狩人の夜明け   作:葉影

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最近、この作品が面白いのかどうか、少し自信が無いです…。
書きたいことを書いてるつもりなのですが……。


第17話 敵意

「お引越しです!」

 

「「え?」」

 

一夏と箒の部屋に訪れた真耶は突然そんなことを言い出した。

 

「篠ノ之さんは新しいお部屋に移ることになりました」

 

真耶は笑顔でそう続けるが、一方の箒は困惑した表情を浮かべていた。

何せ一夏と離れてしまうことになるのだ。ただでさえ一夏に対しては素直になれないというのに、部屋まで離されてしまっては話す機会すら減ってしまう。

それはつまり、一夏に自分を意識させるチャンスも減ってしまうということだ。

 

「俺じゃなくて、箒が移動なんですか?」

 

椅子に座っている一夏が、真耶に尋ねる。

 

「ええ。篠ノ之さんの新しいルームメイトは鷹月さんです。織斑君はしばらくの間一人部屋、ということになりますね」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!別に私はこのままでも………」

 

箒がそう答えると、真耶は少し困った顔をした。

 

「いえ、やっぱりこのままだと篠ノ之さんにも不便がありそうですし、それに男子と女子をいつまでも一緒の部屋に居させる訳には………」

 

「で、でもそんな急に」

 

反論しながらも自分が勝てるような主張は何処にも見つからず、おまけに一夏と一緒に居たいなどとは照れ臭くて言えるはずもない。

 

「じゃあ、俺はシャルルと一緒の部屋ということに?」

 

「ええ、その予定なのですが、割り振りの登録上、一度に複数の移動は皆さんが思っているよりも時間がかかる手続きがいるんです。加えて、ボーデヴィッヒさんの転入もありますので……。なので、デュノアさんは今度の学年別トーナメント後に織斑君の部屋に移動します」

 

一夏はなるほどと言い、一人頷く。

そして此方を見ている箒に気付き、一夏は笑顔で箒に答える。

 

「安心しろよ箒。箒がいなくてもちゃんと起きるし、歯も磨くぞ」

 

それを聞いた箒はムッとした顔になり、すぐに自分の荷物を纏めていった。

 

「山田先生!今すぐ部屋を移動します!ではな一夏!」

 

そして箒は大きな音を立てて扉を閉めて出ていってしまった。

一夏は首を傾げ、

 

「俺、何か怒らせるようなこと言ったか……?」

 

と、相変わらずの鈍感ぶりを発揮していた。

 

 

 

 

 

 

コンコンッ

 

 

箒が出て行って暫くした後、誰かが扉をノックした。

一夏が部屋の扉を開けると、そこには先ほど出て行った箒がいた。

 

「どうした箒?忘れ物か?」

 

「は、話がある」

 

「なんだよ、改まって」

 

あからさまにソワソワしているのが、見て分かった。

箒は深呼吸して、一夏の目を見る。

 

「今度の学年別トーナメントだが……」

 

「おう」

 

「もし、私が優勝したら………つ、付き合ってもらう!!」

 

「………はい?」

 

 

 

 

 

 

二人の様子を、陰から見ている三人の女子生徒がいた。たまたまそこに居合わせた、本音と癒子と神楽だった。

 

「ねぇ、聞いた?」

 

「聞いた聞いた!」

 

「これは……」

 

「「「大ニュースだ!!!」」」

 

 

 

 

 

 

翌朝。

一年一組はとある話題でもちきりだった。

 

「ねぇ、あの噂知ってる?」

 

癒子の周りにはセシリアや鈴、静寐、本音、神楽たちがその話に耳を傾けていた。

 

「なんの噂よ?」

 

鈴が癒子に尋ねた。

 

「今度の学年別トーナメント、優勝したら織斑君と付き合えるんだって!」

 

「そ、それは本当ですの⁉︎」

 

セシリアが真っ先に食いつく。

 

「それがね、本人もよく分かってないみたい」

 

「どういうことですの?」

 

「女子の中だけの取り決めらしいよ〜〜」

 

噂話に華を咲かせていたその時、教室の扉がガラッと開いた。

そこにいたのはシャルル、マリア、そして当事者の一夏だった。

 

「おっす!おはよう皆!何の話してるんだ?」

 

一夏が元気よく皆の元へ話しかける。

 

「僕も気になるな〜。ね?マリア」

 

「ん?ああ、そうだな」

 

シャルルとマリアも一夏と一緒にその輪の中へ入っていこうとした。

するとセシリア達は一斉にはぐらかした態度を取り、

 

「お、おほほほほ!な、なんでもありませんわ!」

 

「あ、あたし二組帰るね!」

 

「お、織斑くん!早く座らないと授業始まるよ⁉︎」

 

「え?お、おう……」

 

一夏も言われるがままに座った。

 

「モテる男も大変だね〜〜おりむ〜〜」

 

本音は相変わらずの気楽さで一夏に言った。

 

「はあ?なんの話だよ?」

 

「なんでも〜〜」

 

本音はそう言うと自分の席に帰っていった。

シャルルもマリアも、一体何のことやらと首を傾げていた。

やがてHRのチャイムが鳴り、千冬と真耶も教室に姿を見せた。

 

 

 

 

 

 

(何故だ……)

 

授業中、教壇に立つ先生の話を聞きながら、箒は先ほどまでクラスメイトたちが話していた噂を思い出す。

 

(元々あれは、私と一夏だけの約束の筈だ。それが何故……)

 

もしかして、あの時の半ば告白に近い宣言が誰かに聞かれていたのだろうか。

少し焦りを感じ始める箒だが、これは自分にとって好機でもある。

 

(まぁいい。要は勝てばいいのだ。勝ちさえすれば、一夏とつ、つ、付き合えるのだからな!!)

 

一人うんうんと頷く箒。

その表情は何処か浮かれていて、試合すら始まっていないのに、もうすでに半分勝った気でいるような箒であった。

 

 

 

 

 

 

放課後。

セシリアはトーナメントのための自主訓練をするためにアリーナへ来ていた。

辺りには誰も居ない。どうやら此処に来たのは自分が一番のようだ。

 

「さて、始めましょうか……」

 

と思ったのも束の間、後ろから足音がした。

振り向くと、そこには鈴が来ていた。

 

「あら、早いわね」

 

「ふふ、鈴さんこそ」

 

セシリアは不敵な笑みで鈴に言う。

余裕の窺えるその表情は、鈴に対する対抗意識だろうか。

 

「あたしはこれから学年別トーナメント優勝に向けて特訓するんだけど」

 

「私も全く同じですわ」

 

二人は睨み合う。

鈴も不敵な笑みで、セシリアを挑発する。

 

「この際どっちが上か、この場でハッキリさせとくのも悪くないわね」

 

「よろしくてよ?どちらがより強く優雅であるか、決着をつけて差し上げますわ」

 

「勿論、あたしが上なのは分かりきってることだけど」

 

「うふふ、弱い犬ほどよく吠えると言いますけど、本当のようですわね」

 

「どういう意味よ?」

 

「自分が上だって、態々(わざわざ)大きく見せようとしているところなんか、典型的ですもの」

 

セシリアの挑発に、鈴の怒りが沸々と湧き上がってくる。

 

「その言葉……そっくりそのまま返してあげる!!」

 

鈴は自分の専用機・甲龍(シェンロン)を展開し、装備・双天牙月(そうてんがげつ)を構える。

セシリアも蒼い雫(ブルー・ティアーズ)を展開し、ライフルであるスターライトmk.Ⅲを装備する。

 

二人がぶつかり合おうとした、その時───────。

 

突如二人の間を、高速の弾丸が通り過ぎた。

 

「「──────っ!!」」

 

二人は弾丸が来た方向を見る。

 

そこには、ピットに立った黒のISと、不敵な笑みを浮かべる彼女がいた。

鈴はディスプレイに反映された情報を見る。

 

「ドイツ第三世代機……『黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)』……!」

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……!」

 

セシリアもラウラを睨む。

彼女は転入した時から自分の想い人である一夏を敵視し、先日は自分たちに向かってあのレールガンを容赦無く撃ち放したのだ。

あろうことか、それを再びしてくるとは───────。

 

「どういうつもり⁉︎いきなり人にぶっ放すなんて、いい度胸してるじゃない!」

 

ラウラは鈴の怒号を無視し、鈴とセシリアの専用機の情報を見る。

 

「中国の甲龍に、イギリスのブルー・ティアーズか……。ふっ、データで見た時の方が、まだ強そうだったな」

 

「何?やるの?態々ドイツ軍隊からやって来てボコられたいなんて、大したマゾっぷりね!」

 

鈴が挑発するが、ラウラはその挑発に乗る様子は無い。

 

「あらあら、鈴さん。此方の方は共通言語を知らないようですから、あまり虐めるのは可哀想ですわよ」

 

「……貴様達のような者が、私と同じ第三世代の専用機持ちとはな」

 

ラウラは高圧的な目で、二人を見る。

 

「数くらいしかしか能の無い国と、古いだけが取り柄の国は、余程人材不足と見える」

 

鈴とセシリアの目の鋭さが、更に強くなっていく。

 

「この人、スクラップがお望みみたいよ!」

 

「そのようですわね。本当によく吠える犬ですわ」

 

「ハッ、二人掛かりで来たらどうだ?くだらん種馬を取り合うような雌に、この私が負けるものか」

 

その言葉に、二人の怒りが頂点に達した。

 

「今何て言った……?あたしの耳には、『どうぞ好きなだけ殴ってください』って聞こえたけど⁉︎」

 

「この場にいない人間の侮辱までするなんて、その軽口、二度と叩けぬようにして差し上げますわ!」

 

「ふっ……とっとと来い」

 

ラウラが二人を煽る。

 

「「上等!!」」

 

二人はその怒りと共に、全速でラウラの元へと飛んだ。

 

 

 

 

 

 

一方、校舎の廊下では一夏、シャルル、そしてマリアが歩いていた。三人もこれから訓練をしようとアリーナへ向かうところであった。

 

「ねぇ一夏、マリア。今日はどんな特訓にする?」

 

「俺は対射撃への戦い方をおさらいしたいかな。この前シャルルにも言われたし」

 

「そうだな。後は白式の使い方をより深く知ることか」

 

訓練の具体的な内容を話し合っていたところで、なにやら周囲の生徒が騒つき始める。

 

「第3アリーナで代表候補生三人が、模擬戦やってるって!」

 

「ほんと⁉︎見に行こう!」

 

そう言いながら、生徒たちは走り去っていく。

三人は顔を見合わせる。

 

「代表候補生……」

 

「それって、もしかして……」

 

「……行ってみるか」

 

「うん!」

 

そして三人も、他の生徒に混じってアリーナへと向かった。

 

 

 

 

 

 

一夏、シャルル、マリアがアリーナ席に入ると、セシリアと鈴、そしてラウラ・ボーデヴィッヒが互いに火花を散らしていた。しかしラウラに対して、セシリアたちは苦戦を強いられているように見える。

 

鈴が双天牙月を振りかざし、ラウラに突撃する。

ラウラは右腕のプラズマ手刀でそれを捌く。

鈴が双天牙月を二刀に分離させ、ラウラの横腹に叩き込もうとする。

しかし、ラウラは左腕にもプラズマ手刀を展開し、瞬時に鈴の腹部へと突く。

 

「がはっ!」

 

「鈴さん!」

 

セシリアが鈴の背後からライフルを撃つが、ラウラは鈴を蹴飛ばし、それを避けて上空へと飛んだ。

セシリアは4基のビットをラウラの元へと飛ばし、不規則にレーザーを放つ。

鈴も体勢を立て直し、ラウラを追いかける。

 

ラウラが機体から二つのワイヤーブレードを射出する。

それと同時にセシリアにレールガンを放った。

レールガンは牽制であったため、当然セシリアはそれを避けるが、死角からワイヤーブレードが脚部まで伸びてきており、セシリアの脚を締める。

危機を感じ取ったセシリアはライフルを連発しながらラウラに急接近し、近接攻撃をする。

するとラウラは手を前に出し、セシリアの動きを止めてしまった。

 

 

 

 

「セシリアの動きが止まった……⁉︎」

 

一夏がラウラの挙動を見て、驚く。

まるでセシリアを囲む時空が止まってしまったかのような光景だった。

驚く一夏を他所に、シャルルやマリアはラウラの機体の性能を冷静に分析していた。

 

「あれは、“A.I.C.” だね……」

 

「え、エーアイシー?」

 

聞き慣れない単語に、一夏が尋ね返す。

今度はマリアが答えた。

 

「“Active Inertia Canceller(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)”………“慣性停止能力” とも言われる。その名の通り、物体の慣性を止めることの出来る技だ」

 

 

 

 

ラウラの元へ鈴が突撃する。

セシリアのA.I.C.を解除したラウラは、鈴の双天牙月を躱す。

そしてセシリアの脚に繋げてあるワイヤーブレードを引っ張り、セシリアを振り回して鈴にぶつけた。

ぶつかった二人はその勢いのまま、地面に墜落してしまう。

 

砂塵が舞い上がる。

鈴は倒れながらも龍砲を構えた。

 

「甘いな。この状況で負担の大きい空間圧兵器を使うとは……」

 

見下した目をするラウラ。

そしてレールガンを起動させ、鈴に放つ。

しかしその横で、セシリアがミサイルをラウラに放った。

 

「──────っ!!」

 

驚きの表情を浮かべるのも束の間、ミサイルがラウラに直撃する。

セシリアと鈴は一時距離を取った。

 

「あの至近距離でミサイルだなんて……無茶するわね、あんた」

 

「苦情は後で。けど、これなら確実にダメージは与えたはずですわ」

 

爆発による黒々とした煙が晴れるのを待つ二人。

そして煙が晴れた頃、二人は目を見開いた。

そこには、全く傷を負っていないラウラが立っていたのだ。

 

「……終わりか?ならば、私の番だ」

 

二人はあまりの驚きに、一瞬の隙を見せてしまった。

ラウラはそれを見逃すことなく、ワイヤーブレードを高速で射出し、油断したセシリアと鈴の首を捉える。

そして二人を散々に引っ張り回し、プラズマ手刀による近接攻撃、そしてレールガンの連発を繰り返し、二人のシールドエネルギーを削っていく。

セシリアを地面に這わせ何度も蹴り飛ばし、鈴を一方的に締め上げ、殴る。その光景に戦いの敬意など存在せず、ただ相手を痛めつけ、嬲るだけの理不尽な暴力が支配していた。

セシリアと鈴のディスプレイに、ダメージを受け続けたことによる警告が表示される。そこには『生命維持警告域超過』と書かれていた。

 

 

 

 

「くそっ!ラウラ!止めろ!」

 

一夏が遠くにいるラウラに叫ぶ。

マリアはくもった表情をし、シャルルはラウラを非難する眼差しで見た。

 

「酷いよ!あれじゃ二人の命にまで関わる!」

 

しかし、ラウラは暴力を止めない。

寧ろ更にエスカレートしていく。

 

 

 

 

ラウラは、向こうで叫んでいる一夏を見る。

 

「ふっ……織斑一夏。やはり私の言った通りだな」

 

一夏を蔑み、馬鹿にする目で見る。

 

 

 

 

ラウラが此方を見ている。

馬鹿にしたような、不敵な笑みをこぼしている。

一夏はラウラを睨むが、ラウラは更に挑発した。

 

「─────貴様は哀れなほどに、弱い」

 

「……あいつ………!」

 

一夏が怒りを露わにする。

 

一方、マリアは異変を感じていた。

ラウラに蹴られ、殴られ続けていたセシリアの様子がおかしい。それも、以前に感じたことのある異変だった。

 

「くっ……このセシリア・オルコット………この屈辱を、貴方に味わわせてさしあげますわ!!」

 

傷だらけの彼女の蒼い機体の周りに、血のような赤い空気が漂い始める。

これは以前、自分が彼女と戦った時に彼女が覚醒した現象だったと思い出し、マリアは身を乗り出す。

 

「まずい!セシリア!─────」

 

「うおおおおおお!!」

 

マリアがラウラを止めようとしたその時、一夏が白式を展開して、アリーナ席のバリアを破る。

そして雪片弐型を展開し、セシリアたちを蹴り上げるラウラを追い払う。

 

「セシリア!鈴!大丈夫か⁉︎」

 

「い、一夏……あたしは大丈夫……けど、セシリアが……」

 

一夏はセシリアの側に寄り、身体を起こす。

しかし気を失っているのか、一夏に反応しない。

 

「セシリア!しっかりしろ!」

 

「ハッ、どいつもこいつも代表候補生と銘打っておきながら、所詮その程度のようだな」

 

ぐったりとしたセシリアの口端から、一筋の赤い色が流れる。

恐らく身体に耐え切れない程の虐げを浴びたのだろう。

彼女の血を見た一夏は、ラウラを鋭く睨む。

 

「てめぇ………!!」

 

「一夏!」

 

一夏の元へ、シャルルとマリアが駆けつける。

一夏はセシリアを抱え、マリアに話す。

 

「悪い、セシリアと鈴を頼めるか?」

 

「……一夏、お前まで暴れては、彼女のやっていることと一緒になるぞ」

 

「……ああ、分かってる。大丈夫だ」

 

一夏はセシリアをマリアに預け、飛び立つ。

シャルルもISを展開した。

 

「大丈夫、マリア。もしものことがあったら僕が一夏のストッパーになるから」

 

「ああ、分かった」

 

そう言うと、シャルルも一夏の後を追った。

マリアはセシリアと鈴を抱え、保健室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

窓に夕陽が差し、茜色の光が目に染みる。

先程保健室に来たマリアたちは、セシリアと鈴の見舞いに来ていた。

あの後、セシリアと鈴が搬送された一方で、一夏たちの所へは千冬が止めに入ったそうだ。

ラウラも千冬の言うことには素直に従ったらしく、戦いの続きは学年別トーナメントでつけるという形に終着した。

未だ目覚めないセシリアをとても心配気に見る一夏と、それを見守るシャルルとマリア。

鈴はさっきまで目覚めていて一緒に話していたのだが、身体に疲労が溜まっているのか、再び眠りに落ちてしまった。

セシリアの手をずっと握っている一夏に、マリアは声をかける。

 

「一夏……大丈夫だ。ここの保健医も、命に別状は無いと言っていた」

 

一夏の肩に、そっと手を添える。

一夏は少しだけ笑いを作り、マリアに感謝する。

 

「……ああ、ありがとう。けど、やっぱり心配だぜ……」

 

「一夏……」

 

一夏の不安な様子を見て、シャルルも気に病む。

 

すると、セシリアの瞼がゆっくりと開き始めた。

それに気付いた一夏は、彼女に声をかける。

 

「セシリア?セシリア⁉︎」

 

マリアとシャルルも、セシリアの側へ近寄った。

セシリアの目はまだ焦点が合っていないのか、虚空を見つめているといった感じだったが、一夏は声をかけ続ける。

 

「セシリア、俺が分かるか?」

 

一夏の握る手に、力がこもる。

セシリアの白く細い指が、ゆっくりと一夏の手を握り返す。

 

「い……ち、か……さん……?」

 

だんだんと、セシリアの焦点がハッキリとし、直ぐ目の前に一夏の顔があることを認識し始める。

自分の名を呼ばれた一夏の顔に、先程までの鬱々とした面影はすっかりと姿を消していた。

 

「ああ、セシリア!良かった!本当に良かった……」

 

「い、一夏さん……!」

 

意中の人物の顔が目と鼻の先にあるため、思わず顔を赤らめるセシリア。

恥ずかしくなり少しだけ目を逸らすと、後ろにマリアとシャルル、そして横には鈴が居た。

 

「マ、マリアさんにシャルルさんも」

 

「セシリア、具合はどうだ?」

 

「え、ええ。大丈夫ですわ」

 

「良かったぁ……セシリアさん、頑張ったね……」

 

「シ、シャルルさんもありがとうございます」

 

セシリアは横で眠ってる鈴を見た。

 

「あの、鈴さんは……」

 

セシリアの問いに、一夏が答えた。

 

「ああ、鈴はさっきまで起きてたんだけど、喋ってる内に寝ちまったんだ。そっとしておいてやろうぜ」

 

「そ、そうですの……。皆さん、ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません」

 

「ううん、全然いいよ!ね、マリア」

 

「ああ。それに、一夏がセシリアのことを一番気にかけていたよ」

 

「い、一夏さんが⁉︎」

 

顔を赤らめながら一夏を見ると、一夏もまた照れ臭いような顔をしていた。

そしてセシリアは、自分の手が一夏にしっかりと握られていることを知る。

 

「あ、あの……一夏さん……手、握っていてくださったんですわね」

 

「あ、ああ!すまん!嫌だったか⁉︎」

 

赤い顔をした一夏は、セシリアから手を離そうとしたが、セシリアは指を絡め、離そうとしなかった。

 

「い、いえ……もう少し、このままで……」

 

「あ、ああ……」

 

二人の間に、甘い沈黙が流れる。

セシリアは高鳴る胸を抑え、深呼吸をし、今しかないとばかりに一夏に話しかける。

 

「あ、あの……一夏さん?」

 

「な、なんだ?」

 

「その……宜しければ、わ、私の身体が治ったら……一緒にお出かけしませんか……?」

 

頰を真っ赤に染めて、一夏に伝える。

すると一夏も心臓の音が速くなり、恥ずかしげに頷く。

 

「あ、ああ。いいぜ!」

 

マリアとシャルルもその光景を見て、微笑んだ。

 

(僕たち、ちょっとお邪魔虫みたいだね)

 

(ふふっ、そうだな)

 

一夏たちを置いて、保健室を後にしようとした、その時。

廊下の方からドドドドと地響きのような音が聞こえてきた。

 

「な、なにこの音?」

 

その音はだんだんと大きくなり、保健室の扉が開くと、そこから大勢の女子生徒たちが走ってきた。

そして皆一様に一夏やシャルル、そしてマリアの元へと詰め寄る。

 

「な、なんなんだ⁉︎」

 

「どうしたの?みんな」

 

「「「「「これ!!!」」」」」

 

三人に何かの書類が突き出される。

見てみると、それは学年別トーナメントについての書類だった。一夏が手に取り、読み上げる。

 

「えーっと………『今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行う為、二人組での参加を必須とする。尚、ペアが出来なかった者は、抽選により選ばれた者同士で組むものとする。締切は────』」

 

「とにかく!私と組も♪織斑くん」

 

「私と組もう!デュノアくん!」

 

「マ、マリアさん!私と一緒に組まない……?」

 

「な、なんですのこの状況は……」

 

呆気に取られるセシリア。

一方、マリアはシャルルの顔をチラリと見た。

するとシャルルも困惑していたのか、マリアの方を見ていた。一体どうすれば良いのか、という目をしていた。

 

咄嗟に、マリアは嘘を吐く。

 

「あー……皆、すまない。実はもうここにいる私たちは互いにペアで組んでるんだ」

 

そうマリアが言うと、皆は素直に帰っていった。

 

「なんだ〜、じゃあ仕方ないね〜」

 

「男同士ってのも()になるしねぇ」

 

誰が誰とペアを組むとは何も言っていないのだが、どうやら彼女たちの中で納得してくれたらしい。

 

「あ、あの、一夏さんは誰と組むんですの……?」

 

セシリアが一夏に問いかけた。

そしてその問いにマリアが先に答える。

 

「私がシャルルと組んで、セシリアは一夏と組むと思っていたが?」

 

「「ええ⁉︎」」

 

「マリア……」

 

一夏とセシリアが驚き、シャルルもマリアの言ったことに驚く。

また顔を赤くしている一夏たちをマリアが揶揄う。

 

「なんだ、二人とも組まないのか?てっきり私は──────」

 

「く、組みますわ!組みますとも!ね!一夏さん」

 

「あ、ああ!」

 

二人のたどたどしさに、なんだか笑ってしまうマリア。

しかしそこへ、保健室に見舞いにやって来た真耶が登場した。

 

「ダメですよ、セシリアさん」

 

真耶がセシリアに指摘をする。

その表情は少し厳しいものだった。

 

「や、山田先生」

 

「セシリアさんのIS、ダメージレベルがCを超えています。トーナメントには参加出来ません」

 

「そんな、納得出来ませんわ!」

 

「ダメと言ったらダメです!当分は修復に専念しないと、後々重大な欠陥が生じますよ」

 

「そ、それは……」

 

真耶の厳しい正論に押し黙ってしまうセシリア。

そして真耶は、マリアにも指摘する。

 

「それにマリアさんも、ISがまだ修復出来ていないので出場出来ません」

 

「………そういえばそうだったな」

 

以前にセシリアと戦った時以来、自分のISが故障したままであったことを思い出す。

正直自分としては(ISスーツとしての役割も果たしている)狩装束があるので大丈夫なのだが、そこは学園の規則に従うべきだろう。

 

しかしシャルルのペアは一体どうなる?

 

マリアが考え込んでいると、シャルルが口を開いた。

 

「ねぇ、一夏。僕と組まない?」

 

「え、いいのか?」

 

「うん。よく一緒に特訓してたからお互いに特徴を把握してると思うし、それに同じ男子同士だからね」

 

シャルルは微笑んで一夏に言う。

一夏は少しだけセシリアの方を見て、シャルルに頷く。

 

「分かった!よろしく頼む!」

 

二人の様子を見て、セシリアは例の噂を思い出した。

 

(優勝すれば一夏さんと付き合える……けれど私は出られない。となれば………)

 

セシリアは決心したように、一夏に言った。

 

「一夏さん!シャルルさん!絶対に、何があっても優勝してください!」

 

「お、おう!任せとけ!」

 

「ありがとう。セシリアさんの気持ちに応えられるよう、頑張るよ」

 

セシリアの勢いに少し驚いた二人だったが、素直に好意を受け取った。

 

「美しい友情ですね♪」

 

真耶が笑顔で言った。

それに対し、マリアがまた揶揄う。

 

「友情の先の話かもしれないぞ」

 

「マ、マリアさん!余計なことは言わなくてよろしいですわ!」

 

「ふふふ」

 

「じゃあ、僕とマリアは帰るよ。一夏は?」

 

「あ、俺はもう少しだけ……」

 

「一夏さん……」

 

一夏が恥ずかしげにそう言うと、セシリアも嬉しそうな顔をした。しかし、真耶が申し訳なさそうな顔をしながら、一夏に言った。

 

「織斑くん……申し訳ないですが、セシリアさんの身体はまだ睡眠を取って安静にしておかなければなりません。保健医の方もそう仰ってますので……」

 

「ああー……そうですか、分かりました。悪いなセシリア、ゆっくり休んでくれ」

 

「一夏さん、ありがとうございます」

 

セシリアは優しく微笑み、一夏に礼を言った。

 

「では、帰りましょうか」

 

真耶がそう言い、一夏たちを連れて保健室を出て行こうとする。

扉を開け、外に出ようとした時、セシリアから声がかかった。

 

「あの、マリアさん」

 

「どうした?」

 

「その、少しお話が……」

 

どうやら、二人だけで話したい内容だそうだ。

 

「すまない、直ぐに行くから、先に帰っていてくれ」

 

マリアがシャルルたちに言うと、シャルルや一夏も了承し、先を行った。

マリアは扉を静かに閉め、セシリアの横に座った。

 

 

 

 

 

 

帰り道で合流した私とシャルル、そして一夏は共に寮に帰り、自室へと入った。

荷物を置いていると、シャルルが口を開いた。

 

「あ、あのね、マリア……」

 

「どうした?」

 

不思議と、シャルルの頬はほんのりと赤く染まっている。

 

「そ、その……さっきはありがとう」

 

「……?話が見えないが……」

 

「ほ、ほら!トーナメントのペアを一緒に組もうとしてくれたじゃない!僕、すっごく嬉しかったんだぁ……」

 

シャルルは照れた笑顔で答える。

 

「ああ、あれか。結果的には叶わなくなってしまったがな。すまない、無責任なことを言ってしまって」

 

「ううん!そんなことないよ!」

 

「君が女性だと知られてしまっては、色々大変だろうからな。まぁ……一夏は大丈夫だろう。着替えもここでしていけばいいだけの話だ」

 

「……優しいね、マリアは…………」

 

気のせいだろうか、シャルルの送る目線に、少し微熱が感じられる。その微熱は、セシリアたちが一夏に向けるものと、何処か同じ匂いを纏わせていた。

 

「大したことはしていない。さぁ、先にシャワーを浴びておいで」

 

私ははぐらかし、シャルルにそう促した。

私に礼を言った彼女は、浴室へと入っていき、扉を閉める。

 

(まさかな………)

 

その日、それ以上私は何も考えないようにした。

 

 

 

 

 

 

学年別トーナメント・当日。

一夏はシャルルと共に、アリーナの更衣室で待機している。二人はモニターの映像を観ていた。

映し出されたのはアリーナの上部観客席で、各国・各企業の高い地位にいるであろう人間が座っていた。

 

「へぇ……なんかすごいことになってるな」

 

「三年生にはスカウト、二年生には一年間の成果の確認。一年生は関係ないと思うけど、それでも上位入賞者にはチェックが入るんじゃないかな」

 

態々(わざわざ)ご苦労なことだな」

 

シャルルが一夏を見ると、一夏は浮かない顔をしていた。

 

「……一夏はボーデヴィッヒさんとの戦いが気になるみたいだね」

 

「……まぁな」

 

しばらく映像を観ていると、突然画面が切り替わった。

そこには『トーナメント表・Aブロック』と書かれていた。

 

「出たよ!」

 

「ああ、一回戦は………なにっ⁉︎」

 

「これは……」

 

トーナメント表の組み合わせに、暫くの間、二人は驚きの色を隠せなかった。

 

 

 

 

 

 

「これは……」

 

アリーナ・観客席。

マリアは静寐と一緒に座っており、たった今観客席のモニターにもトーナメント表が開示されたところだった。

 

「なんだか、すごい組み合わせだね……」

 

「……そうだな」

 

静寐も一体どうなるのかという顔をしていた。

トーナメント表によれば、一回戦から一夏とラウラは戦うことになっていた。

ラウラはA.I.C.という難解な技を使いこなす。

それが無くとも、彼女自身の戦闘能力は極めて高い。

 

(さぁ一夏、どう出る……?)

 

試合開始のその時が来るまで、マリアと静寐は静かに待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

アリーナ・女子更衣室。

ISスーツに着替え終わった箒は、モニターに映し出されたトーナメント表を観て険しい顔をした。

 

(なんということだ……)

 

そこには、自分のペアに『ラウラ・ボーデヴィッヒ』という名前が記載されていた。

箒は、少し離れた所にいる当の本人を横目で見る。

 

以前、私も偶然セシリアたちと彼女が戦っているところに居合わせていた。

彼女の容赦無い暴力に、私は彼女への憤りと、自分の力の無さへの悔しさを噛み締めていた。

私が何も出来ないでいる一方で、一夏やシャルルがセシリアたちをラウラから守ったのだ。

 

 

私には、見ていることしか出来なかった。

 

 

私にも力が─────()()()があれば、自分もセシリアたちを守れたかもしれない……。

 

 

冷酷で、ただ力にしか重きを置いていない彼女を見ていると、私は()()()()()を見ているようで嫌だった。

 

 

だから、この組み合わせは私にとって──────。

 

 

最悪だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




「それで、話とは?」

「今度、学園に連休があるのは覚えておりまして?」

「ああ、確か一週間程の休みのことか。日本でいうG.W.(ゴールデン・ウィーク)がIS学園では休みでない代わりに、その後に連休が入れられるとかなんとか」

「はい。そこで、以前の私とマリアさんの戦いや、今回のことも含め考えたのですが……」

「ああ」

「私と一緒に、イギリスへ行きましょう」

「……イギリスへ?どういうことだ?」

「ええ、私たちの専用機のことです」

「専用機?」

「私の蒼い雫(ブルー・ティアーズ)とマリアさんの緋い雫(レッド・ティアーズ)、損傷のレベルが酷く、直ぐに修復する見込みはありません。それにマリアさんの専用機は、その謎めいた仕組みのため、学園の整備課でも手に負えないと聞きましたわ」

「それでイギリスに?」

「他にも理由はあります。私とマリアさんが戦った時、私の機体に異常があったでしょう?」

「……そうだな。君の機体の周りに血のような赤い大気が漂い出して、君の機体は人の血を吸収し、傷を修復した」

「……今思い出しても、恐ろしい能力ですわ。人間の血を取り入れるなんて」

「………」

「…………話が前後しますが、私、ボーデヴィッヒさんにダメージを与え続けられた後の記憶が定かじゃありませんの。貴女に聞きたいのですが、私はあの後どうなりましたか……?」

「………君はあの時のように、再び覚醒しようとしていた。そして、気を失った」

「………そうですか。やはり──────」

「………」

「その原因を解明してもらうためにも、イギリスへ行く必要があります。それに──────」

「……それに?」

「マリアさん、貴女は記憶喪失だとイギリスの研究所から以前伺いましたが、貴女には何処か()()()()()()()()が感じられます」

「………」

「もしかしたら貴女はイギリス人で、イギリスへ行けば、マリアさんも何か思い出すかもしれません」

「……何故そう思う?」

「────何故でしょうね。私の()が、そう訴えてますわ」

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