浦の星女学院の生徒会室。すっかり日も沈みかけたその頃、1人活動している者がいた。
「はぁ・・・やはり、気になりますわ」
その人物とは生徒会長の黒澤ダイヤだった。生徒はもちろん、役員すら出払っているにも関わらず彼女が生徒会室にいるのには理由があった。
(あの得体の知れない怪物はもちろん、コートを着た男性が仰った“ファイズのベルト”・・・それにあの方も)
ダイヤが黙って考え込んでいると、生徒会室の扉がノックされる。
「・・・!どうぞ!」
ダイヤが返事をすると、扉をノックした人物が生徒会室に入ってくる。ダイヤはその人物を見て思わずその身を硬直させた。
「邪魔するぞ。生徒会長に話があるんだが?」
入ってきたのは巧だった。ダイヤは動揺している事を隠すように話を進める。
「生徒会長は私です。どのようなご用件でしょうか?」
ダイヤの言葉を聞き、巧は本題よりも先に感謝の言葉を伝える。
「その前に礼を言わせてくれ。高海たちから聞いたんだ。あんたが倒れてた俺を運んでくれたんだってな」
巧の言葉になんとなく気恥ずかしくなるダイヤ。すぐさま話題を元に戻す。
「べ、別に当然の事をしたまでです!それで、要件はそれだけですの?」
ダイヤに促され、巧は思い出したようにチラシ(掲示用)を取り出す。
「今度、クリーニング屋を開くんだ。それで何枚か掲示させてほしいんだ」
巧からチラシを受け取って内容を確認する。特に不備などの問題は無かったため、ダイヤは巧の頼みを了承した。
「分かりました。では、生徒会の方で何とかしましょう」
ダイヤの了承を得た巧は、用も済んだため生徒会室を後にしようとした時、その直前で呼び止められた。
「あの、一つお聞きしても宜しいかしら?」
「何だ?」
巧が振り返ると、ダイヤは神妙な面持ちで質問する。
「今度、ここでスクールアイドルのライブを行う事になっています。その時に会場を満員に出来なければ、解散という約束をしておりますの」
「随分手荒な約束だな」
巧の言葉に思わずムッとするダイヤ。しかし、すぐに気をとりなおして話を進める。
「正直、今の彼女たちにここを満員にする事は不可能だと考えています。それに、例の怪物騒ぎもあってますます状況は絶望的と言えるでしょう。それでも、彼女たちにスクールアイドルを続けさせるべきだと思いますか?」
ダイヤの心からの言葉に巧は黙り込む。そして、静かに口を開いた。
「俺は・・・今は続けさせるべきだと思う。出来るか出来ないかってよりも、夢だからって感じか」
ダイヤは巧の言葉を計りかねる。
「夢・・・ですか?」
巧は困惑するダイヤに嘗ての友の話をする。
「俺の友達に人間を守る事を夢と考えていた奴が居た。そいつは自分が人間じゃないにも関わらず、人間であり続けようとしたんだ。裏切り者のオルフェノクとして命を狙われる事になってまでな。だが、奴の仲間がやられた時に、奴も変わっちまった。奴の仲間は人間に殺された。その事を知った奴の夢は崩れ去り、代わりに人間を滅ぼすっていう願いが出来た」
巧の言葉に息を呑むダイヤ。巧は静かにその先を告げた。
「結局は夢を信じきれなかった弱さから、招いた結果なのかもしれない。だから俺は夢を信じる。そして、その夢を邪魔するオルフェノクは絶対に許さない!!」
巧は気持ちを抑えきれずに扉を力任せに叩きつける。巧の突然の行動に驚くダイヤ。巧はすぐに我に返って「すまない」と言って話をまとめた。
「要するに信じてやってくれって事だ。俺に言えるのはそれくらいだ。チラシの件、ありがとな。今度、店に来てくれよ。ただで洗ってやるからさ」
巧の言葉にダイヤは柔和な笑顔を浮かべて返事をする。
「・・・えぇ。是非お伺いさせていただきます」
ダイヤの返事を聞いた巧は軽い足取りで生徒会室を出て行った。そして、残されたダイヤは静かに呟いた。
「夢を信じる・・・ですか。私も、まだ信じていても良いのでしょうか?」
彼女の呟きは夕暮れの空へと消えていった。
その翌日、千歌、梨子、曜、巧、海堂の5人は沼津駅にてチラシ配りをしていた。一方はライブの勧誘のために、もう一方は開店に向けての客集めのために奮闘していた。
「よーし、気合い入れて配ろう!」
千歌の言葉を皮切りに、各自で配布活動を始める。千歌がこんな事を言うのにも理由がある。
千歌は先日の帰り途中のバスでの会話を思い出す。
『全校生徒を集めても満員にならないってこと?』
『でも、鞠莉さんの言うことも分かるかな。それくらい出来なきゃ、この先も駄目って事でしょ?』
鞠莉によって課された課題をクリアしなければ、学校を救う事など夢のまた夢。改めて現実の厳しさを思い知らされたのである。
なので、現在に至る。生徒が駄目なら一般の方たちから数を得なきゃいけないという結論に達したのだ。
「お願いします!・・・って、あれ?」
千歌は果敢に声をかけるも、中々思うように進まない。一方で曜の方はというと、持ち前のコミュニケーション能力の高さで次々にチラシを減らしていく。ついでに写真までとる始末。
さらにもう一方では、梨子が広告に向けてチラシを見せていた。
「れ、練習だから・・・!」
かなり苦しい言い訳であったが、次はちゃんと人に渡していた。コートにマスクにサングラスといった、かなり怪しい人物にだったが。
さらに少し離れたところで、巧と海堂がチラシを配っていた。曜ほどではないにしても、順調にその数を減らしていた。その途中、巧は突然海堂に話しかけられる。
「なぁ乾。お前、もしかして変身出来なくなったんじゃねぇか?」
「お前、なんで知ってんだよ。ストーカーかよ」
いきなり図星を指され、思わず軽口で返してしまった巧。海堂も真面目な態度で反応する。
「っておい!いやよ、真面目な話俺には分かるわけよ。お前に起きてるその症状の正体がよ」
「・・・どういう事だ?」
海堂の言葉を怪訝に思う巧。確かに巧自身もはっきりとはわからなかったこの灰化の原因を、海堂は知っているというのだ。
「前に木場から聞いたんだよ。お前、木場に捕まって実験されたろ?あん時にオルフェノクとしての寿命を消滅するスピードを速められたんだよ。いくらオルフェノクが短命つっても、1年やそこらって訳じゃねぇからな」
海堂の話を聞いて納得する巧。そして、その解決策を教えてもらう事に。
「それで、どうすればいい?」
「んにゃ、俺は知らねえよ。ただ、寿命を 減らすって事はだ、増やすってのも出来んじゃねえかなって思っただけだ。あとは俺様の知ったことじゃねぇつーか」
海堂はいつもの通りに悪態をつきながらチラシ配りにどこかへ行ってしまった。巧はその様子を見て、海堂はいつもの海堂と安心する。
「まったく、素直じゃねぇな。ま、俺も同じか・・・俺もそろそろ覚悟決めなきゃいけないのかもしれないな」
巧は手に持っているチラシを配り終わると、千歌たちの元へ足を運んだ。
「ライブ?」
「うん!絶対満員にしたいんだ!だから来てね?」
巧が戻ると、千歌が見知らぬ生徒と話していた。近くにいた梨子に話を聞く。
「梨子、あの2人って知り合いなのか?」
「え?あぁ、学校の後輩なんです。確か名前は・・・」
梨子が説明をしようとした時、女生徒の内の1人が話しかけてくる。
「あれ?もしかしてあなたが乾 巧さんずら・・・じゃなかった、ですか?」
ずいぶんと個性の強い女生徒だと言葉に出そうになったが、巧は我慢して話を続けた。
「あぁ、よろしく。今度店を始める事になったから、その宣伝に来てんだ。良かったら来てくれよ、えっと・・・?」
巧が呼ぶのに困っていると、向こうから自己紹介してくれた。
「私は国木田花丸です。そして、お友達の黒澤ルビィちゃんです」
花丸と呼ばれる少女は、自分の背後に隠れていたもう1人の少女を巧の前に押し出す。
「あ、ああ・・・あの、わた、私は・・・」
ルビィと呼ばれる少女が何やら話せないでいる事に気づいた巧。すると、巧は目線をルビィに合わせるように屈みながら話をする。
「無理に話さなくてもいい。あいつらをよろしく頼むな」
そう言って、ルビィの頭をわしゃわしゃと撫でる巧。千歌たちはあの悲鳴が聞こえてしまうと急いで耳を塞いだが、いくら待っても悲鳴は聞こえてこなかった。寧ろ懐いている様子すら見て取れる。
「〜♪」
その様子を見た花丸は、驚きの声を上げる。
「ずら〜!乾さん凄いずら!ルビィちゃんが懐いている所なんて滅多に見られないずらよ!・・・あ」
花丸は自分の言葉を言ってすぐに、語尾が戻っていた事に気づく。しかし、巧含むその場にいた全員は馬鹿にする事なく、千歌と曜に至ってはその可愛さに我慢出来ずに花丸に抱きついていた。
その様子を見かねて引き離そうとする巧だったが、裾をクイっと引っ張られる。相手はもちろんルビィだ。
「んあ?どうしたんだ?」
巧はルビィの口元に耳を近ずける。耳打ちされた内容を理解した巧は、ルビィに自分で伝えてみろと合図する。巧に言われ、ルビィは勇気を出して言葉にする。
「あ、あの!グ、グループ名は何て言うんですか?」
《後日の町内放送にて》
『浦の星女学院スクールアイドル“Aqours”です!今度の土曜14時から、浦の星女学院にてライブを行います!生徒だけでなく一般の方々の観覧も大歓迎ですので、よろしくお願いします!!』
Open your eyes for the next φ’s
「私達は、スクールアイドルAqoursです!」
「今度こそ、殺させてもらうよ」
「さぁ行こう!全力で、輝こう!!」
「乾ィ!お前・・・」
「ううああああああああ!!!」
第8話 狼の正義