「よし。コレで三階の安全はほぼ確保したな」
最後にワイヤーを切って、俺はそう口にした。
俺が倒れた日の次の日、ヤツらもどこかに行って静かな空間が広がる暗い廊下で、俺達はバリケード造りをしていた。夜はヤツらの数が極端に少い唯一の時間帯。そこで、いつもなら自由時間なのだが、各自の時間を割いてもらい、バリケードを造った。昼間はやりたくともやれないので、今夜限りで造ることにしよう。と、胡桃の提案を受け入れたのが始まりだった。
みんながせっせと働いてくれたおかげで、すぐに完成した。バリケードを造ったのは中央階段のところだ。広く大きい階段なので、ヤツらもゾロゾロとやって来る厄介な場所。なので、ソコを塞ぐことが出来たと言うことは、残りは資料室前の階段だけになる。
資料室の前の階段は、俺が見張っていればいつでも倒すことができるし、三階へ登れる階段はここだけになったので、バリケードを壊されない限り、三階はほぼ安全と言っても過言ではないだろう。俺達が二階に移動したい時には、バリケードの上に登れば問題ない。これで、二階を制圧すれば、安全を確保することがでいる。
「今日はもうやめにするか」
「えぇ、そうね」
近くにいためぐねえに声をかけて、ひとまず三階は終了することにした。
本音を言えば、昇降口に行って昇降口ごとバリケードを造りたいところだが、その材料を取りに行き、釘かなにかで止めないといけない。そんな物資はまだ見つけていないので、探して行くまでに時間がかかってしまう。それなら、物資を見つけてからにするべきだ。
なので、結論を言うと、二度手間になるからまた今度ってことだ。
それも大切だが、先ほどのめぐねえとの会話で、昨日のことが頭を横切ってしまい、変に意識してしまうのだか……俺はそこまで重症患者なのかも知れないな。病名は【めぐねえ病】。コレにかかると、めぐねえと話すだけで熱が出てしまい、心臓が痛くなる。そして、声が裏返ってしまうのだ。
治したくとも、治療法が見つかっていない。原因不明の病気なので治す事は今のとこ不可能である。まさに難病と言えるだろう。ちなみにコレは、男性に多い。ここ重要。
そんな冗談のようで冗談ではない、自分の状況を確認しながら、俺は暗い廊下を先頭に歩く。最後尾にはシャベルを肩に担いでいる、とても強い相棒のくるみがいるので問題は無い。
綺麗に一列に並んで、俺達は放送室に戻っている最中だ。
「ふぁ〜、モトくん……眠いよ」
「由紀は今日も頑張ったからな、そりゃあ眠くもなる」
「やったー! モトくんに褒められた〜! えへへ」
由紀がそんな事を言いながら、俺の背中に飛びついてきた。突然の行動だったので、前のめりになり、転びそうになる。が、脚を踏ん張ってギリギリで堪えた。ビックリしすぎて、未だに心臓がバグバグいっている。急にそんな事をしないで欲しい…。マジでビビった。
胸を抑えながら、それと同時に由紀が転んでしまわないように配慮する。落ち着いた頃に後ろを向いて、軽く由紀を睨んだ。当の由紀は、嬉しそうにニコニコと笑みを浮かべながらはしゃいでいる。それはもう幼い子供みたいに。
「由紀、あんまり騒ぐなよ。それと突然背中に飛びつくな…」
「はーい!」
最近、由紀は元気だ。前までと違い、笑顔を常に見せるようになったり、明るく振舞っている。それに先程も言ったのだが、幼い気がする。由紀はもう高校三年生だ。その割には、落ち着いた行動が少なく、はしゃいでいたり、走り回ったりしているのだ。悠里や胡桃と比べると尚更。
……まあ、俺の気のせいかもしれない。確かに行動は幼いが、それ以上にみんなを癒してあげているのも事実だ。現に、今まで無かった柔らかい雰囲気がその証拠だ。由紀がそうなる前までは、絶望に満ちた暗い雰囲気があり、まともに話すこともなく生活していたのだか、今となっては今の由紀のおかげで楽しく生活している。
俺も何気に色々とプレッシャーで押しつぶされそうになる時があるし、由紀には感謝しないといけないな。
そんなことを思いながら、俺は歩き続けた。
「今日は雨ね」
「屋上には行けないな」
空は黒い雲で覆われており、土砂降りの雨だ。勢いが強く、放送室の窓に当たる粒が、大きい音をたてて叩く。雲の色も、普通と違ってなんだかとてつもなく黒い気がするうえに、嫌な予感がする。
今日は、良くないことが起こりそうだ。
俺の考えすぎなのか、そんな事を思ってしまうが、首を左右に振ってマイナス思考の考えを追い払った。
「疲れてんのかな…今日は一日休むか……」
小さく呟いたつもりだったが、隣にいた悠里には聞こえていたらしく、少し心配そうに俺の顔を覗き込んだ。
「元弥くん、無理しないでね。 疲れた時は直ぐに私たちに言うのよ?」
「あ、あぁ…さんきゅ。でも、まだ大丈夫だ」
強がってしまった。体は昨日の疲れが残っており、少しダルい。足取りも重く、腰にある日本刀が結構な負担になっているのかもしれない。それでも俺は、そんな体に鞭を打って、アイツらから護らなきゃいけない人たちが居る。だから……
「元……くん、元弥くんっ!」
「っ!?」
ぼーっとしていた頭が、意識を取り戻した。
俯いていた顔を上げると、心配そうな顔の悠里がいた。俺の正面に立っており、肩に手を掛けている。何回か呼んだのだろう。それでも反応しなかったからか、ほんの少し涙目だった。
「あー、悪い悪い。考え事をしてただけだから! 悠里は気にすんな。な?」
宥めるように、優しく声をかける。俺は大丈夫だって事を、とにかくアピールする。そうでもしないと、悠里の負担が大きくなるから。とにかく俺は笑顔を魅せて、悠里に声をかけ続けた。
「本当に……無理だけはやめてね…それでもし、元弥くんが居なくなったら……」
「っ!? わ、わかった。無理もしないし、俺はお前たちの前から居なくなったりしないから」
「約束よ……」
「もちろん」
一瞬、悠里が俺を誰かと重ねていた気がした。瞳が揺らぎ、心から心配している表情の悠里は、それはそれは悲しそうだった。そして
「もう、誰も失いたくない…」
そう、弱々しく、今にも消えそうな声で呟いた。震えている手で頭を抱える悠里は、あからさまに様子がおかしい。何度か声をかけてみるが、聞こえていないのか、返事すら返ってこない。顔を俯かせて目をギュッと閉じ、息も荒くなってきている。まるで何かに怯え、目を背けているようだ。
いつも頼れる悠里が、このようになるのは正直驚き戸惑ってしまうが、今そんな感情を捨てて悠里を落ち着かせることが最優先である。震えている背中を優しく擦り、あまり刺激しないように優しく「大丈夫だ」と囁く。コレを落ち着くまで続けると悠里は疲れたのか、俺に体を預け、目に涙を溜めたまま眠りについた。
とりあえずひと安心し、寝ている悠里を起こさないように寝室に運ぶ。お姫様抱っこで悠里を抱え、寝室にある布団に優しく降ろした。最初と比べると顔色も良くなってはいるが、まだまだ安心は出来ない。
悠里が心配なのでここに居たいのだが、流石に年頃の女の子の寝顔を見るのは良くない行為である。色々な思考を巡らせながら、悠里に布団をかける。自分と葛藤した結果、起きた時に恥ずかしい思いをするのは悠里なので、俺は重い足取りで寝室から出た。べつに、寝顔が見たかったとか、そんなんではい。断じて違うので、そこは誤解しないでほしい。
ただ、部屋を出る時に悠里の方から「るーちゃん」と言う声が聞こえ、出る直前に振り向いたが、特に問題は無かったため、気に留めながらも部屋をでるのだった。
椅子に座り、窓の外から見える雨粒を眺めながら、先ほどの悠里の様子について考えることにした。
いつも落ち着いていて、めぐねえとは何か違うモノを持っている悠里は、みんなのまとめ役だ。お姉さん的存在で、良くめぐねえと料理を作っている。そんな悠里が、あのようになるとは到底思えなった。それに「るーちゃん」と言う存在。悠里にとっての友達だろうか、それとも家族か何かか……夢にも出てくるほどなので、悠里にとって、大事な人だと言うことはよく分かる。
うーんと首を捻らせて考えるが、頭があまり回らない。やはり日頃の疲労が残っているようだ。
常に護らなくちゃいけない存在がいて、なおかつヤツらの攻撃を受けたら終わりと言うプレッシャーのなか、毎日大量のヤツらと戦闘している俺と胡桃には、自分の想像以上に精神的にキツイのかもしれない。これがもし、一人でやる事になったとしたら、ソツなくこなすことは、結構大変なのかもしれない。いや、大変だ。
しかもまだ一週間も経っていない。それなのにこんだけ労力が減るのだ。もし一人だったとしたら、強靭なメンタルと体力がないとやってられない……考えるだけでゾッとする。
嫌な想像を追い払うべく、気分転換に立ち上がり、窓の外を何となく見てみた。窓の外を確認した俺は、驚きのまあり目を見開き、呼吸が狂い、情なく短い悲鳴をあげてしまう。
疲れはどこかに吹き飛び、急いでめぐねえ達の居る教室にむかった。めぐねえも、由紀も、胡桃も、勉強するために教室に居る。とにかく俺は、無我夢中で走り出した。悠里はまだ寝ているから、起きない限り問題ない。しかし、胡桃一人だけであんな量のヤツらと戦うのは、無理だ!
この時、もし窓の外を見なかったら、今後の未来が大きく変わるなんて、その時の俺には知る由もない。
今、凄く、ヤバいです。ええ。
ヒロインを誰にしようかマジで迷ってます。
自分、ひかちゃんがホントに好きなんですよー(遠目)
意見お願いします!
自己解釈してるせいで色々面倒だ(白目)