ピット内でISを展開した一夏とシャルルは、目の前のゲートが開くその時を待っていた。
互いに引き締まった表情をし、シャルルは横に立つ一夏に声をかける。
「一夏……あまり感情的にならないでね。ラウラさんは恐らく、一年生の中では現時点でトップクラスの操縦者だと思う」
「ああ、分かってる」
間も無くして、スピーカーからアナウンスが流れた。
『織斑・デュノアペア、ゲートを開きます』
鈍い重厚音をピット全体に響かせ、ゲートはゆっくりと開いていく。
その先から外の光が差し込み、ピット内の滑走路上に等間隔に設置された電光が光る。
「いくか、シャルル!」
「うん!」
ゲートを飛び出し、二人はアリーナの上空へと向かった。
◇
互いに睨み合う両者。
憎悪を含ませた目で一夏を見るラウラ、そしてその横にいる箒。箒の目は「この組み合わせは不本意だ」と言いたげのように見えた。
当然だろう、以前からラウラの言動は目に余るものだったのだから。
「待つ手間が省けたな。一回戦で貴様と戦うことになるとは」
「そりゃどうも」
一夏も適当に受け流す。
そろそろ試合が開始する頃だ。
少しの間、両チームに沈黙が流れ、観客席も固唾を飲む。
そして、試合開始の合図がアリーナ全体に響く。
「「叩きのめす!!」」
一夏はスラスターを全開し、ラウラの方へと飛ぶ。
一方シャルルは箒の相手をした。
「ごめんね!相手が一夏じゃなくて!」
「な!ば、馬鹿にするな!」
シャルルが射撃武装の一つであるアサルトカノンを撃ちながらじりじりと箒との距離を詰める。
箒はまだ中距離型射撃との戦いに慣れていないためか、シャルルから離れながら近接ブレードで防御をする。
一夏は雪片弐型を構え、ラウラに突進する。
そして一夏が振り下ろすと、ラウラは手を前に出し雪片弐型の動きを止めた。問題のアビリティ・
「開幕直後の先制攻撃か……分かりやすい奴だな」
「くっ……」
どれだけ力を込めても、まるで糊でくっつけられたように雪片弐型は動かない。
その隙にラウラはレールガンを一夏に向ける。
しかしその時、一夏の後ろからシャルルがアサルトカノンをラウラに撃った。
ラウラは直ぐさまA.I.C.を解除し、二人から距離を取るが、シャルルはそのままラウラを追いかける。
解放された一夏は、今度は迫り来る箒に身を構えながら、ラウラのA.I.C.について考える。
(どうすれば切り抜けられる……?何か弱点があるはずだ。でもどうやって──────)
箒が上から近接ブレードを斬り下ろす。
「くっ……!」
一夏はそれを防ぎ、振り払おうとするが、箒の力は強く、なかなか離すことができなかった。
「一夏!」
鍔迫り合いをしていると、横から弾丸が箒に飛んできた。撃ったのはシャルルで、箒は一旦距離を取った。
そして箒が再び一夏に迫ろうとすると、箒の打鉄にラウラのワイヤーブレードが絡まり、箒が遠くの方へと振り飛ばされた。
「ぐああっ!!」
「………」
ラウラは何事もなかったかのように戦闘を続けた。
一夏とシャルルは仲間を省みない彼女の行動に眉間を顰める。
(……箒さんを助けたわけじゃないんだね)
(チームメイトさえも邪魔、ってわけか……)
箒のシールドエネルギーは、開幕直後から受け続けてきたシャルルからの射撃ダメージや、ラウラからの予想外の行動のせいで、残り少ない状況となっていた。
それを察したシャルルは、今ラウラのレールガンを避け続けている一夏にプライベートチャネルを開く。
「一夏!先に箒を倒すよ!僕が箒に仕掛けるから、一夏はとどめを決めて!」
「分かった!」
プライベートチャネルを切り、向かってくる箒にアサルトカノンを構える。
「おおおおお!!」
箒は声を上げながら、銃弾を受けながらもシャルルに突進する。
目と鼻の先にまで来た箒は素早い剣戟をシャルルに浴びせた。
シャルルはなんとかそれを防ぎながら、タイミングを見計らう。
箒がブレードを下から上に斬り上げた。
シャルルは身体全体を最小限の範囲で逸らし、同時にアサルトカノンを横にして両端を持つ。
そして驚くべきことに、箒の近接ブレードの先端をアサルトカノンの引き金に引っ掛けた。
「何っ⁉︎」
シャルルの予想外の防御に、箒は自身の目を疑った。
一瞬の油断を見せた箒を見逃さず、シャルルはそのままアサルトカノンを思い切り下に引っ張った。
すると箒の近接ブレードは引っ張られた反動で箒の手を弾き、シャルルの後ろの宙を飛んだ。
「一夏!」
シャルルが一夏の名を呼ぶと同時に、シャルルの後ろからタイミング良く一夏が飛んでくる。ラウラと戦いながらも、しっかりとシャルルたちの様子も見ていたようだ。
一夏は宙を飛ぶ近接ブレードを手に取り、そのまま一直線に投げ返す。
シャルルは飛んできた近接ブレードを避け、そのまま一夏の元へ。シャルルが避けたため、近接ブレードは箒の機体にぶつかり、残り少ないシールドエネルギーは終に0になった。
「くっ……ここまでか」
もう戦えないことを悟った箒は、心底悔しそうに肩を落とした。
◇
「流石だな、シャルル」
「一夏もね」
箒を倒し合流した二人。
残るはラウラ・ボーデヴィッヒという状況になった。
「それじゃあ俺は……これで決める!」
一夏は、白式の最大攻撃である零落白夜を展開する。
「シャルル!援護してくれ!」
「了解!」
シャルルはアサルトカノンを連射しながら、ラウラの元へ飛んでいく。
ラウラはその弾丸をA.I.C.で防ぎ、レールガンを構えた。
しかしレールガンをシャルルに放とうとした寸前、横から零落白夜を持った一夏が来たことに気付き、止む無く撤退する。
「くっ……邪魔を……!」
一方、A.I.C.を解除し撤退した彼女を見て、一夏はあることに勘付く。
(……もしかして………)
一夏はラウラを追いかけ、零落白夜を振る。
再びA.I.C.で止めたラウラはニヤリと笑う。
「甘いな!そんな攻撃では──────」
「─────忘れたのか?俺たちは二人で戦ってるんだぜ!」
「なっ…!」
一夏の背後からアサルトカノンを構えたシャルルが現れ、ラウラに銃弾を浴びせる。
ラウラはA.I.C.で止めることはせず、ただ銃弾から逃げるように身体を引いた。
「やっぱり、思った通りだ!」
一夏は全てが分かったという表情をした。
その目は勝機の希望に満ちていた。
◇
「織斑くんたち、凄いコンビネーションだね!」
キラキラとした目で、静寐は言った。
「恐らく、A.I.C.の弱点に気付いたんだろう」
マリアは一夏たちの戦い振りを見て、そう答える。
「どういうこと?」と静寐は尋ねた。
「彼女のA.I.C.は、敵の物理攻撃の動きを静止できることが利点だ。しかしそれを持続させるためには、その部分に意識を集中しなければならない」
「つまり、別の方向から違う攻撃をされると、意識が分散して対処出来なくなるってこと?」
「そういうことだろうな」
なるほど、といった顔をして静寐は再び試合に目を向けた。
この調子なら、二人がラウラに勝てるのも十分成し遂げられることだろう。
マリアは静かに、試合の行く末を見続けた。
◇
「うおおおお!!」
やがて一夏は最後の勝負に出た。
自分たちの連携に追いやられたラウラに迫り、零落白夜を振り下ろす。
しかしラウラの眼前にまで迫った瞬間、白式のシールドエネルギーは突然底を尽きた。
それを見て、ラウラは一転して勝ち誇った表情をする。
「シールドエネルギーを限界まで消耗してしまっては、もう戦えまい!」
「ぐああっ!!」
ラウラが焦る一夏を地面に吹き飛ばす。
そしてそのまま一夏を仕留めようと一直線に下降するが、シャルルが一夏の前に立ちはだかり、ラウラを100m程先まで弾き返した。
「くっ……貴様──────」
反撃をしようと立ち上がると、シャルルが銃弾を放ちながら途轍もない速さで飛んで来た。
「
「今初めて使ったからね!」
「この戦いで覚えたというのか……!」
ラウラは苦しまぎれにA.I.C.を発動する。
シャルルの攻撃は防がれ、反撃をしようとしたその時、別方向から突然攻撃を受けた。
遠くから銃弾を放った一夏だった。一夏の手にはシャルルの射撃武器であるアサルトライフルが握られていた。
ラウラは屈辱の余り激昂する。
「貴様……!この死に損ないめ!!──────」
「どこを見てるの?」
「なっ!」
一夏に気を取られたあまり、シャルルに再び攻めの攻撃を許してしまう。
「この距離なら外さない!」
「っ!
シャルルは左腕のシールドからパイルバンカー(通称:
「がはっ!!」
「はあああああああ!!」
シャルルはシールド・ピアースを振りかざしながら高速でラウラに突進し、打撃を加えていく。
満身創痍のラウラは抵抗することも出来ず、ただシャルルからシールドエネルギーを削り取られていく一方だった。
ダメージを与えられ続けていく中、ラウラの視界はどんどんと輪郭のはっきりとしないものになっていった。
ISのハイパーセンサーがあるにも関わらず、自分を殴るシャルルの顔も、遠くにいる憎き一夏の姿も曖昧になってしまっている。
暗くなっていく世界と意識。
溺れまいと必死に手を伸ばして自我を保とうとするが、底の無い闇にラウラは逆らえなかった。
私は、─────負けられない。
─────負けるわけにはいかない!
私の意識は、とうとう闇の中に溺れてしまった。