狩人の夜明け   作:葉影

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頭の中ではスタイリッシュな戦闘を映像化出来てるのですが、それを文字に起こすのは至難の技です笑


第49話 灰被姫

『吹奏楽部展示』と表示された教壇のディスプレイの前で、一夏とセシリアは座っていた。此処では吹奏楽部の楽器を実際に体験できるということで、一夏はホルンを吹いており、その横で先ほどのジャンケンに勝ったセシリアが優しく見守っていた。

 

「おお!音が出た!」

 

「織斑くん、スジいいね〜。入部しない?」

 

吹奏楽部の先輩が一夏を軽く誘ってみる。

 

「いや、俺はちょっと……セシリアなんてどうですか?」

 

「わ、(わたくし)?管楽器はやったことありませんの……」

 

「そうなのか?フルートとか似合いそうだけどなぁ。なんか、深窓の令嬢って感じで」

 

「深窓の、令嬢……ふふ」

 

セシリアが嬉しそうに微笑んだ。

 

「他の楽器も持ってくるね」

 

「ありがとうございます」

 

吹奏楽部の先輩がその場を離れる。一夏もセシリアに微笑み、ホルンを手渡した。

 

「ほら、やってみ」

 

ホルンを渡されたセシリアの目が、一点に集中する。口を付ける部分……つまりマウスピースだが、このままセシリアが吹くと間接キスということになってしまう。一瞬でそれを悟ったセシリアは、顔が真っ赤になった。

 

「あ、あの……これ……」

 

「ん?どうしたんだよ」

 

「そ、その……間、接、キ、キス………」

 

「え?」

 

セシリアの消え入るような声に、一夏は聞き返そうとした。しかし、セシリアの視線の先にあるマウスピースに気付き、一夏自身も一気に顔が赤くなった。

 

「あ、す、すまんセシリア!無理して吹かなくても────」

 

ボォーーーン

 

一夏が止めようとするのを構わず、セシリアは赤い顔のまま勢いよく口をつけ、息を吹いた。ホルンは初心者の割には思いの外良い音が出たらしい。

セシリアが静かにマウスピースから口を離す。

 

「セ、セシリア……その………」

 

なんと言葉をかけて良いのか分からない一夏が、セシリアを見た。セシリアも考えていたことは同じだったらしく、こちらを見る。

 

「………ふふっ」

 

とても赤く、恥ずかしそうな笑顔で、セシリアは一夏に微笑む。そしてセシリアはほんの一瞬、その唇を舌で舐める仕草を見せた。その直後に、セシリアは無意識にそのような仕草をしてしまったことに恥じらいを感じ、手で口元を隠し、オホホホと焦りながら作り笑いをした。

貴族であるセシリアなら、そのような仕草は絶対にしないだろう。だからこそ、彼女の蠱惑的な一瞬の表情を、一夏は忘れることができなかった。心臓が高鳴る一夏の中で、彼女の仕草に対する恥ずかしさと、誰も知らない彼女の顔を見れたことに対する優越感とが入り混じっていた。

 

 

 

 

 

 

「よし!仕事に戻るとするか!」

 

セシリアと休憩時間を満喫した一夏は再び一組へと戻り、喫茶店の仕事を始めようとする。

 

「ん?」

 

いつのまにか自分の目の前に人がいたので見てみると、そこにはメイド服姿の彼女がいた。

 

「じゃじゃ〜ん」

 

「おわっ⁉︎た、楯無さん⁉︎」

 

『神出鬼没』と書かれた扇子を片手に、楯無はフフフと笑っている。

 

「ときに一夏くん……生徒会の出し物、観客参加型演劇に協力しなさい!」

 

「……はい?」

 

 

 

 

 

 

楯無に強引に引っ張られてやって来たのは第1アリーナの男子更衣室だった。

 

「じゃあこれに着替えたら、ステージに来てね」

 

そう言われて渡されたのは、王子様の衣装だった。事情も何も説明されてない一夏は、只々反応に困るしかなかった。

 

「それと大事なのは……はい、王冠♪」

 

楯無が一夏に小さな金色の王冠を渡す。

 

「あのー、脚本とか何も教えられてないんですけど……」

 

「大丈夫大丈夫!基本アドリブのお芝居だし、こっちからも指示を出すから♪それじゃあヨロシクね、一夏くん♪」

 

そう言って楯無は更衣室を出ていった。一夏は溜息を吐き、渋々渡された衣装に着替え始めた。

 

 

 

 

 

 

第1アリーナの天井が閉じられ、アリーナ内は静寂と暗闇が支配する。そして、マイク特有の金切り音が一瞬響いた後、楯無の力強い声が響き渡った。

 

『さぁ、幕開けよ!!』

 

楯無に連れられ、「ここで待ってて」と言われていた一夏は、一体何が起こるのだろうかと展開を待っていた。すると突然、一夏のもとへといくつものスポットライトが当たる。

 

「え?」

 

『昔々あるところに、シンデレラという少女がいました』

 

一夏の戸惑いを余所に、楯無のナレーションは続いていく。

 

『否、それはもはや名前ではない』

 

「……?」

 

『幾多の舞踏会を抜け、群がる敵兵を薙ぎ倒し、返り血を纏うことさえ厭わぬ、地上最強の兵士たち!』

 

「は?」

 

『彼女たちを呼ぶに相応しい称号……それがシンデレラ』

 

自分の知っているシンデレラとはかけ離れた物語に、一夏は呆気にとられる。

 

『王子の冠に隠された軍事機密を狙い……少女たちが舞い踊る!!』

 

デーンと巨大ディスプレイに映し出された『灰被り姫(シンデレラ)』。同時に観客席からは歓声が沸き起こる。そしてアリーナ全体の明かりが点いた。

先ほどまで真っ暗で分からなかったが、一夏がいつの間にかいたのは王宮の中の様子を模倣したような舞台で、王宮ならではの白い柱や、赤いカーペットが敷かれた階段などがセットされていた。

 

『今宵もまた、血に飢えたシンデレラたちの夜が始まる────』

 

上から気配がして、一夏が王宮の二階部分を見た。そこにはシンデレラ姿の鈴がいた。

 

「鈴!」

 

鈴は二階から軽やかに舞い降り、一夏の前に立つ。そしてあろうことか、突然ナイフを投げつけてきた。

 

「おわっ!」

 

一夏は驚き、咄嗟に避ける。

 

「何すんだよ!」

 

「さっさとその王冠を寄越しなさい!」

 

鈴はナイフを手に持ち、一夏に向かってブンブンと振り回し、詰め寄っていく。

 

「殺す気かよ!」

 

『ちなみに、武器は安全な素材で出来ているので心配は無用で〜す』

 

「ほんとかよ……」

 

鈴が一夏にナイフを投げる。一夏がそれを避けると、後ろの柱にナイフが突き刺さった。ナイフもゴムで出来ているので本来は柔らかい筈なのだが、その突き刺さった様子を見て、一夏は何一つ信じれるものが無くなった。

 

「待ちなさいよ!」

 

「そんなわけにいくか!」

 

一夏が階段を上って逃げると、今度は一夏のそばを銃弾が掠めた。

 

「うわっ!だ、誰だ⁉︎」

 

銃弾の飛んできた方向を見ると、遠くの方でセシリアがライフルを構えているのが見えた。

 

「セ、セシリア⁉︎」

 

「一夏さん、王冠を私に!」

 

「お、王冠……?これか?」

 

一夏が頭に乗った王冠を手に取ると、突然一夏の全身に強い電流が流れた。

 

「うあああ⁉︎」

 

『王子にとって、『国』とは全て!王子はその軍事機密を、死んでも守らなければならない………ということで、王冠を奪われるとビリビリ攻撃が来るから、一夏くんは死ぬ気で守ってね♪』

 

「楯無さん!」

 

一夏が何処かにいるであろう楯無に怒っていると、またしても少女たちの攻撃が一夏に襲いかかる。

 

「余所見してる場合じゃないわよ!」

 

「次はガトリングですわ!」

 

「くそっ……!」

 

一夏は二階部分から一階に降りる。しかし鈴がその後ろをすぐ追い、一夏が着地して振り返ると、鈴はナイフを構え頭上を飛んでいた。

 

「やべっ……!」

 

「もらったぁ!」

 

一夏が腕で顔を隠した。

 

ガキィン────!

 

一夏が目を開くと、目の前には燕尾服を着たシャルロットがいた。シャルロットはガラス製の盾で鈴のナイフを防いでいた。

 

「シャル⁉︎」

 

「やぁ、一夏」

 

シャルロットが盾で鈴を押し返す。鈴は軽やかに着地し、再びナイフを構えた。

 

「シ、シャルも王冠が目当てなのか⁉︎」

 

するとシャルロットは笑顔で首を振った。

 

「ううん、違うよ。僕の任務はね………()()()()()()()()()()()()()────」

 

『シンデレラの宿敵……それは、王子に仕える()()(しもべ)!側近である彼女たちは、その命をなげうってでも忠誠を誓わなければならないのだ!』

 

()()……?」

 

「ハァアアアア!!」

 

鈴が素早い動きで此方に詰め寄る。それと同時にセシリアからの銃撃が押し寄せる。

 

「一夏、逃げて!」

 

「お、おう!」

 

シャルロットが鈴の攻撃を防ぎ、一夏は壁の向こう側へと向かう。シャルロットはセシリアの方も見ながら鈴の攻撃を防いでいた。シャルロットがセシリアを見る、その一瞬の隙を鈴は逃さず、走っていく一夏の王冠目掛けてナイフを投げる。

一夏は自分のもとへ向かってくるナイフに反応できたが、身体が意識に追いつかず、避けられない。しかし、ナイフは王冠には届かず、一夏の目の前で止まった。

恐る恐る一夏が目を開けると、そこには燕尾服を着たマリアが立っていた。ナイフを止めたのは彼女で、その華奢な指先でナイフを挟んでいた。

 

「もう一人の(しもべ)は、私だ」

 

ニヤリと笑い、マリアはナイフを手で回転させ、素早く鈴に投げつける。ナイフは鈴のドレスの肩の部分の布に刺さり、鈴は後ろの柱に肩が磔にされる形になった。

マリアは階段のそばにあった、先端が二股に分かれた長い棒状の燭台を手にし、ジャンプして鈴に目掛けてそれを振り回す。

 

「キャ!」

 

鈴は肩の部分の布を強引に引きちぎり、なんとか避け切った。

 

「シャルロット!一夏を連れて逃げるんだ!」

 

「うん!」

 

シャルロットが盾をかざしながら、一夏とその場を離れていく。そしてマリアは燭台を自分の前で回し、セシリアの銃弾を弾いていく。血に飢えた姫たちと、王子を守る(しもべ)たちの闘いは、ますます熱いものとなっていった。

 

 

 

 

 

 

シャルロットと一夏は王宮の屋上の方まで上ってきた。

 

「はぁ……はぁ……ここなら大丈夫かな」

 

「助かったぜ、シャル……」

 

二人は汗を拭い、束の間の休憩を取ろうとした。しかし、その時。

 

「安心するのはまだ早いぞ」

 

月夜(もちろん月は作り物である)に光る、小さな人影。それはサバイバルナイフを持ったラウラだった。

 

「ラウラ!」

 

「私もいるぞ」

 

ラウラとは反対方向から、またしても新たな人物が姿を表した。そこには木刀を持った箒がいた。シャルロットと一夏は両者に挟まれる形となってしまった。

 

「箒もか……」

 

「一夏、その王冠を私に渡せ。そうすれば、手は出さないと約束しよう」

 

箒が真剣な声で一夏に告げる。しかし、シャルロットはそれに対し拒否をした。

 

「悪いけど、僕とマリアも一夏を守りきらないといけないんだ」

 

「ふんっ……ならば、話は終わりだ!」

 

ラウラと箒が同時に一夏たちに向かって走り出した。

 

……そもそも、何故彼女たちはこれ程までに王冠に固執するのだろうか。それは、つい一時間程前に起きた出来事が原因だった。

 

 

─────────

───────

─────

 

 

戦劇が開かれる一時間程前。

楯無は箒とセシリアと鈴とラウラにとんでもないことを告げていた。

 

『一夏くんの王冠を取った人には、彼と同居できる権利を与えるわ』

 

呆気に取られる彼女たちは、ハッとした後に楯無に質問をした。

 

『で、でも……そんなことが……』

 

『できるわ』

 

楯無が力強く答えた。

 

『生徒会長の権限で、なんとしても可能にしてあげる♪』

 

でも、と楯無は続ける。

 

『それだと、演劇は彼の負けですぐに終わっちゃうから面白くない。だからシャルロットちゃんとマリアちゃん、貴女たちには一夏くんを守る役目を与えるわ』

 

『え、ええ?』

 

シャルロットが目を丸くする。マリアはテーブルを片付けながら聞いていた。

 

『もし一夏くんを最後まで守り切れたら、貴女たち二人には、高級ホテルのディナー招待券をプレゼントしてあげる♪』

 

『ええ⁉︎ど、どうするマリア⁉︎』

 

ディナー招待券と聞いて、マリアと二人で行けるとわかり、顔を赤くしながらシャルロットはマリアに聞く。するとマリアは微笑み、こちらを向いて、

 

『いいだろう。面白くなりそうだな』

 

と答えた。

 

『じゃあ決まりね!皆、一時間後によろしくお願いね♪』

 

 

─────

───────

─────────

 

 

ラウラがナイフを振り下ろす。

シャルロットがそれを盾で受け止め、腰に携えたハンドガン(銃弾はゴム製)を左手に持ち、引金(トリガー)を指で引っ掛けクルクルと高速で回しながら、ラウラの顔へとぶつけようとする。ラウラは顎を上げてそれを後ろへ身体を反って避け、そのままナイフを持っていた手で地面をつき、バク転をする。そして回転をしながら、ラウラはその脚でシャルロットのハンドガンを蹴り上げる。

 

「くっ!」

 

「甘い!」

 

ハンドガンは天高く飛んで行き、シャルロットは盾でなんとかラウラの素早い攻撃を防いでいく。なんとかラウラの攻撃を捌いてはいるが、不利な状況には変わりなく、シャルロットの顔に曇りがさした。

 

 

一方、一夏は箒の剣戟を必死に避けていた。

 

「くっ……ちょこまかと!」

 

自分の攻撃がなかなか決まらない箒は、だんだんとイライラし始める。そんな箒を見て、一夏は冷静に箒の刀と目を見る。

 

(一瞬でいい……隙が出るはずだ……ほんの一瞬の隙が………)

 

すると、箒が力強く縦に刀を一閃した。一夏が横にズレて避けると、刀の先が地面に突き刺さる。一夏はその一瞬を見逃さなかった。

 

「そこだ!」

 

大きく脚を回し、箒の刀を蹴り飛ばす。

 

「しまった!」

 

「よし!」

 

焦る箒を余所に、刀はクルクルと回りながら空中を舞っていく。

 

「一夏!逃げて!」

 

シャルロットが一夏に言った。

なんとラウラはシャルロットの防衛を走り抜け、空中をジャンプし、一夏が蹴り飛ばした刀をキャッチしたのだ。

 

「マジかよ……!」

 

「終わりだ、嫁よ!」

 

壁を蹴り、刀とともに一夏に急接近するラウラ。一夏はもうダメかと思い、腕で顔を隠す。

しかし、その時────。

 

「一夏!伏せろ!」

 

彼女の声だ。

一夏はその声に意識が追いつくよりも早く身体が先に動き、咄嗟に身体を屈める。

すると屈んだ一夏の背中に彼女がジャンプし、背中を合わせる形で、彼女は横になる。

燭台を持った彼女はその姿勢のままラウラのナイフを防ぎ、空からその場に落ちてきたシャルロットのハンドガンをキャッチする。

 

「マリア!」

 

助かった、という顔をする一夏。

マリアは一夏の前に立ち、ハンドガンを華麗に連射する。ラウラと箒はその銃撃から距離を取った。

 

周囲に静寂が渡る。

気づけば鈴とセシリアもこの場に到着し、四方を囲まれてしまった。

一夏とシャルロットとマリアは背中を合わせ、身を構える。

 

「さて、どうしようか」

 

マリアが二人に言った。

 

「な、なあ……この状況マズくないか?」

 

一夏が不安そうに言った。

 

「ハハ、一夏が怖がってどうするのさ。僕はこういうピンチ、嫌いじゃないよ」

 

シャルロットは余裕そうだ。

 

「フッ……同感だ」

 

マリアが不敵な笑みを浮かべた。一夏も二人を見て、自分を奮い立たせる。

 

「……そうだよな。二人とも、俺を死ぬ気で守ってくれ」

 

シャルロットとマリアは笑って頷いた。

 

「それで、この状況……どうする?王子様」

 

シャルロットが尋ねる。一夏は数秒間考えた後、二人に作戦を伝えた。

 

「ほんの少しでいいから、あいつらが油断する隙を作りたい。マリア、その銃……あと何発残ってる?」

 

「そうだな……七発くらいじゃないか?」

 

「十分だ。俺が合図したら、マリアのお得意の素早さで、あいつらの足元か持っている武器を狙って撃ってくれ。それと同時に俺があそこまで走って、屋上から飛び降りる。シャルロットは鈴とセシリアを、マリアは箒とラウラの相手を頼む」

 

「王子様は逃げ切れる?」

 

「残り時間も少ない。大丈夫さ。俺だって逃げ足は速いんだぜ」

 

「ふふっ、なら良かった」

 

「よし。シャル、マリア……頼むぞ」

 

「「仰せのままに」」

 

一夏は深呼吸をする。周囲に緊張が走った。

 

「3、2、1……今だ!!」

 

シャルロットがしゃがみ、一夏が走り出す。

そしてマリアが瞬時に、目の前のラウラと箒の武器に銃撃を浴びせ、そしてくるりと回転し、後ろの鈴とセシリアの武器も狙って撃つ。

シンデレラたちは武器を弾かれ、地面へと落としてしまった。

マリアが撃ったと同時に全速力で走り出した一夏は、屋上の塀を越え、大ジャンプをした。そして向こう側の建物にワイヤーを引っ掛け、空中を飛ぶ。

 

『さあ!ここでフリーエントリー組の登場です!果たして王子は最後まで逃げられるのか⁉︎』

 

遠くの方で、観客席と舞台を繋ぐ橋が架かる。するとそこから大量の観客たちがドッと走ってきた。一夏との同居の権利を狙う、新たなシンデレラたちだ。

 

「はぁ⁉︎聞いてねえぞ!」

 

地面に着地した一夏は樹々の密集したところへと入る。逃げながら、次は何処へ行こうかと走りながら考えていると────

 

ガコンッ!

 

「うわっ!」

 

突然、地面から足を掴まれた。一夏はそのまま地面の隠し扉の中へと引き込まれる。

 

ドンッ

 

床に落ちた感触がした。

 

「いってて……」

 

目を開くと、そこは普段良く使う更衣室の中だった。明かりはついていなく、視界もハッキリとしない。

しかし、目の前に誰かがいた。

 

「ここなら、見つかりませんよ」

 

女の声。

しかし、つい最近何処かで聞いた覚えのあるような……。

 

「ど、どうも……」

 

荒い呼吸をしながら、一夏は返事をする。その直後、一夏は目を丸くした。

 

「あれ、どうして巻紙さんが⁉︎」

 

その女は、先ほど自分にIS装備の交渉を持ち込んできた巻紙礼子だった。巻紙礼子はゆっくりと振り向く。

 

「はい……この機会に、白式を頂こうかと思いまして」

 

「……は?」

 

暗闇の中で、巻紙礼子がニヤリと笑う。

 

「いいから……とっとと寄越しやがれよ!」

 

ドンッ!

 

「ぐあっ!!」

 

突然、一夏は巻紙礼子に蹴り飛ばされ、後ろのロッカーへと叩きつけられる。

 

「ゲホッ、ゲホッ……あ、あなたは……一体……?」

 

「私か?企業の人間に成りすました、謎の美女だよ!!」

 

高らかに笑いながら、巻紙礼子は自身の身体から何本もの機械の脚を出現させた。その姿はさながら蜘蛛のようで、その目は獲物を狙うものであった。

 

「くっ……白式!」

 

一夏は白式を展開させ、身に纏う。

 

「待ってたぜ……そいつ(白式)を使うのをよぉ!!」

 

不敵な笑みを見せる蜘蛛の姿に、一夏の頰に一筋の汗がつたった。

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