俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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第13話 俺の能力で出来ることにも限りがある

 どうしよう…………。
その言葉が八幡の脳内に満ちる。
何故こんなに悩んでいるのか? それは彼が読んでいる小説にある。
依頼としてこの小説の感想を言わなければならないわけなのだが、読んでいて分かることはあまりにもわからないということ。
突っ込みどころは多く、それでいて面白いと思えるようなものが一切ない。まだ銃火器の仕様書の方が読み応えがあるとはっきり断言できるだろう。
それは致し方ないのかもしれない。何せ八幡はこの手の読み物を読んだことがないのだから。
彼にとってまさに未知であり、何故そうなるのかがまったく分からない。
良い例を上げるなら、何故主人公が何もないところで足を滑らせこけるのか? そしてそれに付随するようにヒロインを巻き込み抱きついて倒れ、それが卑猥な感じになるのか? それがまったく分からない。通常、何もないところで足を滑らせるというのは環境や本人の健康状態、それにその場の状況などによって起こる。少なくとも晴れの日で道が濡れてもおらず、不安定な足場でもない所で、体調も悪くない人間が足を滑らせるなんて芸当は通常では出来ない。少なくとも故意でなければ出来ないのだ。
しかもヒロインを巻き込む理由もない。通常バランスを崩した人間は身体のバランスを取ろうと必死になる。その際に何かに手を伸ばし掴もうとする動きはなくもないが、それよりも自分の手を地面につけて衝撃を吸収した方がまず怪我はしない。だからこそ、より不自然にしか見えないのだ。
これは作り物だからそんなものなのだろうと思うが、それでも八幡にはそれが可笑しく思えて仕方ない。実際にあり得ないことは空想としか言いようがなく、空想は所詮空想。想像もできない。
小難しいことを言ったようだが、結局はまったくもって面白くない。
それが八幡の現在の答えであり、まだ読んでいない部分を読んでもその答えは変わりそうにない。
しかし、それでは仕事にならない。奉仕部の信念は魚の釣り方を教えるというものなのだから、ただつまらないと酷評するだけではなくそれ以外のプラスになることを言わねばならないのだ。
そう考えるが、考えてもその答えが出ない。つまらない以外の言葉が出ないのだ。
家に帰ってから読み、小町と一緒に夕飯を取った後でさえこれだ。結構な時間が経ったというのにそれ以外の言葉が見つけられない。
正直夕飯の時の小町の笑顔の方が余程見ていて嬉しくなったくらいである。
それぐらいこの小説には救いがなかった。

「本当にどうするか…………」

学校の問題など真面目に取り組むつもりなどなかった八幡だが、いかんせん『任務と依頼』などと言う言葉を使われるとやらなければいけない気持ちになってしまうのはきっと職業柄だろう。
どうしようかと悩む八幡。そんな彼はふと自分の携帯に目が向き、メールが来ていることに気が付いた。

「あれ、メールだと?」

そこで疑問府を浮かべる八幡。何せ彼の携帯は小町と武蔵おじさん以外の連絡先しかなかったから。プライベート用の携帯はそのため殆ど目覚ましにしかならない。
何かの間違いメールかと思い差出人を見てみると、そこには意外な人物『達』の名が表示されていた。

「由比ヶ浜に雪ノ下から?」

そこで思い出すのは結衣が入部した時のこと。その際に一応連絡先を皆教え合うことになったのだ。いざという時に連絡が付かないのでは困ると言う理由で。
だから彼の携帯には『家族』以外に初めて他の人間の連絡先が入っているのだ。
そして八幡はまず雪乃のメールから確認することにした。
何せ彼女は八幡のことを嫌っているからだ。そんな彼女がどのようなメールを送ったのか、単純な興味があった。

『貴方に送るのがこのようなメールで実に残念だわ。出来ればもっと読むだけで気分を害するようなメールを送りたい所だけど、それでは目的を達成できないから仕方なく本題に入るわね。一応例の小説を読んでいるのだけれど、正直苦痛にしか感じられなくなってきたの。これ、捨てても良いかしら? まぁ、そうしたいのだけれどそれでは依頼が達成できないから仕方なく読むけど。それでなのだけど、私は今のところこの小説を面白いとはとても思えないわ。寧ろ間違っている文法に誤字脱字の多さに呆れ返りさえしているの。だから私はこの小説に関してアドバイス出来なさそうだわ。貴方はどうかしら?』

「何と言うか、雪ノ下らしいと言うべきか。俺もまったく同じ意見なだけに返信に困るよ」

八幡はそう言いながら苦笑を浮かべる。
何と言うか、彼の想像通りの雪乃だったので笑えてしまう。
そして今度は結衣のメールを開く。

「こ、これは…………」

見てついそんな言葉が漏れてしまう。
何せそれは今まで彼が見たどの暗号とも一致しない怪文書だったからだ。
世間における顔文字などの乱立。それは下手をすれば一軍隊の暗号に匹敵するくらい分からないものになりかけていた。
八幡はこれを見て、もしかしたら小町も友人とはこんな感じにメールをしているのかもしれないと思いつつもメールを解読する。彼の心境は年頃の娘をもつ父親のような気分になっていた。最近の女子とはこういうものなのかと。

『は、初めてヒッキーにメールするね。その、何て言うか緊張しちゃうかな、あははは。そ、それでねヒッキー、あの小説を頑張って読んでるんだけど、漢字とか難しくて良く分からなくて。それになんかエッチなことばっかり書いてあるんだけど、どうすればいいの! あ、ヒッキーはそういう部分は読んじゃ駄目だからね。エッチなのは駄目! あ、それと………これからもよろしくね、ヒッキー』

「やっと読めるようになったが、また由比ヶ浜らしいと言えばらしいメールだな。見たとおりというかあまり頭が良くないようだし。その割に色気のあるシーンにそういうことを言う辺り、案外貞操観念がしっかりしているみたいだ」

きっと顔を赤くしつつそういう彼女の姿が想像できて八幡は笑う。
ここ最近出来るようになった笑いにぎこちなさを感じつつも浮かべつつ、彼は二人への返信のメールを考えつつメールを打って返信した。
 と、そのような青春らしい行動をした八幡であるが、問題の解決には至っていない。
そこで考えを変えることにした。
そもそも、相談してはいけないとはなっていないのだ。どの道判断がそれしか下せない3人ではこれ以上は仕方なく、この答えでは奉仕部として仕事の達成が出来ない。
だからこそ、八幡は使えるものは使うことにした。
そうと決めてからの行動は速く、専用のノートパソコンに特殊なジャミング装置を装着して起動させる。
それは音声チャットと言うよりテレビ電話に近い。それだけでなく、そのノートパソコン自体が特殊改造されている代物でありスキャナーやらなんやらと特殊な機能を搭載している非売品だ。
それを使用して行うのは、彼が所属する『レイスナンバーズ』の隊員との通信。別にこれでなくても携帯通信機器でいつもは通信をしあっているのでそちらで問題はないのだが、『今回は此方の方が都合が良い』。
そして八幡が通信を送ったのは、彼がもっとも信用している女房役。
八幡の呼びかけに対し、彼はすぐに出た。

『よぉ、ハチ。お前がこいつで連絡してくるなんて珍しいな』
「確かにそうなんだが、一応は会社の備品で連絡してるんだからちゃんとコードを使えよ、レイス7」
『相変わらず堅苦しいねぇ、お前は。こいつをクラッキングするんだったらそれこそアメリカのペンタゴン攻略並みの難しさがあるだろうに』

相も変わらずに応じる相棒に八幡は呆れる。
この男、本当にいつも飄々としているなと思う。それが少し羨ましくもあるが、あまり見習いたくはないと八幡は思う。
そんな風に挨拶をしたところで本題に入ることにした。

「実は部活の依頼で少し厄介なことを引き受けたんだ。部活の事は知ってるだろ。それで引き受けたのが自作小説の読書感想と言うところなんだが……」
『なんだが?』
「正直読んでいるのが苦痛になるくらいつまらないんだ。それだけならいいんだが、所謂ライトノベルという奴なんだろう。俺はこの手の読み物はしたことがなくてな、その面白みというものがまったく分からないんだ。このままだと依頼主を非難するだけで終わりそうだ。だからその手にも精通しているお前の意見を聞きたくてこうして連絡をしたってわけだ」
『それでこいつを使ったってわけだ。いいぜ、その小説の最初の5ページ程スキャンして送ってくれ』

レイス7の言葉に八幡は不思議に思った。
確かに全部なら量が多くて大変だが、だからと言って5ページでは少なすぎる。
その事で意見を述べようとしたところで向こうから先に返ってきた。

『少ないが問題はない。ラノべの文章能力は5ページみれば大体分かる。そいつの書き方、思考、機転の効かせ方、などなど色々とな。5ページもあればそいつの大体が分かるもんさ。こいつは俺の持論だがね』
「そういうものなのか?」
『そういうもんだよ、ラノべってのは。文章よりも挿絵が人の興味の7割を決める、まさに人間みたいなものさ』

そう軽口を叩くレイス7に八幡は意味が理解しきれないが納得する。
確かに人は見た目で7割、残り3割を中身で印象を決める。そういう点ではラノべも人も似ているのかもしれない。
少しだけためになるような話を聞いた八幡は少しだけ感心した様子でレイス7に言われた通り最初の5ページをスキャンして送る。

『お、来た来た。どれどれ………………』

どうやら彼は送った小説を読んでいるらしい。
そして3分と経たずに返事が返ってきた。

『確かにこいつはひでぇ出来だな。書きたい気持ちってのは良く伝わってくるんだが、それが暴走してちゃんと文章になってねぇなぁ。設定は練り込んでるんだが、それを文章に表す能力が足りてない。こればかりは書き続けて鍛えていかないと身に付かないから仕方ないんだがね。理想と自分の能力が見合ってないんだ』
「まるで評論家みたいだな」
『ラノべ読んでる奴なんて大体そんなもんだろ。ただ勘違いしやすいのは、評価するのと書くのはまったく違うってことだ。評価が上手い奴でも面白い小説を書けるかは別だからなぁ。評価するだけなら楽なんだよ』
「現場と上層部の違いみたいなもんか」
『ま、そんなもんだ』

理解できない単語がいくつか出てきてもそれなりに置き換えれば理解しやすく八幡は何とか話についていく。
そしてレイス7から出された判決を聞かされ八幡は酷いと思った。
その気持ちが伝わったのか、レイス7から八幡にあててとある言葉が送られた。

『こいつを言ってやれば、多少はマシになるかもな。んじゃ』

通信を終えて八幡は再び小説に目を向ける。

「こんなんで良いのだろうか? だが、俺が考えるよりも有効な意見が聞けたとは思う。明日はこれで何とかなるか」

とりあえずは解決の糸口は見えてきた。
そう思いながら八幡は更に小説を読み続ける。少しでも自分でも何か出来るようにするために。




 翌日になり時間は過ぎて放課後。
結衣が少し眠そうにしている様子を見つつ先に部室に向かう八幡。
先に雪乃がいると思っていつも通りに扉を開けると、そこに居たのは椅子に座りながら静かに寝息を立てる雪乃だった。
それはまさに眠れる森の美女、眠り姫にふさわしい姿であり、八幡は彼女の無防備な姿を初めて見た気がした。
そのまま起きるまで待ってやりたいところだが、それでは部活が始まらない。仕方なく八幡は声をかけた。

「おい、雪ノ下、起きろ」

あまり大きな声は出さず、少しだけ近づいて伝わるように声をかける。
その声に気付いたのか雪乃はゆっくりと目を開け、そして真近で自分を見ている八幡の姿を捕えた。

「な、何で比企谷君が!?」

顔を真っ赤にして慌てる雪乃。
そんな雪乃を見て少しだけ笑ってしまう八幡。少しだけ可愛く見えたのだ。

「何でも何ももう部活だろ。来てみたらお前が寝てるから起こした、それだけだ」

八幡は特に気にした様子もなくそう言うが、雪乃は耳まで真っ赤にして八幡から顔を逸らし恨み事のように呟く。

「何で寝ちゃったのかしら、私! よりにもよって彼に寝顔を見られるなんて」

単純に恥ずかしかったのだろう。人間、無防備な所を見られるというのは恥ずかしいものだから。
そんなことがあった後に結衣が来て、そして依頼人である材木座が部室にやってきた。

「では、感想を聞かせてもらおうか!」

自身満々に話しかける材木座に八幡達は皆申し訳なさそうに顔を逸らす。
そんな中、雪乃が素人なりの意見だが大丈夫かと確認の為に聞き、材木座は構わないとはっきりと断言した。
その言質を取り次第、彼女は決意したようではっきりと感想を口にした。

「つまらなかった。想像を絶するつまらなさ、読んでいて苦痛とさえ感じたわ」

その言葉にショックを受ける材木座。しかし、断言したからには雪乃は止まらない。
文法の間違いやルビの振り方の指摘、挙句はヒロインの不要なお色気シーンなど、上げたら切りがないらしい。それは八幡も一緒でありまったくの同意見だ。
そして今度は結衣に話が振られ結衣は結衣なりに指摘するのだが、お色気シーンがよろしくないとか現実的にあり得ないなど、実に現実を見た意見に夢見がちな童貞である材木座を打ちのめす。
最後に八幡になり、せめて八幡からはもう少しマシな感想が貰えるとすがってきた材木座。そんな彼に八幡は…………。

「雪ノ下と以下同文」

とどめの一撃を突き刺した。
それを受けた瞬間に壊れる材木座。声にならない叫びを上げながら床を転がり続ける彼はどう見ても異常者にしか見えない。
周りから憐れみすら抱かれる材木座に、せめて奉仕部らしくアドバイスを八幡はする。

「それでだな、一応俺のバイトの同僚がその手の読み物にも造詣があって詳しいんだ。だから少しだけお前の原稿を読んでもらったんだが……つまらなかったって言われた。けどな、ちゃんとそれ以外も見てくれたよ」

そして八幡が材木座に告げたのは、今の彼に必要な小説を書くための本、そして参考になる資料の小説、そして最後に………。

「そいつが言っていたよ。『確かにクソつまらねぇ話だが、その情熱は伝わった。だから後はそいつを持って突き進め。そうすりゃいつかは良いもんを書けるようになる』ってさ。まぁ、何もないよりかはマシだろ」
「八幡………」

その言葉に涙を流す材木座。
どうやら何とかためにはなったらしい。こうしてこの難解な依頼は終わりを告げた。







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