懐かしいメンバーが出ます。
私立浦の星女学院の正門前。登校時間という事もあり、ここに通う生徒達の姿が多く見られる中、1人の女生徒が門の傍らに佇んでいた。
「あの人たち・・・今日もやる気じゃないわよね?」
彼女の名は黒澤ダイヤ。浦の星女学院の生徒会長であり、知る人ぞ知るμ'sオタク・・・もといガチライバーらしい。
先日の千歌達の成立していない部の勧誘行為もあり、翌日、さらに次の日、そして今日と、監視をするために来たようだ。しかし、あの日以来特に目立った勧誘活動をしている気配は無いため、取り越し苦労という訳らしい。
「流石に、彼女たちも諦めましたか・・・ん?」
千歌達が居ない事を確認し、校舎へ引き返すダイヤ。その時、何とも言い難いものが坂の下から轟音を発しながら上がってきた事に気づく。
「なっ!?」
坂を登り切り、浦の星女学院の正門前で急停止したその物体がダイヤの前に姿を現わす。そこに居たのは、サイドカー付きのバイクに跨った男と、浦の星女学院の生徒だった。彼らの登場に周りの生徒たちがざわめく中、ダイヤはバイクの男に近づく。
「貴方、どういうつもりですか?生徒以外の来校は許可した覚えはありませんよ。それにあんなに騒音をたてて・・・」
ダイヤが男に問いかける。しかし男は問いには答えず、サイドカーに乗っていた女生徒を抱えながら、ダイヤに質問する。
「怪我の処置がしたい。中に入れてくれ!」
男はダイヤに訴えかける。ダイヤはもちろん部外者を入れられる筈もなく追い返そうと考えたが、抱えられた女生徒が先日の千歌と同伴していた曜である事に気付いた。そして、しばらく考え込み、結論を出した。
「・・・分かりました。生徒会長として許可します。が、手当をしたらすぐに帰ってもらいますよ」
ダイヤはすぐに曜を抱えた男を保健室まで連れて行く。しばらくして保健室に着いたダイヤ達だが、そこで一つ問題が発生した。
「あら・・・保健の先生がおりませんのね」
保健室にたどり着くも、そこに教員はいなかった。登校時間とはいえまだ7時20分を過ぎたばかり。教員が居なくても仕方ない筈だった。
「あんた、消毒とガーゼ、あと包帯の場所分かるか?」
男はダイヤに道具の場所を聞き出す。ダイヤは頷くとすぐにそれらを見つけ、男に手渡す。
「少し我慢しろよ・・・」
男は曜の足の傷口に消毒を染み込ませたガーゼを当てる。それによって生じる痛みに、思わず苦悶の表情を見せる曜。
「痛ッ!?乾さん、もっと優しく!」
曜の叫びに耳を傾ける事なく、十分に染み込ませると男は慣れた手つきで包帯を巻いていく。
そして最後に端を切り、解けないように結ぶ処置を施し、手当を終わらせた。
「これで大丈夫だろ。2、3日は痛むかもしれないが、跡にはならないだろ。じゃあな」
男は足早に保健室から出て行った。曜が「乾さん!カムバ〜ック!」と言っていたが、気にもとめずに。
そんな男に対し、不満を抱いたのはダイヤだ。部外者である彼を校内に招き入れただけでなく、手当ての手伝いまでした挙句、ありがとうすら無い礼儀知らずなあの男を許せなかったのだ。
「貴方、お待ちなさい!一体何様のつもりで・・・!」
ダイヤは文句を言うため保健室から廊下に出たが、そこで思わぬ光景を目の当たりにする。
つい先ほどまで手当てをしていた男が廊下に蹲っていたのだ。ダイヤが駆け寄るとさらに異様な光景が目に飛び込んできた。男の右手の一部が、灰となって崩れ落ちていたのだ。
「貴方・・・一体どうしたのです?何故、こんな事に・・・?」
酷く怯えた様子で男に問いかけるダイヤ。しかし男は「・・・何でもない」とだけ言うと、振り切るように歩き始めた。ダイヤは追いかけようとするも、足がすくんで追いかける事は出来なかった。どんどん遠のいていく男の姿だけが、脳裏に焼きつくばかりだった。
「グッ!?はぁ・・・はぁ・・・。やっぱこうなんのか?」
巧は何とかサイドバッシャーまでたどり着くも、その状態は以前よりも重症だった。一回の変身による灰化の影響が大きく出始めているのだ。最もパワー効率が安定しているファイズギアでこの状態だ。カイザギアやデルタギアではもう身体が消えていたのだと考えるだけでゾッとする。
「あ、巧くーん!曜ちゃんは?」
そんな事を考えていると、前から千歌が歩いてきた。バスが到着したんだろう。
「足を怪我してな、手当てはしたからもう教室にいるんじゃないか?」
「そっかー!じゃあ、また後でね!」
千歌はそれだけ言うと、まっすぐ校舎に向かっていった。その様子を見ていた巧は1人、こうつぶやいた。
「誰かのために、失われていい夢なんかあっちゃいけないんだ。特に、あいつの夢はな・・・」
巧はヘルメットを被り、グローブをはめるとサイドバッシャーに跨り、十千万に向けて走り出した。
「あっ!たっくんたっくん!これ見てよ!」
巧が帰ってきて早々、啓太郎が一枚のチラシを見せる。巧は見せられたチラシに書いてある事を読み上げる。
「出張!菊池クリーニング。旅館『十千万』にて近日開店予定。あなたの全てを綺麗にクリーニングします。お前なぁ・・・」
啓太郎の作ったチラシに、思わず呆れたように声を出す巧。啓太郎は馬鹿にされたように感じて、巧に問いかける。
「何さたっくん!今チラシ見て馬鹿にしたでしょ!だったらたっくんが作ってもいいんだからね?」
啓太郎の言葉に、面倒ごとを押し付けられまいとする巧は、素直にチラシを賞賛する。
「別に馬鹿にした訳じゃねぇよ。良いチラシだと思う。完成したら、俺が配って来てやるよ」
巧の言葉を聞いた啓太郎は大いに喜んだ様子で、チラシの印刷に勤しんだ。
巧は内心単純な奴だと思いながら、部屋で仮眠をとる事にした。
「俺の身体、どうなっちまうんだ?あと何回変身出来るか・・・」
巧はベッドに横たわりながら、自分の右手を見つめる。しかし、巧はすぐに見るのを止め、眠りに着いた。
何故ならば、その問いに答えられる者など誰もいないと知っていたからだ。
「・・・くん。巧くん。巧くん!」
巧は誰かに起こされる感覚に襲われる。が、身体の怠さが勝ってしまい、再び眠りにつく。すると今度は鈍い衝撃が身体を襲う。
「とぉーう!」
「グハッ!」
状況を説明しよう。巧を起こした人物が俗に言うボディプレスを繰り出したのだ。一気に眠気を覚ました巧は、その人物を見て呆れた。
「高海・・・こどもみたいなことするな」
「いいのー!私まだこどもだから!」
起こした人物は高海千歌だった。意外にもこの2人、仲が良い。
巧は未だ身体の上に乗っている千歌をどかすと、その真意を問う。
「で、何でお前が?何しに来た?」
「お話を聞いて欲しかったんだけど」
千歌は今日起こった出来事を話した。
渡辺がメンバーに加わったこと。そして、その書類を提出しに行った時こう言った。
「生徒会長、もしかしてμ’sのファン?」
放送用のマイクの電源が入っている状況だったらしい。
次に後輩の話をする。クラスの不登校児にノートを届けに行く途中だったらしい。
「それっきり、学校に来なくなったずら」
語尾が気になったが、巧はそれ以上は聞かなかった。
最後にこの間の少女と再会したらしい。
「もしかして、また海に入ろうとしてる?」
千歌は少女のスカートを捲り上げ、水着かどうか確認したらしい。巧はそんな情報はいらないと思いながらも、静かに話を聞いていた。そして、何故か今度の日曜日に海に潜るらしい。
「そうか・・・」
巧は今日千歌に起こった出来事を聞いて、その一言だけが口から出た。不意に、千歌の方から巧に質問する。
「それはそうと、何で曜ちゃんがあの事知ってるの?」
あの事。恐らくファイズの事だとすぐにわかる。巧は何も隠さずにあった出来事を話す。
「また出たんだよ、オルフェノクがな。渡辺はそのせいで怪我したんだ」
巧は自分を責めるように言葉を続ける。
「俺のせいで・・・」
「巧くんのせいじゃないよ!」
しかし、その言葉に割って入ったのは千歌だった。
「巧くんは私たちを守ってくれたんだもん!曜ちゃんもすごい感謝してたんだから!」
千歌の言葉に黙り込む巧。
そして、口を開いた。
「そうか、ありがとな。そうだ、知ってる奴に作曲出来るのがいるんだ。要らないかもしれないけど、声かけておくな」
巧の言葉、そして気遣いに感激する千歌。何故なら“あの”巧がそうしたからだ。
「さて、飯でも食いにいこうぜ。高海、お前も来るか?」
「っ!うん!」
千歌は巧の後についていく。その様子は、生まれた時から一緒に過ごす兄妹のようだった。
Open your eyes for the next φ's
「守ってみせるさ、ここが俺の帰る家だからな」
「千歌ちゃん、スクールアイドルに恋してるからね」
「お前に頼んだ俺が馬鹿だった!」
「2年もほっときやがってよぉ、俺様にだって心があるんだぞぉ!」
第5話 “海”の声