狩人の夜明け   作:葉影

49 / 66
イメージ曲
Darkbeast - Bloodborne OST

ブラボの中でもトップクラスに震える曲です。
よければ是非。


第43話 天使

「いたぞ!福音だ!」

 

約10km前方に福音を確認したラウラが皆に知らせた。空が赤くなり、赤い月が現れてから、福音の姿は異形と化していた。全身の装甲は獣のような毛が生え、損傷は激しく、傷口からは灰色の混じった血が溢れている。背中についたスラスターの羽はズタズタに切り裂かれており、その姿は天国から追放された者を具現化していた。

福音の咆哮は海を駆け抜け、こちらにもビリビリと伝わってくる。

 

「『神の救済』か………フンッ、見る影もないわね」

 

異形の天使と化した福音を見て、鈴は皮肉めいた言葉を呟く。

 

「先程伝えた作戦通りだ。私が初弾を放った後、箒と鈴が近距離で攻撃。セシリアとシャルロットと私はそれを遠距離からサポート。鈴とシャルロットは状況を見て交互に役割を変わってもらう」

 

「「「「了解!」」」」

 

一同は前方に進みながら、徐々に別の方向へと分かれていき、上昇や下降をしていった。

 

そして福音までおよそ5kmというところまで来た。

海上にいたラウラが、レールガンのエネルギーを貯め、福音へと放つ。エネルギー弾は暴走している福音へと命中し、獣の咆哮を上げ、こちらを見た。

 

「初弾命中!」

 

そして箒が雨月で突進し、刺突攻撃を放つ。

 

「ハアアア!」

 

福音は後ろに飛んでそれを躱し、腕を前に出して箒に突風をくらわせた。

その福音の背中を、鈴が双天牙月で斬りつける。福音は避けようとしたが僅かに斧先が背中に当たっていたようで、傷口から血が飛び出た。

 

「おい!本当に無人機なのか⁉︎」

 

箒が福音に攻撃をしながら言った。

自身の紅椿は福音を計測し、生体反応が無いと示している。しかし、拭っても拭いきれない違和感が、あの獣の血のように溢れ出してくる。

 

「全員のISが生体反応無しって答えてるんだから、無人機よ!それに────」

 

鈴が福音と距離を置き、龍咆を構えた。

 

「人間だったとしても、もう助からない────!」

 

ありえない方向に身体を曲げ、人間では到底出せない咆哮を上げる天使。箒も鈴の答えを聞いて、腹を(くく)った。

 

今度はシャルロットがイグニッション・ブーストで急接近しながらアサルトカノンの銃撃を浴びせる。しかし福音もそれに対抗し、エネルギー弾を連射した。箒とシャルロットの攻防を恐ろしい速さで回避する福音に、一同は冷や汗を流す。

 

福音が身体に稲妻を爆発させ、箒にその稲妻をくらわせる。

 

「くっ…!」

 

箒は刀でその稲妻を防ごうとしたが、その衝撃の強さに身体が吹き飛ばされてしまった。

 

「箒!」

 

シャルロットが後ろから福音の背中をシールド・ピアースで刺突をするが、福音はぐるりと身体を捻り、シャルロットに打撃を与え、更に稲妻で攻撃する。

 

(なんて強い力……!)

 

シールドエネルギーを大幅に削られたシャルロットは顔色を青くした。

福音がシャルロットへ更に攻撃を仕掛けようとしたその時、福音の頭部をレーザー弾が命中した。

 

「シャルロットさん!一度退避を!」

 

「了解!」

 

命中したのはセシリアのライフルで、セシリアは4機のビットも飛躍させて福音に中距離攻撃を仕掛ける。

しかし福音はビットの動きを瞬時に把握し、非常に精度の高い銃撃を繰り出した。ビットの動きは複雑且つ高速であったのに、それらを瞬く間に破壊されたセシリアは面食らった顔をする。

福音がセシリアに急接近する。セシリアは距離を取りながらライフルを連発した。すると福音の後ろから斬撃が飛んできた。

 

「鈴!今だ!」

 

空裂の斬撃が福音に当たり、福音は稲妻を纏いながら蹌踉めく。

 

「撃つわよ!」

 

鈴がエネルギーを最大限に溜めていた龍咆を発射した。エネルギー弾は福音に真っ直ぐと当たる。

 

「ラウラ!とどめよ!」

 

「任せろ!」

 

そして直ぐに、海上のラウラがレールガンを放った。エネルギー弾は福音を貫き、夥しい出血を出す。

福音の咆哮が、真っ赤な空に行き渡った。

 

 

 

 

 

 

「織斑先生!これは……!」

 

「あいつら……」

 

福音の様子をディスプレイで観察していた真耶は驚きの声を上げ、千冬は険しい顔をした。

 

「命令違反です!今すぐ退避をさせましょう!」

 

「………」

 

「織斑先生!」

 

真耶は急いで通信を開き、専用機持ちたちに伝える。

 

「皆さん、危険です!今すぐ退避して下さい!」

 

しかし、返事は返ってこない。

 

「聞こえますか⁉︎危険です!今すぐ────」

 

「無駄だ。恐らく、連中の方で通信を切っている」

 

「そんな……!」

 

通信用のマイクを掴む手に、力がこもる。

 

すると突然、後ろの入口の襖が大きな音を立てて開いた。襖を開けたのは癒子、静寐、本音だった。皆焦った顔をしている様子だ。

 

「織斑先生!」

 

「入るな!!作戦中だぞ!」

 

「分かってます!けど……」

 

「お、おりむーとマリリンが……」

 

三人の言葉を聞いて、千冬は目を見開いた。

それは千冬の中で、起きてほしくない最大の出来事が起きてしまったことを意味していた。

 

 

 

 

 

 

「やったか⁉︎」

 

福音は痛みに激しく叫び、すでに死ぬ寸前のように見えた。しかしラウラは険しい顔をして、その答えを否定する。

 

「いや……まだだ」

 

福音が動きを止める。先程の攻防劇が夢であったかのように、海は不気味な静寂に包まれていた。

 

赤い空が、ゴロゴロと蠢き始める。シャルロットが不気味な空を見上げ、呟いた。

 

「くるよ……」

 

赤い空に浮かぶ雲が、恐ろしい音を立てて稲妻を増幅させていく。散り散りになっていた雲が、稲妻を帯びながら福音の上空へと集まっていき、一つの巨大な黒い雲を作る。

福音もその雲に共鳴するように身体に稲妻を爆発させていく。

 

「……まるで………悪魔、ですわね………」

 

上空の黒雲から、巨大な稲妻が福音に落ちた。福音の咆哮は海を渡り、専用機持ちたちの身体にビリビリと衝撃を伝える。

 

そして福音は稲妻の如く瞬時に移動し、専用機持ちたちを次々と攻撃していった。

 

「うあああ!」

 

「なんという力だ……!」

 

「皆!下がっ───ああああ!」

 

「シャルロット!───ぐわああ!」

 

最早専用機持ちたちのISはボロボロに損傷し、シールドエネルギーもゼロに等しい。

福音は更に猛攻をかけ、膨大なエネルギーを放出させた。福音のエネルギーは海を荒れさせ、空と海の間に風の渦巻きを作る。

 

稲妻が吹き荒れる、巨大な竜巻だった。

 

周囲を見ると、この巨大な竜巻を中心に、半径5km先まで海の各所で竜巻が発生していた。

海は巨大な波で大荒れとなり、血に染まった空は稲妻が飛び交っている。そしてそれを眺める、赤い月。

 

近くの無人島に吹き飛ばされていた鈴は、体力を振り絞り、地面に手をついて顔を上げる。

 

「なによ……これ………」

 

鈴の顔を、絶望が支配した。

目の前に広がる光景は、まるで世界の終末を表していた。

『黙示録』────世界に終末が訪れるとき、神に選ばれなかった全ての人々が死に堕ちる。

あの獣は神による救済でもなく、ラッパを与えられた小羊でもない。世界を滅亡へと導く、獣と化した悪魔だ。

 

 

 

 

 

 

鈴とは別の小さな無人島で気を失っていた箒が、ゆっくりと目を開いた。

身体はボロボロで、機体も思うように動かない。

空を見上げると、血に染まった空は先程よりも赤味を増し、獣は巨大な竜巻を背に血の叫びを上げていた。

 

「くっ……」

 

もう、声も出せない。

身体は悲鳴を上げていた。

無念を晴らすために、そして一夏のために奴を倒そうと皆で意気込んだのに……奴はそれを遥かに上回るほどの力を持っていた。

私たちは最早、ここまでなのか───。

 

(い、ち……か……)

 

箒の視界は暗くなり、意識が朦朧とする。

そして、意識を失いかける、その時───。

 

 

箒の身体を抱え、獣に見つからないように、岩場の陰へと誰かが運んでくれた。背中に、砂の感触が伝わった。抱えてくれた手が何処かへ行く。

箒は苦しくなりながらも目を開ける。

 

驚く事に、近くにいたのは白式を纏った一夏だった。

 

「い……ち……か……?」

 

箒の視界はぼやけ、一夏の目元が見えにくい。一夏はこちらを見るでもなく、ただ獣の方を見据えていた。その顔は、人間味がないほどに無表情だった。

一夏は無言で箒から離れ、そして飛び立った。

 

「だめだ……いち、か……」

 

箒が気を失う。

一夏は振り向くことなく、獣の方へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

稲妻の帯電する巨大な竜巻を背に、獣は専用機持ちたちを探していた。

その時、獣の横から超高速突進をする機体が現れた。白式だった。

右手に雪片弐型を握り、獣を斬りつけ、獣にしがみつき獣肉を斬り裂いていく。突進を避けられず、首元を斬りつけられた獣は大量の血を流した。

 

「あれは……!」

 

「い、一夏さん……!」

 

ラウラとセシリアが驚きの声を上げる。セシリアの声音は安堵と涙が混じった様子だった。

 

「一夏!そいつは危険よ!一人じゃ到底歯向かえないわ!」

 

鈴が焦った声で一夏に警告する。しかし一夏は鈴の声に何一つ反応を示さなかった。

獣が一夏を振り解こうと大量のエネルギー弾を連射する。しかし先程まで獣にしがみついていたはずの一夏は、そこから姿を消していた。

獣が周りを見るが、人影一つ見当たらない。

しかしその直後、今度は獣の下から上へと一夏が一閃する。

縦に一閃された獣は、皮や口を裂かれ、悲鳴を上げる。

 

(一夏の様子がおかしい……それに、マリアは……?)

 

いつもの様子と明らかに変わり果てた一夏を見て、シャルロットに不安の感情が芽生える。それは他の皆も同じだったらしく、本来一夏が目を覚まして喜べるはずだったが、一夏のどこか冷酷な様子に戸惑いを隠せなかった。

 

一夏を見張っていたのはマリアのはずだ。マリアが一夏の消失に気付くはずはないし、彼女自身それを許さないだろう。

 

(マリア……何があったのかな………)

 

マリアに無線を開こうと思い立ったシャルロットだが、無線のボタンを押そうとしたところで、その指を引っ込める。

今は無断で福音と闘っており、真耶たちからの無線を意図的に切断している。マリアに無線を繋げば、すぐさま真耶からの無線が繋がれてしまうだろう。

それに、今は無線に手間をかけている場合ではない。目の前の敵を倒さなければならないのだ。

しかし、どうやって────?

 

一夏が再びブレードで獣を刺す。しかし獣は一夏の身体を掴み、巨大な竜巻の中へと高速で投げ飛ばした。

 

「一夏さん!」

 

セシリアが急いで一夏を受け止めようと追いかけるが間に合わず、一夏は竜巻の中へと姿を消してしまった。

あの強大な竜巻の中へ入ることは、死を意味する。

本能でそう感じたセシリアは膝から崩れ落ち、呆然とした。

 

「そ、そんな………」

 

獣の叫びが響き渡り、獣はセシリアの方を向いた。

 

「セシリア!逃げて!」

 

遠方にいたシャルロットが急いでセシリアのもとへと向かうが、あまりに距離が長いため、間に合う可能性はかなり低い。

呆然としているセシリアに、ゆっくりと近づく獣。血に塗れた牙を剥き出しにして、セシリアを狙う。

 

獣がセシリアの身体に牙を向けた、その時。

 

バリバリバリ!!

 

後ろにあった巨大な竜巻が、(おびただ)しいほどの量の稲妻を暴発させる。

獣がそれに振り向き、身構えた。

するとその瞬間、竜巻が恐ろしい衝撃とともに散り散りとなり、無へと還る。

その巨大な竜巻だけではなく、海の各所にあった竜巻も消滅し、空の黒い雲も霧散し、空は晴れ渡った血と赤い月だけになった。

巨大な竜巻の中心だったはずの所には、一夏がいた。

 

一夏を見た専用機持ちたちは、背筋が凍り、その場から動けなくなった。

 

一夏の目が、あまりにも冷たい目をしていたからだ。

 

 

 

 

 

 

「お、織斑くん⁉︎」

 

真耶はディスプレイに映された目の前の光景に驚きを隠せなかった。そこに映っていたのは、昏睡状態であったはずの一夏だったのだ。

先程まで、突如海上に現れた竜巻によって、ディスプレイの画面は荒れており、何も見えていない状態だった。

しかし竜巻が晴れたかと思えば、そこには白式を纏っていた一夏がいたのだ。

 

「織斑先生!あれは……白式が……」

 

真耶がディスプレイに映った白式のデータを解析する。すると画面には、『雪羅(せつら)』と表示された。

 

「雪羅………白式の第二形態、か………」

 

データによれば、左手への多機能武装腕・雪羅の発現と大型化したウイングスラスターが4機備わっており、二段階加速が可能であるらしい。更に射撃用に大出力の荷電粒子砲、格闘用にブレードと零落白夜のエネルギー爪、防御用として零落白夜のバリアシールドを展開可能であるとのことだ。

 

しかし、千冬の関心は白式ではなく、一夏自身にあった。画面越しでも分かる、一夏の不穏な様子。自分の弟は、あれほど冷たい目をするような男ではなかったはずだ。

 

(一夏………お前………)

 

千冬の心臓が、不穏な鼓動を響かせていた。

 

 

 

 

 

 

ウイングスラスターを活用し、二段階加速をする一夏。その速さは凄まじく、瞬きを終える頃には一夏は獣の間合いに入っていた。そして左手の雪羅で獣の腕を斬りつけ、反対側の腕を掴み、獣を遠い海の彼方へと投げ飛ばす。

獣は姿勢を立て直し、稲妻を前へ飛ばした。

一夏はその稲妻を躱し、ただ無言で獣を切り裂いていく。

一夏はイグニッション・ブーストで獣の周囲を飛び回り、雪片弐型と雪羅の両方で獣の身体を切り刻んでいく。

 

痛みを訴える獣の叫びが、セシリアたちの耳に響く。敵とはいえ、満身創痍となった獣は見るに耐えないほど哀れだった。

 

暫くして、一夏の攻撃が突然静寂と共に終わりを告げた。

獣は周囲を見渡すが、一夏はどこにもいない。

 

しかし獣は、背後に人の気配を感じ、振り向く。

 

 

 

そこには、赤い月を背に立つ一夏がいた。

 

()()()()冷たい目でこちらを見る一夏に、獣は身体を震わせた。

 

そして一夏は雪片弐型と雪羅を交差させ、一つのブレードへと変形させる。

それは、零落白夜だった。

 

一夏は恐ろしい速さで獣のコアを貫き、その勢いのまま海へと突っ込んでいく。

 

獣は力を振り絞って抵抗するが、一夏の力がそれを更に上回り、どんどんと海が迫ってきていた。

 

そして獣は逃げられないまま、一夏とともに海へと追いやられてしまった。

 

 

 

 

 

 

「一夏!」

 

ラウラたちは、遥か遠方で大きな水飛沫が飛んだのを見て、急いでその場所へと向かう。

一夏は獣に零落白夜を刺したまま、海へと消えてしまった。このままでは、一夏も危険だ。

一同は僅かに残ったエネルギーを消費し、一夏のもとへと向かう。

 

「この辺りね……」

 

「一夏さん………」

 

「福音の機体反応が感知できない……ということは……」

 

「一夏……ヤツを、倒したのか………?」

 

一同は再び周囲を捜索し始める。

しかしその捜索は直ぐに終わった。

彼女たちが飛んでいた海の一点に、ぶくぶくと泡が立ったのだ。

彼女たちはそこに集まり、海の様子を伺う。

やがて泡は止まり、波の音だけになった。

 

そして、彼女たちの顔は、驚愕と恐怖の色に変わった。

 

彼女たちの見つめる海の底からは血が浮き上がり、辺りの海の全てが血に染まってしまったのだ。

 

灰色の混じった、真っ赤な血の色に────。

 

 

 

 

 

 

暗く深い海に沈んでいく中、血に染まった天使はやがて動きを止めた。

 

機体は剥がれ落ち、獣の欠片も海の底へと沈んでいく。

 

零落白夜の消滅と共に、頭の中の意識も、この深い海のように微睡み、瞼が重くなっていった。

 

目を閉じる寸前。

暗い視界の中で、機体の内側に、ある生き物を見出した。

 

 

 

 

血に染まった黒の生地。

 

 

そこに描かれた、()()()を────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 





銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)

アメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型軍用IS。
数ヶ月前に原因不明の失踪を起こしたが、暴走状態で海上を飛行する姿が衛星によって突如確認された。
しかし依然として、機体に何が起こったのかは謎のままである。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。