やはり俺がドキドキ!させられるのはまちがっている 作:トマト嫌い8マン
寝不足かな?
剣崎真琴のファン感謝祭から数日後。もはや日課となりつつある相田と菱川と一緒に帰宅し、そして軽い作戦会議を行うために相田の家に向かった。最近ではそのまま夕飯をごちそうになることが増えているが、両親が共働きしているため正直助かっている。小町は小町で最近できた友達の家で食べることが多いから、自分で作る必要がなくなったのは大きい。しかもご丁寧に時間があるときには料理を教えてくれるという太っ腹さ。おかげでたまに作るときにも困らないし、小町に「小町、お料理では誰もお兄ちゃんにかなう気がしないや」とまで言われた。真面目に相田の父親には感謝してもしきれない。
さて無事に俺たちは到着したのだが、
「あれ?なんだろう」
「人がいっぱい集まってるわね」
「あれってテレビ局の車だろ?なんかの撮影か何かじゃねえの?」
とりあえずギャラリーの壁をかき分けて家、正確には店の中に通してもらう。そこには相田の父親が緊張の表情を浮かべ、母親が落ち着かせようとしていて、祖父が厳しい表情で父親を見ていた。
「ただいま~!お父さん、どうしたの?」
「あ、あぁ、お帰りマナ。二人ともいらっしゃい」
「お邪魔します」
「どうも・・・何かあったんですか?」
「うん、実はね・・・」
「えぇ!?ここでお料理番組の撮影!?」
「そうよ。なんでもお料理体験でここの看板メニューを作ってみるっていう番組らしいのよ」
「すごいじゃないですか」
テレビで紹介されるということはそれだけの知名度が付くということ。そもそも紹介されるにはそれなりの実績か、それなりの味がなければならないだろう。それはつまり相田の父の料理の腕が認められたということであり、かなりの名誉ある仕事だろう。というかそんな人が作る料理を定期的にごちそうになっている俺って結構贅沢?
「いやぁ、うちの店にテレビ局が来てくれるなんて。ここは、二代目ぶたのしっぽ店長として、しっかりと決めないと」
「ふん、わしゃまだ認めてはおらんがな」
「まぁまぁ、お父さんもそう言わずに。今日はアイドルが来てくれるそうだし、笑顔でお迎えしましょう」
「アイドルが来るの!?」
あれ?なんだろう。もうこの時点でなぜか誰が来るのかわかった気がする。最近読み始めたライトノベルとか、小町が好んでいる少女漫画とかの定番の展開だよな。たまたま知り合った芸能人が~みたいなの・・・いやまさかな・・・
「あの、どなたがいらっしゃるんですか?」
「あぁ、マナはよく知ってると思うよ。実は、「失礼します」あっ、来たみたいだ」
ドアを開けて店に入ってきたのは、やはりというかなんというかである。相田マナの大好きな、剣崎真琴とそのマネージャーだった。
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「剣崎真琴です。今日はよろしくお願いします」
「わー!うれしい!まこぴーが家にきてくれるなんて!」
「仕事で来ただけよ。あなたの家の店だったの?」
「あたし、相田マナです」
「私は菱川六花。よろしくお願いします」
三人が会話している様子をマネージャーがどこか、「素直じゃないんだから」とでも言いたそうな表情で見ていた。あぁ、そういえばあのファン感謝祭で相田のやつももまんを渡していたな。ご丁寧に店の包装紙をそのまま使っていたからな。たぶん剣崎はそこで名前を知っていたのだろう。もしかしたらこの店を指定したのも剣崎だったりして・・・いやないか。ないよな?
ふとマネージャーと目が合ったから軽く会釈する。相手も笑って会釈し返してくれた。よかった~忘れられてない。前に一回学校で知り合いだと思っていた相手に会釈したら本気で誰?って顔をされたトラウマが・・・視線を他へ巡らせるとテレビ局のスタッフたちが相田の父親とあいさつをしていた。相田の父親、かちんこちんに固まりすぎだろ。どんだけ緊張してるんですか。その様子を母親がほほえましそうに眺めている。
「それじゃあ、リハーサルを始めます!本番と同じ手順で行きましょう。真琴さん、お願いします」
「はい!よろしくお願いします」
エプロン姿に着替えた剣崎と相田父が並んで厨房に立っている。相田家+2は店の関係者という扱いで、キッチンに通じる通路からその様子を眺めている。というか本来俺と菱川は関係者でも何でもないんだけどな・・・まぁ今更指摘するのも面倒だしいいんだけど。相田なんて目をキラキラさせて見ているし。
「5秒前、3、2、1」
そういえば剣崎は料理とかするのだろうか。忙しい身だし、そこまでする機会はないのかもしれない。というか心なしかマネージャーが歌番組の時と比べる不安げな表情をしているような気がするんだが。いくらなんでも小学校の調理実習とかあっただろうし、料理の基本中の基本の知識くらいはあるだろうし、まぁ下手でも相田父がいるから何とかなるだろう。それでは、アイドル剣崎真琴のお手並みを拝見といこうか。
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結論から言っていいですか?すごかったです、もう色々と。材料を洗おうとするときには洗剤を持ち出すわ、卵は握りつぶすわ、包丁の使い方は危ないわのてんやわんや。ごめんなさい正直なめてました、剣崎の料理スキルの低さを。終いには相田のおじいさんからかなり厳しい言葉をもらってたしな。今日のリハーサルは終わり、明日の本番でなんとかできるようにという話でスタッフと剣崎は帰って行った。
「まさかまこぴーがあそこまで料理下手とはね〜」
「下手っていうか、やったことないだけだろ」
「大丈夫かなぁ。おじいちゃんに言われたこと、気にしすぎてないといいんだけど」
「まぁ、きつい言い方ではあったけど、間違ったことは言ってないだろ。それに、ヒントにもなることだったしな」
「うん・・・」
問題は剣崎がそれに気づくことができるかどうかだな。それに、できれば練習をしたほうがいいな。
「あたし、まこぴー探してくる!」
「ちょっとマナ!いまどこにいるのか知ってるの?」
「あっ・・・知りません」
「あら?皆様、どうかしましたの?」
相田が向かおうとしていた店の門から歩いてきたのは、いつものように執事のおじさんを連れたありすだった。
「ありす!丁度良かった!まこぴーが今どうしてるかとかわからない?」
「今ですか?さすがにそれは、」
まぁそうだろうな。むしろわかったら本格的に怖すぎるわ。何?この前GPS付けたの?ってレベル。今日はもう無理か、と思ったところへ、
「私がどうかしたのかしら?」
思わぬ声がかかった。一度帰ったはずの剣崎とマネージャーが、ありすたちの後ろから歩いてきた。
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「まこぴー?どうしたの?」
「その、料理を教えて欲しいのよ」
「えっ?」
「か、勘違いしないで。私は一度引き受けた仕事を投げ出したくないだけ。絶対に成功させて見せるんだから」
わー、テンプレのようなツンデレセリフいただきました〜。まぁけど、こちらから探しに行く手間が省けた上に、料理を通じて仲良くなれればプリキュアのことも聞きやすくなるだろう。
「わかった。それじゃあ、あたしが」
「ちょっと待って!」
「えっ、何?」
「マナ、今日は生徒会から持ち帰った作業もあるでしょ。それも明日提出のものが」
「あっ、そうだった!六花〜」
「今回は私だけじゃ無理よ。ありすと八幡くんは生徒会関係ないからダメだし」
「えー、でも」
「マナちゃんのお父様ではダメなんですの?」
「このあとはずっとお店の方の仕事があるし」
おいおい。折角剣崎との距離を縮めるチャンスだというのに、なんでこんな時に限ってそんなものがあるんだよ。何?ありすが教え役に回るの?と言ってもここのレシピで作るわけだし。というかそもそもありすは料理するのか?執事の爺さんならなんとかいけるか?
「えーと、うーん。ん?あっ、そうだ!」
「何?何か閃いたの?」
「八幡くん、オムライスの作り方お父さんに教えてもらってたよね?」
「あ?」
「お願い!すぐに作業終わらせるから、それまでまこぴーにお料理教えてくれない?」
「俺が?」
「うん!」
律儀に両の掌をくっつけてまで懇願する相田。いやまぁ確かに教わったけど、それでいいのか?ちらりと剣崎とマネージャーの方も見てみる。もしも嫌そうだったら断ろうかとも思ったが、特にそんな様子はない。まぁ一応確認しておくか。
「えっと、俺でいいなら、すぐに始められますけど」
「お願いするわ。すぐにでも上達したいの」
「了解」
そんじゃあ、小町に敵なしと言わしめた俺の料理スキルを、思う存分発揮するとしますか。
10分後、俺と剣崎はエプロンをして、相田の家のキッチンにいた。相田が頼んでおいてくれたため、材料は好きに使っていいそうだ。ちなみにその本人は菱川とともに部屋で作業中、ありすと執事さん、マネージャーの三人は俺たちを見守るそうだ。
「よし、割るわよ」
「待て待て、そんなに力むな。卵割るのにそこまでの力はいらない。ボールの縁とかにぶつけてちょうどいい感じのヒビが入ればいい。こんな感じに」 コンコン パカッ
例を兼ねて実践してみる。最近は片手で割れるようになったから、ついついそっちでやりそうになったが、相手が初心者なのを思い出ししっかりと基本から始める。
「こ、こうかしら?」 コンコン パカッ
「おっ、そうそう。そんな感じだ」
幸いにも剣崎は覚えがよく、実演してみたものを次々にこなしていった。こいつ、料理の才能ありそうだな。
「えーと、人参を切って、と」
「ストップ。その持ち方はあぶねぇぞ。力入れにくいし、変な入り方したら指を切っちまうしな。手の形は、いわゆる猫の手って呼ばれるこんな感じで・・・」
あっ、今気づいた。なんかナチュラルに小町に教えるように手を握ってしまってた。やべぇ、怒られる?キモがられる?通報される?内心穏やかじゃない俺は少し慌てて手を離した。
「すまん!妹にやる癖で、すまん」
「別にいいわよ。それで、この手の形で切るの?」
「あっ、あぁ」
「ほんとね、こっちの方が切りやすいわ」
色々と覚悟していた俺だったが、本人はどこ吹く風。いたって気にした様子もなく、料理に取り掛かっていた。俺が気にしすぎだったのだろうか?それともアイドルの持っている、どんなファンでも大事にしようというその精神を褒めるべきなのだろうか?
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「終わったよ!まこぴー、八幡くん、お待たせ!」
ちょうど材料の下準備が終わって、いざ調理というところで相田と菱川が戻ってきた。
「おう、お疲れ」
「お疲れ様ですわ。今丁度下準備が終わったところですのよ」
「これから火にかけていくとこなんだが、相田、代わるか?」
「そうしたかったけど、ちょっと疲れちゃった〜」
「そりゃあね、あんなに必死に仕事するマナも珍しいわよ。いつもは余裕な感じでやるのに」
「だって〜」
ありすと会話しだす二人を横目に、剣崎の指導を再開する。火をつけ丁度いい火加減を探ってから材料を入れ始める。緊張の面持ちのまま、剣崎は俺の指示や実演を見聞きして料理を続けた。そして、
「・・・出来た」
お皿の上に乗っていたのは少し焦げ目はあるものの、きれいな形をしたオムライスだった。
「まこぴーすごーい!美味しそう」
「こんなにすぐに上達するなんて」
「まぁ、とてもお上手ですわ」
三人はそれぞれの感想を述べている。マネージャーさんも執事さんもすごく嬉しそうだ。俺もなんだか達成感がある。ちゃんと教えられるもんだな、俺も。
「あとはケチャップをかけて完成だな」
「はい。ケチャップを、かけてっと」
「完成だー!」
「ふぅ」
「上出来よ、真琴」
マネージャーがいつの間にかスマホを取り出し、写真を撮っていた。まぁうん、そうだよな。初めてうまくいった料理って、なんか写真で残したくなるよな。少し懐かしい思い出気分に浸っていると、
「はい、八幡くん!」
と、目の前にオムライスが乗ったスプーンが突きつけられた。それを持っているのは満面の笑顔の相田。
「え?何?これをどうしろと?」
「最初の一口、ほら」
「は?」
「まこぴーに料理教えたの、最初から最後まで八幡君一人でやってくれたでしょ。それにこういうのは最初に他の人からの感想をもらえたほうがいいと思うし。だから、はい」
つまり、どういうことだってばよ。あ、パニクりすぎてしゃべり方がどこぞの火影様になってしまった。え、これをこのまま食べればいいの?これってあれですよね。いわゆるあれですよね。小町の大好きな少女漫画でもある、あの嬉し恥ずかしのイベントですよね。これ菱川さんからは・・・あ、不機嫌そうな顔してらっしゃる。その隣のありすは・・・ニコニコ笑顔だな。ただしその裏にどんな思惑があるのかが正直わからないので素直に安心できない。んで、剣崎は・・・ちらちらこっち見てらっしゃる。やっぱりアイドルはこういうイベントからは離れているんですかね?けれども興味はあるよね。しょうがない、女の子だもん!・・・きもいな~。一応律儀に誰もまだ食べずにいるってことは早く食べたほうがいいのですかね。
「ほら、あ~ん」
こら!余計なことをするなよ、なおさら意識して恥ずかしいことになっちゃうだろうが。
「あ、あ~・・・む」
「ど、どう?」
少し不安げな表情で剣崎が訪ねて来る。まぁ自分の初めて作った料理を他人に食べてもらうのは緊張するからな。ソースは俺。妹がおいしいと言ってくれた時はマジでうれしかったのを覚えている。まぁそれを踏まえた上だけど正直に話すと、
「まぁあれだ・・・うまい、と思う」
「そ、そう?」
「よしっ、じゃああたしも!はむ!」
待ちきれなかったのか、相田は手に持ったスプーンでそのままオムライスを一口食べた。やめて!意識していないからだと思うけど、お願いむしろ意識して!さっきから菱川さんが複雑な顔をしてるから、ありすの笑顔に含みがあるように思えるから。それとは別に剣崎が少しうれしそうな顔をしてるのを、にやにやしながら見てるマネージャー、やめてあげて。後からその子が死にたくなるから。というかうれしさを隠そうとして隠しきれてない剣崎さんかわいい・・・じゃなくて!
「ほれ、自分でもちゃんと食べてみろ・・・んで、自分で感想言ってみ」
「あ、うん・・・あ、おいしい」
「うんうん!まこぴー、これすごくおいしいよ!」
「ええ、初めてとは思えないくらい」
「練習の成果がしっかりと出ていますわね」
「真琴、よくやったわ」
皆口々に剣崎の料理をほめる。実際うまいわけだし、これなら明日の収録でも問題ないだろう。その後オレがお手本がてら作った分のオムライスも消費し、当然のように相田父が用意していてくれたそのほかの料理も全員で食べ、剣崎とマネージャーは一足先に戻っていった。
「八幡君、お疲れさま」
「おう・・・まぁあとは明日にかけるだけだな」
新年始まって、仕事とかも始まって、あー。
もうしばらく正月気分に浸っていたい