頑張ります!
「どうなってんだよ……」
俺の目の前で繰り広げられている光景は、どうも信じ難いものだった。
「なんで、人間同士で共食いなんか…いや、アイツらは人間じゃない…なんで、?」
それはまるで昨日見たマンガのワンシーンのようだった。
黒く廃になり、皮がめくれた肌からはドクドクと血が溢れていて、とてもじゃないが見ていられない。だが、それだけならまだ良かった。
人間と思えない何かが、地面に倒れて起き上がるはずのない何かが、二足歩行で歩いては、目の前にいた正常な人間に襲いかかり、黄ばんだ歯で人肉を食べていた。
肉がもぎ取られ、噛まれた人間は叫び声をあげて必死に暴れ出す。
あまりのリアルさに、俺は必死で口元に手をあて、気持ち悪さとあまりのグロデスクさに、とめどなく溢れてくる胃液を懸命に抑える。
その場に膝をつき、背中を丸め、涙目になりながら堪えた。
頭上から人の叫び声や、車の雑音が耳に入ってくるが、先程の光景が脳裏に焼き付いてしまい、なかなか立ち直ることができなかった。
数分間、その場で息を整えてから、フラリと立ち上がり、俺はあたりを見渡す。
《何故、こうなった?》
昨日までの日常が嘘のように感じて、目から映し出されている光景を脳が拒絶し、俺の思考を停止させる。
運良く周りには誰もいない。あの気持ちの悪い奴らはいない。移動するなら今しかない。
そう直感した俺は、震える足に鞭をうち、必死に家に向かって走った。
走っている最中に、何度か黒い奴らに遭遇し恐怖したが、足を止めることなく逃げ切ることが出来た。
家に着くと急いで玄関の扉を開け、二重に鍵をかける。家に来た安心からか、ドアを背に座り込んでしまった。
心臓はバグバグと脈打ち、額は汗が吹き出している。息が上がり肩が上下に動く。
自分を落ち着けるために深呼吸して静かにしていると、リビングルームの方から何か音が聞こえてきた。
クチャ…クチャ
何かを噛んでいる音と、血の匂いがが混ざりあい、嫌な雰囲気が漂った。
嫌な予感がし、立ち上がりリビングルームのドアをそっと開ける。
普段ならば、目の前には母さんの背中が映し出され、俺の方を向いて笑顔で「おかえり」と挨拶をしてくれる。
そう、普段ならば。
「うぅ……ウガガ………ガァ…アアァ。」
そいつは俺の音に気がついたのか、ゆっくりと振り返った。
「母…さん……?」
俺の質問に答えるように、ヤツは俺に近づく。
チラッと周辺を見渡すと、母さんの近くには父さんらしき屍があった。
片腕がもげてしまい、首が背中の方に向いている。父さんの顔はもはや面影がないくらいにぐちゃぐちゃにされていて、片目が飛び出てしまっていた。
「うそ……だ」
逃げようとしても、恐怖と絶望で脚が震えて動かない。
目には涙が浮かび上がり、視界がボヤけてしまう。
口からは声にもならない声が掠れてしか出てこなく、叫ぼうにも叫べない。
「そう言えば、今日は金曜日だ。兄ちゃんも帰ってきて…あっ、明日休みじゃんか…母さん……家族で…遊びにいく約束…だったよな、?」
掠れた声から出たのは、家族で約束したものだった。
つい先日、家族で久しぶりに遊びに行く約束をした。
リビングルームにあるテレビをみていたら、ちょうど新しく出来たテーマパークの宣伝をしていて、みんなで行こうって。
その時はガキ臭いとか意地張ってたけど、ホントは、すげー楽しみだった。
……なのに
俺の目の前で『ソイツ』は立ち止まると、黒々とした腕を振り上げた。その腕は変な方向に曲がっており、とても生きている者の腕ではなかった。
目を静かに閉じて、俺はその時を待った。
俺も今行くよ。父さん、母さん。兄ちゃんは……俺の分まで生きてて欲しいな。
走馬灯が見えた。家族のこと、学校のこと、部活のこと、友人のこと。
色んなことが一斉に脳内に再生された。
そして最後に映し出されたのは、母さんの笑顔だった。
『生きて』
「うがァアアアぁあ!!!!」
「っ!?」
『母さん』の最後の叫びで、俺は一気に現実に引き戻されることになる。ぼーっとしていた頭が覚醒したのか、現実を受け入れたのか、よくわからない。けれど、さっきまで動きそうになかった脚にしっかりと力が入ってきて、今、どうしたら生き残ることができるかを、頭の中で考えることができた。
俺の家は、代々伝わっている日本刀が2本ある。その日本刀は、父さんの部屋に飾っており、たまに父さんが研いでいるのを見かけた。
シャリン、と、研ぎ石と日本刀が擦れて奏でるその音が、俺の耳の中に繊細に残っていた。
「…父さんの部屋だ」
現実を受け入れることしか残されていない俺は、母さんだったヤツの手を背中を反らせて、ギリギリのところで回避し、急いで父さんの部屋に向かった。
飾ってある日本刀を乱暴に取り外し、下緒(さげお)を腰に巻き付けて、戦う準備を始める。この間、父さんがといでいた時に使っていた石も、急いで鞄に詰め込んでから、1階にいる母さんだったヤツの目の前に姿を現した。
「今までありがとう。母さん、父さん。今、楽にしてあげるから……」
日本刀を一本抜き取った。その一本を両手で持つが竹刀と比べるとはるかに重い。
手汗が大量に吹き出し、それとともに日本刀を握っている手も震える。
心臓の鼓動が早くなり、大切な家族を斬ると言う恐怖と絶望が胸の中で渦を巻いた。
視界が歪み、脚も手と同様にまた震え始めるが、それでも俺は、日本刀を真上に振り上げ、母さんだったヤツの胴体を涙を流しながら真っ二つに斬った。そのときの俺は、そうすることしか選択肢がなかったのだから。
家にあった缶詰や、非常食など、食べられるものをとにかく鞄に入れて、涙を拭い、俺はひたすら走った。
俺は今、自分の通っている学校【私立巡ヶ丘学院】に向かって、全速力で駆けている。目的はただ1つ。生存者が居るか確認するためだ。
町につくとそれはそれは酷い光景ばかりだ。そこらじゅうには血が飛び散り、回りにはアイツらがウロウロと歩き回っている。生きている人間を見つけたら、我先にと生存者に向かって歩いていく。その数はざっと10体。囲まれてしまった人は武器すら持っていないため、死にものぐるいにあがいても、アイツらに噛まれて人間をやめてしまう。ヤツらで溢れかえっているこの街には、もしかしたら既に生存者がいないかもしれない。
そう思えてくるほど、周りを見渡しても、生存者らしき人は見当たらなかった。
あまりにも、感染するスピードが早すぎる。
目の前にきたヤツを重たい日本刀で斬る作業を何回か繰り返すが、数が多くてキリがない。
「くそっ……めんどくさいな…」
俺の特技は剣道、と、スポーツだ。スポーツの中でも特に剣道は教え込まれていた。俺の家に日本刀がある時点で剣道は教え込まれることは確定していたが、やってみると、意外と面白い。
じいちゃんや、父さんはめちゃくちゃ強い。なのでこんなヤツらたちはあっさりと倒せるし、動きが遅すぎてスローモーションに見えて仕方がない。
でも、油断はできない。父さんは、母さんがヤツらになったことを知らずに近づいたのだろう。そして………
「……ホントに最悪な日だ」
そう呟いて、またもや目の前に現れたヤツらの首を切り落とす。返り血が頬についたが気にしない。俺は、走るスピードを加速させて、急いで学校に向かった。
数分すると、昨日までとは違い、ヤツらにやられたであろう、ボロボロになった校舎があった。大量のガラスは割れて、壁には血の跡。校庭にはありえないぐらい多い数のヤツらがいる。しかし、俺は、希望と言えるものを見つけることができた。
「人が……いるっ!!しかも四人っ!!!」
目を凝らしながら見てみると、同じクラスの特徴的な可愛らしいぼうしをかぶっている丈槍 由紀(たけや ゆき)と、皆から慕われている国語の教師の佐倉 慈(さくら めぐみ)先生がいた。俺が知っているのはこの二人だけで、残りの二人は顔と名前は知っているが話したことはなかった。
周りに居る大量のヤツらを切ったり、避けたりしながら、昇降口に向かう。昇降口についてもスピードを落とさず、階段をかけ登り、屋上へと足を急がせた。
ヤツらたちは、足が脆いのか、体重を支えきれないのか、よくわからないが階段が苦手なのは確かだ。その理由は1つ。
俺が全力で階段を登っているが、俺の速さに付いてこれていない。
俺よりはるか前に居たであろうヤツらたちを軽々と追い越してみせたのが、決定的証拠だった。しかし、いつ囲まれるかわからないし、いつ殺られるかもわからないので、気を抜くことはできない。
屋上のドアの前で、集っているたくさんのヤツらを、2本の日本刀を使ってなんとか倒すことに成功する。
予想以上に切れる日本刀に驚くも、体から溢れる汗の量んみて自分の筋力不足と体力不足を痛感させられた。
日本刀は重いことは知ってはいたが、はるかに予想を上回る重さでまともに振ることができなかった。この2本を上手く扱えない限り俺は人を護ることは出来ないと、改めてそう思うのだった。
ヤツらを始末してから、ゆっくりと、屋上のドアをノックした。
「大丈夫…でした……か?」
息があがってうまく口にすることができないけれど、何とかして声に出した。
足はガクガクと震え、体力も限界に近い。視界ハッキリと見えないうえに、気を抜いたら今にも倒れそうな具合だ。
ガタガタと、何かを退かす音が、扉の奥から聞こえた。
そして、重たいドアが今、開かれる。
「も、元弥くん!?」
めぐねえは、驚いた表情を隠しきれないようすだった。
そりゃそうだ。もう、この学校に残っている人は、俺達だけの可能性は非常に高い。俺が外から来た生存者であることは、割と奇跡に近い確率である。
正直今すぐにでも眠りにつきたいのだが、ここで暗い顔をしたら、怖い思いをしてきた四人に申し訳ない。
だから、俺こと本能寺 元弥(ほんのうじ もとや)は、屋上で待機していた四人に笑顔を魅せつけた。
「助太刀致す! なーんてな」
夕日の光が、キラリと俺の顔を照らした気がした。
驚いた。
まさか、生きている人がまだいるとは思わなかったから、本当に驚いた。
本能寺 元弥くん。男女共に人気があって、先生の間でも信頼されている優秀な生徒で、成績はそこそこだが、運動能力が抜群に凄い。
そして、この学校の生徒会長だ。そんな頼れる彼が生きていたことに、少し安心した。
一緒にいて心強い彼が、生きていて本当に良かった。
突然、疲れがドッとでてきて、ペタンと、冷たい屋上の床に座り込んでしまった。
「だっ、大丈夫ですか、めぐねえ?」
元弥くんは、驚いた顔をしながらも、すぐに優しい顔に戻り、屋上の床に座り込んでしまった私に手をさしのべてくれた。
「えぇ、ありがとう。あと、佐倉先生でしょ」
そう言いながらも、元弥くんの手に自分の手をそっと乗せる。
女の子とは違い、大きくて頼りがいのある手のひらは、私の心の負担を減らすには十分すぎるものだった。
「めぐねえの方が信頼してる感があるので、そっちじゃ駄目ですか?」
彼は私を起き上がらせると、イタズラっぽい笑みで私に向かって言った。
元弥くんのその一言は、この絶望に満ちた状況下において、とてもズルいと感じた。
これ以上私の負担を減らされると、きっと私は彼に依存してしまう。
そんなことは絶対にできない。だって私は……
「そ、それでも、ちゃんと先生と呼んでください。いいですか、元弥くん?」
「はーい。めぐねえ♪」
「佐倉先生ですっ!」
この学校の先生だから。
彼とのたった数秒の会話だけで、心が落ち着いた。
これも全部わかってて言ってくれてるのなら、彼は本当に凄い。
そんな彼が生きてくれていただけで、とても心強く思う。
彼になら、あの3人を任せることができそうだ。…いや、彼にしか任せることができない。
そう思いながら、元弥くんの笑みにつられて笑ってしまうのだった。
先程の暗い空気とは真逆に、今では明るい雰囲気になっためぐねえ。
元気になってくれて、何よりである。
やっぱりめぐねえは笑顔の方が、断然可愛い。そう思うが、本人には恥ずかしくて言うことができないので、心の中にそっとしまい込んだ。
すると突然、背中から誰かの温もりが感じられた。
誰かと思って後ろを見てみると………丈槍由紀だった。
「モトくん、会いたかった…」
ギュッと、回している腕に力を入れて、更に強く抱きしめる由紀。
俺は、甘えん坊で可愛い由紀の頭をクシャクシャと撫でた。
「俺もだぞ。なんにせ俺がこの学校に入学して、一番最初に仲良くなったのが由紀だからな」
ニッコリと笑顔で言うと、由紀は「えへへへ」と、頬を少し赤らめて照れた。
うん。可愛いなぁ。今ので疲れがぶっ飛んだわ。
由紀の可愛さに殺られてもう一度頭を撫でてしまった。
この学校に入学して、すぐに仲良くなったのが、目の前にいる由紀なのだ。
初めは、変な帽子を被った変な人。と認識していたけれど、由紀の優しい性格と、周りに気を配れる事を知った俺は、すぐさま友達になった。
明るく面白い由紀には、本当に癒されるし、守ってやりたい。と、心から思っている。
さて、と。俺は、残りの二人に視線を向けた。交互に二人をよく観察してみる。すると、1つ、わかることがあった。
ツインテールの女の子…恵飛須沢 胡桃の頬に、返り血が付いていたことと、彼女の近くに、多分好きだった人か、恋人だった男の遺体が、横たわっていたことだ。
遺体の近くには、血で先が汚れたシャベルが哀しそうに置いてあった。
その状況をひとめみて大体のことを俺は察した。
俺は、ツインテールの人…恵飛須沢に近寄り、話すには少し近い距離まで接近してから、俺は彼女の頬に手を添えようと彼女に手を伸ばした。
別に深い意味は無い。ただ、彼女の返り血を親指で拭き取ろうとした。
しかし、今の彼女には逆効果だったらしく、無意識のうちに伸ばした手を彼女は振り払う。
突然の行動だったので、つい反射的にそうしてしまったのだろう。
その証拠に、彼女はハッとしたあと、申し訳なさそうな顔を浮かべた。
「わ、わるい……」
手を強く払ったことに罪悪感を感じたのか、彼女はより表情を曇らせた。
しかし、普通に考えたら彼女の行為はごく一般的である。
突然、深い関わりがある訳でもない人間に、体の一部を触れられるのは誰だって不快感を抱くものである。
「こっちこそごめん……でも、ちょっとじっとしてて」
初めて会ったにもかかわらず、結構大胆な事をしたせいでかなり警戒心を持たれてしまった可能性もある。心の中で反省しながら、諦めの悪い俺はもう1度手を伸ばした。
今度は彼女に触れることに成功する。しかし、彼女の頬に手を添えた時、体がビクッと動いた。
やっぱりまだ警戒されてるな。仕方ないか。
これから共に生活する仲間だ、ゆっくりと仲良くしていこう。そう心に誓う。
「本能寺 元弥だ。呼び方は何でもいいし、この中で唯一の男だからな。バンバン頼ってくれ。それと……よく頑張ったな」
彼女が元気になれるように、俺は静かな笑顔で言ってみた。その間に、血を全ての拭き取って、彼女から手を離す。
彼女の方はというと、ポロポロと涙を流していた。
……ありゃ、女の子泣かしちゃったよ。母さんとの約束破っちゃったな。
俺の家では、母さんが女の子にたいしての礼儀などを、叩き込まれていた俺は、何とか地獄を乗り越えて、母さんと約束した。
『いい元弥。女の子は繊細なんだよ。だから大切に扱って、それと、くれぐれも泣かせては駄目だからね。いい?』
『うん、分かったよ!』
そのとき僅か6歳。色々大変だった……もう、母さんと父さんは居ないけど。
俺は、心のなかで改めて母さんと父さんに感謝した。
思い出に浸っていると、泣き止んだ彼女は笑顔を取り戻し、その笑顔を俺に向けて自己紹介を始めた。
「紹介が遅れたな。あたしは恵飛須沢 胡桃(えびすざわ くるみ)、恵飛須沢って長いから名前で呼んでくれ。あと……ありがとう」
胡桃はそう言って、悲しそうにしていた顔とは反対に、とても明るい、いい笑顔を俺に向けた。その笑顔を見た俺のほうも、自然と笑顔になった。胡桃が元気になってなによりである。
俺は笑顔を崩さないまま、もう一人の方に体を向けて、歩み寄った。
目の前に行ってから、左手を差し出しす。
「何度も聞いてると思うけど、俺は本能寺 元弥な。困ったときは俺を呼んでくれ、すぐに駆けつけるからさ」
すると、彼女は驚いた顔をして、俺の左手を見つめた。
なんだろうと左手をみて、やっと気づいた。つい癖で左手を差し出してしまった。慌てて右手に変えようとすると、彼女は微笑んで、俺の左手を握った。
「なぁ、もしかして左利きか?」
「そうよ。私は若狭 悠里(わかさ ゆうり)、よろしくね元弥くん」
左利きの人はなかなかいないので、親近感がわいてきた。
俺は父さんに右にしろと言われ直されたが、常に左手で過ごしている。
一応右手でも書いたり箸を使うことができるが、日常では左なので、同じ共通項があると、正直いって嬉しい。
そんなことを思っていたら、悠里も嬉しそうに笑った。
ニッコリと笑う悠里に少しドキッとしたのは秘密である。
穏やかで、みんなのお姉さん的存在の悠里は、みた感じからも、しっかり者と分かるほどのオーラを放っていて、とても頼れそうだ。
これで一通りここにいる全員と話した。
これから先、どうなっていくか俺にはわからない。
だけど、ここにいる人達なら、やっていける気がする。
それに、もう二度と大切な仲間達を失いたくない。そんな強い思いが、俺の胸のなかで誓いへと変わっていったのだった。
キャラあってる? もしかしてあってない? すみません……
長さはこのぐらいです。
これから先は、アニメや原作を混じらせての自己解釈みたいにやっていこうとおもいます!
更新遅いですが、頑張りたいと思いますので、よろしくお願いします!
感想&評価お願いします!
※すこし編集しました。