記念というのはなんですが初短編。
智花のボイスだけで妄想を膨らませてみたら出来たストーリーです。
「て、て、転校生さん、今日お昼どうするんですか?」
ここは私立グリモワール魔法学園。ちょうど昼休み。今日はいつになく天気がいい。中央広場の噴水前で二人の男女が話している。植え込みがカサカサと動く。近くの木の陰からは視線が飛ぶ。
なにぶん学園の真ん中で、しかもあの二人組だ。こうなるのは当たり前だろう。
しかし少女は気付いていない。
「これから食堂、ですか。それなら! 転校生さん! 私、お弁当を作ってきたんです」
静かに間が空く。
「ぜひ食べて……なんで逃げるんですかぁっ!」
男は、逃げた。
* * * * *
「智花」
「あ、怜ちゃん」
「どうした? 転校生が勢いよく走って行ったが」
智花の手元を見る。
「まさか、弁当か」
「うん……。少しは上手くなったと思うんだけどなあ」
「まあ確かに上達してはいるが……。あ、いや下手とかではなくて、転校生は上達具合を知らないだけではないのか? 最近、遅くまで頑張っていたようだし」
「そうだよね! よし! 転校生さん捜さなきゃ! 怜ちゃん、転校生さんどっちに行った?」
「転校生なら掲示板広場の方に行ったぞ」
「それって食堂に行ったってことだよね、急げ智花! ありがとう怜ちゃん!」
「あ、おい、前! 前よく見ろ!」
刹那、大きな音が響く。
「いったたた……」
少し右足を擦り剥いているが、弁当の無事を確認するとすぐに走り出す。
「あっ、智花!」
智花は怜が呼びかける間もなく食堂に駆け込んだ。なんとも仕方ないやつだと思いながら、怜は智花が倒した掲示板を起こしに行く。転校生のこととなると前が見えなくなるのはどうしたらよいだろう。それも智花の良いところではあるのだが。
不意に食堂の扉が開く。
出てきたのは転校生だった。
声をかけようと立ち上がったが、その前に走っていってしまった。中で智花と会ったのだろうか。
少しして転校生は戻ってきた。心なしか気を落としているようにも見える。
「神凪さん、智花見なかった?」
「ん? さっきまで智花と会ってたんじゃなかったのか?」
「あはは、やっぱり見られてたか~。どこ行っちゃったんだろう。ありがとね神凪さん、ちょっと探してみるよ」
声をかけようもまた走って行った。転校生は何か勘違いしているな。それなら中で智花とは会っていないのか。なぜ呼び止められなかったのだろう。己の情けなさを反省する。
再び食堂の扉がゆっくりと開く。智花だ。こちらは気を落としているのがはっきりと見て取れる。転校生を呼び止められていればよかったのだが、どこかへ行ってしまった。
「怜ちゃん……。転校生さん居なかったよー。どうしよう」
ついさっきその転校生に会ったと言えば、また追いかけて、またすれ違う気がする。
「智花。一緒に捜そう」
転校生が走って行った方向から考えれば、恐らく教室に戻ったのだろう。
「早くしないと昼休みが終わってしまうぞ」
「うん」
* * * * *
その頃転校生はリリィの教室に向かっていた。
突如目の前に忍者のように人が現れる。
「やだなー先輩、正真正銘の本物の忍者、服部梓ちゃんッスよ。ところでともちん先輩からは逃げてるんですか?」
「逃げてるって人聞きの悪いこと言わなくても……って見てた?」
「もちろんッス。それで逃げてるんすか? 逃げるんなら手伝ってあげてもいいッスよ」
「いや、捜してる」
「つまんねーッスね。それならどうしてもあっと使わないんスか?」
言われて気付く。そうだ連絡取るにはこれが一番手っ取り早いじゃないか。なんでもっと早く気付かなかったんだろうとポケットを探る。何もない。そういえば今朝は遅刻寸前で慌てて寮を出てきた。多分デバイスは置いてきてしまっている。
「仕方ないッスね~。ともちん先輩捜すの手伝うッス」
急に息を潜めてこう言う。
「……先輩、その前に逃げるッスよ」
いきなり右の腕を引っ張られ走り出す。
「生天目先輩が来るッス。自分追いかけられてて」
「だったら一人で逃げたらいいじゃないか」
「先輩だって見つかったら追いかけられるでしょ。そしたらともちん先輩捜すどころじゃなくなるッスよ」
何も言えない。ここは大人しく逃げよう。
* * * * *
「転校生が向かうとしたらやはりリリィの教室だな」
怜ちゃんはそう言ったけどリリィの教室に転校生さんはいない。
「よお!」
「ひゃっ!?」
驚いて振り向く。
「どーしたんだよ、自分のクラスに入るの
「律ちゃん……。あの、転校生さん見なかった?」
「転校生? んーそういやさっき誰かに連れ去られてたのあれ転校生だったかなー」
「!? 誰かって誰?」
「えと、ちょっと待って。あー、なんかめちゃくちゃ速かったな」
「もしかして、それ梓ちゃん?」
「それだ! うん間違いない。確かに忍者みたいな動きしてたな~。最高にロックだったぜ」
「だって、怜ちゃん。……怜ちゃん?」
「ん、あ、ああすまない、服部といるんだな? それなら大丈夫だ」
* * * * *
コロシアムの辺りでもあっとの着信音が鳴った。流石は忍者、走りながら右手だけでデバイスを取り出し操作する。表示された文字を見て言う。
「おっと先輩、噴水前に行けばともちん先輩と合流できるみたいッスよ」
「神凪さん?」
「そうッス。今ともちん先輩と向かってるって。そいじゃ邪魔しちゃ悪いんで自分はこの辺で失礼するッス」
お礼だけ言って別れる。数歩進んだところで後ろから『うわあ』と声がした。
* * * * *
噴水前に着くと、よかった転校生がいる。
「転校生さん!!」
智花が息を整えてから弁当を渡す。今度こそ転校生は受け取った。すると智花は顔を赤らめて、
「じゃ、じゃあ、私はこの辺で。失礼しますっ」
と言って飛ぶように走り去る。やっと合流したというのにどうしたんだと思った。
「すまないな、転校生。智花の弁当でここまでになるとは思わなかった。それでは私も失礼」
智花を追おうとすると転校生に呼び止められる。噴水の縁、転校生の隣に座る。「多分」転校生が弁当の蓋を開ける。
「今日が誕生日だからじゃないかな」
おかずがない。とそれよりご飯にのっている海苔が文字のようだ。
『HAPPY BIRTHDAY』
「ほらね」
転校生は笑う。「おかずがないのは驚いたけど」と付け足して一口食べる。
「……」
「……いやあどうしてご飯がこんな味するんだろう」
智花の料理はちゃんと上達していた。
二口目を口に運んだ転校生が驚きの声を漏らす。
「これご飯とご飯の層の間に肉野菜炒めの層がある!」
そうか文字を入れるために智花らしく考えていたんだな。
ここでお腹が鳴る。まだ昼食を食べていなかった。
「そ、それじゃ、私は食堂に。それと誕生日おめでとう、転校生」
駆け出す。頬は紅潮していただろうなと思いながら。
終
グリモアの生徒を登場させたのはこれが初めてなので、口調など上手く表現出来ていない部分があるかも知れません。楽しんで貰えたら嬉しいです。