ポケットモンスター 「闇」   作:紙袋18

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ちょっと開いちゃった。続き。


第百九十話 遅刻は研究者の嗜み

「おや?サトシ君かね?約束の時間は――――なんと!もうこんな時間か!研究に没頭しておると時間が経つのがあっという間すぎる!私の時間だけゆっくり流れてくれはしないものかね?私の世界への貢献度合いから考えると、少しくらい私に贔屓にしてくれてもよさそうなものだと思うのだが、いやはや、この世はまったく不平等だな!」

 

「は、はあ・・・」

 

 

時刻は0時半。

サトシはご飯を食べ、ギャロップに対しての作戦を練り、休息をとり、0時5分前にジムに到着したが誰も出てこない。深夜0時なのだから、だれもいないのはごく普通のことではあるのだが、昼間と違うのは施錠されていることだ。

カツラが0時といったのだからそこはなんとなく、考えられているものだとばかり思っていたのだが、全くそんなことはなかった。

しかし、約束は約束だ。子供同士の約束ではなく、大人が提案し、子供が飲んだ約束。

子供が破ることはよくあるのかもしれないが、大人はダメだろう。きっと。そういう大人がいたとしたら、あまり良くないことだと思う。

そして、それがまさか目の前で起こるとは思いもよらなかった。

 

サトシがカツラの前にこれたのは実に約束の30分後。ジムの前でしばらく待ちぼうけし、しかし帰るわけにもいかないのでピカチュウと戯れていたところ、缶コーヒーとエナジードリンクを大量に買い込んできた研究員がジムに来たのを見かけ、声をかけ、事情を説明したところ「ああ、そういうとこあるよねあの人。わかるわかる。いいよ入って。部屋の場所わかる?勝手にいっていいよ」と言われ、そのまま昨日来たカツラの部屋まで歩いてきたのである。

深夜とはいえジム兼研究所の中は明るく、夜中の研究所は怖いなあ、などと思うこともなく、変な機械をいじることもなく、順当にカツラの部屋まで来たのであった。

以前のピカチュウであれば、サトシの一瞬の隙をついて大事そうなものとか重要そうな機械とかそこらへんの壁とかドアとかをぶっ壊しそうなものだが、いやはや、成長したものだ。涙がでそうですよ。

そう考えながらも、ピカチュウが離れないように手をがっちり握り、大き目のコッペパンを途切れなく渡し続けることによって食に気を取らせ続けているサトシだった。

 

そんなこんなで漸くカツラの部屋に到着し、あのー、と声をかけ、今に至るということだ。

 

 

「いやあ、すまないことをした。もうこんな時間とはな!欲を言えばもうちょっと―――あと2時間ほど今の研究を進めたかったのだが―――すごく嫌そうな顔だな!わかっているわかっている、早速バトルしよう!ささっと終わらせてしまおう。これも私の研究のため!サトシ君のポケモン、楽しみであるな!」

 

 

そういうと、事務用の量産品の椅子から立ち上がり、2,3度固くなった体を捻り、バキバキと背中を鳴らしてから部屋から出ていく。

 

それを見守るサトシ。

 

 

「・・・あこれ、ついてこいってことか」

 

 

数秒経ってそう気づくと、サトシも足早にカツラを追いかけ、その後ろをピカチュウが大きな歩幅でパンを食べながらついていくのであった。

 

 

 

――――

 

 

カツラの歩調に合わせて小走りについていくサトシ。

それを横目に確認したカツラが、ふと思い出したようにサトシに声をかける。

 

「サトシ君。これから私と骨肉の死闘を繰り広げるわけだが、どうかね、準備は。整っているかね?」

 

「え?ああまあ、そうですね、なるべくは」

 

「ふむふむそうか、それは僥倖。ポケモンバトルは準備万端でなければな。そうも言ってられないことも、まま、あるが」

 

「はあ、そう、ですね」

 

「うむ。―――ところで、君のピカチュウ、どこで手に入れたのかね?」

 

「え?ピカチュウ?」

 

 

カツラから訊かれた意外な質問。

ピカチュウをどこで手に入れたか―――?

 

それはもちろん、オーキド博士から。だが、決して本意ではなく、サトシが寝坊したことによってほかの3体がすでに選ばれてしまっていたから、しょうがなく残っていたポケモン。それを渡されたのだが。

それを言葉通り説明していいものかどうか―――いや、十中八九、なにか意図があるに違いない。

口が軽くてよいことなど何もない。サトシの今までの経験からして、しかも相手はジムリーダーで、且つ世界的な研究者の権威。ただの世間話と断ずるには、あまりにも相手が悪すぎる。

 

さらに、カツラは「どこで手に入れたのか」と訊いてきた。これは、このピカチュウの存在が、すでに知られていたか、あるいはカツラでさえ手に入れ難い何かがピカチュウにはあるということ。

それはまあ、通常のドーピングされたポケモンとは大いに違うし、Angel計画とやらに関わっていることも示唆されている。

そんなポケモンをこんな子供が持っていること。それ自体が異常なことは火を見るより明らかだ。

 

 

「がはは、言えないか。まあ当然か。もうちょっと口が軽いかと思っていたが、ここまで裏の世界を生き残ってきたのだから、甘い見積もりだったな!すまんすまん、子供だと思っていたが、そこらの子供とは違うな!」

 

「あ―――いや、別にそういう」

 

 

しまった。といっても、いくら経験を積んできたとはいえ、それは同じ時間を過ごしている他人と比較しての話。

カツラほどの人生を歩んでいる人間とサトシのとってつけた経験値など、比較にすらならない。

無言であることも、重要な情報だと、サトシは肌で感じたのだった。

 

 

「さて、ついたぞ!ここが私のバトル場だ!」

 

「これは・・・」

 

 

目の前に広がっているのは、本当にだたっぴろい、白い壁と天井、頑丈そうな床に6面が覆われているだけの空間。

 

よくよくみると、ところどころにガラスが小さく貼ってあり、カメラが覗いている。

 

 

「がはは、つまらない場所だろう?とはいえ、それは見た目だけ。この壁は厚さ80cmの特殊な合金でできており、まあミサイルでも直撃しない限りは全く問題無い硬さ。さらに要所要所のガラスも普通の強化ガラスとは違う。ガラスは分子構造の特性上、面の衝撃には強いが点には弱いのだが、分子の結合方向と柔軟性を弄り、点の衝撃を全体とz方向にずらすことによって、耐久性を大幅に向上させることに成功し、砕くことがほぼ不可能。最も、30cm四方で厚さ1cm程度のガラス板一枚作るのに500万ほどかかるのだが、まあ研究の幅を考えたら安いものだな。そして、エスパーの対策として、念動力拡散塗料を惜しげもなく壁、床、ガラスすべてに四重に塗布している。その拡散塗料を邪魔することのないエスパー振動周波数を抜ける特殊なコーティング剤も開発し、それも満遍なく塗布し、物理的な干渉の後でも問題なくエスパー対策効果を十全に発揮できるようになっており、さらに―――」

 

 

「ちょ、ちょっとまって―――」

 

「ぬ?まだまだ説明しきれていないのだが、この素晴らしいバトル場の技術はさらにだな」

 

「いや、いや、僕にはさっぱりわからないですし、バトル、しましょう」

 

「―――おお、そうだったそうだった。ついつい、自分の研究成果を発表できるとなると止まらなくなるな!では―――やるとしよう。では、あそこが君の場所だ。私はこっち。バトルを楽しもうではないか、がはは!」

 

「―――負けませんから」

 

「それはお互い様だ。では!」

 

 

そういうと、指をさした方向―――サトシは入ってきたドアから右に向かって。カツラは左に向かって歩いていき、壁際で互いに向き合った。

 

 

「よし!では!グレンジムリーダーカツラ!参る!」

 

 

 

 

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