狩人の夜明け   作:葉影

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イギリス英語っていいですよね。
僕もイギリス英語使用圏内に留学していたので、綺麗なクイーンズ・イングリッシュには憧れています。


第6話 感覚

「ちょっとよろしくて?」

 

「「ん?」」

 

休み時間、一夏とマリアが話をしていると、一人の少女が二人の前に現れた。

先程、一夏を睨むような雰囲気を出していた少女だ。

その少女の髪は金色に映えており、鼻は高く、碧眼である。身長も低く少し垂れ目ではあるが、その少女の纏う雰囲気は凛々しく、貴族のような印象を受ける。

マリアは心のどこかで、彼女と自分はどこか通じる部分があるような気がした。はっきりとした根拠はないが、彼女の容姿や雰囲気が、マリアのかつて生きていた時代の人々を思い出させた。

しかし彼女の、どこか周囲の人々を見下すような、高飛車な態度がマリアを不快にさせる。同時に、妙な感情が蘇る。

 

 

 

私は……この感覚をどこかで……。

 

 

 

何かを思い出そうとするが、それが何か分からない。

 

「まぁ!なんですの、そのお返事は!わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、其れ相応の態度というものがあるのではなくて?」

 

「………」

 

「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」

 

 

なんだこの女は……。

 

マリアは碧眼の少女を見て顔を顰める。

 

「な、わたくしを知らない⁉︎このセシリア・オルコットを⁉︎イギリスの代表候補生にして入試首席のこのわたくしを⁉︎」

 

 

イギリスだと……?

 

イギリスの代表候補生と聞いて、IS学園に入学する前のことを思い出す。

確か例のイギリス代表候補生も、初めてISに触れた時、私と同じように損傷を起こしたと聞いたが……。

つまり彼女が、その人物ということか?

研究所の職員からは彼女の名前を聞いていなかったが、オルコットというのか……。

 

「そうか、君が例の……」

 

「あら、貴女は?」

 

「……研究所から伝わってないのか?」

 

マリアが一夏に聞こえないように小声でそう言うと、セシリアは途端に険しい表情をする。

 

「……そうですか、貴女が……」

 

「なぁ、質問良いか?」

 

一夏がセシリアを見て質問をする。

セシリアはマリアを睨んでいたが、一夏に呼ばれ、ハッとして一夏に応える。

 

「えぇ。下々の要求に応えるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

「代表候補生って、何だ?」

 

「んなっ⁉︎」

 

セシリアは口をあんぐりと開けてワナワナと震えている。

他のクラスメイトもこちらの会話を聞いていたのか、一夏の予想外の発言に驚いている様子だ。

 

「し、信じられませんわ!日本の男性というのは、こんなにも知識に乏しいものなのかしら⁉︎常識ですわよ、常識!」

 

「で、代表候補生って?」

 

セシリアは目を光らせて微笑み、一夏に誇らしげに説明をしようとする。

しかし、先にマリアが一夏に教えてしまった。

 

「一夏、代表候補生はその国のIS操縦者の代表になり得る候補生として選出された者だ。単語からして大体分かるだろう」

 

「ああ、確かに」

 

「………何故貴女が説明するのですか?」

 

「ああ、すまない。そんなに言いたかったか?貴族である君の口を、わざわざ煩わせたくはなかったのでね」

 

「………癪に障りますわね」

 

セシリアはマリアとの会話に見切りをつけ、一夏の方に向き直る。

マリアも何も言わなかった。

 

「まぁ、要するにエリートのことなのですわ!そのエリートであるわたくしとクラスを共にするだけでも幸運中の幸運。もう少しその現実を噛み締めてくれませんこと?」

 

「そうか、それはラッキーだ」

 

一夏はあっけらかんとセシリアに言う。

一夏の返答が面白くなかったのか、セシリアは一夏をじっと見つめる。

 

「………馬鹿にしていますの?」

 

「お前が幸運だって言ったんじゃないか」

 

「大体、何も知らないくせによくこの学園に入れましたわね。男でたった一人、ISを操縦出来ると聞いてましたけど、期待外れでしたわ」

 

セシリアは一夏を蔑むような目をしながら鼻で笑う。

一方、一夏は馬鹿にされてることなど全く気にしていない様子だ。その辺りまで鈍いのかどうかは本人にしか分からないが。

 

「俺に何かを期待されても困るんだが」

 

「まぁ、わたくしはエリートですから、貴方のような人でも優しくしてあげますわ。泣いて頼むのであれば、わたくしが貴方にISについて一から教えて差し上げてもよろしくてよ?何せわたくし、入試で唯一、教官を倒したエリート中のエリートなのですから!」

 

セシリアは誇らしげな顔で一夏に言う。また彼女の言葉は、マリアにも伝えているような感じが取れ、所詮わたくしと違い貴女にも教官は倒せなかったのでしょう、と言いたいようなメッセージがマリアに伝わる。

マリアにとっては、倒せなかったどころかそのような試合の機会もなかったため、入試の過程として生徒と教師が試合をすることは今初めて知った。

 

セシリアの言葉を聞いた一夏は、何か疑問に思ったのか首を傾げる。

 

「あれ、俺も倒したぞ、教官」

 

「はぁ⁉︎」

 

セシリアは目を大きく開き、一夏に詰め寄る。

 

「貴方も、貴方も教官を倒したというのですか⁉︎」

 

「いや、倒したというか……」

 

「た、倒したのはわたくしだけと伺っていましたが……」

 

「“女子では”ってオチじゃないのか?まぁ落ち着けよ」

 

「こ、これが落ち着いていられ────」

 

セシリアが更に一夏に詰め寄ろうとすると、授業開始のチャイムが鳴ってしまった。聞けずじまいになり悔しい顔をする。

 

「この話はまた後で!よろしいですわね⁉︎」

 

そう言うとセシリアは渋々自分の席へと戻って行った。

 

2人の会話を聞いていたマリアは、セシリアが去った後、一夏に問いかける。

 

「一夏、本当に教官を倒したのか?」

 

「いや、試合が始まった直後に教官が突っ込んできたから、避けたんだよ。そしたら壁にぶつかっちまってさ。何もしてないのに勝ってしまったんだ」

 

「それは……勝ちなのか?いや、どんな形でも勝ちは勝ち、か」

 

マリアは笑いながら少し拍子抜けする。

 

しかし、あの代表候補生は何故ISに異常反応を起こさせたのだろうか?

いや、そもそも自分の原因も解らないのに、彼女のことも解るはずもない、か……。

何れにしろ、彼女には好感が持てない。その事について尋ねる気もしないな。

 

千冬と真耶が教室に入ってきたので、マリアも自分の席へと着席した。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「織斑くん、マリアさん、少しいいですか?」

 

放課後、周囲の生徒達が帰って行く中、真耶が一夏とマリアを呼び寄せる。

 

「実は、お二人の部屋についてなんですが……」

 

「急な入学のため、私達はしばらくの間一夏の自宅から通うと聞いていたが」

 

「ええ、そうお伝えしていたのですが、少し事情がありまして、お二人とも今日から皆さんと同じように学生寮の部屋が使えるようになりました」

 

「え、でも俺荷物は何も持ってきてないですよ?」

 

「その面は安心しろ」

 

三人の話していたところに、千冬が混ざってくる。

 

「お前の荷物は私が用意した。1週間分の下着やシャツ、携帯の充電器があれば過ごせるだろう」

 

「あ、千冬姉」

 

「学校では織斑先生だ。それとマリア、お前の分も用意してある。下着も何着か用意した。まぁ……胸のサイズは計ってないが、とりあえずは大丈夫だろう」

 

「そうか、ありがとう」

 

「ち、千冬姉、何言ってんだよ……」

 

「学校では織斑先生だ!」

 

千冬とマリアの会話を聞いて顔を赤くした一夏の頭を、千冬が出席簿で叩く。

一夏は痛そうに頭を抑えた。

 

「こちらがお二人の部屋の鍵です。突然で申し訳ありませんが、よろしくお願いしますね」

 

そう言って真耶は二人にそれぞれ部屋の鍵を渡す。

その後は学生寮の簡単なルールを聞いて、一同は解散となった。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「ここか……」

 

マリアは自分の部屋に辿り着き、鍵を挿して部屋の中に入る。

扉を開けると、ベッドは二つあったが、ルームメイトは誰もいなかった。どうやら自分一人だけのようだ。

 

マリアは部屋の環境の良さに少し感動していた。

部屋にある液晶テレビといった機器などに関しては、千冬達の家で見慣れていたためさほど驚くことはないが、一学生のためにここまで綺麗で整っている部屋が提供されるとは、なんとも贅沢な学園だろう。

机の上には、千冬が置いてくれたであろう荷物が置かれていた。

 

マリアが荷物を開こうとすると、廊下から喧騒が聞こえた。

音の正体を見ようと部屋の扉を開けたマリアは、少し離れた所で一夏がいるのを見つけた。

なにやら扉の前で誰かに話しかけているようだが、相手が見当たらない。

 

「い、今のは謝るから!お願いします箒さん、中に入れてくださいお願いします!」

 

一夏がそう言ってしばらく経つと、一夏の前の扉が開く。

 

「……………入れ」

 

扉を開けたのは一夏の友人、箒であった。まだマリアは箒と話していないため、箒がどのような人物か知らないが、今日二人で屋上に行ったり、お互い下の名前で呼ぶところを見ると、仲は良いのだろう。

 

マリアは部屋に入り、衣服を脱ぎ浴室に入る。

 

今日は寝るか……。

 

その日は特に課題もなかったため、シャワーを浴び終えた後は直ぐに眠りに入った。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

翌日、朝の食堂。

一夏と箒は隣同士、席に座って朝食を食べていた。

が、二人とも会話がなかなか弾んでいない。

 

「なぁ、昨日のことまだ怒ってるのか?」

 

「………」

 

「………もう許してくれよ……」

 

一夏は謝罪の言葉を箒にかけるが、箒はそれでもツンとした顔をしている。どうやら簡単には許す気になれないらしい。

一夏は暗い雰囲気を変えようと、話題を変える。

 

「箒、この鮭美味いな」

 

「………」

 

「この玉子焼きも美味いぞ、箒!」

 

「………で呼ぶな」

 

「え?」

 

「名前で呼ぶな、と言っている!」

 

「じゃあ……篠ノ之さん?」

 

「それもダメだ!」

 

「じゃあ、そこの少女!」

 

「お前というやつは……!」

 

「ねぇ、隣いいかな?」

 

一夏と箒が話していたところに、三人の少女達がやってくる。

 

「おう、いいぜ。確か君は……」

 

「ありがとう!私は谷本癒子。こっちは布仏本音で、その隣は四十院神楽ね」

 

「よろしくね、織斑くん」

 

「よろしく、おりむ〜」

 

谷本癒子という少女はおさげ型の髪をしており、相川清香と同じく明るそうな印象だ。

反対に、四十院神楽と呼ばれた少女は大人しめの雰囲気で、箒と同じように黒髪で大和撫子といった容姿をしており、気品がある。

そして布仏本音と呼ばれた少女は、狐の着ぐるみのようなものを着ており、全体的にのほほんとしている。

 

三人は一夏の隣に座れたことに喜び、互いに笑顔でハイタッチをし合う。

周囲の女子生徒からも、先を取られた、まだチャンスはあるなどの言葉が聞こえる。

 

「なぁ、その“おりむー”って何だ?」

 

「だって〜〜名前が“おりむら”でしょ〜〜?だから、おりむ〜」

 

「そんなあだ名付ける人初めてだぜ」

 

「それよりも織斑くん、朝ごはんいっぱい食べるんだね」

 

「男の子って感じだね!」

 

「そうか?ていうか、女子はそんなんで足りるのか?しっかり食べないと一日もたないぞ」

 

一夏の朝食は焼き魚と味噌汁、冷奴や納豆といった健康的なメニューだが、彼女達三人はパン一枚にサラダ、またはゼリーと健康ジュースのみなどといった少ないメニューである。

一夏に指摘された彼女達は苦笑いをして誤魔化す。

 

「あ、あはは、私達は……ね?」

 

「お菓子食べれるし!」

 

ダイエットなのか、男子と違って単に少食なのか…。

女子にも色々とあるのだろう。

本音のお菓子が食べれるという返答はよく分からなかったが。

 

彼女達と一夏が楽しく談笑していたところで、箒がすっと席を立ち上がる。

 

「私は先に行くぞ」

 

「ああ、また後でな」

 

「………」

 

箒は何も返事をせず、足早にその場を去っていった。

そのやりとりを見ていた癒子達が、一夏に尋ねる。

 

「ねぇ、織斑くんって篠ノ之さんと仲良いの?」

 

「ああ。まぁ幼馴染みだし」

 

「「「幼馴染み⁉︎」」」

 

「ああ。幼い頃、剣道場で一緒に頑張ってた仲だったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏は少し遠い目をして、過去のことを思い出そうとする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あんまり覚えてないんだよな……昔のこと………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂の扉が開き、一人の教師が入ってきた。

 

「遅い!食事はもっと効率良く、迅速に取れ!私は一年生の寮長も勤めている。遅刻した者はグラウンドを十周は走ってもらうぞ」

 

そう厳しい声をあげたのは千冬だった。

千冬の言葉を聞いた女子生徒達は、一斉に急いで朝食を口に運ぶ。

 

 

そうか、寮長……。

 

なるほど、道理で家に帰って来ない訳だ……。

 

 

千冬が寮長と知った一夏は、千冬の新たな一面を知り、静かに微笑む。

 

やがて一夏も朝食を済ませ、教室へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏が朝食を済ませる少し前。

箒は食堂を出て一人で教室に向かっていた。

その顔には怒りの表情が浮かんでいる。

 

「全く……一夏というやつは……!」

 

「どうしてあんなにデリカシーが無いのだ!」

 

愚痴をこぼしながら廊下を歩く箒。

そんな箒の肩を、誰かが触った。

箒は一夏が来たと思い、振り向く。

 

「何だ一夏!私は────」

 

「おはよう、篠ノ之さん」

 

振り向いた所にいたのは、一夏ではなくマリアだった。

箒は途端に恥ずかしくなり、顔を紅くする。

 

「ふふ、一夏でなくてすまない」

 

「い、いや、私は別に一夏なんて……」

 

箒は顔を紅くしながら、コホンと咳払いをする。

 

「貴女は……マリア、さん?」

 

「マリアでいいよ」

 

「そ、そうか、マリア……おはよう。私のことも箒でいい」

 

「そうか、箒。これからよろしく頼む」

 

マリアは箒に優しく微笑む。

箒はその立ち振る舞いと優しい表情を見て、周囲の人よりも大人な印象を受けた。

 

二人は一緒に教室へと続く廊下を歩き出す。

しばらくして、最初にマリアが口を開いた。

 

「一夏が気になるか?」

 

「え⁉︎」

 

「顔に書いてあるよ」

 

箒はそこまで自分の思っていたことが顔に出ていたことに恥ずかしくなる。つい自分の手で顔を何度か触ってしまう程に。

 

「昨日、一夏と同室みたいだったが何かあったのか?」

 

「!知っていたのか……」

 

「私の部屋は少し離れた所にあってな。二人の姿が見えたんだ」

 

「そうか……」

 

箒は一呼吸置いて、また話し始める。

 

「い、一夏と私は同室ということに驚いたが、それはいいんだ。ただあいつは、あろうことか私の、し、下着を………」

 

「すまない、何だって?」

 

箒の最後の言葉が小さくてもう一度聞き直すマリア。

箒は顔から火が出るくらい顔を紅くし、わなわなと震える。

 

「と、とにかく!あいつは女心に鈍過ぎるのだ!全く、唐変木にも程があるぞ……!」

 

一人怒りながらも顔を紅く染める箒を見て、マリアは優しく微笑む。

 

「好きなんだな……一夏のことが」

 

「な⁉︎な、な、ななな、なにを……⁉︎」

 

「大丈夫。箒ならきっと幸せになれるさ」

 

「い、いいいいったいなにを……⁉︎」

 

箒はますます顔を紅く染める。恥ずかしさのあまり言葉も出ていない。きっと図星なのだろう。

 

 

一夏のことを考えている箒の姿を見て、マリアは少し思い耽る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば、私にも…………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何かを思い出そうとするが、何も出てこない。

 

 

この世界に来てからというもの、何故か過去の記憶が断片的にしか残っていないのだ。

 

 

それも、だんだんと曖昧になっていくような感覚……。

 

 

 

何か大切なことを、感情を、私は記憶の片隅から零してしまったのか………?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、教室に着いたぞ」

 

マリアは箒に教室に入るよう促すが、どうやら一人の世界に入ってるらしく、聞こえていないようだ。

マリアは笑みを零し、先に教室に入った。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

授業開始のチャイムが校内に響き渡り、生徒達が授業に臨もうとする頃。

千冬は教卓に立ち、クラスの前で話し始めた。

 

「さて、授業を始める前に……一つ決めておかなければならないことがある。クラス代表について、だ」

 

クラスメイト達はクラス代表という言葉を聞いて、期待を持った表情をする。

 

「クラス代表は、対抗戦だけでなく、生徒会の会議や委員会への出席など………まぁ、クラス委員長と考えてもらっていい。自薦他薦は問わない。誰かいないか?」

 

千冬が生徒達にそう問いかけると、一人の生徒が手を挙げる。

それに続き、他の生徒達も手を挙げ始めた。

 

「はい!織斑君が良いと思います!」

 

「え」

 

「私もそれが良いと思います」

 

「いや、ちょっと」

 

当の一夏はまさかの展開に驚き、抗議を始める。

 

「ちょっと待ってくれ!俺にクラス代表は当てはまらないぞ」

 

「自薦他薦は問わないと言った。拒否権は無いぞ」

 

千冬が一夏にそう言うと、一夏はマジかよ…と言いながら大人しくする。

 

「他にはいないのか?いなければ無投票当選だぞ」

 

「はい!私はマリアさんがクラス代表になってほしいです!」

 

「わ、私も!」

 

「ほう……マリアか………」

 

千冬は意外な選出に面白そうな表情を浮かべた。

窓の外を眺めていたマリアは、まさか自分が選ばれるなどと思わなかったので、多少驚いている。

 

「では、この二人のどちらかでいいか?何かしらの形で決めてもらうことになるが……」

 

千冬が次の段階へ移ろうとした矢先に、教室の後ろの方から机を強く叩く音が聞こえた。

 

「納得がいきませんわ!」

 

音の主はイギリス代表候補生のセシリアだった。

セシリアは主張を続ける。

 

「そのような選出は認められません!男がクラス代表なんていい恥晒しですわ!それに、あのマリアという方が選ばれる理由も分かりません!どちらも実力なんて知れてるのに、そのような屈辱を一年間わたくしに味わえと⁉︎」

 

セシリアはこれ以上ないくらい怒りの言葉を口にする。

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛!実力で見ればわたくしがクラス代表になるのは当然ですわ!それを物珍しいからという理由で極東の猿や老婆の様な白髪の女が選ばれては困ります!わたくしはこのような島国までISの修練に来ているのであって、サーカスをする気なんて─────ひっ⁉︎」

 

セシリアがまくし立てていた矢先、教室中に途轍もない殺気が走る。

 

その殺気の主はマリアだった。

 

マリアはゆっくりと立ち上がり、セシリアの方へと近づいていく。

 

 

「ほう?貴様……どうやら死にたいらしいな」

 

 

マリアはセシリアの目の前で止まり、セシリアの胸ぐらを掴み上げ、セシリアの顔を強引に近付ける。

 

セシリアは顔を蒼くし、怖れの表情を浮かべ、恐怖のあまり何も言えないでいる。

周囲のクラスメイト達はあまりのマリアの恐ろしさに顔を真っ青にし、まるで自分の命が狩り取られるかのように錯覚していた。

 

あの千冬でさえも、マリアが漂わす殺気に警戒している。

 

「代表候補生であるお前の言ったことは、イギリスの主張として認識される。お前の発言は間違いなく国際問題になるだろうな……」

 

マリアのかつて生きていた時代と違い、今は文明が進んでいる。

セシリアの発言など、教室の音声機器を弄れば再生する事など造作も無いであろう。

代表候補生でありながら今更その事実に気付いたセシリアは、ますますその顔を蒼く染める。恐怖と後悔のあまり、少し震えているようだ。

 

マリアはそんな様子のセシリアを見て、鼻で笑う。

 

「出自は貴族みたいだが、中身は傲慢な泥に塗れた只の下種なようだな。気品の欠片も無い」

 

少し離れた所で二人の様子を見ていた箒は、マリアの先程の姿との違いに驚いていた。

 

私と話していたときは、あれほど優しい顔をしていたのに、これほどの恐ろしい殺気を放つとは……。

 

只の一生徒ではなく、目の前の獲物を狩り取る一人の狩人がそこにいるように感じた。

 

 

マリアはセシリアから手を放し、セシリアは自分の椅子に力無くへたり込む。

 

 

マリアは去り際に、セシリアに一言放つ。

 

 

 

「私達が選ばれるのは恥晒しと言っていたが、私からすればお前が選ばれるなどいい恥晒しだよ」

 

 

 

マリアは自分の席に座ると同時に、殺気を消す。教室中の空気の重さが少し無くなった。

 

 

そして、セシリアは自分が貶されたことに対して、自分のプライドが許さないのか、立ち上がってマリアに宣戦布告する。

 

 

「決闘ですわ!」

 

 

それを受けたマリアは、もうセシリアの相手をするのが面倒になったのか、一夏に受け流す。

 

「だ、そうだが。一夏、どうする?」

 

「いいぜ。四の五の言うより分かりやすい」

 

一通りのやり取りに区切りがついたと判断した千冬は、クラス代表についての決定を下す。

 

「話は纏まったな。ではクラス代表を決める試合は一週間後、第三アリーナで行う!織斑とオルコット、そしてマリアは各々準備をしておくように」

 

そう言い終えた千冬は、今日の授業を始めた。

マリアは窓の外を見て、自分の今作られているであろう専用機に思いを馳せた。

 

 

 

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