Blood-Starved Beast - Bloodborne OST
「ああああああああああああ!!!!」
突如、ラウラが悶え叫んだ。
彼女の機体からは赤い色をした稲妻が走り、周囲を赤く染め上げた。
一夏は驚き、彼女の身体から放たれる強い衝撃波に、反射的に腕で顔を隠す。
「……血………?」
あの赤い稲妻が一夏の方へ飛び散ったのだろうか、一夏の腕には赤と
「一夏!」
シャルルの声に、ハッとする。
ラウラを見ると、彼女の機体はまるで粘土のように形を変え、何かに成ろうとしていた。
その深い黒の粘土はラウラを飲み込んでいき、ぐにゃぐにゃと動く。
『全トーナメントを中止!状況をレベルDと認定!来賓、生徒は直ぐに避難すること!』
管制室からアリーナ中に指示が流れる。
観客席からは悲鳴が上がり、防御シャッターが閉まり出していった。
アリーナ中が混乱に包まれている中、一夏は変わり果てたラウラの機体に唖然としていた。
彼女の姿は、一夏のよく知る人物と同じ姿をしていたからだ。
◇
周りの生徒たちが逃げ惑う中、私は一人冷静でいた。
そして、今ラウラに起きている事態がただ事ではないことも感じていた。
私は非常口とは別に、ピットへと繋がる道を目指す。
走り出そうとしたその時、手を掴まれた。
「マリアさん!そっちは違うよ!」
静寐だった。
私と共にこの場から逃げようとしてくれている。
私はこれから彼女の優しさを裏切ってしまうことに罪悪感を感じながらも、彼女に向き直る。
「静寐、他の皆と逃げてくれ」
「そ、そんな……!マリアさんも逃げようよ!」
「私は行かなければならない。直に此処も危なくなる」
「でも……一人で危険なことはしないって、約束したじゃない……」
「大丈夫だ。シャルルも一夏もいる。それにもうすぐ教師部隊も出動するはずだ」
静寐に心配気な表情をさせる自分が憎いが、今はそうも言っていられない。
私は静寐の手を握り返し、非常口へと急ぐ。
「非常口まで私もついていこう。さぁ、行くぞ」
静寐と共に走って行く最中、私は以前にも味わった感覚を受けていた。
以前に謎のISが襲撃をしていたときも、そのISは私に殺気を向けていた。
そして今も、ラウラの機体からは同じ視線を向けられている。
何れにせよ、一刻も早く行かなければならない。
静寐を避難先へと連れて行った後、涙目の静寐をなんとか説得し、急いで一夏たちの元へと向かった。
◇
「千冬姉……?」
自分にとって、ただ一人の姉を模倣したラウラの姿に、一夏は憤りを覚える。
「あいつ……千冬姉の真似しやがって!」
「っ⁉︎待って一夏!!」
シャルルの忠告を聞かずに、一夏は姉の姿をしたラウラに殴りかかった。
一夏が拳を振りかざすと、突然ラウラの機体は再び粘土のように溶け、一夏の拳を包んだ。
その瞬間、一夏に
(……!?)
一夏は咄嗟に自分の口を手で覆う。
拳を包まれた瞬間、途轍もない吐き気が込み上げた。
血管の中を流れる血が騒ぎ、全身の毛が逆立ち、汗が噴き出す。
今までで一度も経験したことのないような気持ち悪さに、一夏は足をガクガクとさせた。
(う……動けねぇ………)
あまりの不快感に背中を丸めてしまった一夏に、黒の機体は斬りかかった。かつて千冬が使っていて、今は一夏が使っている武器、雪片弐型で。
「うああっっ!!」
「一夏!」
強力で重いその攻撃は一夏を遠くまで弾き飛ばし、白式は強制解除された。
一夏は斬られた腕を抑えていた。
傷口からは血が溢れている。
シャルルは一夏の元へと駆け寄り、黒の機体から一夏を隠すように立った。
「一夏、大丈夫⁉︎」
「ああ……傷はそんなに深くはねぇ……」
一夏は黒の機体を睨む。
そして立ち上がり、再び刃向かおうとしたその時。
後ろから一夏を呼ぶ声がした。
「待て、一夏!」
狩装束を纏ったマリアだった。
落葉を持った彼女は一夏たちの元へと駆け寄る。
マリアの後ろからは箒も駆けつけていた。
「マリア!どうして来たの⁉︎」
シャルルが驚いた顔をして尋ねる。
「二人を残しては心配だからな」
「何言ってるんだよ!マリアも皆と逃げないと──────」
「いいや、そうも言っていられない」
マリアは一夏の言葉を遮り、ラウラの方を向く。
「見ろ」
マリアに言われ、一同はラウラの方へと視線を戻す。
そして、一夏とシャルル、箒はラウラを見て目を見開いた。
先程まで千冬の姿をしていた黒の機体は、再び形を変え続けていた。
血飛沫を散らせながら変わっていくその姿。
手の先の爪は割れ、メキメキと伸びていく。
口は牙が剥き出しになり、そこから更に血がドクドクと流れる。
全身に荒々しく傷口が広がる。腕と足が異常に細長く伸び、地を這うような体勢になった。
「ラ、ラウラさんが……」
「一体……何が起こってるんだ……?」
彼女の変わり果てた姿に、シャルルと箒は
まるで《獣》の動きをする彼女に、マリアは眉を顰める。
「どうやら、私を狙っているようだな」
「な、何で⁉︎」
「直感だ。彼女から私へと殺気を感じる。原因は分からないが……私が仮にここから避難していたとしても、いずれは殺しに来ていたかもしれない」
事実、彼女の顔はマリアの方へと向いており、今にも襲いかかろうと牙を見せていた。
「彼女から」と言ったが、あれはラウラとしての殺気ではない。
あれは、獣としての本能が出している殺気だった。
しかし、彼女の姿を見た一夏は、益々怒りを露わにする。
「あの野郎!!」
「待て!一夏!」
箒が一夏を抑える。
「離せ!離せよ!」
「落ち着け!」
「あいつ、ふざけやがって!まるで千冬姉を化物みたいに……!ぶっ飛ばしてやる‼︎」
「いい加減にしろ!」
箒が一夏の頬を強く叩いた。
一夏は叩かれたことで、少し落ち着きを見せた。
「一体どうしたというのだ……?」
箒は心配気に一夏に問う。
一夏は獣の姿と同化してしまった雪片弐型を見て、呟く。
「あれは、千冬姉のものなんだ。千冬姉だけの………」
「その身体でどうするつもりだ!お前のISにはもうエネルギーが残っていないんだぞ!」
宥める箒に、意地でもラウラに刃向かおうとする一夏。
「─────シャルル……頼めるか?」
そんな一夏を見て、マリアはそう言った。
マリアの目を見て彼女が何を言おうとしているのかを察したシャルルは、機体からコードのようなものを引っ張り、白式の待機状態のガントレットに接続した。
「エネルギーが無いなら、他から持ってくればいいんだよ。僕のリヴァイヴなら、コア・バイパスで一夏にシールドエネルギーを分け与えることができる」
シャルルはそのままエネルギーを送り込む。
一夏の白式から、エネルギー補填の表示が出現した。
やがて補填し終わったシャルルは、白式からコードを抜き、一夏に微笑む。
「約束して。絶対に死なないって」
「ああ……約束する。ありがとう、シャルル」
「ううん、気にしないで」
シャルルはマリアの方を向く。
「……マリアも、無事でいてね」
「ああ。ありがとう」
マリアは一夏に手を差し伸べ、立たせた。
一夏は雪片弐型を部分展開させ、気合いを入れる。
「シャルル、箒を避難させてくれ。私は一夏と一緒に彼女を助ける」
「分かった!」
シャルルは箒を抱え、ピットへと向かった。
不安な顔を浮かべる箒に、一夏は大丈夫だと言って、箒たちを見送る。
「さて、一夏。見て分かると思うが、あまり時間が無い」
「……ああ」
「このまま時間が過ぎれば、彼女は本当に獣になってしまう。彼女が飲み込まれる前に終わらせるぞ」
「了解!」
獣の姿をした彼女はアリーナ中に咆哮を響かせ、血飛沫を散らせながら二人の元へと走り出した。
◇
獣が爪を立て、マリアに急接近する。
背中に落葉を掛け、切りかかってくる爪を防いだマリアは、そのままくるりと身体ごと獣の腕の上で回り、横腹に打撃を与える。
本当は落葉で突き刺すべきかもしれないが、獣の中にはまだ彼女がいるため、下手に突くことは出来ない。
作戦はこうだ。
マリアが暴走した獣の気を引き、攻撃をして怯ませ、動きを止める。
怯ませた隙に、一夏の零落白夜で獣の皮を斬る。
恐らく皮を剥げば、ラウラが出てくるかもしれない。
しかし一夏の白式も、シャルルからエネルギーをもらったとはいえ、あまり残量は無い。
零落白夜が使えるのも一度だけだろう。
チャンスは一度。失敗は許されない。
獣が腕で薙ぎ払う。
マリアは屈み、ジャンプして獣の顔を蹴る。
しかし獣はビクともせず、口を開き、マリアの身体に牙を剥く。
マリアはその口を落葉で防ぎ、自分の元へと牙が来ないように必死に抑えつける。
(なんというパワーだ……!)
じりじりと、マリアの身体に牙が近づく。
一旦引こうとしたその時、獣の口から大量の血が吐き出された。
突然のことに、マリアは目を閉じてしまう。
マリアの隙を見逃さなかった獣は、彼女を地面に突き落とした。
「がはっ!!」
獣の血に塗れたマリアは、獣の足元に突き刺さっていた落葉を取ろうと起き上がる。
しかし獣は恐ろしい速さで手を振り、マリアの身体を掴んだ。
(くっ……しまった……)
獣は手を強く握り、マリアの身体はどんどん締めつけられていく。
マリアの肺から空気が抜け出し、呼吸が出来ず、身体に力が入らない。
獣は口を開き、血に塗れた牙を見せる。
もう、ここまでかもしれない。
しかし、マリアはまだ諦めていなかった。
獣がマリアに気を取られている。
これは、マリアにとっても望んでいたことだ。
マリアは肺に残された僅かな空気を吐き、叫んだ。
「一夏ぁぁあああああああ!!」
「うおおおおおおおおおお!!」
マリアが叫び始めたと同時に、一夏が獣の元に走り出す。
獣の懐まで近づいた一夏は、空かさず零落白夜を全力で振り下ろす。
そして斬られた獣はマリアを離し、後ろへと蹌踉めく。
獣の皮は縦に真っ二つに裂け、大量の赤と灰色が濁った血が噴き出した。
そして斬られた獣の中からは、全身を獣の血に染め上げたラウラが出てきた。
彼女が姿を見せた時、ほんの少しだけ目を開いた。
一夏は彼女を腕に抱き、彼女の顔を見る。
血の色で溢れた中で、彼女の金色の目は一際映えている──────と、一夏は思った。