街がアイツらで溢れかえって、今日で2日がたった。
生き残ることができた俺は、同じく学校の屋上に来て、生き残ることができた胡桃と、今は3階の見回りをしている最中だった。
「…あ、…出てきたな。なぁ、早速だけど殺ってみてもいいか?」
俺が思っていた以上に冷静だった胡桃は、自分が持っているシャベルを静かに握りしめた。俺の予想では、もう少しテンパると思ったのだが、意外と落ち着いて周りを見ることができていて、正直驚いている。それに……彼女、胡桃がアイツらを倒すのに使っているのが、なんとシャベルだ。振り回すのでも精一杯と言えるほど、重いシャベルを使っているので、少々心配しているが、まあ、本人がうまく扱えるなら、問題はないだろう。
隣にいる胡桃に視線を向けて、俺は言う。
「無茶だけはすんなよ?」
コクりと頷いたのを確認してから、俺と胡桃は、合図はなかったものの同じタイミングでアイツらに向かって走りだした。
「音に敏感なんだ…なっ!」
走ったときの足音に気づいたのか、アイツらはこっちに顔を向ける。
俺は右腰にある鞘から、一本の日本刀を取り出し、首を狙って切りつけた。首と胴体が離れたアイツらはそのまま倒れて動かなくなる。生きていない事を確認してから急いで胡桃の方を見てみると、シャベルを振りかざして、アイツらに攻撃を当てることに成功した所にだった。その拍子で倒れたヤツらの首をめがけて、胡桃は真顔のままシャベルの先を突き刺した。
一息ついてから、胡桃はヤツらから顔を背け俺をみた。
初戦にしては完璧すぎるほど、胡桃の動きに無駄がなかったのに俺は舌を巻いた。生まれもって運動神経がいいからだろうか、誰もがみても凄いと思える動きだった。流石である。
「お疲れ。怪我はないか?」
「あぁ、あたしは問題ない。元弥もお疲れ。」
頬にアイツらの返り血が付いてしまってはいるが、胡桃自身には、噛まれた跡や、傷をつけられた跡などがなかった。
とりあえず胡桃に怪我がなかった事に安堵してから、俺は拳を胡桃の前につき出してみた。胡桃は目の前に突き出した拳を数秒間みつめてから、その意味を察したのか、俺に視線を戻し、ニィと悪戯っぽい笑みを浮かべる。そして、お互いの拳をコツンとぶつけ合った。
「これで一通り3階は制覇したんじゃないか?」
「…そうだな。それじゃあ、あたし、めぐねえ達呼んでくる。」
パタパタと走って屋上に向かう胡桃。シャベルを担いでいるとは思えないくらい、すごく速い。流石、元陸上部なだけはある。体力と脚の筋力があるから、あんな重いシャベルを持てるんだな。と、一人で勝手に納得した。
胡桃が、屋上で待機しているめぐねえ達を呼んでくる間に、俺は目の前にある部屋を開けてみることにした。
ここは確か生徒会室なはずだ。ガラスもあまり割れていなく、とても綺麗だ。教室じたいも、そこまで荒らされていないので、生活するにはちょうどいい場所だ。それに、先ほど、胡桃と放送室も確認したところ、生徒会室と同じくらい綺麗だったので、この2つの教室は生活するのにはピッタリだ。
ふむ。予想はしていたが、やはり、3階の各教室はどこも綺麗だったな。昨日、俺が階段を全力で登っていたのだけれど、アイツらは俺のスピードについてくることができなかった。そして、上の階に行けば行くほど被害が少ない…。
これはつまり、アイツらは脚力がない。脚が脆くなってしまい、まともに階段も登ることができないのであろう。そのぶん、1階と2階には、3階と比べ物にならないほど、アイツらで埋め尽くされているんだろうな。昨日だって、倒しに行ったものの、実質残っていたのは約7体ぐらいだった。
もし昨日が平日の昼間だったとしたら…想像するだけで寒気がする。
俺は首をふって思考をどうにか停止させて、さっきの胡桃の様子を思い出すことにした。
やはり胡桃は……明るく振る舞ってるけど、精神的にムチャしている。初めて意図的にヤツらを殺したんだ。そうなるのは普通なんだけれど…これからもアイツらを倒すんだったら、躊躇うことは危険だ。たった数秒の躊躇いで、命を落とす可能性だってある。だから、《人間だった》という束縛から解放されていないといけない。
俺的には、もういいと思うんだが…。確かに前まで友達だった人を殺すのは対抗がある。けれど、殺さないとその人は、一生アイツらとして生きていかなければならない。もし俺がアイツらの仲間入りしてしまったら、意識のあるうちに自殺するだろう。
…だって、今、懸命に生きている人たちを襲うことだけはしたくないから。絶対に。俺のせいでその人達に危害を加えるなら、死んだ方が100倍ましだ。………あくまでも俺の結論だけどな。
そんなことを考えているうちに、胡桃が皆を呼んで来てくれた。
「生徒会室。他の教室より綺麗だし広いから、ここでなら生活することができると思う。」
ガラッと、ドアを開けると、皆は『おぉ!!』と、歓声の声を上げた。結構いい反応だったな。よかった、よかった。
「隣は放送室だし、放送室も結構綺麗だから、寝室作るなら放送室にしたほうがいいと思う。わかったかー?」
『はーい!』
「ウッシッ! いい返事、いい返事。あと、これからバリケードをつくる。各階の階段に作っていくけど…今は拠点に近い生徒会室の近くの階段に、バリケードを作ることにする。それに、ちょうどよく説教する前に作ってくれていた未完成のバリケードがそこにあるから、その調子で上に重ねてってくれ。そこまではいいな?」
『はーい!』
「よし、それじゃあ各自、机と椅子を運んでバリケード作りに入ってくれ。」
女性群の返事を聞いたあとに、ニシシと笑ってから、俺は購買でワイヤーなど、バリケードに必要な物を取りに行くために、日本刀を持って2階に降りようとした。すると、俺のとなりに胡桃が来て、「あたしもいいか?」と、言われたので「ムチャだけはするなよ。」とだけ返して、俺と胡桃は肩を並べて歩きだした。
「……元弥は、抵抗が無いのか? その、アイツらを殺すのに……」
俺が心配していたことを自分から切り出した胡桃の頭を撫でてやりたい衝動にかられたが、グッと堪えた。今はそんな雰囲気じゃないからな。我慢、我慢。
「ぶっちゃけ俺は、アイツらを…………殺すことが最善の義理だと思うんだ。」
歩んでいた足を止めて、俺は正面から胡桃を見つめる。胡桃はというと、俺の言った言葉を聞いて、胡桃は口をあけていた。目を丸くさせて、驚きを隠せないでいる胡桃。そりゃそうだよな。俺も自分でいっといて最低な奴だなと思ったし………
俺が歩き出すと、胡桃は俯きながら俺に続くように歩いた。俺は、そんな胡桃の頭を優しく撫てみることにした。勿論、元気づけるために。そんなやらしい目的で胡桃のことは見ていないから安心してほしい。
「もし俺がゾンビになって、少しだけでも意識が残っていたら、自殺する。だってさ、一生懸命生きている人に、危害を加えたくないし、俺の手で殺したくないからな。それだったら、俺は死んだ方がいいと思っている。確かに抵抗はあるけど、前まで友達だった奴を食うのは、アイツらからしたら、とても辛いことなんじゃないかなって、思ってさ。」
綺麗事を並べているように感じられるのはしかたないし、それも人それぞれだ。でも、俺の結論はそれに至った。死ぬんなら、あんな風になってまでは生き続けるよりは、俺は人に殺されて死んだ方がいいと思う。あくまでも、俺の考えぬいた結果だ。だから俺は、アイツらを倒していけるのである。
俯いていた顔を上げて俺の眼を真っ直ぐ見る胡桃。俺も、胡桃から視線を逸らすことなく見つめた。そして、笑った。口角を上げて笑って見せる。胡桃が少しでも気持ちが楽になれるように、俺は、優しく微笑んだ。
「まぁ、個人的な意見なだけであって、それが絶対に正しいとは限らない。胡桃は胡桃の思ったようにすればいい。」
最後にそういって、俺は胡桃の頭から手を離した。
「…なんでだろうな。昨日初めて話したのに、元弥なら信じられる。」
俯いて、胡桃はそう呟いた。静かな空間のなか、上の階から、3人の声が微かに聞こえる。由紀の明るい声が聞こえたり、めぐねえと悠里が呆れたような声が耳に届く。
胡桃に言われた事が、素直に俺は嬉しかった。だから、その事を直接胡桃に伝える。
「生徒会長ですから。それに…そう言われると、正直俺も嬉しいよ。俺も、胡桃の事…信じてるから。」
自分の声が、自然と力強くなっていることに気づいた。自分でも気づかないくらい、自然にそうなるってことは、それほど胡桃の事を信頼しているって証なんだと思う。たくさんアイツらが襲いかかっても、胡桃になら、安心して背中を預けれる。そんな感じだ。
俺の思いを言うと、胡桃は俯いていた顔を上げて、満面の笑みで俺につげる。
「任せとけ!!」
この瞬間、俺には心から信頼できるパートナーができたのだった。
先程とは違い、スッキリしたような、吹っ切れたような顔をして、胡桃はズンズンと廊下を歩いていた。油断はしていないと思うが、少し足取りが軽い様にみえる。シャベルを担いで歩く後ろ姿は、自信に満ちており、まるで勇者のごとく、アイツらをなぎ倒しどんどん進んでいく。
「おりゃっ!」
ドスッ…
「てりゃっ!!」
ガスッ…
「そりゃっ!!!」
バギッ……
…当分俺の出番は来なさそうだ。
「ふぅー、やっとついたな…」
「なあ、俺必要ないから由紀たちの手伝いに行っていいか?」
「なっ!? だっ、ダメ………あ…あたしたち、パートナーだろ?」
男勝りなあの胡桃が、上目遣いして俺を見上げるせいで、「NO」という返答ができなかったのが、とてつもなく悔しかったりする。
「パートナーもなにも、別に胡桃1人でもアイツらぶった倒せるだろ。」
「そっ、そうだとしても、あたしには安心して背中を任せられる相手がいるからできることで……その…、…元弥がいなくなったら1人でできるか…自信が…ない。」
今、きゅんとした自分をおもいっきり殴りたいと心から思った。俺にはめぐねえと言う何だか気になる人がいる。っていうのに……
「それでも…ダメ、か?」
「うっ…」
反則級の上目遣い。少しウルっとした目に、恥ずかしいのか、微妙に震えている声。シャベルを両手で握りしめるその姿は…まるで幼く可愛らしい小学生みたいだ。
俺よりも男らしい性格の胡桃が、乙女ティックな部分がある事を知り、ますます可愛いと思えてくる。これがいわゆるゆる萌え要素ってやつなんだろうな。そう思えて仕方ない俺だった。それに...
いつからコイツはこんな甘えかたを覚えたんだ?
そんな疑問が頭を横切るが、そんなことは口には出ずに、代わりに俺が発した言葉は…
「…わかったよ。」
「ホントか!? よっしゃー!」
色々と迷ったが、最後のアレをやられては、断ることができるわけがないだろう。むしろ断れる奴の神経はどうにかしていると思われるくらいのレベルだ。誰だって美少女にそう言われたら、ああ返すしか選択肢がないだろ。くそっ、胡桃の鬼畜野郎…。
一通り購買部で、持っていけるぶんの食料とワイヤー、制服を鞄に詰め込んで、3階に戻ることにした。結構な荷物が入っている重たいリュックを背負い、俺と胡桃は購買部を後にする。
2階の廊下を二人で話ながら歩いていると、俺のお腹から、盛大な空腹を知らせる音が鳴り響いた。
ぐぅう~~~~
「……そういえば腹が減ったな。胡桃、さっさと戻ってみんなで何か食おうぜ?」
「そっ、そうだな……ぷっ…!!」
初めは肩を震わせて堪えていたようだが、限界が来たのか、とうとう胡桃は吹き出してしい、大声で笑い出す。お腹を抱えて笑う姿は、先程の可愛い姿とは思えないような、残念な感じだった。さっきの可愛いと思った時間を返してほしい……
「元弥も可愛いとこあんだな……ぷっ…。」
「はいはい。わーったからそれやめろ。アイツらが寄ってくるだろ。」
「だっ、だって…意外すぎて……。」
目に溜まった涙をすくうと、胡桃は少し落ち着いたのか、息を整え始める。「はぁ、はぁ…。」と、笑い疲れてしまうほど、お腹の音が面白かったらしい。個人的には意味不明だが、胡桃からしたら意外だったらしく、そうとうツボっていた。
「さっさと食おーぜ? 俺、そろそろ倒れる。」
「あぁ、そうだな…。それじゃあ行くか。」
そのあと、皆で放送室に集まり、楽しく食事をとった。食卓には缶詰とカンパンしかなかったが、とても賑わって、いつもよりも美味しく感じた昼食だった。
日本刀の名前、募集しようとおもいます。
二本あるので、いいの思いついた人は、バンバン活動報告に記入して頂けると助かります。
勉強頑張りながら、これも進めていこうと思います。
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