狩人の夜明け   作:葉影

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今回の戦闘場面は、この曲がイメージです。
もし良ければ、是非聴きながら読んでみて下さい。

Cleric Beast - Bloodborne OST

※今回の話と曲名は関係ありません。

前述した通り、徐々にBloodborneの要素が強くなっていきます。
今までの話もそうですが、今回の話も今後の物語に大きく関わってきます。ただ、それがハッキリと分かるのは結構先かもですが……笑
更新遅くて申し訳ないです。


第12話 人外

何故、奴が此処にいるのか───────。

 

深い灰色。

其れは機械的で、ISという名の機体であるはずなのに、両腕の装甲は不均等な大きさである。

その手は異常に長く、爪先よりも下まで伸びている。ゆうに2mを越すその機体は全身装甲(フル・スキン)でありながらも、多くの部分に動物の毛や血肉のようなものがこびり付いていた。

その機体は何故か傷だらけで、至る箇所から血のような液体が流れている。

そして頭部には四つの穴が開いており、不気味な雰囲気を漂わせる。

その機体は、静寂となった空気に悲鳴のような金切り声をあげ、アリーナ中に響かせる。

 

 

これではまるで、『獣』じゃないか───────。

 

 

マリアは言葉に表せないような複雑な感情に陥る。

しかし、今はそれに思考を向けさせる時ではない。

 

『試合中止!織斑!凰!直ちに避難せよ!』

 

千冬がマイクで司令を入れた直後、アリーナ中の観客席の緊急時用シャッターと扉の自動ロックが作動し、生徒達は密室に閉じ込められてしまった。

 

「誰か!ここを開けて!」

 

「なんなのあれ⁉︎テロリスト⁉︎」

 

「このままだとこっちに向かってくるよ!」

 

「早く扉を開けて!殺されるわ!」

 

マリアの周りにいた生徒達は一斉に悲鳴を上げ恐怖に陥り、非常用出口の扉を叩く。

マリアは即座に千冬へと通信を開く。

 

「千冬!観客席の出口が開かない!何とか開けられないか⁉︎」

 

『此方も今試みているが、システムがハッキングされている!教師部隊も出動出来ない事態だ!』

 

「っ!………そうか……」

 

マリアは先程から、誰かに見られている気がしてならなかった。

この視線の感触を私は覚えている。

生前、幾度となく味わわされた感覚だ。

其れは、今グラウンドにいるであろう侵入者しか思い当たらなかった。

 

奴の狙いは私なのか?───────。

 

何れにせよ、ここでじたばたしていては奴は直に此方へ向かってくる。

マリアは非常用出口の方へと向かい、生徒達をかき分けた。

 

「皆退がれ!」

 

マリアは落葉を展開し、扉の前で立ち止まり、構える。

そして、素早く落葉を振り、扉を蹴った。

蹴られた扉はバラバラとなって宙を舞い、向こう側へと続く通路が見えた。

 

「早く此処から避難しろ!」

 

安全な場所へと行けると分かった生徒達は皆一斉に扉の向こう側へと走り出す。

人混みの中で、マリアへと懸命に近付こうとする二人の少女がいた。

 

「マリアさん!早く逃げよう!」

 

そう言って来たのは静寐だった。その後ろには本音がいる。二人の目からは恐れと不安が入り混じった感情が読み取れた。

マリアは首を横に振る。

 

「私は此処に残る。静寐も本音と一緒に行くんだ」

 

「な、何言ってるの⁉︎そんなことしたら危ないじゃ済まないよ⁉︎」

 

「私は大丈夫だ。約束する」

 

「で、でも………」

 

「本音、彼女を連れ出してくれ。早く!」

 

「う、うん、分かった!しずねん、行こう!」

 

本音が静寐の手を取り、出口へと走ろうとする。静寐は人混みに逆らうことも出来ず、しかし最後に必死にマリアの方を振り向いた。

 

「無事で帰って来てね!何があっても!」

 

その言葉を最後に、彼女達は通路の向こう側へと姿を消した。

生徒達が全員立ち去ったことを確認し、マリアはシャッターの前に立つ。

 

この先に、奴がいる───────。

 

マリアは狩装束を展開し、落葉を腰の位置に構え、シャッターに向け大きく一閃に斬撃を放った。

 

 

 

 

 

 

「なんなのよ、あれ………」

 

グラウンド上で燃え盛っているクレーターの中心にいる侵入者を見て、鈴は呟く。

今まで見たこともないような禍々しい機体の姿に、一夏と鈴は息を呑む。

 

「一夏!ここはあたしに任せて、あんたは退避しなさい!」

 

「何言ってんだよ!女を置いて自分だけ逃げるわけにはいかないだろ⁉︎」

 

「あたしよりもあんたの方が弱いんだから仕方ないじゃない!」

 

「うぐっ………」

 

鈴をこんな危ない状況に一人だけ置いていくなんて行動は許せないと思いつつも、確かに鈴の言うことは正しい。自分がいることで、かえって鈴の邪魔になってしまう可能性も否定出来なかった。

一夏の顔を見て、彼が葛藤しているのを察したのか、鈴も一夏を安心させるように言葉を選ぶ。

 

「別にあたしも最後までやり合うつもりはないわよ。こんな異常事態、学園の先生たちに任せれば──────」

 

「危ねえ!」

 

鈴の言葉を遮り、一夏は鈴を抱えてその場から離れる。

直後、機体から放たれたビームがそこを通った。

 

「危なかった……」

 

「ち、ちょっと!離しなさいよ!」

 

「あ、こら、暴れるなって」

 

鈴は一瞬何が起こったのか理解出来なかったが、一夏に助けられたことと今抱えられていることが分かると、途端に顔を赤くし一夏から離れようとした。

一夏は上空から機体の周りをぐるぐると回るように飛び続ける。

すると、一夏の目の前に白式からの警告表示が出された。

 

『──警告── 所属不明のIS。ロックされています』

 

「ロック……?あいつに俺が狙われてるっていうのか……?」

 

「ちょっと!離してったら!動けないじゃない!」

 

「お、おう、悪い」

 

一夏は鈴を抱えるのを止める。

すると、またビームが飛んで来たのでそれを避ける。

二人が侵入者からの攻撃を防いでいる時、真耶から通信が入った。

 

『織斑くん!凰さん!聞こえますか⁉︎今すぐ退避してください!』

 

一夏はビームを避けながら、真耶に返答する。

 

「でも、アリーナの生徒たちに被害がいったらどうするんですか!」

 

『そ、それはそうですが……しかし危険です!一刻も早く──────』

 

一夏は話してても埒があかないと思ったのか、真耶との通信を切ってしまう。

どの道自分たちも、応援が来るまで此処から逃げるわけにはいかないのだ。ならば今は被害を最小限に抑える事が自分たちの出来ることだ。

 

侵入者はまた金切り声を上げ、上空にいる一夏へ急発進する。

一夏は真っ向から向かって来る侵入者よりも低く下がり、雪片弍型で下から斬りつけようとするが、寸での所で剣先が当たらない。

続いて侵入者の背後から鈴が二刀の双天牙月で回転斬りをするが、侵入者はそれを避け、鈴にビームを放つ。

鈴はもろにビームを受けてしまうが、直ぐに体制を立て直す。

 

「鈴!」

 

「あたしの心配よりも、攻撃を当てる事に集中しなさい!」

 

鈴は負けじと侵入者に体当たりし、双天牙月で相手の動きを封じようとする。

その隙に一夏も雪片弍型で侵入者を斬りつけようと突進するが、それも避けられてしまう。

 

「今のもう一回やるわよ!あたしがあいつの動きを止めるから、あんたは雪片弍型で攻撃しなさい!」

 

「分かった!」

 

鈴は二刀の内の一刀を侵入者に投げるが、当然それは避けられてしまう。しかし鈴はそれを気にせず、今度は龍砲を撃ち、侵入者に当てる。

直に衝撃砲をぶつけられた侵入者に隙を与えんと、鈴は一刀の双天牙月で攻防を繰り広げる。

そして一夏が再び雪片弍型を持って侵入者に向かう。

それに気づいた侵入者は、鈴の振る刀を素早く掴む。

 

「なっ⁉︎」

 

驚いた鈴は咄嗟に反応することが出来ず、なすがままにされてしまう。

鈴は刀ごと投げ飛ばされ、突進してきた一夏も攻撃を裁かれ、弾かれる。

しかしその直後、鈴が先程投げたもう一刀の双天牙月が侵入者の背中に強く当たる。

 

「ビンゴ♪」

 

双天牙月は離れた所にあっても、鈴の意思で手元に戻す事が出来る武器であり、その戻って来る軌道上に侵入者を位置させた、というわけだ。

背後から刀をぶつけられ、よろめいた侵入者を見逃さず、鈴は衝撃砲を撃ち、侵入者をグラウンドへと叩きつける。

 

「鈴!無事か⁉︎」

 

「まぁね」

 

二人は合流し、地上にいる侵入者の様子を見ていた。

侵入者は暫くすると立ち上がり、二人はまた戦闘の用意をする。

しかし、侵入者はまるで何かに気付いたように、突然観客席の方へと向いた。そして腕をゆっくりとその方向へ伸ばし、エネルギーを溜める様子を見せる。

異変に気づいた一夏は、急いで侵入者の元へと飛ぶ。

 

「あいつ!観客席にビームを撃つつもりだ!」

 

「一夏!」

 

観客席には閉じ込められた生徒たちがいる。

鈴は衝撃砲を構えるが、恐らく僅差で侵入者の方が速く撃ってしまうだろう。

一夏も急降下するが、間に合うかが怪しい。

 

(くそっ……間に合うか………⁉︎)

 

後2秒程で剣先が奴に届くが、しかし奴は既にビームの光を砲身から出しかけていた。

 

「っ……くっそおおおおおおおお!!」

 

目の前にまで迫った時、一夏の眼前にいつの間にか砲身が構えられていた。侵入者の、もう片方の腕に付いたものだった。

あまりにも突然だったため、一夏はそこから放たれるビームを避けることが出来ず、遠く離れたアリーナの壁に吹き飛ばされる。

そしてそれと同時に、観客席にもビームが放たれた。

 

(ちくしょう………)

 

観客席に向かうビームを見て、一夏と鈴は青ざめた顔をする。

恐らく生徒たちに被害が出てしまうだろう。

 

 

 

しかし、観客席の遮断用シャッターが破られるかと思ったその時。

ビームが二手に裂かれ、地面へと跳ね返る。

まるでシャッターの内側から、誰かに斬られたように。

見ると、シャッターは真っ二つに大きく切断されており、そこに立ち込める粉塵の向こう側には、落葉を構えたマリアが立っていた。

 

「マリア!」

 

『遅くなってすまない。一夏、鈴、無事か?』

 

「あたしは大丈夫!」

 

「こっちも問題無い。マリア、IS壊れているんじゃなかったのか?」

 

『ああ、だが通信機能は使えるみたいだ』

 

マリアは一夏たちと話している間も、侵入者から目を離さない。

すると、侵入者がマリアに目がけて突進する。

 

『くるぞ……!』

 

マリアはグラウンドに着地し、侵入者の方へと走り出す。

侵入者はその長い右腕を上にあげ、マリアに殴りかかろうと大きく振りかぶる。

マリアは身を低くし、それを避けながら侵入者の右脇腹に入り、落葉で斬ろうとするが、今度は侵入者の左腕が迫ってきたため、一時退く。

そして鈴が侵入者に双天牙月を振るが、既にその場から姿を消しており、離れた一夏の所へと攻撃を仕掛けていた。

 

「な、なんて速さなのよ⁉︎」

 

一方、一夏は鍔迫り合いとなって侵入者と対峙するが、なかなか打撃を加えることが出来ない。

雪片弍型を一旦引き、空かさず侵入者に突きを放つが、腕に少し掠れた程度でダメージを与えることは出来なかった。

 

その後も、三人の攻防は続いた。

 

 

 

 

 

 

あれから数分が経ち、戦況は一時落ち着きを見せていた。

侵入者はグラウンド中央に、マリアはそこから離れた地上に、一夏と鈴は上空で合流していた。

 

「なんなのよ、あいつ……。さっきから動きが人間のそれじゃないわ」

 

そう、侵入者は先程から人間離れした攻撃をしていた。マリアたちに殴りかかる時も、通常考えられる関節の曲がり方を逸脱していたり、上半身と下半身の向きを逆さまにして攻撃をするなど、人間の内部に存在する「骨」という概念を無視するような動きを見せていたのだ。

 

「まるで、人間じゃないみたい………」

 

鈴は不安の表情を見せる。

鈴の言葉を聞いた一夏は、あることに気付く。

 

「─────なぁ、鈴」

 

「ん?何よ?」

 

「仮に、仮にだぞ。もし、あれが人間じゃないとしたら………」

 

一夏は下で立っている侵入者を見て、思ったことを言う。

 

「………“無人機”、とは考えられないか?」

 

「はぁ⁉︎何言ってんのよ⁉︎そもそも、人間が乗らないとISは動かないのよ⁉︎」

 

「でも、可能性はある。さっきから異常な動き方をしてるし、人間らしいとこがまるで見つからないんだ」

 

鈴は改めて、侵入者を見据える。

 

「確かに、さっきから相手の生体反応は不明で検知されないし、あいつの傷口から流れている血も、それっぽく造った偽物(フェイク)?………でも、本当に無人機なの……?」

 

「無人機なら、俺は容赦無く攻撃を出来る。多分、バリアを無効化する零落白夜はパワーが強すぎるんだ。だから、人間相手には使えない。でも、あいつになら………」

 

零落白夜を使えば、倒せるかもしれない。

一夏の頭には、その方法しか思いつかなかった。

鈴も、だんだんと一夏の言うことに納得し始める。

 

「なら、あいつを無人機とした上で倒すわよ!」

 

「ああ。俺も、せめてお前の背中くらいは守るよ」

 

一夏の突然の紳士的な台詞に、鈴は顔を赤くする。

しかし直ぐに、二人はそれぞれ装備を構えた。

 

 

 

 

 

 

(本当に、無人機なのか………?)

 

グラウンドで二人の会話を聞いていたマリアは、心の中で何処か腑に落ちない感情が渦巻いていた。

確かに、奴は人間離れした動きをしている。無人機と言われても納得せざるを得ない要因しか見つからないのは事実だ。

しかし、マリアの勘が、そうではないと訴える。

 

生前マリアが散々味わわされた獣の気配と、目の前にいる侵入者から滲み出る雰囲気は、まさしく同じものだった。そして、あの傷口から止めどなく流れる血の色も。

 

 

 

マリアがかつて生きていた都市、ヤーナム。

そこでは、原因不明の『獣の病』が蔓延っており、人々を恐怖に陥れていた。

その獣を狩るのが、マリアのような狩人たちだった。

 

しかし、『獣の病』という名前から分かるように、この現象は伝染病の一種として扱われていた。

つまり、獣は元々、人間だったのだ。

 

(無人機─────。確かに表現的にはそう言えるかもしれない……。だが、今は人間でなくても、かつては人間だったとすれば………)

 

嫌な予感がする。背中に冷や汗が流れる感触がする。

200年も先の未来に目覚めても尚、まだ獣になってしまった者を見ることになるなど考えたくなかった。

生きていた時も、獣を狩る自分が酷く醜かった。それは200年経った今でも変わらない。

 

だが、此処に現れてしまった以上、奴を葬らなければならない。学園の人々に被害が出る前に。

 

一夏は零落白夜を使おうとしている。それは、搭乗者を殺すには充分過ぎる力だ。

たとえ今は人外であろうと、かつては人間だった者を、一夏や鈴の手で血に染めたくはなかった。人間の命を奪い取るには、まだ彼らは幼過ぎる。そして、これからも知る必要の無いことであろう。

 

 

 

マリアはそう決断すると、直ぐに一夏たちに通信を入れる。

 

「一夏!鈴!お前たちは──────」

 

『一夏!!!』

 

マリアの言葉を遮るように、何処からか声が聞こえた。

そしてそれは箒の声であり、彼女は遠く離れたアリーナのピット上に立っていた。

 

『男なら………その程度の敵を倒せなくて何とする!』

 

アリーナ中に箒の声が響く。

侵入者が箒の方向を向く。

 

「不味い!箒、逃げるんだ!」

 

マリアは箒に大声でそう促すと同時に、落葉を侵入者に狙いを定めて一直線に投擲する。

そして侵入者の元へと走り、弾かれ宙を舞う落葉を掴み、斬撃を繰り返す。

 

 

 

一方、一夏は一か八かの賭けをする。

 

「鈴!俺に衝撃砲を撃て!」

 

「はぁ⁉︎何言ってんのよ⁉︎」

 

「いいから早く!」

 

「……ああもう、どうなっても知らないわよ!」

 

鈴は半ば自棄になって、衝撃砲のエネルギーを蓄積する。

 

 

 

左右から自分を掴もうとする不均等な両腕が来る。

マリアは落葉を二刀に分け、それを自分の両側に伸ばし、侵入者の掌を突き刺す。

突き刺した掌からは赤と灰色が混じったような血が噴き出し、マリアの顔を濡らしていく。

 

(やはり………)

 

やはりそれは、獣の血だった。最早人間の面影は消えかかっていた。

マリアは侵入者の掌から落葉を抜き、ジャンプする。

そしてとどめを刺すべく、頭部に落葉を突き刺そうとしたその時。

 

 

ギョロッ

 

「なっ……!」

 

マリアは、侵入者の顔にある四つの穴の内の一つから、奥で血に染まりきった目が開くのが見えた。

瞳孔は崩れ、蕩けている。

驚き、一瞬の隙が生まれてしまったマリアを見逃さず、侵入者は他の三つの穴から光線を出す。

直にそれを受けたマリアは吹き飛ばされてしまった。

 

 

 

「一夏!撃つわよ!」

 

「ああ!来い!」

 

鈴は高火力の衝撃砲を一夏の背中に放つ。

一夏はそれを受け、自分が壊れてしまわないよう必死に耐える。

すると、一夏のシールドエネルギーが徐々に回復し始める。雪片弐型も元の長さを取り戻す。

そして、零落白夜を発動し、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で侵入者の方へと向かう。

 

 

 

 

倒れていたマリアは、膝をついて起き上がり、一夏を見る。

間も無く彼は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で奴に向かおうとしていた。

マリアは急いで一夏を止めようと通信を開く。

 

「駄目だ一夏!奴に攻撃をするんじゃない!」

 

しかし先程の光線でやられたのか、マリアの通信機能が破損しており、マリアの声は一夏に届かなかった。

 

一夏は既に奴の目の前まで飛び出しており、もう零落白夜の剣先は奴の右腕に迫っていた。

 

「やめろおおおおおお!!!」

 

その叫びも虚しく、一夏は侵入者の右腕を切り裂く。

 

 

 

 

 

「よし!」

 

確かな手応えを一夏は感じる。

切り裂いた腕からは大量の血が噴き出すが、これも自分たちを慌てさせる為の偽物だろう。

この調子でいけば、倒せる。

半ば希望に満ちた感情になっていると、宙に飛んだ侵入者の右腕が、一夏の目の前に落ちた。

 

「え……──────」

 

視界に映るその右腕の断面には、機器などが見つからず、人肉のようなものしか存在しなかった。

IS機能による視界の高解像度のせいで、変色した肌、血肉、骨、血管、そこから溢れ出す血が鮮明に見える。

 

 

──────まさか、そんな。そんな筈は………。

 

 

直後、一夏は背後から衝撃をくらい、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

「一夏!」

 

零落白夜で右腕を切り裂かれた侵入者は、弱まる気配も見せず一夏を背中から攻撃した。

まともにくらってしまった一夏はアリーナの壁まで吹き飛び、意識を失う。

鈴が呼びかけても一夏は反応せず、鈴はショックのあまり、強引に侵入者へと突進する。

しかし、冷静さを欠いて無茶をする鈴はもはや侵入者の敵ではなく、あっけなく鈴を吹き飛ばしてしまい、鈴も続いて気を失ってしまった。

 

(なんてことだ………)

 

まだ15歳という若い少年に、人の名残を残した者を斬らせてしまうなんて。

それに一夏が斬った後に見せた、あの表情。

もしかしたら彼は、自分の手を血に染めてしまったことを理解しかけていたのではないだろうか。

 

彼がまた目覚める時に、そのことを憶えていないことを切に願うマリア。

侵入者は先程よりもさらに大きい悲鳴のような金切り声を上げ、マリアに向かってくる。

右腕を失ったせいで自らの危機を感じ取ったのか、より力を出そうと左腕も地面につけて、走り出す。

その姿は(さなが)ら自我を失った獣のようで、穴から覗くその目には、此方を本気で殺そうという本能が感じ取れる。

 

マリアは迫ってきた左腕を落葉で受け止め、その最中に二刀に分ける。そして受け止めていた落葉とともに、侵入者の懐に入りながら、身体を捻り回転斬りをする。

続けて相手の両肩に落葉を突き、上半身を起き上がらせる。

無防備となった胴体に、斬撃や蹴りを繰り返す。緋の雫(レッド・ティアーズ)が起動出来ていれば、蹴りにも更に威力を加えられるのだが、今は充分だろう。

侵入者は攻撃をされるたびに耳をつんざくような悲鳴を上げ、それはマリアの心も苦しませた。

 

そして、ついに侵入者はよろめき、身動きが出来なくなった。

マリアは、自分がしていた予習と教室での授業を思い出していた。

 

 

──────ISの中心には、『コア』というものが存在する──────

 

 

──────『コア』はISの心臓として機能するものであり、此れを無くしてはISは動くことが出来ない──────

 

 

マリアは、自分が繰り出した斬撃で傷だらけとなった侵入者の胸部を見る。

毛と血肉がこびりつき、しかし他の装甲部分と比べて幾分破壊しやすくなっていた。

 

『コア』を取り出せば──────。

 

倒せるかもしれない。この獣を楽にしてやれるかもしれない。

 

マリアは強く足を前に踏み出し、侵入者のすぐ側まで近寄る。

そして重心を低くし、右腕を肩よりも後ろに引いて、力を込めて一気に腕を前に突き出す。

突き出したマリアの手は侵入者の胸部を貫き、大量の血飛沫がマリアの全身にかかる。

内臓を取られると感じたのか、侵入者が苦しそうな金切り声を上げる。

マリアは侵入者の中の肉体をまさぐり、その中で大きな球状の物体を見つける。

恐らくこれが『コア』だろうと判断し、マリアはその球体をしっかりと掴む。

 

そして、一気に引き抜いた。

 

血に塗れた『コア』は赤黒く光を反射し、コアに纏わりつくように、組織がボロボロになった血管らしきものが付いていた。

 

穴から覗く奴の目が、一瞬大きく開き、そしてゆっくりと暗闇になる。

 

『コア』を抜かれた侵入者は後ろに倒れ、そのまま立ち上がることはなかった。

 

 

 

 

辺りには再び静寂が生まれ、未だグラウンドで収まらない火と煙が立ち込めている。

遠くの方で数多くの機械音が聞こえた。ピットから出てきた教師部隊のISの音だった。どうやらハッキングは解除されたらしい。

教師達は複数のグループに分かれ、一夏や鈴を医務室に運び、そして自分の元へと向かって来る教師もいた。

自身の顔や身体を返り血で緋くしたマリアは、もう動くことのない獣を見て、只々立ちすくんでいた。

赤色と灰色が混ざったような血が、獣とマリアの身体を覆い尽くす。

 

 

 

 

 

 

─────────

───────

─────

 

 

真っ白な空間。

此方に背を向けて立つ女性がいた。

黒のタイトスカートに、肩や袖や裾に赤いラインが施された黒の正装。頭に被る黒帽子は、素材のしっかりとした、少し固そうな造形をしている。

長袖の先から露わになる手には、服の内側から流れてきたであろう血が一筋見え、それは指の先まで流れ、そして彼女の足元に滴り落ちる。

白い空間に、赤が混じる。

彼女の肩が、微かに震えているように見える。そして僅かに見せる彼女の横顔には、涙の糸が頰を伝っていた。

彼女の元へ近づこうと、足を踏み出す。

 

 

するとそこは暗闇で、彼女もいつの間にか姿を消していた。

よく見ると、暗闇の中では粗い壁が自分を取り囲んでいるのが分かった。

横を見ても、後ろに振り向いても壁が立ち、しかし自分は何もすることが出来ず、只々壁を見続ける。

 

 

背後で、ある筈もない鉄扉が強く閉まる音が響く。

俺は後ろを振り向く。

そこには先程まで自分を囲んでいた壁は無く、小さな部屋が広がっていた。

天井には壊れかけの蛍光灯が一つあり、点いたり消えたりしている。

その下には実験用の手術台のようなものがあり、そして鉄扉の前では先程の女性が見知らぬ二人の男に拘束されていた。

 

「離せ!!!」

 

女性が叫んで拘束から逃げようとする。

しかしどれだけ抵抗しても、彼女が離されることは無かった。

正面から見る彼女の左目には、眼帯が付けられていた。

やがて男たちは彼女を手術台へと乗せ、手足を拘束する。

男たちは器具のような物を取り出す。

一人はその右手に、黒い球体を持っていた。

 

 

今すぐ彼女を助けなければならない。

しかし自分の身体はまるで蝋で固められたかのように動かすことが出来ず、どれだけ喉に力を入れても声は出せなかった。

 

 

男たちが、いよいよ術を始めようと動く。

 

「嫌だ……………」

 

彼女は何もかもに絶望したかのように、しかしそれでも小さくその言葉を呟く。

 

「やめてくれ…………」

 

彼女の唇が恐怖で震え始める。

あまりの恐ろしさに、目は焦点が合っていない。

 

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!!!!!」

 

その身体を必死に暴れさせるが、手足の拘束は解けない。

そして男たちの持つ器具が彼女の身体に触れた。

 

「いやああああああああああああ!!!!」

 

悲痛な叫びと共に、俺の顔には彼女の血が飛び散る。

血飛沫が目に入りそうで、思わず瞬きをする。

 

 

すると、俺はまた最初の真っ白な空間にいた。

彼女も、男たちも消えていた。

自分の身体も動かせるようになったが、白い空間には何一つ触ることの出来る物は無い。

 

 

ピチャリ

 

 

音がした。

足元を見ると、後ろから大量の血が流れてきていた。

血で出来た道を辿り、暫くして顔を上げる。

そこには、全身に傷と血に塗れた女性がいた。彼女の身体から滴る血が、自分の足元にまで流れていたのだ。

彼女の足は蹌踉めき、立っているのもやっとな状態。

顔は下を向いており表情は分からないが、黒い服装を着ている。

間違いなく、彼女だった。

俺は彼女に一歩ずつ近づく。そして目の前にまで来た。

 

 

震えている彼女の肩に、手を伸ばす。

肩に触れそうになったその時、突然彼女が顔を上げて俺を押し倒す。

肌は変色し、傷口の状態は酷い。

左目の瞳孔は崩れ、蕩けている。

彼女は人間には出せないような悲鳴を上げ、その血塗れの爪で俺の腕を食い込ませ、歯を剥き出しにする。

歯は鋭い獣の牙となり、俺の首元を狙う。

 

 

何も出来ず、俺はただ、恐怖から逃れるように目を瞑った───────。

 

 

 

─────

───────

─────────

 

 

 

 

 

「うわっっ!!!」

 

「きゃっ!」

 

一夏は起き上がった。

心臓の鼓動は速く、荒い呼吸で辺りを見渡す。

横には自分を見て驚いた顔をする鈴。

薬品がたくさん入った棚と、自分がいるベッドを見る限り、ここは保健室だと分かる。

そして、さっきまで見ていた光景は夢だったということも。

 

「はぁ、はぁ………り、鈴か………」

 

「そ、そうよ。(うな)されてたみたいだけど、大丈夫……?」

 

「あ、ああ、まぁ………」

 

全身が汗に塗れて、気持ち悪い。

しかし、それ以上に、拭えない違和感が心に残っていた。

 

(無人機……だったのか………?)

 

一夏はアリーナでの出来事を、頭の中で思い出そうとする。

しかしまだ思考が混乱しているのか、ハッキリとした記憶が出てこない。

もうあの光景を思い出したくない一夏は、考えるのを止めた。

横にいる鈴を見て、一夏はあの事を思い出す。

 

「なぁ、鈴」

 

「な、何?」

 

「料理が上手くなったら、毎日ご馳走するって………」

 

「え⁉︎あ、あああああれね⁉︎うん、それがどうかしたの⁉︎」

 

鈴は明らかに動揺した素振りをする。

一夏は、鈴の目を見て、尋ねる。

 

「あれって、何か違う意味があるのか?」

 

「へ⁉︎な、な、無いわよ!ほんと、そのままの意味だから!」

 

「そうか……。俺はてっきり、毎日味噌汁をっていう意味だと思ったけど、やっぱ違うんだな」

 

(ああああ何してるのよあたし!今のチャンスだったじゃない!)

 

鈴は素直に返事出来なかった自分に激しく後悔する。

落ち込む鈴を他所に、一夏は、そういえば、と呟く。

 

「鈴の親父さん、元気か?あの店の料理、美味かったからな!また行きたいぜ」

 

「ああ………。その、ね……お店はもう、しないんだ」

 

「え?」

 

「離婚、したんだ……。だから、今どうしてるのかも分かんない。あたしが中国に帰ったのも、そのせいなの………」

 

一夏は鈴の暗い表情を見て、彼女の両親を思い出す。

 

あんなに仲が良かったのに───────。

 

自分の知らない間に、鈴がこんなにも悲しい思いをしていたのかと思うと、胸が痛くなる。

鈴が中国に帰る時、自分がそれを知っていたなら、鈴にもっと違う言葉をかけてやれたのに。

 

「ごめんね、なんか辛気臭い話して。はい、この話はお終い!」

 

鈴はそう言うと、明るい表情に戻す。

本当にこの幼馴染は強い子だと、一夏は思う。

 

「って、あんた汗だくじゃない⁉︎あたしがタオルで拭いてあげるわ!」

 

「え⁉︎いや、いいって──────」

 

「そんなこと言わずに〜♪ほら、脱いじゃえ脱いじゃえ!」

 

そう言って、鈴は一夏のシャツを掴む。

 

「いや、本当に大丈夫だって!」

 

「そのままだと気持ち悪いでしょ〜?だから──────」

 

「その必要はありませんわ!」

 

出入口の方から突然声がする。

そこにはセシリアがいた。

 

「鈴さん⁉︎一夏さんが起きるまで抜け駆けはしないと約束しましたわよね⁉︎」

 

「いや〜、あはは………」

 

「そういうセシリアも、こそこそと何を抜け駆けしているんだ」

 

今度は箒だった。

セシリアもギクリとした顔をする。

三人は一夏の横で揉め出す。

 

「そういえば、千冬姉は?」

 

一夏の言葉で、三人は静まる。

 

「そういえば、先程から見ていませんわね……」

 

「千冬さんたちも、まだ仕事が残っているんじゃないのか?」

 

「教師ってのも大変ねー」

 

そんな話をしていると、また扉が開く音がした。

 

「一夏、起きたのか?」

 

入ってきたのはマリアで、服装は戦っていたときの狩装束ではなく、元の制服に戻っていた。

 

「マリア!あの後どうなったんだ?俺、あんまり記憶無くて……」

 

「無事に終わったよ。一夏は後ろから攻撃を受けて気を失ったから、仕方ないさ」

 

「そ、そうか………」

 

一夏はそれから、深く考え込む表情になった。

そして暫くして、マリアに恐る恐る尋ねる。

 

「な、なぁ……マリア……」

 

「どうした?」

 

「………無人機、だったんだよな?」

 

マリアは一瞬黙り、口を開く。

 

「ああ……無人機だよ」

 

それを聞いて、一夏は胸を撫で下ろした。

一方マリアは何処か悲しい表情を僅かに見せ、しかしそれを直ぐに隠し、一夏に話しかける。

 

「一夏、汗だくだな。私が隅々まで拭いてやろう」

 

「な⁉︎マ、マリア!」

 

「ちょっと、マリアさん⁉︎」

 

「あんた何言い出すのよ⁉︎」

 

箒、セシリア、そして鈴は、まさかマリアがそんなことを言い出すなんてと驚く。

マリアはそんな三人の慌てぶりを見て、吹き出す。

 

「ふふふ、冗談だ。冗談」

 

「もう!心臓に悪いですわ!」

 

「面白い反応をするから、ついな。全く、可愛いな三人とも」

 

「う、うるさいわねあんた!」

 

一夏のことで揶揄われたことに三人は恥ずかしくなった。

窓からは夕陽が射し込み、保健室の五人を暖かく包む。

もう時刻は午後五時を過ぎており、徐々に空気は夜の音を帯びていった。

 

 

 

 

 

 

─────────

───────

─────

 

 

IS学園・地下特別区画。

まだ鈴と一夏が目を覚ましていない頃、マリアは地上からおよそ50m下にあるこの区画の『地下第1管制室』に連れてこられていた。

機能停止したISはすぐさまそこへ運び込まれ、解析が開始された。

 

「本来、この区画は相当の権限を持つ者しか入ることが許可されていない。だが、このISに一番近づいたお前には特別に来てもらった」

 

事情聴取が目的らしい。

千冬は何度もアリーナでの戦闘映像を繰り返し観ている。

室内は薄暗く、ディスプレイの光で照らされた千冬の顔は、酷く冷たいものだった。

 

「あのISの解析結果が出ました」

 

ディスプレイの前に座る真耶が言う。

 

「どうだ?」

 

「無人機──────という結果が出ています」

 

「………」

 

世界中で開発が進むISの、その未だ完成していない技術。

遠隔操作と独立稼働。

そのどちらか、あるいは両方の技術が謎のISに使われている。その事実は、直ぐさま学園関係者全員に箝口令が敷かれる程だった。

 

「どのような方法で動いていたのかは不明です。マリアさんが機能中枢を斬ってしまった為、修復も不可能かと」

 

「コアはどうだ?」

 

「………それが、登録されていないコアでした」

 

「そうか」

 

やはりな、と千冬は呟く。

どこか確信じみた発言をする千冬に、マリアは怪訝な表情をする。

 

「何か心当たりがあるのか?」

 

「いや、ない。今はまだ────な」

 

何かを知っていそうな千冬に、少しばかりの不信感を抱く。

しかしここで問い詰めて答えてくれるような人物でもないだろう。

 

マリアは目の前にあるISを見る。

深い灰色の機体にある無数の傷口からは、もう既に止まった赤と灰色が混ざった血が塗られている。

 

千冬はそのISを見て、疑問を口にする。

 

「本当に─────無人機なのか……?」

 

機体にこびりつく血肉と、多くの部分から生えていると動物のような毛。

解析結果が無人機と出たのは、本当に無人であるのか、それともここの技術では計り知れない故なのか。

 

「機体のフォルムは保っているが、コアに纏わり付いた血管や傷口を見ると、これではまるで『獣』だ」

 

千冬の言葉に、マリアは少し心が苦しくなる。

 

「何処か、腑に落ちない。私たちの想像を超えるような事が起こっている気がしてならない──────」

 

千冬の言葉に二人は反応することはなく、部屋に響いて消えていった。

 

 

 

 




『ゴーレムⅠ』

未登録のコアが使用されたIS。
この機体以外にも今後襲撃を受ける可能性がある────という織斑千冬の意向により『Ⅰ』と称される。

多くの部分に血肉と動物の体毛のようなものがこびり付いており、その姿はまさに『獣』を彷彿とさせる。
全体的に損傷が酷く、傷口からは血に染まった黒の生地と変色した肌が僅かに露わになっている。
其れは、この機体の嘗ての姿であった名残だろうか。
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