時間が空いて申し訳ありません。ブラボが楽しくて少しそっちに逃げてました。笑
後編です。
第45話 化身
ああ……───。
また、この夢だ。
満月の夜は、決まってこの夢を見る。
俺は真っ暗な闇の中にいて。
その暗闇の中で、彼女がいつか言った言葉がずっと響いている。
『貴様は護られてばかりだな』
この暗闇の中でも尚、突き放そうとする冷たい言葉。
『所詮、貴様の力などその程度のものだ』
俺は自分なりに精一杯やっているつもりだ。
『貴様にあの人を超えることなど、出来やしない』
勝手に決めつけやがって。
『────貴様は哀れなほどに、弱い』
もうその言葉にはうんざりだ。
俺はどうして夢の中でも弱いと言われないといけないんだ。
夢の中でくらい、強くあってもいいだろう。
俺に向けられたその言葉は、満月の夜にきまって執拗に俺を追いかけ回す。
大抵の物語では、力に執着する者の成れの果ては『破滅』であると、相場が決まっている。
俺はそんな風にはなりたくない。
だけど、夢の中でも力に苛まれるなんて、俺は力に執着する者にも引けを取らないくらい、もうすでに虜になってしまっているのか?
まさか。
そんなこと、あるわけがない。
◇
「う、ん………」
ベッドの上で目が覚める。
時刻は夜の八時を過ぎた頃だった。
寝ている間に少し汗をかいたのだろう、シャツの首回りが湿っていて少し気持ちが悪い。
開いていた窓から入ってくるそよ風が心地よかった。
福音の事件から、およそ二ヶ月以上が経った。
季節は秋になりかけているといったところだろうか。あの夏とは違い、今の夜は少し肌寒い。
窓の外を見ると、白い満月が夜空の星と一緒に輝いていた。
福音の事件以来、満月を見ても吐き気がこみ上げてくることは無くなった。しかし気持ち悪くなることには変わりはなく、あまり満月は見ないようにしている。
福音の事件での記憶は、少し曖昧になりつつある。
皆は俺が福音を撃墜したと語っているが、その時俺が何を考えていたのか、どうなっていたのかはよく思い出せない。ただ、意識を失う寸前、
それに、あまりこの事について考えたくなかった。
「……少し歩くか」
この
この時間に外を歩く生徒もあまりいないだろう。
丁度いい。
今は一人で夜風に当たりたい気分だった。
◇
規則的に並んだ電灯の立つ夜道を、一夏は歩いていた。
寝起きにかいていた汗はすっかり引き、夜風に冷えて少し寒い。その肌寒さは、一夏にとって丁度いい心地よさだった。
『貴様は護られてばかりだな』
夢で聞いた、ラウラの言葉が再び蘇る。
『貴様にあの人を超えることなど、出来やしない』
別にラウラのことを恨んでいる訳じゃない。寧ろ、ラウラの機体の暴走事件以降、ずっと仲良しになった。
ただ、彼女の言ったことは一夏の想像以上に心に深く傷を負わせていて、一夏は忘れることが出来なかった。
『────貴様は哀れなほどに、弱い』
力に執着する者の成れの果ては破滅……今更その認識を覆すつもりもない。
だが、いつも考えてしまうことがある。
自分にもっと力があれば……この夢からも解放されるのではないだろうか……。
少なくとも、姉以上に強くなれば誰も口を出さないのかもしれない。
けれど、一夏にその自信はなかった。
自分はいつだって優秀な姉と比べられ、劣等感を抱いていた。幼少期に出来上がってしまった引け目というやつはそう簡単に崩れることはなく、今だって自分の弱さに悔しさを……寧ろ嫌悪感を感じるばかりだった。
「……うっ………!」
途端に頭痛がする。
満月の夜だというのに、少し歩きすぎただろうか。
兎に角、一夏は寮へと帰ることにした。
ガサッ
後ろの茂みの方で物音がした。
コツ、コツ、コツ………
単調な靴音が響く。
振り返ると、暗闇の中に人影が見えた。
「誰だ!!」
コツ、コツ、コツ……
その人影が、暗闇から電灯の下に現れる。
一夏は驚愕した。
その人物の顔が、そっくりそのまま
黒いマントを羽織っており、背丈は姉よりも低い。だが、あれではまるで双子といってもおかしくない……それほどに、彼女はそっくりだった。
「ち、千冬姉……⁉︎」
彼女はニヤリと笑い、
「いいや、違うな」
声も姉にそっくりだ。
一夏の頭痛が酷くなっていく。立っているのも辛いくらいだ。
「
「っ……なんだと………⁉︎」
彼女は冷たい視線で一夏を見据える。
「ふん……随分と貧弱に見えるな」
「………」
一夏は鳴り止まない頭痛に頭を抑え、なんとか彼女を視界に捉える。
「答える気力もないか。まあいい」
暫くの沈黙が流れ、彼女が再び口を開く。
「────私の名前は、
「……なに………?」
「私が私たるために、お前には死んでもらう────」
織斑マドカと名乗った彼女はポケットから瞬時に銃を出す。咄嗟のことに、一夏は意識と身体がついてこない。
パァン─────!
乾いた音が、冷たい夜の空気を行き渡った。