STRAIGHT JET - 栗林みな実
七月。
イギリスでの出来事、そしてシャルロットとの和解から一ヶ月程が経った頃。
IS学園の一年生にとって待望の行事がついにやってきた。
そう、臨海学校である。
IS学園では毎年この夏の時期に一年生を臨海学校に連れて行く行事があり、そこでは広々としたプライベート・ビーチでISの実習が行われる。
また臨海学校の主旨は実習だけではなく、自由時間も実習と同じくらい重要視されている。
IS学園は様々な人種背景を持った生徒たちで構成されており、文化が違う分、常に会話に新鮮味がある反面、意見が食い違うなどの衝突も多い。
学園としても生徒たちにストレスはなるべく感じさせたくないため、臨海学校という機会を生徒たちの休養にも十分に活用させているのだ。
2泊3日の臨海学校に、生徒たちは皆期待に胸を膨らませていた。今は道中のバス内であり、一行を乗せたバスは深い木々の山道を上っていた。
マリアは最後列の左窓側に座っており、右隣にはシャルロット、またその右隣には布仏本音と鷹月静寐が座っていた。
マリアは先程まで起きていたのだが、今はすーすーと静かに寝息を立てている。
「マリリン、ぐっすりだねぇ〜」
のんびりとした声で本音が言った。
「なんかね、昨夜はあんまり寝れなかったみたいだよ」
シャルロットの返答に、横の静寐が少し驚いた顔をした。
「そうなの?体調でも悪かったのかな?」
「うーん、珍しくソワソワしてたみたいだからそのせいかも」
「マリアさんでも緊張したりするんだね。ふふ、ちょっと意外」
マリアにはいつも落ち着いているイメージがある静寐にとっては、少し新鮮な一面だった。三人は穏やかなマリアの寝顔に、優しく微笑んでいる。
一方、彼女たちの一つ前の列には、一夏とラウラが隣同士、セシリアと箒が隣同士に座っていた。
出発前、一夏の隣にラウラが何事もないように座り、セシリアと箒が大抗議をしたのだが、千冬に「どの席でもいいからさっさと座れ。さもないと海まで歩かせるぞ」と睨みを利かされ、渋々諦めたのだ。
自分が一夏の隣にいるのは当然だと言わんばかりの顔を見せるラウラ。今は一夏の隣でちゅーちゅーとジュースに挿さったジュースを飲んでいた。
そしてストローから口を離すと、
「嫁よ。ジュースはいるか?」
所謂『間接キス』というものを意味しており、一夏は戸惑いを隠せない。
「ちょっとラウラさん⁉︎」
「おい!何をしている⁉︎」
「見て分からないか?嫁との営みだ」
「い、営みですって⁉︎」
「は、ははは……」
箒とセシリアが騒ぎ立てる中、一夏は困惑した笑いを見せていた。ラウラは相変わらず涼しい顔をしている。
「ほれ、嫁よ。飲むといい」
「はは……俺は遠慮しとくよ。気持ちだけありがとな」
「む、そうか」
一夏は笑いながら、ラウラの頭を撫でる。まるで妹を優しく諭すかのように。ラウラもそれで満足そうな顔を見せた。
「もう!一夏さんはラウラさんに甘過ぎますわ!」
「そうだぞ一夏!」
「まぁまぁ二人とも。ラウラー、あんまり一気に飲み過ぎるとお手洗いが近くなるよー」
「うむ、了解だシャルロット」
「でゅっちー、なんだかラウラウのお母さんみたいだね〜」
「そ、そうかな?」
そんな会話をしている内に、バスはどんどんと山の奥地へと向かって行く。本当にこの先に海があるのかと思えるくらい、深い森だ。
暫くシャルロットたちが会話をしていると、不意に横から聴こえてくるはずの小さな寝息が止んだ。
「シャルロット」
「わ!マ、マリア。急に起きるからビックリしたよ」
「すまない。何故かぱっちりと目が覚めてな」
先程まで寝ていたとは思えないくらい目の覚めようだった。マリアは少しだけ伸びをする。
「私はどのくらい眠っていた?」
「うーん、30分くらいかな?」
マリアの問いに、静寐が答える。
「マリリンの寝顔は女神みたいだね〜」
「なんだそれは」
本音ののほほんとした例えに、マリアは笑って流した。
「おーマリア、起きたんだな」
マリアの斜め前に座る一夏が、マリアの方を向く。
「ああ」
「もうすぐで海が見えるらしいぜ」
「こんなに深い山なのにな」
「遠く離れた奥地にこそ、絶景があるっていうぜ」
「期待しておこう」
そうこうしているうちに、十分程が経った。
真っ暗なトンネルを走っており、等間隔にオレンジの灯りが窓の外を横切っていく。
バス内の天井に付いているスピーカーから、マイクの電源が入った雑音が流れた後、真耶の声が聴こえてきた。
『みなさーん!このトンネルを抜ければ海が見えますよー!』
真耶の呼びかけに、車内の雰囲気は一層明るいものとなった。
ワクワクと緊張が入り混じったような空気。今か今かと、海の景色を皆待ちわびている。
そして、バスの前方から太陽の光が一気に拡散していく。トンネルの終点だ。
眩しさに目を瞑り、次に視界に入ってきたのは、キラキラと輝いた波、どこまでも続く大海原だった。
「わぁ!」
「大きな海だよ〜〜」
静寐と本音が身を乗り出して大喜びする。
シャルロットも同じ気持ちだったらしく、とても感動しているようだ。
「すごい綺麗だね、マリア!」
「ああ。驚いたな」
国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった────。
マリアは、いつか学園の図書館で読んだ本の冒頭を思い出した。ある男性が温泉宿に向かう列車の中、窓ガラスに映った女性の片眼に惹きつけられ、回想に耽る………そんな始まりだったように思う。
雪とは無縁の、照りつける太陽。冬の夜の底が白いのなら、夏の海の底は何色だろうか。
窓ガラスに映るは、太陽に負けないくらいのキラキラと輝いた少女たちの目。
一行を乗せたバスは、浜辺の近くへと繋がる道のりを下っていく。
◇
学園の一年生を乗せた4台のバスが停まり、目的地である旅館前に到着した一行は、旅館の前で整列をしていた。この旅館はプライベートビーチの景色を拝める絶好の立地にある宿泊施設であり、毎年IS学園の臨海学校でお世話になっているところでもある。臨海学校の間は旅館やビーチを含めた周辺の土地全てが貸切状態になっている。ISという機体を扱うための安全確保と、女子生徒だけであることを懸念しての考慮だ。
「よし、全員揃ったな」
整列した一年生たちの前で、千冬が言った。
「それでは、ここが今日から3日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の方々の仕事を増やさないように注意しろ」
「「「よろしくお願いしまーす」」」
千冬の言葉の後、全員で挨拶をする。すると、着物姿の若女将が丁寧にお辞儀をした。
「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」
歳は三十代くらいだろうか。しっかりとした大人の雰囲気を漂わせている。
「あら、こちらが噂の……?」
若女将が、前列に並んでいた一夏と目が合う。
「ええ、まぁ。今年は男子が一人いるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」
「いえいえ、そんな。それに、いい男の子じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」
「感じがするだけですよ。挨拶をしろ、馬鹿者」
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」
「うふふ、ご丁寧にどうも。清洲景子です」
気品のあるお辞儀の動作に、一夏は少し緊張しているようだった。
「不出来の弟でご迷惑をお掛けします」
「あらあら。織斑先生ったら、弟さんにはずいぶん厳しいようで」
「いつも手を焼かされていますので」
少し納得できないようでありながらも、否定はできないので黙っておくしかないといった表情で一夏は佇む。これも、弟という立場に生まれた者の宿命だ。
「それじゃあ皆さん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってくださいな。場所が分からなければいつでも従業員に聞いてくださいまし」
女子一同は、はーいと返事をするとすぐさま別館の方へと向かう。取り敢えずは荷物を置いて、そこからなんだろう。
スケジュールとしては、初日は終日自由時間、明日がISの実習という予定だ。
◇
「行こっか、マリア」
「ああ」
皆が別館に行く様子をなんとなく眺めていたが、シャルロットの呼びかけに、マリアも荷物を持って歩き始める。
先程の整列中に真耶から貰った紙を見る。貰ったのは部屋の振り分けであり、偶然にも二人は同じ部屋だった。ちなみにラウラも同じ部屋である。
「織斑、お前の部屋はこっちだ。ついてこい」
「は、はい!」
千冬に呼ばれた一夏は、せっせと荷物を持ってその後ろをついて行く。
「一夏、部屋どこなのかな?紙には書かれてなかったよね」
「唯一の男子だしな。個室なんじゃないか?まぁ、シャルロットの場合はまだ男の子のときでも私と一緒だったが」
「む、昔のことじゃん」
「ふふふ」
「シャルロット、マリア」
「あ、ラウラ!」
喋っている内に、人混みの中に紛れたラウラとも合流し、三人は部屋に向かう。
旅館の中はとても広く、綺麗につくられていた。一学年丸々収容出来る施設であるだけではなく、その内装は歴史を感じさせる装飾と最新設備が見事に融合したものとなっていた。適度に効いたエアコンのおかげで、暑い夏でも快適に過ごせる。
三人は部屋の前に辿り着いた。
中へ入ると、三人でもまだまだ使い余る程の間取りであり、外側の壁は一面窓になっている。そこから見える景色は海を眺められる素晴らしいもので、東向きの部屋のため、きっと日の出も拝めることだろう。
「すごーい!二人とも見て!絶景だよ!」
シャルロットははしゃいでマリアとラウラに感動を伝える。ラウラもトコトコとシャルロットの横に並び、窓から海の香りを楽しんでいた。海の景色を眺めると同時に、二人の後ろ姿を見てマリアも微笑む。
それ以外にも、お手洗いと浴室は別々で、洗面所も専用の個室になっていた。ゆったりとした浴槽は、背の高いマリアでも優に脚が伸ばせるほどの大きさだった。
「さてと、じゃあ水着に着替えて海に行こっか!」
シャルロットが笑顔で二人に言う。
「そうだな。ところでラウラは、あの時水着を買ったのか?」
マリアは一ヶ月ほど前の水着の店でラウラと会った時のことを思い出す。
「ま、まぁな」
「ねぇラウラ!どんな水着買ったの?」
「そ、その……」
「?」
なにか恥ずかしそうにしているラウラ。どうしたのだろうか。
「どうしたのだ?」
「もしかして、学園に置いてきちゃった?」
「そ、そうではないのだ。ただ、自信が無くてな……」
「ラウラなら何を着ても似合うだろう。私たちも一緒に着替えてやるから大丈夫だ」
「うんうん。手伝うよ」
「あ、ありがとう。感謝する」
ラウラは未だに恥ずかしそうにしながらも、バッグを開けて水着を取り出した。
「ラ、ラウラ……その水着……!」
「これは楽しみだな」
予想していた以上の可愛らしい水着に、二人はラウラの水着姿に期待を込めた。
◇
太陽に照らされ熱を帯びた白砂が、足を踏み出す度に指の間をくぐり抜ける。
旅館と目と鼻の先、広大な砂浜には大勢の水着姿の生徒たちがはしゃいでいた。
「今十一時でーす!夕方までは自由行動、夕食に遅れないように旅館に戻ること!いいですねー⁉︎」
「「「はーい!!!」」」
水着に着替えた一夏は、砂浜で一人屈伸をしていた。海に入る前の準備運動は欠かせないものだ。
「ねぇねぇおりむ〜、私たちと一緒に遊ぼ〜」
そう言って近づいてきた何故か狐の着ぐるみを着た本音、そして横には谷本癒子がいた。本音のそれは果たして水着なのだろうか。
「ビーチバレーしようよ!」
「おお、いいぜ!どこで……うわ!」
「おお〜〜高い高い〜〜」
一夏の背中に後ろから飛びついたのは鈴だった。鈴はいつの間にか一夏の肩に座り、肩車の状態になっている。
「お、おい鈴!なんだよいきなり!」
「いや〜遠くまで見えるわ〜」
「おい下りろ!猫かお前は!」
二人の様子を見て、本音たちが羨望の声を上げる。
「わぁ〜〜私もしてほしい〜」
「織斑くん!次私ね!」
「いや、俺は展望台じゃないって!」
すると今度は、肩から下りようとしない鈴に手間取っている一夏のところに、見知った人物がやってきた。
「何をしていらっしゃいますの?」
水着を着た仏頂面なセシリアだった。その白い両腕にはビーチパラソルとシートが抱えられている。蒼のパレオが彼女をより優雅な雰囲気にさせており、一夏は彼女の水着姿を見て、一ヶ月ほど前の試着室での出来事を思い出し赤面する。
「い、いやセシリア、これは────」
「見れば分かるでしょ?移動監視塔ごっこ!」
鈴はしたり顔でセシリアを挑発し、一夏の顔に抱きつく。
「おい、離せって!前見えないから!」
あたふたしてる一夏と楽しそうに笑う鈴に、セシリアの仏頂面はさらに険しくなる。
「一夏さん?バスの中で
ドスッ!
力任せに砂に刺さるパラソル。
そしてセシリアは砂の上にシートを敷き、横にサンオイルを置いて、うつ伏せになる。
そしてパレオを脱ぎ、艶かしくブラのホックを外した。
セシリアの艶かしくすらっとした指先に、一夏の心臓は激しく高鳴る。
「さぁ一夏さん!お願いしますわ☆」
「なーにが『お願いしますわ☆』よ!あんたこそ一夏に何させる気よ!」
「見ての通り、サンオイルを塗っていただくのですわ!」
「サンオイルぅ⁉︎」
「レディとの約束を違えるなど、紳士の致すことじゃありませんわよ?さぁ、一夏さん!」
「お、おう!任せろ!」
「あんたも何で乗り気なのよ!」
鈴は一夏を後ろから蹴っ飛ばす。
そんなこんなで一夏はセシリアの側に座り、サンオイルの入った瓶を手に取る。全て英字で書かれたそれはいかにも高級そうなサンオイルで、さすがセシリアといったところだろうか。
一夏は瓶の蓋を開け、手の平に茶色のドロリとした液体を注ぐ。ヌルヌルとした未知の感触に、一夏の頰に一筋汗が流れた。
一夏はヌルヌルの手の平を、セシリアの腰につける。
「きゃ!」
「うお!」
「い、一夏さん。サンオイルは少し手で温めてから塗ってくださいな」
「わ、悪い……こういうことするのは初めてなんだ………」
『初めて』という言葉を聞いて、顔を綻ばせるセシリア。
「は、
「あんた、何で嬉しそうなのよ」
セシリアのニヤケた顔をジト目で見る鈴。
一夏はしばらく手でオイルを温めた後、再びセシリアの背中に手を伸ばした。一夏は分からないながらも、満遍なく背中や腰で手を左右させる。
「あっ……ふぅ……」
一夏の施す手つきに、どんどんとトロけた表情に変わっていくセシリア。一夏の手が動くたびに、セシリアの身体から力が抜けていく。
「うわぁ……気持ち良さそう〜〜」
「セシリア!後で私にもサンオイル貸してよね!」
本音と癒子がドキドキした顔でセシリアに言う。
一方、一夏はセシリアの背中と腰を触っている内に危機を感じ始めていた。
セシリアの柔らかい身体に触れる度に漏れる彼女の吐息。僅かに揺れる、柔らかい豊満な胸。そして何より、セシリアのトロけきった顔。
そんな表情を自分の手で作り出してるのかと思うと、一夏の身体の内が熱くなっていく。
(いかん、このままでは……!)
一夏は、そろそろ止めておいたほうがいいと理性を働かせた。
「セ、セシリア。背中だけでいいんだよな……?」
しかしセシリアは、まるで理性を持っていないような表情で、
「い、いえ……せっかくですし、手の届かないところは全部お願いします……」
「ぜ、全部⁉︎」
「あ、脚と……その、お尻も……」
セシリアが上気した顔で一夏に懇願する。
ダメだ、このままでは。
しかしその時、一夏の横から鈴が割って入った。その手には一夏と同様、サンオイルが注がれていた。
「はいはーい!あたしがやってあげる!」
ニヤリとした顔で、鈴はすぐさまセシリアの全身にオイルを塗りたくり始めた。まるでくすぐる気しかない鈴の手つきに、セシリアは笑いが堪えきれなかった。
「あはははは!り、鈴さ、あは、はははは!や、やめてくだはははは!」
「隅から〜〜隅まで〜〜♪」
そして鈴はセシリアの水着を掴み、お尻の部分も弄り始める。
さすがのセシリアも、自分のお尻を悪戯されたことに怒り、跳ね上がった。
「り、鈴さん⁉︎もういい加減に────」
「セ、セシリア⁉︎」
「おお〜〜」
「あちゃー」
セシリアが周囲を見ると、赤面した顔でこちらを見る一夏、何故か感心している本音、そして「どんまい」といった顔の癒子。
セシリアは自分のブラが外れていることに気づき、
「キャアアアアアアアア!!!!」
部分展開したISで一夏を殴った。
◇
「まったく……なーんで俺が殴られなきゃいけねーんだよ……」
一夏は一人、いじけた感じで砂の城を作っていた。作りながら、先程見えてしまったセシリアの裸が脳裏に
(でもま、セシリアの胸が見れたのは、が、眼福だったかも……)
ニヤけた顔で城を建て続ける一夏。
しかし突然大きめの波が砂浜に打ち寄せ、砂上の城は崩壊してしまった。
「ああ!俺の孤高の城が!」
「一夏、暇そうだな」
「え?あ、マリア……それにシャルロットと………あとその横の……誰だ?」
そこには純白の水着姿のマリアに、オレンジの水着を着たシャルロット、そして全身にバスタオルをぐるぐる巻いたミイラ姿の何かがいた。
「ほら、一夏に見せたら?大丈夫だよ!」
「だ、大丈夫かどうかは、私が決める……」
「その声……ラウラか?」
ミイラ姿の何かは、よくよく見れば左眼に黒の眼帯をしていた。
「ラウラ、せっかく水着に着替えたのだから、一夏に見てもらわないと損をするぞ?」
「ま、待てマリア!わ、私にも心の準備というものがあってだな……」
ミイラ姿のラウラはもじもじとした様子だ。
するとシャルロットが少し悪戯っ子のような笑みを見せる。
「ふーん。だったら僕とマリアで一夏と遊びに行っちゃうけど、いいのかなー?」
「そ、それはダメだ!………ええい!」
ミイラ姿のラウラは決心をしたように、全身のバスタオルを外した。
一夏が瞬きをすると、そこにはミイラではなく、髪をツインテールにし、黒のビキニを身に纏った可愛らしい少女がいた。
「わ、笑いたければ、笑うがいい……」
ラウラは恥ずかしげに、一夏に言った。
「ふふ、やはり似合ってるな」
「おかしいところなんて無いよね?一夏!」
「ああ。可愛いと思うぞ!」
「そ、そうか!可愛いか……!そのようなことを言われたのは、は、初めてだ……」
天使のような笑顔で、ラウラは一夏に答える。その様子に、マリアとシャルロットも優しく微笑む。
すると、遠くの方から本音と癒子が声をかけてきた。今度は静寐も一緒にいるようだ。
「おりむー!」
「さっきの約束!ビーチバレーしようよー!」
「マリアさんもシャルロットもラウラさんも一緒にどうー⁉︎」
「よし、やるか!」
一夏が力強く答えた。
一行は近くのビーチバレー用コートに移動し、チーム分けをする。
チームは一夏・ラウラ・シャルロット・癒子、そしてマリア・本音・静寐という風に分かれた。4対3という形になってしまったが、マリアとラウラの身長差を考えると、イーブンなのかもしれない。
どちらも点を取っては、今度は相手が取ったりと、試合はなかなかに白熱した。
「織斑くん頑張れー!」
「デュノアさんもしっかりー!」
周囲から声援が聞こえてくる。
「マリアさーん!かっこいいー!」
「静寐ー!あんたの裏の本性を出すのよー!」
「わ、私そんな裏なんてないから!」
「静寐、裏の顔があったのか?」
「マ、マリアさんも真に受けないで!」
「ふふふ」
サーブは一夏チーム・癒子だ。
「ふっふっふ……『七月のサマーデビル』と呼ばれたこの私の実力を見よ!」
バシッ!
癒子の痛烈なサーブが、マリアの元へと飛ぶ。
「本音!」
マリアはそのサーブを受け止め、本音に渡す。
「わっわっわ、え、えい!」
本音はワタワタとしただけだったが、突き出した手が運良く静寐の方に渡った。
静寐は高くはね飛び、一夏チームのコートへと弾き返す。
「シャル!」
「任せて!」
静寐のアタックを跳ね返したシャルロットは、一夏へとパスを流す。
そして今度は一夏がアタックをした。
「マ、マリアさん!」
「こい、静寐!」
静寐がマリアにパスをし、マリアは高く舞い上がり、アタックを決める。
弾かれたボールは一直線に、ラウラの方へと向かっていった。
「可愛い……わたしが………かわいい………」
「ラウラ!」
「へっ?きゃ!」
ボールは勢いよくラウラの顔面に直撃し、ラウラはそのまま後ろへと倒れてしまった。急いで一夏とシャルロットが駆けつける。
「ラウラ、大丈夫か⁉︎」
「ラウラ、どうしたの?」
「か、かわいい……わたしが………」
ラウラはニヤニヤとした顔で、独り言を呟き続けていた。
「ひ、ひょっとしてまだ照れてたの……?」
「ラウラ……?」
「あっ……」
心配気な表情で自分の顔を覗く一夏に、ラウラはどうしようもなく心臓が高鳴る。そしてその高ぶりが爆発し、ラウラは咄嗟に海へと駆け込んでいった。
「きゃあああああああ!!!」
「どうしたんだ?あいつ……」
「ふふ、放っておいたほうがいいと思うよ」
すると、コートに緑色の髪の女性がやってきた。水着姿の真耶だった。
「ビーチバレーですか〜!楽しそうですね!」
「先生も一緒にやりますか?」
シャルロットが笑顔で真耶を勧誘する。ラウラがいなくなってしまったことで、3対3という状況になってしまっていた。
「ええ!いかがですか?織斑先生」
「ああ、そうしよう」
真耶の後ろからやってきたのは、黒の水着を身に纏った千冬。大人の女を醸し出している雰囲気に、周りから感嘆の声が漏れる。
「山田先生は織斑のチームへ。私はマリアのチームに入るとしよう」
そう言って千冬はマリア側のコートへと入る。
「マリア。まさかお前とビーチバレーで共に戦う日がくるとは思ってなかったぞ」
「正直なところ、千冬と勝負をしたかったが、共闘もいいものだな」
「ふん、なかなか言うようになったじゃないか」
千冬とマリアは二人だけの女の笑みを浮かべる。その様子に、周囲の女子たちは釘付けだった。
「織斑先生……モデルみたい……!」
「マリアさんも負けないくらい美しいね……」
「白のマリアさんと黒の織斑先生……夢の共演だわ……!」
髪の白い、太陽に負けないくらい純白のマリアに、黒髪の美麗な千冬。マリアの本当のパートナーはシャルロットだが、これはこれで良いコンビなのかもしれない。シャルロットもそう思っているのか、嫉妬や羨望の眼差しよりも、見惚れているといった視線を向けていた。
「それでは、試合開始!」
審判の女子が鳴らしたホイッスルとともに、周囲からは大きな歓声が湧いた。