ライブ当日までの数日間、千歌たちはダンスの練習やライブの手伝いをしてくれる人を探したり、とにかくその一瞬一瞬をより良いライブにするために奔走した。
そして遂にライブ当日の朝がやってきた。
「ふぁ・・・ん〜!いよいよ今日か・・・ん?巧くん!」
いつもより早く起きた千歌は、目を覚ますために外の空気を吸いに出る。しかし、先客がいる事に気づく。
「・・・千歌か。よく眠れたか?」
「うん・・・あとはもうやるしかない!って感じだよね」
千歌が胸の前でぐっと手に力を込める。巧は彼女の中で様々な思いが巡っている事に気づく。
期待、不安、失敗。そんな思いに負ける事のないように巧はフォローを入れた。
「俺は俺の場所で、千歌は千歌の場所で出来るだけの無理をすればいい。そしたら、それを見ていつか誰か何かしてくれるんじゃないか?」
巧の言葉を聞き、思わず笑ってしまう千歌。もちろん内容について笑った訳ではない。
「ごめんごめん。巧くんらしくない台詞だなって思ったら可笑しくて・・・」
「お前なぁ・・・まぁ確かにそうだな」
つい言い返そうとするも、考えてみれば確かに自分のイメージと合わない台詞だと認める巧。千歌が一頻り笑った所で、最後のフォローを入れる。
「ライブ、頑張れよ」
「・・・うん!」
この時の千歌の笑顔は、まさしくアイドルのようにキラキラと輝いていた。
時間が経過し、ライブ開始の30分前の現在に至る。ライブ会場である浦の星女学院の体育館には巧の姿はなかった。その代わりにあの男がいた。
「ったく・・・何で俺がこんな所で餓鬼のお守りをしてやんなきゃならんのよ」
海堂は1人悪態をつきながら、出入り口の二階部分にあたる場所で開始時間が過ぎるのを待っていた。
海堂は自分が何故ここに居るのかを思い出す。
そう、それはお昼前の出来事だった。
『海堂、頼みがある』
『嫌だ。俺様は忙しいんだ。啓太郎にでも頼めばいいだろ?』
『・・・俺はファイズギアを取り戻さなきゃいけない。だが、もしオルフェノクがあいつらを襲うかと思うとな。力を、貸してくれないか?』
『・・・ま、任せとけー!』
海堂は回想を止め、最終的に自分が判断して決めたことを思い出す。改めて視線をライブ会場に戻す。
「にしても、ずいぶんガラガラじゃねぇの?大丈夫かよ」
海堂のつぶやきに答えるように言葉が返ってくる。
「確かにその様ですわね」
突然現れた女生徒に驚きの声を上げる海堂。
「のわあっ!な、何だお前は!びっくりしたなぁ、もう」
「そこまで驚かなくても・・・まぁ、それは別によろしいですわ。それより、あの人は居ないのですか?」
女生徒は海堂とは別の人物を探しているようだが、海堂にはその人物が誰かは思いつかなかった。
「は?あの人ってどいつ・・・。ん、待て!血の匂いと、乾?こいつはヤベェぞ!!」
突然感じ取った匂いに危機感を覚えた海堂は、手すりを飛び越え一階で受け身を取って走り出した。
「お待ちなさい!乾ってまさか!?」
女生徒は海堂の後を追うように階段を駆け下りた。
浦の星女学院の校門前。止むことなく降り続いている雨の中、傘もささずに立ち尽くす男がいた。
「さてと・・・今度こそ、殺させてもらうよ」
男が校内へと足を進めようとした時、後方からバイクの駆動音が響き渡り、目の前で急停止した。
「ッ!?へぇ、まだやる気なんだ。そんな手負いの状態で勝てるのかな?」
サイドバッシャーから降りた巧は、男がベルトを持っていない事に気付く。
「お前、ファイズギアはどうした?」
巧の質問に憮然とした様子で答える男。
「さぁね。それにあれが無くても、今の君になら勝てるんじゃないかな?フンッ!」
言葉を言い終えるのと同時に、エレファントオルフェノクに姿を変える。それを見た巧は、天を仰いで力強く叫んだ。
「ううああああああああ!!!」
巧の叫びに呼応するように、降り続いていた雨が一瞬空中に留まったような錯覚に陥る。そして、巧の姿が狼を模したウルフオルフェノクに変化すると、再び雨が地面に落ち始めた。
「なるほど・・・それがファイズの正体って訳か。結局お前も化け物じゃないか!」
エレファントオルフェノクがウルフオルフェノク目掛けて走り出す。その豪腕から繰り出すパンチをウルフオルフェノクは自慢の脚力を駆使して躱し、両腕のメリケンサックで攻撃を加える。
「グゥ・・・!?こんなはずじゃ」
苦言を呈するエレファントオルフェノクに尚も追撃を食らわす。そして、飛び蹴りで体ごと吹き飛ばしたその時、チャンスが訪れた。
「仕方ない・・・今は逃げるしか」
エレファントオルフェノクが体制を立て直すために、巧に背を向けたのだ。ライブ開始の時刻が迫る中でこれ以上この場に居られない事を知っていた巧は、再びサイドバッシャーに跨ってその姿を変形させた。
Battle mode
発せられた音声と同時に前輪が右腕、後輪が左腕に変形し、さらには側車部・ニーラーシャトルは二足歩行が可能になる脚に変形合体し、サイドバッシャー・バトルモードが完成した。
ウルフオルフェノクはそのまま右腕のクローでエレファントオルフェノクを拘束すると、地上をローラーダッシュしてこの時間は人がいない浜辺へと急ぐのだった。
体育館ではいよいよライブ開始の時刻が迫っていた。ステージ裏で待機している千歌、梨子、曜の3人は最後に気合いを入れていた。
「さぁ行こう!全力で、輝こう!!」
千歌の言葉が3人の力になるように感じる。そして、遂に開始の時刻となり仕切っていたカーテンが上がっていき、衝撃の光景を目にする。
「えっ・・・?」
そこにあった光景は会場が満員になるほど埋め尽くされたものではなく、真ん中に10人程度人がいるだけの光景だった。
千歌たちは歯がゆい思いを隠し、始めの挨拶をする。
「私達は、スクールアイドルAqoursです!目標は、スクールアイドルμ’sです!!
…聴いて下さい!」
千歌の言葉を皮切りに、用意していた曲が流れ始める。
彼女たちの初めての、そして運命のライブが始まった。
「乾ィ!お前・・・」
巧がオルフェノクごとこの場を離れる少し前、匂いを頼りに駆けつけた海堂とその後を追ってきたダイヤはその光景を目の当たりにする。
「あれが、あの人なのですか・・・」
ダイヤはついこの前襲ってきたオルフェノクと新たに現れたオルフェノクが戦っている光景を見ていた。先に着いた男の人が乾と呼んでいること、さらには見覚えのあるバイクに乗っていることから新たなオルフェノクは巧である事は察しがついた。
しばらくしてバイクが変形し、オルフェノクを掴んだまま何処かへ走り去ってしまった。
残された2人だったが、先に動いたのは海堂の方だった。
「待ってください!あなたはあの人が心配ではないのですか!?」
ダイヤが海堂に問いかける。海堂はきっぱりと言い切る。
「あぁ、心配なんかしてねえ。乾には乾の、俺には俺のやるべき事があんの。乾の代わりにライブを守るのが今の俺のやるべき事なわけ。そういう約束だからな」
海堂は足早に体育館へと引き返す。ダイヤはついこの前の巧の言葉を思い出す。
「夢を信じる。だからあなたは戦っているのですね。だったら私も・・・夢のために戦いますわ!」
ダイヤはその決意を胸に走り出す。皆それぞれの場所で戦うしかない。ようやく運命の歯車が回り始めたのだった。
一方、エレファントオルフェノクを浜辺まで運んでいた巧の戦いもようやく終わりを告げようとしていた。
「ウラッ!!」
クローで拘束していたエレファントオルフェノクを地面に叩きつけ、ニーラーシャトルで空中に向けて蹴り上げた。
「フンッ!」
ウルフオルフェノクは左腕の6連装ミサイル砲・エクザップバスターを起動し、発射する。連続で発射される6発のミサイルは命中する手前で分かれ、無数の小型ミサイルとなってエレファントオルフェノクを襲う。
「ウグッ!?がアアああ!?」
エレファントオルフェノクの体はミサイルが当たるたびに上昇し、最後のミサイルで爆発四散した。
「ハア・・・ハア・・・うッ!」
同時にオルフェノクの姿から巧に戻ってしまう。役目を終えたサイドバッシャーも自動でビークルモードに戻ってしまった。
Vehicle mode
どんどん意識が遠のいていく感覚に襲われ、地面に倒れてしまう巧。そして、意識を失う直前に幻聴のようなものを聞いた。
「カッコ悪いねぇ・・・ま、今の君じゃその程度か」
巧の手に何かが持たされる。
「別に君を助ける訳じゃない。そのベルトは、今は君が持っていた方が都合がいいんだ」
言葉が聞こえる方向を力を振り絞って目を開ける巧。彼が最後に見たものは緑のコートを着た男の姿だった。
「ま、せいぜい頑張りなよ。虫ケラの様に生きる君を見ているのも悪くないからさ・・・」
Open your eyes for the next φ’s
「まさか本当に承認されるなんて」
「ん!?何か書いてある・・・」
「本当はね、ルビィも嫌いにならなきゃいけないんだけど・・・」
「らっしゃい・・・って本当に来たのか」
「ルビィちゃんを・・・助けてあげてほしいずら」
第9話 赫い少女