やはり俺がドキドキ!させられるのはまちがっている 作:トマト嫌い8マン
「ありがとうメポ!」
最初に耳に入ったのは感謝の言葉だった。
目を開け、状況を確認する。
さっきまで首に巻きついていた影は消え、自由に動くことができる。まだ少しダルさの抜けない身体で立ち上がる。
と、先ほどまで檻のあった場所に、多くの妖精と恐らくは変身アイテムであろうものがごちゃっと集まっていた。
代表らしき黄色の妖精が、グレルとエンエンにお礼を言っていた。
バツの悪そうな表情のグレル。自分のせいで大変な目に合わせてしまったという負い目からか俯いてしまっている。
「その、俺…」
「僕たちを助けてくれて、ありがとうメポ」
そんなグレルの様子を見て——見ていながらも、妖精たちは笑顔を向けた。心からの、感謝を伝えた。
「それから君も」
そう言いながら妖精たちの視線がこちらを向くのを感じる。不思議出来事には慣れたつもりだったが、この状況のシュールさは否めない。
「君は命がけで僕たちを助けようとしてくれたメポ」
「別にそんな殊勝な考えじゃない。ただ俺しかやれる奴がいなかったからやっただけだ」
実際そうだ。もし俺以外にできそうな奴がいて、俺がリスクを負うことがないのだとしたら、その道を俺は選んで……いたのかもしれない。
「それでも、助けてくれたメポ」
「だから、それは」
「君たちが心から僕たちを助けようとしてたことは、ちゃんとわかってるメポ」
「なぜわかる?」
「その光が何よりの証拠ミポ」
黄色の妖精の隣に並んだピンクの妖精が俺たちを指差す。
いつの間にか俺たちの手の中には、小さなアイテムが握られていた。
小さな灯り、人間の掌で包み込めるんじゃないかというくらいの小さな、でも暖かくて確かな光。
「これ、ミラクルライトだ」
「ミラクルライト?」
「妖精学校で習ったことあるよ!プリキュアがピンチの時に力を与えられるんだって。凄い光ってる」
「ミラクルライトは思いの力を光のパワーにするメポ。その光が影の力を弱めてくれたメポ」
「2人の正しいことをしようという気持ち、絶対にあきらめないという気持ちに、ミラクルライトが応えてくれたミポ」
言っている間も、ずっとその灯りが消える気配はなかった。
小さくて、儚げで、それでいて闇夜を照らす希望に満ちた光。
「僕たち妖精はプリキュアのようには戦えないメポ。でもちゃんと力はあるメポ。奇跡を起こすための、思いの力が」
「妖精だけじゃないミポ。君にも、そんな力がちゃんとあるミポ」
こちらを見上げながら、妖精たちが頷く。なんだかむず痒い気持ちになったため、視線を逸らしながら話題を変える。
「とりあえず、今やるべきことはプリキュアたちを救出することだろ。今俺の仲間たちが戦って時間を稼いでくれてるうちにな」
『俺の仲間たち』なんて言葉を使う日が来るとは思ってもいなかったけれども、意外とすんなりと、その言葉は口から出た。
「その通りでござる。妖精のみんなと変身アイテムは、拙者がお届けするでござる!」
「シロップも行くロプ!運び屋としての誇り、見せてやるロプ!」
言いながらポップとシロップと名乗ったペンギンっぽい妖精が姿を変える。現れたのは二羽の巨大な鳥のような姿。
「ここからはメップルたちの出番メポ!」
「3人はここから離れるミポ!」
順番に二羽の背中に妖精が乗り込む中、黄色い妖精——恐らくはメップル、がこちらを見ながらいう。
「クル!みゆきたちはここから近いクル!キャンディは自分でスマイルパクトを持っていくクル!」
そう言いながらキャンディがスマイルパクトを一つ持ち上げる。
「キャンディ、一人で全部運ぶのは無理でござる」
「だったら」
「僕たちも行きます!」
ポップの言葉に、グレルとエンエンがキャンディのそばに駆け寄りスマイルパクトを手に取る。
確かにそれなら五つ分運ぶことはできるだろう。けれども、ただ運ぶだけではダメだ。
影の力で体を固められてしまったプリキュアたち、彼女たちの拘束を解くこともまた、同時に行う必要がある。
影の力を弱めることができたのは、ミラクルライトの力だった。かなりの人数プリキュアはいるらしい。であるのならば、その拘束を解くためにも、ミラクルライトの力が沢山必要になる。
じゃあ、その力はどこから来るのか?
「いや、俺が行く」
そこまで考え、俺はまだ若干の疲弊の残る身体を動かし、スマイルパクトを手に取った。
「八幡?でも、」
「まだ休んでなきゃ!」
心配気に見上げてくるグレルとエンエンだったが、首を横に振る。
「別に、大丈夫だ。それよりお前らにはやって欲しいことがある」
「やって欲しいこと?」
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side fairy
スマイルパクトを八幡とキャンディに任せて、俺たちは大急ぎで走っていた。
目的地は、今も影が大半を包み込んでいる妖精学校。
走りながら、さっきまでのやりとりを思い出す。
『変身アイテムを届けることができても、プリキュアを拘束している影を壊すことは力だけじゃできない。助けるためには、もっと他の何かが必要だ』
『他の何か?』
『それって何ですか?』
『お前らの握ってるそれだよ』
そう言って八幡は俺たちの手の中にあるミラクルライトを指差す。
『そうか!強い光のパワーがあれば、きっとみんなを助け出せるメポ!』
『ああ。だがこの二人だけでプリキュア全員を助けるのは無理だ。もっと多くの手がいる。だから、』
『妖精学校のみんなの力を借りるミポ?』
『そういえば、タルトが今あそこにいるはずメポ!事情を話せば、きっと力になってくれるメポ!』
『そのタルトってのはよく知らんが、まぁそういうことだ。妖精たちの力でプリキュアを助ける。その為には誰かに学校まで行ってもらう必要がある。俺が行ってもいいが、ただの人間の言葉を信じてもらえるかはわからん。けど同じ生徒で、そのミラクルライトの力を引き出せたやつなら?』
そう言ってから八幡はじっと俺たちの方を見た。
『でも、俺の言葉なんて…みんなが信じるわけ』
『信じるよ、きっと』
弱々しい言葉を切ったのは八幡でも、プリキュアのパートナーたちでもなく、隣にいた友達だったを
『みんなだってプリキュアを助けたいと思ってくれるはずだもん。僕たちの言葉、きっと信じてくれるよ!』
『エンエン』
『みんなにも教えよう!僕たちにもできることがあるって!妖精とプリキュア、力を合わせたら、きっとどんな困難にも勝てるって!』
いつも頭巾を被って顔を隠し、か細い声でしか会話しない。ずっと見てきたそいつの姿は、もうそこにはなかった。
脱がれた頭巾はまるで俺がしているのと同じマントの様で、その視線は強い意志を持って俺を見ていた。
情けない。
俺の弱さがこんなことを引き起こしてしまったんだ。
それをどうにかしたい、そう思ったはずだろ?
『よし!やる!きっとみんなに伝えてくるぜ!だから八幡、スマイルパクトは頼んだ!』
見上げた相手はしっかりと俺の目を見て、頷いた。
『それじゃあ、みんな行くメポ!』
メップルの号令で俺たちは行動を開始した。
「グレル、もう少しだ!」
「ああ。急ぐぞ、エンエン!」
ドキドキ!プリキュアたちのおかげか、影の注意が学校からはほとんど外れているみたいだった。
偶に使っていた抜け道を通って中へと忍び込む。階段を駆け上っていくと、沢山の妖精が廊下に当てめられているのが見えた。
「みんな!」
その声にみんながこっちを見た。
驚き、恐れ、戸惑い、いろいろあるけれど。
「頼む!みんなの力が必要なんだ!」
やらなきゃいけないことを、やるだけだ!
あと少し……あと少しで彼女達が……