Evangerion〜The girl from Roanapura〜   作:RussianTea

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チマチマ書いてたら出来上がったので、投稿しました。次回の投稿は未定です。


Ep.2

『技術局第一課E計画担当の赤木リツコ博士。至急、作戦部第一課葛城ミサト一尉までご連絡ください』

 

 初号機の調整が終わった直後、そんなアナウンスに呼び出された。

 

「呆れた……また迷ったのね」

 

 すぐに手元の端末で連絡を取る。電話の向こうのミサト(友人)は今が危機的状況だと理解していないような、なんともまあ気の抜けた声で言った。

 

『ごめーん。ちょっち迷った』

 

「ちょっち、じゃないわよ!」と怒鳴りそうになる気持ちを抑え、格納庫への道に続くエレベーターまでの最短ルートを伝えて通信を切り、ウェットスーツから白衣に着替え、エレベーター前へ向かう。

 

「にしても……」

 

 ミサトが連れてきたサードチルドレン、碇マリ。彼女は謎が多い。

 彼女は第2新東京市の里親の元に預けられている、ということになっていた。その里親は3週間前、何者かが仕掛けた即席爆弾(IED)により死亡した。その際、碇マリという少女は何処にもおらず、10年前に失踪していたことが判明。その後の保安諜報部の捜査によると、4歳から先の経歴は不明であり、1ヶ月前にロシア国籍のパスポートで入国し、第2新東京市内のホテルに滞在していたらしい。

 しかしあの男はこのことを随分前から知っていたような素振りを見せていた。

 写真を見る限り、マリは母親(ユイ)に似ている。綾波レイと違い、髪や瞳の色も普通で、よりユイの面影があるように思えた。

 それだけ。ただそれだけだ。ただ似ているだけ。あの男にとって、彼女は計画の道具に過ぎない。だというのに、彼女に対し、レイに抱いているのと同じ感情が湧き上がる。

 

「……無様ね」

 

 会う前から勝手に嫌うなんて、向こうからしたらとんだ迷惑だろう。こんな自分が、自分で嫌になる。

 そんな感情を振り払う為に、白衣のポケットからマルボロを取り出し、一服する。

 取り敢えず、目の前のエレベーターのドアが開いたら、ミサトに嫌味を言ってやらねば。この忙しい時に呼び出し、会いたくもない人間に会わせた仕返しに。

 ポーンという音がして、エレベーターが到着したことを告げた。

 

「あ、あら、リツコ……」

「何をやっていたの、葛城一尉。人手もなければ、時間もないのよ」

「ご、ごみんなさい……」

 

 シュンと萎れるミサトを見て、なんかもう怒りが収まってしまった。思わず溜め息が溢れる。

 

「はぁ……まあいいわ。それで、この子が?」

 

 白いシャツに紺のスカート。赤いネッカチーフを結んでいるので、ガールスカウトかピオネール(ソ連少年団)のような服装だ。ただ一点、上に羽織っている軍用ジャケットを除けば。

 

「ええ。マルドゥックの報告書による、サードチルドレン……それと」

 

 ミサトは声量を下げ、耳元で囁く。

 

「何故か知らないけど、この子英語しか喋んないのよ。話しづらいったらありゃしない」

「聞こえてるよ」

 

 いや、普通に日本語を話しているのだけど。

 

「え、マリちゃん、日本語喋れたの!?」

「話せて悪かったね。英語のほうが慣れてるだけだ」

 

 と、思えば英語。失踪時から外国にいたのならば、英語のほうが話しやすいだろう。私も彼女に合わせるとする。

 

「初めまして。私は赤木リツコ。よろしくね」

 

 そう言って、私は手を差し出した。一応、これから初号機に乗って貰わなければならないので、最低限の礼儀として。

 

「こちらこそよろしく、赤木博士(Dr.赤木)

 

 手を握る際に、目が合う。日本人としては色素が薄く、琥珀色の瞳。それは、確かに碇ユイを彷彿とさせる。これに対し、私は嫌悪感しか抱かないはず。

 なのに、何故―――

 

「何か変な所でも?」

 

 ―――何故、私は恐怖しているのか。

 

 彼女は私の一挙一動、筋肉の緊張・弛緩までをも観察している。まるで、戦地で敵を観察し、それを分析するかの如く。その目は鷹のように鋭く、捉えた獲物を確実に仕留めるハンター。

 さらには、今握った手だ。この年頃の少女の柔らかさだとか、瑞々しさなどは微塵もない。硬く、節くれだった手は、格闘に長けているであろうと推測出来る。

 何故かは分からない。理論的証拠など何も無い。だが、今、この瞬間。彼女は普通ではないと確信した。

 

「なんでもないわ 。取り敢えず付いてきて頂戴。あなたに見せたいものがあるの」

 

 内心の動揺を誤魔化し、ポーカーフェイスを取り繕う。こういう時、表情が乏しい顔面で良かったと、つくづく思う。

 

「見せたいもの? 父の死骸か何かか? それならベガスの砂漠にでも捨てといてくれ」

 

 マリの言葉に私とミサトは凍りついた。

 ネルフの中枢であるスーパーコンピューター"MAGI"の予測では、彼女は"親の愛に飢えた子供"である筈。それなのに今の発言だ。しかも、強がってとか反抗期とかではなく、面白半分に言っている。

 

「ん? ああ、そうか。今はベガスは砂漠じゃないのか」

 

 そういう問題じゃない。この感じからするに、今のは気の利いたブラックジョークのつもりだったらしい。

 

「……ジョーク、と受け取っておくわ」

「半分は本気だけど」

 

 そんなやり取りで微妙な空気になりつつ、私が彼女を連れてきたのはケージと呼ばれる場所で、エヴァンゲリオンの格納庫となっている。演出の為に灯りは点けておらず真っ暗だ。ここでいきなりライトを照らし、インパクトを与えるという―――

 

「暗いな」

 

 ―――予定だったのだが、マリはライターの火を掲げていた。まったく、得てして予定とは上手くいかない。こういうのは最初のインパクトが大事だというのに。

 

「ごめんなさい。すぐに灯りを点けさせるわ」

 

 まるでスタッフの不手際であるかのように言うと、手で合図してライトを点けさせた。

 

「これは……」

 

 そこにあるのは紫色の巨大な頭部。肩から下は液体に浸かっている。私は高らかに、その名を告げた。

 

「人の作り出した究極の汎用人型決戦兵器、人造人間エヴァンゲリオン。その初号機。建造は極秘裏で行われたわ」

 

 マリはジッと初号機を見つめている。そして、思案げに顎に手を当てたかと思うと、とんでもないことを聞いてきた。

 

「赤木博士。これの建造の開始は10年以上前か?」

「っ!? 」

 

 馬鹿な。確かにあの時、彼女は研究所にいて実験を見ていた。だが、当時はまだ4歳で、あれが何なのかを理解していないどころか、母親があの実験で死んだことすら知らないはずだ。

 

「……なぜそんなことを?」

 

 努めて冷静な口調を装う。しかし、彼女はそんな私を見てニヤリと笑った。

 

「質問文に対し質問文で答えるとテストは0点になるって知ってる? ……まあ、いいか。それで、これを私に見せた理由は? まさか、これに乗ってシベリアを横断してこい、とか言わないよね?」

「そうだ」

 

 初号機の顔の更に上、ガラスで遮られた部屋の向こうに声の主は居た。黒い制服に身を包み、サングラスをかけている男性。ぱっと見、明らかにやばい人に見える。町中を歩いていたら間違いなく職質されるだろう。

 マリはその男を不審者でも見るような目つきで一瞥した後、後ろにいる私とミサトに尋ねた。

 

「あの人は何? ジョーンズ? ウィル・スミス? 今からエイリアン退治にでも行くのか?」

 

 そんな何処ぞのアメリカ映画(MIB)ではない。いや、確かに傍から見ればそうだが。人造人間なんてものを見せ、さらにはあの男(不審者)が現れた以上、そう見られても仕方ないのだが。

 これが10年以上父親に会っていない娘の反応か。マリの言葉に唖然としながらも、私は答えた。

 

「……あなたのお父さんよ。ネルフ総司令官、碇ゲンドウ」

Блин(まじか)! ……あれに似なくて良かったよ…」

 

 意図していないのだろうが、ロシア語が混ざっていた。英語もどことなく訛りがあると思えば、ロシア語訛りだったのか。そういえば、この少女は何故か正規のロシア国籍を持っていた。失踪した後にロシア人にでも拾われたのだろうか。

 

「久しぶりだな、マリ」

 

 マリはその言葉に答えなかったが、司令は気にせず言葉を続けた。

 

「フッ……出撃」

 

 その言葉にもマリは何も言わず、ただ司令を見つめている。しかし、その瞳から急速に温度が失われているように見えるのは、気のせいではないだろう。

 

「零号機は凍結中じゃ……まさか初号機で!?」

「他に道はないわ」

 

 ミサトの動揺しきった言葉に私は冷淡に切り返した。

 

「パイロットは?レイはまだ動けないわよ」

「さっき届いたでしょ」

 

 そう言って私はマリを見る。その態度にミサトは声を荒げた。

 

「あの綾波レイでさえシンクロするのに7ヶ月もかかったのよ。今来たばかりのこの娘には無理よ!」

「座っているだけでいいわ。それ以上は望みません」

「そんなの……」

「葛城一尉、今は奇麗事を言っている場合では無いのよ。人類が生き残る為には、手段を選んではいられない。レイが使えない以上、そうするしかないわ」

「う、それは……そうかもしれないけど、でも……」

 

 ミサトの一時的な反対は、私にとっては予定通り。とはいえ、こんな茶番に付き合うのは程々にしたい。

 とっとと認めなさいっての。

 そこへ、焦れた司令の怒声が響く。

 

「乗るなら早くしろ!でなければ、かえ―――」

 

 恐らく、司令は「帰れ!」とでも叫ぼうとしたのだろう。だが、その言葉は最後まで聞こえることはなかった。

 突如、2発の銃声が轟いたからだ。

 

「チッ……やはり強化ガラスか」

 

 犯人は他でもない。サードチルドレン、碇マリ。彼女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ##

 

「乗るなら早くしろ!でなければ、かえ……」

 

 そこで、私の忍耐は限界を迎えた。スカートの下に隠してあるホルスターから引き抜いたのは、ロアナプラにいる頃から愛用しているイジェメックMP-443"グラッチ"。ヤリギン拳銃とも呼ばれるロシア軍現用拳銃である。

 私は両手でグラッチを構え、男の心臓と頭を狙い、1発ずつ撃った。しかし、銃弾は手前のガラスに弾かれてしまう。

 

「チッ……やはり強化ガラスか」

 

 分かってはいたが、思わず舌打ちをする。あの強化ガラスの厚さは分からないが、M72(対戦車砲)でも持ってこない限り抜けないだろう。私の手持ちの9パラ弾では語るに及ばず。

 

「吠えるな雄豚。その臭い口を閉じておけ」

 

 スカートを払い、グラッチをホルスターに収める。そして、赤木博士に向き直った。さっきから感情論でものを言っていた葛城一尉よりは、理性的に話せそうだからだ。

 

「それで? もし私が搭乗を拒否した場合、その動けない状態にある"レイ"という人物が乗ることになる?」

「ええ、その通りよ」

「もし使徒を倒せなかったら?」

「人類は滅ぶわ」

 

 簡潔に返ってきた答え。それは実にシンプルなものだった。

 

「了解した。赤木博士、説明を」

 

 実際、あの男の言いなりになるようでシャクだったが、自分の感情よりも優先されることというのは、古今東西多々あるものだ。

 それに何よりも、世界だか人類だかを救う為の戦い。即ち、異種との戦争。

 そう、戦争だ。戦争なのだ。

 

「分かったわ。こっちに来て頂戴。ミサトは発令所に」

「え? あ、ええ。分かったわ」

 

 私が発砲した件でいまだに固まっていた葛城一尉だったが、赤木博士の言葉で我に返り、慌ててケージから去っていった。

 

「あの人、あれで本当に大尉なの?」

 

 指揮官ともあろうものが、有事において感情に左右されるなど、言語道断だ。加えて、まだあまり実戦経験がないように思える。名ばかり将校とまではいかないが、あれで大尉(カピターン)と同じ階級とは、とても思えない。

 

「一応、ね。まあ、色々とあなたからは聞きたいことがあるけれど……話は帰ってきてからゆっくりとしましょう」

 

 赤木博士は私を初号機のコクピットらしき場所まで連れていき、操縦方法などの説明を始めた。

 




リツコさんの一人称視点のシーンは完全に独自解釈です。気に入らなかったらすいません。

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