前に作った短編を気まぐれに投稿です。

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味方が一番の重荷

「ねえ、なんで私に構うの?」

 

 私は自分の横で弁当に箸をつけている男にそう尋ねた。結構な間私にやたらと構ってくるこいつは、いつからか昼休み、私がご飯を食べている場所を見つけ出し、そこに来るようになった。と言っても屋上っていうありきたりな場所なんだけど。

 

「ん? 何が?」

 

 こいつ……

 食べるのに一生懸命で話聞いてないとか、小学生か。

 呆れる気持ちを隠すことなくため息をついた。

 

「だからなんでいつも一緒にいるの? 私といてもつまらないでしょ?」

 

 その私の質問に、彼は考えることなく即答してきた。

 

「なんでって……お前が好きだからだよ」

「それは知ってる。何回も聞いた」

「なら返事くれよ」

「だからわからないのよ。私の何がいいのか」

 

 本当にわからない。

 なんだかんだ一ヶ月ほど前だっただろうか。私はいつも通り弁当も食べ終わり、昼休みが終わるまで屋上でゆっくり空を眺めていた。

 ああ、今日も平和だな。こんな日がずっと続けばいいのに。

 そんなことを考えていると、屋上の扉が勢いよく開かれ、ある男が入ってきた。

 メジャーな屋上という場所だけどここを使う人は意外と少ない。少なくともここを使い始めてから四ヶ月間、誰も訪れることはなかった。

 初めての私の根城に現れた彼は私に突然告げたんだ。

 ーー君のことが好きだ。俺と付き合ってくれ。

 

「お前にもいいところたくさんあると思うけどなぁ」

「どこが。友達もいないし、面白いことも言えないし、暗いし……かわいくないし」

「可愛いと思うけどなぁ。顔も整ってるし。クラスの髪染めてキャピキャピしてる奴らよりよっぽどタイプだ」

「それも何回も聞いてるよ……イケメンはこういうこと言い慣れてるのかね」

 

 私は所謂陰キャラというやつだ。クラスの隅でじっとして、目立たないタイプ。恋愛対象にすらされないタイプ。もちろん友達もいないから人と関わることもない。こいつとは月とスッポン。

 だからこそ誰もが認めるイケメンに告白されて最初に出てきた感情は、警戒だった。

 

「別に言い慣れてないけど……」

「他の子にも言ってみなよ。みんな寄ってきてハーレムの完成だよ? 男子の夢なんでしょ?」

 

 たしかクラスの男子がそんなこと言ってた気がする。アニメとかでも可愛い女の子に囲まれる男の主人公って多いし。

 これって偏見だろうか。

 

「興味のない奴に来られてもなぁ。さっきの一緒にいてどうとかってやつにつながるけど、面白いとか可愛いとかじゃない。一緒にいたいって思う奴といたいんだ。お前といると落ち着くし」

 

 そう言って彼は私の頭に手を乗せ、ワシャワシャと動かした。これもイケメンのなせる技、というやつだろうか。

 いやそれにしても可愛いとかはこいつによく言われてきたけど、こういう攻撃は初めてだ。顔が熱い。

 

「……まずいねこれは」

「ん?」

「あんたのこと、好きになりそうだ。」

 

 そう言った瞬間彼の手が止まった。

 どうしたんだろうか。彼のことだ。手を叩いて、とまではいかないだろうけども、よろこびそうなんだけど。

 隣を見ると顔を染めたまま固まっている彼がいた。

 なるほど、彼はどうやら初心なタイプのイケメンらしい。こんなの絶滅していると思っていた。

 

「………」

「なんか言ってよ」

 

 どちらかというと、いつも飄々としている彼がこんなのだと私まで調子が狂う。

 こちらとしてはいつもみたいに軽く返してくれると思って言ったことだから、こんな反応をされると私まで恥ずかしくなるんだ。

 

 

「私のことを好きなのはわかったからさ、せめて教室でも構うのはやめてよ」

「なんで?」

 

 結局彼が復活したのはあれから十分後のことだった。

 わけがわからない、とそう言いたげな顔で首を傾げているのは本心なんだろう。こいつはどこか抜けているところがある。

 

「視線がいたいのよ……周りの」

「そんなの気にすんなよ」

「すこしならできるんだけどねぇ……長年の経験で」

「なんかあったのか?」

「昔から絡まれること多かったの。ほら私、かわいいから」

「さっきと言ってること違うじゃねえかよ」

「もう開き直ったの。学年のアイドルのお墨付きだしね。前から思ってたし」

「お前意外とナルシストなんだな」

「謙虚な女っていいでしょ?」

「しかも計算してるし」

「幻滅した?」

「全然」

「そう」

 

 これでこいつも離れてくれればよかったんだけどうまくいかないか。これくらいで離れるならとっくに離れているはずだしね。

 いや、別に好かれているのが嫌ってわけじゃないし、むしろ嬉しい。でもやっぱりどこか申し訳なく感じてしまう。

 

「で、話戻すね。全員ってわけじゃないけど、一部から妬まれてたの」

「俺はないけどなぁ」

「あんたは例外。性格がよすぎるのよ」

 

 本当にこいつは性格がいい。みんなを引っ張っていくリーダーシップを持ち合わせているし、ユーモアもあって面白い。人との距離感の取り方もうまい。にしては私にグイグイ来すぎだと思うけど。

 

 だけどそれを認めるのはどこか悔しくて、男子だからってのもあるかも。と私は付け加えた。

 男子はそういうの気にしなさそう。これも偏見だけど。

 あ、でも彼女持ちは嫉妬されそう。

 「リア充爆発しろ」なんて言葉があるくらいだしね。

 

「やめろよ照れるじゃねえか」

「だから余計周りからの視線がいたいのよ」

「全然感じないけど?」

「はぁ……あんたくらい鈍感だったらよかったのにね」

 

 私はそう言って屋上の床に寝転んだ。ザラザラのしたコンクリートが頭を削っているようで少し痛い。心地よさのかけらもないこの格好だけど、こうして空を眺めていると全てを忘れられそうな気がして私は好きだった。

 こいつが来るまではよくこうやって昼放課を過ごしていたものだ。

 

 

 

「あれ? お前の上履きむちゃくちゃ汚れてないか?」

 

 なんだか落ち着かず、足をバタバタとバタ足のように動かしていると彼がそう言ってきた。

 くそ、失敗した。もう少し考えて行動するべきだった。

 

「えっと……そう、転んだのよ。その時に汚しちゃったの」

 

 少し苦しいだろうか。いや、そんなことはないはず。

 

「よく見たらところどころ制服が汚れてるな。これも転んだ時に?」

「そう、転んだの」

 

 私を疑うような目で見てくる。その目はお前の嘘はわかってるんだぞ、とでも言いたげで、私には目をそらすことしかできなかった。

 くそう。なんでこういう時に限ってこいつは鋭いんだ。いつもの鈍感なこいつはどこにいったの? いつものは演技だったのだろうか。

 

「気をつけろよ。できることならなんでもするから」

 

 すぐにその目線は消え、純粋に心配している顔になった。なんだか罪悪感を感じてしまう。元はと言えば、こいつが原因なのに。

 

「じゃあちょっと距離とって?」

「なんでだよ」

「あんたと関わってから転ぶこと多くなってきた気がするの」

「ん?それ俺のせいなのか?」

「そうよ。厄病神ー」

 

 最後の厄病神はこいつが傷つくかなと思い棒読みで言ってやった。こいつ相手にそんな気遣いをするのもおかしな話だけど。

 

 あっち行けとジェスチャーをしながら自分の体を抱くようにして彼から距離をとる。もちろん冗談。こいつだってそんなことわかっているだろう。だからこそできる悪ふざけ。

 

「……まあ、お前が言うなら」

「……そう、意外だったわね」

 

 でも帰ってきたのは意外にもそんな答え。

 離れてくれる分には私への視線諸々が無くなるから歓迎なんだけど、どこか拍子抜けしてしまう。

 そのまま彼は何も話さなくなった。今までもお互い無言になることはあったけど、全然気まずさは感じていなかった。

 でも今は気まずさというか、罪悪感に似た何かを感じていた。

 私が自分から開けた距離は埋められることなく時間は過ぎていった。

 

 

 

「なぁ」

 

 しばらくして声を発したのは彼だった。

 

「なによ」

 

 声をかけられたことが嬉しくて。でもそんなこと恥ずかしくて知られたくない。

 だから結果としてこんな可愛げのない返答になってしまった。少し落ち込んだ。

 

 でもこの後に彼から言われる言葉は落ち込みなんか吹き飛ばすものだった。

 

「お前……いじめられてるんだろ?」

 

 彼はそう言ったんだ。

 

「……そんなわけないでしょ」

 

 とっさに否定する。でもあっけにとられたまま返した言葉は、どこか震えていて、違和感を含んでいた。いやむしろ違和感しかなかった。そんな返答で彼をごまかすことなんてできるはずがない。

 

「とぼけるなよ」

 

 彼は今まで聞いたことのない、いつものヘラヘラした声とは全然違う真剣な声、目で私にそう訴えてきた。

 

「そんなわけないじゃない。なに? 現場でも見たの?」

 

 でも私だってそんなに簡単に認めるわけにはいかないんだ。

 

「いや、見てない」

「ならーー」

「でも状況から判断できる。俺の頭の良さ知ってるだろ?」

「………」

 

 そう、こいつはイケメンだけじゃなくなんと勉強までできる。具体的に言うと校内順位で五位以下なんてとったことないくらい。ちなみにいうと運動もできる。

 だからこいつにとってこんなこと簡単に分かることなんだ。

 

「原因は俺か?」

「……わかってるなら関わらないでよ」

「俺もそうしたいんだけどな……」

 

 彼はばつが悪そうにそっぽを向いて頭をボリボリとかく。

 

「なによ」

「お前俺が離れようとするとすごい寂しそうな顔するじゃねえか」

「……は!?」

「気づいてなかったのか? だから離れたくても離れれないんだよ。あんな顔見せられた ら」

「……」

 

 いや、そんな顔はしてないはず。

 むしろ私は喜んでいた。これで静かになると。もちろん確かにこいつの雰囲気に慣れてしまっていないと寂しいと思ってしまうことが微粒子レベルで存在したかもしれない。

 でもそんな顔をするほどじゃない。

 たぶん。……そう、だと思う。

 

「だから離れようにも離れられなかったんだよ。好きなやつのそんな顔は見たくないからな」

「またイケメンらしい発言を……本気で私を落としにかかってるね?」

「いつだって本気だし、本心だよ」

 

 本当にこいつはずるい。イケメンは全滅しろと願う男子の気持ちがわかった気がする。

 確かにイケメンは危険だ。

 

「だからお前は俺を頼ってくれ。俺がお前を守ってやる。お前をいじめるヤツらだってぶっ飛ばしてやる」

 

 その目は、からかえないくらい真剣で、私はなにも言えなくなった。

 

 ああ、やっぱこいつのこと好きだなぁ。

 いつだって私のことを一番に考えてくれたこいつが。

 私がなにを言ったって離れていかなかったこいつが。

 こんな主人公が言うような、歯が浮くようなセリフを平然と言えるこいつが。

 

 だからこそ、私は悲しかった。

 

 

「期待しないでおく」

 

 私は笑いながらそれだけ言った。

 

 

 

 

 翌日、自殺して死体となった女子高生が発見された。

 そのことを学校の生徒たちが知ったのは、学校で開かれた朝の緊急集会だった。

 

 ほとんどの生徒は知らない人の自殺だなんて一時の話題にしかならないことだった。

 でもある一人の男子高校生はその日の夜から毎日、泣きながら自殺した女子高生に謝り続けているのだという。


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