夕暮れの執務室にて寄港する艦隊を見守る長門と提督。
ふとした拍子に提督がこぼした言葉の意味とは。

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・アイオワが実装され、艦これを引退するので初投降です。


長門

 暮れる夕陽に染む海は美しかった。

 頬杖をつく長門の横顔に、名残惜しげに笑いかける橙の光は柔らかい。

 海を見つめるその表情には、平穏に満足する老人のような暢気と、その尊さを理解する一方、心のどこかで争いを求める戦士の如き獰猛な闘志とがあった。相反する二つの感情は、平素こそ彼女の胸裡でぶつかり合う事も無く、それぞれあるべき時に、彼女が適量汲み上げていればそれでよかった。左様、まさしくそれは安全装置である。適切な時に、必要なものを、その分量だけ。

 けれども、思考に溺れ、とりとめもない思案に暮れざるをえないような時、それらは際限もなく湧いてきて、しかし長門はそれをうまく言い表す言葉を知らず、ふっつりと黙り込むのだ。

 風の感じを頬に受ける自分。兵器としての自分。曖昧で、普段は必要のない疑問だ。

 手持ち無沙汰に、暇を持て余しているのも、よくないのかもしれなかった。

 なぜなら、先ほどから延々、提督が書類にかじりついていて、彼女に構ってくれないからだ。

 

「……帰ってきたな」

 

 吹き込む風がカーテンを揺らすだけだった部屋に、その声は響いて聞こえた。頬杖のせいで若干くぐもってはいたが、彼女の声は、海の上でも鎮守府の中でも、よく通った。

 

「なんだ貴様。……ああ、そろそろか」

 

 窓から見下ろすと、正面海域が一望できた。長門の図抜けた視力は当然、鎮守府に帰投する駆逐艦の、表情の一つ一つまでもがわかった。

 

「卯月……春雨……谷風……大鳳、瑞鳳、龍驤」

「連中か。少しばかり、予定より早いな。真面目なもんだ」

 

 言いながら、提督が横にやってくる。大きく伸びをして、ばりばりと頭を掻き毟った。言葉にはやや険がある。言外に、誰か真面目でないものを仄めかしている様でもあった。

 長門は「うん」と生返事を返して、仕事はもういいのかと尋ねた。その言葉に提督はまったく憮然とした表情をしたが、彼女は相変わらず海を眺めていて、生憎そちらは見えていなかった。

 

「ううっ、眩しいな……。どこだ? 見えんぞ」

「まだ、少しある。あっちの方だ」

 

 提督が、茜の射す言われた方へと目を凝らしても、ただただ水が光を照り返しているだけで、何も見えない。彼がそう噛みつくと、長門はからからと笑って「海は丸いからな」とだけ言った。

 やがて、見えてくる。

 広大な海原に浮かぶそのシルエットは、艦影揺ぎないとはとても言い難い、酷く小さな頼りないものだった。夕日の中で、昼でも夜でもないどっちつかずの中途半端な時間で、波を蹴立てるそれらはまるでお化けか何かのように見えた。

 水面を互いに競い合うよう走って近づいてくる。ぐんぐんと大きくなってくる。もちろん、単なる帰港にしては船足は速過ぎた。あれではかなり余計に油を食うだろう。彼が平時から口を酸っぱくして、油の一滴は血の一滴であると節制に励んでいるにも関わらずだ。

 しかし、考えてみれば連中は、海に出てからもう二週間にもなるのか。

 そう考えると、後ほど叱りつけねばならない立場であるのに、提督にはどうにもそれを追求するのが億劫に思えてきた。

 察したわけではないが――長門はにっこりと、沈む夕日に負けないぐらいに微笑んだ。

 すると提督も、珍しい事にそれを見て、つられたように唇をあげた。

 はっきりいって、笑顔と呼ぶにはまるでお門違い、気の弱い駆逐艦なんかが見たら血の気のひくような表情ではあったのだが。

 長門はそれを正しく理解した。提督と気持ちが通じていると確信して、少しだけ嬉しくなった。

 

「駆逐艦は……いいな。見ていると、まるで……」

「ああ、そうだな。ぺろぺろしたいな」

 

 長門は、その言葉にうんと頷いた。

 それから少しして、ううん……? となった。

 提督は変わらず、海を見ている。

 そいつの、いつものような、野心と傲慢さ、かつそれらに見合う能力をもたっぷりと持ち合わせた眼差しはいま、いつになく色褪せてしまっているようだった。

 もう取り戻せないものを見ているかのような、それはそういう眼だった。

 しかし長門は、それを許容できなかった。何がなんだかまるで理解が追いつかないが、しかし、それを認めてしまえば最後、彼女はもう元の自分自身に戻れなくなるような……そんな気がしたのだ。

 

「お、あ……お前、は」

 

 舌が思うように動かず、盛大にどもりながら長門は「お」と「あ」の中間の発音を繰り返した。

 かつての誉もどこかへ置き忘れたかのように舌を縺れさせているのは、あるいはそれを、ただ単に認めたくないだけなのかもしれなかった。

 提督に……自身に。

 しかしいったい何を認めたくないのだ?

 戦艦長門よ、いったい何があるというのだ?

 

「なんだ。どうした」

「て、ていとく……それは……不適切だ」

 

 結局のところ彼女は逃げた。額面上の形式にだけ目をやり、彼が実際に何を伝えようとしたのか、その言葉の意味するところを考える事から逃げて、その非をなじった。

 海の上で数多の砲弾をやりとりしてきた一流の兵士の経験が、それを避けさせたのかもしれなかった。

 

「仮にも艦隊を預かる立場にある者が、きさま……」

「何がおかしい」

「あ……あらぬ誤解を招きかねない。軽挙は慎むべきだろう。その……なんだ、ぺー……あまりよくない言葉だ」

 

 長門のその言葉に、提督はそんな事はない、それは違うといった。

 肩をつかんで、そうではないんだと繰り返した。

 

「考えてみろ。ここで俺たちがこうして共に戦って、何年だ? 三年になる。お互いにそれぞれの戦争があって、俺は部下を大勢殺してこの地位に立った。お前はどうやらその部下に相応しいだけの活躍をして、これ幸いとばかりにそいつへあてがわれたんだ。だがその上でこうしてまがりなりにも三年間やってきた。どうだ? お前の知っている俺はそんな嘘を吐く人間だったか。後ろ手に上官の権威をちらつかせて駆逐艦に手を出す下衆に見えたか。お前はここに来てから、言葉で女を嬲る男の下で命をかけてきたのか」

「そんな事はない!」

 

 自分でも驚くぐらいに強い声がでた。

 そして、腹の底からぐっと息を出した事で、長門は知らず知らず、肩に余計な力が入っていたのだとわかった。その戦歴に比類するものなしとまでいわれた長門にも、まるで建造されたばかりの新米のようなミスをする可愛げが残されていたようだ。

 一度気づいて、落ち着いてみればそれは、なんて事はなかった。

 

「確かにそれはその通りだ。お前の言葉に間違いはなかった。いつだってお前は正しかったし……いや違うな。要するにお前は、まっすぐに前を向いている。失敗は恐れるものではないし、そのために私(秘書艦)や皆がいるのだからな。大事なのはそれだ。躊躇わず前に進もうとする意思だ」

「ああ」

「すまなかった。謝罪する」

「いいさ。なにせ俺とお前の事だからな」

「懐かしいな。SN作戦だったか? きさまとやり合ったのは」

「人を天井まで蹴り上げておいてよくいう。俺はあの時、うまく受け止めてくれた陸奥に求婚を決めたんだ」

「おや、そうだったのか。わたしは駆逐艦皆で一緒に嘆願書を書いてもらっていて、それどころではなかったぞ」

 

 ひとしきり話し込んで、笑い合った。

 遠い昔のような事、一人では思い出せないような話である。二人の付き合いは長いといえるものでもなかったが……提督と秘書艦として、肩を組んでいるうちに通じ合うものがある。それは一人ではできない事だ。先ほどの雰囲気もやがてどこかへ溶けて消えていった。

 

「さあ、ついてこい、秘書艦。今回はじきじきに司令官が出向いてやろうじゃないか。場合によっては旗艦に何発か制裁がいるかもしれん。その時は俺を止めてお前がやれ。手を抜いていいぞ」

「ああ。了解した」

「今度はうまくやれよ。前はあまりの大根芝居に俺まで笑ってしまったが、つられて笑った連中が歯を食いしばる事になったのはお前にも非があるからな」

「善処する。――ところできさま、さっきのだが」

「ああ? ああ、ぺろぺろするというのは、どうも可愛げがあるだとか、そういうふうに使うらしいぞ。男が使ってもOKだ」

「そう……なのか? 知らなかった。不勉強だなあ。そういうのは陸奥が教えてくれてたから」

「うん。お前も使うといい」

 

 

 後日、鎮守府内で事案が発生した。

 




HRSM「春雨が、一番活躍……って、ほんと? 本当なの? は……はい、少し、嬉しいです……!」
ひで「ほんとぉ?」

・ひで春雨説。
・説の補強として、殴打した際の金属音は戦艦特有の装甲と考えられる。
・アツゥイ!→駆逐艦は南にも行く。
・あーつめた(余裕)→駆逐艦は北にも行く。
・溺れる!溺れる!→遠洋に出向く事も多い駆逐艦は沈んだら終わり。
・言うこと聞くから→フネの上で上官の命令は絶対。
・ねー開けて入れて!→末期には内海を機雷で徹底的に封鎖された事を示している。
・ダイナマイッ!→言わずもがな駆逐艦最大の牙である魚雷の事。
・ああ逃れられない(戦争)→それでも彼女は守るために戦っている。
・ライダー助けて!→駆逐艦は精神的に幼い事が多い。
・この人おかしい……→戦争の狂気に囚われてしまった上官を見て。
・あああああもうやだあああああ!!→旗艦那珂の激しい訓練を受けている。


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