作詞会議から一日が経った早朝。千歌、梨子、曜の3人は浜辺で踊りの練習をしていた。まずは出来ることからということらしい。
一連の動作を動画に撮って繰り返し確認して、悪い所を一箇所ずつ直すことの繰り返しだ。
「うーん・・・ここの蹴り上げがみんな弱いかな。あ、ここの動きも!」
曜が動画を見ながら、悪い所を指摘していく。ちなみに何故曜が指摘しているかと言うと、彼女曰く「高飛び込みやってたからフォームの確認は得意なんだー」とのこと。
「あー!もうやる事多すぎだよ・・・ん?」
まだまだ課題が多く残っている事を確認した千歌は、思わず頭を抱えてしまう。その時、空飛ぶ何かが視界に入った。
「何、あれ?」
千歌の疑問に曜が答える。
「小原家のヘリだね。新しい理事長もそこの人らしいよ」
曜の説明を受け、ヘリを見つめる千歌。ヘリはバラバラバラバラと音を立て、どんどん大きくなっていく。
「なんか・・・近づいてない?」
千歌の言葉の通り、ヘリは千歌たちの頭上をかすめるように旋回する。
「うわあああっ!!な、なに?」
ヘリによって発生した風の勢いに圧倒される3人。そのヘリの後部座席に乗っている金髪の少女が、千歌たちに挨拶をした。
「チャオー!」
私立浦の星女学院の新理事長、小原鞠莉の鮮烈な登場だった。
「たっくん!はいこれ!」
千歌たちが小原鞠莉と出会った少し後巧は啓太郎からあるものを受け取っていた。それは啓太郎が兼ねてから製作していた宣伝用のチラシが約300枚ほど。
「何だこれ?」
「半分は配布用で、もう半分は掲示用ね。じゃあ、お願いね!」
啓太郎はそれだけ巧に伝えると、開店の準備に取り掛かる。巧は先日の自分の発言を恨む。
「何であんな事言っちまったか・・・仕方ねぇ、行くか」
巧はサイドバッシャーに跨り、まずは人通りの多い沼津へと向かうのだった。
「え、新理事長?」
場所は移って、浦の星女学院の理事長室。千歌たちは小原鞠莉にその経緯を説明されていた。
やけにテンション高めで説明していた事もあり分かった事といえば、理事長はマリーでカレー牛丼という事。
もちろんそんな説明で理解出来る訳もなく、さらにはもう一人反抗する人物も。
「分からないに決まってます!!」
その人物は生徒会長の黒澤ダイヤだ。しかし、憤る彼女の態度とは裏腹に鞠莉は彼女の胸を触り、その戯れを楽しんでいた。
どうやら、彼女たちは知り合いの間柄のようだ。
しばらく楽しんで満足したのか、鞠莉は改めて自分が理事長であるという書類を彼女の前に提示した。
「実はこの浦の星にスクールアイドルが誕生したという噂を聞いてね、ダイヤに邪魔されちゃ可哀想なので応援しにきたのです」
鞠莉がそう言い切ったその時、部屋の扉が開かれた。生徒会役員数名が1人の男を縛り上げて連行してきたのだ。
「失礼します!学校内を不当に彷徨く不審者を捉えました!」
鞠莉以外はその出来事に驚き、中でもダイヤは驚きを通り越してもはや呆れてしまっていた。
「遂に不審者まで出るとは・・・。あなた、どういうつもりですか?ここは浦の星女学院、その名の通り男性の入れる場所ではありませんよ?」
ダイヤが連行された男に質問する。すると、男は弁明し始める。
「俺は不審者なんかじゃねぇ!俺はただ乾に会いに来ただけで・・・ちゅーか、それよりもあいつだあいつ!」
男の言う事はまるで分からず、ただ自分は被害者で不審者は別にもう一人いる。それに乾なる人物に会いに来たという事だけで、ダイヤは困惑している。
そこに、千歌が男に問いかける。
「あの、乾ってもしかして巧くんの事ですか?」
それを聞いた男は、目を見開いて答える。
「そう!それだそれ。今すぐ乾を呼べ!じゃねぇとあいつが、オルフェノクが誰かを殺しちまう!」
男の言葉に衝撃を受ける一同。それと同時に校庭の方から悲鳴が聞こえてきた。
「っ!?何事ですか!」
ダイヤたちは窓から悲鳴の聞こえた場所を見る。すると、灰色の怪物が数名の女生徒を次々に灰へと変えていたのだ。
その光景を見た男は、再び千歌に催促する。
「早く乾を呼べ!でないと・・・クソっ!」
男は役員の拘束を振り解くと、すぐ様部屋を出て行ってしまった。
「あなた!仕方ありません・・・私たちも生徒を避難させますわ。あなた達も早く避難なさい」
ダイヤは役員を連れ、男の後を追う。千歌達は巧に連絡を取ると、部屋から出て行った。一人理事長室に残った鞠莉は一言だけ呟いた。
「さぁ、早く現れて・・・ファイズ」
男とダイヤたちが現場に到着するも、既に数人の生徒と教師が犠牲となっていた。男は自分が止めていればと激しく憤り、その身を変貌させる。
「変身ッ!!」
その姿は蛇を模した灰色の怪物“スネークオルフェノク”だった。ダイヤ達が驚く中、スネークオルフェノクは象を模した怪物“エレファントオルフェノク”に殴り掛かる。
「お前!何でこんな事出来んだよ!同じ人間じゃねぇかよ!」
スネークオルフェノクは果敢に殴り掛かるも、エレファントオルフェノクのカウンターパンチを受け、体ごと吹き飛ばされた。不意に、エレファントオルフェノクの影が人間に変わり、話し始める。
「こんな凄い力を手に入れたんだ。自分のために使わなくてどうする?俺は俺を馬鹿にしたあいつらに復讐するために力を使うんだ!!」
エレファントオルフェノクは再びスネークオルフェノクに拳を乱打する。いかにオルフェノクといえど、その攻撃に打ち負かさせるのに時間はかからなかった。再び蹴り飛ばされたスネークオルフェノクは人間の姿に戻ってしまう。
「ぐあ・・・クッソ・・・!」
倒れる男の側に駆け寄るダイヤ。男に意識がある事を確認し、怪物のほうを見据える。
「何だ、その目は。おまえもあいつらと同じかァ!」
エレファントオルフェノクの拳がダイヤに向けて振り下ろされるその瞬間、突然背後から衝撃が襲って体ごと吹き飛ばした。ダイヤがその視線の先を見ると、あの男が立っていた。
「待たせたな・・・ったく、俺の都合ってのも考えろよ!変身ッ!」
巧は既に変身待機状態のファイズフォンをバックルにセットする。
Complete
巧の体が赤い閃光に包まれ、ファイズへと姿を変える。
巧に吹き飛ばされたエレファントオルフェノクは、標的をファイズへと変えて向かってくる。
巧は手首をスナップさせると、エレファントオルフェノク目掛けてパンチを繰り出す。が、逆にエレファントオルフェノクがその手を掴み、ファイズを投げ飛ばす。
「ぐッ・・・まだ・・・うっ!?」
再び立ち上がりオルフェノクと戦おうとしたその時、ベルトから全身にかけて途轍もない衝撃を受ける。
それは初めてカイザの戦いを見たあの時と同じであった。
Error
発せられた音声と同時に体ごと吹き飛ばされる巧。その表情は痛みや不安より驚きを隠せないでいた。
「な、何!?どういう事だ!?あぁ・・・」
巧はそのまま気を失ってしまう。ダイヤは巧に駆け寄り、その容体を確認する。やはり意識こそあるものの、その手は黒ずんだ灰のようになっていた。
「やはり、あなたは・・・」
ダイヤが巧の心配をしていると、エレファントオルフェノクは人間の姿に戻り、巧から弾かれたベルトを巻いて変身コードを入力する。
5・5・5 Enter Standing by
ファイズフォンから変身待機音が鳴り響く。そして、そのままバックルにセットした。
「変〜身」
Complete
今度は怪物の体が赤い閃光に包まれ、ファイズへと変身した。
「へぇ、いいね。じゃあ今から続きをやろうか」
ファイズはダイヤへと歩み寄り、その胸ぐらを掴み上げ拘束する。
「くぅ・・・!」
苦悶の表情を浮かべるダイヤに対し、ファイズは容姿なく地面に投げ飛ばす。
「きゃッ!!」
ダイヤ投げつけたファイズは思わず笑い始める。全てをねじ伏せられる力を手に入れた事により、理性が崩壊してしまっているのだ。
「アハハハハハッ!?弱い、弱過ぎるよ!もう誰も俺を馬鹿に出来ないんだ!アハハハッ!」
笑い続けるファイズに対し、ダイヤは痛みに苦しみながらも、その心に問いかける。
「こんな事であなたの心は晴れましたか?それでは、わがままな子供と大差ありませんよ!」
ダイヤの言葉を聞き、笑いを止めるファイズ。そして、ダイヤを体ごと起こし、告げた。
「お前、ほんっとに鬱陶しいな!その口を聞けないようにしてやる!」
ファイズは拳を振り上げ、ダイヤ目掛けて放つ。しかし、その時。
「やめろ。今はファイズのベルトを回収するのが先だろ?」
ファイズの手を掴み、静止するようコートを着た男が現れる。ファイズは男を見ると、居心地が悪そうにして、ダイヤを掴んでいた手を離す。そして男たちは何処かへと引き返すのだった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
地面に倒れこむダイヤは、その光景を意識を失う寸前まで脳裏に焼き付けていた。
「ハッ・・・!?ここは・・・」
巧が目を覚ますと、そこは以前見た浦の星女学院の保健室だった。巧は先ほどの記憶を思い出す。
(俺は、あいつにやられたのか・・・ファイズのベルトも盗られた)
巧は自分の寝ていたベッドに拳を叩きつける。自分の不甲斐なさは恨んでも恨みきれない。
すると、その音を聞いたのか千歌、梨子、曜の3人が部屋に入ってくる。
「巧くん・・・その、大丈夫?」
千歌が気遣う言葉をかける。しかし、巧は言葉を聞かず、ただひたすらに謝り続ける。
「ごめんな・・・お前たちの場所を、守れなくて。それに、ファイズのベルトも失っちまって・・・もう俺にはどうする事も・・・俺はもうファイズになる資格はない」
巧は自分を責め、千歌たちに謝罪の言葉を言い続ける。しかし、意外にも最初に口を開いたのは梨子だった。
「大丈夫ですよ、乾さん。まだ終わってません!」
梨子の言葉に続くように曜が話す。
「そうですよ!今度ここの体育館でライブをするんです!その時も絶対にまたあの怪物が来ますよ!」
2人の言いたい事を察すると、その時にファイズのベルトを取り返せるという事らしい。そして、最後に千歌が話す。
「理事長さんが言ってくれたんだ。ここを満員に出来たら部として承認してあげますよって。私たち、まだ始まってないから、絶対に成功させたいんだ!協力、してくれるよね?」
巧は複雑な気持ちになりながらも、考える。自分にできる事は限られている。だが、彼女たちの夢はまだこれからだ。ならば答えは決まっている。
「分かった・・・ファイズのベルトも、お前たちの学校も、俺が絶対に取り戻してやる」
巧の決意は、良き終末へと続く選択だった事を知るのはまだ、先の話。
Open your eyes for the next φ’s
「そのくらい出来なきゃこの先もダメっていう事でしょ」
「ライブ?」
「絶対満員にしたいんだ!」
「あ、あの!グ、グループ名は何て言うんですか?」
「俺もそろそろ覚悟決めなきゃいけないのかもしれない」
第7話 私たちの名前