教室の片付けが進み、少し余裕が持てるようになってきた。悠里はいつものように屋上で菜園を整理している。今日はそれを手伝いに来た。屋上には良く行くが、野菜はあんまり育てたことがない。なので、今日は正直いって張り切っている。
「悠里! 俺、何やればいい!?」
やりたくてウズウズしている俺を見て、悠里は細く微笑んだ。タオルを首に巻いて、軍手をしている。悠里が付けている軍手とタオルは、つい昨日、購買部に行った時に、制服のついでで取ってきたものだ。それ以外にも、食糧と下着、シャンプーやリンスなどを持てる分持ってきた。そのおかげか、少しづつだけれど生活しやすい環境に近づいてきている。
最近も乾パンだけではなく、缶詰や購買部でとってきたうどんも食べられるようになってきて、食生活も安定して来た。このまま現状維持したい所だが、まだまだ安全の方は確保していない。なので、慎重にいかないと、いつ何が起きるかわからないからない。そこは注意深くやっていくつもりだ。
「ゆきー! こっちの水やりも頼むー!」
「らじゃ! 行くよくるみちゃん! そりゃあー!!」
「のわッ!? ……なっろー!!」
由紀と胡桃の姿もあり、二人も楽しそうに種を植えたり水を撒いたりしている。だが、先ほど由紀が勢いよく水をぶちまけ過ぎて、胡桃を巻き込んでしまった。それに何かくるものがあったのか、胡桃はシャベルを振り回し始める。気づいた時には、既に遊び始めていた二人だった。
見ている分にはいいのだが、胡桃の振り回しているシャベルが由紀に当たったら、きっとひとたまりもないだろう。そんな危険なものを、笑顔で振り回す胡桃に少しだけ恐怖を感じだ。あんな重たいモノをよく振り回せるな...すごい腕力だ。
女性に対して言ってはいけない単語を、俺は心の中でぽつぽつと挙げていく。まあ、本人達が楽しいのならばそれでいいだろう。
二人と違って、悠里は黙々と作業を行っている。野菜が育つのが嬉しいのか、とてもいい笑顔のままやっていた。俺は楽しそうにしている三人に目をやって、太陽をみるかのように目を細めた。ただ一人、屋上に姿を現していない、めぐねえを除いては……
「それじゃあ、元弥くんには、野菜の葉っぱをとってもらう作業をしてもらうわね」
「……おう!」
悠里の言葉に我にかえり、目の前に来ていた悠里の顔を見つめた。彼女は、いつものように曇りのない笑みを浮べている。少しでも前に向かっていくように。けっして悲しい事実を認めていないわけではなく、その絶望を抱えながらも、手探りで希望を掴もうと、ひたすら前に進んでいこうとする姿勢が、彼女からは強く感じ取れる。
そんな太陽に、俺は目を合わせることができなかった。
悠里の説明を聞いて、俺はハサミを装備し、切らなければならない作物の所に移動する。何の作物かは、見ただけでは分からないけれど、とても立派な作物の葉っぱだった。大きくのびのびと育ち続ける葉っぱの根本を切った。
栄養が実の方にいくために、余計なものを切る。と、悠里に教えてもらった時は、とても驚いた。あんまりそんな経験が無かったので、勿論そんな事も知らない。農家の人たちって凄いんだなー! と、改めておもったのだった。
結構な時間が過ぎて、午後に差し掛かる時間に、悠里は切り上げの合図をみんなにだした。今日のところはここでおしまいらしい。もっとやりたかったな。と、名残惜しい気持ちになるが、悠里の指示に従う。それに、午後にはやりたいことがあるので、どっちみちできないのだ。
2-Bで昼食をとり、それぞれ自由時間となった。
……それはともあれ、昼食に食べた焼きそばが美味すぎるんだけど。ヤベェな。あんなに上手く作れる悠里は、いつ嫁いでも大丈夫だな。
膨れたお腹を摩って、俺は一人で二階に向かった。階段を降りてすぐに壁際により、身を隠す。数を確認しようと顔を出すと、俺は声を漏らしそうになってしまい、急いで口許を手で塞ぐ。
あまりにもヤツらの数が多すぎる。
金曜日に見た量を、余裕で超えている。俺はなぜこんなになっているのかを考えると、ある結論にたどりついた。この前と昨日は土曜日、日曜日だが、今日は月曜日だ。月曜日は学校がある。不登校していない生徒が居たとしても、それ以外は来ていると言う事……だからこんな大量に……しかも、今の時間帯を考えると昼休みだ、一番賑わっているじゃないか…っ!
俺は右腰にある日本刀に手をかけたが、数があまりにも多すぎるため、諦めることにした。流石に一人でこの大群に挑むのは難しすぎる。噛まれたりしたらアウトなのに、戦闘中にそんなに周りを見れるような暇はない。そんなことしてたら確実にヤツらの仲間入りだ。だからここは潔く引こう。
階段に一歩、足をのせたところで、重大な事に気がついた。
「ヤツらは階段を登れないわけじゃない…!!」
ここに来てやっと思い出す。確かにヤツらは脚が脆くなってはるが、階段を登れないわけではない。中には階段くらい余裕なヤツぐらい居るかもしれない。それに、自分たちで作ったバリケードは放送室に近い階段に一つだけ。三階に繋がる階段はあと二つある。中央にある階段と資料室の近くにある階段だ。資料室ならともかく、中央階段から大量に登って来られたら……
俺は急いでみんなを探しにいく。
とりあえず放送室に向かって走り出した。放送室について勢いよくドアを開け、中を見渡してみる。中には悠里と胡桃の二人だけが座っていた。放送室に由紀とめぐねえの姿がみえない。
「由紀とめぐねえはっ!?」
二人に聞いてみるが、俺が慌てていることに二人は首を傾げるだけだ。
「しらねーな。元弥、そんなに急いでなにかあったのか?」
胡桃が俺には聞いてくるが、俺には時間が無いため、簡単に済ませることにする。
「いいか、俺の声がするまで絶対にドアを開けるなよ? 約束だぞ? それと、絶対にここから出るな」
「ちょっ、ソレはどういう意味...」
俺は胡桃の言葉を最後まで聞かずに、急いで放送室のドアを閉めた。
「くっそ、どこにいるんだっ! 頼む、遭遇しないでくれよ……!」
三階をとにかく走り回り、やっとの事で見つけたが、安心している暇は無かった。
「ヴヴ...ヴガァ……」
「め、めぐねえ……」
「大丈夫よ、私がついてるから」
教室の窓際に追い詰められてしまっためぐねえと由紀。由紀の目の前にめぐねえが立ち、ヤツらから由紀を庇うような体制だった。今にも襲いかかってきてもおかしくない距離にいる。そのせいか、俺が来ていることに気づいていない。ソイツが襲いかかる前に、俺は全速力で駆け出した。
「ガガガガァ」
「...っ!?」
めぐねえに腕に飛びかかり、噛もうとした瞬間、ヤツの首が切断された。
「めぐねえ、由紀っ!!」
俺は日本刀をしまい二人に駆け寄る。
先ほどの出来事で、恐怖を脳に植え付けられためぐねえは、脚が竦んでしまったのか床に座ってしまう。そして、顔を上げて俺に視線を向けると、安心したような顔つきになり、今にも泣きそうな表情になる。
「もとや...くん……私、生きてる?」
「はい、もちろんですよ! だからそんな顔しないで下さい。いつでも俺が助けに行きますから...」
めぐねえと同じ目線になるようにしゃがんで、優しく声をかけた。
めぐねえの声は震えて、目に涙を溜めている。きっと、さっきの恐怖の感覚がまだ抜けきっていないのだろう。少しだけぼーっとしている。そんなめぐねえの頭を、優しく撫でた。
いつも生徒のために無理して頑張るめぐねえを、俺はずっと見ていた。生徒の相談に乗ったり、どの先生よりも、生徒の事を大切にしてくれためぐねえのコトを。今までだって、時々泣いている由紀を励まして、由紀に笑顔を取り戻してくれた優しいめぐねえ。そんなめぐねえを、俺は好きになったんだ。
「俺が、絶対に護りますから」
めぐねえの両肩を掴んで、そう誓った。本気で俺は、めぐねえを護りたい。他の三人も大事だけれど、その中でもめぐねえは俺にとっての特別な人だ。少しドジで、天然気味な生徒想いの先生のことを、俺は大好きなんだ。だから……
ちゃんと伝える。今はまだ言えなくても、勇気が出せなくても、俺はめぐねえを守りきってみせる。言葉で言えないなら、言えるようになるまで行動に示すしかない。だからめぐねえ、もう少しだけ、待っていてください。
俺の言葉をめぐねえは頷いてちゃんと聞き取ってくれた。
その行動だけで、俺は心から嬉しく思うのだった。
「さあ、ここは危険だからさっさと放送室に行くぞ」
俺は立ち上がってめぐねえに手を伸ばし、立たせる。ここの教室は安心できるような場所ではない。まだヤツらが来てないうちに急いで放送室に向かわないと。
俺達は教室を出て放送室に向かって走り出した。今、正面の廊下にうろいているヤツらの数は四体。四体なら俺一人でも問題は無い。俺が囮となり、ヤツらを惹き付けている間に、めぐねえと由紀には進んでもらおう。
「めぐねえ、由紀。俺がアイツらを惹き付けてるから、その間に全速力で放送室にいくんだ。いいな?」
「も、モトくんは大丈夫なの?」
由紀が心配そうに尋ねてきた。いつもの可愛らしい笑顔は消え、不安そうな顔をしている。先ほどの事もあってか、少し責任を負っているような気がしないでもない。そう感じるくらい、由紀の様子に違和感を感じた。
「あぁ、四体ぐらい大丈夫だ。それに、俺よりもお前らの方が大事だからな。俺はどうにかなる」
そういった瞬間、先程からずっと黙っていためぐねえが、予想外の声の大きさで俺に言い放った。
「もっと自分を大切にしないとダメよ!」
張り上げた声に、俺は驚き肩を微動させた。そして、めぐねえの声を聞き取り、ヤツらがコッチに群がってくる。
「っ、二人共走れ!!」
「で、でも…モトくんが」
「俺は大丈夫だから。絶対生きて戻ってくるから。だから走って放送室に向かえ。いいな? あと、胡桃なら手伝いに行こうとするだろうから、俺一人で大丈夫だから安心しろ。って言ってくれ。それでも行こうとするなら二人で止めて欲しい。」
二人にそう頼んで、俺は足を緩め始める。右腰にある日本刀の柄を左手で握りしめて、ゆっくりと鞘から抜き出し刃をみせる。左腰にあるもう一つの日本刀も出して、戦闘準備を始めた。噛まれた瞬間、アイツらの仲間入りだ。そう思うと、少し怖くなるが、俺の後ろにいる二人を護らなきゃいけない。そう思うと自然と怖いと言う感情が徐々に消えていった。
四人を護るためなら、俺は…どうなっても構わない。
俺は二人の道を開けるために、右にズレてアイツらを惹き付けることに成功する。
「モトくん!! 絶対に来てね!!」
「もとやくん、ムチャだけはしないのよ!!」
二人が俺を横切ると、そんな言葉を浴びせてくれた。由紀はすこし強ばった顔で、めぐねえは心から心配しているような顔で、そう言ってくれた。その言葉のおかげで、俺は自分自身を奮い立たせることが出来るきた。
「ここでやられたら、みんなに合わす顔がねぇな」
目の前にきたヤツらの、首を狙って重たい日本刀を振り回した。
「ハア……ハア、ふぅー」
血で汚れた壁に寄りかかり、俺は息を吐いた。あの後、次から次に、ヤツらの大群が押し寄せてきた。中央にある階段を登ってきて、二、三体のヤツらが常に周りにいる状況で戦ってきた。何度か、噛まれそうになり、心臓が大きく跳ねたが、その度に二人の言葉を思い出して必死に恐怖と戦った。
攻撃を喰らった瞬間駄目と言うプレッシャーは、かなり精神的にきたが、なんとか耐えることに成功し安堵する。囲まれないように距離をとりつつ攻撃し、後ろにいない事を確認しながら戦うのは、結構大変だった。日本刀の切れ味が良かったおかげで、さくっと斬ることができたが、そうでなかった時のコトを考えると悪寒がする。
息を整えてから俺は立ち上がり、歩き出す。ヤツらの血飛沫で制服は赤く染まりつつあった。例で言うなら、真っ白い布団にトマトジュースをこぼした感じだった。
「結構疲れたな…ヤベェ」
疲労で視界がぐらついてしまち、足取りも危うい。それでも、フラフラしながら俺は歩き続ける。今の時間帯は午後の授業をちょうど受けているので、ヤツらはあんまりいないはずだ。だから、今のうちに……
体が熱くなり、汗がたくさん溢れ出る。汗で服が張り付き動きづらい。いつものように腰に下げている日本刀は、いつもの倍は重く感じる。そのなか、やっと放送室のドアまでたどり着くことが出来た。ドアノブに手をのせ、捻って、ゆっくり開くと、みんなの顔が見れた。
入ってくると同時にみんなは立ち上がり、俺のとこに駆け寄ってきてくれた。みんなの顔を見て安心したのか、俺の記憶はそこで途絶えてしまった。
遅くなりました。そして、予告詐欺すみませんでした(土下座)
今度こそ次の回に出てきます!
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