狩人の夜明け   作:葉影

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第7話 力

午前の授業が終盤に差し掛かり、後数分で昼休みのチャイムが鳴ろうとする頃。

授業に区切りを付けた千冬が一夏とマリアを見た。

 

「織斑、それからマリア。お前達のISだが、準備迄に少し時間が掛かるぞ」

 

「え?」

 

一夏はよく分からないといった表情で千冬を見る。

 

「マリア、お前は色々事情があってはっきりとしたことは我々も知らされていないが……織斑、お前には予備の機体が無い。学園で専用機を用意するそうだ」

 

千冬が『専用機』という言葉を発した途端に、周囲が騒つく。

どうやら一年生のこの時期から専用機を与えられることは極めて稀らしく、政府からの支援も出るなどといった話が周囲から聞こえてくる。

 

「専用機があるって、そんなに凄いことなのか?」

 

世界のIS事情について未だよく解っていない一夏は首を傾げる。

そんな一夏の前に、一人の少女が現れた。

 

「それを聞いて安心しましたわ」

 

その少女は、先程一夏とマリアに決闘を申し込んだセシリア・オルコットだった。

 

「私が専用機で貴方達が訓練機では、流石に公平ではありませんものね」

 

一夏はセシリアの言ったことに質問をする。

 

「お前も専用機を持っているのか?」

 

「ご存知無いの?宜しいですわ。庶民の貴方に教えて差し上げましょう」

 

そう言うとセシリアは髪を少しかき上げる。

 

「この私、セシリア・オルコットはイギリス代表候補生。つまり既に自身の専用機を持っていますの。世界にISは467機。専用機を持つ者は、全人類の中でもエリート中のエリートなのですわ!」

 

「たった467機?」

 

ISの数の少なさを初めて知った一夏に、谷本癒子が解説を加える。

 

「ISの中心に使われている『コア』という技術は一切開示されてないの。467機全てのISのコアは、篠ノ之束博士によって作成された物なんだよ」

 

それを聞いた一夏は、静かに視線を箒へと向ける。

箒は此方に耳を傾けようとせず、窓の外を見ていた。

 

「ISのコアは完全にブラックボックスで、篠ノ之博士以外は誰もコアを作れないんだって。でも、博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しているの。国家、企業、組織機関では、割り振られたコアを使用して研究・開発訓練を行うしかない状況なんだよ」

 

癒子の解説を引き継ぐように、千冬がその先を続ける。

 

「本来なら、専用機は国家や企業に所属する人間にしか与えられない。が、お前の場合は状況が状況なので、データ収集を目的として専用機が用意される、という訳だ」

 

一夏は、取り敢えずは納得したという表情をしている。

そこで一人の女子生徒が、千冬に質問をした。

 

「先生、もしかして篠ノ之さんって篠ノ之博士の関係者なんでしょうか?」

 

千冬はチラリと箒を見る。

箒は自分の机に視線を保っていた。

 

「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 

千冬がそう言うと、途端に周囲は驚きの声が上がる。

箒は周囲の反応が鬱陶しい、といった顔をしていた。

 

「篠ノ之博士がお姉さんなの⁉︎凄いな〜」

 

「篠ノ之博士って、世界中の国や企業が探しているんだよ」

 

「ねぇねぇ、篠ノ之さんなら何処に居るのか知ってるんじゃない?」

 

他のクラスメイト達が好き勝手言う中、箒は彼女達に向かって声を張り上げた。

 

 

「あの人は関係ない!」

 

 

箒は言葉を続ける。

 

 

「私はあの人じゃない。教えられるような事は何も無い」

 

 

周囲が静まり返る中、昼休みのチャイムが鳴った。

 

 

箒と束さんって、そんなに仲が悪かったっけ……。

 

 

一夏は箒を見ながら、心の中でそう思った。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

「箒、飯食いに行こうぜ」

 

箒の元に、一夏がやって来た。

しかし箒は浮かない顔をしている。

 

「私はいい」

 

「他のクラスメイトとも一緒に行こうぜ。やっぱり皆仲良くしたいもんな。ほら、立て」

 

一夏はそう言って、箒の手首を掴む。

 

「おい!私はいいと─────」

 

「なんだよ、歩きたくないのか?あ、おんぶしてやろうか?」

 

一夏は笑いながら軽く冗談を言う。

箒は其れに恥ずかしいような腹が立つような感情が混じり、一夏の手を振りほどき、一夏を突き飛ばそうとする。

 

 

「ええい、離せ!この─────」

 

 

「箒」

 

 

一夏を突き飛ばそうとする箒の腕を優しく止める者がいた。

 

 

「マ、マリア……」

 

「私も一緒にいいか?」

 

マリアは微笑みながら二人に問いかける。

 

「ああ、いいぜ。じゃあ行こう」

 

一夏はそう言うと、教室の外へと足を運ぶ。

マリアは箒に耳打ちをした。

 

「落ち着くんだ、箒」

 

「わ、私は落ち着いてる」

 

「ふふ、世話が焼けるな」

 

「な、なんだそれは」

 

「色々あるんだろう?また話は聞いてやる。今は昼食を食べよう」

 

そう言うとマリアは、箒の手を取って歩き出す。

その光景を見ていたクラスメイト達は、箒を羨ましそうな目で見ていた。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

食堂に入ると、マリアは先に席を取っておくと言って、一夏達と一旦分かれた。

一夏と箒は食堂のメニューの受け取りカウンターの列に並んでいる。

 

「あんなにムキになることないだろ。折角気を遣ってやったのに」

 

「………誰がそんな事を頼んだ」

 

「頼まれたって、普通はしないぞ。箒だからしてるんだぞ」

 

「な、なんだそれ……」

 

「おばさん達にも世話になったし、幼馴染なんだ。これくらいの世話は焼かせろ」

 

箒は一夏の言葉に、複雑のようで、しかし何処かで嬉しいような気持ちになる。

 

「あ、ありが─────」

 

「はい、日替わりセットね」

 

礼を言おうとした箒の言葉を遮るように、注文したメニューが出てきた。

 

「ん、何か言ったか?」

 

箒の言葉は一夏に届かなかったようで。

 

「ふん!早くマリアの所へ行くぞ」

 

箒は少し怒った顔でマリアの所へ向かい出す。

 

「俺、何かしたかな……」

 

一夏は溜め息を吐き、箒の後を追った。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

昼食を食べている時、一夏が箒に話しかけた。

 

「なぁ、箒」

 

「なんだ」

 

箒は相変わらず怒った顔をしており、一夏に目を合わせようとしない。

マリアはそれを見て、昼食を食べながら少し呆れていた。

 

「ISのこと、教えてくれないか?このままじゃ何も出来ずにセシリアに負けそうだ」

 

箒は知ったことかと言いたげな表情で一夏の言うことを流す。

 

「出来もしない事に乗るからだ」

 

「そこをなんとか、頼む!」

 

一夏は箒に手を合わせて懇願する。

 

箒が黙っていると、見知らぬ女子生徒が近寄ってきた。

 

「ねぇ、君が噂の子?」

 

「え?」

 

「私三年なんだけど、君ってまだ素人だよね?私がISについて教えてあげようか?」

 

そこにいたのは先輩である三年生の生徒で、一夏のISの特訓に付き添ってあげる事を提案してきた。

が、その表情から見るに、ISの特訓よりも一夏と一緒に居たい事が本命のようだ。

 

すると、箒がすかさず女子生徒に言い放った。

 

「結構です。私が教えることになっていますので」

 

「貴女も一年でしょ?私の方が上手く教えられると思うな」

 

女子生徒は勝ち誇るような目で箒を見る。

箒はその目を無視して言葉を続けた。

 

 

「私は、篠ノ之束の妹ですから」

 

 

「え⁉︎」

 

 

女子生徒は途端に驚きの表情を浮かべた。

 

 

「ですので結構です」

 

「そ、そう……なら仕方ないわね」

 

 

悔しそうな顔をして退く女子生徒。

一夏は箒を見た。

 

「教えてくれるのか……?」

 

「放課後」

 

「え?」

 

「放課後、剣道場で特訓だ。腕を見てやる」

 

「ありがとう、箒!」

 

一夏は喜んで箒に礼を言う。

箒は、そういえば、といった表情でマリアを見る。

 

「マリアも来ないか?」

 

「私が?良いのか?」

 

「ああ。是非来てくれ」

 

「そうか、なら行かせてもらおう」

 

純粋にマリアの腕を見たい、といった箒の気持ちがマリアにも見て取れたため、一夏と二人にしてやる気遣いは必要ないとマリアは感じた。

それにマリア自身も、ここに来てからまだ剣を一度も振るったことがないため、腕が鈍くなっていないか心配であった。

放課後の特訓の約束をし、三人は昼食を終える。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

マリア達は箒に連れられ学園の剣道場に来ていた。

マリアは剣道の防具や竹刀を見るのは初めてで手順が分からず、取り敢えず箒に言われ袴だけ着ていた。

最初は箒と一夏が勝負をすることになった。

マリアは少し離れた所で見ている。

 

「一夏、腕は落ちていないだろうな」

 

「た、多分……」

 

一夏は不安げな表情で箒に応える。

 

剣道場の部屋の隅には、一夏達が稽古をすると何処かで耳にしたのか、何人か女子生徒達が集まっていた。

 

箒が呼吸を整え、静かに言う。

 

「では、いざ尋常に……」

 

一夏も竹刀を構え、箒をしっかりと見据えた。

 

 

「「勝負‼︎」」

 

 

合図が下りると、箒が床を蹴り一夏に瞬時に詰め寄り、頭上から竹刀を振り下ろす。

一夏はそれを辛うじて受け止める。後ほんの僅か遅ければ頭を打たれていただろう。

 

「くっ……えい!」

 

一夏が竹刀で箒を振り払うと、箒は瞬時に下がり、下がり際に目に見えない程の速度で竹刀を一夏の胴に振り払った。

 

「ぐっ……!痛ぇ……」

 

「一本だな。次いくぞ」

 

箒と一夏は再度竹刀を構え、稽古を再開する。

 

一夏が箒の面を取ろうと頭上から竹刀を振り下ろすが、箒はそれを横に薙ぎ払い、一夏がよろめいた隙に一夏の面を取る。

 

「ぐはっ⁉︎」

 

「遅い!次!」

 

 

 

 

その後も箒と一夏は竹刀を交えるが、一夏は全て箒に一本を取られ続けた。

 

 

 

二人が稽古を始めてから数十分後。

 

一夏がついにバテてしまった。

 

床に座り込んで息が上がってしまった一夏を見て、箒は呆れる。

 

「どういうことだ……」

 

「え?」

 

「何故そこまで弱くなっている⁉︎中学では何部に所属していた⁉︎」

 

声を張り上げて一夏に問う箒。

 

「帰宅部!三年連続皆勤賞だ!」

 

「鍛え直す」

 

「え、でも」

 

「IS以前の問題だ!これから毎日放課後、稽古をつけてやる」

 

「いや、俺はISのことを」

 

「だから、それ以前の問題だと言っている!」

 

箒にこっぴどく叱られている一夏を一方に、二人の稽古を見に来ていた女子生徒達は、小さな声で一夏を見て話し合っていた。

 

「もしかして織斑君ってさ……結構弱い?」

 

「ほんとにIS操縦出来るのかな……」

 

話し声が小さくても一夏にはしっかりと聞こえており、一夏は一人溜め息を吐いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マリア、次は私としてみないか?」

 

 

一夏を余所に、箒はマリアの方を向いて試合に誘う。

 

「しかし私はルールを知らないぞ」

 

「構わないさ。マリアのやり易いやり方で良い」

 

「そうか」

 

マリアは立ち上がり、箒の前に行く。

一夏は二人から少し離れたところで座っていた。

 

「マリア、大丈夫か?箒は全国大会で優勝してるんだぜ」

 

「そんな功績があったのか、箒。きっと途方も無い努力を積んだのだろう」

 

マリアは心底感心した顔で箒を見る。

 

 

 

 

「もう過去の事だ。いつまでも過去に縋り付いては意味がない」

 

 

「………」

 

 

 

 

箒の言葉に、妙に深く考えてしまうマリア。

 

 

「マリア、どうした?顔が暗いぞ」

 

「……いや、何でもない。始めよう」

 

 

マリアは顔を上げ、先程箒から受け取った竹刀を握る。

 

考え事は部屋に帰ってからだ。

 

マリアは箒との稽古に集中することにした。

 

「二人とも、準備は良いか?」

 

一夏がマリアと箒に確認する。

両者ともそれに応えた。

 

剣道場の隅では相変わらず女子生徒達が観戦している。

どうやらマリアのことも気になっているみたいだ。

 

「じゃあ、そろそろいくぞ」

 

一夏の言葉を聞いて、箒は竹刀をしっかりと構える。

マリアは箒を見据えた。

 

「では……始め!」

 

一夏が開始の合図を出す。

箒はマリアの実力がまだ分からないため、いきなり仕掛けることはせず、マリアの反応を待つ。

 

マリアは箒が来ないことを感じ取り、自分から行くことに決めた。

 

マリアはゆっくりと、自分の横に水平に竹刀を伸ばす。

 

マリアの動作は無駄がなくとても静かであった為、箒はまるでその場から音が無くなったように感じた。

 

マリアが竹刀を自分の横に伸ばし切った直後、箒の方へと走り出し、気付いた時には既に箒の胴を竹刀で打っていた。

 

「なっ⁉︎」

 

「い、一本!」

 

一夏が一本の判定を下す。

箒はマリアの素早さに愕然とした。

普通の人間には絶対に出せないスピードだ。

先程まで離れた所に居たのに、気付けば私の後ろに居る。

しかも胴を打った上で、だ。

 

箒はもう一度マリアに挑むことにした。

 

「マリア、もう一度頼む」

 

「分かった」

 

再度、一夏が開始の合図を上げる。

 

箒は今度は先手を打たれまいと、先に仕掛けることにした。

爪先で床を力強く蹴り、マリアに急接近し面の一本を取ろうとする。牽制攻撃を仕掛ける事も考えたが、いきなり自分に一本を取ってきたマリアにはフェイントなど通用しないだろうと箒の勘が訴えていた。

素早く竹刀をマリアに目掛けて振り下ろす箒。

するとマリアは箒の攻撃を防ぐことはせず、逆に竹刀を箒に向け突き出してきた。

箒は反射的に離れなければならないと感じたが、身体が意識に追いつかない。

マリアの突きは箒の持つ竹刀に当たり、箒は自身の動きを止められた。

 

なんて恐ろしいんだ─────。

 

この決して太くはない幅の竹刀を正確に突きで当てに来るなど到底出来ることではない。

況してや眼にも止まらぬ速さで。

一瞬の箒の動揺を感じ取ったマリアは、それを見逃さなかった。

瞬時に竹刀を戻し、流れるような動作で箒の眼前に竹刀を突く。

 

「勝負あり、だな」

 

マリアは箒に竹刀を向けたままそう答える。

眼前で竹刀を向けられている箒は、いつの間にか勝負がついてしまっていることに頭が追いつかず、マリアの声で我に返った。

一夏もあまりのマリアの強さに口を開けたまま驚いている。

 

マリアは竹刀を引っ込めて、二人に話しかける。

 

「二人ともありがとう。実はこれから少し用事があるのを忘れていた。後は二人で続けてくれ」

 

マリアは箒に竹刀を返す。

 

「また明日」

 

そう告げたマリアは、二人に背を向け剣道場を後にする。

扉が閉まった後、一夏は箒を見る。

 

「な、なぁ箒、その……マリア、凄かったな。俺達も頑張らないと……」

 

一夏は箒にどう言葉をかけて良いのか分からず、無難な言葉遣いを選ぶ。

何せ箒は全国で一位に輝いた戦績を持つ人物なのだ。あまりにも呆気なく勝負がついてしまい、箒はかなり混乱していることだろう。

一方で箒には一夏の声は届いておらず、案の定先程起きた事実に困惑していた。

 

私には全国大会で優勝した過去がある。

 

慢心はせずとも、自分の持つ剣の振りに誇りは持っていた。

しかし、それを圧倒的な力を持つマリアに粉々にされた。

過去に縋り付いては意味がないと他人に偉そうに言っておきながら、まだ自分はどこかで縋り付いていたなんて笑えない。

 

何故あれほどの力が─────。

 

箒は今日の授業中に起こった出来事を思い返していた。

 

セシリアに侮蔑されたマリアが、凄まじい殺気を放つ─────。

 

あの目の前の命を狩り取る『狩人』のような姿は、マリアの力と関係しているのだろうか……?

 

 

考えても分かる筈も無く、二人の間には暫くの間沈黙が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

遠くの方では稽古の様子を眺めていた女子生徒たちが、何やら興奮冷めやらぬ様子で喋り合っていた。

 

「す、凄かったよね……」

 

「なんか、美しくて、神々しいというか……」

 

「マ、マリア様……」

 

元々マリアの容姿の美しさに惹かれていた彼女たちは、マリアの圧倒的な強さも相まって、彼女へのイメージがどんどん崇拝的なものへと形を変えてゆく。

マリアの知らぬ所で、今日の様子が語られることはそう時間がかかることではなかった。

 

 

 

~~~

 

 

 

シャワーを浴び、寝るための格好に着替える。

二人には用事があると言って帰ってきたが、本当は唯考え事をしたいだけだった。

机の電気をつけ、椅子に座り、ノートと鉛筆を取り出す。

マリアは、この世界の事情を一先ず纏めることにした。

学園に入学する前から予習していた内容も含め、分かっていることを次々と書き出す。

 

 

 

 

篠ノ之束博士によって開発された飛行パワードスーツ『インフィニット・ストラトス』は数に限りがあり、未だ博士にしか作ることが出来ない『コア』は博士自身によって一定数以上作ることが拒絶されている。

世界の軍事バランスが崩壊するのを阻止する為、アラスカ条約というISの軍事利用の禁止などを定めた条約が国家間で締結された。

現在はスポーツという形で落ち着いている。

 

 

 

 

そして現在は2020年。

自分がいた時代は200年も遡る。

自分が生まれ、そして死んだ『ヤーナム』という都市は現在発行されている世界地図には何処にも記載されていない。

ここが同じ世界なのか異世界なのかも不明である。

 

 

 

 

そしてこの世界に目覚めて以来、過去の記憶が断片的になってしまっている。

不意に何処かで感じたことが自分の中で何かと繋がる感覚がたまにあるが、それが何であるのかははっきりと思い出せない。

 

 

 

 

学園で倒れていた自分の横には、嘗て『落葉』と名付けていた狩武器があった。

しかし私は過去にこの武器を捨てた筈だった。

そのことは覚えているのに、何故捨てたのかは覚えていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

───いつまでも過去に縋り付いては意味がない───

 

 

 

 

 

箒の言っていた言葉が、私の中で繰り返される。

 

 

 

私の過去は……。

 

 

 

 

私は過去に大きな罪を……。

 

 

 

 

罪?罪とは一体何だ……。

 

 

 

 

私は罪を犯していたのか……?

 

 

 

 

しかし、この拭えない感情は─────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お願い、私を見捨てないで……………私まだ、役に立てるのだから……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと目が開く。

時計の針は夜中の二時を過ぎていた。

机には途中まで書いたであろうノートが広がっている。

 

 

私は眠っていたのか……。

 

 

なんだか長い夢を見ていたような気分だ。

 

 

未だ少し重い瞼に逆らうことはせず、大人しくベッドに入る。

 

 

夢の中で聞いた声は何処か懐かしく悲しげで、その声は思い出す度に私の心を締め付ける。

 

 

 

思い出そうとする内に、マリアは深い眠りに入っていった。

 

 

 




『落葉』

時計塔の女狩人、マリアの狩武器。
カインハーストの『千景』と同邦となる仕込み刀であるが
血の力ではなく、高い技量をこそ要求する名刀である。

マリアもまた、『落葉』のそうした性質を好み
女王の傍系でありながら、血刃を厭ったという。


だが彼女は、ある時、愛する『落葉』を捨てた。
暗い井戸に、ただ心が弱きが故に。
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