俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn

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かなり長くなってしまいましたね、これ。
そして八幡、手前は誰だ!?


第10話 俺の部活は青春ではない

 目の前をいくつもの銀閃が襲いかかる。

それらはすべて殺意を込められ、一つでも当たれば致命傷は避けられない。下手をすれば一撃であの世へと旅立つことになる。

その絶対恐怖の銀閃に対し、彼は怯えることなく対応する。

その手に持った同じく銀に輝く刃を持って、受け止め流し迎撃する。

そしてお返しと言わんばかりに今度は彼が刃を持って襲いかかった。

相手の首筋、心臓、目、内臓、当たれば確実に行動に支障を来す、もしくは死ぬであろう致命箇所に向かって高速で刃を振るう。横に薙ぎ、縦に下し、一点に突く。

相手はそれ等を少し焦りつつも何とか回避する。避けられないものは受け止め流し、避けられるのなら身を仰け反ってでも避ける。

そんな相手に彼は更に追撃を仕掛ける。瞬時に最高速に達して連続の突きは一撃必殺。それが襲いかかり、相手はそれこそ悲鳴を上げながら貰わないように必死に防ぐ。

 

「危っねぇなぁ~、おい! 本気で殺す気だったろ!」

「それぐらいしないと訓練にならないだろ。それにあれぐらいなら防げるだろ、お前」

「まぁね」

 

彼の言葉に相手は笑いながら頷いて見せた。

その反応に満足し、二人は再び構え、そして刃を交え始める。

そんな二人の激突により空間内に金属同士による激しい激突音が響き渡った。

 

 

 

 現在八幡が居るのは地下。

ここは彼のアルバイト先である『株式会社三雲清掃業』、その地下にある訓練場だ。

表では普通の清掃業だが、裏では政府請け負いの『掃除人』をしている。裏稼業の組織なのだ。

その中で実働部隊である彼等『レイスナンバーズ』には当然それ専用の設備があり、彼はそれらを使って常に任務に備えて鍛えている。

それは八幡も例外ではなく、普段バイトがあるという場合は殆どがこういった『訓練』だったりする。たまにバイトが遅くなる場合があるが、その場合は『仕事』なのだ。

だから八幡は現在バイト中。会社に来てから地下の訓練場でこうして戦友達とその腕を磨き合っているわけだ。

八幡と向かいあっているのは彼よりも歳が上の男。

年齢は20代中盤と言ったところだろう。染め上げられた茶髪が歳の割に無邪気さを感じさせ、その瞳は妙に悪戯の心を忘れさせない少年のような印象を感じさせる。

この男の名は『雑賀 静州(さいが せいしゅう)』…………八幡と同じ『レイスナンバーズ』であり、彼が信用している戦友。『レイス7』のコールサインを持つ凄腕の狙撃主である。

基本八幡のバックアップに付くのは彼であり、二人で組まされるのはよくあること。つまり八幡の女房役のようなものなのだ。

そんな雑賀 静州ことレイス7はこうしていつも八幡と共に訓練をしている。

今回も彼が苦手とするこうして近接戦闘の訓練をしているわけなのだが、その最中にレイス7はニヤニヤと笑い出した。

いきなり笑い出したことに不審に思い警戒心を顕わにする八幡。彼が知るこの男というのは、こんな風に笑う時に大概碌なことを言わない。

そんな八幡の心情を察したのか、更に愉快そうにレイス7は笑った。

 

「そう言えばハチ、お前部活に入ったんだって」

「………何で知ってるんだ」

 

部活に入った件は課長である武蔵おじさんにしか報告していない。

なので彼がその事を知っているはずがないのだ。だからこそ、より警戒を顕わにする八幡。傍目には気付き辛いが、明らかに機嫌が悪くなっていた。

彼等はレイス、その能力は戦闘に限った話ではない。諜報は勿論機械工学だの情報操作だのと様々なことに精通している。得意不得意は有れど、基本は大体出来る。だから八幡のことを調べようとすれば出来なくはない。ただし、同じことが出来るということは、勿論それに気付けるということ。八幡はもしや自分が気付かない内に調べられたのかと思い少し苛立つ。そこまで諜報などが得意と言うわけではないが、隠密行動と察知にはそれなりの自信があるので、その自身に少し罅が入りかけた。

しかし、そんな八幡の考えは杞憂だったようだ。

レイス7はニタニタと笑いながらその答えを教えてくれた。

 

「そんな警戒すんなって、別に俺は何もしてないからさ。この間課長がかなり嬉しそうに皆に語ってたぞ。『八幡君がやっと年相応の事を始めた』ってな。あの人子供とかいないから、お前のことはマジで息子みたいに思ってるからなぁ。嬉しかったんじゃねぇの」

 

その答えに八幡は頭痛を感じ顔をしかめた。

 

(何でそう喜ぶかなぁ、あの人は! 確かにガキの頃から世話になってるから向こうからしたらそんな風に見えなくなくもないかもしれないが、それでもそんなに喜ぶことか?)

 

八幡には分からないが、父親代わりの課長にはその事が嬉しかったらしい。

その割に仕事はしっかりしろという辺り、公私混同具合が分かりづらい。

だからなのか八幡は呆れ返る。この訓練が終わったら文句の一つでも言おうと心に決めた。

それで終わるのなら何もなかったのだが、それだけで目の前の男がこうも笑うわけがない。その考えを肯定するように彼はもっとも笑える本題を口にした。

 

「しかもアレだろ? 他の部員は女子が二人だけで、両方とも凄い可愛い娘なのな。雪乃ちゃんはクールビューティーな感じが堪らないし、結衣ちゃんはすごい巨乳だろ。何、そのハーレム? お前ハーレム王にでもなるってか? いやぁ、可愛い子ちゃん達と一緒の部活なんて、まさに青春じゃねぇか、このこの~!」

 

からかう気満々のレイス7。そんな彼に八幡は違うと言いたいが、言ったところで変わらない。この男はからかう時は極端にからかうからだ。

ニヤニヤと笑う彼が煩わしいと思った八幡は、その口を塞ぐために行動を起こす。

彼が言っているようなことは断じてない。雪乃は寧ろ八幡のことを嫌っているし、結衣に関しては八幡に恩を感じているからこそあのような反応を示すのだろう。彼自身他人から好意を向けられることがないことは分かり切っているのだから。(超鈍感)

八幡はケラケラと笑っているレイス7を尻目に、背後で見ているであろう事の発端でもある課長に声をかけた。

 

「課長、レイス7は体力に余裕があるそうです。なので二刀の許可を」

 

その言葉にレイス7の顔は凍りついた。

これまでの訓練に於いて彼らは片手に一本のみのナイフで訓練していた。しかし、八幡の本来の戦闘スタイルはナイフ2本による二刀流。つまりこの発言は、それこそちゃんと『戦う気』でやるということである。別に今まで手を抜いていたわけではないが、近接戦が不得手なレイス7の為に考慮していたにすぎない。

つまりこれからやるのは、先程よりも手加減無しの一方的な訓練(いじめ)である。

それが分かるからこそ凍りつくレイス7。そして課長はその言葉に………。

 

「良いだろう、体力が有り余っているなら寧ろそうしなさい。訓練中『余計な軽口』を叩いているくらいだ。余程余裕なのだろう?」

 

死神の大鎌を振り下した。

 

「ちょっ、課長!? 自分で自慢していたじゃんか! そりゃあんまり……」

「問答無用だ。大人しく………くたばれ」

 

そしてレイス7には八幡の倍に増えた手数によって一気に圧倒された。

八幡は彼を叩きのめしながらも考える。

 

何度も言うが…………そんな『青春』なんてものじゃない、と。

 

 

 

 結衣の依頼が終わってから数日が経った。

その間にあった事を簡潔に言うのなら、まず結衣が奉仕部に入ったこと。あの依頼以降、どうやら部活と雪乃が気にいったらしく『ゆきのん』というあだ名をつけてくっついていた。それに対し雪乃は最初こそ拒絶していたのだが、今では寧ろ悪くないようで一緒にいることが多くなった。きっと彼女にとって久しい友人になったのだろう。

その中の良さは部活外でも発揮されており、この間クラス内で結衣は友人と揉めたようだが、そこに雪乃が介入することで何とか大事にならずに済んだようだ。

その際に八幡は所用で出ていたので教室にはいなかったから分からなかったのだが、何でも意見がはっきりとしない結衣に対し友人である三浦優美子が怒ったようだ。

その話を雪乃から聞かされた際、八幡は言わなかったが、その答えはすぐに分かり切っていた。

誰が悪いのか? その答えは…………二人とも悪いとしか言えない。

まず結衣は結衣ではっきりと口にするべきなのだ。自分の行動を自分自身の責任を持って成す為に、はっきりと己の意思を口にして告げることが、彼女に必要な事なのだと。

そして三浦に関して言えば、『友人』という関係を勘違いしていることだろう。

自分の意に添わなければ糾弾するなど、そもそも友人ですらない。八幡は友人がいないので分からないが、それが友人関係ではないこということは分かっている。だから彼女にはそもそも友人というものを考え直すべきだ。言い換えるなら結衣はそんな三浦とつるむべきではないのかもしれない。

だから総じて悪いのは首謀者二人だ。断罪されるべきなのはこの二人。周りは飛んだトバッチリを受けたに違いない。

と、こんなイベントがあったからなのか、更に結衣と雪乃の仲は良くなったようで、よく抱きついている姿を見かけるようになったとか。

 と、そのように部活や学校生活ともに結衣や雪乃と顔を合わせることが多くなった八幡。その時間は今までより少しばかり色づいており、それでいてまぶしくも感じる。

レイス7が言うようなことは一切ないが、それでも悪くはないと思う八幡が確かにいた。

そんな風に感じながら今日も八幡は部活に向かう。この日は『バイト』もないので部活に行ける。それが最近になって当たり前になってきたのか、違和感を感じなくなってきていた。

そして部室の前まで行くと、そこに奇妙なものを見つけた。

それは何故か部屋の前にいる結衣と雪乃だった。その顔は恐怖と警戒心が入り混じったような顔をしており、扉の窓越しに部室を覗き込んでいた。

そんな二人を怪訝そうに感じながら八幡は声をかける。

 

「何してるんだ、二人とも?」

 

「「!?」」

 

八幡の声に身体をビクッと震わせながら二人は八幡の方を向くと、肩を撫でおろした。

 

「いきなり声をかけないでくれないかしら」

「び、びっくりした~!」

 

八幡を軽く非難する二人。そんな二人の様子が何故か可愛らしく見えてしまい、八幡は少しだけ笑ってしまう。

 

「悪かったよ。それで、何してるんだ?」

 

二人はそう問われて顔を見合わせると、結衣が八幡に不安そうな眼差しを向けながら告げた。

 

「部室に不審人物がいるの」

 

その言葉に八幡は眉をひそめる。

彼女たちが言っていることがどうなのかを確かめる為に彼女たちと同じように窓から相手にばれないように覗きこむことに。

そこから見えたのは相手が太り気味の男であること、まったく知らない人物だということ、そして確かに雰囲気が通常の人間とは異なっていること。

以上のことから彼女達の意見は間違いとは言い難い。

そもそも許可なしに勝手に部室に入っている時点で十分不審なのだから。

故に八幡は不審な相手に判決を下す。そのための条件は先程覗いた窓から確認出来ている。

八幡は二人を見ながら軽いお願いをし始めた。

 

「悪いが二人とも少しの間だけ目を閉じていてくれ。その間に俺がアレを何とかしてみるから、終わったら声をかける」

「それってどういうこと?」

「ヒッキーどうするの?」

 

八幡のお願いに疑問府を浮かべる結衣と雪乃。しかし、八幡の少し男らしい説得力のある顔に言われた通りに目を瞑った。

それを確認すると共に八幡は行動を開始する。

いつものように、息をするように、それが生態であるように、その身体の存在そのものを薄れさせていく。

そして出来あがるのは一人だけの世界。誰も彼のことを認識することは出来ず、有るのは自分だけの有り方。

レイス7が勝手につけた『亡霊襲撃』の名にふさわしき、絶対のステルス。

それをすることで八幡は世界から切り離される。

たった一人の世界で彼はまず走り部室の下の階の部屋へと向かう。

そしてその下の階は他の同好会が使っているらしく、扉が開きっぱなしであったことでそのまま扉から部屋へ侵入。室内に人がいるはずなのに誰も彼に気付くことはなく、八幡はそのまま部屋の窓まで行くと身を乗り出した。

そして上の階にある窓の淵に手を伸ばしながら飛びつき指をひっかける。

以上の行動は普通の高校生にはまず出来ない。八幡だから出来る芸当だ。

そして指に力を込めてよじ登るや否や、『部室内にいる不審人物』に向かって歩みよった。

それまでの時間にかかったのは約5分。

そして部屋に入れば後は簡単であった。

不審人物の後ろに回り込み、懐からボールペンを取り出しそれを相手の頸動脈に触れさせる。それとともにステルスを解除。

 

「両手を上げて今すぐ跪け。抵抗すればこのまま突き刺して頸動脈を掻き切る」

 

「!?」

 

誰もいないはずの室内で背後を取られ、その上自分の生命を握られれば、どのような相手であろうとも驚きは隠せない。

その不審人物は恐怖のあまりガクガクと震え始め、声が出せないのか喉から嗚咽のようなものが漏れ始める。

傍から見れば凶悪の一言に尽きるであろう光景。されど八幡はそれを悪とは断じない。もっとも効率的な手段に善悪などないのだから。

八幡に言われた通りにその男は跪く。

それを見ながら八幡は相手に恐怖が伝わるように、低く重い声音で問いかけた。

 

「それで………何の意図があってここに居る。目的を喋ってもらおうか」

 

濁り切った目でそんな台詞を吐けば、もう犯罪者の鏡にしか見えない。

それを感じ取ったのか、男は怯えた様子で何とか言葉にした。

 

「そ、その………奉仕部にお願いしたいことが……あって、それで………」

「はぁ?」

 

 

 

 この後二人に部室に入っていいと声をかけ、結衣と雪乃の二人を交えて改めて話すことでやっと判明したのだが、どうやらこの男が奉仕部に来た第2の依頼人らしい。

 

 

 尚、何故八幡が室内で男を取り押さえていたのかについて二人から質問が来たが、その際に八幡は軽く笑いながらこう答えた。

 

「企業秘密だ」

 

その言葉に答えはなくはっきりとしない二人だったが、何故か納得してしまった雪乃。そして結衣は何故か八幡の顔を見入って顔を真っ赤にしていた。

 

 


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