俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
<< 前の話 次の話 >>

23 / 78
今回は由比ヶ浜さんに頑張ってもらいましょう。個人的に大好きですよ。


第21話 俺の携帯の連絡帳は空いている

 平塚から呼び出しも無事に終わり、八幡は職員室から部室に向かって歩き出す。

もう最近ではすっかり行くのが当たり前になっている辺り、彼はこの部活動が嫌いではないようだ。あの独特ながら穏やかな雰囲気に包まれた部室は八幡の心にそれなりの癒しをもたらしてくれるからだ。勿論、それ以上の癒しが小町であることは彼にとって揺らぎようのない事実なのだが。

そんなわけでバイトがなければ必ず向かう部室に今日も向かうわけだが、部室に向かっている最中、八幡は大きな声で呼び止められた。

 

「あぁー、ヒッキーここにいた~!!」

 

声の方を振り向くと、そこに居たのは息を切らせている結衣であった。

その様子から走ってきたことが伺えるのだが、それ以上に高揚した顔と荒い呼吸から動く胸が思春期の男子には目の毒となっていた。その所為で本人は気付いていないが、付近を通りかかった男子生徒の視線が彼女に集中している。

それに気付いている八幡は、あまりその視線にさらされるのは良くないと判断し彼女に話しかけた。

 

「どうしたんだ、由比ヶ浜。そんなに呼吸を乱して?」

 

八幡の言葉に結衣は彼の顔を見つつも少し怒った様子で答える。

 

「どうしたもなにも、ヒッキーが部活に来るのが遅いから探しにきたの! それなのにヒッキー全然見つからないし、わざわざ聞いて歩いたんだからね。そしたらみんな『比企谷って誰?』って言うし、超大変だったんだからね!」

 

結衣の反応から八幡は自分のことを探すのに大変だったと言うことを察した。

それに彼女の口から実に彼にとって嬉しいことも聞けたので、内心でにやりと八幡は笑ってしまった。

 

『比企谷って誰?』

 

周りの人間に聞いてこのような反応をされるというのは普通は傷付くものだが、八幡にとってはそうではない。寧ろ最高の褒め言葉だろう。誰にも気付かれず目だ立つ認識されないと言うのは、まさに八幡にとっての理想だ。プライベートでそうである必要などないのだが、彼的には自分の一番の個性、能力なのだから極限まで突き詰めたい。故にその言葉は嬉しかった。

とはいえ、それを素直に喜ぶというのは、別の意味で目立ってしまうので結衣の前でそんな様子は見せず、普通に対応する。

 

「悪かったな、苦労させて。平塚先生から呼び出しを受けてたんで職員室に行ってたんだよ」

「そうなんだ~。それじゃ仕方ないね」

 

八幡の遅刻理由を聞いて納得する結衣。

それで終わればよいのだが、八幡はそこで別の事を思いついた。

 

「なぁ、そもそも探し回らなくてもメールなり電話なりすれば良かったんじゃないか? そのために連絡先教えたようなものだし」

「あ………」

 

八幡の指摘に結衣はやっとその事に気付き、途端に顔を真っ赤した。

それはもう見事な赤であり、如何に恥ずかしがっているのかが伺える。

 

「わ、私のバカ~。た、確かにそうすればこんな風に探し回らなくてもよかったのに~」

 

涙目で恥ずかしがりながら反省する結衣。その様子は周りから見て八幡に泣かされているように見えなくもない。

そんな雰囲気を感じ取り、八幡は少し慌てて結衣を慰めることにした。

 

「まぁそう落ち込むなって、人間誰しも落ち度はある。それが許される内はいくらでも失敗していい。その代わり、その反省を次回似たような状況の時に活かせるようになればいいさ」

 

そう結衣に言葉をかけつつ、最近ある意味慰めたりする時の癖になりつつある行為を結衣に行う。

 

「あ………」

 

頭に軽く触れる感触に結衣からそんな声が漏れた。

八幡の手は彼女の頭に置かれており、その手は彼女の頭を優しくポンポンと叩いている。

八幡にとってよく小町にしている行動だが、身内でもない異性にそうされ尚且つ彼本人には気付かれていないが、好意を持っている相手ににそんなことをされれば、それはもう凄く青春的なアレであり、結果としてそれまで恥ずかしさで真っ赤になっていた結衣は途端に別の意味で真っ赤に染まった。

その様子にどうしてよいのか分からない八幡であったが、結衣が落ち込んでいないようなのでとりあえずは平気だと判断する。

 

(ヒッキーに頭ポンポンされちゃった………ぅぁ~~~~嬉しいけど恥ずかしいような……やだ、私、どうしたらいいの!?)

 

内心嬉しさと恥ずかしさの板挟みに合い結衣は目を回す。

その様子は明らかに恋する乙女のそれであり、傍から見ていれば八幡に好意を抱いていることが丸わかりである。

ただし、この男に限っては別。人の殺意や悪意に敏感でも、人の善意を尊いと理解していても、自分に向けられる好意というものには点で気付かない。何せそういった感情が自分に向けられるという前提が彼にはないから。

だから彼女の様子を見ても八幡はまったく気付かない。ただ、未だに顔が赤い様子から自分にミスを反省して恥ずかしがっているということがわかるだけである。

そんな風に少しの間結衣を見ている八幡。その彼の視線を感じて結衣は慌てた様子で話しかけてきた。

 

「いや、その、本当にごめん! わ、私ってバカだよね~、あははは……」

「別にいいて言っただろ。お前が反省してるのはよくわかったからそれ以上気にするなって」

 

八幡の言葉に結衣は頷き返す。

そして後は二人で部室に行けばよいのだが、先程やられた行為自分がこんなにもドキドキしているというのにまったく無反応な八幡に少しばかり気に食わない結衣は、そこで少しだけ反撃をすることにした。

隣に並び歩く八幡に向かって自分の内心を少し明かしつつ、彼女はほにゃっとした柔らかな笑顔を彼に向けた。

 

「でも……やっぱりこうして探しに行って良かったって思う。だってこうしてヒッキーと一緒に部活に行けるから」

「ッ!? そ、そうか」

 

彼女から向けられた好意とその可愛い笑顔に少し挙動不審になりかける八幡。

先程上げた通り八幡は自分に好意を向けられても気付かないが、それはあくまでも間接的なものでありこのように直接伝えられた場合は流石に気付かない程間抜けでもない。だからこそ、どう対応して良いのか分からずこのようになってしまう。

『レイスナンバーズ』の『レイス8』のコールサインを持つ戦闘のプロと言えど、このようなな場面にはからっきしのようだ。ある意味弱点である。

そのような弱点を晒しつつ、八幡は誤魔化すように結衣にぶっきらぼうに話しかけた。

 

「と、とりあえず部活に急ぐぞ! あまり遅すぎると雪ノ下から罵詈雑言を吐かれる」

「ふふふ、そうだね」

 

そして二人は共に速足で部室に向かって歩いていく。

その時の結衣の顔は楽しそうであった。

 

 

 

「どうやら会えたようね」

 

部室に着いて最初に雪乃にかけられた言葉がこれであった。

 

「うん!」

「悪いな、平塚先生から呼び出しを喰らって遅れた」

 

その言葉に結衣は力強く頷き、八幡は申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にする。

その言葉を聞き終え、雪乃は不敵な笑みを浮かべた。

 

「あら、また何か問題でも起こしたの? 貴方、顔がアレだから存在するだけで問題になるから仕方ないわね」

「いや、目は濁り切ってるのは認めるがそれと呼び出されるのはまったく関係ないだろ。さらっと罵倒しないでくれよ」

 

八幡はやれやれといった感じで呆れつつ返すが、別にこの罵倒に傷付いてなどいない。このやり取りも奉仕部に入ってから毎回行っているのでもう挨拶のようなものだ。

だから普通に返すし問題なく自分の席に着ける。

 そのまま各自で時間を過ごすために動き始める3人。雪乃は読書に戻り結衣は携帯片手に雪乃に話しかけ、八幡は勉強道具を引っ張り出す。

依頼人が来なければいつもそんな感じな3人。

だが、今日はすこしだけいつもと違うようだ。

 

「あ………」

 

携帯を見ていた結衣からそんな声が漏れた。

それは恥ずかしがったり気付いたりした時のような声ではなく、まるで嫌なものに気付いた時のような、そんな声だ。

その心情を察して雪乃が彼女に話しかけた。

 

「どうかしたの?」

 

雪乃に気付かれたことで結衣はそれを誤魔化そうと愛想笑いを浮かべるのだが、それでもやはり落胆した心は隠し切れていない。

 

「ふぁ!? ううん、何でもない……んだけど………」

 

結局それで折れて彼女はその理由を打ち明けた。

 

「ちょっと変なメールが来て、うわぁってなっただけ」

 

雪乃はそれを聞いて真っ先に八幡に顔を向ける。その瞳は分かり切った上でからかう気が満々であった。

 

「比企谷君、裁判沙汰になりたくなかったら、今後そういう卑猥なメールを送るのはやめなさい」

「分かり切った上で俺をいじめようとしないでくれ。本人がいる前で正体バレバレなメールを送る馬鹿がいるわけないだろ。それに俺はあまりメールとか送らないしな」

 

雪乃のからかいに八幡は呆れつつ返す。

このやり取りは勿論互いに本気じゃない。八幡がそんなメールを出すわけがないことは、彼の人間性を垣間見ている雪乃なら分かることである。

とはいえ、それは雪乃だから分かる話。冗談を言い合っていると分かっている結衣ではあるが、それでも念の為に八幡を擁護した。

 

「いや~、ヒッキーは犯人じゃないと思うよ」

「その証拠は?」

 

雪乃にそう聞かれ、結衣は答えを自分なりに考えて答えた。

曰く、内容が結衣と八幡がいるクラスの物であり、その中で八幡のメールアドレスを持っているのは結衣のみ。登録の際に八幡の携帯を見せて貰ったが、その際に逆に連絡帳が明らかに少なすぎる件について結衣と雪乃に突っ込まれたくらいだ。つまり八幡の携帯の中にクラスメイトの連絡先は結衣以外ない。だから八幡ではどうしようともメールを他の生徒に送ることができないのだと。

その答えを聞いて八幡はその通りだと頷くのだが、当然二人によって突っ込まれた。

 

「いや、それを普通に頷くのはどうかと思うし」

「そうね、自分の交友関係のなさに胸を張るのはどうかと思うわよ」

 

二人のそんな言葉に対し、八幡はそんなことはないと答えた。

 

「別に交友関係ってのは広ければ良いってもんでもないんだよ。逆にいえば、それだけ個人情報の流出がしやすいってことだからな。だから俺はお前等だけで今のところは十分だ。それ以外に教える気もあまりないしな」

 

その言葉に顔を真っ赤にする結衣と雪乃。どうもまた八幡は乙女心をくすぐる言葉を吐いたらしい。本人にその自覚はないが。

そのまま顔を赤くしていた結衣と雪乃だが、気を取り直して結衣が話を締める。

 

「まぁ、こういうのときどきあるしさ、あまり気にしないことにする。うん、きにしてもしょうがないし」

「そうね、下らない言葉をいつまでも気にしていてもしょうがないし」

 

若干早口な二人の言葉に八幡はそうかと返した。

そして再び各自の時間を過ごそうとしたのだが、その時扉からノックの音がした。

その音に皆が扉に注目する。

別に許可を出したわけではないが扉はゆっくりと開き、そこから出て来たのは………。

 

「ちょっとお願いが………ッ!?」

 

以前少し八幡が敵対行動を取った葉山 隼人がそこにいた。




 







※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。