜に狙いを定め近づく。
しかし、曜はその場で足を抑え、動けずにいた。
「あいつ、まさか怪我を・・・仕方ねぇ!!」
巧はサイドバッシャーの荷台に積んであるケースからファイズギアを取り出し、装着しながら変身コードを入力する。
5・5・5 Enter Standing by
変身待機音がその場に鳴り響く。巧の脳裏に自分の体が灰化するイメージが過ったが、振り払いファイズフォンをバックルに装填させた。
「変身ッ!」
Complete
音声と同時にバックルから赤いラインが全身に伸び、ファイズへの変身が完了する。その姿を見たオルフェノクと曜は驚いているが、巧は構わずオルフェノクに飛びかかった。空中でオルフェノクを掴み、その勢いのまま投げ飛ばした。
しかし、投げ飛ばされたオルフェノクは、落ちる直前で受け身を取り、無傷でファイズへと向き直す。
「流石はファイズ、といったところかな。やっぱり噂は本当だったみたいだ」
「噂?なんの事だ?」
オルフェノクの影が人間に変わり、巧に話をする。
その最中に繰り出されるファイズのパンチを躱しながら尚も話を続ける。
「ファイズが再び現れ、ベルトは全て揃った。残り2つを奪えってさ!」
オルフェノクは言葉を言い放つと同時に、カウンターの蹴りを食らわす。倒れるほどではないが、巧はそれよりも気になる話があった。
「どういう事だ?ベルトを奪えだと?一体何の目的で!」
ファイズは再びオルフェノクに掴みかかる。しかし、オルフェノクがこれ以上の事を話す事はなかった。
「これ以上は言えないな。ただ、理由は知らないがスクールアイドルが邪魔らしいよ!ハッ!」
オルフェノクはファイズの拘束を解き、そのまま殴り飛ばした。
「まぁ、そんなくだらない夢物語が俺たちの邪魔になるとは思わないけどね。スクールアイドルぅ?知るか、そんなもんって感じ?そうだ、そこの子にも死んで貰わないとな」
オルフェノクはそのまま、曜の方へ近づいて退路を断つ。そして、能力で三つ叉の槍を生成し、槍先を曜の首元に向ける。
Ready
「じゃあね、スクールアイドルさん」
Complete
「・・・ッ!?」
曜は恐怖で目を閉じる。死を覚悟して。
Start up
「ハァッ!!」
オルフェノクは大きく槍を振りかぶり、槍先を曜目掛け振り下ろす。
「・・・ウッ!?なんだこれ・・・動けない!?」
しかし、曜に槍が突き刺さる事はなかった。一瞬の内に、無数の赤い円錐状の物体がオルフェノクを取り囲んで動きを拘束していたのだ。そして・・・。
「ヤアァァァッ!!」
掛け声と共に姿を現わすファイズ。次の瞬間、拘束されていたオルフェノクは蒼炎を上げ、灰となって崩れ落ちた。
「お前にそんな事言われる筋合いは無い。それに俺は信じてる。どんなにちっぽけでも、くだらない夢なんかないってな」
Reformation
音声と共に胸部のフルメタルラングが稼働し、元のファイズに戻った。オルフェノクの死を確認した巧は、変身解除の操作をして、曜の元へ駆け寄った。
「おい、怪我の程度はどれくらいだ?」
巧が患部を確認すると、曜は手で押さえていた足の部分を見せた。
「落ちた時に擦りむいたのか・・・家に戻って処置する。家は何処だ?」
巧は曜の体をお姫様抱っこでサイドカーに移動させ、家の場所を聞く。しかし、曜は家とは違う場所を要求した。
「だったら、学校に連れてって。浦の星女学院、あそこなら保健室もあるから・・・痛ッ!」
巧は迷っていられないと考え、電話をかける。
「啓太郎、高海に先にバスに乗っとけって言っておいてくれ。渡辺は俺が送ってくから」
電話を終えた巧は、曜の様子を伺いながら進路を浦の星女学院へと向け、走り出すのだった。
Open your eyes for the next φ’s
「生徒会長、もしかしてμ'sのファン?」
「それっきり、学校に来なくなったずら」
「もしかして、また海に入ろうとしてる?」
「誰かのために、失われていい夢なんかあっちゃいけないんだ」
第4話 築き上げたもの