俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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どうにも評価が両極端な今日この頃。
でも一生懸命頑張って、もっと八幡を頑張らせます。


第8話 俺に仕事がないわけじゃない。

 結衣と雪乃の二人を連れて八幡は家庭科室へと歩いていく。

その道中に少し奇妙なものを見る視線を道行く生徒達に向けられたが、八幡は気にすることなく歩き続ける。

仮にも学園でも有名な美少女である雪乃とかなり可愛い部類に入る結衣。そんな二人と一緒に行動しているのが目が濁り切った変質者に見間違われるか心配になるレベルの八幡なのだから、悪目立ちも良いところである。

いつもなら目立つことを嫌う八幡であるが、流石にこればかりはどうしようもないと諦めた。

別に周りの視線から自分と言う存在を消す方法はある。いつも仕事でやっている『それ』を使えば、確かに皆八幡の存在を感知することは出来ないだろう。

だが、それをしたら今度は結衣と雪乃が困惑してしまう。何せいきなり『消える』ようなものなのだから。

流石に日常生活でそれを使う気はないのでまずしない。故にこれは仕方ないことだ。

そう割り切りながら歩くこと約10分弱、3人は家庭科室についた。

部屋に入り、3人でクッキーに使う調理器具を揃える。それを終え次第、3人は話しあうことにした。

 

「それで由比ヶ浜さん、貴方はどういうクッキーを作りたいのかしら?」

 

クッキーと言えど種類はいくつもある。その中で作りたい希望があるかを雪乃が聞くとい、結衣は八幡の方に目を向けて顔を赤くしつつ答えた。

 

「その、やっぱり美味しいクッキーの方が良いかな。食べて貰って美味しいって言ってもらいたいもん」

 

顔を赤らめつつもじもじとしながら答える結衣の姿は傍から見ても恋する乙女の顔であり、恋愛をしたことがない八幡が見ても可愛いと感じさせられた。

それが理解できなくてもその意気込みと思いは十分に伝わり、自分の為だということを知っているだけに尚顔が熱くなるのを感じた。

勿論それを知られないように表情には出さないようにしていたのでバレてはいないが、結衣の感情はバレバレであった為に雪乃は呆れ返る。

 

「まったく、さっきも言ったけど惚気なら余所でやりなさい」

「べ、別に惚気てなんかいないって! そ、そういう仲にはまだなってないし………」

 

小さい声でそう呟く結衣。その様子に尚雪乃は呆れて八幡に目を向けるが、八幡は結衣の言葉の意味が分からないのか表情が変わらない。

この二人は知らないが、八幡にある区分は少なく『知り合い、戦友、上司』の三つであるそれ以外は他人でしかない。だから彼には『恋慕』というものが良く分かっていない。

だからなのか、このまさに青春な状況に気付けない八幡は異様と言えた。

そんな実に『鈍感』な彼にも呆れつつ、雪乃は結衣に話しかけた。

 

「まぁいいわ。とりあえずだけど、由比ヶ浜さんには普通のクッキーの作り方を教えようと思うの。確か初めてなんでしょう、こういうお菓子を作るのは?」

「う、うん。今までこう言うことはやってこなかったから」

「初心者に難しい物を作らせるわけにはいかないわ。だからまずは基本的なものからにしましょうか。それが出来れば今後はもっと難しい物も作れるようになるはずよ」

 

今日教えるクッキーのレシピを軽く説明する雪乃。彼女の説明を一生懸命に聞いてやる気を漲らせる結衣。そしてそんな二人を見ながら疎外感を感じる八幡。

別に二人の中に入りたいとか一緒にクッキーをつくりたいとか、そんなことを思っているわけではないのだが、奉仕部に来た依頼なのだから自分の何かした方が良いのではないかと思わなくもないのだ。

しかし、この状況で八幡が出来ることはない。

これがただのクッキー作りの教え方だと言うのなら問題なく参加するのだが、『八幡に贈る為のクッキー』を作るのに自分が手伝うと言うのはあまりにも皮肉過ぎる。

だから手伝うこともできず、八幡は椅子に座りながら二人を眺めていた。

そんな八幡の視線を感じてか、結衣は八幡に向かって頬を赤らめつつも話しかけた。

 

「待っててね、ヒッキー。凄く美味しいの、頑張って作るから!」

「お、おう……」

 

結衣の意気込んだ様子に驚きつつ八幡は返事を返す。

しかし内心は別のことを突っ込んでいた。

 

(その意気込みは結構だが、『ヒッキー』ってあだ名は決定なのか?)

 

別に八幡は引きこもりではないのでそう言われるとどうにも否定したい気持ちで一杯になる。しかし、結衣はもう変えそうになさそうだったので諦めた。

 

 

 

 そんなわけで始まったクッキー教室。

雪乃を教師役として結衣はクッキーを一緒に作ることに。

八幡はすることがなく、仕方なく椅子に座って二人を眺める。

 

「んしょ、うんしょ……」

「もう少し手早く混ぜて。って違うわ、そうじゃなくてもっと生地を切るようにヘラを動かすの」

 

見ていて分かることだが、やはり初心者である結衣の作業はぎこちなく、雪乃から度々注意を言い渡されていた。

それを聞いて結衣は一生懸命に言われた通りにするのだが、何故か上手くいかずにより酷くなったりしていた。

その所為なのか、二人のやり取りはてんやわんやとしていて大変な様子である。

そんな様子の二人を眺めつつ、八幡は少し昔を思い出していた。

それはまだ彼が10にも満たなかった時の頃。父親を亡くして大変だったあの頃。

料理もまともにできなかった彼は、妹の為に四苦八苦して何とか食べられるレベルの物を作れるようになるまでに色々と苦労したのだ。今では妹の方が腕が上で意味すらなくなってしまったが。

そんな当時のことを思い出し、八幡は笑う。

 

「『健全に一生懸命』に頑張る姿ってのは、なんか良いもんだな。俺もあの時はあんな風だったのかもしれない」

 

軽くそう呟きまた微笑した。

今ではすっかりしなくなった『健全な努力』というのが彼にはまぶしく、それでいて愛おしく見えたのだ。今の自分は努力こそ常にしているが、それはあまりにも『健全』ではないから。

そんな風に二人の様子を微笑みながら見ていた八幡であったが、出来あがった物を見た瞬間にその顔はひきつった。

 

「こ、これは…………」

 

八幡の前に出されたのは真っ黒い塊。

異臭らしい異臭がしないのが救いだが、明らかに人が食べるものじゃない。

そんなものを前にし、実に気まずそうにする雪乃。結衣はもう下を向いて泣きそうになっていた。

 

「何でちゃんと教えてるのにこうなるのかしら……」

 

きっと彼女なりに真面目に教えたのだろう。

そして普通ならどうやったってこんな風にならないはずなのになってしまった現象に雪乃はがっくしと項垂れる。

 

「ご、ごめん、ヒッキー。やっぱりこんなの贈れない……捨てるしか……」

 

結衣は一生懸命作っていただけに失敗したことが悲しいようだ。

とはいえこれが出来あがった精一杯。とりあえず持ってきたとはいえ食べて貰おうとは思わなかった。

しかし、そんな結衣に対し、八幡は普通にそれを手に取り………。

 

「ん………」

 

食べた。

 

「なっ!? 比企谷君!!」

「ヒッキー、駄目だよそんなの食べちゃ!?」

 

まさか食べるとは思っていなかったであろう二人の声が家庭科室に響く。

八幡はそれを聞きつつもまるで何事もなかったかのようにクッキーを租借していた。

 

バリバリ、ゴリゴリ。

 

クッキーにしては不適切な音が口の中から聞こえてきて、甘さは一切感じず苦さだけが口に広がる。そして口の中に充満する焦げた風味はもう失敗どころでは済まなくなるほどに程に酷かった。

正直食べ物として失格していると言わざる得ない。

だと言うのに八幡は何も言わずに皿に乗っていたクッキーらしきものに手付け続け、ついには全部食べきってしまった。

それまでが無言であっただけに雪乃と結衣の二人は八幡に視線を集中させてしまう。

二人の視線を感じつつ、八幡は口を開いた。

 

「ごちそうさま」

 

食べ物を作ってもらった事への感謝の気持ち。それをまず言い、次に二人が気になっているであろう評価を口にする。

 

「正直………ここまで酷いクッキーは初めてだ。焼く時間をどういじったらこんなになるんだよと突っ込みたくなるくらい、これはクッキーとして最悪だった。寧ろ石炭と一緒に混ぜて蒸気機関車にくべてもバレないくらい、こいつは消し炭だったよ」

 

その感想に雪乃はやっぱりと言った感じに額を抑え、結衣は分かってはいたが涙が零れ落ちそうになる。

これだけ聞けば予想通りの最悪の結果にしかならない。

だが…………。

 

「でも」

 

そこで言葉が続き、結衣は八幡の顔を見つめてしまう。

そこにあったのは何と言うか…………父性あふれるような優しい笑みだった。八幡にしては珍しく目が濁っていない。

 

「由比ヶ浜が一生懸命に作った気持ちは確かに伝わってきた。だからこれは………『美味かった』よ、由比ヶ浜。ありがとな」

 

その言葉に結衣は何故か泣き崩れてしまった。

 

「ひ、ヒッキー……………」

 

彼女は今、自分がどんな顔をしているのか分からなかった。

酷い物を出してしまったことへの後悔、しかし自分の気持ちが確かに伝わったことへの嬉しさ。それがごちゃまぜになりどうしてよいのか分からなかったのだ。

ただ、胸が温かくなるのを感じた。

その様子を見て雪乃は少しはマシになったと思ったのか軽く微笑む。

さて、これだけ見れば大した青春だが、八幡の中ではそうではなかったりする。

確かに彼の言うとおり、このクッキーは最悪だった。でも………まだ食べられるだけマシだったのだ。

彼の経験上、それ以上にヤバいうものを食べたことがあった。

世界一まずい飯の国を称される国の軍隊レーション。その中に入っているビスケットは、それこそ本当の意味で『不味い』のだった。あれほど酷いものを八幡は食べたことがなく、それ故に結衣が作ったクッキーはまだマシだったのだ。少なくとも歯が折れかけたり口の中を切り裂くほど硬くないだけマシ、というのが八幡の談。

だからこの程度はまだマシだったのだ。まだ食べられるだけ有りがたい。

八幡は少し苦いと思いつつも、せっかくだから結衣にある提案をしようと思った。

もうお礼とクッキーは貰ったのだから依頼は完了したと言ってよい。しかし、その形がこれと言うのはあまりにも酷い。

だからもう少し丸めることにした。

 

「せっかくだから由比ヶ浜。俺が今度は一緒にクッキーの作り方を教えてやるよ。お前でも出来る、俺の思い出の味ってやつをさ」

 

 その言葉に今度は結衣が固まった。

ただ、今の彼女の心は喜びに満ちてあふれているようだった。それを証明するかのように、彼女は本当に嬉しそうに返事を返した。

 

「う、うん!」

 

こうして今度は八幡が彼女にクッキーを教える事となったのだ。



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