俺が青春なんてして良いのだろうか   作:nasigorenn
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お気に入りもぐんぐんと伸びて良い感じです。


第26話 俺が後始末をする

 現在八幡は平塚に呼び出されていた。

いや、彼が彼の教師に呼び出されることは頻繁なのでおかしなことはないのだが、今回は別に何かしら問題があったというわけではない。

単純に次の授業に使う教材を運ぶのを手伝ってくれと頼まれたからだ。

彼女は基本誰にでも優しく教師らしく接するが、どちらかと言えば八幡とはよく会話をする仲である。頼まれ事を引き受けるのもそれなりの信頼があるからだと言えよう。

 

「悪いな、比企谷」

 

両手で持ったダンボール越しに感謝する平塚。

そんな平塚の感謝を受けて八幡は普通に返そうとするのだが、『少しばかり調子が悪く』顔をしかめてしまう。

八幡のそんな表情を見て、心配そうに平塚は八幡の顔を覗き込んだ。

 

「大丈夫か、比企谷? 何やら疲れているようだが、何かあったのか?」

 

心配そうな様子の平塚に八幡は心配をかけてしまったことへの申し訳なさを感じ、少しでもそれを和らげるように表情を引き締めて返事を返す。

 

「いえ、大丈夫です。どうやら昨日のバイトの疲れが残っているようで」

「そうか。仕事も大事だが、君の身体も大事なものだ。だからもっと自分を大切にしたまえ」

「ありがとうございます」

 

そう返す八幡。勿論この言葉に嘘はない。

確かに八幡は『バイト』の所為で疲れていた。

昨夜、彼はとあるビルの屋上から相棒の狙撃の手伝い……観測主をしていた。この仕事自体に疲労はない。八幡にしては珍しく前線で暴れるということはなく、ただ双眼鏡片手に相棒に情報を報告しているだけなのだから。

では何故こうも彼が疲れているのか?

それはこの後の行動に問題があったからだ。

あの後、相棒に誘われてそのビルの中にあるバーに拠ることになった。

八幡は未成年なので当然身分は偽装している。年齢確認などを問われれば、即座に二十歳を越えた偽造身分証が出せるように常に携帯しているのだ。彼の仕事は主に戦闘だが、彼の上司の意向により潜入捜査や何やらと色々なことを出来るように鍛えられてきた。なのでこういった場所にも酷い話だが行き慣れてしまっている。勿論普通の居酒屋にだって違和感なく入れるだろう。

故に当然酒も嗜む程度には飲める。自分から進んで飲もうとは思わないが、必要とあらば幾らでも飲めると言う自負はあるつもりである。

まぁ、今回はそんな必要はないのだが、流石に誘われて飲みませんと言うほど野暮ではない。だから八幡は普通に酒を飲むことにした。

ここまでは問題ない。いや、普通に考えれば問題だらけなのだが。

問題は寧ろここからだ。

最初は良かったのだ。クラシックな雰囲気とピアノの演奏が心地よく、出されたカクテルも普通に飲める代物だ。

二人っきりということは良くある二人だが、こうして二人だけで酒の席に行くということは少ない。だからなのか、少し楽しんでいる様子でレイス7は上機嫌に酒を飲んでいく。八幡はそんな彼を見つつ出されたカクテルを味わいながらゆっくりと飲んでいた。

そして酒が進んでいくと当然酔いも回ってくるわけで、先に醜態を晒したのは相棒の方だった。

顔を真っ赤にし、呂律が怪しくなりつつ仕事での文句や日常での鬱憤を漏らし始めたのだ。

まぁ、これ自体酒の席では良くある話であり問題はない。

その話に八幡も付き合い、相棒のストレス解消のために聞き流しつつ聞いてやることに。

それだけならまだよかった。ここからが問題なのだ。

あろうことか、相棒はカクテルを作るバーテンダーに絡み始めたのだ。それも喧嘩を売るとかいちゃもんをつけるとか、そう言うものではない。

相手は女性だった。多少この場に居るには若く見えるがきっと童顔か何かなのだろう。その割に目がきりっとしており、可愛いというより綺麗という方似合う。そんな女性が八幡達にカクテルを作っていた。

つまり相棒がやらかした事と言うのは…………そのバーテンダーの女性を口説き始めたのだ。

それはもう情熱的にしつこいと言わんばかりに。まさに絡み酒である。

そして絡まれてしまったバーテンダーさんは最初こそ何とかクールに受け流していたのだが、次第に我慢が出来なくなり怒りを堪えているのか身体を振るわせ始める。

きっと彼女はこういった手相には真っ向からぶつかるタイプなのだろう。このまま行けば自分たちがどうなるのかなど目に見えている。

流石にそれはまずいと思い八幡が取った行動は…………。

 

尚も絡む相棒の首に鋭い手刀を叩きこみ、その意識を刈り取ったのだ。

 

一撃で気絶するレイス7。いくら鍛えられていようとこんな状態では簡単にやられてしまう上に、同じレベルの人間なら尚更簡単につぶせてしまう。

目の前で急に気絶した人間を見てバーテンダーさんが驚き目を見開いていた。

そんな彼女に八幡は誠心誠意謝罪をし、自分たちはもう帰ることを伝える。流石にこれ以上いても仕方ないし、雰囲気も悪いだろうから。

そんな彼女に謝罪の意味も込めて、別のバーテンダーに八幡はカクテルを作ってもらう。そしてそれを彼女に奢った。

 

「これ、迷惑をかけてしまったお詫びです。仕事中なのでノンアルコールのものにしたので飲んでも問題はありませんよ。『シンデレラ』………女性に好まれる名前のカクテルですよね。でも俺もこれ、好きなんですよ。だからどうぞ」

 

戸惑う彼女にそう告げると八幡は今度こそ帰ると決め、気絶している相棒を担ぎながら出口へと向かい、奢ると言われていたのに結局自分が全額払い、そして建物から出るなりタクシーを呼んで会社に向かった。

既に長く組んでいる二人だが、八幡は相棒の家を知らない。別に知ろうとも思わない。それに相棒自身知られたくないようなので、八幡自身踏み込まないようにしていた。だから知らないのである。

故にこの場合八幡が取れる行動は………会社の休憩室に放り込むことだ。

その通りに会社の裏口から入るなり、八幡は相棒を休憩室に放り込む。そして後は何事もなく帰ったわけだが、以上のことから変に疲れてしまいこうして翌日になってもその疲れが取れないと言うわけなのである。

 そんな事があったわけだが学校生活は学校生活。当然仕事は持ち込まない。

だから八幡は心配してくれた平塚に感謝しつつ、彼女が持っていた荷物を横から奪うように取り上げた。

 

「あ、何を!?」

「俺は大丈夫ですよ。だからこの程度持っても平気です。先生、速くいかないと授業が始まっちゃいますよ。そのために俺が持ちます。先生だって女性なんですから、重い荷物を持たせるわけにはいきませんしね」

「比企谷…………君は…たく、しょうがないな……ふふふ……」

 

その言葉を聞いて平塚は顔が熱くなるのを感じた。

彼女はかなり美人なのだが、その男勝りな性格と立ち振る舞いのせいで女性として扱われることが少ない。だからなのか、八幡に女性として扱ってもらえたことが嬉しかったようだ。その顔は見事に真っ赤になっている。

そんなことに八幡は気付く事もなく、若干速足で荷物を教室へと持っていく。八幡の言葉も決して間違いではないからだ。

そして二人が教室に着き授業が始まった。

先程持ってきた教材はちゃんと使われており、持ってきた甲斐を十分に感じさせられる。

そして授業が終わると共に、ドアが開き教室に人が入ってきた。

それは青に近い黒髪をポニーテールにした女子だった。

制服の上からでもわかるスタイルの良さも然ることながら、それ以上に意思の強そうな目が印象深い。可愛いと言うより綺麗や格好良いという言葉が似合う。そんな女子であった。

彼女の登場に授業が終わったことで生徒は目を向けなかったが、退室する準備を始めている平塚は気付いていた。

 

「随分とした重役出勤だな、川崎」

 

そう言われた女子……川崎は軽く会釈をして自分の席に向かう。

その姿を見て八幡は………。

 

「何故、彼女はあんな所で働いていたんだ?」

 

そんなことを考えつつ、彼は次の授業の準備を始めた。

 








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