狩人の夜明け   作:葉影

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本当に、本当にお待たせしました。大変申し訳ありませんでした。
今年が終わるまでになんとか更新しなければと思い……ちまちまと書いておりました。
少し前にはなりますが、ISABも始まりましたね。皆さんはプレイしてどう思ったでしょうか。
今年はお世話になりました。
来年もよろしくお願いいたします。


第47話 学園の長

10月中旬。

学園内アリーナの男子更衣室で、ディスプレイの映像を観ながら一夏は溜め息を吐いていた。先程鈴と実戦訓練をしていたときの映像が、目の前で何度も再生されている。

 

「はぁ……後少しで勝てたのになぁ………」

 

自分で言うのもなんだが、先程の実践訓練ではかなり優勢に攻めることが出来ていた。春の頃と比べれば、なかなか力も付いてきたのではないだろうか。

何も特別な訓練を受けてきた訳ではない。だが、一つだけ、自分の中に引っかかっていることがある。

それは、あの福音事件以来、自分の力が強くなった気がする、ということだ。

ハッキリとした確証があるわけでもない。ただ、自分の中の反射神経や戦略の読みなど、あの事件が起こる以前は身についていなかったのだ。

しかし、いくら強くなったかもしれないとはいえ、それで試合に勝てなければ結局何も変わらない。もっと実力を身に付けなければ…。

 

「やっぱり、燃費をなんとかしないと────」

 

「だーれだ?」

 

突然、視界が真っ暗になった。

同時に、目を覆う柔らかい手の感覚。女性の指に、女性の声。無論、学園に男子は自分一人しかいないので当然なのだが…。

 

「え、ええ…?だ、誰だ?」

 

「はい時間切れ」

 

目を覆う女性の指が離れる。一夏は後ろを振り向いた。

見上げると、肩まで伸びた水色の髪をした少女が立っていた。閉じた扇子を持ち、こちらを見て微笑んでいる。

 

「あ、あなたは……?」

 

見たことのない人物に、一夏はただ目を丸くさせることしかできなかった。数秒の沈黙が流れた後、彼女は扇子の先で一夏の頬を優しくつついた。

 

「君も急がないと、織斑先生に怒られるよ?」

 

そして彼女は微笑みながら踵を返し、更衣室を出ていく。

ポカンとした一夏は、彼女が更衣室を出たと同時にハッとし、時計を見る。

 

「あーー!!」

 

時刻は既に、一時間目が始まってしまっている頃だった。

 

 

 

 

 

 

「────ほう?遅刻の言い訳は以上か?」

 

一年一組の教室。

一夏は一時間目に遅れて入って来るやいなや、千冬の説教をくらっていた。自分の席で、マリアはその様子を見つめていた。

 

「いえ、だから更衣室で着替えてたらいきなり水色の髪の────」

 

「そうか。お前は初対面の女子との会話を優先して授業に遅れてきたというわけか」

 

「い、いや、だから────」

 

()()()()……?)

 

マリアは一夏の言葉を聞き、頭の中である人物の姿が思い浮かべた。

学園に入ってしばらくした頃、クラス代表対抗戦で襲撃者の侵入事件が起きた。水色の髪の彼女と出会ったのは、その事件が起きて数日が経った時だった。自分の素性に疑念を抱き、半ば敵意も見せていた……一夏の言うその水色の髪の少女は、彼女のことなのだろうか。もしそうであれば、恐らく扇子の一つや二つくらいは一夏も目にしているはずだろう。

 

説教もそこそこに終わり、一夏もこっぴどく千冬に怒られたせいで、げんなりと肩を落とし席に戻った。

授業もいつも通りに行われ、いつもと変わらない、いつも通りの一日。

しかし今日は、この後全校集会が行われるようだ。全校集会……恐らく生徒会も関わるかもしれない。久々に、彼女の姿を見ることになるのだろうか。

 

 

 

 

 

 

ホールに集められた一年生たちは、『全校集会』と映し出されたディスプレイのある講壇を前に整列していた。

 

『それでは、生徒会からのお話です』

 

スピーカーから響いた司会の声に、余所見をしていた者も、友人と喋っていた者も、一同は改めて講壇を見上げる。

すると講壇に姿を現したのは、水色の髪をした生徒だった。

 

(あの人はさっきの……⁉︎)

 

一夏が驚いた様子で彼女を見る。そしてその視線に気付いたのか、マイクの前に立った彼女は一夏を見てニコリと笑った。また少し驚く一夏をよそに、彼女は再び前に向き直る。

 

『初めまして、みなさん。今年はバタバタして、自己紹介がまだだったわね』

 

彼女はコホンと咳払いをする。

 

『私は更識楯無。IS学園の生徒会長よ』

 

(生徒会長……?)

 

それを聞いた一夏は目を丸くした。しかし今朝、何故生徒会長の彼女はわざわざ自分に会いに来たのだろうか?

 

さて、と楯無が言う。すると後ろのディスプレイの文字が変わり、そこには『議題:学園祭について』と映し出された。

 

『もうすぐ、IS学園では学園祭が開かれるわけだけど、各クラス、それぞれ出し物を企画すること。企画提出も今週中にお願いしたいから、皆でよく話し合って決めてね。生徒会長からは以上よ』

 

楯無は扇子を開いた。そこには『締切間近』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

全校集会が終わり、再び一年一組。

一夏はクラス代表ということで教壇に立ち、学園祭の出し物について話を進めていた、のだが……

 

「えーっと……」

 

一夏はしかめっ面をしているようだ。その原因は、一夏のすぐ背後にある企画案だった。

 

①織斑一夏のホストクラブ

②織斑一夏とツイスター

③織斑一夏とポッキー遊び

④織斑一夏と王様ゲーム

 

「全部却下!」

 

「「「えーー⁉︎」」」

 

「アホか!誰が嬉しいんだこんなもん!」

 

心底嫌そうな顔をして一夏が怒る。しかしそれに構わず他のクラスメイトたちはどんどん抗議する。

 

「私は嬉しいわね。断言する!」

 

「え⁉︎」

 

「そうだそうだ!女子を喜ばせる義務を全うせよ!」

 

「はぁ⁉︎」

 

「織斑一夏は共有財産である!」

 

そうだそうだと溢れんばかりの抗議に一夏は頭を抱える。

 

「と、とにかく……もっと普通な意見をだな────」

 

「メイド喫茶はどうだ?」

 

案を出したのはラウラだった。一夏も周りのクラスメイトたちも、まさかラウラの口からメイド喫茶などという言葉が出るとは思ってもいなかったため、目を丸くしている。

 

「客受けは良いだろう。それに、飲食店は経費の回収も行える」

 

それを聞いたシャルロットは少し考えた後、賛成の意を示した。

 

「良いんじゃないかな。一夏には、執事か厨房を担当してもらえばいいよね」

 

すると、クラス内がメイド喫茶の話題で徐々に盛り上がっていく。

 

「織斑くん……執事……イイ!」

 

「マリアさんのメイド姿……ふふふ」

 

「わ、私がか…?」

 

「メイド服どうする⁉︎」

 

「私縫えるよー!」

 

一夏があたふたしていると、静寐が立ち上がり、

 

「それでは、ご奉仕喫茶で決まりですね!」

 

「「「さんせーい!!」」」

 

あれやこれやと言う間に一年一組の出し物が決まってしまった。

 

(まぁ……ちょっと変わった衣装の喫茶店だと思えばいいか……)

 

半ば諦めた様子で一夏も納得する。

その一方でマリアは、

 

(私に使用人の服は似合わんだろう……)

 

と思いつつ、しかし学園祭という未知のイベントに、少しだけ心を躍らせていた。

 

 

 

 

 

 

その日の放課後。

クラスの企画案を提出し終え、職員室から出た一夏は、扉が閉まると同時に少しだけ溜め息を吐く。そして何気なく時計を見る。

 

「やべっ!もうこんな時間!」

 

すでに時刻は特訓の始まりを過ぎてしまっていた。いつも放課後は出来るだけ皆と特訓をする予定を立てており、今日はラウラが特訓を見てくれる日だった。

一夏が走りだそうとした、その時。

 

「やあ」

 

いつの間にいたのだろう、一夏に声をかけたのは、先程全校集会で生徒たちの前で話していた彼女だった。

 

「生徒会長……さん……?」

 

「みずくさいなぁ。楯無でいいよ」

 

朝から突然現れては消え、再び自分のもとへ現れたりと、まるで猫のような気紛れさを感じさせる楯無。

 

「何の用ですか?」

 

「当面、君のISのコーチをしてあげる」

 

「え、な、何ですか突然。コーチはいっぱいいるので間に合ってます」

 

「でも、君は未だに弱いままだよね」

 

楯無の言葉に、一夏はムッと顔を(しか)めた。

 

「っ……それなりには、弱くはないつもりですが」

 

「ううん、弱いよ。めちゃくちゃ弱い」

 

「っ…───!」

 

一夏が強く反論しようとすると、楯無が扇子を一夏の前に指した。

 

「だから、ちょっとでもマシになるように、私が鍛えてあげようというお話」

 

「……そこまで言いますか!じゃあ勝負です。俺が負けたら、何でも従います!」

 

「うん、いいよ♪」

 

二人は勝負をするべく、一夏は楯無に柔道場へと連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

IS学園・柔道場。

一夏と楯無は柔道着に着替え、互いに向かい合っていた。

 

「いい?一度でも君が私を床に倒すことが出来れば、君の勝ち」

 

「え……?」

 

「逆に、君が続行不能になったら私の勝ちね」

 

清々しいくらいの彼女の強気に、一夏は思わず呆れた笑いを零す。

 

「ふっ……随分と舐められたものですね」

 

「───私が勝つから大丈夫」

 

一夏は息を整え、真剣な眼差しをする。

 

「それじゃあ、本気でいきますよ」

 

「いつでも来なさい」

 

 

 

 

 

 

 

全く、随分舐められてるよな。自分だって、今まで色んな強敵と戦ってきた。それなりに力はついてきているはずだ。

 

『────貴様は哀れなほどに、弱い』

 

俺の頭の中で、いつかラウラが言った言葉が響く。

 

『ううん、弱いよ。めちゃくちゃ弱い』

 

俺の頭の中で、楯無さんの言った言葉が響く。

 

いや、あの時よりは強いはずだ。生徒会長だろうがなんだろうが、いきなり現れてこんなことを言う人なんかに、負けるわけにはいかない。

次第に彼女を睨む目が強くなった。

 

俺は楯無さんの所へ素早くダッシュし、襟を掴む。そして楯無さんの内股にすかさず脚を入れ、払い技を試みた。

しかし読まれていたのか、楯無さんは逆に俺よりも速いスピードで脚を払い、俺は床へと倒れそうになる。

 

「────⁉︎」

 

俺は身体を捻り、床には倒れず一歩引いて楯無さんから間を取ることに成功した。

身体を捻る最中、一瞬だけ楯無さんの驚いたような顔が視界に入った気がしたが、今はさっきと同じ顔をしていたので、気のせいだったようだ。

 

 

 

 

 

 

……驚いた。

まさか一夏くんが、あそこから体勢を立て直すなんて。

ほんの一瞬だけ、ビックリしたのが顔に出ちゃったかもしれないわね……まぁ、それは置いといて。

実力はまだまだ私には及ばないけど、一夏くん……思っていたよりもタフかもしれないわ。

福音事件……彼一人で福音を倒したと聞いたときから、疑問に思ってたのよね。アレは、余程の戦闘力を持つ人物でなければ倒せない。ましてや、まだISに触れて半年も経たない一学生が、福音のような強敵を倒せるなんて、普通に考えて有り得ないはず。

もし本当に彼が強いなら、今ここで私に苦戦を強いることだって出来るはずなのに、今の彼にはそれ程の力を感じられない。

一体どういうことなのかしら……?少なくとも、彼はしぶとい底力を持っていることは考えられる……。

 

 

 

 

 

 

よし、今度は体当たりだ。

俺は再び楯無さんに詰め寄り、姿勢を低くして体当たりをする。

しかし楯無さんは俺の頭を掴み、後ろに払う。軸を崩した俺は、勢い余って床に転んだ。

 

「もう一回だ!」

 

「どうぞ♪」

 

相変わらず余裕ぶった楯無さんの襟をもう一回掴み、今度は背負い投げをしようとした。

しかし彼女は微動だにせず、俺は力いっぱい襟を握る手に力を込める。

 

バッ

 

「あ」

 

「きゃ!」

 

力み過ぎたせいで、襟を掴む手が横に広がってしまい、楯無さんの胸元がはだける形になってしまった。俺は焦って離れる。

 

「ち、違うんです楯無さん!つい力み過ぎちゃって────」

 

「いーちーかーくーん……」

 

楯無さんの口元が笑っている。しかし、目は全く笑ってなどいなかった。得体の知れない恐怖で、背筋が凍る。

 

「私の下着姿は………高いわよ?」

 

「ひっ……!」

 

瞬きすらする間も無く、楯無さんの拳が俺の顔面に突撃した。

 

 

 

 

 

 

IS学園内・噴水広場

 

 

「全く、あいつは何処へ行ったんだ…」

 

そうブツブツと文句を言いながら、ラウラは学園内を歩き回っていた。今日の放課後は自分が一夏と特訓をする予定であったはずなのに、いつまで経っても待ち合わせ場所に一夏は現れない。

落ち着かないままウロウロしていると、噴水のそばに座ってる二人の女子生徒の話し声が聞こえてきた。

 

「あ、ちょっと!頭に寝癖ついてるよ」

 

「え!うそ⁉︎」

 

「ほらここ」

 

「あ、ホントだ!」

 

「もう……そんなんじゃ織斑くんに呆れられちゃうよ?」

 

「え〜それはヤダよ〜〜」

 

彼女たちの会話を聞いて、ラウラはハッとした。そしてすぐそばの建物のガラスで、自分の髪の毛を確認する。

すると、あろうことか、ラウラの後頭部の辺りにぴょんと飛び出した髪の毛があった。

 

「!!」

 

ラウラは急いでその寝癖を撫でて直す。しかししばらくすると、またぴょんと飛び出し、ラウラは慌ててひたすら頭を触る。

するとそこに、見知った声の人物がやってきた。

 

「ほう……お前もそんなことを気にするようになったか」

 

「き、教か────」

 

千冬は持っていた書類でラウラの頭を優しくポンとたたく。

 

「学校では織斑先生だ」

 

「お、織斑先生………」

 

そんなラウラを見て、千冬は優しく微笑んだ。

 

「ふっ……年頃だな」

 

「うぅ……」

 

顔を赤くして、ラウラは俯く。

 

「そういえば、さっき保健室で織斑が連れられていくのを見たぞ」

 

「ほ、保健室……?」

 

「ああ。なんだ、約束でもしていたのか?」

 

 

 

 

 

 

IS学園・保健室内

 

 

白いベッドの上で、私は彼の寝顔を見つめる。寝顔というか、気絶させてしまったのだけど、彼の顔色は悪くはなさそうだから、一先ずは安心ね。少し強く当たりすぎちゃったかしら。

一夏くんがあの柔道場で見せた、殺気。いえ、殺気と呼ぶにはまだまだ小さなものだったけれど、あの時見せた一瞬の睨みは、私の背筋に嫌な感触を走らせた。言葉には言い表しにくいけど、とても人間の放つようなものでない恐ろしい空気感を、彼は放った。私の攻撃を受けても瞬時に立ち直ったのは、それも関係している…?

でも、いくら潜在した力があったとして、彼はまだそれを磨けてすらいない。彼にはこれから、自分自身を守れるだけの力が必要だ。私がそれを支えなければ────。

 

「ん……」

 

「あら、お目覚め?」

 

「楯無……さん……?」

 

一夏はぼんやりとした目で楯無の顔を見る。数秒くらいして、一夏はハッとした。

 

「え⁉︎あ、な、なんで膝枕なんですか!」

 

「まーまー、お姉さんのお膝を味わっときなさいな♪」

 

「いや、ちょっと、離してください楯無さん!」

 

「うふふ♪」

 

楯無は微笑みながら暴れる一夏の頭を離さない。顔を赤くして焦っている一夏の様子を見て、楯無もついつい面白くなってしまう。

するとそこで、保健室の扉が強く開いた。

 

「嫁!無事……か………」

 

保健室に入ってきたのは、心配気な顔を浮かべたラウラだった。保健室に一夏が連れられて心配してやって来たというのに、自分の知らない女が、自分の嫁を膝枕しているのを見て、ラウラの中で怒りが沸き起こる。

 

「貴様、何をしている!」

 

ラウラはISを腕にだけ部分展開し、楯無のもとへ走り出す。

 

「お、おいラウラ!待てって!」

 

一夏がワタワタと慌てるが、一方で楯無は余裕そうな顔をしている。そしてラウラが怒り任せに楯無に拳を振りかざした。

 

ガキィン────!

 

「なっ……⁉︎」

 

なんと楯無は、ラウラの素早い攻撃をいとも簡単に扇子で弾き、そしてもう片方の手でラウラの首に指を添えていた。これ以上動くと容赦しない………楯無のその指からはそういった意思表示が読み取れた。勿論本気でラウラに危害を加えるつもりは楯無にも毛頭無かったが、恐ろしく感じたラウラはそのまま部分展開したISを解除する。

 

「うん、素直な子は好きよ♪」

 

楯無は立ち上がり、一夏を連れて行く。

 

「悪いけど、これからは私が彼の特訓を見るから、よろしくね♪」

 

そして二人は保健室を出ていった。一夏は複雑そうな、申し訳なさそうな顔で、扉が閉まるまでラウラを見ていた。

扉が閉まり、ラウラは悔しそうに歯をくいしばった。

 

 

 

 

 

 

IS学園・第一アリーナ内

 

 

一夏は楯無に連れられ、第一アリーナのグラウンドへと来た。グラウンドにはISスーツを着て準備体操をしているシャルロットとセシリアがいた。

 

「あれ、一夏?」

 

「い、一夏さん?今日は第四アリーナでラウラさんと特訓と聞いていましたけど……」

 

シャルロットとセシリアが体操を止める。楯無も立ち止まった。

 

「やあ。私がこれから一夏くんの専属コーチを務めるから、よろしくね」

 

シャルロットはキョトンとした顔をしていた。

 

「生徒会長が、一夏の専属コーチ……?」

 

一方でセシリアはムッとした顔をしていた。

 

「一夏さん、どういうことですの⁉︎」

 

「セ、セシリア……これはその、勝負の結果なんだ……」

 

一夏がセシリアをなんとか納得させようと言葉を探すが、セシリアは相変わらず頰を膨らませている。

 

「まあまあ、これも一夏くんのためだと思って♪」

 

すると楯無は、「あっ」と、なにか思い出したような声を出した。

 

「二人にも、協力してほしいことがあるの」

 

「協力……?」

 

楯無の言葉に不思議がるシャルロットたち。楯無は開いていた扇子をパチンと閉じる。

 

「時間もないし、早速始めてもらおうかしら。シャルロットちゃんにセシリアちゃん、『シューター・フロウ』で円状制御飛翔(サークル・ロンド)、やってみせて」

 

「射撃型の戦闘態勢(バトル・スタンス)が、近距離タイプの一夏さんの役に立ちますの……?」

 

「いいからいいから♪」

 

 

 

 

 

 

楯無と一夏は観客席に座り、ISを纏ったシャルロットたちの姿を見ていた。シャルロットとセシリアはお互いに合図をすると同時に、ゆっくりと円状に飛び始める。速度は徐々に増していき、そしてどんどん上空へと上がっていく。二人の間隔はブレることなく、一定のリズムのように円状に飛翔をしていく。

 

『いくよ、セシリア!』

 

『構わなくてよ!』

 

すると二人は互いに距離と速度を保ちながら、射撃を開始する。

一夏は二人の様子に目が釘付けだった。

 

「これは……」

 

一夏の声に、楯無が答える。

 

「射撃と高度のマニュアル機体制御を同時に行なっているんだよ。しかも、回避と照準の両方に意識を割きながら……」

 

すると楯無は、そっと一夏の耳元で、

 

「だからね……わ、か、る?」

 

「うわああ⁉︎い、いつの間に⁉︎」

 

フーッと耳元で息を吹かれた一夏は、顔を真っ赤にして楯無から離れる。いつの間に彼女は近づいていたのだろうか。

 

『い、一夏さん⁉︎何していますの⁉︎』

 

『あ、セ、セシリア!』

 

『へ?あ、きゃああああ!』

 

楯無のせいでセシリアが集中を止めてしまったため、セシリアはバランスと速度制御を保てなくなり、シャルロットにぶつかってしまう。

 

『うわあああああ!!』

 

ドォォオン!!

 

そして二人はもつれたまま、グラウンドへと落下してしまった。

 

「だ、大丈夫かー⁉︎」

 

一夏は観客席から身を乗り出して心配の声を掛ける。そして楯無はフフッと笑い、一夏を見た。

 

「次は、一夏くんの番よ」

 

 

 

 

 

『全くもう!』

 

『す、すまん、セシリア……』

 

プンスカと怒るセシリアに、白式を纏った一夏は素直に謝る。楯無とシャルロットは観客席で二人の様子を見守っていた。

 

「それじゃあ、始め!」

 

楯無の合図で、一夏とセシリアは互いに距離を保ちながら、円状に飛翔していく。やがて二人は高い上空へと上がっていた。

 

『一夏さん、いきますわよ!』

 

『お、おう!』

 

するとセシリアはスターライトmk.Ⅲで一夏に向けて射撃する。一夏もシャルロットに借りたライフル銃で対抗するが、慣れていないためか、一夏の体幹はグラグラとブレており、銃弾も思うような方向へ撃てない。セシリアは一夏を狙撃し、一夏もそれをもろに受けてしまう。

 

『ぐああああ!』

 

一夏はグラウンドへと落下していき、倒れる。

 

『一夏さん!』

 

セシリアも後を追うように、一夏のもとへ駆けつけた。

 

『一夏さん、大丈夫ですの……?』

 

一夏はゆっくりと身体を起こして、頷いた。

 

『ああ……大丈夫。セシリア、もう一回頼む』

 

セシリアは心配そうな顔をするが、一夏の強い目を見て、頷いた。

 

『あまり気は乗りませんが……一夏さんがそう仰るなら……』

 

「じゃあ、もう一回!」

 

楯無の掛け声で、二人はもう一度サークル・ロンドを始める。先ほどと同じく、二人は距離を保ちながら円状に飛翔していく。

 

「……これって、白式に遠距離攻撃能力が追加されたからですか?」

 

シャルロットが楯無に尋ねる。

福音事件────あの事件で、一夏の白式は第二形態『雪羅』へと進化を遂げた。その結果、射撃用の装備である大出力の荷電粒子砲も追加されたのだ。

 

「そうだね……でも、それだけじゃないんだなぁ」

 

「………」

 

「射撃能力で重要なのは、面制圧力だよね。けれど、連射が出来ない大出力荷電粒子砲は、どちらかといえばスナイパーライフルのスタイルに近い。つまり……一撃必殺の突破力───だけど、一夏くんの射撃能力の低さはご存知の通りだから、敢えて……」

 

「近距離で、叩き込む………」

 

シャルロットの返答に、楯無はニコッと笑った。

 

「そ。鋭いね♪」

 

開かれた扇子には、『見事』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

その日から、楯無による過酷な訓練の日々が幕を開けた。

グラウンドに球体の付いた柱を立て、それを中心に円状に飛翔していく。

重心の座標、スピード制御、射撃の方向、意識の割き方……さらには、円状に飛翔したままの瞬時加速(イグニッション・ブースト)………。

楯無の特訓はかなりのスパルタだった。一夏も何度も辛くなったが、弱音はぐっと堪え、何度も飛び、何度も失敗し、そして何度も立ち上がった。

そんな過酷な訓練の日々が、ずっと続いた。

一日が終わるたびに、一夏の身体は悲鳴を上げていたが、一夏はそれでも心を奮わせ、訓練を続けた。

 

 

 

 

 

そして時は過ぎ、ついにIS学園は、年に一度の学園祭を迎える。

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