これから私、どうなっちゃうの~!?
みたいな話
唐突だが、どうやら私は転生したらしい――しかも前世でいうところの小説、ライトノベルと呼ばれる部類の。いわば物語の世界に。
というのも前世の最期で死後の世界に行き、神様と呼ばれる存在にそう言われたのを記憶しているからだ。
転生するなら前世と同じ世界がいい。とその時の私は答えたのだが、全く同じ世界に二度転生するというのは神様側からしては都合が悪いらしい。
ならば、前世と限りなく似たような平和な世界で、とお願いして選ばれたのが『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』という文芸作品の世界だった。
残念ながら……あるいは幸いにも私はその小説を未読だった。本屋に行った時、何度か表紙は見かけた気がするものの、しかしその程度のものだ。内容までは知らない。
まぁ、でも。こうなるのなら知らなくてよかったのかも知れないとは思う。既知、の世界より未知、の世界の方が楽しい――というのは私の持論だが、下手に原作知識を持っていて、シミュレーテッドリアリティ等といった精神病の類いが発症しないとも限らない。既に内容を知っている。というのはそれほど恐ろしいことなのだ。向こう側からしたら顔も知らない他人に勝手に内心を覗き見られているようなもので良い感情は抱けないだろう。
『俺ガイル』とも略されるらしいその世界では命を奪う奪われるといった殺伐とした展開――バトル漫画でありがちな唐突な死亡フラグ等も起きないらしいのでやはり原作知識は不要だろう。
そして神様転生といえばもはや定番ともいっていいチート能力だが、例に漏れず私も神様から好きな能力を一つ選んでよいと言われたが丁重に断っておいた。
咄嗟に良い能力が思い付かなかったというのもあるが、過ぎたる力は身を滅ぼす。どう足掻いても凡庸な一般市民の私が特異な力を手にしてもそれを十全に扱える自信がなかったからである。その能力が原因で、トラブルが生まれるという可能性も否定できない。
現実なんてそんなもんである。余多の神様転生者とは違い、チートで俺TUEEEなんて小心者の私には不可能なのだ。
かくして図らずも第二の人生を歩むこととなった私――新名、
× × ×
比企谷八幡には妹が一人いる。
先月小学校六年生に進級したばかりか。最近になって人を顎で使うような小賢しい方法を覚えてしまった妹の小町――主に被害者は父か八幡――だが、兄弟間の仲は世間一般と比べても、極めて良好と言えた。
捻くれ者の自分にしては本当に珍しい。純粋な親愛を持って接する相手、その一人が妹の小町だった。
比企谷八幡にはそんな愛すべき妹が一人いる。
では――――?
違う話をしよう。
共働きの両親はいつも帰りが遅い。顔に死相を浮かべ最終の電車に乗って帰ってくることなどザラにあるし会社に泊まったまま帰って来ない日なども一度や二度じゃない。まだ小さかった頃の八幡、そして小町もそういった幼少期を過ごしたわけだが、心細いといった感情はあまり抱いたことはない。
――何故か。
例えば八幡が小町に抱く感情を親愛とするならば、その人に対する想いは敬愛か。
自身も寂しいはずであるのに、そんな素振りを一抹すら垣間見せることなくただただ八幡と小町に笑いかけた人がいる。
誰かに見て欲しくて話してほしくて持て余してどうしようもなかった自意識の塊だった自分を真っ先に抱き締めて慰めてくれた人がいる。
それは比企谷八幡が産まれて初めて明確に意識した無償の愛の存在だった。
だからこそ八幡は『彼女』に対して心の底から純粋に尊敬する。敬愛する。
比企谷八幡には親愛する妹が一人いる。そして――、
比企谷八幡には敬愛するたった一人の『姉』がいる。
× × ×
澄み切った晴天、微睡みを誘う暖かな空気。それらを切り裂くようなけたたましいスマホのアラーム音に比企谷八幡は目を覚ました。
――ずいぶんと懐かしい夢を見た、気がする。寝ぼけた脳裏に今より幾分か幼い自分が、誰かに抱き締められていたような光景が浮かんだが、意識が明瞭になるにつれて夢の内容も希薄に薄れていった。
まぁ、夢なんてものは往々にして不明瞭なものである。と八幡は自室のベットから起き上がって自室を後に。未だ払拭されない眠気に欠伸しながらリビングの扉を開くと、
「――――おはよう」
瞬間、どきりと心臓が跳ね上がった音がした。
声がした方を見遣るとキッチンから振り向いてこちらに笑いかける少女の姿があった。
黒のブレザーに青と白のチェックのスカート。再来年に八幡が通う予定の総武高校の制服の上から青のエプロンを身に付けた姉の姿は何度あっても慣れぬもので、これが初めてではないというのにどうしても動揺してしまう。
「……お、おはよう」
かろうじて絞り出した言葉を口にしながら椅子に座った八幡に姉は満足したのかもう一度微笑んでから、
「もうすぐでできるから、待ってて」
そう言ってなにやら良い匂いのする料理を手際よく作り出していく。
これが比企谷家の日常だった。
料理を待つ間、手持ち無沙汰にふと姉を横顔を見る。姉妹なのだから当たり前だが、こうして見ると妹の小町と実によく似ている。いや、小町が姉に似ているのか。
腰まで伸びた黒髪に白磁のような白い肌。身長は八幡と同じくらいか、自分が少し前に計った中学校の身体検査では一六六センチだったので姉は女性の中では高身長の部類なのではないのだろうか。
そんな風にぼぅっと姉の後ろ姿を眺めていると、新たにリビングに入ってくる人影が。
寝ぼけ眼に着崩したシャツ。盛大な欠伸をしながら現れたのは妹の小町だった。
「ふぁ、……おはよー……」
そのままふらふらと頼りない足取りで八幡の向かいの椅子に腰かける小町に出来上がった料理を机に並べていく姉は困ったように苦笑した。
「おはよう小町。――女の子なんだからもう少しちゃんとした格好をしなさい?」
「えー……別に家の中だからいいじゃん……」
「……いや、姉ちゃんの言う通りだろ」
そうやって面倒くさそうな表情を浮かべ、口を尖らせた小町に返答したのは八幡だった。
姉から差し出された湯呑みの茶をゆっくりと嚥下しつつ吐き出した言葉だったが、ふと見遣ると、小町が自分にどこかからかいを含んだ喜色じみた表情を向けていることに気がついて、自身の言葉にやぶ蛇だったかと悟る。
「んー? お兄ちゃん普段は小町にそんなこと言わないのに、お姉ちゃんの前だからってカッコつけちゃってー」
「……いや、そんなんじゃねぇよ」
言いながら八幡は再度湯呑みに口を付ける。にやにやと何か言いたげな妹から目を逸らしたところで姉がぽんと手を叩いた。
「はい、ご飯にしましょう」
「やったー!」と言っていただきますの挨拶も漫ろに卵焼きを頬張る小町をしり目に味噌汁に口を付ける。
五臓六腑に染み渡る熱にほぅと息を吐いた。正に適量といった塩梅は、料亭もかくやと呼べるほどそこらの出汁とは一線を画した味わいになっていた。
姉の料理上手は今に始まったことではないが、八幡の贔屓目からしても、もうそこらの料理屋より美味いのではないだろうかと思ってしまう。
暖かな食卓。和やか空気。眼前で美味しそうに料理を食べる小町、それを微笑ましいもののように見る姉の姿に知らずと八幡の口元も緩む。
――あぁ、本当に。
比企谷八幡はどうしようもないほどに満ち足りていた。
こんな風に比企谷家の長女に生まれて八幡がデレデレになってて学校では陽乃さんに目を付けられていつの間にか親友ポジ(強制)になる主人公の姉世代みたいな話誰か書いて下さいオナシャス!