俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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葉山アンチじゃないですよ? た、たぶんですけどね。


第22話 俺はこんな馬鹿騒ぎに参加したくない

 この部活に来る依頼人というのはそう多くない。
だからのか、久々に来た依頼人に八幡、雪乃、結衣の3人は少しばかり緊張し、今回来る依頼に対して構える。
そしてやってきたのは、3人とも知っている人物であった。
八幡にとってはクラスの中心人物というだけの有象無象、雪乃にとっては過去にある因縁の関係、そして結衣は現在進行形で友人であった。
そんな3人にとって知っている人物の名は『葉山 隼人』。2年F組の中心的人物にしてこの学校のサッカー部のエース。眉目秀麗にして好青年であり、男女共に好かれている。
そんな彼がこの部室に来たということに結衣と雪乃の二人は少し驚いた。
雪乃は敬遠していた相手が来たことにより驚き、結衣は単純に友人が来た事に驚いたようだ。
そしてそれは向こうも同じであり、葉山もまた驚き表情が強張った。
だが、葉山が一番に驚いたのは雪乃がいたことでも結衣がいたことでもない。
それまで認識すらしていたかあやふやな存在であったはずなのに、少し前の出来事で心の底まで恐怖を刻みこまれた。
葉山にとって初めてであり、今でもあの時の恐怖を思い出して身体が震えてしまう。
それほどの衝撃を葉山に与えた存在である『比企谷 八幡』がそこにいたからだ。
本当ならいつもと同じように軽く声をかけながら仲良く相談に乗ってもらおうとしていた。だが、八幡の姿を見て葉山は緊張し身体が委縮してしまう。
そんな葉山を初めて見たのか少し心配そうに見る結衣と驚きに目を見開く雪乃。
そんな二人に対し、八幡は濁った目を葉山に向けながら難なく普通に話しかける。

「とりあえず部屋に入ってくれ。何か話があるから来たんだろ?」
「あ、あぁ」

八幡に促され葉山は席に案内される。
そして席に着いたところで改めて葉山は八幡達に軽い挨拶を始めた。

「平塚先生に悩み相談するならここだって聞いてね。でもまさか結衣や雪ノ下さん、それにヒキタニ君がいるとは思わなかったよ」

彼なりに精神を落ちつけるための行為なのだろう。
少しでも会話をして精神を落ちつると共に、穏やかな雰囲気で主導権を握りつつ話がしたい。
それが葉山の狙いなのだろうが、それは本人の心のみ。肉体はそれに追いつかず、変わらずに緊張し委縮する。
心と体の矛盾が無意識なジレンマを引き起こし、葉山は笑っているはずなのに苦しんでいるような、そんな表情になっていた。
それは傍から見ても異常。流石に結衣は心配しどうしようかと悩み、雪乃は雪乃で初めて見る葉山の表情に興味深そうに注目する。
そんな葉山に向かって八幡は相変わらず濁った目を向けつつゆっくりと話しかけた。

「まぁ落ちつけよ、葉山。別にお前に危害を加える気はない。後俺の名前は比企谷(ひきがや)だ、間違えるな……まぁなんだ、あの時はすまなかったな」
「え?」

八幡の言葉に目が点になる葉山。
そんな葉山に向かって八幡は更に詳しく話しかける。

「別に俺はお前のことが嫌いでも好きでもなんでもない。あの時あんな風に敵対したのは、お前等が俺達奉仕部の依頼を妨害しようとしていたからだ。依頼は完遂するためには、邪魔をする者、妨害する者、敵対する者、それらをすべて叩き潰す必要がある。だからあの時はああした。別に敵対する理由がなければ敵意を向ける必要もない。だからそう怖がるな」

彼なりに励ましもつもりなのだろうが、傍から見たら脅迫している極道者とされている優男にしかみえない。

「それにお前は俺達奉仕部に依頼があって来たんだろ? だったら立派な依頼人だ。依頼人である以上、俺達はその依頼を聞く義務がある。邪険に扱いはしない」

八幡はそれを言いきると、雪乃に向かって少しだけ申し訳なさそうな感じに話しかけた。

「どうにも葉山は俺が苦手らしい。まぁ、前回ああすればそうもなるか。だから悪いんだが、お前から話を聞いてやってくれないか。知り合いだろ、お前達」
「知っていたのね………まぁ、最初の時のアレで大体は察せるから驚きはないのだけれど」

八幡に促され雪乃が代わりに葉山の話を聞くことになり、彼女は少しばかり辛辣な様子で葉山に話すよう促した。

「それで……この部活に何の用かしら、葉山 隼人君」
「あ、あぁ、これなんだけど………」

雪乃が話を聞くことになり、多少委縮していた身体がほぐれた葉山は今回の話の原因であるものを3人に見せ始めた。
それはスマホであり、画面に映し出されたものは差出人不明のメールだった。

「あ、変なメール」

結衣はそれを見て八幡と雪乃に見えるように自分のスマホを取り出し葉山と同じように皆に見えるようにした。その中身は葉山のものと一言一句全部同じメールが表示されている。

『戸部は稲毛のヤンキー、ゲーセンで西校狩り。大和は三股、最低の屑野郎。大岡はラフプレーで相手校のエース潰し』

内容はこのような誹謗中傷の類であった。
二人に同じメールが届いた事と内容から雪乃は思い当たるものを口にした。

「これは……チェーンメールね」

チェーンメール、それは良くある悪戯の一つ。
真実か虚偽かわからないデマを拡散させる悪事ある行動であり、鎖のように次から次へとつながっていることからそのような名前がつけられている。
それを雪乃に分かってもらえた所で葉山は今回の依頼の触りを話し始めた。

「これが出回ってから、何かクラスの雰囲気が悪くてさぁ。それに友達のことを悪く書かれていれば腹も立つし」

言っていることはもっともなことなだけに、結衣は軽く頷いていた。
それが励みになったのか、葉山は少しだけ強く主張しつつ更に言う。

「あ、でも犯人探しがしたいんじゃないんだ。丸く収める方法を知りたい、頼めるかな?」

そう言い終えると笑顔を雪乃と結衣に向ける葉山。
そんな葉山に雪乃は睨みつけるような視線を向ける。
葉山の依頼は事態の収拾であり、それを奉仕部に求めること自体がそもそも間違っていることに彼は気付いていない。奉仕部はあくまでも魚の取り方を教えるのであって、問題を直に解決するわけではない。それは理念に反する。八幡は特に拘ってはいないが、部長である雪乃はそれを順守する。葉山が自分達で解決するので手伝ってくれと言うのなら手伝うが、そうではなく問題を丸投げしてきたのだから受ける理由はない。だから雪乃は断ろうと思ったのだが、同時に解決しなければとも思った。
何故なら、彼女は昔、そのチェーンメールの被害にあったことがあるから。
だからこそ、彼女はその答えを口にする。

「つまり事態の収拾を図れば良いのね」
「うん、まぁそういう事だね」

葉山は了承してもらえたと思いホッとした様子になる。
しかし、その後雪乃が言った言葉で強張った。

「では、犯人を探すしかないわね」
「え………」

はっきりと断言した雪乃に葉山の目が点になる。

「な、何でそうなるの?」
「チェーンメール……あれは人の尊厳を踏みにじる最低の行為よ。自分の顔も名前も出さず、ただ傷つけるためだけに誹謗中傷の限りを尽くす。止めるならその大本を根絶やしにしないと効果がないわ。ソースは私」

雪乃の言葉を聞いて八幡は彼女の狙いに気付いた。
別に犯人を特定しなくても収拾は出来る。だが、それでは一時的に過ぎず、また同じようなメールが出るたびに葉山にとってよろしくない状況になってしまうのだ。その度に奉仕部に依頼をして解決しても意味がない。何せ表面的な解決に過ぎず、根本的な部分は何も変わらないのだから。
だからこそ、経験者である雪乃はそう語るのだと。

「根絶やしにしたんだ」

雪乃の言葉に結衣が苦笑を浮かべ、八幡は納得する。

「そんな人間は根絶やしにするしかないわ。それが私の流儀。私は犯人を探すわ。一言いえばこの騒ぎも収まるでしょう。その後の裁量は貴方に任せる。それで構わないかしら」
「あ、あぁ、それでいいよ」

過去の確執もあってか強く出れずそう答える葉山。
そして雪乃は葉山にここ最近何か変わったことがなかったか、メールがいつ頃出始めたのかを聞き始める。
それらを葉山と結衣は答えるのだが、いまいち答えに行きつかない。今回の騒動の原因がまったく判明しないのだ。
そんな二人に対し、八幡は思い当たる節を口にする。

「たぶんだが、職場見学の件じゃないか。ここ最近あった話題と言えばコイツだろ」
「それだ! ヒッキー頭良い!」

八幡の案に結衣が凄いと褒めるが、八幡から言わせてもらえばここ最近にあった行事関係の話を覚えていない方が問題だ。決して八幡の頭が良いのではなく、単に結衣の記憶力がザルなだけだと。
そして結衣はどうやら今回の件についてある程度犯人について分かったらしく、胸を張りながら自分の推理を披露し始めた。
彼女が言うにはどうやら職場見学のグループ分けが原因らしい。
何でもイベント事のグループ分けはその後の交友関係に影響を及ぼすのだとか。そのため、今回の見学では三人一組なので葉山達では四人、一人余ってしまう。葉山と離れるのが嫌だから誰かを蹴落とそうとしてこのような行為に走った言うことらしく、結果からして犯人は葉山の友人である戸部、大和、大岡の三人に絞られるのだとか。
勿論葉山はそれを信じることは出来ない。それにメールの内容は三人の悪口なのだから可笑しいと主張する。
しかし、それはもう流れが見えた八幡によって断たれた。

「通常、交友関係で全体的に排除しようとするのなら葉山、お前も攻撃対象に入るはずだろ。それが入っていないってことは、お前は対象外。そして女子が犯人だとしてもお前に近付こうものなら三浦が黙っていない。だから女子の線も無し。男子でお前とつるみたいってやつはあまりいないだろ。女子と違って男子はそこまで主張するようなのはいない。いたとすればゲイかホモって辺りになっちまうからな。だから男子も無し。誘われればそれもありって考えるのが普通だ。となれば、現在お前と交友関係が深い三人組以外容疑者がいない。だからだよ」

その言葉に葉山は言葉が出なくなってしまう。
もうこの中に犯人がいるのは確定なのだと彼も分かってしまったから。
そして奉仕部ではこの案件を完璧に犯人を見つける方向で捜査をすることになり、雪乃が葉山に三人の人物像を聞いていく。
そこで少し面白いと八幡が感じたのは、葉山が当たり障りのない善意で雪乃に伝えると雪乃はそれを悪意的にはっきりと断言し三人の人物像を丸裸にしたのだ。
聞き方一つでこうも違うと言うのは少しばかり面白いと思ったらしい。
だが、雪乃が言うには誰が犯人でも可笑しくないらしい。
だからどうしようかと悩んでいると、結衣が手を上げて雪乃に提案した。

「だったら私が三人のこと、調べてみるよ!」

その様子に雪乃は少し申し訳なさそうな顔をしながら謝ってきた。結衣もまた葉山達とは親しいのだ。そんな友人を疑うような真似をさせるのが心苦しいのだと。
だが、結衣はそんなことは思わずにはっきりと口にした。

「私だって奉仕部だもん、頑張るよ~!」

意気込む結衣に八幡は少しだけ笑いながら声をかけた。

「なら頼む。俺はあまりそういうの、得意じゃないからな」

そう言いながら葉山が見ているというのについつい結衣の頭に手を乗せてポンポンと軽く叩く八幡。
その行為に葉山と雪乃は目を見開き、結衣は結衣で恥ずかしいけど嬉しそうに顔を赤らめる。

「うん、頑張るよ、ヒッキー………」

そんな風に真っ赤になっている結衣を見つつ八幡は思う。

(今回は出来れば出しゃばるのはやめよう。由比ヶ浜がこんなやる気になっていることだし、それに雪ノ下もやる気が十分だ。俺がわざわざ手を出す理由もない。それに……正直下らないことに関わりたくないってのがデカイな。別に二人の頑張りが下らないとは言わないが、たかがグループ分けにこんな騒ぎを起こすというのはあまりにも幼稚過ぎだ。そんな馬鹿騒ぎに巻き込まれたくはない。だから………今回は二人に任せよう)

そう思いながら八幡は結衣の頭を軽くポンポンと叩き続けていた。








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